第八章 善言美霊〔一九二五〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯の巻
篇:第2篇 晩春の神庭
よみ(新仮名遣い):ばんしゅんのしんてい
章:第8章 善言美霊
よみ(新仮名遣い):ぜんげんびれい
通し章番号:1925
口述日:1933(昭和8)年12月06日(旧10月19日)
口述場所:水明閣
筆録者:林弥生
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年3月23日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:朝香比女の神は、顕津男の神を慕う狂おしい心に、御樋代神たちや宮司神たちのいさめを聞かず、白馬に鞭打ち、黄昏の空を東南指して駆け出でてしまった。
後に残された宮居の神々たちは、朝香比女の短慮を怒り嘆いたが、高地秀の宮居の聖殿に心静かに帰って朝香比女の神の旅の無事を祈るしかなかった。
一同は祭典の準備が整うと、鋭敏鳴出の神が宮居の司の務めとして、自ら高御座の大前にひれ伏し、声さわやかに、朝香比女の無事を願う祝詞を奏上した。
高野比女の神は御祭りの庭に立って朝香比女の行動を述懐し、皆のいさめを聞かずに飛び出した比女を「面勝神」と宣すが、無事を祈る歌を歌った。そして最後には、朝香比女の内に秘められた、激しく顕津男の神を思う心に思い至り、その心を汲むことができなかった自分を悔い、宣りなおした。
神々はそれぞれ、西方の国へ向かった朝香比女の無事を祈る歌を歌い継いだ。そして御樋代神の中には、「面勝神」である朝香比女が、実は曲津神をも糺す力を持った雄雄しい神であることを悟るものもあった。
最後に天津女雄の神は、朝香比女の雄雄しさに打たれ、西方の国魂神を生むべく旅立っていったその心をたたえた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7608
愛善世界社版:
八幡書店版:第13輯 539頁
修補版:
校定版:314頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 ここに朝香比女の神は、002顕津男の神を慕はせ給ふ心の駒の狂ひたちて足掻き止まねば、003御樋代神等、004宮司神等の心を籠め力を尽しての諫めも、005空吹く風と聞き流し、006白馬に鞭うち、007黄昏の空を東南指して駆け出で給ふぞ雄々しけれ。008後に残れる御樋代神等は慨然として歎かせ給ひつつ、009高地秀の宮居の聖殿に心静かに帰らせ給ひて、010朝香比女の神の旅の無事を祈らむと、011種々の美味物を奉り、012大御前に祈りの祝詞を奏上し給ひぬ。
013 先づ例の如く祭典の用意整ひたれば、014鋭敏鳴出の神は宮居の司の務として、015御自ら高御座の大前にひれ伏し、016御声爽かに太祝詞白し給ふ。
017『掛巻くも綾に畏き高地秀山の下津岩根に大宮柱太しき建て、018高天原に千木高知りて、019堅磐常磐に此の聖所を領有ぎ鎮まりいます主の大神の大御前に、020斎主鋭敏鳴出の神、021謹み敬ひ畏み畏みも白さく。022如何なる神の経綸なるかも、023如何なる神の計らひなるかも、024御樋代比女神と神の依さしに朝な夕なを仕へましし、025其が中の一柱とます朝香の比女神は、026百神等の諫め止むる言霊をも聞かせ給はず、027駿馬に鞭うち給ひて常闇の夕の空を、028太元顕津男の神の御許に詣で仕へむと、029心雄々しく出でましぬ。030かれかくなりし上は、031吾等が真心もちて止めまつらむ由もなければ、032惟神神に任せて、033比女神の旅路を安らけく平けく渡らせ給へと祈るより外に詮術無かりければ、034ここに神々相議りて、035今日の御祭仕へまつると、036海河山野種々の美味物を、037八足の机代に横山なす置き足らはして、038奉る状を、039平けく安らけく穏に聞し召しまして、040朝香比女の神が伊行き給ふ道の隈手も恙なく聖所に進ませ給へかし。041過ち犯さむ事しあらば、042神直日大直日に見直し聞直し宣り直しまして、043比女の神言の出立に恙あらせじと、044夜の守り日の守りに守り幸へ給へと、045鹿児自物膝折り伏せ宇自物頸根突貫きて畏み畏みも祈願奉らくと白す。046一二三四五六七八九十百千万、047惟神霊幸倍坐世、048惟神御霊幸はへましませよ』
049 高野比女の神は御祭の庭に立たせ給ひて、050御歌詠ませ給ふ。
051『高地秀の貴の宮居に永久に
052ます大神に願ぎごと白さむ
053朝香比女神は夕べを立ち出でぬ
055朝香比女は面勝神よ射向ふ神
056わが言霊も聞かず出でましぬ
057思ひ立ちし事を貫く朝香比女の
058こころの駒は止め得ざりき
059かくならば詮術もなし主の神の
061曲津神の伊猛り狂ふ荒野原を
062進ます比女の身をあやぶみぬ
063危ふかる旅の枕を重ねむと
064朝香の比女は雄々しく出でませり
065かくまでも其の心ばせを立て通す
066朝香の比女は面勝神なり
067御樋代神われは司と任けられて
068詫びごと宣らむ言の葉も出ず
069わが心おろそかにして朝香比女の
071悟らざりしわが過ちを神直日
072大直日神宣り直しませ』
073 鋭敏鳴出の神は御歌詠ませ給ふ。
074『朝香比女神の雄々しき心ばせを
076予てよりかくと定めし朝香比女の
077こころの駒は止め得ざりき
078朝香比女神の神言はまさしくや
079射向ふ神なり面勝神なる
080果てしなき荒野を一人出で立たす
081雄々しき比女をまもらせたまへ
082曲津神は姿をいろいろ変へにつつ
083比女の行方にさやらむとすも
084曲津見の猛びは如何に強くとも
086八百万神ましませど朝香比女の
087雄々しき心は誰も持たなくに』
088 梅咲比女の神は御歌詠ませ給ふ。
089『東南の荒野は山も高くして
090初夏ながら春の気漂はむ
091白梅の花はあちこちに匂ひつつ
092比女神の旅を慰むなるらむ
093白梅の匂へる山路を踏みわけて
094白毛の駒に鞭うたすらむ
095主の神の厚き恵みに朝香比女の
096神はやすやす進ませ給はむ
097言霊の幸はひたすくる天界に
098さやらむ曲津は必ず亡びむ
099さりながら朝香の比女の草枕
101朝夕を神の御前に祈らばや
102朝香の比女に恙なかれと
103四方八方に白梅薫る春の野を
104心豊に立ち出でますらむ』
105 香具比女の神は御歌詠ませ給ふ。
106『非時に香具の木の実の香りたる
107紫微天界はにぎはしきかも
108桜花散り敷く庭の夕ぐれを
109朝香の比女は一人立たせる
110神々の誠をこめての言霊も
111聞かさず立ちし比女神天晴れ
112比女神の後姿見送りてわれはただ
113故知らぬ涙ほとばしりぬる
114今日を限り長の別れにならむかと
116大野原駒に鞭うち一人ゆかす
117雄々しき比女の心いたまし
118背の岐美をおもふあまりの旅立ちと
120神思ひ岐美を慕ひて胸の火の
121炎消さむと出でませしはや
122燃ゆる火も溢るる水もいとひなく
123恋路のためには命惜しまさず
124玉の緒の命捧げし岐美ゆゑに
125かくもありけむ朝香比女神は
126よしやよし曲津見のさやり繁くとも
127つらぬき通せ公の真心を』
128 寿々子比女の神は御歌詠ませ給ふ。
129『朝香比女道の隈手も恙なかれと
131駿馬に鞭をうたせて出で立ちし
132比女の姿は雄々しかりける
133岐美おもふ心の征矢を通さむと
134駒にまたがり駆け出で給ひぬ
135春さりて夏来りける大野原を
136進ます公のすがた偲ばゆ
137昆虫の災もなく高津神の
139一度は止めまつれど如何にせむ
141比女神の進ます道は安くあれ
142高津鳥等のわざはひもなく
143山を越え野を越え溪川渡りつつ
144出で行く公の雄々しきろかも
145かくならば後に残りしわれわれも
146比女神の旅を祈るのみなる』
147 宇都子比女の神は御歌詠ませ給ふ。
148『高地秀の宮居の聖所を後にして
149山河わたり比女神出でましぬ
150数千里の旅の枕をかさねつつ
151一人出でます比女神天晴れ
152百神の神言の止めも聞かずして
153雄々しも比女は出でましにける』
154 狭別比女の神は御歌詠ませ給ふ。
155『幾十日筑紫の宮居の旅をへて
156間もなく比女神又旅に立てり
157気魂も神魂も強き比女神の
158こころの駒を止むる術なし
159幾千里荒野をわたり旅立たす
160朝香の比女は雄々しき神なり
161徒に月日送らむ苦しさに
162朝香の比女は立ち出でにけむ
163主の神の御許しもなくただ一人
164立たせる朝香比女の神はも
165朝香比女神の神言のとりしわざは
167主の神の御旨に叶はぬわざなれば
168朝香の比女の駒は走らじ
169黄昏の闇を駆け出しし雄々しかる
171村肝の心照らして言霊の
172水火清まらばすべてはならむも
173朝香比女神はかならず顕津男の
174神と御水火を合はせますらむ
175西方の国土稚ければ御樋代の
176神まさぬ世を悟らしにけむ
177西方の国土の御樋代神となり
178国魂神を生ます旅かも
179西方の国土は黒雲立ちこめて
180大曲津見の棲めるとぞ聞く
181曲津見のほしいままなる振舞を
183朝香比女神は面勝神なれば
185かくの如雄々しき神はあらざりき
186御樋代神は数多ませども』
187 花子比女の神は御歌詠ませ給ふ。
188『高地秀の峰の桜は早や散りて
190野に山に若葉若草萌え立ちて
191夏の御空は来むかひにけり
192青葉萌ゆる山河渡り駒の背に
193乗りて出でます朝香比女はも
194朝香比女神はかならず曲津見の
196朝香比女旅の悩みをおもひつつ
198西方の国土は黒雲立ちこめて
199スウヤトゴルの曲津は火を吐く
200非時に黒雲むらむら立ち上り
201御空をつつむ西方小暗き
202月も日も星もかげなき西方の
203国土造るべく出でましにけむ
204朝香比女神の雄々しき心ばせを
205われは朝夕悟り居しはや
206かくの如思ひきりたる草枕
208今とならば止めむよしもなきままに
210朝香比女功を太しく建てまさば
211御樋代神のほまれなるかも
212八柱の御樋代比女神の中にして
213雄々しき神の出でますは嬉し』
214 小夜子比女の神は御歌詠ませ給ふ。
215『丹牡丹の花はくづれて庭池の
216菖蒲の紫匂ひ初めたり
217大庭の瀬見の小川にかげうつす
219菖蒲咲くころの聖所を後にして
220朝香の比女は旅立たしける
221朝香比女は燃ゆる心の苦しさに
223庭の面に咲ける菖蒲や燕子花
224何れをそれと別ち兼ねつつ
225朝香比女の今日の旅立ちよしあしの
227何事も主の大神の御心に
229如何ならむ太しき功たつるとも
230御神の御許しなきは仇なり
231主の神の生言霊に依らずして
232われは進まむ雄心起らず
233徒に長き月日を送りしと
235朝夕に神に仕へて祝詞宣るは
236御樋代神のつとめなりける
237地稚きこの天界を固めむと
238御樋代神を生ましし神はや
239御子生みの神業はさておき言霊の
240御樋代として生れ出でしならむ
241かくならば朝な夕なに世の為に
242御樋代神は言霊宣らばや
243一日だも生言霊をおこたらば
244乱るる世なりと悟らひにけり』
245 天津女雄の神は御歌詠ませ給ふ。
246『御樋代の比女神等に従ひて
247珍しき事を見聞きするかも
248真心を筑紫の宮居あとにして
249高地秀の宮居に仕へつるかも
250朝香比女神の旅立ち送りつつ
251雄々しき姿に見とれけるかな
252かくの如雄々しき神にいますとは
254この上は朝な夕なを大宮居に
255祈りて比女の幸を守らむ
256西方の国魂神を生ますべく
257雄々しく一人出でましにけむ
258今となりて悔むも詮なし真心を
259持ちて祈らむ神の御前に』
260 かくの如く、261神々は大宮居の前に比女神の無事を祈りつつ各自述懐歌をうたひて、262静かに定めの居間に就かせ給ひける。
263(昭和八・一二・六 旧一〇・一九 於水明閣 林弥生謹録)