第一二章 山上の祈り〔一九二九〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯の巻
篇:第3篇 孤軍奮闘
よみ(新仮名遣い):こぐんふんとう
章:第12章 山上の祈り
よみ(新仮名遣い):さんじょうのいのり
通し章番号:1929
口述日:1933(昭和8)年12月07日(旧10月20日)
口述場所:水明閣
筆録者:谷前清子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年3月23日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:暁を告げる山烏の声に、早朝目を覚ませば、栄城山の朝風は颯颯と吹き入り芳しく、大野が原に霧が棚引き日陽に映え、えもいわれぬ美しい景色であった。
比女はこの景色を歌に歌い、東に高照山、西に高地秀山を眺めては来し方を述懐し、顕津男の神への思いをつづった。
そのうちに、神々が迎えにやってきた。小夜更の神が奉った石楠花の花を見ても、顕津男の神への思慕を深くする比女であったが、神々の案内で、山頂の宮居の大前に上って行った。
栄城山の宮居の聖所に立った朝香比女は、顕津男の神自らが開いた宮居に感無量となり、声もさわやかに神言を奏上した。
比女の礼拝に聖所もいつになく晴れ渡り、その清清しさを栄城山の神々は述懐歌に歌い、一同は再びつづら折の山道を下って休憩所の八尋殿へと下っていった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7612
愛善世界社版:
八幡書店版:第13輯 558頁
修補版:
校定版:389頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 朝香比女の神は栄城山の中腹に、002神々の心により新しく建てられたる八尋の殿に旅の疲れを休めむと、003初夏の一夜を明し給ひけるが、004暁を告ぐる山烏の声に眼を醒まさせ給ひ、005静に床を跳ね起き給ひて、006髪のほつれをととのへ、007白き薄き衣を纒ひ給ひつつ、008居間の窓を押し開き給へば、009栄城の山の朝風は颯々として芳ばしく吹き入り、010展開せる大野の原に棚引く霧は、011陽光に映じて得も言はれぬばかりの美しき眺めなりける。012伽陵頻迦は木の間に囀り、013真鶴は松の茂みに暁を歌ふ。
014『見渡せば遠の大野に霞立ちて
015そよ吹く風も初夏を匂へり
016栄城山松吹く風の音も冴えて
017梢にうたふ真鶴愛ぐしも
018白梅の花はなけれど鶯の
019声のさえたる栄城山はも
020長旅の疲れやすみて吾は今
021八尋の殿に国土見するかも
022常磐樹の松の下びに咲き匂ふ
023つつじの花の目出度くもあるか
024石南花の花桃色に咲きにけり
025小さき鳥の来りてあそべる
026背の岐美の御後したひて吾は今
027栄城の山に安居するかも
028百神のあつき心にほだされて
029栄城の山に一夜いねけり
030その昔わが背の岐美の神言を
031宣らせたまひし御山恋しも
032東の空に高照山霞み
033西にそびゆる高地秀の山
034高照山高地秀の山の中にして
035清しく立てる栄城の山はも
036栄城山これの聖所に岐美まさば
037吾はこの天界に思ひなけむを
038ままならぬ浮世なるかな背の岐美は
039万里の外の旅に立たせり
040翼あらば高照山を飛び越えて
041光明の岐美が許に行かむを
042駿馬の脚は如何程速くとも
044御樋代の神と生れて斯くの如
045苦しき吾とは思はざりけり
046わが思ひ淡く清しくあるなれば
048谷水の冷たき心持ちてわれ
049この天界に住み度くおもふ
050さり乍ら如何なしけむわが思ひ
051炎となりて胸を焦がしつ
052わが胸の炎を消すは瑞御霊
053水の力に及ぶものなし
054岐美を思ふあつき心に焦がされて
056 斯く一人歌はせ給ふ折しもあれ、057小夜更の神は紫、058紅のつつじ及び石南花の花を捧げ乍ら、059静々比女神の御殿に入り来り、060比女神に捧げむとして御歌詠ませ給ふ。
061『栄城山松の木蔭に匂ひたる
062生命の花を公にまゐらす
063小夜更けて公に誓ひし丹つつじや
064桃色石南花みそなはしませ』
065 朝香比女の神は小夜更の神の奉るつつじ、066石南花の花を莞爾として受取り乍ら、067わが唇に花の台をあてさせ給ひ、068御歌詠ませ給ふ。
069『芳ばしき紅の花よ紫よ
070桃色の花よ口づけて見む
071この花は香り妙なり背の岐美の
073紅のつつじの花の心もて
075石南花の花美はしく桃色に
076香り初めたり吾にあらねど
077桃色の花の姿を見るにつけ
079背の岐美をうらむらさきの花つつじ
080手折りし小夜更神の心は』
081 斯く問はせ給へば、082小夜更の神は畏みながら御歌詠ませ給ふ。
083『桃色の石南花の花たてまつり
085石南花の花美はしと心なく
087紫の花は目出度きしるしぞや
088やがては岐美に逢はむと思ひて
089いろいろの花の心を比女許に
090供へて旅を慰めむと思ひしよ』
091 朝香比女の神は莞爾として、092御歌詠ませ給ふ。
093『故もなきわが言の葉に汝が神の
094心悩ませしことを悔ゆるも
095只吾を慰むる為の花なりしを
097紅の花の唇朝夕に
099いつの日か紅の唇まつぶさに
100吸はむと思へば心はろけし』
101 斯く歌ひ給ふ折しも、102機造男の神は恭しくこの場に現れ給ひ、
103『朝津日は昇り給へりいざさらば
104尾の上の宮居に導きまつらむ
105長旅に疲れましぬと思ひつつ
107紫の雲は東の大空に
108いや棚引きつ陽は昇りたり
109久方の御空雲なく晴れにけり
110栄城の山のいただき清しく』
111 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。
112『長旅の疲れを岐美が真心に
114眺めよき八尋の殿に導かれ
115朝の景色にとけ入りにけり
116常磐樹の松の下びに咲き匂ふ
118いざさらば導き給へ背の岐美の
119祈りたまひし聖所をさして』
120 ここに機造男の神は諸神と共に、121朝香比女の神を前後左右に守りつつ、122頂上の宮居の大前さして上らせ給ひける。
123 朝香比女の神は宮居の聖所に立たせ給ひ、124感慨無量の面持にて、125四方の国形を覧しながら大前に拝跪して、126神言を御声さわやかに宣らせ給ふ。
127『掛巻も綾に尊き
128栄城山の上津岩根に
129宮柱太しく建てて鎮まりいます
130主の大神の大前に
131朝香比女の神謹み敬ひ
134顕津男の神御自ら
135大峡小峡の木を伐りて
136百神等を率ゐまし
137開き給ひし宮居にしあれば
138吾は一入尊しも
142吾背の岐美の出でませる
143西方の国土に恙なく
144進ませ給へと願ぎ奉る
145八十曲津神は猛るとも
149神の御水火に生れませる
150天の駿馬に鞭うちて
151安らに平に岐美許に
152進ませ給ひて詳細に
153御子生みの神業をねもごろに
155栄城の山の松ケ枝は
156千代のみどりの色深く
157真鶴の声は弥清く
158伽陵頻迦の音も冴えて
160国土の上まで澄みきらひ
163神の依さしの神業に
164仕へ奉らせ給へかしと
165栄城の山の山の上に
166畏み畏み願ぎ奉る。
167見渡せば栄城の山は雲の上に
168そびえ立ちつつ常磐樹茂れり
169見の限り四方は霞めり高地秀の
170山はいづくぞ黒雲ふさがる
171雲の奥空のあなたに高地秀の
172神山は高くそびえ立つらむ
173栄城山の頂上に立ちて打ち仰ぐ
174御空の碧の深くもあるかな
175ここに来てわが背の岐美の功績を
177皇神の厚き恵をかかぶりて
178又もや明日は旅に立つべし』
179 機造男の神は御歌詠ませ給ふ。
180『顕津男の神の造りしこの宮居は
182比女神の登らせし今日は殊更に
183御空あかるく雲晴れにけり
184日並べてこの神山におはしませ
186見渡せば四方の国原未だ稚く
187湯気もやもやと立ち昇りつつ』
188 散花男の神は御歌詠ませ給ふ。
189『久方の御空は晴れぬ山晴れぬ
190この神山の今日のさやけさ
191御樋代の比女神ここに現れまして
192神山の雲霧とほざかりけり
193非時に春をうたへる鶯の
194声に栄城の山は生きたり
195家鶏鳥は宮居の面に時をうたひ
196田鶴は千歳を寿ぎて鳴くかも
197風薫るこの神山のいただきに
198立たせる比女の光さやけし』
199 中割男の神は御歌詠ませ給ふ。
200『この宮居に吾は仕へて年月を
201経ぬれど晴れし吉き日なかりき
202今日の如晴れわたりたる神山に
203国形を見るたのしさを思ふ
204永久に栄城の山は晴れよかし
205御樋代神ののぼりし日より
206栄城山溪間に棲める曲津見も
207今日より雲は起さざるらむ
208比女神の生言霊のひびかひに
209八十の曲津見あとなく消えなむ
210国土造り国魂神を生まします
211御樋代神の出でまし天晴れ
212吾も亦比女神の御供に仕へむと
213思へどいかに思召すらむ』
214 朝香比女の神の御歌。
215『神々の厚き情に守られて
216栄城の山の尾の上にのぼりぬ
217栄城山今日を限りに栄えかし
218常磐の松の色ふかみつつ
219栄城山廻らす野辺はかたらかに
220いやかたまりて国の秀見ゆるも
221あちこちと国魂神の家見えつ
222果てなき栄えを思はしむるも』
223 小夜更の神は御歌詠ませ給ふ。
224『晴れ渡る今日の吉き日に大宮居に
225比女を守りてわれは詣でし
226高地秀の山は雲間にかくれつつ
227栄城の山は陽炎もゆるも
228陽炎のもえ立つ尾根に佇みつ
229大野の夏を見るはたのしき
230山も野も緑のころも着飾りて
232栄城山尾の上を渡る夏風は
233爽かにして涼しくもあるか』
234 親幸男の神は御歌詠ませ給ふ。
235『はろばろと来ませる比女神導きて
236晴れたる栄城の尾根にのぼりつ
237大宮居の聖所に立ちて比女神の
238生言霊をわれ聞きしはや
239言霊の水火より生れし天地に
240言霊宣らで生くるべきやは
241いざさらば神山を下り八尋殿に
242休ませ給へ御樋代比女の神よ』
243 神々は尾の上の大宮居の聖所に立ちて、244各自御歌詠ませつつ、245岩の根木の根踏みさくみ乍ら、246右に左りに折れつ曲りつ、247九十九折の坂道を比女神の御憩所なる八尋殿さして下らせ給ひける。
248(昭和八・一二・七 旧一〇・二〇 於水明閣 谷前清子謹録)