霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 御舟巌(みふねいは)〔一九三二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯の巻 篇:第3篇 孤軍奮闘 よみ(新仮名遣い):こぐんふんとう
章:第15章 御舟巌 よみ(新仮名遣い):みふねいわ 通し章番号:1932
口述日:1933(昭和8)年12月08日(旧10月21日) 口述場所:水明閣 筆録者:谷前清子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年3月23日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
八十曲津神たちは、沼に変じて朝香比女を待ち伏せていたが、あべこべに比女の言霊に固められて、本物の沼となって大野ケ原に永遠に横たわることになってしまった。また、曲津見の本体であった巨巌も、比女の沼渡りに逆に使われた挙句、御舟巌と固められてしまった。
その他の悪神たちは沼底の貝と変じて、わずかに命脈を保つことを許されたのみであった。
朝香比女は沼と巌に、魚貝を育てて国津神たちにを養う糧を生み育てることを命じて、東南方を指して進んで行った。
程なくして、国津神たちが住む集落にたどり着いた。国津神の長、狭野比古(さぬひこ)は、比女の前にひざまずき笑みをたたえ、高天原より降り来た女神に、飢えに悩む国津神を救ってくれるよう懇願した。
朝香比女は、湖水の魚を食べるように諭すが、狭野比古は、国津神は木の実を食べて生きるもので、魚は食べられない、と答えた。そこで比女は彼らに火を与え、魚貝を焼いて食べることを教えた。
国津神たちは、その美味さに先を争って魚貝を食べた。狭野比古は、湖水に豊富に生息する魚貝を食料にできるならば、もう飢えに悩むことはないと喜び、感謝の歌をささげた。
朝香比女は、御舟巌の回りだけは漁をすることを禁じ、また必ず湖水の魚貝に火を通してから食べることを教えた。
すると狭野比古は次に、この近辺は水が悪いために、病気になり命を落とすものまでいることを訴えた。朝香比女は土を練って瓶を焼き、水を満たして沸騰させることを教えた。以後、国津神たちは白湯を飲んで水あたりすることはなくなった。これが、火食の道の始まりである。
狭野比古は感謝の歌を歌い、また真賀の湖水の湖辺に新しい宮居を造り、主の神の神霊を祀り、相殿に朝香比女の神霊を祀り、国津神がかわるがわる奉仕することとなった。
朝香比女は狭野の郷を発って、さらに西方の国に進むことになった。狭野比古は別れ惜しさに、比女の逗留を懇願するが、比女の心は固かった。そこで、狭野比古はせめて曲津神の多くなる先の道中を守るため、比女の共を申し出た。
朝香比女は快諾し、かくして比女は狭野比古を従えて大野ケ原を進んでいくこととなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm7615
愛善世界社版: 八幡書店版:第13輯 574頁 修補版: 校定版:446頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 八十(やそ)曲津見(まがつみ)朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)行手(ゆくて)(さへぎ)らむとして、002広大(くわうだい)なる(ぬま)()(へん)じ、003女神(めがみ)(なや)まし(まつ)らむとして()(かま)()たりしが、004女神(めがみ)生言霊(いくことたま)(かた)められて、005(たちま)(まこと)(ぬま)となり、006永久(とこしへ)大野(おほの)(はら)真中(まんなか)(よこた)はる(こと)となりにける。007(また)巨巌(きよがん)八十(やそ)曲津見(まがつみ)本体(ほんたい)なりけるを、008言霊(ことたま)(さち)はひによりて水上(すゐじやう)(うか)磐楠舟(いはくすぶね)となり、009比女神(ひめがみ)彼岸(ひがん)(わた)御用(ごよう)(さか)しまに使(つか)はれ、010(ふたた)汀辺(みぎはべ)万世(ばんせい)不動(ふどう)御舟巌(みふねいは)(かた)められければ、011八十(やそ)曲津見(まがつみ)如何(いかん)とも(せん)すべなく、012その(ひき)ゐたる(もも)曲津見(まがつみ)は、013いづれも沼底(ぬまそこ)(かひ)(へん)じて、014わづかに生命(いのち)(たも)(こと)(ゆる)されにける。
015 朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)は、016この(さま)()御歌(みうた)()ませ(たま)ふ。
017面白(おもしろ)八十(やそ)曲津見(まがつみ)大野原(おほのはら)
018(なか)(うご)かぬ(ぬま)となりしよ
019曲津見(まがつみ)(ぬま)となりける()(うへ)
020磐楠舟(いはくすぶね)()りて(わた)りし
021今日(けふ)よりは弥永久(いやとこしへ)(ぬま)となりて
022(ところ)()へな()(をは)るまで
023もろもろの曲津神(まがつかみ)(たち)沼底(ぬまそこ)
024(かひ)となりつつ生命(いのち)をたもて
025(かひ)(みな)(わが)()(きた)りし楠舟(くすぶね)
026(かたち)となりて(ぬま)にひそめよ
027天津(あまつ)()真賀(まが)湖水(こすゐ)(おも)(てら)
028狭霧(さぎり)もやもや()(のぼ)りつつ
029わが(ため)(はか)らひたりし(しこ)(ぬま)
030またわが(ため)(はか)らはれける
031水底(みなそこ)(あを)くうつろふ山影(やまかげ)
032栄城(さかき)(やま)(なみ)にさゆれつ
033月読(つきよみ)(かげ)(うか)べしこの(ぬま)
034曲津(まがつ)化身(けしん)(おも)はれざりしよ
035何事(なにごと)善意(ぜんい)(かい)せばもの(みな)
036わが(ため)によきものとなるかも
037曲津(まがつ)(かみ)(あい)(ぜん)には()(がた)
038大地(だいち)()して(ぬま)(あふ)れつ
039国津(くにつ)(かみ)日毎(ひごと)々々(ひごと)()()みて
040魚貝(ぎよかひ)(そだ)てよ真賀(まが)(みづうみ)
041沼水(ぬまみづ)はいやつぎつぎに()みきりて
042(ふか)湖水(こすゐ)となりにけらしな
043御舟巌(みふねいは)(そば)(あつ)まる魚族(うろくづ)
044いや永久(とこしへ)生命(いのち)たもたむ
045御舟巌(みふねいは)(われ)(たす)けし(かみ)なれば
046幾千代(いくちよ)までも(ほろ)びざるべし
047巌ケ根(いはがね)()魚族(うろくづ)諸貝(もろかひ)
048われを(たす)けし(いさを)()きむ
049いざさらば(われ)(すす)まむ(みづうみ)
050国津神(くにつかみ)(たち)永久(とは)(やしな)へ』
051 ()(うた)(たま)ひつつ(こま)にひらりと(またが)り、052東南方(とうなんぱう)野辺(のべ)をさして(すす)(たま)へば、053程近(ほどちか)野辺(のべ)真中(まんなか)(あま)(たか)からぬ丘陵(きうりよう)ありて、054国津神(くにつかみ)(たち)住家(すみか)幾十(いくじふ)となく()(なら)()たりければ、055朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)国津(くにつ)(かみ)(すま)へる(むら)()はむとして(すす)ませ(たま)ふ。
056 国津(くにつ)(かみ)(をさ)たる狭野(さぬ)比古(ひこ)は、057比女神(ひめがみ)御前(みまへ)(ひざまづ)きながら満面(まんめん)(ゑみ)をたたへて、
058(なれ)こそは高天原(たかあまはら)(くだ)ります
059女神(めがみ)にますか(おも)かがやける
060この(さと)国津神(くにつかみ)(たち)(まも)りつつ
061(すま)へる(われ)狭野(さぬ)比古(ひこ)にこそ
062(ねが)はくばこの村里(むらざと)(とど)まりて
063国津神(くにつかみ)(たち)(すく)はせたまへ
064国津(くにつ)(かみ)日毎(ひごと)(ゑば)(くる)しみつ
065()(かわ)きたり(やす)きをたまへ
066気魂(からたま)をたしに(たも)てる国津(くにつ)(かみ)
067(ゑば)なく(うゑ)(かわ)きゐるなり』
068 朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)狭野(さぬ)比古(ひこ)(こた)へて、
069国津(くにつ)(かみ)日々(ひび)(かて)をば(あた)ふべし
070真賀(まが)湖水(こすゐ)魚族(うろくづ)とらせよ』
071 狭野(さぬ)比古(ひこ)(こた)へて、
072『ありがたし(かたじけ)なしと(おも)へども
073()()()くる国津(くにつ)(かみ)なるよ
074魚族(うろくづ)をくひて()くべき生命(いのち)なれば
075(われ)()(うゑ)にせまらざるべし』
076 朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)は、
077()()また生命(いのち)(ため)によけれども
078魚族(うろくづ)(くら)へば生命(いのち)ながけむ
079われは(いま)国津神(くにつかみ)(たち)魚族(うろくづ)
080()きて()ふべき真火(まひ)(あた)へむ』
081 ()()らせ(たま)ひて朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)は、082この村里(むらざと)小川(をがは)()てる魚貝(ぎよかひ)(など)(あさ)らせ(たま)ひ、083(ひうち)により()()()して、084木草(きぐさ)()えつかせ、085魚貝(ぎよかひ)をその(なか)にほりくべ、086加減(かげん)よく(あぶ)(たま)へば、087(かむ)ばしき(かを)四辺(あたり)()ちぬる。
088 国津神(くにつかみ)(たち)は、089この(かを)りにそそられて、090(さき)(あらそ)ひ、091(むさぼ)(ごと)くに()(はじ)めたり。092狭野(さぬ)比古(ひこ)(よろこ)びて、
093比女神(ひめがみ)(めぐみ)(かしこ)魚族(うろくづ)
094よき(あぢ)はひを(をし)(たま)ひぬ
095今日(けふ)よりはこの村里(むらざと)国津(くにつ)(かみ)
096(うゑ)(なげ)かむ(おそ)れはあらじ
097比女神(ひめがみ)のきり()(たま)ひし真火(まひ)こそは
098(かみ)御霊(みたま)(ひか)りかがよふ
099この真火(まひ)(われ)(たま)はば永久(とこしへ)
100国津神(くにつかみ)(たち)(ほろ)びざるべし』
101 朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)懐中(くわいちう)より(ひか)への(ひうち)()()で、102狭野(さぬ)比古(ひこ)(あた)(たま)へば、103狭野(さぬ)比古(ひこ)感謝(かんしや)()(あた)はず、104カチリカチリと()()()でながら、105(よろこ)びの(あま)俗謡(ぞくえう)(うた)ひて、106国津神(くにつかみ)(たち)(とも)(つき)()(つく)りて(をど)()(くる)ひける。
107天津(あまつ)比女神(ひめがみ)この(さと)
108(くだ)りましまし永久(とこしへ)
109(ひか)りを(あた)(たま)ひけり
110(われ)()今迄(いままで)()()のみ
111()ひて()きたる国津(くにつ)(かみ)
112(なつ)(あき)とはよけれども
113(ふゆ)さり(はる)()むかへば
114(うゑ)にくるしみ(なや)みたり
115今日(けふ)如何(いか)なる()()ぞや
116湖水(こすゐ)池水(いけみづ)川底(かはそこ)
117ところせきまで()()らふ
118魚族(うろくづ)()ひて永久(とこしへ)
119生命(いのち)(たも)つと(をし)へまし
120(ひうち)(われ)(あた)へまし
121()きて()ふべく(をし)へます
122大御恵(おほみめぐみ)のありがたや
123今日(けふ)より(われ)()国津(くにつ)(かみ)
124生命(いのち)(かて)()たりけり
125ああたのもしやたのもしや
126(あめ)より(くだ)りし比女神(ひめがみ)
127(めぐみ)千代(ちよ)(わす)れまじ
128ああありがたやありがたや
129(いは)へよ(いは)へよ国津(くにつ)(かみ)
130(をど)れよ()へよ国津(くにつ)(かみ)
131御空(みそら)(あを)(つち)(ひろ)
132月日(つきひ)(きよ)(かがや)きて
133()()(かぜ)もおだやかに
134天津(あまつ)神国(みくに)はまのあたり
135(うま)()でたり惟神(かむながら)
136(かみ)御前(みまへ)感謝言(ゐやひごと)
137(まを)さむ言葉(ことば)もあら(たふ)
138千代(ちよ)八千代(やちよ)永久(とこしへ)
139女神(めがみ)(めぐみ)(わす)れまじ
140(いは)へよ(いは)へよ(をど)れよ(をど)れよ
141大地(だいち)(そこ)のぬけるまで
142竜宮(りうぐう)(かま)()るるまで』
143 狭野(さぬ)比古(ひこ)音頭(おんど)につれて、144国津神(くにつかみ)(たち)()()ぎに(あつま)(きた)り、145天地(てんち)震動(しんどう)させながら、146(をど)(くる)(たま)ひける。147朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)は、148諸神(ももがみ)(むか)御歌(みうた)もて()らせ(たま)ふ。
149曲津見(まがつみ)(しこ)のすさびを退(やら)はむと
150われは(ひうち)(なれ)()(あた)へし
151今日(けふ)よりは真賀(まが)()()魚族(うろくづ)
152(なれ)()がかてに(あた)へおくべし
153御舟巌(みふねいは)のまはりに()める魚族(うろくづ)
154いやとこしへに(すなど)るなゆめ
155御舟巌(みふねいは)(われ)(たす)けし(かみ)なれば
156(ちか)くの魚族(うろくづ)(たす)()くべし
157(あやま)ちて巌根(いはね)()まむ魚貝(ぎよかひ)()はば
158(たちま)(なれ)()生命(いのち)()せむ
159いや(ひろ)(みづうみ)なれば(いた)るところ
160(なれ)()()ふべき魚貝(ぎよかひ)()てり
161魚族(うろくづ)()にて(あぶ)りて(くら)ふべし
162()きたるままにて(かなら)()すな』
163 狭野(さぬ)比古(ひこ)御歌(みうた)もて(よろこ)(こた)ふ。
164久方(ひさかた)(あめ)より(くだ)りし比女神(ひめがみ)
165神言(みこと)かしこみ千代(ちよ)(まも)らむ
166今日(けふ)よりは国津神(くにつかみ)(たち)(やす)らかに
167(よろこ)びいさみ(めぐ)みに(ひた)らむ
168魚族(うろくづ)数限(かずかぎ)りなし(とし)(まね)
169(うみ)()てれば()ゆる(こと)なし
170(ねが)はくば(われ)()(みづ)(あた)へかし
171小川(をがは)(なが)るるこの真清水(ましみづ)
172国津(くにつ)(かみ)真清水(ましみづ)()みて(はら)(いた)
173生命(いのち)をおとす(うれ)ひありせば』
174 ここに朝香(あさか)比女神(ひめがみ)は、175真土(まつち)(みづ)にて()り、176(かめ)(つく)り、177(しばら)くの(あひだ)天津(あまつ)()(ひかり)()(かわ)かせ、178(つち)をもて(かまど)(きづ)き、179()をおこして(かめ)()き、180𪫧怜(うまら)にかたらに(つく)()げ、181(これ)(みづ)(みた)して(かまど)(つく)()をもて()かせ(たま)へば、182(たちま)(かめ)(みづ)沸騰(ふつとう)して(うる)はしき白湯(さゆ)となりにける。183比女神(ひめがみ)はこの白湯(さゆ)国津神(くにつかみ)(たち)(あた)へ、184()(こと)(をし)(たま)ひければ、185国津(くにつ)(かみ)(よろこ)(いさ)みて(これ)より白湯(さゆ)()(こと)となしければ、186生水(なまみづ)(ごと)(はら)(いた)むることなく、187各々(おのおの)その天寿(てんじゆ)(たも)ちけるこそ目出度(めでた)けれ。188(これ)より火食(くわしよく)(みち)(はじ)まりにける。
189 狭野(さぬ)比古(ひこ)(よろこ)びの(あま)感謝(ゐやひ)(うた)()む。
190比女神(ひめがみ)(めぐみ)(つゆ)にうるほひて
191(われ)()白湯(さゆ)(あぢ)はひ(さと)りぬ
192()()きし魚族(うろくづ)(あぢ)(かむ)ばしく
193(われ)()生命(いのち)もよみがへるなり
194(つち)()りて(かめ)(つく)らせその(かめ)
195(また)()()かす神業(みわざ)(たふと)
196()()げし(かめ)真清水(ましみづ)()(みた)
197(たきぎ)(もや)せば白湯(さゆ)()くかも
198()(ちから)(はじ)めて(さと)りし吾々(われわれ)
199今日(けふ)より(うゑ)()(こと)なからむ
200永久(とこしへ)生命(いのち)(たも)ちてこの(さと)
201われは(さか)えむ国津神(くにつかみ)(たち)
202曲津見(まがつみ)(おそ)(きた)らば真火(まひ)もちて
203(はふ)退(やら)はむ(ちから)おぼえし
204比女神(ひめがみ)神言(みこと)(かしこ)御舟巌(みふねいは)
205あたりの魚族(うろくづ)永久(とは)にとらさじ
206(そら)()地上(ちじやう)(なつ)(かぜ)()きて
207(こころ)(すが)しも比女(ひめ)()でまし
208比女神(ひめがみ)(をし)へたまひし御恵(みめぐみ)
209四方(よも)(かみ)(たち)(わか)ちよろこばむ
210この国土(くに)葦原(あしはら)(くに)(むかし)より
211たたへ(きた)りし常闇(とこやみ)なりけり
212常闇(とこやみ)のこの葦原(あしはら)今日(けふ)よりは
213真火(まひ)(ちから)によみがへるべし
214()(みづ)(あた)(たま)ひし比女神(ひめがみ)
215(めぐみ)永久(とは)(わす)れざるべし
216比女神(ひめがみ)(めぐみ)永久(とは)(わす)れじと
217宮居(みやゐ)(つく)(いは)ひまつらむ』
218 ()()()へて、219狭野(さぬ)比古(ひこ)数多(あまた)国津(くにつ)(かみ)(ひき)ゐて、220真賀(まが)湖辺(こへん)(あたら)しき(すが)しき宮居(みや)(つく)り、221朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)(さち)(いの)るべく、222()(かみ)神霊(しんれい)(まつ)り、223相殿(あひどの)朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)神魂(みたま)(あは)(まつ)りて、224(あさ)(ゆふ)国津(くにつ)(かみ)(かは)(がは)奉仕(ほうし)する(こと)となりぬ。
225 朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)(ふたた)(こま)(またが)り、226この部落(ぶらく)()()でむとして御歌(みうた)()ませ(たま)ふ。
227『いざさらば狭野(さぬ)小郷(をさと)()(たま)
228国津神(くにつかみ)(たち)(いとま)()げむ
229これよりは(われ)西方(にしかた)稚国土(わかぐに)
230さして(すす)まむすこやかにあれよ』
231 狭野(さぬ)比古(ひこ)(わか)れを()しみて(うた)()る。
232比女神(ひめがみ)(いさを)たふとしせめて(いま)
233一日(ひとひ)をここに(とど)まり(たま)はれ
234国津(くにつ)(かみ)生命(いのち)(かて)をたまひたる
235女神(めがみ)(わか)ると(おも)へばかなし
236国津(くにつ)(かみ)諸々(もろもろ)ここに(あつ)まりて
237(きみ)旅立(たびだ)()しみて()くも
238狭野(さぬ)(さと)(すく)ひの(かみ)()れましし
239比女神(ひめがみ)(たび)(とど)めたく(おも)
240とこしへに()大神(おほかみ)諸共(もろとも)
241(きみ)神魂(みたま)をいつきまつらむ』
242 朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)御歌(みうた)()ませ(たま)ふ。
243国津(くにつ)(かみ)(こころ)(さと)らぬにあらねども
244御子生(みこう)みのため(とど)まるべしやは
245気魂(からたま)をもたせる(なれ)()国津(くにつ)(かみ)
246いたづきもなくまめやかにあれ
247(われ)こそは()大神(おほかみ)御水火(みいき)より
248(うま)れし(かみ)()にさはりなし
249いざさらば()ぐしき国津神(くにつかみ)(たち)
250われは(すす)まむ永久(とは)(さか)えよ』
251 狭野(さぬ)比古(ひこ)(わか)()しさに(また)(うた)ふ。
252『かくならば(とど)めむ(すべ)もなかりけり
253国津神(くにつかみ)()神霊(みたま)(つか)へむ
254(ねが)はくば御供(みとも)(ゆる)(たま)へかし
255この行先(ゆくさき)曲津(まが)しげければ
256(たま)()()きの生命(いのち)をすつるとも
257比女(ひめ)のためには()しからざるべし
258今日(けふ)よりは御供(みとも)(かみ)(つか)へつつ
259比女神(ひめがみ)のために(したが)()かむ』
260 朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)微笑(ほほゑ)みながら、
261『やさしかる狭野(さぬ)比古(ひこ)(こころ)うべなひて
262今日(けふ)よりわれの(とも)(ゆる)さむ』
263 狭野(さぬ)比古(ひこ)(よろこ)びに()へず、
264比女神(ひめがみ)(ゆる)しありけり国津(くにつ)(かみ)
265(かみ)宮居(みやゐ)(きよ)(つか)へませ
266いざさらば御供(みとも)(つか)へむ朝香(あさか)比女(ひめ)
267(かみ)御馬(みうま)(むち)うたせませ』
268 朝香(あさか)比女(ひめ)(かみ)はここに狭野(さぬ)比古(ひこ)(したが)へ、269()れたる大野(おほの)(はら)を、270(こま)(なら)べて(いさ)ましく(すす)ませ(たま)ひける。
271昭和八・一二・八 旧一〇・二一 於水明閣 谷前清子謹録)
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