マヤ族の万物創造説
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯の巻
篇:前付
よみ(新仮名遣い):
章:マヤ族の万物創造説
よみ(新仮名遣い):まやぞくのばんぶつそうぞうせつ
通し章番号:
口述日:1933(昭和8)年12月07日(旧10月20日)
口述場所:水明閣
筆録者:白石恵子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年3月23日
概要:
舞台:
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備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm760009
愛善世界社版:
八幡書店版:第13輯 444頁
修補版:
校定版:51頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 太初この世には何も無くて常闇が八方に広がつてゐた。002そして只神々だけが存在してゐた。003神々の名は「フラカン」といひ、004「グクマッツ」(若くはクェツァルコアトル)と言ひ、005「エックスビヤコック」と言ひ、006「エックスムカネ」と言つた。
007 これ等の神々は先づ大地を造らなくては何事も出来ぬと言つて、008一人の神が大きな声で、
011と叫んだ。012忽ちその声に応じて大地が現はれた。013(言霊の妙用を漏らしたる物語也)
014 神々はお互に相談をして種々の動物を拵へて大地の上に住ませる事にした。015それから一番終りの木を刻んで沢山の小さい人間を造つたが、016これ等の人間どもは、017どうも性質が悪くて神々を蔑視するので、018神々はひどく腹を立てて、
019『こんなやくざな生物は、020一思ひに滅ぼして了つた方が良い』
021と考へたので、022「フラカン」神は大地の水と言ふ水の量を増し、023同時に幾日も幾日も大雨を降り続かせたので、024見る見る恐ろしい洪水が人間を襲うて来た。025人間は驚き騒いで、026あちらこちらに逃げまどうた。027それを追ひまはすやうにして、028「エックセコトコブァック」と言ふ鳥は其の目をつつき出し、029「カムラッツ」といふ鳥はその頭を咬みきり、030「コツバラム」といふ鳥はその肉を噉ひつくし、031「テクムバラム」といふ鳥はその骨を砕くのであつた。032いな、033人間に飼はれてゐた家畜や人間に使はれてゐた道具さへも、034逃げまどひ泣きさけぶ人間を眺めて気持よささうに嘲り笑ふのであつた。
035『お前さんたちは是までわたしたちをひどい目にあはせて居たんだ。036今度はわたしたちの番だ。037思ひきり咬みついてやるよ』
038と犬や鶏が言つた。
039『お前さんたちは毎日夜となく昼となく、040わたしたちを苦しめた。041わたしたちはいつも泣き叫んで居た。042さあ今度はこつちの番だ。043わたしたちの力の程を見せてやるよ。044お前さんたちの肉を碾き砕いて肉団子を拵へてやるよ』
046『お前さんたちは、047わたしたちの頭や脇腹をいぶしたし、048火の上にかけて火傷をさせたり、049随分と痛い目にあはせたね。050さあ今度はこちらの番だ。051思ひきり火傷をさせてやるよ』
052と茶碗や皿が言つた。
053 人間どもは、054みんなに追ひかけられて、055苦しまぎれに家の屋根によぢ登つた。056屋根は、
059と言つて、060わざと地面に突き伏してしまつた。061人間は周章狼狽して樹の上に登つた。062さうすると樹は、
065と言つて、066烈しく枝を動かして人間どもを大地にふりおとした。067人間どもはモウ困つてしまつて洞穴の中へ潜り込まうとした。068すると洞穴は、
069『この性悪ものめ、070かうしてくれる』
071と言つて、072いきなり口を閉ぢてしまつた。
073 かうして大地の上を右往左往に逃げまはつてゐるうちに、074小さい人間どもは、075水に責められ、076生物に苦しめられ、077種々の品物に痛め付けられて、078たうとう皆滅びて了つた。
079 「フラカン」神を始め天界にある神々は、080新しく人間を造らうと考へた。081そこで種々と相談した末に、082黄色い玉蜀黍の粉と白い玉蜀黍の粉とを捏つて、083一種の糊をこしらへて、084その糊で四人の男の人間を造つた。085一人は「バラムキッチェ」(美しい歯を持つ虎の義)と呼ばれ、086一人は「バラムアガブ」(夜の虎の義)と呼ばれ、087一人は「マハクター」(著しき名の義)と呼ばれ、088残りの一人は「イキバラム」(月の虎の義)と呼ばれた。
089 これ等の人間は姿も心の働きも殆ど神とかはらなかつた。090「フラカン」神はそれが気に入らなかつた。
091『わしたちの手から造り出されたものが、092わしたちのやうに偉いものであるのは、093どうも面白くない。094何とか為なくてはならぬ』
095 「フラカン」神はかう考へて、096モウ一度他の神々と相談をした。097そして、
098『人間と言ふものは、099もつと不完全でなくてはならぬ。100もつと知識が少い方が良い。101人間は決して神となつてはならぬ』
102と言ふことに話がきまつた。103そこで「フラカン」神は四人の男の目をねらつて、104フツと息を吹きかけると、105眼がくもつて大地の一部しか見えなくなつた。106神々は大地の隅から隅まで見ることが出来るのであつた。
107 かうして四人の男を自分たちより劣つたものにすると、108神々は男たちを深い眠りに陥れて、109それから四人の女を拵へて男たちに妻として与へることにした。110四人の女はそれぞれ「カハ・バルマ」(落ちる水の義)と呼ばれ、111「チヨイマ」(美しい水の義)と呼ばれ、112「ツヌニハ」(水の家の義)と呼ばれ、113「カキクサ」(暉く水の義)と呼ばれた。114これ等の八人の男女が人類の祖先である。
115 次に火の起源について面白い話がある。116それによると人間どもは初め火を持つて居なかつた。117だから夜は真暗な所に居なくてはならぬし、118寒い時には只がたがたと顫へて居なくてはならなかつた。119そして折角鳥や獣を手に入れても生のままで食べるより外なかつた。120「トヒル」(ぶらつく者の意)といふ神がそれを見て、
121『どうも可哀さうだ。122人間どもに火を与へてやる事にしよう』
123と言つて、124両方の脚を烈しく摩り合せると忽ち火が燃えだした。125人間どもはその火をもらつて皆で分けることにした。126そしてそれを消やさないやうに大切にしてゐたが、127ある時大雨が降りつづいて国中の火をすつかり消してしまつた。128人間どもは非常に嘆きかなしんだ。129すると「トヒル」神がそれを見て、
130『よし、131わしがモ一度火を拵へてやらう』
132と言つて、133自分の脚と脚とを摩り合せると、134忽ち火が燃え出した。
135 かうして人間どもは火をなくする度に「トヒル」神のお蔭で、136それを手に入れることが出来るのであつた。
137 神から造られた四人の男と四人の女とは、138暗の世界に住んでゐなくてはならなかつた。139その頃はまだ太陽がなかつたので、140八人の男女は天を仰いで神々に、
141『どうか、142わたくし達に光明を与へて下さい。143安らかな生活を恵んで下さい』
144と祈つた。145が、146いつまで経つても太陽は現はれなかつた。147彼等は悲しみ悩んで「ツラン・ジヴァ」(七つの洞窟の義)といふ地に移つて行つた。148併しそこでも太陽を見る事が出来なかつた。149さうしてゐるうちに、150どうしたのか、151言葉の混乱が起つて八人の男女は、152お互にお互の言ふ事が解らぬやうになつた。153彼等はモウすつかり困つてしまつて「トヒル」神に、
154『どうかわたくし等を率ゐて、155どこかもつと幸福な土地に移して下さい』
156と祈つた。157たうとう彼等は「トヒル」神の教によつて長い旅路についた。
158 高い山をいくつとなく越えて行くうちに、159大きな海に出た。160船を持たぬ彼等は、161どうして漫々たる海原を渡らうかと思ひ煩つて居ると、162不思議にも水がさつと二つに分れて、163一筋の路が出来た。164彼等はその道を辿つて「ハカヴィツ」といふ山の麓に来た。
165『わたしたちは、166ここに留らなくてはならぬ。167「トヒル」神さまのお告げによると、168わしたちは此所で太陽を見ることが出来るのだから』
169と四人の男が言つた。
170『ええさうしませう。171日の光を見ることが出来たら、172どんなに嬉しいでせう』
173と四人の女が言つた。
174 かうして彼等がひたすら日の光を待ちこがれてゐると、175やがて太陽が赤々と東の空から現はれて、176明るく温かな日の光が野山に充ち満ちた。177もつとも初めのうちは日の光が、178さほど強くなかつた。179あとでは祭壇の上の犠牲の血をすぐに吸ひとつてしまふほど烈しい熱を発するやうになつた。180太陽も始めて八人の男女の目にうつつた時には、181鏡の中の影のやうに見えたのであつた。182それでも始めて太陽を見たので、183男も女も獣類も嬉しさの余り殆ど踊り狂はむばかりであつた。184彼等は声をそろへて「カムク」といふ歌をうたひ出した。185「カムク」とは「吾等は見つ」といふ意味で、186つまり始めて太陽を見た時の胸の中の歓喜がおのづから迸り出たのであつた。
187 かうして八人の男女は「ハカヴィツ」山の麓に「キシエ」族の最初の町をこしらへて、188そこに永く住むことになつた。189時がたつにつれて、190人間の数がだんだんに殖ゑて来た。191そしてその祖である八人の男女も、192だんだんと年老りになつた。193ある日、194神々が幻のやうに八人の男女たちの前に現はれて、
195『お前たちの子孫が末長く栄えることを願ふなら、196わたしたちに人間の犠牲をささげなくてはならぬ』
198 八人の男女は神々の教に従ふために、199近くの地に住んでゐる他の部落を襲うた。200他の部落のもの共は、201八人の男女に率ゐられた「キシェ」族に対して烈しく争つた。202血腥い戦が長く続いて、203どちらが勝つとも見えなかつた。204すると、205どこからとなく地蜂や熊蜂の群が現はれて来て、206「キシェ」族を助けて敵の兵どもの顔に飛びついては烈しくその眼を刺した。207敵の兵は目がつぶれて武器を振りまはすことが出来なくなつて悉く降参してしまつた。208八人の男女は敵勢のうちから幾人かを選り出して犠牲として神々にささげた。
209 かうして「キシェ」族は次第に近くの部落をきり従へて行つたが、210その中に彼等の祖である四人の男はいよいよ年がいつた。211彼等は臨終が近づいたといふ事を悟つて、212別れの言葉を言つて聞かすために、213子や孫や親族たちを自分のまはりに呼びよせた。214そして別れの言葉がすむと四人の男の姿が忽ち見えなくなつた。215そして其あとに大きな巻束が現はれた。216「キシェ」族はその巻束を「包まれたる厳の宝」と名づけて、217決して之を開かなかつた。
218 要するに、219この物語は「キシェ」族が寒い地方から暖い南方に移住した史的事実を反映してゐるやうに考へられるのである。