霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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北欧(ほくおう)()ける宇宙(うちう)創造(さうざう)(せつ)

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯の巻 篇:前付 よみ(新仮名遣い):
章:北欧に於ける宇宙創造説 よみ(新仮名遣い):ほくおうにおけるうちゅうそうぞう 通し章番号:
口述日:1933(昭和8)年12月07日(旧10月20日) 口述場所:水明閣 筆録者:内崎照代 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年3月23日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm760010
愛善世界社版: 八幡書店版:第13輯 450頁 修補版: 校定版:62頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 太初(はじめ)(くう)(くう)であつた。002そこには()にふれるものが(なに)()かつた。003無限(むげん)(ひろ)がつてゐる虚無(きよむ)には、004ただ「ギンヌンガ・ギャップ」と()深淵(しんえん)があるだけであつた。005「ギンヌンガ・ギャップ」とは「(あご)(ひら)いた決裂(さけめ)」といふ意味(いみ)である。006この深淵(しんえん)永久(えいきう)常闇(とこやみ)(うち)にひたすら(ひろ)がりに(ひろ)がつて()たので、007その(おほ)きさも(ふか)さも到底(たうてい)(はか)()られる(かぎ)りではなかつた。
008 茫々(ばうばう)たる「ギンヌンガ・ギャップ」の深淵(しんえん)(きた)(はて)(みなみ)(はて)とに、009(ふた)つの世界(せかい)ならぬ世界(せかい)があつた。010(きた)(はて)にある世界(せかい)を「ニフルハイム」と()び、011(みなみ)(はて)にある世界(せかい)を「ムスベルハイム」と()ぶ。
012 「ニフルハイム」は極寒(ごくかん)世界(せかい)である、013暗黒(あんこく)世界(せかい)である。014そこには物凄(ものすご)(きり)(やみ)とが永久(えいきう)(すべ)てを()ぢこめて()る。015この世界(せかい)のただ(なか)に、016いつまでも()きる(こと)のない(いづみ)()いてゐる。017(いづみ)は「フフエルゲルミル」と()ばれた。018(いづみ)からは(こほり)のやうに(つめ)たい(みづ)滾々(こんこん)(ほとばし)()で、019十二(じふに)(かは)となつて(なが)()てゐる。020(なが)(なが)れて()くうちに「ギンヌンガ・ギャップ」から()いて()(つるぎ)のやうな疾風(しつぷう)()れて、021(やま)なす(こほり)(かたまり)となり、022(こほり)(かたまり)悠々(いういう)(ころ)がりつづけて、023はては「ギンヌンガ・ギャップ」の底知(そこし)れぬ深淵(しんえん)(かみなり)のやうな(ひびき)()てて()()むのであつた。
024 「ムスベルハイム」は極熱(ごくねつ)世界(せかい)である。025()光熱(くわうねつ)との世界(せかい)である。026この世界(せかい)のただ(なか)に「スルトル」と()ばれる絶大(ぜつだい)巨人(きよじん)(すわ)()んで極熱界(ごくねつかい)四辺(あたり)(まも)つて()る。027「スルトル」の()には火焔(くわえん)(つるぎ)がしかと(にぎ)られてゐる。028巨人(きよじん)()えず(すさ)まじい(いきほひ)(つるぎ)()りまはす。029ふりまはす(たび)(つるぎ)()から切尖(きつさき)から閃々(せんせん)たる火花(ひばな)(あめ)のやうに()りこぼれて、030深淵(しんえん)(そこ)(よこた)はつてゐる(こほり)(かたまり)(うへ)()ちる途端(とたん)に、031(みみ)(ろう)する(やう)(おと)がして濛々(もうもう)たる蒸気(じようき)数知(かずし)れぬ(くも)となつて(たか)(たか)()(のぼ)るのであつた。032(いきほ)(さか)んに()(のぼ)つた蒸気(じようき)(くも)が、033氷寒(ひようかん)世界(せかい)の「ニフルハイム」から()きすさんで()(つめ)たい(かぜ)(こほ)つて、034宇宙(うちう)(かた)くかたまつた(とき)035それで(はか)()られぬ(おほ)きな魔物(まもの)として()きて(うご)くやうになつた巨魔(きよま)()を、036「イミル」(もし)くは「オルケルミル」といふ。037()きかへる(かたまり)」といふ意義(いぎ)である。038凝固(こりかた)まつた(こほり)()であるから(とき)として「リムツルス」(氷霜(ひようさう)巨人(きよじん)())と()ばれることもある。039()「エッダ」の詩篇(しへん)は、040この(こほり)巨魔(きよま)(うた)つて、
 
041 (ふる)(むかし)
042 イミルが()みし(ころ)には
043 (すな)なく(うみ)なく
044 (すず)しき(なみ)もなかりき
045 大地(だいち)見出(みいだ)されず
046 はた天空(てんくう)もあらず
047 すべては(ひと)つの混沌(こんとん)にして
048 いづこにも(くさ)(しやう)ぜざりき
 
049()つてゐる。050茫々(ばうばう)たる虚無(きよむ)(なか)(うま)()(こほり)()「イミル」は、051食物(しよくもつ)(さが)しもとめて(やみ)(なか)をうごめき(まは)つて()た。052そのうちに「アウヅムブラ」といふ絶大(ぜつだい)牡牛(めうし)見出(みいだ)した。053「アウヅムブラ」とは(飼育(しいく)するもの)といふ意義(いぎ)である。054この(うし)濛々(もうもう)たる蒸気(じようき)(くも)()えて(こほ)つて(うま)()たものであつた。055「イミル」は(よろこ)んで牡牛(めうし)(そば)()けよつて()つて()ると、056(おほ)きな乳母(ちち)から(ゆき)のやうに(しろ)乳母(ちち)()つの(かは)となつて滾々(こんこん)(なが)()てゐる。057「イミル」は日毎(ひごと)その乳汁(ちち)()んで(いのち)をつなぐことにした。
058 絶大(ぜつだい)なる牡牛(めうし)「アウヅムブラ」も()きて()以上(いじやう)059(なに)かを()べてその(いのち)をささへなくてはならぬ。060「アウヅムブラ」は(おほ)きなそして(あら)くて(かた)(した)()しては(こほり)(かたまり)(こほ)りついてゐる(しほ)()めて()た。
061 (ひる)となく(よる)となく()めつづけてゐるうちに、062(こほり)(かたまり)(なか)から(をとこ)頭髪(とうはつ)(あらは)れて、063それから全身(ぜんしん)(あらは)()た。064(こほり)(かたまり)(なか)から()()して()たのは「ブリ」といふ(かみ)であつた。065(からだ)(おほ)きくて(ちから)(つよ)くて、066容貌(ようばう)(うるは)しい(かみ)であつた。067そして()もなく「ボル」といふ(をとこ)()()んだ。
068 かうして神々(かみがみ)(うま)()るやうになると、069巨魔(きよま)「イミル」も巨人(きよじん)どもを()()すやうになつた。070ある()071「イミル」は乳汁(ちち)()いて、072うたた()をしてゐるうちに、073体中(からだぢう)(あせ)をかいた……と(おも)ふと、074(ひだり)(わき)(した)から一人(ひとり)(をとこ)一人(ひとり)(をんな)とが(うま)れ、075(あし)から(むつ)つの(あたま)()つた(をとこ)(うま)れた。076六頭(ろくとう)怪魔(くわいま)は「ベルゲルミル」と()ばれた。077神々(かみがみ)永久(えいきう)(てき)となつた「(しも)巨人(きよじん)」どもは、078みなその子孫(しそん)である。
079 神々(かみがみ)巨人共(きよじんども)(あらは)れると、080その(あひだ)(はげ)しい(たたかひ)(はじ)まつた。081神々(かみがみ)()きもの(ただ)しきものの(ちから)として、082巨人(きよじん)どもは()しきもの(よこしま)なものの(ちから)として、083どうしても(なか)よく(くら)して()くことが出来(でき)なかつたのである。084しかしいつまでもいつまでも(たたか)つてゐるうちに、085双方(さうはう)もやや(あらそひ)()いて、086「ボル」(がみ)が「ボルトルン」((あく)(いばら))の(むすめ)「ベストラ」を(めと)(こと)になつて、087「オーディン」「フィリ」「フエ」といふ(さん)(にん)(かみ)をまうけた。088()(なか)の「オーディン」こそ、089ゆくゆく神々(かみがみ)王者(わうじや)となつて、090あらゆる世界(せかい)支配(しはい)すべき運命(うんめい)()つた(もつと)(たか)(もつと)(えら)(かみ)である。
091 (さん)(にん)神々(かみがみ)(うま)れると、092すぐに(ちち)の「ボル」(がみ)(たす)けて、093また巨人(きよじん)どもと(はげ)しい(たたかひ)(ひら)いた。094巨人族(きよじんぞく)頭領(とうりやう)である「イミル」は()みどろになつて()れまはつたが、095たうとう(さん)(にん)(かみ)()りさいなまれて、096(すさま)じい(さけ)(ごゑ)とともに、097(をか)(くつがへ)すやうにどつと(たふ)れた。098()ると、099傷口(きずぐち)から(くれなゐ)()(うしほ)のやうに()()して、100(おほ)きな(かは)となり、101はてはあたりに(おそ)ろしい()洪水(こうずゐ)()(おこ)した。102首領(かしら)(あへ)ない最後(さいご)()ぬけがしてゐた巨人(きよじん)どもは、103(おどろ)(さわ)いで、104あちらこちらに()げまどつてゐたが、105たうとう一人(ひとり)(のこ)らず滔々(たうたう)たる()(なが)れに()(なが)されて、106(くる)しみもがきながら(おぼ)()んでしまつた。107ただ「ベルゲルミル」といふ六頭(ろくとう)巨人(きよじん)だけは、108おのが(つま)(いつ)しよに一艘(いつそう)(ふね)()()んで、109()(うみ)(うへ)()いで()いで世界(せかい)()ての()てまで()げて()つてしまつた。
110 「ベルゲルミル」夫婦(ふうふ)()ちて()つた世界(せかい)は「ヨッツンハイム」と()ばれる。111二人(ふたり)はこの世界(せかい)()(とどま)つて、112(あたら)しい「(しも)巨人(きよじん)」どもを()んだ。
113『わたしたちが、114こんな(さむ)いわびしい世界(せかい)()むやうになつたのも、115(まつた)神々(かみがみ)のせゐだ。116(おも)へば(にく)(やつ)()ではある』
117 「ベルゲルミル」夫婦(ふうふ)は、118いつも口癖(くちぐせ)のやうに、119かう(はな)しあふのであつた。120だから「(しも)巨人(きよじん)」どもも、121両親(りやうしん)(うらみ)をうけついで、122神々(かみがみ)()(かたき)のやうに(おも)ひなし、123(をり)さへあると自分(じぶん)世界(せかい)から()()して神々(かみがみ)のゐるところに(おそ)ひかかるやうになつた。
 
124   天地(てんち)万物(ばんぶつ)創成(さうせい)
 
125 神々(かみがみ)は、126その強敵(きやうてき)である巨人(きよじん)どもにうち()つことが出来(でき)たので、127茫々(ばうばう)たる虚無(きよむ)空際(そらぎは)(あまね)見渡(みわた)して、128(たし)かな、129そして()みよい世界(せかい)(つく)らうと決心(けつしん)した。
130 「オーディン」は「フィリ」と「フェ」とに(むか)つて、
131『わしたちは、132()づしつかりした、133(かたち)のある世界(せかい)(つく)らなくてはならぬ。134それには巨魔(きよま)「イミル」の(からだ)使(つか)ふのが一番(いちばん)いいと(おも)ふ』
135()つた。136「フィリ」と「フェ」とはすぐにそれに同意(どうい)した。
137 そこで(さん)(にん)(かみ)は「イミル」の(おほ)きな(からだ)を「ギンヌンガ・ギャップ」のただなかに()()つて()て、138(からだ)(にく)大地(だいち)をつくり、139(なが)れほとばしる()(うみ)をつくり、140(おほ)きな(ほね)(やま)(をか)をつくり、141(あご)()(くだ)けた(ほね)大石(おほいし)小石(こいし)をつくり、142(かみ)()()(くさ)をつくつた。
143 神々(かみがみ)大地(だいち)宇宙(うちう)真中(まんなか)()ゑた。144そしてそのまはりに、145(くま)なく「イミル」の睫毛(まつげ)()ゑて堅固(けんご)(とりで)とし、146またそのまはりに(うみ)をひきはへて、147二重(にぢう)(とりで)とした。
148大地(だいち)はゆくゆく人間(にんげん)といふものの住居(すまゐ)となすはずぢや。149だから出来(でき)るだけ守備(まもり)(かた)くして、150巨人(きよじん)どもの(わざはひ)から(のが)れるやうにしてやらなくてはならぬ』
151 「オーディン」はかう()つて「フィリ」と「フェ」とを(かへり)みて、152(こころよ)げに微笑(ほほゑ)んだ。153それから「イミル」の(おほ)きな頭蓋骨(づがいこつ)大地(だいち)(はる)(うへ)()げあげて、154(まる)天空(てんくう)をこしらへ、155頭脳(づなう)をそこに()きちらして、156(ひつじ)()(やう)(くも)をこしらへた。
157 ()()げただけでは、158天空(てんくう)()ちて()心配(しんぱい)がある。159そこで神々(かみがみ)は、160(ちから)(つよ)()(にん)侏儒(こびと)世界(せかい)四隅(よすみ)(おく)つて、161その(かた)天空(てんくう)(ささ)へさせることにした。162(ひがし)(すみ)(ささ)へる侏儒(こびと)は「アウストリ」と()ばれ、163西(にし)(すみ)(ささ)へる侏儒(こびと)は「ウエストリ」と()ばれ、164(みなみ)(すみ)(ささ)へる侏儒(こびと)は「スードリ」と()ばれ、165(きた)(すみ)(ささ)へる侏儒(こびと)は「ノルドリ」と()ばれた。166英語(えいご)東西(とうざい)南北(なんぼく)をそれぞれEast,West,South,Northといふのは、167これが()めである。
168 たしかな、169(かたち)ある世界(せかい)が、170かうして出来上(できあが)つた。171しかしまだ(ひかり)がない。172(ひかり)がなくてはありとある世界(せかい)は、173(おそ)ろしい常暗(とこやみ)(とざ)されてゐなくてはならぬ。174そこで神々(かみがみ)は、175極熱(ごくねつ)世界(せかい)「ムスベルハイム」から(ほとばし)()数知(かずし)れぬ火花(ひばな)()りあつめて、176広々(ひろびろ)とした(そら)()きちらした。177火花(ひばな)大空(たいくう)(かがや)きわたつて、178世界(せかい)(あか)るくするやうになつた。179(ひと)()(ほし)()んでゐるのがこれである。180それから神々(かみがみ)は「ムスベルハイム」から(ひらめ)()した(もつと)(おほ)きな(ふた)つの火花(ひばな)天空(てんくう)()()げた。181人間(にんげん)太陽(たいやう)()び、182(つき)()んでゐるのが、183それである。
184 神々(かみがみ)太陽(たいやう)(つき)とのために、185(うつく)しい黄金(こがね)(くるま)をつくつた。186そして太陽(たいやう)をのせた(くるま)に「アルファクル」((あさ)はやく()()ますものといふ意味(いみ))といふ(うま)と、187「アルスフィン」((はや)()くものの())といふ(うま)をつなぎ、188(つき)をのせた(くるま)に「アルスフィデル」((まつた)(すみや)かなるものの())といふ(うま)をつないだ。189(つき)(ひかり)蒼白(あをじろ)くて(つめ)たいが、190太陽(たいやう)(ひかり)はあらゆるものを()きつくすやうに(あつ)い。191だから神々(かみがみ)は、192太陽(たいやう)(くるま)をひく(うま)のために、193(ふた)つの革袋(かはぶくろ)(つめ)たい空気(くうき)をつめて、194その(かた)(むす)びつけ、195また「スファリン」((ひや)すものの())といふ(たて)をつくつて、196(くるま)前部(ぜんぶ)にかけることにした。197(たて)太陽(たいやう)光線(ひかり)をさへぎつてくれなければ、198(うま)()()()(ただ)れて、199はては燃滓(もえかす)となつて、200大地(だいち)()ちてゆくにちがひない。
201 かうして太陽(たいやう)(つき)とは、202もう(うご)()すばかりになつたが、203(うま)(みちび)いてくれるものがないと、204日毎(ひごと)(ただ)しい(みち)往来(ゆきき)することが出来(でき)ぬ。
205(たれ)(うま)()らせる(こと)にしよう。206うつかりしたものにこの(やく)(まか)せると、207大変(たいへん)なことになつてしまふのだから』
208 神々(かみがみ)はかういつて、209(あまね)世界(せかい)()わたすと、210「ムンディルファリ」といふ巨人(きよじん)()たちに()がついた。211「ムンディルファリ」は、212それが(ほこ)らしくてたまらなくて、213(をとこ)()に「マニ」といふ()をつけ、214(をんな)()に「リル」といふ()をつけた。215「マニ」は「(つき)」のことであり「リル」は「太陽(たいやう)」のことである。
216 神々(かみがみ)は、217この二人(ふたり)太陽(たいやう)(つき)との(うま)(みちび)かせ(やう)決心(けつしん)した。218そこで巨人(きよじん)「ムンディルファリ」に相談(さうだん)して二人(ふたり)(もら)()けて、219これを天空(てんくう)(おく)つた。
220『そなたたちは(そら)にのぼつて、221太陽(たいやう)(つき)とに(ただ)しい(みち)往来(ゆきき)さしてもらひたい。222(すこ)しでも(みち)をあやまると大変(たいへん)なことになるのだから、223よく()をつけるやうに』
224 神々(かみがみ)からかういひつかつた二人(ふたり)は、225天空(てんくう)(のぼ)つて()つて、226「リル」が太陽(たいやう)(みち)しるべをつとめ、227「マニ」が(つき)(みち)しるべをつとめることになつた。
228 (つぎ)神々(かみがみ)は、229巨人(きよじん)世界(せかい)「ヨッツンハイム」から「ノルフィ」といふ巨人(きよじん)(むすめ)「ノット」((よる)といふ())を()びよせて、230(よる)(くるま)」を(つかさど)らせることにした。231(よる)(くるま)」は(やみ)(いろ)をしてゐる。232そしてそれを()(うま)(すみ)のやうな黒毛(くろげ)である。233黒面(こくめん)の「ノット」が(しづ)かに(むち)()ると、234黒毛(くろげ)(うま)(なが)(なが)(たてがみ)(ゆる)がせて、235(おもむ)ろに「(よる)(くるま)」をきしらせ(はじ)める。236()(うご)(たてがみ)からは、237(しも)(しも)とがふりこぼれて、238(おと)もなく大地(だいち)()ちる。239かうして人間界(にんげんかい)(よる)()るのであつた。
240 (よる)乙女(おとめ)「ノット」は「デリング」((あけぼの)意味(いみ)す)といふ(かみ)結婚(けつこん)して、241「ダグ」((ひる)意味(いみ)す)といふ(ひか)(かがや)(うつく)しい(をとこ)()()んだ。242神々(かみがみ)は「ダグ」の(かがや)かしい姿(すがた)()ると、243これを()()して「(ひる)(くるま)」を(つかさど)らせることにした。244(ひる)(くるま)」は(はな)やかに(かがや)(わた)つてゐる。245そしてそれを()(うま)もまぶしい(やう)(ひか)白毛(しろげ)である。246白面(はくめん)の「ダグ」が(しづ)かに(むち)をふると、247白毛(しろげ)(うま)はきらめく(たてがみ)(ゆる)がせて、248(おもむ)ろに「(ひる)(くるま)」をきしらせ(はじ)める。249()(うご)(たてがみ)からは、250(ひかり)がさつと(ひらめ)()して、251あらゆる世界(せかい)(あか)るさと(よろこ)びとを(みなぎ)らす。252かうして人間界(にんげんかい)(ひる)()るのであつた。
253 しかし()きもの(ただ)しきものには、254いつも()しきもの(よこしま)なものがつきまとふ。255人間界(にんげんかい)(ひかり)(あた)へる太陽(たいやう)(つき)とにも、256(おそ)ろしい(てき)があつた。257それは猛々(たけだけ)しい二匹(にひき)(おほかみ)であつた。258(おほかみ)(ひと)つは「スコル」と()ばれ、259()(ひと)つは「ハーチ」と()ばれた。260「スコル」は「反抗(はんかう)」といふ()であり、261「ハーチ」は「憎悪(ぞうを)」といふ意味(いみ)である。
262()つかけろ()つかけろ。263どこまでも()つかけて、264太陽(たいやう)(つき)とを()んでしまはなくてはならぬ。265あらゆる世界(せかい)(ふたた)永久(えいきう)(やみ)につつまれてしまふやうに』
266 二匹(にひき)(おほかみ)はかう(さけ)んで、267(すさま)じい(いきほひ)()えず太陽(たいやう)(つき)とを()つかける。268太陽(たいやう)や「(つき)(くるま)」をひく(うま)は、269それに(おび)えて懸命(けんめい)()()すのであるが、270ときどき(おほかみ)()ひつかれて、271(おほ)きな(くち)(なか)()みこまれかける。272(ひと)()日蝕(につしよく)といひ月触(げつしよく)といふ現象(げんしやう)はかうして(おこ)るのである。273(ひと)()世界(せかい)(きふ)(くら)くなりかけるのに(おどろ)(おそ)れて、274一斉(いちせい)にあらん(かぎ)りの(おと)()てたり(さけ)んだりする。275と、276流石(さすが)(おほかみ)もびつくりして、277()みかけてゐた太陽(たいやう)(つき)()()してしまふ。
278 「(つき)(くるま)」を(つかさど)る「マニ」は、279神々(かみがみ)()ひつけによつて大空(おほぞら)(のぼ)つて()つたときに、280二人(ふたり)子供(こども)大地(だいち)(のこ)しておいた。281子供(こども)()は「ヒウキ」といひ「ビル」といつた。282「ヒウキ」は「次第(しだい)(おほ)きくなるもの」といふ意味(いみ)であり、283「ビル」は「次第(しだい)(ほそ)くなるもの」といふ意味(いみ)である。284「マニ」は子供(こども)のことが()になるので、285ある(とき)天界(てんかい)から(はる)(した)なる大地(だいち)(なが)めおろして()た。286と、287二人(ふたり)子供(こども)は、288意地(いぢ)(わる)(をとこ)使(つか)(まは)されて、289()もすがら(みづ)(はこ)んでゐるのであつた。290「マニ」はすつかり(おこ)()して、
291『あんなひどい(をとこ)のそばに、292大事(だいじ)子供(こども)()いておくわけにいかぬ。293ここに()びよせることにしよう』
294といつて、295二人(ふたり)大空(おほぞら)()びよせた。296かうして(つき)()ごとに(おほ)きくなつたり、297(ほそ)くなつたりするやうになつた。
298 神々(かみがみ)は、299太陽(たいやう)(つき)と「(ひる)」と「(よる)」に()ひつけて、300(いち)(ねん)月日(つきひ)(すす)みかたの(しるし)をつけさせることにしたばかりでなく、301さらにまた「夕方(ゆふがた)」「真夜中(まよなか)」「(あさ)」「午前(ごぜん)」「正午(しやうご)」「午後(ごご)」にも、302(かれ)()(ちから)(あは)せて、303(おな)じやうな(つとめ)(つく)すように(めい)じた。
304 (むかし)北欧(ほくおう)では、305(いち)(ねん)(なつ)(ふゆ)との(ふた)つに(わか)れてゐるだけであつた。306(なつ)」は(やさ)しくおとなしい(をとこ)で、307あらゆるものから(あい)せられてゐたが、308(ふゆ)」は()(あら)くて、309意地(いぢ)(わる)くて、310すべてのものから(にく)まれた。311北欧(ほくおう)(ふゆ)はひどく(さむ)い。312そして()()るやうな(かぜ)が、313()えず()きすさぶのであつた。314「フリースフェルグル」((しかばね)をのむものの())といふ巨人(きよじん)がゐて、315(わし)羽衣(はごろも)(まと)うて、316天界(てんかい)(きた)()ての()てに(すわ)りこんでゐる。317この巨人(きよじん)羽衣(はごろも)(つばさ)をひろげて、318はたはたと(あふ)ると、319(つるぎ)のやうな寒風(かんぷう)がさつと()()して、320容赦(ようしや)なく大地(だいち)(おも)()れまはつては、321あらゆるものを()(しぼ)ませるのであつた。
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