第一九章 盲目の神使〔一九〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第1巻 霊主体従 子の巻
篇:第2篇 幽界より神界へ
よみ(新仮名遣い):ゆうかいよりしんかいへ
章:第19章 盲目の神使
よみ(新仮名遣い):もうもくのしんし
通し章番号:19
口述日:1921(大正10)年10月19日(旧09月19日)
口述場所:
筆録者:広瀬義邦
校正日:
校正場所:
初版発行日:1921(大正10)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:自分は清い水の河で漁をしていたところ、河岸から眼がふさがった男がしきりに呼びかけている。盲目の男は、自分は地の高天原の使いであると名乗り、迎えに来たのだ、と告げた。
先に地の高天原の悲惨な様子を見ていたので拒否したが、にわかに行きたい気になって産土神に祈ると、産土神が現れて、世界を救済する御用だから行くがよい、と述べた。
暗黒で大蛇、毒蛇、狼が跋扈する道を、盲目の使いは平気で進んでいく。盲目の使いは、地の高天原が悪魔の邪魔によって黒雲に包まれているので、ひそかにお迎えに上がって連れてきた次第である、と語った。
果たして、地の高天原では悪魔が自分の来着を知って、狼狽し、反抗運動の真っ最中であった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm0119
愛善世界社版:106頁
八幡書店版:第1輯 84頁
修補版:
校定版:106頁
普及版:57頁
初版:
ページ備考:
001 自分は、002ある清い水の流れてゐる河の中へはいつて漁魚をしてゐた。003さうすると河の岸に立つて、004しきりに呼ぶ者がある。005その男の顔を見ると、006眼がほとんど閉がつて、007一ツも見えない。008ようこんな眼で危い河縁の土堤へこられたものだと思つた。
009 ともかくも河から上つて、010その使の側へ寄つて、
011『私を呼びとどめたのは何の用か』
012とたづねてみた。013すると盲目の男は、
014『私は地の高天原からのお使で、015あなたをお迎ひに参つたものです』
018『いや、019先だつて、020神界を探険したが、021あのやうな状態では、022地の高天原も糞もあつたものではない。023むしろ地獄の探険が優しである』
026『お前のやうな盲目の使を寄こすやうな神なら、027きつと盲目の神であらう。028盲目が眼明きの手をひいて、029地獄の谷底へ落すやうなものであるから行かぬ』
030と答へた。031すると其の使は、
032『あなたは私の肉体を見てゐるのか、033それとも霊を見てゐるのか。034肉体は現存してゐるが、035私の霊は尊いものである。036しかも私の霊はすべての神に優れてゐる』
037と誇り気にいふ。038にはかに自分も行きたい気がして、039産土神にむかつてお願ひをした。040すると産土神が現はれて、041両眼に涙をたたへたまひ、
042『とも角も世界を救済する御用であるから、043行つてくるが宜かろう。044しかし今度行つたら、045容易に帰つてくることはできぬ。046いろいろの艱難辛苦を嘗めなければならぬが、047神から十分保護をするから、048使について高天原へ上つてくれ。049自分も産土神として名誉であるから』
050と仰せられる。051そこで自分はその使とともに、052大橋を渡つて、053だんだんと何とも知れぬ、054焦つくやうな熱い空を、055笠も着ず進んで行つた。056すると俄にどういふわけか、057空が真黒になつて、058雷鳴轟きわたり、059雨は車軸を流すがごとく降つてきた。060真昼にもかかはらず一寸先も見えぬ真黒闇になつて、061あまつさへ風ひどく一歩も進むことができぬ。062そのとき心に思ふやう、063……高天原から自分を迎ひに来たといふから、064承知して一歩踏みだすと此の有様である。065或ひはこの者がさういふて、066自分に苦しみを与へるために連れて行くのではないか……といふ念が起つてきた。
067 そこでまた天然笛を取りだして吹奏した。068すると雨はカラリと晴れ、069雷鳴は止み、070空は明らかになつてきた。071それから幾つも幾つも峠を縫つてすすむと、072狭い道路にあたつて、073種々の大蛇や毒蛇が横たはつてゐるのに出会うた。
074 盲目の使は大蛇も平気でその上をドンドン踏みわたつて行く。075また蝮がをつても狼が足元に噛みつきかかつても、076平気で歩いてゐる。077自分は眼が明いてゐるために、078大蛇や、079毒蛇や、080狼に眼がつき、081恐怖心がおこつて進むことを躊躇した。082しかしながら盲目の使がするとほり踏んで行けば、083別条はなからうと思ひ、084怖々踏んで行つた。085そのとき天の一方から誰いふとなく、
086『眼の見えざる者は幸なり』
088 それから一の峠の頂上に達して、089両人がそこで暫時休息した。090そのとき心に思つたのは……実にこの小さな眼の見えるほど苦痛な、091そして不幸なものはない。092自分は眼が明いてゐるために、093大蛇や狼を防がうとして、094色々と心配をするが、095盲目はなんとも思はず、096平気で進んで行く。097この小さな眼を開くことは要らぬことだ。098世界のことは、099眼を明けぬ方がよい。100たとへ見えても見えぬふりする方が無難である……と覚ることを得た。
101 すると盲目の使は、102諄々と地の高天原における種々の様子を話してくれた。103かつて自分の経つてきた幽界や、104いまだ探険をせぬ神界の話もした。105そこで、
106『貴殿はどうしてこんなに詳しいことが解るか』
108『あなたをお迎へに来て、109お目にかかつた時、110あなたから光が現はれて、111今まで解らなかつたのが、112幽界の方は何もかも明瞭になつて、113非常に心が勇んできました』
115 さうしてその使の言ふには、
116『実は大神の命により、117あなたを迎へに来たのであるが、118地の高天原は今悪魔が、119種々と邪魔をして黒雲に包まれてをるので、120ひそかに隠れて来たやうな次第であります。121そこで神様も単独では行かず、122あなたに来てもらうて、123地の高天原を明らかにすべく御用してもらはねばならぬ。124あなたも洵に御苦労なことです』
125といふ。126自分はこの山の峠まで引つぱり出されて、127かういふことを聞かされたのである。128前回の探険に懲りてをるからと言つて、129今さら女々しく引還すこともならず、130行けば大変な艱難に会ふことは知れてゐるが、131氏神や、132神界の命令であるから、133どこまでも奉ぜなければならぬと思ひ、134勇気を鼓して地の高天原へゆくことにした。
135 案の定、136高天原の聖地に来てみると、137自分の来ることを悪魔が先に知つて、138非常に狼狽し、139反抗運動の真最中であつた。140丁度自分は、141火の燃えてゐる中へ飛びこむ心地がした。
142(大正一〇・一〇・一九 旧九・一九 広瀬義邦録)