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第13巻(子の巻)
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第58巻(酉の巻)
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第61巻(子の巻)
第62巻(丑の巻)
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第64巻(卯の巻)上
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第65巻(辰の巻)
第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
第79巻(午の巻)
第80巻(未の巻)
第81巻(申の巻)
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第1巻(子の巻)
序
基本宣伝歌
発端
第1篇 幽界の探険
01 霊山修業
〔1〕
02 業の意義
〔2〕
03 現界の苦行
〔3〕
04 現実的苦行
〔4〕
05 霊界の修業
〔5〕
06 八衢の光景
〔6〕
07 幽庁の審判
〔7〕
08 女神の出現
〔8〕
09 雑草の原野
〔9〕
10 二段目の水獄
〔10〕
11 大幣の霊験
〔11〕
第2篇 幽界より神界へ
12 顕幽一致
〔12〕
13 天使の来迎
〔13〕
14 神界旅行(一)
〔14〕
15 神界旅行(二)
〔15〕
16 神界旅行(三)
〔16〕
17 神界旅行(四)
〔17〕
18 霊界の情勢
〔18〕
19 盲目の神使
〔19〕
第3篇 天地の剖判
20 日地月の発生
〔20〕
21 大地の修理固成
〔21〕
22 国祖御隠退の御因縁
〔22〕
23 黄金の大橋
〔23〕
24 神世開基と神息統合
〔24〕
第4篇 竜宮占領戦
25 武蔵彦一派の悪計
〔25〕
26 魔軍の敗戦
〔26〕
27 竜宮城の死守
〔27〕
28 崑崙山の戦闘
〔28〕
29 天津神の神算鬼謀
〔29〕
30 黄河畔の戦闘
〔30〕
31 九山八海
〔31〕
32 三個の宝珠
〔32〕
33 エデンの焼尽
〔33〕
34 シナイ山の戦闘
〔34〕
35 一輪の秘密
〔35〕
36 一輪の仕組
〔36〕
第5篇 御玉の争奪
37 顕国の御玉
〔37〕
38 黄金水の精
〔38〕
39 白玉の行衛
〔39〕
40 黒玉の行衛
〔40〕
41 八尋殿の酒宴(一)
〔41〕
42 八尋殿の酒宴(二)
〔42〕
43 丹頂の鶴
〔43〕
44 緑毛の亀
〔44〕
45 黄玉の行衛
〔45〕
46 一島の一松
〔46〕
47 エデン城塞陥落
〔47〕
48 鬼熊の終焉
〔48〕
49 バイカル湖の出現
〔49〕
50 死海の出現
〔50〕
附記 霊界物語について
余白歌
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第四四章
緑毛
(
りよくまう
)
の
亀
(
かめ
)
〔四四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第1巻 霊主体従 子の巻
篇:
第5篇 御玉の争奪
よみ(新仮名遣い):
みたまのそうだつ
章:
第44章 緑毛の亀
よみ(新仮名遣い):
りょくもうのかめ
通し章番号:
44
口述日:
1921(大正10)年10月25日(旧09月25日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1921(大正10)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
緑の玉を死守していた亀若は、竹熊の宴席で拷問にあい、それが元で健康を害して帰幽してしまった。妻の亀姫は悲しんで百日の間、喪に服した。
このとき、ガリラヤの海から異様な動物が現れ、美しい神人に化けると、亀若の喪を弔いにやってきた。これは高津彦という邪神である。神人に化けた高津彦の容貌は、亀若そっくりであった。驚く亀姫に高津彦は、自分は亀若の再生である、と騙して夫婦となってしまった。
あるとき、高津彦はにわかに病となり、床に伏してしまった。亀姫は悲しんで看病していたが、そこに竜宮城の神と名乗って、高倉彦という神人が見舞いに訪れた。高倉彦の容貌も亀若に酷似していた。
そして高倉彦は、自分は亀若の双子の兄弟だが、父母が世間をはばかって、今まで隠していたところ、亀若が病床にあると聞いて見舞いに訪れたのだ、と語った。そして、家宝の緑の玉こそ、亀若の病を癒す神宝である、と騙った。
亀姫が緑の玉を取り出して高台に安置するや否や、黒竜が玉を掴んで西方の天に去ってしまった。これまで夫亀若の再生と思っていた高津彦は大竜に変じ、また高倉彦はガリラヤのすっぽんに還元して、姿をくらましてしまった。
騙されたことを知った亀姫は悔しがり、その精魂は緑毛の亀となって竜宮海に飛び込んだ。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2019-06-26 18:02:21
OBC :
rm0144
愛善世界社版:
236頁
八幡書店版:
第1輯 130頁
修補版:
校定版:
235頁
普及版:
121頁
初版:
ページ備考:
001
亀若
(
かめわか
)
は
緑
(
みどり
)
の
玉
(
たま
)
を
生命
(
いのち
)
にかけて
死守
(
ししゆ
)
してゐた。
002
いかなる
名誉欲
(
めいよよく
)
も、
003
物質欲
(
ぶつしつよく
)
も
眼中
(
がんちゆう
)
におかず、
004
ただこの
玉
(
たま
)
のみを
保護
(
ほご
)
することに
心魂
(
しんこん
)
を
凝
(
こ
)
らしてゐた。
005
しかるに
亀若
(
かめわか
)
は
八尋殿
(
やひろどの
)
の
酒宴
(
しゆえん
)
のみぎり
竹熊
(
たけくま
)
の
奸計
(
かんけい
)
にかかり、
006
毒虫
(
どくむし
)
を
多
(
おほ
)
く
腹中
(
ふくちゆう
)
に
捻込
(
ねぢこ
)
まれたのが
原因
(
げんいん
)
をなして、
007
身体
(
しんたい
)
の
健康
(
けんかう
)
を
害
(
がい
)
し、
008
病床
(
びやうしやう
)
に
臥
(
ふ
)
し
全身
(
ぜんしん
)
黄緑色
(
わうりよくしよく
)
に
変
(
へん
)
じ、
009
つひに
帰幽
(
きいう
)
した。
010
亀若
(
かめわか
)
の
妻
(
つま
)
亀姫
(
かめひめ
)
は、
011
天地
(
てんち
)
に
慟哭
(
どうこく
)
し、
012
足辺
(
あしべ
)
に
腹這
(
はらば
)
ひ
頭辺
(
かしらべ
)
に
這
(
は
)
ひまはり、
013
涕泣
(
ていきふ
)
日
(
ひ
)
を
久
(
ひさ
)
しうした。
014
その
悲
(
かな
)
しみ
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
ぶ
声
(
こゑ
)
は
風
(
かぜ
)
のまにまに
四方
(
しはう
)
にひびき、
015
つひには
悲風
(
ひふう
)
惨雨
(
さんう
)
の
絶間
(
たえま
)
なきにいたつた。
016
この
間
(
あひだ
)
およそ
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
百夜
(
ひやくよ
)
に
及
(
およ
)
んだ。
017
この
時
(
とき
)
ガリラヤの
海
(
うみ
)
より
雲気
(
うんき
)
立
(
た
)
ち
登
(
のぼ
)
り、
018
妖雲
(
えううん
)
を
巻
(
ま
)
きおこして
一種
(
いつしゆ
)
異様
(
いやう
)
の
動物
(
どうぶつ
)
現
(
あら
)
はれ、
019
竜宮城
(
りゆうぐうじやう
)
近
(
ちか
)
く
進
(
すす
)
んできた。
020
異様
(
いやう
)
の
動物
(
どうぶつ
)
は、
021
たちまち
美
(
うる
)
はしき
神人
(
しんじん
)
と
化
(
くわ
)
した。
022
そして
亀姫
(
かめひめ
)
の
家
(
いへ
)
に
亀若
(
かめわか
)
の
喪
(
も
)
を
弔
(
とむら
)
うた。
023
この
者
(
もの
)
は
其
(
そ
)
の
名
(
な
)
を
高津彦
(
たかつひこ
)
といふ。
024
亀姫
(
かめひめ
)
は
高津彦
(
たかつひこ
)
を
見
(
み
)
て
大
(
おほ
)
いに
喜
(
よろこ
)
び、
025
その
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて
一間
(
ひとま
)
に
導
(
みちび
)
き、
026
いろいろの
酒肴
(
さけさかな
)
を
出
(
だ
)
して
饗応
(
きやうおう
)
し、
027
かつ、
028
『
貴下
(
あなた
)
はわが
最
(
もつと
)
も
愛
(
あい
)
する
亀若
(
かめわか
)
ならずや』
029
と
訝
(
いぶ
)
かり
問
(
と
)
ふた。
030
高津彦
(
たかつひこ
)
は、
031
『われは
亀若
(
かめわか
)
なり、
032
決
(
けつ
)
して
死
(
し
)
したるに
非
(
あら
)
ず、
033
毒
(
どく
)
の
廻
(
まは
)
りし
体
(
からだ
)
を
捨
(
す
)
て、
034
新
(
あらた
)
に
健全
(
けんぜん
)
なる
体
(
からだ
)
を
持
(
も
)
ち、
035
汝
(
なれ
)
の
前
(
まへ
)
にきたりて
偕老
(
かいらう
)
同穴
(
どうけつ
)
の
契
(
ちぎり
)
を
全
(
まつた
)
くせむとすればなり』
036
と
言葉
(
ことば
)
たくみに
物語
(
ものがた
)
つた。
037
亀姫
(
かめひめ
)
は
高津彦
(
たかつひこ
)
の
顔色
(
がんしよく
)
といひ、
038
容貌
(
ようばう
)
といひ、
039
言葉
(
ことば
)
の
色
(
いろ
)
といひ、
040
その
動作
(
どうさ
)
にいたるまで
亀若
(
かめわか
)
に
寸毫
(
すんがう
)
の
差
(
さ
)
なきを
見
(
み
)
て、
041
心底
(
しんてい
)
より
深
(
ふか
)
くこれを
信
(
しん
)
ずるにいたつた。
042
ここにふたりは
水
(
みづ
)
も
洩
(
もら
)
さぬ
仲
(
なか
)
のよき
夫婦
(
ふうふ
)
となつた。
043
亀姫
(
かめひめ
)
は
再生
(
さいせい
)
の
思
(
おも
)
ひをなし、
044
一旦
(
いつたん
)
長
(
なが
)
き
別
(
わか
)
れと
断念
(
だんねん
)
した
不運
(
ふうん
)
の
身
(
み
)
に、
045
夫
(
をつと
)
のふたたび
蘇生
(
そせい
)
しきたつて
鴛鴦
(
ゑんあう
)
の
契
(
ちぎり
)
を
結
(
むす
)
ぶは
如何
(
いか
)
なる
宿世
(
すぐせ
)
の
果報
(
くわはう
)
ぞと、
046
手
(
て
)
の
舞
(
ま
)
ひ
足
(
あし
)
の
踏
(
ふ
)
むところを
知
(
し
)
らなかつた。
047
夫婦
(
ふうふ
)
の
仲
(
なか
)
は
蜜
(
みつ
)
のごとく
漆
(
うるし
)
のごとく
親
(
した
)
しかつたが、
048
ふとしたことより
風邪
(
かぜ
)
のために
高津彦
(
たかつひこ
)
は
重
(
おも
)
い
病
(
やまひ
)
の
床
(
とこ
)
についた。
049
今
(
いま
)
まで
歓喜
(
くわんき
)
に
満
(
み
)
ちた
亀姫
(
かめひめ
)
の
胸
(
むね
)
は、
050
ふたたび
曇
(
くも
)
らざるを
得
(
え
)
なかつた。
051
手
(
て
)
を
替
(
か
)
へ
品
(
しな
)
を
換
(
か
)
へ
看病
(
かんびやう
)
に
尽
(
つく
)
した。
052
幾日
(
いくにち
)
たつても
何
(
なん
)
の
効
(
かう
)
も
見
(
み
)
えず、
053
病
(
やまひ
)
はだんだん
重
(
おも
)
るばかりである。
054
このとき
高津彦
(
たかつひこ
)
の
友
(
とも
)
の
高倉彦
(
たかくらひこ
)
きたりて
病床
(
びやうしやう
)
を
見舞
(
みま
)
ひ、
055
かつ
医療
(
いれう
)
の
法
(
はふ
)
をすすめた。
056
百草
(
ひやくさう
)
を
集
(
あつ
)
め
種々
(
しゆじゆ
)
の
医薬
(
いやく
)
をすすめた。
057
されど
病
(
やまひ
)
は
依然
(
いぜん
)
として
重
(
おも
)
るばかりである。
058
亀姫
(
かめひめ
)
の
胸
(
むね
)
は、
059
実
(
じつ
)
に
熱鉄
(
やきがね
)
を
当
(
あて
)
るごとくであつた。
060
不思議
(
ふしぎ
)
にも
高倉彦
(
たかくらひこ
)
の
容貌
(
ようばう
)
、
061
身長
(
しんちやう
)
、
062
言語
(
げんご
)
は、
063
亀若
(
かめわか
)
に
酷似
(
こくじ
)
してゐた。
064
ここに
亀姫
(
かめひめ
)
は、
065
その
真偽
(
しんぎ
)
に
迷
(
まよ
)
はざるを
得
(
え
)
なかつた。
066
そこで
亀姫
(
かめひめ
)
は、
067
かつ
驚
(
おどろ
)
き、
068
かつ
怪
(
あや
)
しみ、
069
『
貴下
(
あなた
)
はいづれより
来
(
き
)
ませしや』
070
といぶかり
問
(
と
)
ふた。
071
高倉彦
(
たかくらひこ
)
は、
072
『われは
竜宮城
(
りゆうぐうじやう
)
の
神司
(
かみ
)
にして、
073
亀若
(
かめわか
)
のふるくよりの
親
(
した
)
しかりし
美
(
うる
)
はしき
友
(
とも
)
なり』
074
と
答
(
こた
)
へた。
075
そこで
亀姫
(
かめひめ
)
は、
076
『
高倉彦
(
たかくらひこ
)
の
亀若
(
かめわか
)
に
酷似
(
こくじ
)
したまふは
如何
(
いか
)
なる
理由
(
りいう
)
ぞ』
077
と
反問
(
はんもん
)
した。
078
高倉彦
(
たかくらひこ
)
は
答
(
こた
)
へて、
079
『
実際
(
じつさい
)
吾
(
われ
)
は
亀若
(
かめわか
)
とは
双生児
(
ふたご
)
である、
080
されどわが
父母
(
ふぼ
)
は
世間
(
せけん
)
を
憚
(
はばか
)
り、
081
出産
(
しゆつさん
)
とともに
他
(
た
)
に
預
(
あづ
)
けたのである。
082
そして
亀若
(
かめわか
)
と
吾
(
われ
)
とは
此
(
こ
)
の
消息
(
せうそく
)
を
少
(
すこ
)
しも
知
(
し
)
らず、
083
心
(
こころ
)
の
親友
(
しんいう
)
として
幼少
(
えうせう
)
のころより
交
(
まじ
)
はつてゐた。
084
然
(
しか
)
るにある
事情
(
じじやう
)
より
吾
(
われ
)
はこの
事
(
こと
)
を
感知
(
かんち
)
せしが、
085
今
(
いま
)
ここに
病
(
や
)
みたまふ
亀若
(
かめわか
)
は、
086
この
真相
(
しんさう
)
を
御存
(
ごぞん
)
じないのである。
087
われは
骨肉
(
こつにく
)
の
情
(
じやう
)
に
惹
(
ひ
)
かれて、
088
同胞
(
どうはう
)
の
苦
(
くる
)
しみを
見
(
み
)
るに
忍
(
しの
)
びず、
089
いかにもしてこの
病
(
やまひ
)
を
恢復
(
くわいふく
)
せしめ
兄弟
(
きやうだい
)
睦
(
むつま
)
じく
神業
(
しんげふ
)
に
奉仕
(
ほうし
)
せむと
焦慮
(
せうりよ
)
し、
090
神務
(
しんむ
)
の
余暇
(
よか
)
を
得
(
え
)
て、
091
ここに
病床
(
びやうしやう
)
を
訪
(
たづ
)
ねたのである』
092
とはつきり
物語
(
ものがた
)
つたので、
093
亀姫
(
かめひめ
)
の
疑
(
うたが
)
ひは
全
(
まつた
)
く
氷解
(
ひやうかい
)
した。
094
高倉彦
(
たかくらひこ
)
は、
095
亀姫
(
かめひめ
)
の
信頼
(
しんらい
)
ますます
加
(
くは
)
はつてきた。
096
一方
(
いつぱう
)
亀若
(
かめわか
)
の
病気
(
びやうき
)
はだんだん
重
(
おも
)
るばかりである。
097
そこで
亀姫
(
かめひめ
)
はふたたび、
098
『
夫
(
をつと
)
の
病
(
やまひ
)
を
救
(
すく
)
ふ
妙術
(
めうじゆつ
)
はなきや』
099
と
面色
(
めんしよく
)
憂
(
うれ
)
ひを
含
(
ふく
)
んで
高倉彦
(
たかくらひこ
)
に
相談
(
さうだん
)
をした。
100
そのとき
高倉彦
(
たかくらひこ
)
は、
101
実
(
じつ
)
に
当惑
(
たうわく
)
の
面持
(
おももち
)
にて、
102
『ああ
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
』
103
と
長歎息
(
ちやうたんそく
)
をなし、
104
腕
(
うで
)
を
組
(
く
)
んで
頭
(
あたま
)
を
垂
(
た
)
れしばしは
何
(
なん
)
の
返答
(
へんたふ
)
もなかつた。
105
ややあつて
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
したやうに
高倉彦
(
たかくらひこ
)
は
喜色
(
きしよく
)
を
満面
(
まんめん
)
にたたへて、
106
『その
方法
(
はうはふ
)
たしかにあり』
107
と
飛
(
と
)
び
立
(
た
)
つやうな
態度
(
たいど
)
をしながら
答
(
こた
)
へた。
108
亀姫
(
かめひめ
)
は
顔色
(
がんしよく
)
にはかに
輝
(
かがや
)
き、
109
驚喜
(
きやうき
)
して、
110
『いかなる
神法
(
しんぱふ
)
なりや
聞
(
き
)
かま
欲
(
ほ
)
し』
111
と
高倉彦
(
たかくらひこ
)
の
返辞
(
へんじ
)
をもどかしがつて
待
(
ま
)
つた。
112
高倉彦
(
たかくらひこ
)
はわざと
落着
(
おちつ
)
いて
手
(
て
)
を
洗
(
あら
)
ひ
口
(
くち
)
嗽
(
すす
)
ぎ、
113
天
(
てん
)
に
向
(
むか
)
つて
永
(
なが
)
らくのあひだ
合掌
(
がつしやう
)
し、
114
何事
(
なにごと
)
か
神勅
(
しんちよく
)
を
請
(
こ
)
ふもののやうであつた。
115
病床
(
びやうしやう
)
にある
亀若
(
かめわか
)
はしきりに
苦悶
(
くもん
)
の
声
(
こゑ
)
を
発
(
はつ
)
し、
116
既
(
すで
)
に
断末魔
(
だんまつま
)
の
容態
(
ようだい
)
である。
117
亀姫
(
かめひめ
)
の
胸
(
むね
)
は
矢
(
や
)
も
楯
(
たて
)
もたまらぬやうになつた。
118
たとへ
自分
(
じぶん
)
の
生命
(
いのち
)
は
失
(
うしな
)
ふとも
最愛
(
さいあい
)
の
夫
(
をつと
)
、
119
亀若
(
かめわか
)
の
生命
(
いのち
)
を
救
(
すく
)
はねばおかぬといふ
決心
(
けつしん
)
である。
120
一方
(
いつぱう
)
高倉彦
(
たかくらひこ
)
の
様子
(
やうす
)
いかにと
見
(
み
)
れば
悠々
(
いういう
)
として
天
(
てん
)
に
祈
(
いの
)
り、
121
いささかも
急
(
いそ
)
ぐ
様子
(
やうす
)
がない。
122
高倉彦
(
たかくらひこ
)
はおもむろに
祈
(
いの
)
りを
捧
(
ささ
)
げた
後
(
のち
)
、
123
室内
(
しつない
)
に
這入
(
はい
)
つてきた。
124
このとき
亀姫
(
かめひめ
)
は
渇
(
かは
)
きたる
者
(
もの
)
の
水
(
みづ
)
を
求
(
もと
)
むるごとくに、
125
高倉彦
(
たかくらひこ
)
の
教示
(
けうじ
)
や
如何
(
いか
)
にと
待
(
ま
)
ち
詫
(
わ
)
びた。
126
高倉彦
(
たかくらひこ
)
はこの
様子
(
やうす
)
を
見
(
み
)
て
心中
(
しんちゆう
)
に
謀計
(
ぼうけい
)
のあたれるを
打
(
う
)
ち
喜
(
よろこ
)
び、
127
外知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
にて
左
(
さ
)
も
勿体
(
もつたい
)
らしく
言葉
(
ことば
)
をかまへていふ、
128
『
当家
(
たうけ
)
には
貴重
(
きちよう
)
なる
緑色
(
みどりいろ
)
の
玉
(
たま
)
が
秘蔵
(
ひざう
)
されてある。
129
この
玉
(
たま
)
を
取
(
と
)
りだして
月
(
つき
)
の
夜
(
よ
)
に
高台
(
たかだい
)
を
設
(
まう
)
けてこれを
奉安
(
ほうあん
)
し、
130
月
(
つき
)
の
水
(
みづ
)
をこの
玉
(
たま
)
に
凝集
(
ぎようしふ
)
せしめ、
131
その
玉
(
たま
)
より
滴
(
したた
)
る
一滴
(
いつてき
)
の
水
(
みづ
)
を
亀若
(
かめわか
)
に
呑
(
の
)
ましめなば、
132
病
(
やまひ
)
癒
(
い
)
えなむとの
月読
(
つきよみの
)
神
(
かみ
)
の
神勅
(
しんちよく
)
なり』
133
と
誠
(
まこと
)
しやかに
教示
(
けうじ
)
した。
134
亀姫
(
かめひめ
)
は
天
(
てん
)
の
佑
(
たす
)
けと
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
んで
直
(
ただ
)
ちに
高台
(
たかだい
)
を
造
(
つく
)
り、
135
その
玉
(
たま
)
を
中央
(
ちゆうあう
)
に
安置
(
あんち
)
した。
136
その
刹那
(
せつな
)
一天
(
いつてん
)
たちまち
掻
(
か
)
き
曇
(
くも
)
り、
137
黒雲
(
こくうん
)
濛々
(
もうもう
)
として
天地
(
てんち
)
をつつみ、
138
咫尺
(
しせき
)
を
弁
(
べん
)
ぜざるにいたつた。
139
時
(
とき
)
しも
雲中
(
うんちゆう
)
に
黒竜
(
こくりゆう
)
現
(
あら
)
はれ、
140
その
玉
(
たま
)
を
掴
(
つか
)
みて
西方
(
せいはう
)
の
天
(
てん
)
に
姿
(
すがた
)
をかくした。
141
数日
(
すうじつ
)
を
経
(
へ
)
てこの
玉
(
たま
)
は、
142
竹熊
(
たけくま
)
の
手
(
て
)
に
入
(
い
)
つたのである。
143
今
(
いま
)
まで
夫
(
をつと
)
と
思
(
おも
)
ふてゐた
偽
(
にせ
)
の
亀若
(
かめわか
)
は、
144
にはかに
大竜
(
だいりゆう
)
と
変
(
へん
)
じた。
145
また
高倉彦
(
たかくらひこ
)
はガリラヤの
大
(
だい
)
なる
竈
(
すつぽん
)
に
還元
(
くわんげん
)
し、
146
亀姫
(
かめひめ
)
を
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
して
雲
(
くも
)
をおこし
姿
(
すがた
)
をかくした。
147
亀姫
(
かめひめ
)
は
地団駄
(
ぢだんだ
)
踏
(
ふ
)
んで
侮
(
くや
)
しがり、
148
精魂
(
せいこん
)
凝
(
こ
)
つて
遂
(
つひ
)
に
緑毛
(
りよくまう
)
の
亀
(
かめ
)
と
変
(
へん
)
じ
竜宮海
(
りゆうぐうかい
)
に
飛
(
と
)
び
入
(
い
)
つたのである。
149
亀
(
かめ
)
は
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
の
齢
(
よはひ
)
を
保
(
たも
)
つといふ。
150
亀若
(
かめわか
)
は
八尋殿
(
やひろどの
)
の
宴会
(
えんくわい
)
において
毒虫
(
どくむし
)
を
食
(
く
)
はせられ、
151
それがために
短命
(
たんめい
)
にして
世
(
よ
)
を
去
(
さ
)
つた。
152
それから
亀姫
(
かめひめ
)
の
霊
(
れい
)
より
出
(
い
)
でし
亀
(
かめ
)
は、
153
衛生
(
えいせい
)
に
注意
(
ちうい
)
して
毒虫
(
どくむし
)
を
食
(
く
)
はず、
154
長寿
(
ちやうじゆ
)
を
保
(
たも
)
つことになつた。
155
(
大正一〇・一〇・二五
旧九・二五
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