盲目の神使に迎えられて地の高天原に着くと、大地の主宰神である国常立大神と、稚姫君命が現れた。自分はこの両神から天眼鏡を賜って、神界探検の命を拝受したのである。
眼前の光景が変じて、すばらしく高い山がそびえ立ち、山にはケーブルカーのようなものが架かっていた。山に登ろうと踏み込むと、自分の体は何物かに引き上げられるようにすうっと昇っていった。
これは仏教で言うところの須弥仙山であり、宇宙の中心に無辺の高さで立っているのだが、霊界の山であって物質的な山ではない。自分も、霊で登ったのである。
須弥仙山の頂上に立って、天眼鏡で八方を眺めた。すると、茫々たる宇宙の混沌の中に、ひとつの丸い塊ができるのが見えた。鞠のような形で、周辺には泥水が漂っている。
みるみるその丸い塊は膨大になり、宇宙全体に広がるかと思われるほどであった。眼も届かないほどの広がりに達すると、球形の真ん中に鮮やかな金色をしたひとつの円柱が立っていた。
円柱はしばらくすると、自然に左旋運動を始めた。周辺の泥は、円柱の回転につれて渦巻きを描いた。渦巻きは次第に外側へと大きな輪に広がっていった。
はじめは直立して緩やかに回転していた円柱は、その速度が加わって行くにつれて傾斜していき、目にもとまらない速さで回転し始めた。
すると大きな丸い球の中から、暗黒色の小さな塊が、振り放たれたようにポツポツと飛び出して、宇宙全体に散乱した。それは、無数の光のない黒い星となって、あるものは近く、あるものは遠く位置して、左に旋回しているように見える。
後方に太陽が輝き始めるとともに、星たちはいっせいに輝き始めた。
一方、金色の円柱は竜体に変化した。そして、丸い球体の大地の上を東西南北に馳せめぐり始めた。すると竜体の腹、口、そして全身から、大小無数の竜体が生まれ出た。
金色の竜体と、それから生まれた種々の色彩を持った大小無数の竜体は、球の地上の各所を泳ぎ始めた。もっとも大きな竜体の泳ぐ波動で、泥の部分は次第に固くなり始め、水の部分は希薄となり、水蒸気が昇っていった。
竜体が尾を振り回すごとに、泥に波の形ができ、大きな竜体は大山脈を、中小の竜体はそれぞれ相応の大きさの山脈が形造られた。また低いところに水が集まり、自然に海も出来てきた。
このもっとも大いなる御竜体を大国常立命と称え奉ることを知った。
宇宙はそのとき、朧月夜の少し暗い状態であったが、海原の真ん中に忽然として銀色の柱が突出してきた。銀の柱は右回りに旋回し、柱の各所からさまざまな種が飛び散って山野河海のいたるところに撒き散らされた。しかしまだこのときは、生き物の類は一切発生していない。
銀の柱がたちまち倒れたと思う見る間に、銀色の大きな竜体に変じ、海上を進み始めた。この銀色の竜神が、坤金神と申し上げるのである。
金の竜体である国祖大国常立命と、坤金神は双方から顔を向き合わせて何事かをしめし合わされた様子であった。金色の竜体は左へ、銀色の竜体は右へ旋回し始めると、地上は恐ろしい音響を発して振動し、大地はその振動によって非常な光輝を発射してきた。
このとき、金色の竜体の口からは、大きな赤い色の玉が大音響とともに飛び出して、天に昇って太陽となった。
銀色の竜体は口から霧のような清水を噴出し、水は天地の間にわたした虹の橋のような形になって、その上を白色の球体が上っていく。この白色の球体が太陰(月)となって、虹のような尾を垂れて地上の水を吸い上げた。すると地上の水はその容量を減じた。
金竜が天に向かって息吹を放つと、その形は虹のようになった。すると太陽はにわかに光が強くなり、熱を地上に放射し始めた。
水が引いてくると、柔らかい山野は次第に固まり、銀竜がまいた種が芽を出してきた。一番には山に松が生え、原野に竹が生え、あちこちには梅が生え始めた。ついでその他の木々が生じてきた。山々はにわかに青々として美しい景色を呈してきた。
地上に樹木が青々と生え始めると、今まで赤褐色であった天は、青く藍色に澄み渡ってきた。そして、にごって黄色じみていた海水も、天の色を映すように青くなってきた。
地上が造られると、元祖の神様も竜体である必要はなくなり、荘厳尊貴な人間の姿に変化された。これは肉体を持った人間でなく、霊体のお姿である。
このとき太陽の世界に伊邪那岐命が霊体の人体姿として現れた。伊邪那岐命は天に昇って撞の大神となり、天上の主宰神となりたもうた。
白色の竜体から発生された一番力のある竜神は、男神として現れ給うた。容貌うるわしく、色白く、黒髪は地上に引くほど長く垂れ、髭は腹まで伸び、大英雄の素質を備えていた。この男神を素盞嗚大神と申し上げる。素盞嗚大神は白い光を発すると、天に昇って月界へとお上りになった。これを月界の主宰神で月夜見尊と申し上げるのである。
大国常立命は、太陽と太陰の主宰神が決まったので、ご自身は地上の神界を主宰したまうことになった。須佐之男大神は、地上物質界の主宰となった。