第二〇章 日地月の発生〔二〇〕
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あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
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OBC :rm0120
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001 盲目の神使に迎へられて、002自分は地の高天原へたどりついたが、003自分の眼の前には、004何時のまにか、005大地の主宰神にまします国常立大神と、006稚姫君命が出御遊ばしたまうた。007自分は仰せのまにまにこの両神より、008貴重なる天眼鏡を賜はり、009いよいよ神界を探険すべき大命を拝受したのである。
010 忽ち眼前の光景は見るみる変じて、011すばらしい高い山が、012雲表に聳えたつてゐる。013その山には索線車のやうなものが架つてゐた。014自分は登らうかと思つて、015一歩麓の山路に足を踏みこむと、016不思議や、017五体は何者かに引上げらるるやうな心持に、018直立したままスウと昇騰してゆく。
019 これこそ仏者のいはゆる須弥仙山で、020宇宙の中心に無辺の高さをもつて屹立してゐる。021それは決して、022肉眼にて見うる種類の、023現実的の山ではなくして、024全く霊界の山であるから、025自分とても霊で上つたので、026決して現体で上つたのではない。
027 自分は須弥仙山の頂上に立つて、028大神より賜はつた天眼鏡を取り出して、029八方を眺めはじめた。030すると茫々たる宇宙の渾沌たる中に、031どこともなしに一つの球い凝塊ができるのが見える。
032 それは丁度毬のやうな形で、033周辺には一杯に泥水が漂うてゐる。034見るまにその球い凝塊は膨大して、035宇宙全体に拡がるかと思はれた。036やがて眼もとどかぬ拡がりに到達したが、037球形の真中には、038鮮かな金色をした一つの円柱が立つてゐた。
039 円柱はしばらくすると、040自然に左旋運動をはじめる。041周辺に漂ふ泥は、042円柱の回転につれて渦巻を描いてゐた。043その渦巻は次第に外周へ向けて、044大きな輪が拡がつていつた。045はじめは緩やかに直立して回転してゐた円柱は、046その速度を加へきたるにつれ、047次第に傾斜の度を増しながら、048視角に触れぬやうな速さで、049回転しはじめた。
050 すると、051大きな円い球の中より、052暗黒色の小塊体が振り放たるるやうにポツポツと飛びだして、053宇宙全体に散乱する。054観ればそれが無数の光のない黒い星辰と化つて、055或ひは近く、056或ひは遠く位置を占めて左旋するやうに見える。057後方に太陽が輝きはじめるとともに、058それらの諸星は皆一斉に輝きだした。
059 その金の円柱は、060たちまち竜体と変化して、061その球い大地の上を東西南北に馳せめぐりはじめた。062さうしてその竜体の腹から、063口から、064また全身からも、065大小無数の竜体が生れいでた。
066 金色の竜体と、067それから生れいでた種々の色彩をもつた大小無数の竜体は、068地上の各所を泳ぎはじめた。069もつとも大きな竜体の泳ぐ波動で、070泥の部分は次第に固くなりはじめ、071水の部分は稀薄となり、072しかして水蒸気は昇騰する。073そのとき竜体が尾を振り廻すごとに、074その泥に波の形ができる。075もつとも大きな竜体の通つた所は大山脈が形造られ、076中小種々の竜体の通つた所は、077またそれ相応の山脈が形造られた。078低き所には水が集り、079かくして海もまた自然にできることになつた。080この最も大いなる御竜体を、081大国常立命と称へ奉ることを自分は知つた。
082 宇宙はその時、083朧月夜の少し暗い加減のやうな状態であつたが、084海原の真中と思はるる所に、085忽然として銀色の柱が突出してきた。086その高さは非常に高い。087それが忽ち右旋りに回転をはじめた。088その旋回につれて柱の各所から種々の種物が飛び散るやうに現はれて、089山野河海一切のところに撒き散らされた。090しかしまだその時は人類は勿論、091草木、092禽獣、093虫魚の類は何物も発生してはゐなかつた。
094 たちまち銀の柱が横様に倒れたと見るまに、095銀色の大きな竜体に変じてゐる。096その竜体は海上を西から東へと、097泳いで進みだした。098この銀色の竜神が坤金神と申すのである。
099 また東からは国祖大国常立命が、100金色の大きな竜体を現じて、101固まりかけた地上を馳せてこられる。102両つの御竜体は、103雙方より顔を向き合はして、104何ごとかを諜しあはされたやうな様子である。105しばらくの後金色の竜体は左へ旋回しはじめ、106銀色の竜体はまた右へ旋回し始められた。107そのため地上は恐ろしい音響を発して震動し、108大地はその震動によつて、109非常な光輝を発射してきた。
110 このとき金色の竜体の口からは、111大なる赤き色の玉が大音響と共に飛びだして、112まもなく天へ騰つて太陽となつた。113銀色の竜体はと見れば、114口から霧のやうな清水を噴きだし、115間もなく水は天地の間にわたした虹の橋のやうな形になつて、116その上を白色の球体が騰つてゆく。117このとき白色の球体は太陰となり、118虹のやうな尾を垂れて、119地上の水を吸ひあげる。120地上の水は見るまに、121次第にその容量を減じてくる。
122 金竜は天に向つて息吹を放つ。123その形もまた虹の橋をかけたやうに見えてゐる。124すると太陽はにはかに光を強くし、125熱を地上に放射しはじめた。
126 水は漸く減いてきたが、127山野は搗たての団子か餅のやうに柔かいものであつた。128それも次第に固まつてくると、129前に播かれた種は、130そろそろ芽を出しはじめる。131一番に山には松が生え、132原野には竹が生え、133また彼方こなたに梅が生えだした。
134 次いで杉、135桧、136槙などいふ木が、137山や原野のところどころに生じた。138つぎに一切の種物は芽を吹き、139今までまるで土塊で作つた炮烙をふせたやうな山が、140にはかに青々として、141美しい景色を呈してくる。
142 地上が青々と樹木が生え始めるとともに、143今まで濁つて赤褐色であつた天は、144青く藍色に澄みわたつてきた。145さうして濁りを帯びて黄ずんでゐた海原の水は、146天の色を映すかのやうに青くなつてきた。
147 地上がかうして造られてしまふと、148元祖の神様も、149もう御竜体をお有ちになる必要がなくなられたわけである。150それで金の竜体から発生せられた、151大きな剣膚の厳めしい角の多い一種の竜神は、152人体化して、153荘厳尊貴にして立派な人間の姿に変化せられた。154これはまだ本当の現体の人間姿ではなくして、155霊体の人間姿であつた。
156 このとき、157太陽の世界にては、158伊邪那岐命がまた霊体の人体姿と現ぜられて、159その神をさし招かれる。160そこで荘厳尊貴なる、161かの立派な大神は、162天に上つて撞の大神とおなり遊ばし、163天上の主宰神となりたまうた。
164 白色の竜体から発生された一番力ある竜神は、165また人格化して男神と現はれたまうた。166この神は非常に容貌美はしく、167色白くして大英雄の素質を備へてをられた。168その黒い頭髪は、169地上に引くほど長く垂れ、170髯は腹まで伸びてゐる。171この男神を素盞嗚大神と申し上げる。
172 自分はその男神の神々しい容姿に打たれて眺めてゐると、173その御身体から真白の光が現はれて、174天に冲して月界へお上りになつてしまつた。175これを月界の主宰神で月夜見尊と申し上げるのである。176そこで大国常立命は、177太陽、178太陰の主宰神が決つたので、179御自身は地上の神界を御主宰したまふことになり、180須佐之男大神は、181地上物質界の主宰となり給うたのである。
182(大正一〇・一〇・二〇 旧九・二〇 谷口正治録)