第一三章 神の述懐歌(一)〔一八四四〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第73巻 天祥地瑞 子の巻
篇:第1篇 紫微天界
よみ(新仮名遣い):しびてんかい
章:第13章 神の述懐歌(一)
よみ(新仮名遣い):かみのじゅつかいか
通し章番号:1844
口述日:1933(昭和8)年10月11日(旧08月22日)
口述場所:水明閣
筆録者:森良仁
校正日:
校正場所:
初版発行日:1933(昭和8)年11月22日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:太元顕津男の神は、御霊を月界にとどめ、肉体は高地秀の宮に仕えて神の経綸を遂行していたが、厳の御霊の教えを誤って信じた凡神は、種々あらぬことを言いふらして顕津男の神を力限りに妨げた。
太元顕津男の神は高地秀の峰に登り、自分が救おうとしている神々から救いの業を妨げられ、大神の経綸を果たせないでいる苦悶の心を、述懐の歌に歌った。
また顕津男の神に仕える八十柱の比女神たちも、いたずらに時を過ごし老い去り、その間にも世はますます曇りすさんで、天界も邪神のために収拾がつかない状態になってしまった。
顕津男の神に側近く仕える八柱の比女神たちもまた、顕津男の神に対しての述懐を三十一文字の歌に歌い、顕津男と歌を交わした。
寿々子比女、朝香比女、宇都子比女、梅咲比女、花子比女らは、凡神らの妨げによって顕津男の神との契りがずっとできないでいることを嘆き、顕津男を責めながらも、顕津男の神への思慕の念を歌い、妨害を打ち破るよう顕津男を励ます。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7313
愛善世界社版:
八幡書店版:第13輯 56頁
修補版:
校定版:94頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 太元顕津男の神は太陰を機関として、002御霊を月界に止めて其肉体は高地秀の宮に朝な夕なに仕へまし、003神の経綸を行はむとして、004彼方此方に教司を分配りて天界の経綸に仕へ奉れども、005厳の御霊の御教を誤信せる凡神は個神的小乗教に傾く神のみ多くして、006国生み神生みなる天界経綸の御神業を悟らず、007種々のあらぬことのみ言ひ触らして力限りに妨ぐるぞ是非もなき。008太元顕津男の神は高地秀の峰に登らせ給ひ、009天を拝し地を拝し述懐を謡ひ給ふ。
010『主の神の依さしはおろそかならねども
011手を下すべき余地もなきかな
012国を生み神生み万のものを生む
013我神業は果し得ざるか
014主の神の神宣畏し国魂の
015神生まばやと思ふ朝夕
016我にして怪しき心持たねども
017百神達はわが道なみする
018ゆとりなき心を持てる凡神の
020凡神の心に従ふ我なれば
022凡神の心に叶へば主の神の
023神慮に合はず我如何にせむ
024主の神の大経綸を知らずして
025我を悪しさまに言ふぞうたてき
026主の神の心は深く又広し
027小さき神の如何で悟らむ
028凡神は浜の真砂の数の如
029多く居坐せば詮術もなし
030主の神の御心覚る敏き神
031少き神世の経綸は苦し
032遠近に御樋代神は配りあれど
033相見むよしも無き身なりけり
034いすくはし神を生まむと朝な夕な
036主の神の造り給ひし天界の
037清明真悟の神ぞすくなき
038主の神の依さしを如何に果さむと
039我は久しく艱みけるかな
040皇神の依さし給ひしくはし女も
042御依さしに反くと思へど天界の
043乱れ思ひてためらふ我なり』
044 主の神が顕津男の神に天界経綸の為め授け給ひし八十の比女神は、045徒らに神命を待ちつつ長き年月を経給ひにける。046とりわけ側近く仕へ奉れる八柱の比女神も、047凡神の囁き余り強きに怖ぢ給ひて空しく神業を放棄し、048只時の到るを待ち給ふのみ。049終には老い去り給ひて神業を果し得ず、050世は益々曇らひ荒びて、051さしもの天界も日に月に邪神蔓延し、052収拾すべからざるに至れるこそ是非なけれ。
053 顕津男の神は大勇猛心を発揮し、054其神業を敢行せむと、055村肝の心の駒を立直し給ひしこと幾度なりしか、056されど終には百神の雄猛びに妨げられて、057遂行し給はざりしこそ永劫の遺憾なりける。058八柱の御側近く仕へ奉る比女神は、059顕津男の神に対し述懐を述べ給ふ。060其の御歌、
061『主の神の御霊を受けし寿々子比女の
062心しらずやあが主の岐美は
063結ぼれし心を解かむ術もなし
064神業に仕ふる暇にしなければ
065天界の穢れを水に寿々子比女
066深き流れに落ち入りにける
067天界はさやけく広し曇りたる
069玉の緒の生命の限り仕へむと
070思ふ誠を岐美は汲まずや
071吾心淋しくなりぬ朝夕を
072御側に仕へて詮術なければ
073朝夕を岐美に仕ふる身ながらも
074夢うつつなる御霊の吾なり
075夢かあらず顕かあらず幻か
076まぼろしならぬ岐美が神姿
077高地秀の宮に朝夕祈りつつ
079大神の依さし給ひし此月日
081主の神の大御心を汲み奉り
082岐美の御旨を悟りては泣く
083泣くさへも自由にならぬ吾身なり
084神にある身は殊更つらし』
085 顕津男の神は、086之に答へて謡ひ給はく、
087『比女神の心汲まぬにあらねども
088時到るまで忍びて待ちませ
089吾とても木石ならぬ身にしあれば
090汝の悲しき心は知れり』
091 寿々子比女の神は謡ひ給ふ。
092『斯くならば束の間さへも忍び得じ
093岐美が心の弱きをかなしむ
094天地に憚る事のあるべきや
095主の大神の依さしなりせば』
096顕津男の神『兎も角も暫しの間待たれたし
097我にも春の備へありせば』
098 斯く互に歌を取交し時の到るを待ち給ひぬ。099朝香比女の神も亦御歌詠まし給はく、
100『岐美思ふ心は暗にあらねども
101思ひにもゆる朝香比女吾は
102あさからぬ朝香の比女の胸の火を
103消し止め給へ瑞の大神
104朝夕を岐美に侍らふ朝香比女の
105深き心を汲ませ給はれ
106心弱き岐美と思ひて朝香比女
108曇りたる神の心を迎へます
109岐美の心の弱きをかなしむ
110燃えさかる炎を消さむ術もなし
111幾度死なまく思ひたりしよ
112顕津男の神にいませば明けく
113此世に晴れて見合ひましませ
115忍ばるべしやは若き女の身に
116厳の御霊神の教は重けれど
118主の神の許し玉ひし道なれば
120 顕津男の神は、121之に答へて御歌詠ませる。
122『あさからぬ真心清き朝香比女
123汝の艱みは吾も知るなり
124心弱き我にあらねど今暫し
125真の神の出づるまで待て
126我とても依さしの神業遂げざるを
127朝な夕なに悲しみて居り』
128 朝香比女の神は再び謡ひ給ふ。
129『朝夕をこめて恨みし吾心
130朝香の比女のあさましきかな
131燃ゆる火の火中に立ちし心地して
132朝な夕なを岐美思ひ泣く
133村肝の心の誠を岐美の前に
134打明けしこそせめてもと慰む』
135 宇都子比女の神は、136顕津男の神の前に御歌詠まし給ふ。
137『村肝の心は炎に包まれて
139よしやよし百神如何にはかゆとも
140神の神業をばはかるべしやは
141岐美こそは比古遅にませば神の為め
142経綸のために憚り給ふな
143朝夕に御側を近く仕へつつ
145宇都比女が貴の心を明さむと
146岐美の御前に言挙げするも
147岐美思ふ心の糸は百千々に
148乱れ乱れて解くよしもなし
149御側近く仕へ奉らふ身ながらも
150言問ふさへも儘ならぬ身よ
151蟹が行く横さの神の言の葉を
152拾ひ給はず吹き捨てませよ
153言霊の伊吹きの狭霧に醜草の
154醜の言の葉吹き払ひませ
155御側に侍るはつらし御側を
156離るるも憂き吾なりにけり
157神業の何時果つるとも知らずして
158月日を送る吾身をぞ悲しき
159此上は心の駒を立て直し
160吾にゆるせよ一夜の契りを』
161 顕津男の神、162答へて謡ひ給はく、
163『手枕の夢は夜な夜な見ながらも
164逢ひ見ることのあたはぬ苦しさ
165主の神に言訳け立たず側の女に
166男の甲斐もなきわが身は苦しき
167今暫し神々の心明くるまで
168時を待たせよいとほしの汝』
169 宇都子比女の神は再び謡ひ給ふ。
170『はしたなき女の繰り言繰り返し
172恥かしさ苦しさ面はほてれども
173得堪へ兼ねつつ真心のべしよ
174此上は岐美をなやます力なし
175神に任せて時を待たむか
176惟神神の依さしのなかりせば
178 梅咲比女の神も亦述懐の歌を述べ給ふ。
179『如月の梅咲く春に逢ひながら
181大方の春の陽気の漂へる
182此天界を淋しむ吾なり
183春立ちて梅咲く比女のあだ花を
184岐美はあはれと思召さずや
185天地も一度に梅咲く比女のわれ
186小さきことを如何で思はむ
187背の君の苦しき心を諾ひて
188吾はもださむ春の身なれど
189開くべきよしなき花と知りながら
191春立ちて梅咲く比女の初花は
192開かむとして霜に打たれつ
193雪も降れ霜も霰も降りて来よ
194春をかかへし梅咲比女よ
195惟神時の到るを待たむかと
196幾度か心を立直しつつ
197曇りたる此の世の中を照します
198岐美の神業の苦しさに泣く』
199 顕津男の神謡ひ給ふ。
200『真心の君の真言にあひてわれ
202百神の醜のたけびは恐れねど
203乱れ行く世を思ひてためらふ
204今の世に厳の御霊の道なくば
205わが神業はやすしと思へり
206さりながら厳の御霊の光なくば
207瑞の力は備はらざるべし
208汝こそは我の心をよく知れり
209我また汝が心をあはれむ
210ぬゑ草の女にしあれども汝が心の
211雄々しさ赤さに感謝の念湧く
212今暫し待たせ給へよ汝が心に
213添はむ月日も無きにあらねば
214朝夕に神業を思ふわが胸を
215覚らす公の心嬉しも』
216 梅咲比女の神は又謡ひ給ふ。
217『愛恋やの岐美の言霊耳にして
218梅咲く春に逢ふ心地せし
219惟神岐美の心に任せつつ
220忍び奉らむ幾年までも
221村肝の心のたけを岐美の前に
223天界はよし破るとも愛恋やの
224岐美の真言は忘れざるべき
225主の神の造り玉ひし天界にも
226朝夕かかる悩みを持つも
227真清水に昆虫のわく例あり
229 花子比女の神の歌。
230『天界に非時匂ふ花子比女の
231花は香もなく艶だにもなし
232天界の花と咲くべき吾身なり
233岐美は何故手折りまさずや
234花も実も無き岐美かもと朝夕に
235涙の雨に潤ふ吾なり
236よしやよし百神如何に譏るとも
237躇ふことなく手折り給はれ
238天国の春に逢ひたる花子比女の
239心に時じく降る時雨かな
240玉の緒の命までもと思ひつつ
241吾は野に咲く紫雲英の花かも
242神業はただに畏しためらひて
244朝夕につれ無き岐美に侍りつつ
245神業の日を待つ身はうたてき
246玉の緒の命死せむと思ふまで
247胸の炎は燃え盛りつつ
248炎々と御空をこがす火炎にも
249似て苦しもよあつき心は
250厳の御霊の神の教は聞きながら
251瑞の御霊をあはれと思へり
252大局に目をつけずして百神は
254神界の大経綸を妨ぐる
255醜の曲神打払ひませよ』
256 顕津男の神、257答へて謡ひ給ふ。
258『愛善の神の教を説く身には
259如何ではふらむ醜の曲霊を
260わが力及ばむ限り説き諭し
261愛と善とに照さむとぞ思ふ
262愛善の心しなくば我とても
263経綸の神業ためらひはせじ
264瑞々し瑞の御霊の神業は
265一神も捨てぬ誓ひなりけり
266花も実もある言の葉にほだされて
267悲しくなりぬ汝が真言に』
268 花子比女の神は又謡ひ給ふ。
269『花も実もある身魂ぞと宣らすこそ
271よしやよし岐美に逢ふ日のあらぬとも
272吾はうらまじ歎かじと思ふ
273曲神の中に交こり雄々しくも
274忍ばす岐美の心をいとしむ
275女の子吾岐美の真心知る故に
276只一度の言挙げせざりき
277神業を誰はばからず勤むべき
278時を待ちつつ楽しみ暮さむ』
279(昭和八・一〇・一一 旧八・二二 於水明閣 森良仁謹録)