第一四章 真心の曇らひ〔一八八二〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第74巻 天祥地瑞 丑の巻
篇:第2篇 真鶴新国
よみ(新仮名遣い):まなづるしんこく
章:第14章 真心の曇らひ
よみ(新仮名遣い):まごころのくもらい
通し章番号:1882
口述日:1933(昭和8)年10月24日(旧09月6日)
口述場所:水明閣
筆録者:加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年1月5日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:宇宙間において、もっとも強く美しいものは、愛の発動である。なぜなら、大虚空中に愛の発動があったからこそスの言霊が生まれ、天地の万神が生まれたからである(=神は愛なり力なり)。
ただ、愛からスク、スカヌの言霊が生まれるとおり、その度合いによって、生成化育が成就するときもあれば、度が過ぎて一切を破壊することにもなりうる。
だから、愛には善、悪、大、小がある、というのである。神の愛は善にして大、一方小愛・悪愛は、自己愛となり、他を害し、争いと破壊をもたらす。
生代比女の顕津男の神に対する愛は積み重なり、募って怨恨となってしまった。その炎は比女の身魂を焼き、大蛇となって玉野湖底に潜むにいたった。
大蛇は神々の一行を待ち受けており、静かだった玉野湖はたちまち暗黒となり、荒れ狂った。
顕津男の神は比女を諭す歌を歌うが、生代比女は闇の中から突然現れ、顕津男の神への恨みを吐露し、幾億万劫の末までも恋の悪魔となって祟る、と呪った。
諭しの歌も大蛇となった生代比女には届なかった。顕津男の神はついに、如何なる罪に問われようとも、主の神の神言に背いても、比女の誠の心に報いようとの決意を歌った。
すると、たちまち天は晴れ渡り、湖も鏡のようにおさまった。満月の光が晧晧と、湖面を照らした。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:2020-05-08 11:55:12
OBC :rm7414
愛善世界社版:
八幡書店版:第13輯 217頁
修補版:
校定版:213頁
普及版:
初版:
ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:
001 無始無終の宇宙間に於て、002最も強く美しきものは愛の発動なり。003大虚空中に愛の発動ありて始めてスの言霊は生れ、004天地の万神は生る。005故に神は愛なり力なりと称する所以なり。006愛あるが故に宇宙は創造され、007万物は発生す。008宇宙間一切のものはこの愛に左右され、009創造も建設も破壊も滅亡も混乱も生ずるものなり。010愛は最も尊むべくかつ恐るべきものとす。011愛よりスク、012スカヌの言霊は生るるなり、013愛の情動にしてその度合よろしければ、014生成化育の神業は完成し、015愛の情動の度合過ぐれば、016遂には一切を破壊するに至る。
017 而して、018愛には善あり、019悪あり、020大あり、021小あり。022神の愛は愛善にして、023世間一切の愛は愛悪なり。024神の愛は大愛にして世間の愛は小愛なり。025わが身を愛し、026わが家を愛し、027わが郷土を愛し、028わが国土を愛するは所謂自己愛にして、029神の大愛に比して雲泥の相違あり。030故に小愛は我情我欲の心を増長せしめ、031遂には自己愛のために他人を害し、032他家を破り、033他郷と争ひ、034他の国と戦ひ、035遂に彼我共に惨禍の洗礼を受くるに至る。036又神の愛は大愛なれば、037宇宙一切万有に普遍して毫も依怙の沙汰なし。038世間の愛は他を顧みず、039只管にわが身を愛し、040わが家を愛し、041わが郷土を愛し、042わが国家を愛するが故に、043他よりもし不利益を加へらるると見る時は、044忽ち立つて反抗し争闘し、045身を破り家を破り国家を破るに至る。046恐るべきは愛の情動の度合なり。
047 茲に生代比女の神の個性的愛は積み重なりて恋となり、048恋ますます募りて怨恨となり、049胸に瞋恚の炎燃えさかり、050其心魂を焼きし炎は濛々として立ち昇り、051黒煙となりて天を包み、052尚ほ堪へ切れぬままに霊魂化して大蛇となり、053炎熱の苦しみを防がむとして、054遂には玉野湖底にひそみたるこそ、055実に恐しき次第なり。056総て恋なるものは自己愛に属するが故に、057他を顧みるの暇なく遂にはわが身を破り、058人を損ひ世界を毒し天下を乱すに至るものなり。059故に顕津男の神其他の神の清き明き正しき御心より迸る生言霊の力をもつてするも、060猛烈なこの恋の炎を消しとむるに由なかりける。061然りと雖も大愛の心より出でし明き清き真の言霊には反抗する能はず、062遂には帰順せざるを得ざるに至るは、063厳として犯すべからざる神の御稜威なればなり。
064 茲に生代比女の神は、065真鶴山の聖場に於ける、066顕津男の神の情のこもりし生言霊の御歌によりてしばし心を和め給ひしが、067再び恋々の情火燃えさかり、068黒雲天に漲りて瑞の御霊の進路を妨げ、069遂にはスの神の厳かなる威力に畏服して真鶴山を捨て、070玉野比女の神の永久に鎮まりたまふ宮居に近き玉野湖水に蛇身となりて湖底深く潜み、071瑞の御霊の渡り来ませるを今や遅しと、072さしもに広き湖水の水を、073胸の火に沸きかへらせつ、074恋の意地を達せむと待ちかまへ居たまひしぞ恐ろしき。075空蒼く海又青く、076風は白梅の香を送り、077浪穏かに満月の光清く浮みて鏡の如く澄み切り、078落着きたる夕の湖面は忽ち暴風吹き起り、079大雨沛然として臻り、080浪逆巻きて容易に越ゆべからざるに至らしめたるぞ是非なけれ。081今迄清皎々と輝きたる月は忽ち黒雲にかくれ、082四辺をつつみし湯気煙は、083灰白色となりて、084神々の一行の辺りをつつみ、085如何ともなす由なきに至らしめたるも、086猛烈なる恋より燃え出でたる瞋恚の炎の荒びなりける。087故に最も親しむべきは神にして、088最も恐るべきは恋の情動なりと知るべし。
089 嗚呼惟神霊幸倍坐世。
090 顕津男の神は、091忽ち湖上の光景一変して、092四辺暗黒となり、093不快なる空気の身辺を包みたれば、094生言霊の御稜威によりてこの暗澹たる天地を清めむと、095御歌詠ませ給ふ。
096『あさましも天地一度にふさぎたる
097この黒雲は恋の炎よ
098大愛の主の大神の神言もて
099国土造る我を艱ますな夢
100美しき紫微天界をかくのごと
101曇らす恋の曲神怪しも
102我こそは国土生み神生みの神業に
103仕ふる神ぞ大愛の神
104生代比女の心愛しと思へども
105神の依さしに反くよしなき
106片時もはやく天地を明しませ
108久方の月の光は冴ゆれども
109この醜雲を射通す術なき
110生代比女心平に安らかに
111わが大愛の心を悟らせ
112思ひきや国魂神を生む度に
114至善至美果しも知らぬ天界に
115狭き心を捨てよ比女神
116主の神の愛に魂を光らしつつ
117乱れたる思ひをのぞかせ給へ』
118 斯く御歌詠ませ給ふや、119闇の中より茫然と夢幻の如く現れたる生代比女の神は、120獰猛なる面を一行の前に現し、121恨みの形相凄じく、
122『恨めしき岐美の心よ言霊よ
123吾はなやみて大蛇となりぬる
124清かりし乙女の胸をこがしたる
125岐美は大蛇を生みましにけり
126吾は今かかる姿となり果てて
128水底に常磐堅磐に沈み居て
129恋の仇をば報いむと思ふ
130女神男神この湖原を渡りなば
131吾は大蛇となりて呑むべし
132玉野比女に見合す岐美の恨めしさ
134生言霊如何に宣らすも恋故に
135乱れし吾をまつらふ術なけむ
136わが思ひ黒雲となりて天を閉ぢ
137大蛇となりて地を乱さむ
138恋すてふ心なければかくまでも
139岐美を憎しと思はざりけむ
140岐美故に吾はなやめり岐美故に
141吾は焦れて大蛇となりける
142めぐしさの重り合ひて憎しみの
143炎燃えつつ大蛇となりける
144美しき真鶴山の守り神も
145岐美故大蛇となりしを知らずや
146わが思ひ幾億万劫の末までも
147恋の悪魔となりて祟らむ
148恐るべきものは恋路と思召せ
149岐美がつくりし国土に仇せむを
150わが思ひ凝りかたまりて山に海に
151河又沼に潜みてなやめむ』
152 顕津男の神は御歌うたひ給ふ。
153『ねもごろにわが説きさとす言の葉を
154公は聞かずや諾ひまさずや
155厳かなる紫微天界に生れ生でで
157恋すてふ心の誠は諾へど
158わが儘ならぬ神生みの旅よ
159あだし女に見合ひて永久の罪穢
160世に残さむを恐るる我なり
161言霊の厳の光もつつむなる
163何事も湖水の水に流しまして
165アオウエイあつき心の炎をば
166この真清水にあらひて生かせよ
167天地に恐るるものは吾なけど
168恋の炎に艱まされける』
169 生代比女の神は微に歌ふ。
170『いとこやの岐美をめぐしみ吾遂に
171憎の神となり果てにける
172いとしさの胸にあまりて憎しみの
173深くなりぬる吾は悲しも
174恨むべき道なき岐美を恨みまつり
175吾は大蛇の霊魂となりぬる
176岐美故に吾よみがへり岐美故に
177わが魂線の亡ぶと知らずや
178わが魂はよし亡ぶともこの思ひ
179いや次々に伝へて止まじ』
181『主の神の神言に背くと知りながら
182いとしの公を助けむと思ふ
183如何ならむ罪に沈むも比女神の
184誠にむくゆと心定めし
185村肝の心やすかれ今よりは
186なが真心を諾ひまつるも』
187 斯く歌ひ給ふや一天忽ち晴れ渡り、188荒れ狂ふ湖原も俄に鏡の如くをさまりて、189満月の光皎々として、190さしもに広き湖面は更なり、191目路遠き国原を隈なく照らし給ひける。
192(昭和八・一〇・二四 旧九・六 於水明閣 加藤明子謹録)