第一章 天馬行空〔一九三三〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第77巻 天祥地瑞 辰の巻
篇:第1篇 万里の海原
よみ(新仮名遣い):までのうなばら
章:第1章 天馬行空
よみ(新仮名遣い):てんばこうくう
通し章番号:1933
口述日:1933(昭和8)年12月12日(旧10月25日)
口述場所:大阪分院蒼雲閣
筆録者:加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年3月30日
概要:
舞台:東河の岸辺
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:八十曲津の神たちは、真賀の湖水の計略を朝香比女に破られ、あべこべにその多くが魚貝に姿を変えられてしまい、国津神たちの食料と定められてしまった。そのため何としても比女を陥れようと、高地秀山の峰より流れる東河の岸辺に、無数の大蛇となって、比女を待ち構えていた。
朝香比女はつらつらと透かして見れば、東河の水面一帯に大蛇が横たわり、その鱗に月光が輝いているのが見えた。
従者の狭野彦は、そうとは気づかず、麗しき河の流れと思って歎美の歌を歌い、瀬踏みをしようとした。
朝香比女はそれを厳しく押し止め、言霊歌によってその危険を明らかにし、知らせた。すると、四方八方よりウーウーウーとウ声の言霊が響き渡り、川面に群がり塞いでいた幾千万の大蛇は、次第次第に姿を細め、消えてしまった。
狭野彦は驚いて、朝香比女の言霊の威力をたたえる歌を歌った。
朝香比女はそれに答えて、大河の水が強く馬では渡りかねるので、大空を駆けて河を渡ろう、と歌った。
狭野彦は驚いて、国津神である自分が、どうやって空を飛べるのですか、と歌で問うた。すると、空中に歌で答える神があり、鋭敏鳴出(うなりづ)の神であると名乗り現れた。
高地秀宮の神司である鋭敏鳴出の神は、ひそかに朝香比女に随行してその行く手を守っていたのであった。朝香比女は感謝の歌で迎えた。鋭敏鳴出の神は、曲津神の砦が多くあることを注意すると、再び姿を消した。
朝香比女は、タトツテチの言霊によって自分と狭野彦の馬に翼を生じさせ、いとも簡単に広河の激流を渡った。狭野彦は天津神の活動を目の当たりにし、驚嘆の歌を歌った。
朝香比女は鋭敏鳴出の神の加護を感謝し、一方狭野彦は、天津神の功徳に心を勇み立たせ、二人は霞が立ち込める国稚原を進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7701
愛善世界社版:
八幡書店版:第13輯 587頁
修補版:
校定版:3頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001高地秀山の聖場に
003朝香の比女は唯一騎 004諸神等の諫言を
006曲津の猛る大野原
010由緒の深き栄城山
011尾の上に登り顕津男の 012神の遺跡を追懐し
013主の大神の大宮に
015栄城の山に仕へたる 016諸神等に暇乞ひ
017又もや独り大野原
019日も黄昏になりし時 020八十の曲津見驚きて
025朝香の比女はこれを見て 026天津祝詞を奏上し
027生言霊を発射して 028沼と変りし曲津見を
029永遠無窮に封じこめ 030曲の化身の大巌を
032駒諸共に悠々と
033月照りかがよふ夜の湖 034彼方の岸に着きたまひ
035再び御舟は巌となり 036名さへ目出度き御舟巌
040遠く聞ゆる家鶏の声
041国津神等の住む家の
044真賀の湖水と名づけつつ
045岸辺を鞭うち進みます
047駒諸共に写らひて 048其雅なる御姿は
050朝香の比女は勇み立ち
051大野の奥に霞みたる 052丘の麓に駒打たせ
053急ぎたまへば狭野の里
055国津神等諸共に 056天津空より比女神の
058誠の限りを尽しつつ
060朝香の比女は駿馬の
062国津神等に生活の
063道伝へまし火を切りて
065火食の道を伝へまし 066国津神等の酋長なる
067狭野彦一人を伴ひて 068再び広き荒野原
070前途を擁して横はる
071東の河の河岸に
079 八十曲津見は、080真賀の湖水の計略に破れ、081部下の曲津見は、082朝香比女の神の生言霊に封じ込められて、083大部分魚貝と身を変じ、084永遠に湖底の住所を与へられ、085国津神等の日常の食物と定められければ、086八十曲津見は憤慨の極、087無念骨髄に徹し、088如何にもして比女神の前途に遮り、089災禍を加へむと千思万慮の結果、090高地秀山の峰より落つる東河の岸辺より、091無数の大蛇となりて比女神を艱ましまつるべく、092手具脛ひいて待ち居たるなりけり。
093 東河の激流は折から輝く新月の光に照らされて数多の星を流せしごとく、094浪頭はキララキララと光り輝き渡る美しき流れなり。
095 比女神はつらつら透かし見給へば、096東河の水面一帯に大蛇横はり、097浪頭に星の輝くよと見えしは何れも大蛇の鱗なりける。098鱗の一枚々々に月光輝き得も言はれぬ美しき光の流れなりけり。099狭野彦は大蛇の横はり鱗の光れりとは夢にも知らず、100さも美しき流れやと歎美しながら歌を詠む。
101『美しき東の河の流れかな
103比女神の御共に仕へまつりてゆ
104かく美しき夜河を見るも
105たうたうと流るる東の大河の
106夜の眺めはまたと世になし
107駿馬の背に跨りてこの流れ
108渡ると思へば心清しも』
109 「いざさらば、110狭野彦瀬踏みを致さむ」と駒に鞭うち出で立たむとするを、111朝香比女の神は厳しく止めて、112御歌もて知らせ給ふ。
113『狭野彦の眼は広き河浪の
115河浪と見ゆるは何れも曲津見の
116変化の蛇の鱗なるぞや
117数限りなき蛇の鱗に大空の
118月のかがやく光と知らずや
119此河に駒を入るれば忽ちに
120大蛇の餌食となりて亡びむ
121一二三四五六七八九十
122百千万千万の
124八十の曲津の曲業を
125科戸の風に吹き散らし
127朝香の比女が誠心を
128捧げて祈り奉る』
129 かく歌はせ給ふや、130四方八方より、131ウーウーウーとウ声の言霊響き渡り、132大河の面を群がり塞ぎたる幾千万の大蛇は次第々々に姿を細め、133見る見る影も形も消えうせて、134青みだちたる水滔々と月に照らされ深く広く流れゐる。135狭野彦は驚きて、
136『朝香比女神の神言の珍しき
137智慧に大蛇は看破られける
138かくのごと尊き神とは知らずして
139御供に仕へし吾恥づかしも
140曲津見は数万の大蛇と身を変じ
141禍せむと待ち居たるはや
142吾は今この河岸に黄昏れて
143八十の曲津の曲業を見し
144曲神の八十のたくみは賢しくも
145真言の神には叶はざりける
146大河の流れと見しは曲津見の
147大蛇に化けし姿なりける
148かくならば吾は恐れじ朝香比女の
149神にしたがひ河渡るとも
150駿馬の勢如何に強くとも
151御稜威ならではこの河渡れじ』
152 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。
153『高地秀の峰より落つる東河の
154水瀬は強く駒は進まず
155神力はいかに強くも東の
157吾は今生言霊の光にて
158大空かけり河渡らむと思ふ』
160『如何にして御空をかけり渡りますか
161吾国津神は詮術なしも
162公こそは天津神なり大空を
164国津神狭野彦われは肉体の
165重きを如何に空渡るべき』
166『朝香比女神の御尾前守りつつ
168今宣りしウ声の清き言霊は
169鋭敏鳴出の神のすさびなりしよ』
170と空中に御声聞えて間もあらず、171霧の中より白馬に跨り、172朝香比女の神の御前に悠々と下り給ひし神あり。173よくよく見れば御言霊にたがはず、174高地秀の宮の神司と任けられし英雄神鋭敏鳴出の神の雄姿なりける。
175 朝香比女の神は一目見るより、
176『汝こそは高地秀の宮の神司
178狭葦河の曲津のなやみを言向けし
179著き功は汝が神守りけむ
180曲神の醜の奸計は破れけり
181鋭敏鳴出汝の生言霊に
182いざさらば此広河を向つ岸に
183進みて月の下びをすすまむ』
184 鋭敏鳴出の神は御歌詠ませ給ふ。
185『朝香比女神の神言の危さを
186悟りて吾は追ひしきにけり
187主の神の神言畏み御尾前を
188かくれて吾は守り居しはや
189西方の国土は遥けしこの前に
190曲津の砦は許々多ありつつ
191曲神の醜の砦を悉く
192はふり行きませ西方の国土へ
193いざさらば吾は姿を隠すべし
194道の隈手もやすくましませ』
195 かく歌ひ給ふと見るや、196鋭敏鳴出の神の御姿は、197忽ち煙となりて消え失せにける。
199『天界は怪しき事の重なれる
200国土と思へど驚きにけり
201久方の天津神等の活動を
202見つつ吾魂ゆるぎ初めけり』
203 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。
204『狭野彦の驚きうべなり国津神の
205夢にも知らぬ神業の国土は
206国土を生み国魂神を生みてゆく
207神の神業はことさら怪しき
208国津神の眼ゆ見れば吾も亦
209怪しき神の群にぞありける』
211『吾乗れる駒よ狭野彦の駒よ
212翼生せよ大なる翼を
213生えよ生えよ大なる翼
214此駿馬の天馬となりて
216と幾度も繰り返したまひ、
219と声爽やかに宣らせたまへば、220不思議やこの駒は大なる翼を生しける。
221 比女神は狭野彦と共に駒に跨り給へば、222天馬は巨大なる翼を空中に摶ちながら、223見も届かぬ広河の激流を遥か眼下に眺めつつ、224月の光は翼をキラキラと光らし、225得も言はれぬ愉快さに満されて、226向つ岸辺に難なく着かせ給ひける。227狭野彦は驚歎措く能はず、
228『吾駒は翼生せて鳥となり
229御空を翔けて河わたりせり
230比女神の生言霊の功績に
231わが乗る駒は鳥となりけり
232比女神の駒は天馬となりかはり
233御空に清くかがやきたまひし
234天国の旅なる吾の楽しさを
235語り伝へむ国津神等に
236鋭敏鳴出の神現れまして河の瀬に
237満つる大蛇を退けたまへり
238比女神の影につき添ふ鋭敏鳴出の
239神の功の尊きろかも』
240 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。
241『鋭敏鳴出の神の功に守られて
242吾つつがなく此処に来しはや
243吾駒に翼生ひしも鋭敏鳴出の
245鋭敏鳴出の神の功を今更に
246われは悟りて恥づかしみ思ふ
247今よりは主の大神の神宣
248力と頼みて荒野を進まむ
249国津神狭野彦伴ひ吾伊行く
250旅の行手を案じつつ居る
251天津神は御空をゆけど国津神は
252荒金の地ふみゆく身なれば
253吾駒の翼はいつか消え失せて
254野辺の草葉に嘶き初めたり
255狭野彦の駒も翼をひそめつつ
256息をやすめて草はみて居り
257東の河は漸く渡りぬれど
258わが行くさきに海原横たふ
259この海は魔の大海とたたへられ
260八十曲津見の群がれると聞く
261吾伊行く道の曲津見悉く
262言向け和して岐美許進まむ
263初夏の風は吹けどもどことなく
264この国原はうすら寒きも』
266『どこまでも比女神の御供に仕へむと
267心の駒の勇みたつかも
268いかならむ曲津見の禍さやるとも
269吾は恐れじ比女神の功に』
270 かく狭野彦は、271朝香比女の神の神徳を讃美しながら、272駒に跨り御後より果しなく霞立ち籠むる稚国原を進み行く。
273(昭和八・一二・一二 旧一〇・二五 於大阪分院蒼雲閣 加藤明子謹録)