第一四章 夜光の眼球〔一九四六〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第77巻 天祥地瑞 辰の巻
篇:第3篇 善戦善闘
よみ(新仮名遣い):ぜんせんぜんとう
章:第14章 夜光の眼球
よみ(新仮名遣い):やこうのめだま
通し章番号:1946
口述日:1933(昭和8)年12月15日(旧10月28日)
口述場所:大阪分院蒼雲閣
筆録者:森良仁
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年3月30日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:先陣を切った霊山比古の神は大野ケ原を進んで来たが、にわかに魔棲ケ谷方面から吐き出された黒煙が天を塞ぎ地を這い、あたりの様子もわからなくなった。たそがれるころになって、山麓のやや平坦な小笹が原までようやくたどり着いたが、ここで行き詰まってしまった。霊山比古は、邪気をはらすべく、生言霊に言霊歌を宣り上げた。
すると、胸に夜光の玉をかけた山跡比女、千貝比女、湯結比女の三女神が現れた。三女神は霊山比古に軽く目礼しながら、夜光の玉であたりを照らした。
霊山比古は、三女神は後から出立したはずなのに先に着いていたこと、また夜光の玉のような宝玉を持っていることをいぶかり、偽の女神であろう、と歌で問い掛けた。
三女神は、夜光の玉は自分たちの御魂であり、疑いをかける霊山比古をたしなめ、また後について自分たちの庵で休むように誘った。
霊山比古はますますいぶかしみ、こんなところに三女神の庵があろうはずはない、と問い掛ける。三女神は、疑いを解くために夜光の玉を隠しましょうか、と霊山比古に問い掛けた。霊山比古が承諾すると、三柱の比女神も夜光の玉も、まったく消えうせ、あたりは見分けもつかない闇となり、小笹を吹き渡る嵐の音が、ただ凄惨に聞こえてくるのみであった。
霊山比古は一人両腕を組み、夜が明けるのを待って戦おうと、歌を詠み始めた。こうして、一人闇の中で歌を詠みつつ一夜を明かした。やがて東雲の空がほの明るくなり、紫雲たなびき、今日の征途を祝するように見えた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7714
愛善世界社版:
八幡書店版:第13輯 649頁
修補版:
校定版:234頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 茲に霊山比古の神は、002御樋代神の屯し給ふ泉の森の本営を立出で、003大野ケ原を南へ南へと駒を駈けながら進ませ給ひけるが、004俄に魔棲ケ谷の方面より吐き出す黒煙は天に塞がり地に這ひて、005咫尺を弁ぜず、006駒の歩みも捗々しからず、007行き艱みつつ其日の黄昏るる頃、008漸くにして山麓の稍平坦なる小笹ケ原に着き給ひけるが、009昼も猶暗きに、010搗て加へて夕闇の迫りければ、011其身の乗ります白き駒さへも完全に見別け難くなりけるにぞ、012流石の霊山比古の神もひたと行詰り、013当惑の体にて、014邪気を晴らすべく生言霊を宣り上げ給ふ。015其御歌、
016『アオウエイ天津高宮の主の神の
017依さしの旅ぞ雲霧退け
018カコクケキ輝き渡る日月の
019永遠に伊照らす神の御国ぞ
020曲神の醜の猛びの強くとも
021生言霊に雲霧晴らさむ
023冴え渡る月日の影を曲神は
024隠さむとするぞ忌々しかりけれ
025五月蠅なす曲津の砦を射照して
026吾は進まむ魔棲ケ谷に
028玉の緒の水火の命のある限り
029万里の島根を照らさむ吾なり
030高山の谷間に潜む曲津見の
031水火を祓ひて天津日を照らさむ
032魂線の生きの生命のあらむ限りを
033尽して曲神と戦はむかな
035七重八重十重に二十重に包みたる
036雲霧晴れよ生言霊に
037長き間万里の島根を閉したる
038雲霧祓はむ水火の命に
039流れ落つる滝の響も濁りたり
040大蛇の棲める此谷川は
041艱みなき紫微天界の中にして
042荒振る曲神を憐れみ思ふ
044駿馬の白き姿も見えぬまで
045曲神の水火は黒く包みぬ
046果しなき生言霊の力にて
047吾は払はむ醜の黒雲を
048はしけやし主の大神の御水火以て
049ヲ声に生れし霊山比古ぞや
051曲神の醜の砦をことごとく
052言向け和すと吾は来つるも
053万里ケ島は主の大神の御樋代ぞ
054服従へ奉れ醜の竜神
055摩訶不思議白馬ケ岳の山裾に
056醜の黒雲立ち迷ふとは
057まさにこれ醜の竜神大蛇等が
058吾謀らむと包める雲かも
060吾は今御樋代神の神言以て
061曲神の征途に立ち向ひたり
062悪神の醜の奸計をことごとく
063討斬り払ひ雄々しく進まむ
064吾は今これの笹生に休らひて
065夜の明くるまで待たむと思ふ
066進まむとひたに思へど咫尺弁かぬ
067この常闇は詮術もなき』
068 斯く歌ひ給ふ折しも、069胸に夜光の玉をかけ、070悠々と現はれ来れる三柱の女神あり。071ふと見れば山跡比女の神、072千貝比女の神、073湯結比女の神の三女神にして、074神言の前に軽く目礼しながら夜光の玉に四辺を照し、075比女神の姿は常に勝りて美しく、076神々しく、077優しく見えにける。
078 霊山比古の神は、079三女神は吾より後に進みたる筈なるに、080早くも先着したるは合点ゆかずと双手を組み暫し思案に暮れ居給ひけるが、
081『審かしも汝は三柱比女神に
082面ざし偽せし曲津見なるらむ
083三柱の比女神は夜光の珍の玉
084持たせしことの未だ無きものを』
085 山跡比女の神は「ホホホホホホ」と優しき御声に打笑ひながら、
086『愚かなる霊山比古の言の葉よ
087夜光の玉はわが神魂ぞや
088吾神魂まさかの時には斯の如
089光となりて闇を照らすも
090常闇はいや深くとも吾持てる
091夜光の玉に山路を照らさむ
092吾魂の光に従ひ登りませ
093闇の山路を霊山比古の神よ』
094 霊山比古の神は御歌詠ませ給ふ。
095『如何にしても心落ちゐぬ汝の姿
096醜の曲神の化身とおもふ
097よしやよし他の神々は闇を照らす
098光に迷はむも吾は認めじ』
099 千貝比女の神はニコニコしながら、
100『愚かしき言を宣らすよ汝が宣りし
101生言霊に耀ひし吾魂よ
102汝が宣りし生言霊の光なくば
103吾は夜光の玉を得まじきを
104兎にもあれ角にもあれや闇の道を
105吾に続きて登らせ給へ
106霊山比古の神の御尾前明さむと
107吾は夜光の玉を照らすも
108三柱の比女神何れも汝が為め
109夜光の玉を照らして待つも』
110 霊山比古の神は審かしさに堪へず、111御歌詠ませ給ふ。
112『兎見斯見汝が面ざし眺むれば
113三柱比女の神とは思へず
114兎も角も夜の明くるまでは吾は此処に
115生言霊を養はむと思ふ』
116女神『愚なる言霊宣らすも霊山比古の
117神の眼は迷ひましけむ
118斯の如夜光の玉に照らされて
119吾面ざしは変りて見ゆるも
120真昼見る女神と夜光の光に見る
121女神の姿はうつらふものを
122山裾の此処は笹原露しげし
123吾住む庵へ進ませ給へ』
124 霊山比古の神は益々審かしみながら、
125『三柱比女神の庵の此山に
126ありと思へず欺罔言宣るな』
127女神『言霊の伊照り幸ふ国なれば
128束の間にも庵は建つなり
129世の中の森羅万象は言霊の
130水火に生くると思召さずや』
131 湯結比女の神は微笑みながら、
132『霊山比古の神山跡比女千貝比女
133神の争論可笑しくもあるか
134疑ひの雲霧互に行き交ひて
135黒白も判かぬ闇の笹原
136斯の如吾も夜光の玉を持ちて
137万里の島根の闇を照らすも
138あくまでも疑ひ給ふは宜ながら
139汝も言霊の神にあらずや
140霊山比古の神の疑ひ晴らさむと
141夜光の玉をいざや隠さむ』
142霊山比古『山跡比女千貝の比女よ汝が持てる
143夜光の玉も隠させ給へ』
144 斯く歌ひ給ふや、145三柱の比女神の姿も夜光の玉も全く消え失せて、146四辺は咫尺弁ぜぬ真の闇となり、147小笹を吹き渡る嵐の音のみ聞え来る其の凄惨さ、148譬ふるにもの無かりける。
149 茲に霊山比古の神は小笹を渡る山嵐の音と駿馬の鼻息のみ聞ゆる淋しき小笹ケ原に、150両腕を組み夜の明くるを待ちて戦はむとして、151御歌詠ませ給ふ。
152『荒果てし小笹の原に迫りたる
153闇はまさしく曲神の水火なる
154掛巻くも畏き神の言霊に
155夜光の曲津は消え失せにけり
156笹原に山風立ちて肌寒く
157この一夜を如何に明さむ
158立向ふ曲神の征途に黄昏れて
159吾止むを得ず言霊歌詠む
160何事も吾魂線のささやきに
161従ひ進まむ曲津の征途に
162はからずも此処に出で来し比女神は
163曲津の化身か眼光れる
164眩しきまで光れる眼を光らせて
165夜光の玉と偽る曲神
166八百万の醜の曲神集まりし
167此山道は畏かりける
168未だ稚き国原なれば曲津見は
170色々と姿を変へて迫り来る
171この山下の曲神忌々しも
172肝向ふ心の魂を光らせて
173吾神業を遂げむとぞ思ふ
174しきり降るこの俄雨は竜神の
176千早振る神の水火より生れたる
177正しき吾は進むのみなる
178俄雨降りて俄に止みにけり
179曲神の力斯くも脆かり
180久しきに堪へて戦ひ迫りつつ
181醜の曲神を言向けてみむ
182竜蛇神これの谷間に集まりて
183非時雲を起す憎さよ
184生言霊の水火の幸ひ著ければ
185八十の曲津も何か恐れむ
186浮雲の定まりもなき曲津見の
187脆き奸計を破りて進まむ
188黒雲は十重に二十重に包むとも
189晴らして行かむ生言霊に
190澄みきらふ吾言霊に恐れしか
191竜蛇は比女となりて窺ひぬ
192次々に夜光の玉と見せかけて
193醜女は吾を欺かむとせり
194奴婆玉の闇は迫れど吾持てる
195神魂の光はますます明るし
196吹き荒ぶ醜の嵐も曲神の
197水火にありしよ頓に止みぬる
198睦まじき女神の姿に体を変へて
199吾を欺く醜女探女等
200由縁ある比女神の名を騙らひつ
201闇を照らして吾を誘へり
202美しき比女神の姿を吾前に
203現はせ誘ふ醜のたくらみ
204画にさへも書けぬ美しき優姿を
205現はし吾眼を眩まさむとせし
206健気なる三柱比女神は斯の如
207怪しき言霊宣らさざるなり
208せせらぎの音のみ聞ゆる谷川の
209傍の笹原は露のしづけき
210天も地も常闇の如曇りたり
211力限りに曲津の謀るか
212寝もやらずこれの笹生に端坐して
213夜の明くるまで吾は待たむか
214隔てなき神の恵に守られて
215醜の曲津に勝たむと祈る
216目を閉ぢし如く見ゆるも常闇の
217この山裾は曲津の入口か』
218 斯く一人闇の芝生に御歌詠ませつつ一夜を此処に明し給ひける。219東雲の空はほの明くして紫雲棚引き、220今日の征途を祝するがに覚えたり。
221『東の空は漸く東雲めて
222紫の雲は棚引きにけり
223百鳥の声も爽けく聞え来ぬ
224早昇りまさむ天津日の光は
225百千谷の滝津瀬の音はいや高く
226響かひにつつ夜は明けにけり』
227(昭和八・一二・一五 旧一〇・二八 於大阪分院蒼雲閣 森良仁謹録)