第六章 田族島着陸〔一九三八〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第77巻 天祥地瑞 辰の巻
篇:第1篇 万里の海原
よみ(新仮名遣い):までのうなばら
章:第6章 田族島着陸
よみ(新仮名遣い):たからじまちゃくりく
通し章番号:1938
口述日:1933(昭和8)年12月12日(旧10月25日)
口述場所:大阪分院蒼雲閣
筆録者:内崎照代
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年3月30日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:海はたそがれ日は落ちてきた。神々は述懐歌を歌っていたが、なんとはなしに寂しき道中に、起立比古はつい弱音を吐くが、立世比女に諭されて宣り直し、夜の海の美しさをたたえる歌を歌った。
朝香比女は、起立比古の言霊に万里の海原もよみがえり、輝きを取り戻したと喜び、夜の航海を楽しんだ。
そうするうちに、白馬ケ岳の麓に舟は着いた。この島は、万里(まで)の島と言い、万里の海の島々の中で、もっとも広く土の肥えた素晴らしい島であった。
万里の島には、幾千万ともなく野生の馬と羊が住んでおり、またこれまで誰も国津神が住んだことのない、田族(たから)の島であった。
朝香比女の神一行は、舟を磯につないで島に登って来ると、たくさんの馬・羊は先を争って、白馬ケ岳の麓をさして逃げていった。一行は、天を封じて立っている大きな楠の陰に憩いながら、おのおの述懐の歌を歌った。
住むものもなきこの島に白駒がいななき、野も開かれているのを見て朝香比女は、御樋代神の一人、田族(たから)比女神がこの島を統べていることを悟った。
神々が述懐歌を歌ううち、いずこよりか白駒にまたがった神が現れ、輪守比古の神、若春比古と名乗った。そして二柱の神は、田族比女の神の神言により、朝香比女一行を迎えにきたことを告げた。
一同はひらりと駒に乗り、月の照る夜半の野路を、くつわを揃えて田族比女の館へ進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7706
愛善世界社版:
八幡書店版:第13輯 612頁
修補版:
校定版:97頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001伊猛り狂ふ荒浪を
005泡立つ浪は忽ちに 006島の真砂と変へさせて
007いみじき功を立て給ひ 008諸神等を驚かせ
009水火の光を照らしまし 010果しも知らぬ万里の海
011浪押し分けて悠々と 012白馬ケ岳を目当とし
013声も清しく言霊の 014御歌を詠ませ給ひつつ
015進ませ給ふぞ雄々しけれ 016御空を渡る天津日は
017高地秀山の頂に
019万里の海原襲ひ来ぬ 020冷たき夕べの海風は
021女神の御舟に襲ひ来ぬ。
022 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。
023『浪高き万里の海原渡り居れば
024高地秀山に陽は落ちにけり
025高地秀の山影遠く万里の海の
026面に黒く倒れけるかも
027百鳥は塒求めて島々の
028茂樹の梢をさして飛ぶなり
029奴婆玉の翼の黒き夕烏は
030西の島根をさして急ぐも
031浪の音いや高らかに響きつつ
033数限りなき島山を縫ひて来し
034舟も恵みに恙なかりき
035天津日は山に沈みて月読の
036光はますます冴え渡るなり
037月読の清き姿を眺むれば
038わが背の岐美を偲ばるるかな
039御空ゆく月をし見れば背の岐美の
040清き姿の偲ばるるかな
041天津日はかくろひぬれど月読の
042御舟は磐楠舟を照らせり
043月冴ゆる大海原を渡りゆく
044われ国魂の神を生まむと
045百鳥の声は聞こえずなりにけり
047島々の岸打つ浪は白々と
049滔々と巌ケ根を打つ浪しぶきの
050音は一入高くなりけり
051海の面に匂はぬ花の咲き満ちて
052わが行く夜半の舟はさやけし』
053 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。
054『万里の海早や黄昏れて潮騒の
055音たかだかと鳴り響くかも
056百鳥は島の茂樹に宿をとるか
057只一羽だも影を見せなく
058吾もまた何れの島にか舟寄せて
059雨宿りつつ夢を結ばむ
060白馬ケ岳深雪は月に輝きて
061霧の海原に影をうつせり
062音にきく白馬ケ岳の生島は
063白馬数多群れ棲むときく
064吾駒は終日舟に乗せられて
065苦しかるらむ水も飼はねば
066水飼はむ術もなきかな万里の海の
068 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。
069『比女神の御供に仕へて万里の海に
071曲神の伊猛り狂ふ海中に
072黄昏れてやる舟は淋しも』
073 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。
074『起立の神の言葉ぞあやしけれ
075生言霊の旅にあらずや
076さびしみを語れば淋し楽しみを
077語らば楽しき神世なるぞや
078言霊のたすけ幸ふ国中に
079弱音ふかすな起立比古の神』
080 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。
081『立世比女神の言霊うべなうべな
083久方の月照る夜半の海原は
085浪の秀は花と冴えつつ岸を打つ
086潮のしぶきは玉と照るなり
087生き生きて吾は栄えむ永久に
088心も魂も疲るることなく
089朝香比女神の雄々しさに比ぶれば
090吾は小さき弱き神かも』
091 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。
092『起立の神の宣らする言霊に
093万里の海原よみがへりぬる
094大空の星も降りて水底に
095光りかがやき給ふ海原
096上と下に月と星とを眺めつつ
097わが行く舟は天の鳥船よ
098斯の如美しき海の浪の上を
099月に照らされ行くは楽しも』
100 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。
101『白馬ケ岳影はやうやく近みたり
102千重の浪路を遠く渡りて
103海原の浪の頭は百千々に
105右左島根はここだく並べども
106神の住むべき所だになし
107巌骨をあらはし島は赤々と
108空行く月のかげをうつせり
109仰ぎみる白馬ケ岳は青々と
110樹木茂れり行きてひらかばや』
111 斯く歌ひつつ漸くにして白馬ケ岳の麓に御舟は着きにけり。112この島は万里の島と称へ、113この海原に浮べる島々の中に、114最も広くして地肥えたる貴の島ケ根なりける。115万里の島には幾千万ともなき野馬と羊棲息し、116未だ一柱の国津神も住みたることなき田族の島にぞありける。
117 朝香比女の神の一行は船を磯辺に繋ぎ、118静々とのぼり給へば、119数多の馬、120羊は先をきそひて白馬ケ岳の麓をさして逃げ出でにけり。121一行は、122こんもりと天を封じて立てる楠の大樹の蔭に憩はせながら、123各自御歌詠ませ給ふ。
124『万里の海やうやく渡り月の夜半
125田族の島に着きにけるかも
126こんもりと空を封じて聳り立つ
127楠の樹蔭は月影見えずも
128この島にわがのぼり来て生島の
129草の根に鳴く虫聞きにけり
130虫の音はいや冴えにつつ天津日の
131栄えを永久にうたひつつ居り
132白馬ケ岳尾の上の雪は白々と
133夜目にもしるく輝き渡れり
134この島に群がり棲める幾万の
135馬と羊は逃げ失せにけむ
136土地肥えしこの島ケ根は百草の
137いや茂らひて栄え果なき
138幾万の馬と羊を養ふに
139足らふ小草の萌ゆる島はも
140此島に国津神等のたねうゑて
141千代に八千代に拓かせ度きもの』
142 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。
143『仰ぎみれば白馬ケ岳は雲の上に
145浪の音高く聞えて遠つ野に
146白馬の嘶き響き渡れり
147白駒の嘶き高く千万の
148声も一つに響かひにけり
149この島に吾は御樋代神ますと
151白駒の嘶き聞けば天津神の
152生言霊の光おぼゆも』
153 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。
154『国津神はただ一柱も住まねども
155八十御樋代の神はいまさむ
156遠近の野はひらかれて穀物の
157生ひ立ちみれば神おはしまさむ
158八十柱御樋代神の一つなる
159田族比女神の住処なるらむ
160明日の日はこの島ふかく進み行きて
161御樋代神に言問ひせむかな』
162 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。
163『この島に御樋代神のおはしますと
164聞けばかしこし言問ひまつらむ
165御樋代神これの田族島におはしまして
166国魂神を生ます日待たるる』
167 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。
168『万里の島山野は清く見えながら
169谿の狭間に黒雲立つも
170黒雲は八十曲津見の水火ならむ
171明日は近みて言向け和さむ』
172 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。
173『主の神の神言畏み田族比女の
174神はこの地に住み給ふべし
175顕津男の神の出でまし待ちにつつ
176この島ケ根にひそみ給はむ』
177 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。
178『八十柱御樋代神は只一人
180この広き島根に一人おはします
181田族の比女神は淋しかるらむ』
182 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。
183『十柱の貴の神たち従へて
184鎮まりいまさむ御樋代神は
185ともかくも夜の明くるまでこの森に
186安く眠らむ潮騒聞きつつ』
187 斯く歌はせ給ふ折しも、188何処よりか輪守比古の神、189若春比古の神の二柱は、190白馬に跨り進み来りこの森の蔭に駒を止め、
191『かしこけれど言とひ奉らむこの森に
192いますは朝香比女神にまさずや
193田族比女神の神言をかしこみて
194吾二柱伊迎へまつるも』
195 朝香比女の神は御歌もて答へ給ふ。
196『二柱神に申さむ吾こそは
197朝香の比女よ御樋代神よ
198霧こむる万里の海原晴らしつつ
199これの島根に今来つるはや』
200 若春比古の神は御歌詠ませ給ふ。
201『待ち待ちし朝香の比女の御姿を
202拝む今宵ぞ尊かりける
203いざさらば御樋代神よ諸神よ
204案内をなさむ比女の館へ
205吾こそは田族比女の神に仕へ奉る
206若春比古の神司なり
207今ここに現はれ来りし一柱は
208輪守の比古の神司なるよ
209いざさらば館に案内仕らむ
210早や立たせませ比女神諸神』
211 朝香比女の神は、
212『いざさらば若春比古の宣り言に
213従ひ吾は御館に進まむ』
214と言ふより早く白馬に跨り給へば、215初頭比古の神、216起立比古の神、217立世比女の神、218天晴比女の神の四柱の神は、219ひらりと駒に跨り、220月照る夜半の野路を轡を揃へて進ませ給ふぞ畏けれ。
221(昭和八・一二・一二 旧一〇・二五 於大阪分院蒼雲閣 内崎照代謹録)