第一三章 春野の進行〔一九六九〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第78巻 天祥地瑞 巳の巻
篇:第3篇 葦原新国
よみ(新仮名遣い):あしはらしんこく
章:第13章 春野の進行
よみ(新仮名遣い):はるののしんこう
通し章番号:1969
口述日:1933(昭和8)年12月22日(旧11月6日)
口述場所:大阪分院蒼雲閣
筆録者:加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年5月5日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:中野河より西の大高原は、朝香比女の神が放った真火の力によって黒こげとなり、晴れ晴れしくなっていた。
しかし中野河以東は草ぼうぼうの原野で、あちこちに大蛇や異様な動物が生息し、深夜になれば作物に害を与えたり、国津神の老人子供を傷つけたりと、まだ平安とはいえない状態であった。
葦原比女は、鷹巣の山の麓にある桜ケ丘という小山に瑞の御舎を造り、邪神の襲来を防ぐために丘の周囲に濠をめぐらし、付近一帯の国津神を守っていた。
だから、五千方里もの広大なこの島も、御樋代神の恵みに浴すことができるのは、わずか四、五方里にすぎなかったのである。御樋代神の権威の及ぶところは、全島のわずか千分の一ほどであった。
常盤の松が生い茂る森に一夜を明かした十二柱の神々一行は、夜が明けるとともに桜ケ丘の聖所さして進んでいった。
真以比古は馬上にこれまでの経緯を読み込んだ述懐の歌を歌った。そして、葦原の新しい国土をこれから開いて行く楽しみを歌いこんだ。
葦原比女の神は、朝香比女の神のいさおしによって、この国が豊葦原の国と開けて行くことを感謝する歌を歌った。そして、顕津男の神が天降りますまでに、この国を開こうと決意を歌った。
朝香比女の神は、勝手に島を焼き払ったことをわび、国津神が住んでいるのを見て、ここに御樋代神が居ることを知ったのだ、と歌った。そして、葦原比女に、国魂神を生むよき日を共に待とう、と歌いかけた。
従者神たち一同も、それぞれ馬上の日長の退屈さに述懐の歌を交わしつつ、日のたそがれるころ、ようやく桜ケ丘の聖所に着いた。迎える多数の国津神たちの敬礼を受け、新しく築かれた八尋殿に上り、月を誉め夜桜をたたえながら、短い春の一夜を過ごした。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7813
愛善世界社版:
八幡書店版:第14輯 86頁
修補版:
校定版:219頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 中野河以西の大高原は、002朝香比女の神が放ち給へる真火の力によりて黒焦となり、003地上一片の枯葉も留めず、004晴々しくなりけれども、005中野河を劃して以東は草莽々の原野にして彼方此方に大蛇棲息し又は異様の動物潜伏して、006深夜になれば総ての作物に害を与へ或は国津神の老幼を傷つけるなど、007未だ全く平安の域に達せざりける。
008 茲に御樋代の神とまします葦原比女の神は、009鷹巣の山の麓なる桜ケ丘と言へる小山に瑞の御舎を造り給ひ、010邪神の襲来を防ぐために丘の周囲に濠を繞らし、011附近一帯の国津神を守り給ひつつありける。012故に五千方里の広袤を有する此島ケ根も、013御樋代神の恵に浴し其生を安んずる国津神及び諸々の生物は約四五方里に過ぎず。014要するに御樋代神の権威の及ぶところは全島の千分の一位のものなり。
015 常磐の松生ひ繁る野中の森に月を愛でながら、016一夜を明し給ひたる女男十一柱の神及び国津神の長野槌彦の一行は、017夜の明くると共に各自馬上にて遥か東方なる桜ケ丘の聖所を指して一目散に進む事となりけり。
018 真以比古の神は真先に立ち、019馬上ながら歌はせ給ふ。
020『今日は如何なる吉き日ぞや
021紫微天界の真秀良場と
022其名も高き高地秀の
023宮居をはろばろ立ち出でし
025朝香の比女の神司
026厳の雄心振り起し
027万里の山野を打ち渉り
028万里の海原横ぎりつ
029地まだ稚き葦原の
031世にも珍し燧石
033四方に飛び散る火の光り
034忽ち荒野の草の根に
036海原渡る潮風に
038荒野ケ原の叢を
039一潟千里に焼き尽し
043永久の棲処のグロス沼
044水底深く忍びけり
045朝香の比女は悠々と
046焼野ケ原を打ち渉り
050明くるを待ちて四柱の
051神に曲津の征服を
055潜める曲津に向はせて
056天津祝詞を奏上し
058遉の曲津も辟易し
061忽ち聞ゆる唸り声
064神の功に曲津見は
065雲をば起し雨降らし
066竜蛇の正体現はして
067鷹巣の山の谷の間を
068目ざして霞と逃げさりぬ
069茲に四柱神々は
071朝香の比女の御前に
072一伍一什の物語
074其功績を嘉しまし
075野槌の彦と諸共に
078経綸の糸を繰りたまふ
079道に当りし中野河の
080広き流れを言霊の
083思ほす折しも吾々は
084葦原比女神に従ひて
085謹み出迎奉り
086此島ケ根の曲津見を
088心の限り感謝しつ
090野中の森の松かげに
091月の一夜を明かしつつ
092思ひ思ひに語り合ひ
093歓ぎ楽しむ其状は
094天の岩戸の開けたる
095嬉しき楽しき思ひなり
097紫雲をわけて天津日は
099百鳥千鳥のなく声は
101処々に咲き香ふ
102白梅の花美はしく
103迦陵頻伽に送られて
104真鶴うたふ大野原を
105十一柱の神々は
106野槌の彦を従へて
107荒野ケ原を渉りつつ
111神の真言の御経綸
112吾等は謹み敬ひて
115豊葦原の新国土を
118吹き来る風も芳ばしく
119遠野の奥に燃え立てる
120陽炎豊に花の香を
121野辺一面に送るなり
123厳の御水火に光あれ
125 葦原比女の神は御歌詠ませ給ふ。
126『天晴れ天晴れ光の神はあれましぬ
127葦原の雲吹き払ひつつ
128二十年を忍び忍びて守りてし
129この葦原の国土は生きたり
130朝香比女神の神言の功績に
131豊葦原と開けゆくなり
132葦原の中津神国は曲津見の
133朝夕荒ぶ醜処なりける
134醜国も豊葦原の安国と
135開け行くかも生言霊に
136顕津男の神の天降らす朝迄に
138朝香比女神の賜ひし燧石こそ
139葦原を開く光なりける
140此燧石二十年前に吾もたば
142国津神数多あれども曲津見の
143醜の奸計に滅されける
144桜ケ丘宮の近くの国津神は
145纔に命保ちけるはも
146今日よりは国津神等大空の
147星のごとくに生み育つべし
148国津神よ御子を生め生め栄えよ栄え
149この葦原は今日より安けし
150四柱の神を率ゐて天降らしし
151八柱比女神を迎ふる今日かな』
152 朝香比女の神は馬上豊に御歌詠ませ給ふ。
153『葦原比女神の領有ぐこの島を
154吾恣に焼き払ひけり
155主なき島と思ひて曲津見を
156払ひ退ふと真火を放ちし
157進み来れば国津神等の住めるを見て
158葦原比女のおはすと悟りし
159顕津男の神の御許に侍らふと
160吾は旅行く道すがらにて
161由縁ある此島ケ根に立寄りて
162御樋代神に会ひにけらしな
163非時の香具の木の実ゆ生れませる
164葦原比女の神の清しさ
165主の神の永久にまします高宮ゆ
166天降りし公は八十比女の神
167国々に八十比女神を配りおきて
168国魂生ます主の神天晴れ
169御樋代の神は何れも主の神の
170水火に生れし神柱なる
171かくのごと尊き御樋代神をもて
172国魂生ますと瑞霊たまひぬ
173大家族国をつくると主の神は
174顕津男の神独りを依させり
175御樋代は主の神の御子国魂は
176瑞の御霊の御子なりにけり
177葦原比女神よ吉き日を待たせつつ
178瑞の御霊と国魂生みませ
179吾も亦顕津男の神の御許に
180進みて国魂生まむとぞ思ふ
181遥々と曲神の荒ぶ西方の
182国土に進まむ吾なやみつつ』
183 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。
184『初夏の野も春弥生の心地して
185大原の奥に陽炎立つも
186陽炎の燃え立つ野辺を駒並めて
187進むも楽し桜ケ丘へ
188ぼやぼやと吾面を吹く風のいきに
190駿馬も歩みをゆるめて眠るごと
191大野の草を分けつつ進めり
192駒の背にゆるく揺られて知らず識らず
193ねむけ催す春野の旅なり』
194 成山比古の神は御歌詠ませ給ふ。
195『久方の高地秀山ゆ天降りましし
196朝香の比女神迎ふる嬉しさ
197仰ぎ見れば鷹巣の山の頂は
198紫雲の衣をつけて迎ふる
199野路を吹くねむたき風の息づかひ
200聞きつつ進む駒の遅きも
201終夜眠りもやらず月舟の
202下びに遊びて睡気催す』
203 栄春比女の神は御歌詠ませ給ふ。
204『葦原比女神の御供に仕へつつ
205朝香比女の神の出でまし迎へし
206仰ぎ見れば朝香の比女の御上に
207光らせたまへり鋭敏鳴出の神は
208鋭敏鳴出の神は御姿現はさず
210吾公に守り神なし如何にして
212さりながら生言霊の天照らす
213国土にしあれば安く開けむ
214とつおひつ思案に暮れて二十年を
215功績もなく過ぎにけらしな』
216 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。
217『狭野の島と万里の島ケ根造りをへし
218朝香の比女神ここに来ませり
219葦原比女神の神業を補ふと
220出でましにけむ朝香比女の神は
221朝香比女神に朝夕仕へつつ
222真言の光を悟り得ざるも
223奥底のわからぬ御稜威を保ちます
224朝香比女の神は御光なりけり』
225 八栄比女の神は御歌詠ませ給ふ。
226『桜ケ丘の貴の宮居を立ち出でて
227朝香比女の神を野に迎へける
228朝香比女神の神言を仰ぎてゆ
230言霊の天照り渡す朝香比女の
232初夏なれど葦原の国土は風寒く
233桜の花は真盛りなりけり
234白梅と桃と桜の一時に
235桜ケ丘の聖所に匂へり
236せめてもの旅を慰めまつるべく
237花咲きみつる聖所に導びかむ』
238 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。
239『梅桜桃も一度に咲くと言ふ
240珍の景色を眺めまほしけれ
241吾公の御供に仕へて百花の
242薫る聖所に進む楽しさ
243もやもやと四方の山野に霞立ちて
244吹き来る風は花の香包めり
245草枕旅の宿りの楽しさは
246花の盛りの春にあふなり』
247 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。
248『吾公は万里の荒野を渉りつつ
249国魂生まむと来りますかも
250国魂神あれますまでは御供に
251吾仕へむと従ひ来りし
252西方の国土は遥けしさりながら
253神の御稜威に進まむと思ふ
254葦原のこの浮島の風光を
255眺めて国土の栄を偲ぶも
256遠方の遠野の奥に輝ける
257眺めは雲かも山桜かも』
258 霊生比古の神は御歌詠ませ給ふ。
259『目路遠く雲か花かとまがふなる
260聖所に吾は導きゆかむ
261桜ケ丘の宮の聖所の美はしさを
262五柱神に見せたくぞ思ふ
263駿馬の脚を急げば黄昏に
264桜ケ丘に帰り得べけむ
265夕されど月の光のさやかなれば
266桜ケ丘にひたに進まむ』
267 かく神々は馬上にて日長の退屈さに交々御歌詠ませつつ、268其日の黄昏るる前、269漸くにして桜ケ丘の聖所に着きたまひ、270迎へまつる数多の国津神等の敬礼をうけ、271新しく築かれし八尋殿に上りて、272月を賞め夜桜を讃へながら、273短き春の一夜を過させたまひける。
274(昭和八・一二・二二 旧一一・六 於大阪分院蒼雲閣 加藤明子謹録)