第二二章 歎声仄聞〔一九七八〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第78巻 天祥地瑞 巳の巻
篇:第4篇 神戦妖敗
よみ(新仮名遣い):しんせんようはい
章:第22章 歎声仄聞
よみ(新仮名遣い):たんせいそくぶん
通し章番号:1978
口述日:1933(昭和8)年12月25日(旧11月9日)
口述場所:大阪分院蒼雲閣
筆録者:加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年5月5日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:朝香比女の神一行は、グロノス・ゴロスの化身であった巌島の邪神を、言霊の光によって島もろとも焼き尽くし、万里の海原を東南に向けて進んでいった。
一行は歌を歌いつつ進んで行ったが、東北の方面に浮かんでいる島から、怪しき声が聞こえてくるのに気づいた。朝香比女の神は、その悲しい声は国津神たちの叫び声かもしれないので、一刻も早く島に向かおう、と歌った。すると、舟は東北方面に自然に舳先を向けて進んでいった。
すると、浮島の方面から、多角多頭の大悪竜が、幾千丈とも限りなく、波しぶきをたててこちらに進んできた。朝香比女の神は、これこそまさに八岐の大蛇であると見取り、舟よ広くなれ大きくなれ、八岐大蛇の数百倍となれ、と歌った。
歌い終わると、磐楠舟は膨れ広がってたちまち山のようになってしまった。多角多頭の大蛇は舟の近くまで進んできたが、舟のあまりの大きさに驚いたのか、無念そうに水中に姿を隠してしまった。
朝香比女の神は、臍下丹田に魂を鎮め、天に向かって合掌し天津祝詞を奏上し、生言霊を述べた。たちまち海水は熱湯のように煮え返り、八岐大蛇は熱湯に焼かれて全身ただれ、もがき苦しみ、ついに死体となって水面に浮かび出た。
朝香比女の神が、歎きの島に急ぎ進め、と歌うと、舟は千里を駆ける勢いで、黄昏の海原を進んでいった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7822
愛善世界社版:
八幡書店版:第14輯 138頁
修補版:
校定版:412頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 朝香比女の神の一行はグロノス、002ゴロスの化身なりし巌島の邪神を生言霊の光に島もろとも焼き尽し給ひ、003春風のそよろに渡る万里の海原を、004舳を東南に向け悠々進ませ給ひける。
005 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。
006『くさぐさの曲の艱みを放りつつ
008晃々と浪を照らして天津日は
010目路の限り万里の海原に霞立ちて
011風暖かき浪路楽しも
012黒雲に海原包み浪立てて
014グロノスもゴロスも公の功績に
015逃げ失せたるぞ勇ましかりけり
016海底に遊べる小魚の姿さへも
017透き通り見ゆ清しき今日なり
018わが公の御供は楽し言霊の
019水火の光を居ながら拝しつ
020万里の島と葦原の国土を拓きまして
021公が渡らす万里の海原
022月も星も白く輝く海原に
023立つ白浪は陽に耀へる
024月と日と星の光に守られて
025吾行く舟は恙あらじな』
026 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。
027『楽しさの限りなるかも吾公の
028御舟に曲のたはむれ見る今日
029生島ゆ島に渡らふ水鳥の
030翼は白く浪にうつれり
031水底を飛びたつごとく思はれぬ
032澄みきらひたる水鳥の影は
033仰ぎ見る鷹巣の山は紫の
034雲漂ひて日影は高し
035曲津見は戦ふたびに破れつつ
036西方の空に消え失せにけり』
037 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。
038『白馬ケ岳は雲に霞みて空の奥に
039もやもや燃ゆる白雲のどけし
040白雲は天津日の下をよぎりつつ
041この海原に影を落せり
042遠の海は青く見えつつ目路近き
043浪は白々輝けるかも
044鷹巣山は白馬ケ岳に比ぶれば
045澄み渡りつつ高さ及ばず
046吾伊行く浪路遥けく守りませ
047主の大御神鋭敏鳴出の神
048公が旅を安く守りて鋭敏鳴出の
049神は折々唸らせたまふも
050御光の神の出でます海原に
051遮らむ雲は忽ち消ゆるも
052海中の岩に浪の秀突き当り
053白き飛沫は高のぼりつつ
054白浪は飛沫となりて高のぼり
055再び水に落つるさやけさ
056次ぎ次ぎに飛沫立ちつつ又消えつ
057今日の浪路の風静かなり』
058 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。
059『天も地も隈なく晴れし海原の
060旅行く今日の穏かなるも
061帆を揚げず艫櫂用ゐぬ磐楠舟の
062進むは神の功なりけり
063何事も神の心に任せたる
064公の御舟は安く進むも
065海鳥の啼く音か国津神等の
066叫びか仄かに響き渡らふ
067東北の浪に浮べる島ケ根ゆ
068怪しき声は響き来らしも』
069 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。
070『浪の秀を渡り聞ゆる声は悲し
071国津神等の叫びなるらむ
072兎にもあれ角にもあれや声すなる
073島に向ひて吾は進まむ』
074 かく歌はせ給ふや、075御舟は心あるものの如く、076思ふ舳を東北に変じ、077波上に霞める島影さして進み行くこそ不思議なる。
078 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。
079『天地の神の心か吾舟は
080神言のまにまに方向をかへたる
081風の方向変りて公が御舟は
082東北の島をさして流るる
083彼方此方と水面に峙つ巌ケ根は
084草木も生ひず赫々映ゆるも
085荒風に立ち騒ぎたる浪頭の
087島影も次第々々に近く見えて
088歎かひの声高まりにける
089片時も疾く速やけく御舟の
090御行待つらむ歎かひの声は』
091 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。
092『仄見ゆる島は広しも曲津見に
093歎かふ神の声にやあらむ
094曲津見は島より島に渡らひて
095荒び狂ふかこれの神世に』
096 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。
097『歎かひの声は次ぎ次ぎ高まりぬ
098進めよ進め御舟よ速く
099海原を右や左ととび交ひて
100御舟を守る水鳥の影
101水鳥は空を真白に染めながら
102歎きの島ゆ飛び立てる見ゆ
103グロノスやゴロスの曲津の片割の
104国津神等を艱ますなるべし
105西南の風は力を増しにつつ
106公が御舟の進みは速し』
107 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。
108『歎かひの声は水鳥ならずして
109神の御声と吾も思へり
110束の間も早く御舟よ進みませ
111歎きの島を救はむがために』
112 朝香比女の神は島影の近づきしを打ち眺めながら、
113『曲神に艱まされたる国津神の
114最後の際の叫びなるらし
115主の神の御稜威畏み片時も
116疾く進まなむ島の岸辺に
117ただならぬ百神等の歎き声
119 かかる折しも、120浮島の方面より荒浪を押しわけながら多角多頭の大悪竜、121幾千丈とも限りなく、122浪飛沫を立て、123此方に向つて数万噸級の船の走るが如き凄じき勢にて進み来るあり。
124 朝香比女の神はこの光景を打ち見やり給ひつつ、
126正しく八岐の大蛇なりける
127吾舟を只一口に葬らむと
128勢強く進み来るなり
129舟よ舟よ広くなれなれ大きくなれよ
130八岐大蛇の数百倍となれ』
131 かく歌はせ給ふや、132磐楠舟は次第々々に上下前後左右に膨れ拡ごり、133堅き事岩の如く、134忽ち其形山の如くなりければ、135初頭比古の神は余りの不思議さに驚き給ひて御歌うたはせ給ふ。
136『今更に公の御稜威の畏さを
137思ひて吾は心戦く
138八岐大蛇来向ふ影に驚きつ
139更に御稜威に畏みしはや
140天界は意志想念の世界とは
141かねて知りつつ今更驚きぬ
142かくならば八岐大蛇も何かあらむ
143御舟の舳に截り放るのみ』
144 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。
145『進み来る大蛇の勢強くとも
146公の御舟に対ひ得べしや
147山のごと弥拡ごれる御舟に
148乗れる吾身も大きくなりぬ
149吾身体次第々々に太りつつ
150無限の力備はりしはや』
151 かく歌ひ給ふ折しも、152多角多頭の大蛇は御舟間近く進み来り余りの大船に驚きにけむ、153大口を開き鎌首を立てたまま、154さも無念さうな面持にて、155ざんぶとばかり水中に怪しき姿をかくしける。156茲に朝香比女の神は、157臍下丹田に魂を鎮め、158天に向つて合掌し、159天津祝詞を奏上し、160生言霊を宣らせ給へば、161海水は忽ち熱湯の如く煮え返り、162八岐大蛇は潜むに由なく且熱湯に焼かれて全身糜爛れ藻掻き苦しみ、163海上をのたうち廻り、164遂には死体となりて赤き腹部を現はし、165水面に浮び出でたり。166立世比女の神はこの状を見て、
167『あはれあはれ公の言霊幸はひて
168大蛇は脆くも亡びけるかな
169潮水は沸き返りつつ湯気立ちて
170大蛇は遂に滅びけるかも
171百旬に余る大蛇の遺骸は
172浪の上赤く浮べる凄さよ
173物凄き形相なして迫り来し
174大蛇はあへなく身亡せけるかも
175大蛇神よ今日より御魂を立て直し
176再び神と蘇り来よ』
177 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。
178『奇びなる朝香の比女の神言に
179磐楠舟は拡ごりにけり
180膨れ膨れ太り太りて極みなく
181公の御舟は巌となりける
182常巌の堅き御舟もかろがろと
183進みゆくかも歎きの島に』
184 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。
185『曲津見の醜の大蛇は亡びたり
186歎きの島は蘇るべし
187黄昏に近づきければ吾舟は
188歎きの島に急ぎ進めよ』
189 かく宣らせ給ふや、190御舟は一潟千里の勢をもつて黄昏近き海原を進み行く。
191(昭和八・一二・二五 旧一一・九 於大阪分院蒼雲閣 加藤明子謹録)