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第10巻(酉の巻)
序歌
凡例
総説歌
信天翁(一)
第1篇 千軍万馬
01 常世城門
〔431〕
02 天地暗澹
〔432〕
03 赤玉出現
〔433〕
04 鬼鼻団子
〔434〕
05 狐々怪々
〔435〕
06 額の裏
〔436〕
07 思はぬ光栄
〔437〕
08 善悪不可解
〔438〕
09 尻藍
〔439〕
10 注目国
〔440〕
11 狐火
〔441〕
12 山上瞰下
〔442〕
13 蟹の将軍
〔443〕
14 松風の音
〔444〕
15 言霊別
〔445〕
16 固門開
〔446〕
17 乱れ髪
〔447〕
18 常世馬場
〔448〕
19 替玉
〔449〕
20 還軍
〔450〕
21 桃の実
〔451〕
22 混々怪々
〔452〕
23 神の慈愛
〔453〕
24 言向和
〔454〕
25 木花開
〔455〕
26 貴の御児
〔456〕
第2篇 禊身の段
27 言霊解一
〔457〕
28 言霊解二
〔458〕
29 言霊解三
〔459〕
30 言霊解四
〔460〕
31 言霊解五
〔461〕
第3篇 邪神征服
32 土竜
〔462〕
33 鰤公
〔463〕
34 唐櫃
〔464〕
35 アルタイ窟
〔465〕
36 意想外
〔466〕
37 祝宴
〔467〕
附録 第三回高熊山参拝紀行歌(三)
余白歌
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第10巻
> 第1篇 千軍万馬 > 第2章 天地暗澹
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(B)
(N)
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第二章
天地
(
てんち
)
暗澹
(
あんたん
)
〔四三二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
篇:
第1篇 千軍万馬
よみ(新仮名遣い):
せんぐんばんば
章:
第2章 天地暗澹
よみ(新仮名遣い):
てんちあんたん
通し章番号:
432
口述日:
1922(大正11)年02月19日(旧01月23日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年8月20日
概要:
舞台:
常世城
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
照山彦、竹山彦は、常世神王(実は広国別が影武者となっている)に、松・竹・梅の三宣伝使捕縛を奏上した。常世神王は、さっそく三姉妹の宣伝使を連れてくるように命じた。
照山彦の部下・固虎彦が、三宣伝使を駕籠から出して連れ出した。蟹彦は竹野姫、梅ケ香姫も姉の松代姫に劣らず美しいのを見てまたしても泡を吹き、肝を奪われている。
同僚の赤熊はまたもや蟹彦のだらしなさを責め始めた。赤熊と蟹彦が互いを罵り合っていると、突然常世城は闇に閉ざされ、風が猛然と吹き始めた。
赤熊と蟹彦は目耳を押さえて大地に平伏し、ただただ災難が去るのを待つばかりであった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-07-15 17:21:13
OBC :
rm1002
愛善世界社版:
19頁
八幡書店版:
第2輯 397頁
修補版:
校定版:
22頁
普及版:
8頁
初版:
ページ備考:
001
常世
(
とこよ
)
の
城
(
しろ
)
は
雲表
(
うんぺう
)
に
002
御空
(
みそら
)
を
摩
(
ま
)
して
遠近
(
をちこち
)
の
003
樹
(
こ
)
の
間
(
ま
)
を
透
(
すか
)
しキラキラと
004
三葉葵
(
みつばあふひ
)
の
紋所
(
もんどころ
)
005
黄金
(
こがね
)
の
色
(
いろ
)
の
三重
(
みへ
)
の
高殿
(
たかどの
)
006
朝日
(
あさひ
)
に
輝
(
かがや
)
く
天守閣
(
てんしゆかく
)
007
見上
(
みあ
)
ぐるばかり
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
008
三葉
(
みつば
)
の
青
(
あを
)
き
大王松
(
だいわうまつ
)
009
松
(
まつ
)
、
竹
(
たけ
)
、
梅
(
うめ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
010
間
(
はざま
)
の
里
(
さと
)
より
迎
(
むか
)
へ
来
(
き
)
て
011
勝
(
か
)
ち
誇
(
ほこ
)
つたる
照山彦
(
てるやまひこ
)
012
苔
(
こけ
)
むす
巌
(
いはほ
)
の
幾百樹
(
いくひやくじゆ
)
013
限
(
かぎ
)
り
知
(
し
)
られぬ
築山
(
つきやま
)
の
014
広庭前
(
ひろにはさき
)
に
立
(
た
)
ち
現
(
あら
)
はれし
015
照山彦
(
てるやまひこ
)
は
大音声
(
だいおんじやう
)
にて、
016
照山彦
『
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
広国別
(
ひろくにわけ
)
、
017
ア、
018
イヤイヤ、
019
大国彦
(
おほくにひこの
)
神
(
かみ
)
に
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げます。
020
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
、
021
大命
(
たいめい
)
を
奉
(
ほう
)
じ
夜
(
よ
)
を
日
(
ひ
)
についで
間
(
はざま
)
の
国
(
くに
)
の
酋長
(
しうちやう
)
、
022
春山彦
(
はるやまひこ
)
が
館
(
やかた
)
に
罷
(
まか
)
り
出
(
い
)
で、
023
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娘
(
むすめ
)
を
召捕
(
めしと
)
り
帰
(
かへ
)
り
候
(
さふら
)
へば、
024
篤
(
とく
)
と
御
(
ご
)
実検
(
じつけん
)
を
願
(
ねが
)
ひ
奉
(
たてまつ
)
る』
025
続
(
つづ
)
いて
竹山彦
(
たけやまひこ
)
も
大音声
(
だいおんじやう
)
、
026
竹山彦
『
仰
(
あふ
)
せに
従
(
したが
)
ひ、
027
漸
(
やうや
)
う
使命
(
しめい
)
を
果
(
はた
)
し
立帰
(
たちかへ
)
り
申候
(
まうしさふらふ
)
。
028
聞
(
き
)
きしに
勝
(
まさ
)
る
国色
(
こくしよく
)
の
誉
(
ほまれ
)
、
029
譬
(
たと
)
ふるにもの
無
(
な
)
き
天下
(
てんか
)
の
美形
(
びけい
)
、
030
永
(
なが
)
く
此
(
この
)
城内
(
じやうない
)
に
留
(
とど
)
め
置
(
お
)
かせられ、
031
黄泉
(
よもつ
)
比良坂
(
ひらさか
)
の
桃
(
もも
)
の
実
(
み
)
として、
032
陣中
(
ぢんちう
)
に
遣
(
つか
)
はし
給
(
たま
)
へば、
033
如何
(
いか
)
なる
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
も、
034
美人
(
びじん
)
の
一瞥
(
いちべつ
)
に
魂
(
こん
)
奪
(
うば
)
はれ
魄
(
はく
)
散
(
ち
)
り、
035
帰順
(
きじゆん
)
致
(
いた
)
すは
火
(
ひ
)
を
睹
(
み
)
るよりも
明
(
あきら
)
かならむ。
036
敵
(
てき
)
の
糧
(
かて
)
を
以
(
もつ
)
て
敵
(
てき
)
を
制
(
せい
)
するは、
037
是
(
これ
)
六韜
(
りくたう
)
三略
(
さんりやく
)
の
神算
(
しんさん
)
鬼謀
(
きぼう
)
、
038
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
の
御
(
ご
)
盛運
(
せいうん
)
は
弥々
(
いよいよ
)
益々
(
ますます
)
六合
(
りくがふ
)
に
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
り
申
(
まを
)
さむ』
039
との
注進
(
ちうしん
)
に、
040
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
は
莞爾
(
くわんじ
)
として、
041
常世神王(広国別)
『
今日
(
けふ
)
に
始
(
はじ
)
めぬ
二人
(
ふたり
)
が
活動
(
はたらき
)
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
る。
042
何
(
なに
)
はともあれ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
誘
(
いざな
)
ひ
来
(
きた
)
るべし』
043
と
厳命
(
げんめい
)
するを、
044
照山彦
(
てるやまひこ
)
は
従神
(
じうしん
)
の
固虎
(
かたとら
)
に
向
(
むか
)
ひ、
045
照山彦
『ヤアヤア
固虎
(
かたとら
)
、
046
松
(
まつ
)
、
047
竹
(
たけ
)
、
048
梅
(
うめ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
之
(
これ
)
へ
案内
(
あんない
)
申
(
まを
)
せよ』
049
固虎
『
承知
(
しようち
)
仕
(
つかまつ
)
りました』
050
と
固虎
(
かたとら
)
は
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
で、
051
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
輿
(
かご
)
の
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれて、
052
固虎
『ヤアヤア、
053
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娘
(
むすめ
)
、
054
よつく
聴
(
き
)
け。
055
吾
(
われ
)
こそは
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
の
御
(
おん
)
家来
(
けらい
)
鷹取別
(
たかとりわけ
)
の
其
(
その
)
家来
(
けらい
)
、
056
照山彦
(
てるやまひこ
)
の
片腕
(
かた
うで
)
と
選
(
えら
)
まれたる
心
(
こころ
)
も
堅
(
かた
)
い、
057
頭
(
あたま
)
も
固
(
かた
)
い、
058
腕
(
うで
)
は
鉄
(
かね
)
よりもまだ
固
(
かた
)
い、
059
固虎彦
(
かた
とらひこ
)
の
命
(
みこと
)
であるぞよ。
060
かた
がた
以
(
もつ
)
て
容易
(
ようい
)
ならぬ、
061
ウラル
教
(
けう
)
を
敵
(
かた
き
)
と
睨
(
ねら
)
ふ
頑固者
(
かた
くなもの
)
の
女
(
をんな
)
宣伝使
(
せんでんし
)
、
062
畏
(
おそれおほ
)
くも
間
(
はざま
)
の
国
(
くに
)
へ、
063
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
三五教
(
あななひけう
)
を
宣伝
(
せんでん
)
に
来
(
く
)
るとは、
064
誠
(
まこと
)
に
以
(
もつ
)
て
片腹
(
かた
はら
)
痛
(
いた
)
い。
065
鉄門
(
かなど
)
を
以
(
もつ
)
て
固
(
かた
)
く
守
(
まも
)
られたる
常世
(
とこよ
)
の
城
(
しろ
)
、
066
如何
(
いか
)
に
ガタ
ガタ
慄
(
ふる
)
うても、
067
焦慮
(
あせ
)
つても、
068
藻掻
(
もが
)
いても、
069
如何
(
どう
)
にも
斯
(
か
)
うにも
仕方
(
し
かた
)
はなからう。
070
もう
斯
(
か
)
うなる
上
(
うへ
)
は、
071
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
を
固
(
かた
)
く
守
(
まも
)
り、
072
片意地
(
かた
いぢ
)
を
張
(
は
)
つて
頑固
(
かた
くな
)
立
(
た
)
て
通
(
とほ
)
す
訳
(
わけ
)
にはゆかぬ。
073
サアー、
074
サア、
075
之
(
これ
)
から
奥殿
(
おくでん
)
に
連
(
つ
)
れ
参
(
まゐ
)
る。
076
この
固虎
(
かた
とら
)
が
足跡
(
あし
がた
)
を
踏
(
ふ
)
んで
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
れ』
077
と
肩臂
(
かた
ひぢ
)
怒
(
いか
)
らしながら
鼻息
(
はないき
)
荒
(
あら
)
く、
078
化石
(
くわせき
)
の
如
(
ごと
)
く
固
(
かた
)
まり
居
(
ゐ
)
る。
079
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娘
(
むすめ
)
は
何
(
なん
)
と
詮方
(
せんかた
)
なく
涙
(
なみだ
)
、
080
袖
(
そで
)
に
隠
(
かく
)
してニコニコと、
081
花
(
はな
)
の
唇
(
くちびる
)
淑
(
しとや
)
かに、
082
松竹梅の三人
『これはこれは
固虎彦
(
かた
とらひこ
)
とやら、
083
お
使
(
つか
)
ひ
大儀
(
たいぎ
)
。
084
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
うても
繊弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
、
085
城内
(
じやうない
)
の
掟
(
おきて
)
も
固
(
かた
)
く
存
(
ぞん
)
じませねば、
086
何卒
(
どうぞ
)
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
より
宜敷
(
よろし
)
く
執成
(
とりな
)
し
方
(
かた
)
を、
087
かた
がた
祈
(
いの
)
り
参
(
まゐ
)
らする』
088
固虎
(
かたとら
)
『ヤア、
089
此
(
この
)
固虎
(
かた
とら
)
が
かた
かた
尽
(
づく
)
しで
吐
(
ほざ
)
いて
見
(
み
)
たら、
090
かた
がた
以
(
もつ
)
て
油断
(
ゆだん
)
のならぬ
痴
(
し
)
れ
者
(
もの
)
、
091
此奴
(
こいつ
)
も
阿呆
(
あほう
)
と
鋏
(
はさみ
)
ではないが、
092
使
(
つか
)
ひ
方
(
かた
)
によつては、
093
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
の
御
(
おん
)
片腕
(
かた
うで
)
と
成
(
な
)
らうも
知
(
し
)
れぬ、
094
罷
(
まか
)
り
違
(
ちが
)
へば
獅子
(
しし
)
身中
(
しんちう
)
の
虫
(
むし
)
、
095
敵
(
かた
き
)
と
成
(
な
)
つてこの
岩
(
いは
)
より
堅
(
かた
)
い
常世城
(
とこよじやう
)
を、
096
ガタ
ガタ
と
傾
(
かた
む
)
けかねまじき
魔性
(
ましやう
)
の
女
(
をんな
)
、
097
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ
吾
(
わが
)
役目
(
やくめ
)
、
098
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娘
(
むすめ
)
を
神王
(
しんわう
)
様
(
さま
)
の
傍
(
かた
)
へに
侍
(
はべ
)
らせ、
099
かた
を
付
(
つ
)
けねばならうまい。
100
ヤアヤア
方々
(
かた
がた
)
、
101
松
(
まつ
)
、
102
竹
(
たけ
)
、
103
梅
(
うめ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
固
(
かた
)
く
守
(
まも
)
つて、
104
固虎
(
かた
とら
)
が
後
(
あと
)
より
御
(
おん
)
供
(
とも
)
仕
(
つかまつ
)
れ』
105
と
肩臂
(
かた
ひぢ
)
怒
(
いか
)
らし
傍
(
かた
)
への
押戸
(
おしど
)
を
押
(
お
)
し
開
(
あ
)
けて、
106
奥
(
おく
)
へ
奥
(
おく
)
へと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
107
姿
(
すがた
)
は
何時
(
いつ
)
か
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せて、
108
何
(
なん
)
の
様子
(
やうす
)
も
片便
(
かたたよ
)
り、
109
頼
(
たよ
)
り
渚
(
なぎさ
)
の
捨小舟
(
すてをぶね
)
、
110
取
(
と
)
り
着
(
つ
)
く
島
(
しま
)
も
なき
顔
(
がほ
)
の、
111
横
(
よこ
)
さの
道
(
みち
)
行
(
ゆ
)
く
蟹彦
(
かにひこ
)
は、
112
拍子
(
ひやうし
)
抜
(
ぬ
)
かして
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
き、
113
蟹彦
『ヤアヤア、
114
もうさつぱりぢや、
115
一寸
(
ちよつと
)
輿
(
かご
)
を
覗
(
のぞ
)
いて
拝
(
をが
)
んだ
時
(
とき
)
の
松代姫
(
まつよひめ
)
の
美
(
うつく
)
しいその
姿
(
すがた
)
、
116
その
妹
(
いもうと
)
も
妹
(
いもうと
)
も、
117
何
(
いづ
)
れ
劣
(
おと
)
らぬ
花紅葉
(
はなもみぢ
)
、
118
桃
(
もも
)
か
桜
(
さくら
)
か、
119
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
か、
120
実
(
じつ
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
代物
(
しろもの
)
だつた。
121
アヽ
吾々
(
われわれ
)
もこの
木枯
(
こがらし
)
のピユーピユー
吹
(
ふ
)
く
寒空
(
さむぞら
)
に、
122
火
(
ひ
)
の
気
(
け
)
もなしに
門番
(
もんばん
)
を
吩咐
(
いひつ
)
けられて、
123
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
出入
(
でいり
)
の
人
(
ひと
)
を、
124
ナンジヤ、
125
かに
ぢやと
言問
(
ことと
)
ひ
合
(
あは
)
せ、
126
苦
(
くる
)
しい
辛
(
つら
)
い
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
つて
居
(
ゐ
)
たが、
127
まるで
暗
(
やみ
)
の
夜
(
よ
)
に
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
たやうに、
128
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
娘
(
むすめ
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
た
時
(
とき
)
は、
129
自分
(
じぶん
)
の
胸
(
むね
)
は
世界晴
(
せかいば
)
れ、
130
なんとも、
131
かとも
譬
(
たと
)
へ
方
(
がた
)
ない、
132
心
(
こころ
)
の
海
(
うみ
)
に
真如
(
しんによ
)
の
日月
(
じつげつ
)
が
照
(
て
)
り
輝
(
かがや
)
いた。
133
ヤレヤレ、
134
日頃
(
ひごろ
)
辛
(
つら
)
い
門番
(
もんばん
)
も、
135
時
(
とき
)
には
又
(
また
)
こんな
美
(
うつく
)
しい
姫神
(
ひめがみ
)
を
拝
(
をが
)
む
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るかと
思
(
おも
)
つた
矢先
(
やさき
)
に、
136
ビツクリ
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かしてヒツクリ
返
(
かへ
)
つた。
137
ヤ、
138
烏賊
(
いか
)
にも
章魚
(
たこ
)
にも
蟹
(
かに
)
にも
足
(
あし
)
は
四人前
(
よにんまへ
)
だ。
139
城
(
しろ
)
を
傾
(
かたむ
)
けると
言
(
い
)
ふ
美人
(
びじん
)
に
会
(
あ
)
うて、
140
俺
(
おれ
)
も
身体
(
からだ
)
を
傾
(
かたむ
)
けたワイ』
141
赤熊
(
あかぐま
)
『オイオイ、
142
蟹彦
(
かにひこ
)
の
奴
(
やつ
)
、
143
みつともないぞ。
144
女
(
をんな
)
に
心
(
こころ
)
を
蕩
(
とろ
)
かす
奴
(
やつ
)
が、
145
如何
(
どう
)
して
門番
(
もんばん
)
が
勤
(
つと
)
まらうかい。
146
心得
(
こころえ
)
たが
宜
(
よ
)
からう』
147
蟹彦
『ナ、
148
ナヽヽ
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しよるのだ、
149
赤熊
(
あかぐま
)
の
野郎
(
やらう
)
、
150
閻魔
(
えんま
)
が
亡者
(
まうじや
)
の
帳面
(
ちやうめん
)
を
調
(
しら
)
べる
様
(
やう
)
な
七
(
しち
)
むつかしい
顔
(
かほ
)
をしよつて、
151
人
(
ひと
)
の
前
(
まへ
)
では
偉
(
えら
)
さうに
役人面
(
やくにんづら
)
をさらして
居
(
ゐ
)
るが、
152
夜分
(
やぶん
)
になつて
女房
(
にようばう
)
に
酌
(
しやく
)
をさして
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
つて
居
(
ゐ
)
たその
時
(
とき
)
の
顔
(
かほ
)
を
何度
(
なんど
)
も
見
(
み
)
て
居
(
を
)
るが、
153
見
(
み
)
られた
醜態
(
ざま
)
ぢやないぞ。
154
女
(
をんな
)
は
見
(
み
)
ても
穢
(
けが
)
らはしいと
言
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
なその
面付
(
つらつき
)
は
何
(
なん
)
だい。
155
虚偽
(
きよぎ
)
の
生活
(
せいくわつ
)
を
続
(
つづ
)
けて、
156
この
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
自
(
みづか
)
ら
苦
(
くるし
)
め、
157
自
(
みづか
)
ら
縛
(
しば
)
り、
158
面白
(
おもしろ
)
くもない
生活
(
せいくわつ
)
を
送
(
おく
)
るより、
159
この
蟹彦
(
かにひこ
)
のやうに
天真
(
てんしん
)
爛漫
(
らんまん
)
、
160
少
(
すこ
)
しの
飾
(
かざ
)
りもなく
淡泊
(
たんぱく
)
に
身
(
み
)
を
持
(
も
)
つたら
如何
(
どう
)
だい。
161
あまり
堅
(
かた
)
くなると、
162
第二
(
だいに
)
の
固虎
(
かた
とら
)
と
言
(
い
)
はれるぞよ』
163
赤熊
『
猿
(
さる
)
に
渋柿
(
しぶがき
)
を
打
(
ぶ
)
つ
付
(
つ
)
けられて
メシヤゲ
たやうな
面付
(
つらつき
)
をしやがつて、
164
腰
(
こし
)
を
傾
(
かたむ
)
けたの、
165
別嬪
(
べつぴん
)
だのとは
片腹
(
かたはら
)
痛
(
いた
)
いワイ』
166
今
(
いま
)
まで
晃々
(
くわうくわう
)
と
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
れる
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
は
俄
(
にはか
)
に
真黒
(
しんこく
)
となり、
167
六合
(
りくがふ
)
暗澹
(
あんたん
)
として
咫尺
(
しせき
)
を
弁
(
べん
)
ぜず、
168
風
(
かぜ
)
は
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
百万
(
ひやくまん
)
の
猛虎
(
まうこ
)
の
哮
(
ほ
)
え
猛
(
たけ
)
るが
如
(
ごと
)
き
唸
(
うな
)
りを
立
(
た
)
てて、
169
常世
(
とこよ
)
の
城
(
しろ
)
も、
170
秋
(
あき
)
の
木葉
(
このは
)
と
コツパ
微塵
(
みじん
)
に
散
(
ち
)
らさむばかりの
光景
(
くわうけい
)
とはなりぬ。
171
赤熊
(
あかぐま
)
、
172
蟹彦
(
かにひこ
)
は
耳
(
みみ
)
を
抑
(
おさ
)
へ
目
(
め
)
を
閉
(
と
)
ぢ、
173
大地
(
だいち
)
に
平蜘蛛
(
ひらぐも
)
か
蟹
(
かに
)
のやうになつて
平伏
(
へいふく
)
し、
174
天明
(
てんめい
)
風止
(
ふうし
)
の
時
(
とき
)
を
待
(
ま
)
つのみ。
175
(
大正一一・二・一九
旧一・二三
北村隆光
録)
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