第五章 狐々怪々〔四三五〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
篇:第1篇 千軍万馬
よみ(新仮名遣い):せんぐんばんば
章:第5章 狐々怪々
よみ(新仮名遣い):こんこんかいかい
通し章番号:435
口述日:1922(大正11)年02月19日(旧01月23日)
口述場所:
筆録者:東尾吉雄
校正日:
校正場所:
初版発行日:1922(大正11)年8月20日
概要:
舞台:常世城
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:ロッキー山の命令を聞いた常世神王は、お気に入りの三姉妹を差し出すのに忍びず、身代わりとして、間の国の春山彦の三人娘を差し出そうとする。早速遠山別が三人娘を迎えに間の国へと出立した。
そこへ、間の国で捕らえた三五教の宣伝使・照彦が護送されてきた。照彦は護送の駕籠からでると、座敷にどっかと座して常世城の没落を不適にも予言すると、笑い声と共にどこかへ消えてしまった。
一同はあっけに取られたが、竹山彦は狐のいたずらであろう、と笑っている。
そこへ門番の蟹彦が、照彦が門前で現れて暴れている、と注進があった。急いで駆けつけると、そこには誰もおらず、ただ月が皓皓と照っているのみであった。
彼方の森からは狐の鳴き声が聞こえてくる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:2020-12-24 01:41:02
OBC :rm1005
愛善世界社版:42頁
八幡書店版:第2輯 405頁
修補版:
校定版:45頁
普及版:19頁
初版:
ページ備考:
001 美山別、002国玉姫の二人の上使の悠々と帰りし後の奥殿は、003何となく一座白けて、004互に吐息の聞ゆるのみ。
005竹山彦『ワハヽヽヽヽ、006何とまあ、007世の中はままならぬものだなア。008吾々が力を尽し心を竭して照山彦と二人で、009松、010竹、011梅の三人を此処までお供を申し上げ、012常世神王様の御機嫌斜めならず、013吾々もお蔭で神王様にお賞めの詞を戴いて喜ぶ間もなく、014有為転変の世の中とは云ひながら、015変れば変るものだなア。016手を覆へせば雲となり、017手を翻へせば雨となる。018折角喜んで連れ帰り、019常世城内に錦上更に花を添へたと思つたのは束の間、020夢か現か幻か、021ロッキー山の大神様より、022松、023竹、024梅の三人を速かに生擒にして送つて来いとの御厳命、025あれ程御機嫌のよい常世神王様に、026如何してその厳命を伝へられやうか。027屹度掌中の玉を奪られたやうに、028失望落胆の淵に沈まれるのは見えるやうだ。029マアマアお役目柄、030斯う云ふ時は下役の竹山彦は都合がいいワイ。031サアサア鷹取別さま、032上使の趣、033常世神王へ御奏上遊ばさるがよからう』
034鷹取別、035鼻のベシヤゲた顔をあげて、
036鷹取別『フガフガホンガ……ホンナホトハ、037ハタハタハタドリハケガフハズトモ、038フチノヨウヒク、039ハケハマヒコガ、040ソソモンヒテフレ』
041竹山彦『フガフガフガ、042ホンナホトハなんて、043何の事だか竹山彦にはさつぱり分りやしない。044ハナハナもつて困り入つた。045ヤア、046仕方がない、047遠山別さまの番だ。048フヤクホウジヨウハサレハセ』
049 遠山別は苦虫を噛むだやうな面付しながら、050むつくと立ち、051寝殿目蒐けて足重たげに、052ノソリノソリと出でて行く。
053竹山彦『折角生命がけになつて猪を捕つた犬が、054猟師に鉄砲の台で頭をこづかれたやうなものだなア。055酒屋へ三里、056豆腐屋へ五里の山坂を越えて、057漸う油揚を買つて大方家の軒まで帰つた時に、058空の鳶に禿頭をコツンとやられて、059吃驚して腰を抜かした矢先、060油揚を攫へて去なれたやうな、061面白からぬ有難くもない怪体な場面だ。062常世神王様も短い夢を見られたものだ。063今夜のやうなこんな結構な、064丸で婚礼見たやうに、065目出度いめでたいとよろこんだ間もなく、066コンコンさまに魅まれたやうに、067何が何やらさつぱりコンと訳が判らぬ事になつて了うた。068それだからコンタンは夢の枕と云ふのだ。069ああ、070コンコンチキチン、071コンチキチンだ。072春山彦がよろこんで隠まうて居つた綺麗な女を、073鷹取別が鷹が雀を掴むやうに引奪つて帰つて、074常世神王に賞めてもらつて、075鼻高々と今夜は帰つて女房に自慢をしようと思つて居たのに、076鼻はメシヤゲてこんな態、077それについても常世神王の広国別さま、078今夜の驚きはお察し申す。079コンナコントラストが又と世界にあるものか。080鼈に尻をぬかれたと言はうか、081嘘を月夜に釜をぬかれたと言はうか、082たとへ方ない今晩の仕儀、083実にコン難コン窮の至りだ。084コンコンチキチン、085コンチキチンだ』
086照山彦『オイ竹山彦、087ソンナ無駄口を言つてる場合ぢやなからう。088何とか善後策を講じなくてはならないのだ。089お前もいよいよ鷹取別さまと肩を並べる様になつたのも、090三人の娘を首尾よく連れて帰つたお蔭ぢやないか。091神王様のお心をお察し申せば、092そんな気楽な事を言うて居られるかい』
093竹山彦『ハテ、094困つたなア、095誰ぞよい智慧貸しては呉れまいか、096この竹山彦に』
097 かかる処へ、098広国別の偽常世神王は、099遠山別を従へこの場に現れ、100気分勝れぬ面もちにて、
101常世神王(広国別)『アイヤ皆の者、102松、103竹、104梅の三人を、105一時も早くロッキー山の館にお送り申さなくてはならぬ。106ぢやと申して……』
107竹山彦『ぢやと申して、108鬼と申して、109虎と申して、110竹山彦には何とも、111しし仕様がありませぬワイ。112これは一つ鷹取別さまに智慧を貸して貰ひませう。113モシモシ、114ハタホリアケハン、115ホイケンハ、116ホウデホザリマス』
117とわざと鼻声を出す。118鷹取別は、
120と解らぬ言語を続けるのみ。
121常世神王(広国別)『折角予が気に入つたる三人の娘、122お渡し申すは本意なれど、123今暫く当城内に留め置きたし。124吾聞く、125春山彦には、126月、127雪、128花の三人の花の如き娘ありとのこと、129手段を以て三人の娘を連れ帰り、130身代りとしてロッキー山に送らば如何に』
131遠山別『イヤ、132遉は常世神王さま、133天晴れの妙案、134遠山別言葉を構へ、135これより間の国に向ひ、136三人の娘を召し連れ帰らせませう』
137常世神王(広国別)『委細は汝に任す。138よきに取り計らへよ』
146 斯かる処へ、147目付役の雁若は慌しく進み来り、
148雁若『申上げます。149ただいま中依別様、150間の国より三五教の宣伝使、151照彦と云ふ豪の者を唐丸駕籠に乗せ御帰城でございます。152如何取り計らひませうか』
153常世神王(広国別)『アイヤ、154遠山別、155その他一同の者、156中依別の連れ帰りし照彦とやらを、157この庭前に引き据ゑ、158詳細なる訊問いたせ』
160 常世神王は悠々として寝殿さして進み入る。
162(話は少し元へ返る)
163 馬に跨り悠々と意気衝天の鼻息荒く、164三五教の宣伝使照彦を捕へて、165常世城の門前に立帰つたる中依別は、166門の戸叩いて大音声。
167中依別『アイヤ、168門番、169中依別なるぞ。170速かにこの門開け』
171蟹彦『ヤ、172ナンヂヤ、173又妙な奴がやつて来たのでないかな。174中よりアケなんて、175決つたことを言ひよるワイ。176閂のした門を、177中より開けるのは当然だ。178外より開けられる門なら、179外から呶鳴らなくても、180黙つて開けて這入ればいいのだ』
181とつぶやきながら、182閂を左右にソツと開いた。
183 中依別は馬に跨りながら、
184中依別『アイヤ、185蟹彦、186夜中に開門大儀であつた。187この駕籠が通つた後は、188門扉を堅く閉め守れよ。189ヤアヤア家来の者共、190大儀であつた。191汝らは各自家に帰り休息せよ』
192と云ひ捨てて奥へ奥へと進み行く。
193 中依別は中門の外にて馬をヒラリと飛び下り、194馬の鬣、195顔、196首などを撫で擦りながら、
197中依別『ヤア、198鹿毛よ、199長々苦労をかけた。200ゆつくり廐へ行つて休んでくれ』
201 蟹彦は腰から上の横に曲つた、202細長き身体を揺りながら馳せ来り、203駕籠の中を一寸覗き、
205と又もや腰を抜かして大地に倒れ伏す。206中門はサツと開かれ、207中依別は駕籠を舁がせながら奥深く進み入り、208庭先に駕籠を下させ、
209中依別『只今無事帰城致しました。210三五教の宣伝使照彦、211よく御検視下さいませ』
212竹山彦『ヤー、213これはこれは中依別殿、214お手柄お手柄、215定めて別嬪で御座らうな』
216中依別『イヤ、217なに竹山彦殿、218八字髭を生やした、219筋骨逞しき鬼をも取りひしぐ大丈夫でござる、220御油断あらせられるな』
221 鷹取別は鼻声にて、
226竹山彦『百目、227二百目、228一貫目、229三十貫目の荒男、230さぞ重かつたでござんせうな』
231照山彦『竹山彦殿、232冗戯も時にこそよれ、233櫛風沐雨、234難を冒して使命を全うし、235漸く帰り来りし中依別殿、236鄭重に御待遇なさらぬか、237照山彦御注意申す』
239照彦(戸山津見)『三五教の宣伝使照彦とは仮の名、240一、241二、242三、243四、244五、245六、246七、247八、248九、249十、250天の数歌名に負ひし戸山津見の神、251見参せむ』
252竹山彦『ヤア、253これは中々手強き奴でござる。254アイヤ方々、255御油断あるな』
256遠山別『拙者はこれより臣下を召し連れ、257間の国に出張いたさむ。258後は鷹取別殿、259照山彦殿、260竹山彦殿、261万事宜しく頼み入る』
262と言ひ捨てて旅装を整へ、263馬に跨り、264数十人の家来を引き連れ、265月の光を浴びながら一目散に進み行く。
266 照彦は駕籠の戸開けて立ち現はれ、267遠慮会釈もなく座敷の真中にドツカと坐し、
268照彦『吾こそは三五教の宣伝使、269常世の国の枉神を言向け和すそのために、270手段を以て中依別が駕籠に乗り、271ここに現はれし上は、272汝らが運命も朝日に露の消ゆるが如く、273春日に雪の解くるが如く、274風前の燈火、275扨も扨もいぢらしい者だ。276アハヽヽヽ』
277と言ふかと見れば、278姿は消えて行方も空に白煙、279松吹く風の庭木をわたる声のみ聞え来る。
280照山彦『合点ゆかぬこの場の仕儀、281中依別殿、282彼は何者なりしぞ』
284竹山彦『ワハヽヽヽヽ、285此奴、286狐の悪戯だらう。287多士済々たるこの城中に、288人もあらうに中依別の、289中にも別けてより処のない馬鹿役人を遣はしたその酬い、290泣かぬばかりの顔付して、291よりどころなき今の体裁、292訳の判らぬ事だワイ。293アハヽヽヽヽヽヽ』
294 かかる折しも、295横歩きの蟹彦は、296庭先の樹間潜つてこの場に現はれ、
297蟹彦『御一同に申し上げます。298タヽ大変でございます。299只今駕籠に乗つて来た罪人は、300門前に現はれ、301大勢の家来を手玉に取つて、302乱暴狼藉の最中、303一時も早く彼を召捕り下さいますやう』
305照山彦『素破こそ一大事。306ヤアヤア者共、307表門に向へ』
308竹山彦『コリヤ面白い、309ワハヽヽヽヽ』
310 照山彦は数多の家来を引連れ、311門前に慌しく走り出て見れば、312こはそも如何に、313見渡す限りの馬場先は、314皎々たる月に照らされ昼の如く、315人影らしきもの目に当らず寂然たり。316照山彦は両手を組み、317首を傾け、
319 彼方の森蔭より、320何物の声とも知らぬ、
323照山彦『今のは狐の声ではなからうかな』
324(大正一一・二・一九 旧一・二三 東尾吉雄録)