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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
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第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
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天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
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第10巻(酉の巻)
序歌
凡例
総説歌
信天翁(一)
第1篇 千軍万馬
01 常世城門
〔431〕
02 天地暗澹
〔432〕
03 赤玉出現
〔433〕
04 鬼鼻団子
〔434〕
05 狐々怪々
〔435〕
06 額の裏
〔436〕
07 思はぬ光栄
〔437〕
08 善悪不可解
〔438〕
09 尻藍
〔439〕
10 注目国
〔440〕
11 狐火
〔441〕
12 山上瞰下
〔442〕
13 蟹の将軍
〔443〕
14 松風の音
〔444〕
15 言霊別
〔445〕
16 固門開
〔446〕
17 乱れ髪
〔447〕
18 常世馬場
〔448〕
19 替玉
〔449〕
20 還軍
〔450〕
21 桃の実
〔451〕
22 混々怪々
〔452〕
23 神の慈愛
〔453〕
24 言向和
〔454〕
25 木花開
〔455〕
26 貴の御児
〔456〕
第2篇 禊身の段
27 言霊解一
〔457〕
28 言霊解二
〔458〕
29 言霊解三
〔459〕
30 言霊解四
〔460〕
31 言霊解五
〔461〕
第3篇 邪神征服
32 土竜
〔462〕
33 鰤公
〔463〕
34 唐櫃
〔464〕
35 アルタイ窟
〔465〕
36 意想外
〔466〕
37 祝宴
〔467〕
附録 第三回高熊山参拝紀行歌(三)
余白歌
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> 第1篇 千軍万馬 > 第6章 額の裏
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第六章
額
(
がく
)
の
裏
(
うら
)
〔四三六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
篇:
第1篇 千軍万馬
よみ(新仮名遣い):
せんぐんばんば
章:
第6章 額の裏
よみ(新仮名遣い):
がくのうら
通し章番号:
436
口述日:
1922(大正11)年02月19日(旧01月23日)
口述場所:
筆録者:
森良仁
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年8月20日
概要:
舞台:
常世城
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一同が照彦が消えてしまったことを不審に思っていると、欄間にかかっている額の裏から、唸り声が聞こえてきた。
一同が驚いていると、声は照彦を取り逃がした中依別の失態をあげつらい出した。照山彦が木刀で額を打つと、声は今度は別の方角から聞こえてきた。
そして、ロッキー山の偽伊弉冊命の計略や、常世神王も広国別の影武者であることを暴露して、声は消えてしまった。
固虎、蟹彦は声に馬鹿にされて、常世城への不満をひそひそと語り合っている。それを聞きつけた竹山彦ら上役が、二人をしかりつけているところへ、間の国から春山彦の三人娘を送り届けてきたという使いが返ってきた。
一同は、遠山別がそんなに早く間の国へ行って往復してこれるはずがない、と不審に思い、門を開けると、そこには誰もいなかった。(遠山別が帰城したのは夢だった)
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-07-18 20:59:17
OBC :
rm1006
愛善世界社版:
53頁
八幡書店版:
第2輯 409頁
修補版:
校定版:
56頁
普及版:
24頁
初版:
ページ備考:
001
鷹取別
(
たかとりわけ
)
、
002
中依別
(
なかよりわけ
)
、
003
その
他
(
た
)
の
並居
(
なみゐ
)
る
役人
(
やくにん
)
共
(
ども
)
は
呆気
(
あつけ
)
に
取
(
と
)
られ
居
(
ゐ
)
る
時
(
とき
)
しも、
004
照山彦
(
てるやまひこ
)
はこの
場
(
ば
)
に
引返
(
ひきかへ
)
し
来
(
きた
)
り、
005
照山彦
『ヤア、
006
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
もあるものですなア。
007
今
(
いま
)
御覧
(
ごらん
)
の
如
(
ごと
)
く、
008
照彦
(
てるひこ
)
とやらこの
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ、
009
忽
(
たちま
)
ち
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
し、
010
門外
(
もんぐわい
)
にて
又
(
また
)
もや
数多
(
あまた
)
の
従者
(
けらい
)
共
(
ども
)
を
相手
(
あひて
)
に
乱暴
(
らんばう
)
狼藉
(
ろうぜき
)
を
働
(
はたら
)
くとの
注進
(
ちゆうしん
)
によつて、
011
取
(
と
)
るものも
取敢
(
とりあ
)
へず、
012
表
(
おもて
)
に
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し
様子
(
やうす
)
を
見
(
み
)
れば、
013
豈計
(
あにはか
)
らむや、
014
人影
(
ひとかげ
)
さへもなく、
015
ただ
彼方
(
かなた
)
の
森
(
もり
)
に、
016
コンコンと
狐
(
きつね
)
の
鳴
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
聞
(
きこ
)
ゆるのみで
御座
(
ござ
)
つた。
017
さてもさても
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
るワイ』
018
竹山彦
(
たけやまひこ
)
『
不思議
(
ふしぎ
)
と
言
(
い
)
つても、
019
斯様
(
かやう
)
な
不思議
(
ふしぎ
)
が
御座
(
ござ
)
らうか。
020
イヤ
中依別
(
なかよりわけ
)
殿
(
どの
)
、
021
はるばると
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
千万
(
せんばん
)
にも、
022
間
(
はざま
)
の
国
(
くに
)
まで
御
(
ご
)
足労
(
そくらう
)
になつたのも
全
(
まつた
)
く
水
(
みづ
)
の
泡
(
あわ
)
、
023
泡
(
あわ
)
を
喰
(
く
)
つてアフンと
致
(
いた
)
すとはこの
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
らう』
024
鷹取別
(
たかとりわけ
)
『フギヤフギヤフギヤ』
025
竹山彦
(
たけやまひこ
)
『
是
(
これ
)
はしたり
鷹取別
(
たかとりわけ
)
殿
(
どの
)
、
026
まだ
明瞭
(
はつきり
)
とは
申
(
まを
)
されませぬか。
027
寔
(
まこと
)
に
以
(
もつ
)
て
不憫
(
ふびん
)
、
028
不体裁
(
ふていさい
)
、
029
不幸
(
ふかう
)
、
030
フギヤフギヤの
至
(
いた
)
りで
御座
(
ござ
)
る』
031
欄間
(
らんま
)
の
懸額
(
けんがく
)
の
後
(
うしろ
)
より、
032
ウーと
唸
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
響
(
ひび
)
き
来
(
きた
)
る。
033
一同
(
いちどう
)
は
合点
(
がてん
)
ゆかずと、
034
懸額
(
けんがく
)
に
向
(
むか
)
つて
目
(
め
)
を
注
(
そそ
)
ぎ
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
くれば、
035
額
(
がく
)
の
後
(
うしろ
)
より、
036
声
『
ア
ハヽヽヽ、
037
アニ
図
(
はか
)
らむや、
038
妹
(
いもうと
)
図
(
はか
)
らむや、
039
はかり
知
(
し
)
られぬ
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
魔術
(
まじゆつ
)
にかけられ、
040
案
(
あ
ん
)
に
相違
(
さうゐ
)
の
汝
(
なんぢ
)
らが、
041
ア
フンと
致
(
いた
)
して
呆
(
あき
)
れ
果
(
は
)
てたるその
面付
(
つらつ
)
き、
042
余
(
あ
ま
)
りと
云
(
い
)
へば
余
(
あ
ま
)
りでないか。
043
頭
(
あ
たま
)
拘
(
かか
)
へて
ア
イタヽコイタヽ、
044
暗
(
やみ
)
から
現
(
あ
ら
)
はれた
赤玉
(
あ
かだま
)
に、
045
頭
(
あ
たま
)
を
押
(
おさ
)
へ
叩
(
たた
)
かれ、
046
鼻
(
はな
)
をメシヤゲられ、
047
赤
(
あ
か
)
い
顔
(
かほ
)
して
目
(
め
)
をキヨロつかせた
悪神
(
あ
くがみ
)
の
寄合
(
よりあ
)
ひ、
048
浅
(
あ
さ
)
い
智慧
(
ちゑ
)
を
以
(
もつ
)
て
何
(
なに
)
を
企
(
たく
)
んでも、
049
足下
(
あ
しもと
)
の
見
(
み
)
えぬ
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
が
盲目神
(
めくらがみ
)
、
050
足下
(
あ
しもと
)
から
鳥
(
とり
)
が
立
(
た
)
つぞよ。
051
何程
(
なにほど
)
焦慮
(
あ
せ
)
つても
鉄面
(
あ
つかま
)
しう
致
(
いた
)
しても
細引
(
ほそびき
)
の
褌
(
ふんどし
)
、
052
彼方
(
あ
ちら
)
へ
外
(
はづ
)
れ
此方
(
こちら
)
へ
外
(
はづ
)
れて、
053
後
(
あ
と
)
の
始末
(
しまつ
)
はこの
通
(
とほ
)
り、
054
あ
な
可笑
(
をか
)
しやな。
055
三五教
(
あ
ななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
と
侮
(
あ
など
)
つて、
056
阿呆
(
あ
ほう
)
の
限
(
かぎ
)
りを
尽
(
つく
)
した
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
、
057
余
(
あ
ま
)
りの
事
(
こと
)
で
二
(
ふた
)
つの
眼
(
め
)
から
あはれ
や
雨
(
あ
め
)
が
降
(
ふ
)
る。
058
怪
(
あ
や
)
しい
物音
(
ものおと
)
に
耳
(
みみ
)
を
澄
(
す
)
ませ、
059
有
(
あ
)
らう
事
(
こと
)
か
有
(
あ
)
ろまい
事
(
こと
)
か、
060
肝腎
(
かんじん
)
の
玉
(
たま
)
を
取
(
と
)
られたその
有様
(
あ
りさま
)
、
061
有
(
あ
)
るに
有
(
あ
)
られぬ
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
、
062
御
(
お
)
察
(
さつ
)
し
申
(
まを
)
す、
063
ア
ハヽヽヽ、
064
阿呆
(
あ
はう
)
々々
(
あ
はう
)
と
烏
(
からす
)
のお
悔
(
くや
)
み、
065
オホヽヽヽ』
066
照山彦
(
てるやまひこ
)
『ヤア
怪
(
あ
や
)
しき
額
(
がく
)
の
裏
(
うら
)
、
067
何
(
いづ
)
れの
悪神
(
あ
くがみ
)
か、
068
汝
(
なんぢ
)
が
正体
(
しやうたい
)
暴露
(
あ
らは
)
し
呉
(
く
)
れむ』
069
と
額
(
がく
)
を
目
(
め
)
がけて、
070
あり
合
(
あ
)
ふ
木刀
(
ぼくたう
)
を
取
(
と
)
るより
早
(
はや
)
くハツシと
打
(
う
)
てば、
071
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
は
再
(
ふたた
)
び
方向
(
はうかう
)
を
転
(
てん
)
じ、
072
何処
(
どこ
)
ともなしに、
073
声
『
イ
ヒヽヽヽ、
074
い
ぢらしいものだ。
075
幾程
(
い
くら
)
この
方
(
はう
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さが
)
した
処
(
ところ
)
で、
076
煎豆
(
い
りまめ
)
に
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
くまで
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
姿
(
すがた
)
は
判
(
わか
)
るまい。
077
如何
(
い
かが
)
なるらむと
呼吸
(
い
き
)
も
絶
(
た
)
えだえに
心
(
こころ
)
を
焦
(
い
ら
)
つ
意気地
(
い
くぢ
)
なし、
078
俺
(
おれ
)
が
意見
(
い
けん
)
をトツクと
聞
(
き
)
け。
079
長途
(
ちやうと
)
の
旅
(
たび
)
を
漸
(
やうや
)
う
此処
(
ここ
)
に
手柄顔
(
てがらがほ
)
して
威張顔
(
ゐ
ばりがほ
)
、
080
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た
中依別
(
なかよりわけ
)
、
081
一寸
(
ちよつと
)
一服
(
い
つぷく
)
憩
(
い
こ
)
ふ
間
(
ま
)
もなくこの
場
(
ば
)
の
仕儀
(
しぎ
)
、
082
聊
(
い
ささ
)
か
以
(
もつ
)
て
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
千万
(
せんばん
)
、
083
石
(
い
し
)
が
降
(
ふ
)
つても
槍
(
やり
)
が
降
(
ふ
)
つても、
084
照彦
(
てるひこ
)
の
居所
(
ゐ
どころ
)
を
探
(
さが
)
して
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
の
御
(
おん
)
目
(
め
)
にかけねば、
085
汝
(
なんぢ
)
の
顔
(
かほ
)
は
丸潰
(
まるつぶ
)
れ、
086
上役
(
うはやく
)
の
椅子
(
い
す
)
も
保
(
たも
)
てまい。
087
今迄
(
い
ままで
)
の
威勢
(
ゐ
せい
)
はさつぱり
地
(
ち
)
に
落
(
お
)
ちるぞよ。
088
手柄顔
(
てがらがほ
)
して
欣々
(
い
そ
い
そ
)
帰
(
かへ
)
つた
中依別
(
なかよりわけ
)
も、
089
嗚呼
(
ああ
)
痛
(
い
た
)
はしや
い
たはしや、
090
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
の
照彦
(
てるひこ
)
を
数多
(
あまた
)
の
人数
(
にんず
)
に
守
(
まも
)
らせ、
091
漸
(
やうや
)
う
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たものの、
092
何時
(
い
つ
)
の
間
(
ま
)
にやら
蛻
(
もぬけ
)
の
殻
(
から
)
、
093
お
憫
(
い
と
)
しい
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
るワイ。
094
今
(
い
ま
)
も
古
(
い
にしへ
)
も
類例
(
ためし
)
なき
赤恥
(
あかはぢ
)
を
掻
(
か
)
いて、
095
犬
(
い
ぬ
)
にも
劣
(
おと
)
る
浅猿
(
あさま
)
しさ。
096
犬
(
い
ぬ
)
でさへも
嗅付
(
かぎつ
)
けるのに、
097
何
(
なん
)
と
困
(
こま
)
つたものだのう。
098
言
(
い
)
ひ
甲斐
(
がひ
)
なき
汝
(
なんぢ
)
ら
一同
(
いちどう
)
、
099
忌々
(
い
ま
い
ま
)
しさうなその
面付
(
つらつき
)
、
100
常世
(
とこよ
)
の
国人
(
くにびと
)
に
茨
(
い
ばら
)
の
如
(
ごと
)
く
忌
(
い
)
み
嫌
(
きら
)
はれ、
101
嫌
(
い
や
)
らしい
面付
(
つらつ
)
きになつて
胴
(
どう
)
も
据
(
すわ
)
らず、
102
い
ら
い
らとその
肝煎
(
きも
い
)
り、
103
曲津
(
まがつ
)
の
神
(
かみ
)
の
好
(
よ
)
い
容器
(
い
れもの
)
、
104
思案
(
しあん
)
の
外
(
ほか
)
とは
色情
(
い
ろ
)
ばかりではないぞよ。
105
ウフヽヽヽ』
106
照山彦
(
てるやまひこ
)
『
如何
(
い
か
)
にも
合点
(
がてん
)
のゆかぬ
物声
(
ものごゑ
)
で
御座
(
ござ
)
る。
107
何
(
い
づ
)
れも
方
(
がた
)
、
108
如何
(
い
かが
)
いたしたらよからうかな。
109
色
(
い
ろ
)
いろと
工夫
(
くふう
)
を
致
(
い
た
)
して、
110
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
き
異声
(
い
せい
)
を
打
(
う
)
ち
消
(
け
)
さねばなりますまい』
111
又
(
また
)
もや
何処
(
いづこ
)
ともなく、
112
声
『
ウ
フヽヽヽ、
113
呆気
(
う
つけ
)
もの、
114
狼狽
(
う
ろたへ
)
もの、
115
何
(
なに
)
を
ウ
サ
ウ
サ
吐
(
ほざ
)
くのか、
116
憂
(
う
)
いか、
117
辛
(
つら
)
いか、
118
う
か
う
かと
計略
(
けいりやく
)
にかかり、
119
こんな
憂
(
う
)
き
目
(
め
)
を
見
(
み
)
せられて、
120
浮
(
う
か
)
ぶ
瀬
(
せ
)
もあろまい。
121
動
(
う
ご
)
きの
取
(
と
)
れぬこの
有様
(
ありさま
)
、
122
嘘
(
う
そ
)
で
捏
(
つく
)
ねた
罰
(
ばち
)
は
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
、
123
頭
(
あたま
)
を
打
(
う
)
たれ
鼻
(
はな
)
を
打
(
う
)
ち、
124
呆
(
とぼ
)
けた
面
(
つら
)
して
現
(
う
つつ
)
三太郎
(
さんたらう
)
、
125
智慧
(
ちゑ
)
の
疎
(
う
と
)
いにも
程
(
ほど
)
がある。
126
甘
(
う
ま
)
い
企
(
たく
)
みも
水
(
みづ
)
の
泡
(
あわ
)
、
127
う
よ
う
よと
毛虫
(
けむし
)
のやうに
何
(
なに
)
をして
居
(
を
)
る。
128
ウ
ラル
彦
(
ひこ
)
の
教
(
をしへ
)
を
奉
(
ほう
)
ずる
狼狽
(
う
ろたへ
)
もの、
129
この
方
(
はう
)
の
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
は
気
(
き
)
に
入
(
い
)
ろまい、
130
煩
(
う
る
)
さからう。
131
その
憂
(
う
れ
)
ひ
顔
(
がほ
)
は
何
(
なん
)
だ。
132
この
上
(
う
へ
)
もなき
馬鹿
(
ばか
)
な
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
うて、
133
頭
(
あたま
)
は
へさへ
られ、
134
鼻
(
はな
)
は
挫
(
め
)
がれ、
135
照彦
(
てるひこ
)
には
逃
(
に
)
げられ、
136
他所
(
よそ
)
の
見
(
み
)
る
目
(
め
)
も
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
なりける
次第
(
しだい
)
だ。
137
ワハヽヽヽ』
138
中依別
(
なかよりわけ
)
『ヤー
方々
(
かたがた
)
、
139
あの
声
(
こゑ
)
は
何者
(
なにもの
)
で
御座
(
ござ
)
らうな。
140
強
(
きつ
)
う
耳
(
みみ
)
に
触
(
さは
)
り
申
(
まを
)
す。
141
ウラル
教
(
けう
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
でも
歌
(
うた
)
へば
消
(
き
)
えるでせうかな。
142
コレコレ
竹山彦
(
たけやまひこ
)
殿
(
どの
)
、
143
貴下
(
きか
)
は
何
(
なん
)
とか
御
(
ご
)
工夫
(
くふう
)
はあるまいか』
144
竹山彦
『サア、
145
吾々
(
われわれ
)
も
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
き
声
(
こゑ
)
ばかりに
向
(
むか
)
つては、
146
何
(
なん
)
の
手段
(
しゆだん
)
も
御座
(
ござ
)
らぬ』
147
額
(
がく
)
の
上
(
うへ
)
より、
148
声
『エヘヽヽヽ、
149
オホヽヽヽ』
150
照山彦
(
てるやまひこ
)
『エヽ
又
(
また
)
始
(
はじ
)
まつた。
151
奇怪
(
きくわい
)
千万
(
せんばん
)
な
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
で
御座
(
ござ
)
る』
152
何処
(
いづこ
)
ともなく、
153
声
『
エ
ヘヽヽヽ、
154
エ
ヽ
面倒
(
めんだう
)
な、
155
モー
之
(
これ
)
位
(
くらゐ
)
で
止
(
や
)
めようか。
156
イヤイヤまだあるまだある。
157
オ
ホヽヽヽ、
158
大国彦
(
お
ほくにひこ
)
の
神
(
かみ
)
を
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
と
偽
(
いつは
)
り、
159
大国姫
(
お
ほくにひめ
)
を
伊邪那美
(
いざなみの
)
神
(
かみ
)
と
偽
(
いつは
)
つて、
160
ロッキー
山
(
ざん
)
に
立籠
(
たてこも
)
り、
161
この
世
(
よ
)
を
乱
(
みだ
)
さむ
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
一味
(
いちみ
)
の
企
(
たく
)
み。
162
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
とは
真赤
(
まつか
)
な
偽
(
いつは
)
り、
163
極悪
(
ごくあく
)
無道
(
ぶだう
)
の
広国別
(
ひろくにわけ
)
、
164
鬼
(
お
に
)
とも
蛇
(
じや
)
とも
分
(
わか
)
らぬ
悪人
(
あくにん
)
、
165
カ
ヽヽヽ
神
(
か
み
)
も
堪
(
こら
)
へ
袋
(
ぶくろ
)
が
切
(
き
)
れるぞよ。
166
固虎
(
か
たとら
)
や
蟹彦
(
か
にひこ
)
の
不具
(
か
たは
)
人足
(
にんそく
)
の
構
(
かま
)
へて
居
(
ゐ
)
る
常世城
(
とこよじやう
)
の
表門
(
おもてもん
)
、
167
体主霊従国
(
か
らくに
)
はサツパリ
破
(
ば
)
れて
今
(
いま
)
の
状態
(
ありさま
)
、
168
悔
(
くや
)
んで
還
(
か
へ
)
らぬ
照彦
(
てるひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
169
どうして
顔
(
か
ほ
)
が
立
(
た
)
つと
思
(
おも
)
ふか、
170
返
(
か
へ
)
す
返
(
が
へ
)
すも
馬鹿
(
ば
か
)
な
奴
(
やつ
)
だ。
171
可憐相
(
か
はいさう
)
なから、
172
神
(
か
み
)
は
之
(
これ
)
きりにして
帰
(
か
へ
)
つてやらう。
173
今後
(
こんご
)
は
気
(
き
)
を
附
(
つ
)
けたが
宜
(
よ
)
からう。
174
ウー』
175
固虎
(
かたとら
)
、
176
蟹彦
(
かにひこ
)
は
広
(
ひろ
)
き
庭前
(
にはさき
)
に
蛙
(
かへる
)
突這
(
つくばひ
)
となつて、
177
蛙
(
かへる
)
に
煙草
(
たばこ
)
の
汁
(
ず
)
を
呑
(
の
)
ませし
如
(
ごと
)
く、
178
目
(
め
)
をしばしばさせながら、
179
固虎
(
かたとら
)
『
ア
ヽヽ
阿呆
(
あ
ほ
)
らしい、
180
悪性
(
あ
くしやう
)
な
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はされて、
181
イ
ヽヽ
何時
(
い
つ
)
の
世
(
よ
)
にか
忘
(
わす
)
れられやうか。
182
ウ
ヽヽ
迂濶
(
う
か
)
々々
(
う
か
)
して
居
(
ゐ
)
ると、
183
カ
ヽヽ
蟹彦
(
か
にひこ
)
よ、
184
キ
ヽヽ
狂者
(
き
ちがひ
)
になるぞよ』
185
蟹彦
(
かにひこ
)
『
何
(
なん
)
だ、
186
貴様
(
きさま
)
は
化物
(
ばけもの
)
の
真似
(
まね
)
をしよつて、
187
ク
ヽヽなんて
目
(
め
)
計
(
ばか
)
り
ク
ル
ク
ル
剥
(
む
)
いて、
188
黒
(
く
ろ
)
い
面
(
つら
)
して
くたば
つて、
189
ク
ヽヽもあつたものかい。
190
ケ
ヽヽ
怪体
(
け
つたい
)
が
悪
(
わる
)
いぞ、
191
怪
(
け
)
しからぬ
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
うた。
192
マア
怪我
(
け
が
)
がなくてまだしもだ。
193
コ
ヽヽ
こ
んな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
うたら、
194
如何
(
いか
)
な
鷹取別
(
たかとりわけ
)
でも、
195
サ
ヽヽ
早速
(
さ
つそく
)
に
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
が
閉
(
すぼ
)
まるまい』
196
声
『
シ
ヽヽ
静
(
し
づ
)
かにせぬかい、
197
聞
(
きこ
)
えたら
叱
(
し
か
)
られるぞ、
198
ス
ヽヽ
好
(
す
)
かぬたらしい。
199
セ
ヽヽ
せ
んぐり
せ
んぐり
仕様
(
しやう
)
もない
事
(
こと
)
言
(
い
)
ひよつて、
200
背
(
せ
)
に
腹
(
はら
)
が
替
(
か
)
へられぬと
言
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な、
201
誰
(
たれ
)
も
彼
(
かれ
)
も
面付
(
つらつき
)
を
遊
(
あそ
)
ばした
そ
の
可笑
(
をか
)
しさ。
202
タ
ヽヽ
狸
(
た
ぬき
)
の
奴
(
やつ
)
に、
203
チヽヽ
チ
ツクリ、
204
ツ
ヽヽ
魅
(
つ
ま
)
まれよつて、
205
テ
ヽヽ
体裁
(
て
いさい
)
の
悪
(
わる
)
い、
206
ト
ヽヽ
蜥蜴面
(
と
かげづら
)
して、
207
ナ
ヽヽ
何
(
な
ん
)
の
態
(
ざま
)
だ。
208
中依別
(
な
かよりわけ
)
もあつたものか。
209
ニ
ヽヽ
二進
(
に
つち
)
も
三進
(
さつち
)
もならぬ
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はされて、
210
月夜
(
つきよ
)
に
釜
(
かま
)
を
抜
(
ぬ
)
かれたやうな
面
(
つら
)
をして、
211
根
(
ね
)
つから
葉
(
は
)
つから
見当
(
けんたう
)
が
取
(
と
)
れぬでないか。
212
ノ
ヽヽ
進退
(
の
つぴき
)
ならぬ
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
うて、
213
ハ
ヽヽ
恥
(
は
ぢ
)
を
掻
(
か
)
き、
214
ヒ
ヽヽ
雲雀
(
ひ
ばり
)
のやうに、
215
フ
ヽヽ
ふ
ざいた、
216
ヘ
ヽヽ
屁理屈
(
へ
りくつ
)
も、
217
ホ
ヽヽ
反古
(
ほ
ご
)
になつて、
218
マ
ヽヽ
松代姫
(
ま
つよひめ
)
や
竹野姫
(
たけのひめ
)
、
219
梅ケ香姫
(
うめがかひめ
)
の、
220
ミ
ヽヽ
三人
(
み
たり
)
の、
221
ム
ヽヽ
娘
(
む
すめ
)
を、
222
メ
ヽヽ
妾
(
め
かけ
)
にしよつて、
223
モ
ヽヽ
桃
(
も
も
)
の
実
(
み
)
だとか、
224
梅
(
うめ
)
の
実
(
み
)
だとか、
225
ウメイ
事
(
こと
)
ばつかり、
226
ヤ
ヽヽ
や
らかそと
思
(
おも
)
つても、
227
イ
ヽヽ
い
きはせぬぞよ。
228
ユ
ヽヽ
幽霊
(
い
うれい
)
の
浜風
(
はまかぜ
)
ぢやないが、
229
またドロンと
消
(
き
)
えられて、
230
エ
ヽヽ
豪
(
え
ら
)
い
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
くのであらう。
231
ヨ
ヽヽ
余程
(
よ
つぽど
)
よ
い
白痴
(
たわけ
)
ぢやワイ』
232
竹山彦
(
たけやまひこ
)
『ヤイ、
233
その
方
(
はう
)
共
(
ども
)
は
何
(
なに
)
を
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で
吐
(
ほざ
)
いて
居
(
を
)
るか。
234
なぜもつと
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
申
(
まを
)
さぬのか』
235
固虎
(
かたとら
)
『
カ
ヽヽ
勘忍
(
か
んにん
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
236
一寸
(
ちよつと
)
化物
(
ばけもの
)
の
かたとら
を
行
(
や
)
りました。
237
固虎
(
か
たとら
)
の
狂言
(
きやうげん
)
、
238
が
た
が
た
顫
(
ぶる
)
ひの
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
、
239
実
(
まこと
)
に
以
(
もつ
)
て
御
(
お
)
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
千万
(
せんばん
)
』
240
照山彦
(
てるやまひこ
)
は
大声
(
おほごゑ
)
にて、
241
照山彦
『
馬鹿
(
ばか
)
ツ』
242
固虎
(
かたとら
)
、
243
蟹彦
(
かにひこ
)
、
244
両手
(
りやうて
)
を
拡
(
ひろ
)
げ
立上
(
たちあが
)
り、
245
固虎、蟹彦
『アー』
246
固虎
(
かたとら
)
『オイ
蟹公
(
かにこう
)
、
247
貴様
(
きさま
)
は
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
うたのだ』
248
蟹彦
(
かにひこ
)
『
固公
(
かたこう
)
、
249
貴様
(
きさま
)
は
何
(
なに
)
言
(
い
)
うたのだい。
250
俺
(
おれ
)
は
何
(
なに
)
も
言
(
い
)
ふ
積
(
つも
)
りぢやなかつたのに、
251
俄
(
にはか
)
に
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
から
何
(
なん
)
だか
出
(
で
)
て
来
(
き
)
よつて、
252
止度
(
とめど
)
もなく
喋
(
しやべ
)
つたのだ』
253
固虎
『
貴様
(
きさま
)
もさうか。
254
俺
(
おれ
)
も
何
(
なん
)
だか
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
から
声
(
こゑ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
よつて、
255
止
(
と
)
めようと
思
(
おも
)
つても
止
(
と
)
まらぬ。
256
止
(
と
)
めて
止
(
や
)
まらぬ
こゑ
の
道
(
みち
)
だ』
257
蟹彦
『
洒落
(
しやれ
)
ない、
258
洒落
(
しやれ
)
どころの
騒
(
さわ
)
ぎかい』
259
この
時
(
とき
)
門前
(
もんぜん
)
に
又
(
また
)
もや
騒
(
さわ
)
がしき
人馬
(
じんば
)
の
物音
(
ものおと
)
聞
(
きこ
)
え
来
(
きた
)
る。
260
一同
(
いちどう
)
は
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
261
何事
(
なにごと
)
ならむと
聞耳
(
ききみみ
)
立
(
た
)
つるを、
262
蟹彦
(
かにひこ
)
は
矢庭
(
やには
)
に
横
(
よこ
)
しなげになりて、
263
表門
(
おもてもん
)
に
駆
(
か
)
け
付
(
つ
)
くれば、
264
遠山別
『ヤアヤア
吾
(
われ
)
こそは、
265
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
の
命
(
めい
)
を
奉
(
ほう
)
じ
間
(
はざま
)
の
国
(
くに
)
に
使
(
つか
)
ひして、
266
月
(
つき
)
、
267
雪
(
ゆき
)
、
268
花
(
はな
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
奪
(
うば
)
ひ
帰
(
かへ
)
つた
手柄者
(
てがらもの
)
、
269
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
門
(
もん
)
を
開
(
あ
)
けよ』
270
蟹彦
(
かにひこ
)
『
何
(
なん
)
と
合点
(
がてん
)
のゆかぬ
事
(
こと
)
だワイ。
271
現
(
げん
)
に
今夜
(
こんや
)
出立
(
しゆつたつ
)
した
遠山別
(
とほやまわけ
)
が、
272
何
(
なに
)
ほど
足
(
あし
)
が
速
(
はや
)
いと
言
(
い
)
つても、
273
間
(
はざま
)
の
国
(
くに
)
へは
三百
(
さんびやく
)
里
(
り
)
もある。
274
そんな
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
があつて
堪
(
たま
)
るものか。
275
這奴
(
こいつ
)
アまた
化物
(
ばけもの
)
だ。
276
開
(
あ
)
けて
堪
(
たま
)
らうかい』
277
門外
(
もんぐわい
)
より、
278
遠山別
『コラコラ
門番
(
もんばん
)
、
279
何
(
なに
)
をグヅグヅ、
280
……
速
(
すみや
)
かにこの
門
(
もん
)
開
(
ひら
)
け』
281
蟹彦
『
此
(
この
)
門
(
もん
)
も
彼
(
あ
)
の
門
(
もん
)
もあるもんか。
282
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
もん
が
遣
(
や
)
つて
来
(
き
)
よつて、
283
又
(
また
)
も
一
(
ひと
)
もん
ちやくを
起
(
おこ
)
さうとするのか。
284
よしこの
方
(
はう
)
にも
考
(
かんが
)
へがある、
285
門番
(
もん
ばん
)
だとて
馬鹿
(
ばか
)
にはならぬぞ。
286
この
蟹彦
(
かにひこ
)
さまの
腕力
(
わんりよく
)
で、
287
もん
で
もん
で
揉
(
も
)
み
潰
(
つぶ
)
してやらうか。
288
オーイオーイ、
289
赤熊
(
あかぐま
)
早
(
はや
)
う
来
(
こ
)
ぬかい、
290
又
(
また
)
こん
こん
さまだ。
291
今夜
(
こんや
)
のやうな
怪体
(
けつたい
)
な
夜
(
よ
)
さりと
言
(
い
)
ふものは、
292
古今
(
ここん
)
独歩
(
どつぽ
)
珍無類
(
ちんむるゐ
)
だ。
293
今晩
(
こんばん
)
は
非
(
ひ
)
が
邪
(
じや
)
でも、
294
この
門
(
もん
)
開
(
あ
)
ける
事
(
こと
)
はまかり
成
(
な
)
る
もん
か』
295
と
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てて
居
(
ゐ
)
る。
296
赤熊
(
あかぐま
)
はこの
場
(
ば
)
に
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
297
赤熊
『ヤイヤイ
蟹彦
(
かにひこ
)
、
298
確
(
しつか
)
りせぬか。
299
何
(
なに
)
を
吐
(
ほざ
)
いて
居
(
を
)
るのだ。
300
門
(
もん
)
はすつかり
開
(
あ
)
いてあるぢやないか、
301
開
(
あ
)
けるも
開
(
あ
)
けぬもあつた
もん
かい。
302
モーつい
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けるのだ。
303
何
(
なに
)
を
寝
(
ね
)
呆
(
とぼ
)
けて
居
(
ゐ
)
るのだ』
304
と
拳固
(
げんこ
)
を
固
(
かた
)
めて
横面
(
よこづら
)
をポカンと
打
(
う
)
てば、
305
蟹彦
(
かにひこ
)
は
吃驚
(
びつくり
)
し
目
(
め
)
を
擦
(
こす
)
りながら、
306
よくよく
見
(
み
)
れば
門
(
もん
)
は
がらり
と
開
(
ひら
)
いて
人影
(
ひとかげ
)
もなく、
307
月
(
つき
)
は
西山
(
せいざん
)
に
落
(
お
)
ちて、
308
木枯
(
こがらし
)
の
風
(
かぜ
)
ヒユウヒユウと
笛
(
ふえ
)
吹
(
ふ
)
いて
渡
(
わた
)
り
行
(
ゆ
)
くのみなり。
309
(
大正一一・二・一九
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