第一三章 蟹の将軍〔四四三〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
篇:第1篇 千軍万馬
よみ(新仮名遣い):せんぐんばんば
章:第13章 蟹の将軍
よみ(新仮名遣い):かにのしょうぐん
通し章番号:443
口述日:1922(大正11)年02月22日(旧01月26日)
口述場所:
筆録者:外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:1922(大正11)年8月20日
概要:
舞台:ロッキー山の山麓
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:淤縢山津見は固虎を案内者としてロッキー山に向かった。ロッキー山に着いてみると、多数の魔軍は武装を整え、今や出陣せんとする真っ最中であった。
淤縢山津見は固虎を偵察に使わした。偵察に赴いた固虎は、城門で蟹彦にばったりと出くわした。
蟹彦はやはり門番から上役に変えられて、将軍となっていたのであった。蟹彦は、出陣の理由を語って聞かせた。
天教山から伊弉諾命が黄泉島に現れ、黄泉比良坂に向かって軍勢を率いて出陣してきたので、常世の国にとって重要な地点である黄泉比良坂を守るために、ロッキー山の「伊弉冊命」が出陣を命じたのだ、と語った。
さらに蟹彦は、ロッキー山の伊弉冊命は実は、大自在天の妻・大国姫命であり、ロッキー山の日の出神は、大自在天・大国彦命が化けているのだ、と明かした。そうして、広国別が常世城で常世神王に化けているのだ、と語った。
そして、蟹彦は、実は聖地エルサレムの家来・竹島彦命であり、大自在天常世神王の命によって、わざと横歩きをして門番と化けていたのだ、と素性を明かした。
蟹彦の竹島彦命は、今回の出陣の第一隊の大将を命じられている、という。そして、今回の戦いには松・竹・梅の三宣伝使が三個の桃の実としてどうしても必要であり、三個の桃の実がなければ、この戦いは勝ち目がないのだ、と秘密を明かし、出陣の準備に行ってしまった。
固虎は淤縢山津見のところへ戻って、委細を詳しく報告した。淤縢山津見は、ロッキー山の秘密が珍山彦の神懸りで託宣されたとおりであるので、驚き、かつ託宣を疑っていた自分を恥じた。
ロッキー山からは、蟹彦を大将とした第一隊の軍勢が次々と出陣していく。次に美山別を大将に第二隊が出て行く。また、国玉姫、田糸姫、杵築姫を偽の三個の桃の実に扮して、桃の実隊を組織している。
二人が軍勢の様子を見ていると、木霊の中に宣伝歌が聞こえてきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:2020-07-15 22:15:22
OBC :rm1013
愛善世界社版:107頁
八幡書店版:第2輯 429頁
修補版:
校定版:111頁
普及版:49頁
初版:
ページ備考:
001 固虎は淤縢山津見神の案内者として、002山道を攀ぢ、003谷を渡り、004間道を経てロッキー山の山麓に着きしが、005数多の魔軍は武装を整へ、006今や出陣せむとする真最中なり。007淤縢山津見は偵察の為に固虎を遣はして、008ロッキー山の城塞に向はしめ、009城門に入らむとする時、010ピタリと蟹彦に出会せり。
011蟹彦『オー固虎、012数多の軍勢を引率れて、013『目』の国カリガネ半島へ宣伝使を捕縛すべく出陣したではないか。014その後一向何の消息も聞かぬので、015如何なつたことかと思つてゐたが、016唯一人此処へ出て来たのは何か様子があらう。017常世城へも帰らず、018一体引率した軍隊は如何したのだい』
019固虎『何うも斯うもあつたものか。020戦ひは多く味方を損ぜざるを以て最上とする。021何も知らぬ数多の戦士を傷つけるよりは、022高の知れた宣伝使の三人や五人、023計略を以て常世城へ誘き寄するに如かずと、024取置きの智慧を出したのだ。025マア見て居て呉れ、026此方の働きを』
027蟹彦『門番の成上り奴が、028あまり偉さうに法螺を吹くない』
029固虎『門番の成上りはお互ひだ。030併し斯く騒々しく数多の戦士を集めて、031日の出神は如何する積りだい』
032蟹彦『そんな間の抜けた事を云つて居るから困るのだ。033貴様は未だ知らぬのか。034余程薄のろだな。035常世の国の、036眼とも鼻とも喉首とも譬へ方ない大事の黄泉島に、037天教山より伊弉諾神が現はれ給うて、038この醜けき汚き黄泉国を祓ひ清め、039常世の国まで進み来らむと、040智仁勇兼備の神将を数多引率して、041黄泉比良坂に向つて攻めかけ来り給うたと云ふ事だ。042さうなれば常世の国は片顎を取られたやうなもので、043滅亡をするのは目のあたりだと云ふので、044伊弉冊大神様、045日の出神の御大将が此処に数多の戦士を集め、046是より常世城の軍隊と合し、047黄泉比良坂に進軍せむとさるる間際なのだ。048貴様も早く軍隊を引率れて黄泉比良坂の戦に参加せなくては、049千載一遇の好機を逸するぞ。050愚図々々いたして悔を後世に胎すな。051千騎一騎のこの場合、052手柄をするなら今この時だ』
053固虎『神様の夫婦喧嘩といふものは、054大袈裟なものだな。055犬も喰はない夫婦喧嘩に大勢のものが、056馬鹿らしくつて往けるものか。057若も戦に行つて生命でも取られて見よ。058数万の戦士は、059何奴も此奴も可愛い女房や子に別れねばならぬ。060たつた一つの夫婦喧嘩に使はれて、061大勢のものが後家にならねばならぬとは、062合点の行かぬ世の中だ』
063蟹彦『貴様は余程よい薄馬鹿だ。064ロッキー山や、065常世城の秘密は、066うすうす判つて居りさうなものぢやないか。067知らな云うてやらう。068伊弉冊命と名乗つてござるのは、069その実は大国姫命だ。070そして日の出神と名乗つて居るのは、071その夫神の大国彦命だよ。072固虎もそれが判らぬ様ではダメだよ』
073固虎『初めて聞いた。074貴様の話は益々合点がゆかなくなつて来た。075それなら常世神王は誰だい。076蟹公知つてるだらう』
077蟹彦『常世神王は広国別だよ。078一旦死んだと云つて常世の国の一般のものを誑かし、079自分が大国彦様と相談の結果、080広国別が常世神王になつて居るのだ。081これには深い仔細がある。082その秘密の鍵を握つた蟹彦は、083常世神王の内々の頼みに依つて、084今まで故意と門番になつてゐたのだよ』
085固虎『それなら貴様は、086元は誰だい』
087蟹彦『馬鹿だな、088未だ分らぬか。089俺はわざと身体を歪めて横に歩き、090顔にいろいろの汁を塗つて化けてゐたのだが、091もとを糺せば聖地ヱルサレムの家来であつた竹島彦命だよ。092是から吾々は先頭に立つて、093黄泉比良坂に向ふのだ。094併し軍機の秘密は洩らされない、095他言は無用だ。096併し乍ら、097ロッキー山の伊弉冊大神さまは全くの贋物だ。098吾々も本物に使はれるのは、099たとへ敵にもせよ気分がよいが、100生地をかくした鍍金ものだと思ふと、101何だかモー一つ力瘤が這入らぬやうな心持がするよ』
102固虎『貴様、103今度は誰が大将で往くのだ』
106と自分の鼻を押へて見せる。
107固虎『弱い大将だな。108今度の戦ひは馬ーの毛だ。109何分大将が間抜けだから仕方がない』
110蟹彦(竹島彦)『馬鹿を云ふな。111大将は馬鹿がよいのだ。112あまり智慧があつて、113コセコセ致すと大局を誤る虞があるので、114この薄のろの竹島彦が全軍統率の任に当つて居るのだ。115これでも三軍の将だぞ。116あまり馬鹿にしては貰ふまいかい。117併し固虎、118五人の宣伝使を何処に置いたのだ。119松、120竹、121梅の三人の桃の実がなければこの戦ひは勝目がないと、122伊弉冊命様の……ドツコイ大国姫命の御命令だ。123早く三人を貴様の手にあるなら御目にかけて、124抜群の功名をなし、125手柄者と謳はれるがよからう』
128蟹彦(竹島彦)『俺に見せる必要はないから、129早く伊弉冊の贋の大神さまに御目にかけるのだよ。130ヤア鳴雷、131若雷、132早く来れ』
133と馬に跨り法螺貝を吹き立てながら、134ブウブウと口角蟹のやうな泡を飛ばして進み行く。
135 固虎は蟹彦の偽らざる此の物語を聴いて胸を躍らせながら、136淤縢山津見に一切を報告したるに、137淤縢山津見は太き息を吐き、
138淤縢山津見『アヽさうか。139疑はれぬは神懸りだ。140蚊々虎の神懸りを実の事を云へば、141今まで疑つてゐたのは恥かしい。142審神は容易に吾々の如き盲では出来るものではない。143併し乍ら之を思へば、144珍山彦の神変不思議の力には感嘆せざるを得ない。145先づまづ暫らく身を潜めて、146様子を窺ふことにしよう』
147と、148樹木茂れる森林の中に両人は姿を隠し時を待ちゐる。149蟹彦の竹島彦が一隊を引率し、150威風凛々として四辺を払ひ出陣した後に、151又もや法螺貝の音、152太鼓の響、153ハテ訝かしやと木の間を透して打眺め、154固虎は頓狂な声にて、
155固虎『ヤア、156また第二隊が出て行き居るぞ。157第二隊の大将は誰だか知らむ』
158淤縢山津見『御苦労だが、159敵近く寄つて様子を査べ報告して呉れないか』
161といふより早く固虎は、162猿が梢を伝ふが如く、163しのびしのび敵前近く進み行く。164美山別は陣頭に立ち采配を打揮ひながら、
166と号令してゐる。167左右の副将は土雷、168伏雷の猛将である。169花を欺く松、170竹、171梅の三人に扮したる国玉姫、172田糸姫、173杵築姫は馬上に跨りながら、174桃の実隊として美々しき衣裳を太陽に照されながら、175ピカリピカリと進んで来る。176数多の軍勢は足音を揃へて、177種々の武器を携へ繰出す仰々しさ。178固虎は直様引返し、179淤縢山津見に詳細の顛末を報告したり。
180淤縢山津見『ヤア、181御苦労ご苦労、182ロッキー山の軍人はあれでしまひか』
183固虎『ナニ、184ほんの一部分です。185必要に応じて未だ未だ出すかも知れませぬ』
186淤縢山津見『ウン、187油断のならぬ醜神の仕組、188吾々も一つ考へねばならぬワイ』
189 このとき木霊に響く宣伝歌の声、190二人は思はず其の声に聞耳澄ました。191忽ち東南の風吹き荒んで音騒がしく、192宣伝歌は風の音に包まれにける。
193(大正一一・二・二二 旧一・二六 外山豊二録)