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第1巻(子の巻)
第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
第4巻(卯の巻)
第5巻(辰の巻)
第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
第12巻(亥の巻)
如意宝珠
第13巻(子の巻)
第14巻(丑の巻)
第15巻(寅の巻)
第16巻(卯の巻)
第17巻(辰の巻)
第18巻(巳の巻)
第19巻(午の巻)
第20巻(未の巻)
第21巻(申の巻)
第22巻(酉の巻)
第23巻(戌の巻)
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海洋万里
第25巻(子の巻)
第26巻(丑の巻)
第27巻(寅の巻)
第28巻(卯の巻)
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第32巻(未の巻)
第33巻(申の巻)
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第35巻(戌の巻)
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第61巻(子の巻)
第62巻(丑の巻)
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第64巻(卯の巻)下
第65巻(辰の巻)
第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
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第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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特別編 入蒙記
第1篇 日本より奉天まで
01 水火訓
02 神示の経綸
03 金剛心
04 微燈の影
05 心の奥
06 出征の辞
07 奉天の夕
第2篇 奉天より洮南へ
08 聖雄と英雄
09 司令公館
10 奉天出発
11 安宅の関
12 焦頭爛額
13 洮南旅館
14 洮南の雲
第3篇 洮南より索倫へ
15 公爺府入
16 蒙古の人情
17 明暗交々
18 蒙古気質
19 仮司令部
20 春軍完備
21 索倫本営
第4篇 神軍躍動
22 木局収ケ原
23 下木局子
24 木局の月
25 風雨叱咤
26 天の安河
27 奉天の渦
28 行軍開始
29 端午の日
30 岩窟の奇兆
第5篇 雨後月明
31 強行軍
32 弾丸雨飛
33 武装解除
34 竜口の難
35 黄泉帰
36 天の岩戸
37 大本天恩郷
38 世界宗教聯合会
39 入蒙拾遺
附 入蒙余録
大本の経綸と満蒙
世界経綸の第一歩
蒙古建国
蒙古の夢
余白歌
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第一五章
公爺府
(
コンエフ
)
入
(
いり
)
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 特別篇 山河草木 入蒙記
篇:
第3篇 洮南より索倫へ
よみ(新仮名遣い):
とうなんよりそーろんへ
章:
第15章 公爺府入
よみ(新仮名遣い):
こんえふいり
通し章番号:
口述日:
1925(大正14)年08月
口述場所:
筆録者:
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年2月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
いよいよ公爺府に入ることが決まり、地図を手に入れたりと準備が始まった。三月二十二日には王天海、張貴林、公爺府の協理である老印君らが到着した。
三月二十五日の早朝、一行は三台の轎車に分乗し、トール河を渡って北を目指して進んでいった。その日は洮南から百二十支里離れた牛馬宿に一泊した。
翌朝出立し、正午に王爺廟の張文海の宅に着いた。王爺廟はラマ僧が三百人ほど居る。日本のラマ僧が来たからといって、一人残らず日出雄に挨拶に来た。日出雄は人々に携帯してきた飴を一粒ずつ与えた。
大ラマは部下に命じて鯉をとらせ、日出雄に献上した。午後二時、日出雄が王爺廟を出ようとすると、大ラマは牛乳のせんべいを日出雄に送った。
日出雄は釈迦が出立のときに、若い女に牛乳をもらって飲んだ故事を思い出し、奇縁として喜んだ。このとき、日出雄の左の手のひらから釘の聖痕が現れ、盛んに出血して腕にしたたるほどであった。しかし日出雄はまったく痛さを感じなかった。
日出雄一行は公爺府の老印君の館に午後六時ごろ、無事に到着した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
2024/1/14出口王仁三郎全集第6巻を底本として校正。
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-01-14 23:44:34
OBC :
rmnm15
愛善世界社版:
133頁
八幡書店版:
第14輯 596頁
修補版:
校定版:
133頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
日出雄
(
ひでを
)
と
守高
(
もりたか
)
は
平馬
(
へいま
)
氏
(
し
)
の
宅
(
たく
)
に
暴風
(
ばうふう
)
を
避
(
さ
)
け、
002
真澄別
(
ますみわけ
)
以下
(
いか
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
猪野
(
ゐの
)
敏夫
(
としを
)
氏
(
し
)
の
春山
(
はるやま
)
医院
(
いゐん
)
に
陣取
(
ぢんど
)
つていろいろの
豪傑話
(
がうけつばなし
)
に
耽
(
ふけ
)
り、
003
守高
(
もりたか
)
は
柔術
(
じうじゆつ
)
の
実習
(
じつしふ
)
や
講演
(
かうえん
)
をやつて、
004
大
(
おほい
)
にメートルを
上
(
あ
)
げてゐる。
005
そして
守高
(
もりたか
)
は
摩利支
(
まりし
)
天
(
てん
)
、
006
名田彦
(
なだひこ
)
は
一億
(
いちおく
)
円
(
ゑん
)
、
007
真澄別
(
ますみわけ
)
は
泰然
(
たいぜん
)
自若
(
じじやく
)
、
008
岡崎
(
をかざき
)
は
霞
(
かすみ
)
ケ
関
(
せき
)
と
云
(
い
)
ふ
仇名
(
あだな
)
をつけられた。
009
猪野
(
ゐの
)
は
鄭家屯
(
ていかとん
)
の
日本
(
につぽん
)
坊主
(
ばうづ
)
を
殴
(
なぐ
)
つた
話
(
はなし
)
や、
010
大川
(
おほかは
)
金作
(
きんさく
)
のローマンスの
追懐談
(
つひくわいだん
)
に
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
011
そして
東三省
(
とうさんしやう
)
一
(
いち
)
の
美人
(
びじん
)
と
云
(
い
)
ふ
支那
(
しな
)
芸者
(
げいしや
)
が
猪野
(
ゐの
)
に
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
つた
事
(
こと
)
などを
気楽
(
きらく
)
さうに
喋舌
(
しやべ
)
り
立
(
た
)
て、
012
春
(
はる
)
の
陽気
(
やうき
)
を
漂
(
ただよ
)
はしてゐる。
013
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
摩利支
(
まりし
)
天
(
てん
)
に
一億
(
いちおく
)
円
(
ゑん
)
、
014
山田
(
やまだ
)
に
王
(
わう
)
元祺
(
げんき
)
等
(
とう
)
の
豪傑
(
がうけつ
)
連
(
れん
)
が
柔道
(
じうだう
)
の
練習
(
れんしふ
)
をやつてゐたが、
015
日出雄
(
ひでを
)
が
行
(
ゆ
)
くと
直
(
す
)
ぐに
中止
(
ちゆうし
)
して
了
(
しま
)
つた。
016
副官
(
ふくくわん
)
の
秦
(
しん
)
宣
(
せん
)
は
オチコ
の
棒
(
ぼう
)
に
吹出物
(
ふきでもの
)
が
発生
(
はつせい
)
し、
017
膿汁
(
うみ
)
を
拭
(
ふ
)
いた
手
(
て
)
も
洗
(
あら
)
はずに
食器
(
しよくき
)
をいぢるので
病毒
(
びやうどく
)
が
感染
(
かんせん
)
する
等
(
など
)
と
云
(
い
)
つて
日本人
(
につぽんじん
)
側
(
がは
)
に
嫌
(
きら
)
はれてゐた。
018
愈
(
いよいよ
)
公爺府
(
コンエフ
)
入
(
い
)
りが
定
(
き
)
まり、
019
順路
(
じゆんろ
)
の
地図
(
ちづ
)
を、
020
支那
(
しな
)
の
某
(
ぼう
)
将校
(
しやうかう
)
から
借
(
か
)
り
来
(
きた
)
り、
021
王府
(
わうふ
)
まで
二百
(
にひやく
)
支里
(
しり
)
、
022
最高山
(
さいかうざん
)
の
北
(
きた
)
だなどと、
023
頻
(
しき
)
りに
地図
(
ちづ
)
に
眼
(
め
)
を
注
(
そそ
)
いだ。
024
眼鬼
(
がんき
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
岡崎
(
をかざき
)
は
佐々木
(
ささき
)
や
大倉
(
おほくら
)
のやり
方
(
かた
)
について
大変
(
たいへん
)
な
不平
(
ふへい
)
を
洩
(
も
)
らし、
025
岡崎
『
先生
(
せんせい
)
を
中途
(
ちうと
)
まで
送
(
おく
)
りとどけた
上
(
うへ
)
、
026
一度
(
いちど
)
奉天
(
ほうてん
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
のやり
方
(
かた
)
を
調査
(
てうさ
)
する
積
(
つも
)
りだ。
027
万一
(
まんいち
)
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
がようやらぬのなら、
028
自分
(
じぶん
)
は
北京
(
ペキン
)
へ
行
(
い
)
つて
呉
(
ご
)
佩孚
(
はいふ
)
や
趙
(
てう
)
倜
(
てき
)
と
会
(
あ
)
つて
此
(
この
)
大事業
(
だいじげふ
)
を
成功
(
せいこう
)
させる……』
029
等
(
など
)
と
捨鉢
(
すてばち
)
を
云
(
い
)
つてゐる。
030
時々
(
ときどき
)
風
(
かぜ
)
の
吹廻
(
ふきまは
)
しが
悪
(
わる
)
いと
変
(
へん
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふので
日出雄
(
ひでを
)
も
困
(
こま
)
つてゐた。
031
葛根廟
(
かつこんめう
)
には
馬賊
(
ばぞく
)
の
根拠地
(
こんきよち
)
があつて
大集団
(
だいしふだん
)
をなしてゐるさうだ。
032
近日
(
きんじつ
)
の
中
(
うち
)
に
女
(
をんな
)
の
隊長
(
たいちやう
)
が
洮南
(
たうなん
)
に
向
(
むか
)
つて
襲来
(
しふらい
)
するとの
急報
(
きふはう
)
に、
033
支那
(
しな
)
の
官憲
(
くわんけん
)
や
駐屯軍
(
ちうとんぐん
)
が
驚
(
おどろ
)
いて、
034
騒々
(
さうざう
)
しく
動揺
(
どうえう
)
し
初
(
はじ
)
めた。
035
三
(
さん
)
月
(
ぐわつ
)
二十二
(
にじふに
)
日
(
にち
)
の
午後
(
ごご
)
四
(
よ
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
、
036
王
(
わう
)
天海
(
てんかい
)
は
蒙古
(
もうこ
)
の
隊長
(
たいちやう
)
張
(
チヤン
)
貴林
(
クイリン
)
や
公爺府
(
コンエフ
)
の
協理
(
けふり
)
老
(
らう
)
印君
(
いんくん
)
と
共
(
とも
)
に
着洮
(
ちやくたう
)
した。
037
そして
愈
(
いよいよ
)
奥地
(
おくち
)
入
(
い
)
りの
準備
(
じゆんび
)
にとりかかつた。
038
張
(
チヤン
)
貴林
(
クイリン
)
は
日出雄
(
ひでを
)
に
向
(
むか
)
つて
云
(
い
)
ふ。
039
張貴林
『
此
(
この
)
先
(
さき
)
には
数千
(
すうせん
)
の
馬賊団
(
ばぞくだん
)
が
横行
(
わうかう
)
してゐますが、
040
何
(
いづ
)
れも
自分
(
じぶん
)
の
部下
(
ぶか
)
許
(
ばか
)
りだから、
041
決
(
けつ
)
して
先生
(
せんせい
)
に
害
(
がい
)
を
与
(
あた
)
へませぬ。
042
私
(
わたし
)
は
今回
(
こんくわい
)
自治軍
(
じちぐん
)
の
旅団長
(
りよだんちやう
)
に
選
(
えら
)
まれましたから、
043
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さい。
044
蒙古
(
もうこ
)
男子
(
だんし
)
の
一言
(
いちごん
)
は
金鉄
(
きんてつ
)
より
堅
(
かた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
045
先生
(
せんせい
)
の
為
(
ため
)
には
一
(
ひと
)
つよりない
生命
(
いのち
)
を
擲
(
なげ
)
うつてゐるのですから』
046
等
(
など
)
と
云
(
い
)
つて
勇
(
いさ
)
ましく
腕
(
うで
)
を
撫
(
ぶ
)
してゐる。
047
暫
(
しば
)
らくすると
佐々木
(
ささき
)
、
048
大倉
(
おほくら
)
の
両人
(
りやうにん
)
が
日出雄
(
ひでを
)
の
奥地
(
おくち
)
入
(
い
)
りを
送
(
おく
)
るべく、
049
遥々
(
はるばる
)
奉天
(
ほうてん
)
からやつて
来
(
き
)
た。
050
さうして
岡崎
(
をかざき
)
と
議論
(
ぎろん
)
の
衝突
(
しようとつ
)
を
来
(
き
)
たし、
051
岡崎
(
をかざき
)
の
機嫌
(
きげん
)
がグレツと
一変
(
いつぺん
)
し、
052
岡崎
『
俺
(
おれ
)
はこれから
奉天
(
ほうてん
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
張
(
ちやう
)
作霖
(
さくりん
)
を
叱
(
しか
)
りつけ、
053
自由
(
じいう
)
行動
(
かうどう
)
を
採
(
と
)
つて
見
(
み
)
せる……』
054
と
頑張
(
ぐわんば
)
り、
055
サツサと
停車場
(
ていしやぢやう
)
を
指
(
さ
)
して
出
(
で
)
て
行
(
い
)
つた。
056
佐々木
(
ささき
)
が
驚
(
おどろ
)
いて
停車場
(
ていしやぢやう
)
へ
駆
(
か
)
けつけ、
057
危機
(
きき
)
一発
(
いつぱつ
)
の
発車
(
はつしや
)
間隙
(
まぎは
)
に
漸
(
やうや
)
く
岡崎
(
をかざき
)
を
和
(
なだ
)
め、
058
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たので
一同
(
いちどう
)
は
漸
(
やうや
)
く
安心
(
あんしん
)
した。
059
(日出雄)
『
乾坤
(
けんこん
)
一擲
(
いつてき
)
の
大事業
(
だいじげふ
)
を
策
(
さく
)
し
乍
(
なが
)
ら、
060
今
(
いま
)
から
内輪
(
うちわ
)
揉
(
も
)
めが
出来
(
でき
)
ては
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
だ。
061
満州
(
まんしう
)
浪人
(
らうにん
)
は
大和
(
やまと
)
魂
(
だましひ
)
が
欠
(
か
)
けてゐる。
062
あゝ
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
では
思慮
(
しりよ
)
浅
(
あさ
)
きものの
為
(
ため
)
に
過
(
あやま
)
られて
身
(
み
)
の
置所
(
おきどころ
)
なき
破目
(
はめ
)
に
陥
(
おちゐ
)
り、
063
今
(
いま
)
又
(
また
)
蒙古
(
もうこ
)
の
野
(
の
)
に
来
(
き
)
て
日本人
(
につぽんじん
)
の
為
(
ため
)
に
過
(
あやま
)
られ、
064
千仭
(
せんじん
)
の
功
(
こう
)
を
一簣
(
いつき
)
に
欠
(
か
)
くやうな
形勢
(
けいせい
)
になつて
来
(
き
)
たのも、
065
小人物
(
せうじんぶつ
)
の
小胆
(
せうたん
)
と
高慢心
(
かうまんしん
)
と
自己
(
じこ
)
本位
(
ほんゐ
)
の
衝突
(
しようとつ
)
からである。
066
少
(
すこ
)
し
位
(
ぐらゐ
)
の
残念
(
ざんねん
)
口惜
(
くや
)
しさが
隠忍
(
いんにん
)
出来得
(
できえ
)
ない
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
で、
067
何
(
ど
)
うして
此
(
この
)
大事業
(
だいじげふ
)
が
成功
(
せいこう
)
するか。
068
真澄別
(
ますみわけ
)
もあまり
泰然
(
たいぜん
)
自若
(
じじやく
)
すぎはせぬか。
069
此
(
この
)
際
(
さい
)
両方
(
りやうはう
)
の
調停
(
てうてい
)
を
計
(
はか
)
らねばなるまい……』
070
と
日出雄
(
ひでを
)
は
吾
(
われ
)
知
(
し
)
らず
呟
(
つぶや
)
いた。
071
真澄別
(
ますみわけ
)
の
仲裁
(
ちうさい
)
によつて
同志
(
どうし
)
の
間
(
あひだ
)
は、
072
もとの
平和
(
へいわ
)
に
帰
(
き
)
し、
073
岡崎
(
をかざき
)
も
再
(
ふたた
)
び
駒
(
こま
)
の
首
(
くび
)
を
立直
(
たてなほ
)
し、
074
奉天
(
ほうてん
)
帰
(
がへ
)
りを
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
り
蒙古
(
もうこ
)
の
奥地
(
おくち
)
へ
侵入
(
しんにふ
)
する
事
(
こと
)
をやつと
承諾
(
しようだく
)
したのである。
075
待
(
ま
)
ち
佗
(
わ
)
びし
吉
(
よ
)
き
日
(
ひ
)
は
今
(
いま
)
や
来
(
きた
)
りけりいざ
起
(
た
)
ち
行
(
ゆ
)
かむ
蒙古
(
もうこ
)
の
奥
(
おく
)
へ
076
日出雄
(
ひでを
)
が
洮南
(
たうなん
)
在留中
(
ざいりうちう
)
沢山
(
たくさん
)
の
詩歌
(
しいか
)
を
詠
(
よ
)
んだ。
077
その
中
(
なか
)
の
数首
(
すうしゆ
)
を
左
(
さ
)
に
078
十二
(
じふに
)
日
(
にち
)
過
(
す
)
ぎてゆ
陽気
(
やうき
)
一変
(
いつぺん
)
し
春
(
はる
)
立
(
た
)
ち
初
(
そ
)
めし
心地
(
ここち
)
しにけり
079
洮南
(
たうなん
)
は
安全
(
あんぜん
)
地帯
(
ちたい
)
と
思
(
おも
)
ひきや
馬賊
(
ばぞく
)
の
横行
(
わうかう
)
いとも
烈
(
はげ
)
しき
080
総司令
(
そうしれい
)
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
来
(
きた
)
れかし
汝
(
なれ
)
を
待
(
ま
)
つ
間
(
ま
)
の
我
(
われ
)
ぞ
淋
(
さび
)
しき
081
十四夜
(
いざよひ
)
の
月
(
つき
)
照
(
て
)
る
下
(
した
)
の
蒙古野
(
もうこの
)
に
円
(
ゑん
)
を
描
(
ゑが
)
いて
小便
(
せうべん
)
をひる
082
国人
(
くにびと
)
に
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
せばや
蒙古地
(
もうこち
)
を
照
(
て
)
らす
御空
(
みそら
)
の
珍
(
うづ
)
の
月影
(
つきかげ
)
083
山
(
やま
)
も
海
(
うみ
)
も
見
(
み
)
えねど
蒙古
(
もうこ
)
の
大野原
(
おほのはら
)
行
(
ゆ
)
く
身
(
み
)
は
独
(
ひと
)
り
魂
(
たましひ
)
躍
(
をど
)
る
084
天
(
てん
)
か
地
(
ち
)
か
海
(
うみ
)
かとばかり
疑
(
うたが
)
はる
蒙古
(
もうこ
)
の
広野
(
くわうや
)
にひとり
月
(
つき
)
澄
(
す
)
む
085
月
(
つき
)
見
(
み
)
れば
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
も
晴
(
は
)
れ
渡
(
わた
)
り
天国
(
てんごく
)
にある
心地
(
ここち
)
こそすれ
086
スバル
星
(
ぼし
)
西
(
にし
)
に
傾
(
かたむ
)
き
初
(
そ
)
めてより
早
(
は
)
や
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
に
霜
(
しも
)
は
降
(
ふ
)
りける
087
ドンヨリと
曇
(
くも
)
りし
空
(
そら
)
に
日
(
ひ
)
は
鈍
(
にぶ
)
し
小鳥
(
ことり
)
の
声
(
こゑ
)
も
頓
(
とみ
)
に
静
(
しづ
)
まる
088
支那
(
しな
)
蒙古
(
もうこ
)
日本
(
につぽん
)
の
人
(
ひと
)
も
我
(
わが
)
為
(
ため
)
に
心
(
こころ
)
砕
(
くだ
)
きて
守
(
まも
)
る
嬉
(
うれ
)
しさ
089
三
(
さん
)
月
(
ぐわつ
)
廿五
(
にじふご
)
日
(
にち
)
の
早朝
(
さうてう
)
、
090
支那
(
しな
)
旅宿
(
りよしゆく
)
義和
(
ぎわ
)
粮棧
(
りやうさん
)
から
老
(
らう
)
印君
(
いんくん
)
、
091
日出雄
(
ひでを
)
、
092
岡崎
(
をかざき
)
、
093
守高
(
もりたか
)
、
094
王
(
わう
)
通訳
(
つうやく
)
は
三台
(
さんだい
)
の
轎車
(
けうしや
)
に
分乗
(
ぶんじやう
)
し
洮南
(
たうなん
)
北門
(
ほくもん
)
より
馳走
(
ちそう
)
し、
095
洮児
(
トール
)
河
(
がは
)
の
橋
(
はし
)
を
渡
(
わた
)
つて
北
(
きた
)
へ
北
(
きた
)
へと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
096
寒風
(
かんぷう
)
烈
(
はげ
)
しく
吹
(
ふ
)
き
来
(
きた
)
り
轎車
(
けうしや
)
は
顛覆
(
てんぷく
)
しさうな
危険
(
きけん
)
を
感
(
かん
)
じて
来
(
き
)
た。
097
副官
(
ふくくわん
)
温
(
をん
)
長興
(
ちやうこう
)
は
数名
(
すうめい
)
の
兵士
(
へいし
)
と
共
(
とも
)
に
騎馬
(
きば
)
にて
前後
(
ぜんご
)
を
守
(
まも
)
り
行
(
ゆ
)
く。
098
途中
(
とちう
)
守高
(
もりたか
)
の
乗
(
の
)
つてゐる
轎車
(
けうしや
)
が
路傍
(
ろばう
)
の
溝
(
みぞ
)
の
中
(
なか
)
へ
顛覆
(
てんぷく
)
し、
099
守高
(
もりたか
)
、
100
王
(
わう
)
通訳
(
つうやく
)
は
溝
(
みぞ
)
の
中
(
なか
)
へ
投
(
な
)
げ
落
(
おと
)
され、
101
馬夫
(
ばふ
)
と
共
(
とも
)
に
轎車
(
けうしや
)
を
道路
(
だうろ
)
へ
引
(
ひ
)
き
上
(
あ
)
げてゐる。
102
其
(
その
)
日
(
ひ
)
の
午前
(
ごぜん
)
十一
(
じふいち
)
時
(
じ
)
に
六十
(
ろくじふ
)
支里
(
しり
)
を
経
(
へ
)
た
三十
(
さんじつ
)
戸
(
こ
)
村
(
そん
)
に
着
(
つ
)
き、
103
此処
(
ここ
)
にて
昼飯
(
ちうはん
)
を
為
(
な
)
す
事
(
こと
)
とした。
104
ここには
支那
(
しな
)
の
警察
(
けいさつ
)
もあり、
105
兵営
(
へいえい
)
も
建
(
た
)
つてゐる。
106
旅宿
(
りよしゆく
)
の
家
(
いへ
)
の
柱
(
はしら
)
には『
莫談
(
ばくだん
)
国政
(
こくせい
)
』と
云
(
い
)
ふ
赤紙
(
あかがみ
)
が
貼
(
は
)
りつけてある。
107
之
(
これ
)
も
専制
(
せんせい
)
政治
(
せいぢ
)
の
遺物
(
ゐぶつ
)
だらう……。
108
此処
(
ここ
)
まで
来
(
く
)
る
途上
(
とじやう
)
、
109
轎車
(
けうしや
)
の
中
(
うへ
)
で
日出雄
(
ひでを
)
はセスセーナ(
放尿
(
はうねう
)
)を
煙草
(
たばこ
)
の
空罐
(
あきくわん
)
になし、
110
車外
(
しやぐわい
)
に
捨
(
す
)
てようとして、
111
岡崎
(
をかざき
)
の
支那服
(
しなふく
)
の
上
(
うへ
)
に
零
(
こぼ
)
した。
112
あまり
寒気
(
かんき
)
が
酷
(
はげ
)
しいので、
113
忽
(
たちま
)
ち
膝
(
ひざ
)
の
上
(
うへ
)
で
凍
(
こほ
)
つて
了
(
しま
)
つた。
114
岡崎
(
をかざき
)
は
小便
(
せうべん
)
の
氷
(
こほり
)
を
手
(
て
)
に
掴
(
つか
)
んでゲラゲラ
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
道路
(
だうろ
)
に
投
(
な
)
げ
捨
(
す
)
てた。
115
旅宿
(
りよしゆく
)
に
着
(
つ
)
いて
雲
(
くも
)
天井
(
てんじやう
)
の
大便所
(
だいべんじよ
)
へ
行
(
ゆ
)
くと、
116
毛
(
け
)
の
荒
(
あら
)
い
汚
(
きたな
)
い
豚
(
ぶた
)
の
子
(
こ
)
が
半
(
はん
)
ダース
許
(
ばか
)
りも
集
(
あつ
)
まつて
来
(
き
)
て
肥取
(
こえとり
)
人足
(
にんそく
)
の
役
(
やく
)
をつとめ、
117
遂
(
つひ
)
には
尻
(
しり
)
まで
嘗
(
な
)
めあげる。
118
その
可笑
(
おか
)
しさに
日出雄
(
ひでを
)
はゲラゲラ
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
してゐる。
119
午後
(
ごご
)
十二
(
じふに
)
時
(
じ
)
四十
(
よんじつ
)
分
(
ぷん
)
再
(
ふたた
)
び
乗車
(
じやうしや
)
、
120
何十
(
なんじつ
)
間
(
けん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
広
(
ひろ
)
い
幅
(
はば
)
の
大道
(
だいだう
)
を
愉快
(
ゆくわい
)
さうに
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
くと、
121
茫漠
(
ばうばく
)
たる
大荒原
(
だいくわうげん
)
の
前方
(
ぜんぱう
)
に
当
(
あた
)
つて
黒
(
くろ
)
ずんだ
一
(
ひとつ
)
の
山
(
やま
)
が
見
(
み
)
えた。
122
之
(
これ
)
は
北清山
(
ほくしんざん
)
と
云
(
い
)
ふ、
123
さうして
此
(
この
)
辺
(
へん
)
には
半
(
はん
)
坪
(
つぼ
)
か
一
(
ひと
)
坪
(
つぼ
)
許
(
ばか
)
りの
神仏
(
しんぶつ
)
の
館
(
やかた
)
が、
124
彼方
(
あつち
)
此方
(
こつち
)
に
建
(
た
)
つてゐる。
125
之
(
これ
)
は
蒙古人
(
もうこじん
)
が
信仰
(
しんかう
)
の
表徴
(
へうちよう
)
となつてゐるのだと
云
(
い
)
ふ。
126
同日
(
どうじつ
)
午後
(
ごご
)
五
(
ご
)
時
(
じ
)
、
127
七十
(
しちじつ
)
戸
(
こ
)
村
(
そん
)
の
催家店
(
さいかてん
)
と
云
(
い
)
ふ
牛馬宿
(
ぎうばやど
)
に
足
(
あし
)
を
停
(
と
)
めた。
128
洮南
(
たうなん
)
からは
百二十
(
ひやくにじふ
)
支里
(
しり
)
を
離
(
はな
)
れてゐる。
129
沢山
(
たくさん
)
の
支那人
(
しなじん
)
の
合客
(
あひきやく
)
が
泊
(
とま
)
つてゐて
喋々
(
てうてう
)
喃々
(
なんなん
)
として
賭博
(
とばく
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る。
130
翌
(
よく
)
三
(
さん
)
月
(
ぐわつ
)
二十六
(
にじふろく
)
日
(
にち
)
朝
(
あさ
)
五
(
ご
)
時
(
じ
)
出発
(
しゆつぱつ
)
の
予定
(
よてい
)
であつたが、
131
二十
(
にじふ
)
支里
(
しり
)
ほど
前方
(
ぜんぱう
)
に
当
(
あた
)
つて
官兵
(
くわんぺい
)
と
馬賊
(
ばぞく
)
との
戦
(
たたか
)
ひがあり、
132
連長
(
れんちやう
)
が
戦死
(
せんし
)
した
場所
(
ばしよ
)
であるから、
133
朝
(
あさ
)
早
(
はや
)
く
出立
(
しゆつたつ
)
するのは
極
(
きは
)
めて
危険
(
きけん
)
だとの
宿
(
やど
)
の
主人
(
しゆじん
)
の
注意
(
ちうい
)
に
依
(
よ
)
つて、
134
八
(
はち
)
時
(
じ
)
に
此処
(
ここ
)
を
出発
(
しゆつぱつ
)
する
事
(
こと
)
とした。
135
正午
(
しやうご
)
前
(
まへ
)
八十
(
はちじふ
)
支里
(
しり
)
を
馳駆
(
ちく
)
して
王爺廟
(
ワンエメウ
)
の
張
(
ちやう
)
文海
(
ぶんかい
)
の
宅
(
たく
)
に
着
(
つ
)
いた。
136
王爺廟
(
ワンエメウ
)
の
喇嘛僧
(
らまそう
)
は
三百
(
さんびやく
)
人
(
にん
)
許
(
ばか
)
り
居
(
ゐ
)
る。
137
珍
(
めづ
)
らしき
日本
(
につぽん
)
の
喇嘛僧
(
らまそう
)
来
(
きた
)
れりとて
三百
(
さんびやく
)
の
喇嘛
(
らま
)
が、
138
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
日出雄
(
ひでを
)
に
挨拶
(
あいさつ
)
に
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る。
139
そして
里人
(
さとびと
)
や
子供
(
こども
)
が
珍
(
めづ
)
らしげに
集
(
あつ
)
まつて
来
(
き
)
た。
140
日出雄
(
ひでを
)
は
携帯
(
けいたい
)
して
来
(
き
)
た
飴
(
あめ
)
を
一粒
(
ひとつぶ
)
づつ
与
(
あた
)
へた。
141
喇嘛
(
らま
)
も
里人
(
さとびと
)
も
地上
(
ちじやう
)
に
跪
(
ひざまづ
)
いて
之
(
これ
)
を
受
(
う
)
けた。
142
大喇嘛
(
だいらま
)
は
部下
(
ぶか
)
に
命
(
めい
)
じ
洮児
(
トール
)
河
(
がは
)
の
鯉
(
こひ
)
を
漁
(
と
)
らせ、
143
七八
(
しちはち
)
寸
(
すん
)
から
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
五六
(
ごろく
)
寸
(
すん
)
位
(
ぐらゐ
)
のものを
八尾
(
はちび
)
許
(
ばか
)
り
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
て
日出雄
(
ひでを
)
に
進呈
(
しんてい
)
した。
144
是
(
こ
)
れが
本年
(
ほんねん
)
に
入
(
はひ
)
つて
初
(
はじ
)
めての
漁獲
(
ぎよくわく
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
である。
145
午後
(
ごご
)
二
(
に
)
時
(
じ
)
日出雄
(
ひでを
)
が
王爺廟
(
ワンエメウ
)
を
出発
(
しゆつぱつ
)
せむと
轎車
(
けうしや
)
に
乗
(
の
)
つてゐると、
146
大喇嘛
(
だいらま
)
が
牛乳
(
ぎうにう
)
の
煎餅
(
せんべい
)
十
(
じふ
)
枚
(
まい
)
許
(
ばか
)
り
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
て
日出雄
(
ひでを
)
に
贈
(
おく
)
つた。
147
釈迦
(
しやか
)
が
出立
(
しゆつたつ
)
の
時
(
とき
)
、
148
若
(
わか
)
い
女
(
をんな
)
に
牛乳
(
ぎうにう
)
を
貰
(
もら
)
つて
飲
(
の
)
んだ
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
し、
149
日出雄
(
ひでを
)
は
蒙古
(
もうこ
)
の
奥地
(
おくち
)
へ
来
(
き
)
て
直
(
す
)
ぐに
喇嘛
(
らま
)
から
牛乳
(
ぎうにう
)
の
煎餅
(
せんべい
)
を
貰
(
もら
)
つた
事
(
こと
)
を
非常
(
ひじやう
)
に
奇縁
(
きえん
)
として
喜
(
よろこ
)
んだ。
150
此
(
この
)
時
(
とき
)
日出雄
(
ひでを
)
の
左
(
ひだり
)
の
掌
(
てのひら
)
から
釘
(
くぎ
)
の
聖痕
(
せいこん
)
が
現
(
あら
)
はれ、
151
盛
(
さか
)
んに
出血
(
しゆつけつ
)
し
淋漓
(
りんり
)
として
腕
(
かひな
)
に
滴
(
したた
)
つた。
152
然
(
しか
)
し
日出雄
(
ひでを
)
は
少
(
すこ
)
しの
痛痒
(
つうやう
)
も
感
(
かん
)
じなかつた。
153
洮児
(
トール
)
河
(
がは
)
の
氷
(
こほり
)
は
処々
(
ところどころ
)
解
(
と
)
け
初
(
はじ
)
め、
154
其
(
そ
)
の
上
(
うへ
)
を
轎車
(
けうしや
)
が
通過
(
つうくわ
)
する
危険
(
きけん
)
さは
実
(
じつ
)
に
名状
(
めいじやう
)
すべからざるものがあつたが、
155
何
(
なん
)
の
故障
(
こしやう
)
もなく
天佑
(
てんいう
)
の
下
(
もと
)
に
無事
(
ぶじ
)
通過
(
つうくわ
)
し、
156
王爺廟
(
ワンエメウ
)
の
兵士
(
へいし
)
や
張
(
ちやう
)
桂林
(
けいりん
)
の
馬隊
(
ばたい
)
に
送
(
おく
)
られ
且
(
か
)
つ
張
(
ちやう
)
文海
(
ぶんかい
)
の
弟
(
おとうと
)
の
部下
(
ぶか
)
に
騎馬
(
きば
)
にて
公爺府
(
コンエフ
)
まで
見送
(
みおく
)
られた。
157
王爺廟
(
ワンエメウ
)
以東
(
いとう
)
は
赤旗
(
あかはた
)
を
戸々
(
ここ
)
に
立
(
た
)
て、
158
以西
(
いせい
)
は
白旗
(
しろはた
)
を
戸々
(
ここ
)
に
立
(
た
)
ててゐる。
159
公爺府
(
コンエフ
)
は
已
(
すで
)
に
白旗
(
しろはた
)
区域
(
くいき
)
である。
160
ここは
鎮国公
(
ちんこくこう
)
、
161
巴彦那木爾
(
パエンナムル
)
と
云
(
い
)
ふ
王
(
わう
)
様
(
さま
)
が
二百
(
にひやく
)
名
(
めい
)
の
兵士
(
へいし
)
を
抱
(
かか
)
へて
守
(
まも
)
つてゐる
所
(
ところ
)
である。
162
日出雄
(
ひでを
)
一行
(
いつかう
)
が
公爺府
(
コンエフ
)
の
近
(
ちか
)
く
迄
(
まで
)
行
(
ゆ
)
くと、
163
公爺府
(
コンエフ
)
の
兵士
(
へいし
)
が
二十
(
にじふ
)
人
(
にん
)
許
(
ばか
)
り
捧
(
ささ
)
げ
銃
(
つつ
)
の
礼
(
れい
)
をして
慇懃
(
いんぎん
)
に
迎
(
むか
)
へてゐた。
164
日出雄
(
ひでを
)
一行
(
いつかう
)
は
公爺府
(
コンエフ
)
の
傍
(
かたはら
)
なる
老
(
らう
)
印君
(
いんくん
)
の
館
(
やかた
)
に
午後
(
ごご
)
六
(
ろく
)
時
(
じ
)
頃
(
ごろ
)
無事
(
ぶじ
)
に
着
(
つ
)
いた。
165
(
大正一四、八
、筆録)
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