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第二七章 奉天(ほうてん)(うづ)

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 特別篇 山河草木 入蒙記 篇:第4篇 神軍躍動 よみ(新仮名遣い):しんぐんやくどう
章:第27章 奉天の渦 よみ(新仮名遣い):ほうてんのうず 通し章番号:
口述日:1925(大正14)年08月 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年2月14日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
日本で軍資金の調達にあたっていた加藤明子は、日出雄から密書を受け取った。これと思う数名を同道して、滞在場所まで来るように、というものであった。
そこで一同は準備に入ったが、先に奉天に入っていた横尾敬義が戻ってきて、唐国別が言うには、「すでに日出雄先生は蒙古入りしたので、後から来る人々は、先生が大庫倫に到着してから来るように」とのことであったと伝えた。
加藤、国分義一、藤田武寿の三人は予期に反したが、すでに準備が整っていたこともあり、二代教主と相談の上、ともかく日出雄一行の後を追うことにした。
しかし水也商会に着くと、唐国別はこれ以上奥地に日本人を送るなどとんでもない、いくら大先生、二代様の頼みでも、自分の考えに反したことは聞き入れるわけにはいかない、という態度であった。
奥地より日出雄の消息を伝えに来た大倉は、三人に同情し、日出雄先生より来いとのことであれば、万難を排して協力しましょう、と言ってくれたが、唐国別は態度を硬化させ、絶対に反対する旨通告してきた。
仕方なく三人は大連、旅順などを巡覧しながら連絡を待っていた。結局、日出雄よりは「女子の入蒙は困難なので、日本・奉天間を往復して連絡の用務を勤めるように」との連絡があった。また、大倉の協力の言は単なる気休めだと判明した。
仕方なく三人は一度そろって日本に帰った。そして加藤はかつて満蒙に名をとどろかせた緑川貞司に師事して準備を練っていた最中、パインタラの変の報に接したのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考:2024/1/31出口王仁三郎全集第6巻を底本として校正。 タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-01-31 03:32:23 OBC :rmnm27
愛善世界社版:241頁 八幡書店版:第14輯 635頁 修補版: 校定版:244頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 日出雄(ひでを)大志(たいし)(いだ)いて(あや)聖地(せいち)出発(しゆつぱつ)して以来(いらい)002満蒙(まんもう)(そら)(なが)めては、003日夜(にちや)憧憬(どうけい)(おも)ひを(いだ)きつつ、004軍資金(ぐんしきん)調達(てうたつ)苦労(くらう)してゐた加藤(かとう)明子(はるこ)は、005日出雄(ひでを)出発後(しゆつぱつご)(さん)週間(しうかん)()(ころ)006日出雄(ひでを)よりの密書(みつしよ)受取(うけと)つた。007それには(きう)(さん)(ぐわつ)三日(みつか)(まで)横尾(よこを)敬義(ゆきよし)008西村(にしむら)輝雄(てるを)009国分(こくぶ)義一(ぎいち)010藤田(ふぢた)武寿(たけとし)011佐藤(さとう)六合雄(くにを)(その)()()れと(おも)人々(ひとびと)(うち)012四五(しご)(めい)同道(どうだう)して(わが)滞在(たいざい)場所(ばしよ)(まで)(きた)れとの命令(めいれい)(したた)めてあつた。013加藤(かとう)(てん)にも(のぼ)心地(ここち)(よろこ)(いさ)んで(みぎ)人々(ひとびと)(その)(むね)(つた)へた。014(この)(うち)佐藤(さとう)用務(ようむ)()め、015内地(ないち)残留(ざんりう)し、016西村(にしむら)大庫倫(だいクーロン)一行(いつかう)到着(たうちやく)(まで)()つと()ひ、017横尾(よこを)()要件(えうけん)があるので(さき)んじて奉天(ほうてん)(むか)ひ、018国分(こくぶ)019藤田(ふぢた)両人(りやうにん)早速(さつそく)関係(くわんけい)事業(じげふ)整理(せいり)取掛(とりかか)つた。020(なほ)加藤(かとう)通告(つうこく)()是非(ぜひ)(この)一行(いつかう)(くは)はらむと決心(けつしん)した広瀬(ひろせ)義邦(よしくに)は、021万難(ばんなん)(はい)して渡満(とまん)し、022場合(ばあひ)()つては大連(だいれん)()しくは奉天(ほうてん)(しよく)(もと)めて時機(じき)(いた)るを()(こと)とした。
023 加藤(かとう)蝟集(ゐしふ)(きた)故障(こしよう)(しの)いで出発(しゆつぱつ)準備(じゆんび)(いそ)いでゐる折柄(をりから)024(さき)渡満(とまん)した横尾(よこを)帰来(きらい)し、
025横尾敬義日出雄(ひでを)先生(せんせい)(すで)入蒙(にふもう)せしこと、026唐国別(からくにわけ)(げん)()れば(あと)連中(れんちう)大庫倫(だいクーロン)到着後(たうちやくご)027()(やう)に』
028との(こと)などを(つた)へた。029加藤(かとう)予期(よき)(はん)したので、030取敢(とりあ)へず国分(こくぶ)031藤田(ふぢた)(その)(むね)(つう)ずると、032二人(ふたり)(すで)準備(じゆんび)(まつた)()り、033今更(いまさら)如何(どう)することも出来(でき)ぬといふ始末(しまつ)なので、034()むなく(その)処置(しよち)大本(おほもと)二代(にだい)教主(けうしゆ)(はか)り、035(つひ)国分(こくぶ)036藤田(ふぢた)037加藤(かとう)(さん)(にん)038一命(いちめい)()して日出雄(ひでを)一行(いつかう)(あと)()(こと)決定(けつてい)したのである。
039 ()(ぐわつ)十六(じふろく)(にち)奉天(ほうてん)なる唐国別(からくにわけ)より西王母(せいわうぼ)服装(ふくさう)携行(けいかう)せよとの来電(らいでん)があつたので、040()用務(ようむ)をも()ね、041(みぎ)(さん)(にん)()(ぐわつ)十八(じふはち)(にち)奉天(ほうてん)(むか)つて出発(しゆつぱつ)し、042門司(もじ)よりは偶々(たまたま)満韓(まんかん)視察(しさつ)途次(とじ)にありし大谷(おほたに)恭平(きようへい)(くは)はつて一行(いつかう)()(にん)となり、043(こころ)(すで)蒙古(もうこ)大原野(だいげんや)()せ、044汽船(きせん)汽車(きしや)()ドロキ心地(ここち)二十(にじふ)(にち)(ゆふ)奉天駅(ほうてんえき)(ちやく)した。045(かね)打電(だでん)してあつたので、046萩原(はぎはら)047西島(にしじま)(ならび)折柄(をりから)在奉中(ざいほうちう)唐国別(からくにわけ)夫人(ふじん)(とう)一行(いつかう)出迎(でむか)へ、048(その)(すぢ)警戒(けいかい)(げん)なればとて、049四辺(あたり)(はばか)(なが)稲葉(いなば)(ちやう)中野(なかの)といふ(たく)案内(あんない)された。050(よく)二十一(にじふいち)(にち)一行(いつかう)水也(みづや)商会(しやうくわい)(おもむ)き、051(わう)天海(てんかい)なる唐国別(からくにわけ)会見(くわいけん)したところが、052(わう)不機嫌(ふきげん)面色(おももち)で、053藤田(ふぢた)(むか)ひ、
054唐国別(からくにわけ)(きみ)()一体(いつたい)奥地(おくち)(はい)(つも)りで()られたのですか』
055藤田(ふぢた)左様(さやう)です、056勿論(もちろん)
057唐国別(からくにわけ)左様(さやう)です……なんて……冗談(じようだん)ぢやないよ。058(きみ)()はさう容易(やす)々々(やす)奥地(おくち)這入(はい)れると(おも)はれるのか。059そりや(たれ)だつて先生(せんせい)(そば)()きたいのは当然(たうぜん)だよ、060(きみ)()だけぢやない。061しかし(ちやう)作霖(さくりん)との複雑(ふくざつ)関係(くわんけい)()りもしないで、062ヤレ(われ)もソレ(わし)もとやつて()られて(たま)るものか、063(ぼく)苦心(くしん)並大抵(なみたいてい)ぢやないよ』
064前置(まへおき)して日出雄(ひでを)来奉(らいほう)以後(いご)事情(じじやう)縷々(るる)(べん)じ、065(この)(さい)日本人(につぽんじん)入蒙(にふもう)することは絶対(ぜつたい)(ことは)ると()ふ、066(はなは)意外(いぐわい)言葉(ことば)であつた。
067加藤(かとう)(わたし)(たち)(けつ)して自分(じぶん)勝手(かつて)先生(せんせい)のお(そば)()かうと()ふのではありませぬ。068先生(せんせい)()命令(めいれい)(まゐ)りましたのです。069貴方(あなた)御存(ごぞん)じの(はず)ですが……』
070とて日出雄(ひでを)より()親展書(しんてんしよ)と、071二代(にだい)教主(けうしゆ)よりの(さん)(にん)入蒙(にふもう)依頼書(いらいしよ)差出(さしだ)した。072唐国別(からくにわけ)は、
073唐国別『あゝさうですか、074(わたし)()つとも()らなかつた。075さうすると(また)(あらた)(さん)(にん)大先生(だいせんせい)引受(ひきう)けた(やう)なものだ。076中々(なかなか)大任(たいにん)だ。077先生(せんせい)入蒙(にふもう)(つい)ては、078どんな苦心(くしん)をしたか(わか)りやしない』
079とてこれから入蒙(にふもう)苦心談(くしんだん)()()かし、080(かう)()けてから一行(いつかう)宿(やど)引取(ひきと)つた。081(しか)るに(その)()第二回(だいにくわい)会見(くわいけん)(おい)ては唐国別(からくにわけ)態度(たいど)激変(げきへん)し、
082唐国別先生(せんせい)現在(げんざい)()在所(ざいしよ)自分(じぶん)には(わか)りませぬ。083また仮令(たとへ)大先生(だいせんせい)084二代(にだい)(さま)のお言葉(ことば)でも、085自分(じぶん)(かんが)へに(はん)した(こと)()()れる(わけ)には()きませぬ』
086とて断乎(だんこ)として(さん)(にん)入蒙(にふもう)拒絶(きよぜつ)した。087(さん)(にん)(その)傍若(ばうじやく)無人(ぶじん)言辞(げんじ)(おどろ)(あき)れ、088(かつ)憤慨(ふんがい)したが、089(さて)(なん)詮術(せんすべ)もないので、090スゴスゴと引取(ひきと)(ほか)はなかつた。
091 ()(ぐわつ)廿六(にじふろく)(にち)(いた)り、092大倉(おほくら)奥地(おくち)より日出雄(ひでを)消息(せうそく)(もた)らし(かへ)れりとの報告(はうこく)唐国別(からくにわけ)より()けたので、093一縷(いちる)(のぞ)みもやと、094(さん)(にん)(いそ)いで唐国別(からくにわけ)店舗(てんぽ)(おとづ)大倉(おほくら)面会(めんくわい)した。095大倉(おほくら)愛想(あいそ)よく(くち)(ひら)いて(かた)る。
096大倉先生(せんせい)非常(ひじやう)()元気(げんき)ですから()安心(あんしん)なさい。097(しか)現在(げんざい)入蒙(にふもう)余程(よほど)困難(こんなん)ですが、098先生(せんせい)より()いとのお言葉(ことば)なれば、099万難(ばんなん)(はい)して奥地(おくち)へお(おく)(まを)しませう。100(また)先生(せんせい)のお言葉(ことば)なく(とも)101()ひて入蒙(にふもう)せられると()ふのなら、102同胞(どうはう)(よしみ)として()ておく(わけ)にも()きませぬでなア』
103 加藤(かとう)()(さん)(にん)大倉(おほくら)(この)言葉(ことば)(やや)(こころ)(いさ)み、104(さき)唐国別(からくにわけ)夫人(ふじん)が『()いて入蒙(にふもう)する(もの)途中(とちう)()つて(しま)ふと(ぼう)浪人(らうにん)()つてますよ』との(はなし)裏切(うらぎ)られた(うれ)しさと、105先生(せんせい)のお言葉(ことば)なら万難(ばんなん)(はい)して云々(うんぬん)』といふ信者(しんじや)ならでは()(こと)出来(でき)言葉(ことば)大倉(おほくら)(くち)から(はつ)せられた(うれ)しさに、106()()(はづ)してはと(おも)矢先(やさき)107唐国別(からくにわけ)は、
108唐国別当地(たうち)()一切(いつさい)事情(じじやう)精通(せいつう)してゐる吾輩(わがはい)(げん)(したが)はず、109まだ入蒙(にふもう)主張(しゆちやう)するのは不都合(ふつがふ)だ』
110(なじ)る。111今迄(いままで)(くち)(つぐ)んで一言(いちごん)(はさ)まなかつた国分(こくぶ)(この)(とき)(はじ)めて(くち)(ひら)き、
112国分(この)先生(せんせい)からの()手紙(てがみ)貴方(あなた)()()()たのなら貴方(あなた)のお言葉(ことば)(したが)ひもしませうが、113()れはさうぢやないのですから、114一応(いちおう)先生(せんせい)()照会(せうくわい)(ねが)ひたいものですな』
115()へば唐国別(からくにわけ)(すこぶ)昂奮(かうふん)態度(たいど)であつたが、116翌日(よくじつ)自分(じぶん)訪問(はうもん)した藤田(ふぢた)(かい)し、117()(ごと)意味(いみ)通告(つうこく)(さん)(にん)(あた)へたのである。
118唐国別(さん)(にん)入蒙(にふもう)絶対(ぜつたい)拒絶(きよぜつ)する。119自分(じぶん)から手紙(てがみ)先生(せんせい)(はう)へ……来奉者(らいほうしや)()(かへ)しますから()承知(しようち)ありたし……と申遣(まうしつか)はし、120()占魁(せんくわい)には……(ぐん)行動(かうどう)邪魔(じやま)になる(こと)先生(せんせい)(げん)(いへど)聴従(ちやうじゆう)するな……と(つた)へ、121(なほ)使者(ししや)(たい)しては……万一(まんいち)先生(せんせい)から自分(じぶん)(かんが)へと(ちが)つた()返辞(へんじ)のある場合(ばあひ)には途中(とちう)(にぎ)(つぶ)せ……と(めい)じて()いた。122それでも(なほ)自由(じいう)行動(かうどう)()入蒙(にふもう)せられるなら、123途中(とちう)危険(きけん)(たい)して吾々(われわれ)責任(せきにん)()はない』
124 ()通告(つうこく)()けた(さん)(にん)熟議(じゆくぎ)結果(けつくわ)125唐国別(からくにわけ)口吻(こうふん)女子(ぢよし)従軍(じうぐん)禁制(きんせい)(むね)もあつた(やう)だから、126(この)(さい)加藤(かとう)断念(だんねん)し、127国分(こくぶ)128藤田(ふぢた)二人(ふたり)だけ入蒙(にふもう)取計(とりはから)つて(もら)(こと)にしようと一決(いつけつ)し、129加藤(かとう)大倉(おほくら)訪問(はうもん)して(これ)(かた)つた(ところ)大倉(おほくら)同情(どうじやう)して『()(かく)先生(せんせい)()指図(さしづ)(あふ)(まで)130地方(ちはう)見物(けんぶつ)でもなさいませ』との(こと)一縷(いちる)(のぞ)みを(のこ)131()(ぐわつ)廿九(にじふく)(にち)から()(ぐわつ)二日(ふつか)まで、132(さん)(にん)撫順(ぶじゆん)133大連(だいれん)134旅順(りよじゆん)などを巡覧(じゆんらん)した。135(この)(かん)萩原(はぎはら)写真機(しやしんき)携帯(けいたい)して入蒙(にふもう)()()いたのである。
136 (さん)(にん)(ふたた)奉天(ほうてん)帰来(きらい)した()137(わう)敬義(けいぎ)唐国別(からくにわけ)(むね)(ふく)んで来訪(らいほう)し、
138王敬義唐国別(からくにわけ)無断(むだん)何故(なぜ)大倉(おほくら)訪問(はうもん)したか、139それから旅順(りよじゆん)140大連(だいれん)などと出歩(である)くのは不謹慎(ふきんしん)ぢやないですか』
141(なじ)る。142(さん)(にん)(わう)敬義(けいぎ)同情者(どうじやうしや)(しん)じて()たので、
143三人の中の一人(加藤?)唐国別(からくにわけ)より最後(さいご)通牒(つうてふ)()けましたので()むを()大倉(おほくら)さんに(すが)つたのです、144そして大倉(おほくら)さんのお(すす)めに()つて見物(けんぶつ)()つて(まゐ)りました』145(こた)ふれば、
146(わう)敬義(けいぎ)唐国別(からくにわけ)(げん)(ひと)つの試練(しれん)とは(かんが)へないですか』
147加藤(かとう)『さう(おも)ひませぬでした』
148(わう)敬義(けいぎ)唐国別(からくにわけ)(げん)瑞霊(ずゐれい)神懸(かむがかり)(みと)めませぬか』
149 加藤(かとう)は『ハイ、150さうは(おも)ひませぬ』とて今日(けふ)(まで)経過(けいくわ)(くは)しく()べたので、151(わう)敬義(けいぎ)(やうや)(こころ)()けて、152種々(しゆじゆ)便宜(べんぎ)(はか)らふ(こと)となつた。153(この)(とき)国分(こくぶ)憤然(ふんぜん)(いろ)をなして()ふ、
154国分唐国別(からくにわけ)(げん)瑞霊(ずゐれい)神懸(かむがかり)とは(なん)のこつた。155(わう)敬義(けいぎ)価値(かち)(ここ)(いた)つては(ぜろ)だね、156(とも)(かた)るに()信仰(しんかう)ぢやないね。157()しあの(とき)加藤(かとう)さんが……承認(しようにん)します……とでも()はうものなら、158今後(こんご)断然(だんぜん)(こと)(とも)にせない(つも)りだつた』
159意気(いき)軒昂(けんかう)たるものがあつた。160()くして奥地(おくち)よりの消息(せうそく)()(うち)に、161日出雄(ひでを)より『(この)(さい)女子(ぢよし)入蒙(にふもう)困難(こんなん)なれば、162日奉間(につぽうかん)往復(わうふく)して連絡(れんらく)用務(ようむ)(つと)めよ』との伝達(でんたつ)あり、163国分(こくぶ)164藤田(ふぢた)(くわん)しては(なん)()伝言(でんごん)なく、165大倉(おほくら)同情(どうじやう)(まつた)一時(いちじ)気安(きやす)めであつた(こと)判明(はんめい)し、166藤田(ふぢた)は『ナアニ、167(かま)ふものか、168それでは飛行機(ひかうき)用意(ようい)して()る』とて単身(たんしん)帰国(きこく)して(しま)つた。169(その)(あと)名田彦(なだひこ)使者(ししや)として奥地(おくち)より来奉(らいほう)し、170種々(しゆじゆ)消息(せうそく)(つた)へたが、171(しゆ)として自身(じしん)苦心談(くしんだん)や、172愚痴(ぐち)のみにて要領(えうりやう)()ず、173(ただ)(わづか)に『(しばら)自由(じいう)行動(かうどう)()つて時機(じき)()て』との伝言(でんごん)(ふく)まれてゐるらしく(おも)はれたので、174加藤(かとう)175国分(こくぶ)両人(りやうにん)(つひ)時機(じき)到来(たうらい)せざるを(さつ)し、176()(ぐわつ)八日(やうか)()(けつ)して帰国(きこく)()()いたのである。177途々(みちみち)国分(こくぶ)微笑(びせう)しながら、
178国分藤田(ふぢた)(くん)飛行機(ひかうき)入蒙(にふもう)計画(けいくわく)もよからうが、179(いま)()(なか)黄金(こがね)弾丸(だんぐわん)(かぎ)るよ、180(かね)さへあれば浪人(らうにん)鬼面(きめん)()恵比須(ゑびす)(がほ)(かは)るよ。181さうすりや門番神(もんばんがみ)()しぬいて、182道案内(みちあんない)させる(ぐらゐ)朝飯前(あさめしまへ)仕事(しごと)だ』
183加藤(かとう)(かへり)みて(わら)つた。184帰来後(きらいご)(さん)(にん)三様(さんやう)活動(くわつどう)方針(はうしん)()つたが、185(その)()加藤(かとう)米倉(よねくら)範治(はんぢ)紹介(せうかい)(かつ)満蒙(まんもう)()驍名(げうめい)(とどろ)かせた(りう)武林(ぶりん)(こと)緑川(みどりかは)貞司(ていじ)師事(しじ)し、186馬術(ばじゆつ)稽古(けいこ)をはじめ、187緑川(みどりかは)案内者(あんないしや)として入蒙(にふもう)()(はた)すべく湯浅(ゆあさ)清高(きよたか)188谷前(たにまへ)清子(きよこ)189松村(まつむら)清香(きよか)190東尾(ひがしを)輝子(てるこ)()招集(せうしふ)すべく準備中(じゆんびちう)191通遼(つうれう)パインタラのこと異変(いへん)(せつ)したのである。
192 唐国別(からくにわけ)()加藤(かとう)()入蒙(にふもう)(こば)んだのは、193加藤(かとう)()入蒙(にふもう)(だい)庫倫(クーロン)(ちやく)(のち)と、194(かね)日出雄(ひでを)から()いてゐた(ほか)195(なん)()命令(めいれい)()けなかつたからであつた。
196大正一四、八、筆録)
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