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第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
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第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
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第13巻(子の巻)
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特別編 入蒙記
第1篇 日本より奉天まで
01 水火訓
02 神示の経綸
03 金剛心
04 微燈の影
05 心の奥
06 出征の辞
07 奉天の夕
第2篇 奉天より洮南へ
08 聖雄と英雄
09 司令公館
10 奉天出発
11 安宅の関
12 焦頭爛額
13 洮南旅館
14 洮南の雲
第3篇 洮南より索倫へ
15 公爺府入
16 蒙古の人情
17 明暗交々
18 蒙古気質
19 仮司令部
20 春軍完備
21 索倫本営
第4篇 神軍躍動
22 木局収ケ原
23 下木局子
24 木局の月
25 風雨叱咤
26 天の安河
27 奉天の渦
28 行軍開始
29 端午の日
30 岩窟の奇兆
第5篇 雨後月明
31 強行軍
32 弾丸雨飛
33 武装解除
34 竜口の難
35 黄泉帰
36 天の岩戸
37 大本天恩郷
38 世界宗教聯合会
39 入蒙拾遺
附 入蒙余録
大本の経綸と満蒙
世界経綸の第一歩
蒙古建国
蒙古の夢
余白歌
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> 第3篇 洮南より索倫へ > 第16章 蒙古の人情
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第一六章
蒙古
(
もうこ
)
の
人情
(
にんじやう
)
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 特別篇 山河草木 入蒙記
篇:
第3篇 洮南より索倫へ
よみ(新仮名遣い):
とうなんよりそーろんへ
章:
第16章 蒙古の人情
よみ(新仮名遣い):
もうこのにんじょう
通し章番号:
口述日:
1925(大正14)年08月
口述場所:
筆録者:
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年2月14日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
蒙古人は剽悍武勇であり、朴直慇懃で、親しみやすい。喜怒哀楽を直にあらわし、子供のように単純である。支那人やロシア人には近年圧迫されたため、彼らを敵視しているが、日本人には憧憬の念を抱いている。
日出雄は公爺府王の親戚に当たる、白凌閣(パイリンク)という十九歳になった青年を弟子となし、また彼から蒙古語を研究した。
蒙古人は嘘をつかず、一度この人と信じたならばその人のために生命まで投げ出すという気性の人種である。日出雄は蒙古人の潔白な精神に非常な満足を覚えた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
2024/1/15出口王仁三郎全集第6巻を底本として校正。
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-01-15 22:06:29
OBC :
rmnm16
愛善世界社版:
141頁
八幡書店版:
第14輯 599頁
修補版:
校定版:
141頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
蒙古人
(
もうこじん
)
は
昔
(
むかし
)
から
慓悍
(
ひやうかん
)
勇武
(
ゆうぶ
)
であり、
002
成吉思汗
(
ジンギスカン
)
の
鉄騎
(
てつき
)
が
天地
(
てんち
)
を
震撼
(
しんかん
)
せしめた
事
(
こと
)
は
誰
(
たれ
)
も
知
(
し
)
る
所
(
ところ
)
である。
003
現今
(
げんこん
)
に
於
(
おい
)
ても
其
(
その
)
容貌
(
ようばう
)
や
風俗
(
ふうぞく
)
には
昔
(
むかし
)
の
面影
(
おもかげ
)
を
残
(
のこ
)
して
居
(
ゐ
)
るやうである。
004
朴直
(
ぼくちよく
)
で
慇懃
(
いんぎん
)
で
親
(
した
)
しみやすいと
同時
(
どうじ
)
に
005
又
(
また
)
感情
(
かんじやう
)
的
(
てき
)
にして
喜怒
(
きど
)
哀楽
(
あいらく
)
は
忽
(
たちま
)
ち
色
(
いろ
)
に
現
(
あら
)
はし、
006
其
(
そ
)
の
一面
(
いちめん
)
に
於
(
おい
)
ては
愚鈍
(
ぐどん
)
にして、
007
行蔵
(
かうざう
)
頗
(
すこぶ
)
る
粗野
(
そや
)
淡白
(
たんぱく
)
で、
008
さながら
小児
(
せうに
)
の
様
(
やう
)
である。
009
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
近年
(
きんねん
)
支那人
(
しなじん
)
や
露西亜
(
ろしあ
)
人
(
じん
)
にいろいろと
圧迫
(
あつぱく
)
せられたので、
010
両国人
(
りやうこくじん
)
を
見
(
み
)
ること
蛇蝎
(
だかつ
)
の
如
(
ごと
)
く
嫌
(
きら
)
ひ、
011
支那人
(
しなじん
)
露西亜
(
ろしあ
)
人
(
じん
)
の
奥地
(
おくち
)
に
入
(
い
)
るものは、
012
何
(
いづ
)
れも
無事
(
ぶじ
)
に
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないのである。
013
彼
(
かれ
)
蒙古人
(
もうこじん
)
は
支那人
(
しなじん
)
、
014
露西亜
(
ろしあ
)
人
(
じん
)
に
対
(
たい
)
しては
不倶
(
ふぐ
)
戴天
(
たいてん
)
の
仇
(
あだ
)
の
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
るが、
015
之
(
これ
)
に
反
(
はん
)
して
日本人
(
につぽんじん
)
に
憧憬
(
どうけい
)
することは
実
(
じつ
)
に
案外
(
あんぐわい
)
である。
016
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
は
大部分
(
だいぶぶん
)
は
今
(
いま
)
や
全
(
まつた
)
く
生存
(
せいぞん
)
競争
(
きやうそう
)
の
圏外
(
けんぐわい
)
に
超然
(
てうぜん
)
として、
017
更
(
さら
)
に
利害
(
りがい
)
の
観念
(
かんねん
)
なく、
018
牛馬
(
ぎうば
)
、
019
羊豚
(
やうとん
)
、
020
駱駝
(
らくだ
)
などを
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
伴侶
(
はんりよ
)
として、
021
茶
(
ちや
)
を
呑
(
の
)
み、
022
煙草
(
たばこ
)
を
吸
(
す
)
ひ、
023
年
(
ねん
)
が
年中
(
ねんぢう
)
ねむつたり、
024
食
(
く
)
つたり、
025
或
(
あるひ
)
は
経
(
きやう
)
を
読
(
よ
)
み、
026
仏
(
ほとけ
)
を
念
(
ねん
)
じ、
027
死後
(
しご
)
の
冥福
(
めいふく
)
を
祈
(
いの
)
る
外
(
ほか
)
余念
(
よねん
)
なきが
如
(
ごと
)
く、
028
敢
(
あへ
)
て
複雑
(
ふくざつ
)
な
人生
(
じんせい
)
の
苦難
(
くなん
)
を
知
(
し
)
らぬのである。
029
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らもし
何
(
なん
)
等
(
ら
)
かの
動機
(
どうき
)
に
依
(
よ
)
つて、
030
之
(
これ
)
を
刺戟
(
しげき
)
し、
031
其
(
その
)
性情
(
せいじやう
)
を
反撥
(
はんぱつ
)
するものがあれば、
032
其処
(
そこ
)
に
必
(
かなら
)
ず
祖先
(
そせん
)
の
遺伝
(
いでん
)
的
(
てき
)
性情
(
せいじやう
)
を
喚発
(
くわんぱつ
)
するであらう。
033
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
が
駻馬
(
かんば
)
に
鞭
(
むちう
)
つて
際限
(
さいげん
)
もなき
広野
(
くわうや
)
を
疾駆
(
しつく
)
し、
034
男
(
をとこ
)
も
女
(
をんな
)
も
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
鞍
(
くら
)
に
跨
(
またが
)
り
勇壮
(
ゆうさう
)
なる
活動
(
くわつどう
)
をやつて
居
(
ゐ
)
るのを
見
(
み
)
れば、
035
転
(
うた
)
た
古
(
いにしへ
)
の
勇敢
(
ゆうかん
)
なる
民族
(
みんぞく
)
の
気象
(
きしやう
)
を
偲
(
しの
)
ばせるものがある。
036
蒙古人
(
もうこじん
)
は
人
(
ひと
)
に
接
(
せつ
)
する
甚
(
はなは
)
だ
親切
(
しんせつ
)
で、
037
其
(
その
)
同族
(
どうぞく
)
知己
(
ちき
)
の
間
(
あひだ
)
に
於
(
おい
)
ては
勿論
(
もちろん
)
、
038
外来
(
ぐわいらい
)
未知
(
みち
)
の
日本人
(
につぽんじん
)
に
対
(
たい
)
しても
一度
(
いちど
)
相
(
あひ
)
識
(
し
)
るや
一家
(
いつか
)
挙
(
こぞ
)
つて
之
(
これ
)
を
款待
(
くわんたい
)
するの
風
(
ふう
)
がある。
039
日本人
(
につぽんじん
)
と
聞
(
き
)
けば
仮令
(
たとへ
)
一人旅
(
ひとりたび
)
でも
親切
(
しんせつ
)
に
宿泊
(
しゆくはく
)
せしめ、
040
一家
(
いつか
)
挙
(
こぞ
)
つて
同情
(
どうじやう
)
歓迎
(
くわんげい
)
し、
041
些
(
すこ
)
しも
障壁
(
しやうへき
)
を
設
(
まう
)
けない。
042
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
西洋人
(
せいやうじん
)
や
支那人
(
しなじん
)
に
対
(
たい
)
しては
或
(
あるひ
)
は
恐怖
(
きようふ
)
し、
043
或
(
あるひ
)
は
卑下
(
ひげ
)
し
044
容易
(
ようい
)
に
家
(
いへ
)
へ
入
(
い
)
るを
許
(
ゆる
)
さない。
045
日出雄
(
ひでを
)
が
公爺府
(
コンエフ
)
に
入
(
い
)
るや
公府
(
こうふ
)
の
兵士
(
へいし
)
を
初
(
はじ
)
め、
046
役人
(
やくにん
)
や
村民
(
そんみん
)
などが
嘻々
(
きき
)
として
集
(
あつま
)
り
来
(
きた
)
り、
047
隔意
(
かくい
)
なく
親切
(
しんせつ
)
に
茶
(
ちや
)
を
汲
(
く
)
んだり、
048
煙草
(
たばこ
)
をすすめたり、
049
又
(
また
)
炊事
(
すゐじ
)
の
手伝
(
てつだひ
)
をしたりして
050
非常
(
ひじやう
)
に
款待
(
くわんたい
)
し、
051
村人
(
むらびと
)
は
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
日々
(
ひび
)
訪
(
たづ
)
ねきて、
052
言語
(
げんご
)
が
通
(
つう
)
ぜないにも
拘
(
かか
)
はらず、
053
鶏肉
(
けいにく
)
や
鶏卵
(
けいらん
)
や
牛乳
(
ぎうにう
)
の
煎餅
(
せんべい
)
や、
054
炒米
(
チヨウミイ
)
などを
携
(
たづさ
)
へて
来
(
き
)
て
親切
(
しんせつ
)
に
世話
(
せわ
)
をした。
055
公爺府
(
コンエフ
)
の
喇嘛僧
(
らまそう
)
は
日々
(
ひび
)
日出雄
(
ひでを
)
の
傍
(
かたはら
)
に
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て、
056
鎮魂
(
ちんこん
)
を
受
(
う
)
けたり、
057
日本服
(
につぽんふく
)
を
珍
(
めづ
)
らしさうに
眺
(
なが
)
めたりして
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
058
さうして
蒙古
(
もうこ
)
の
婦人
(
ふじん
)
は
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
日出雄
(
ひでを
)
の
身辺
(
しんぺん
)
を
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
いて
嬉
(
うれ
)
しさうに
遊
(
あそ
)
んで
居
(
ゐ
)
る。
059
日出雄
(
ひでを
)
は
公爺府
(
コンエフ
)
王
(
わう
)
の
親戚
(
しんせき
)
に
当
(
あた
)
る
白凌閣
(
パイリンク
)
と
云
(
い
)
ふ
十九
(
じふきう
)
歳
(
さい
)
になつた
青年
(
せいねん
)
を
060
王
(
わう
)
の
承諾
(
しようだく
)
を
得
(
え
)
て
弟子
(
でし
)
となし、
061
此
(
こ
)
の
男
(
をとこ
)
に
就
(
つい
)
て
蒙古語
(
もうこご
)
の
研究
(
けんきう
)
を
始
(
はじ
)
めた。
062
白凌閣
(
パイリンク
)
は
蒙古人
(
もうこじん
)
に
似
(
に
)
ず
公爺府
(
コンエフ
)
の
役人
(
やくにん
)
から
学問
(
がくもん
)
を
習
(
なら
)
ひ、
063
支那字
(
しなじ
)
や
蒙古字
(
もうこじ
)
をよく
知
(
し
)
り、
064
且
(
か
)
つ
支那語
(
しなご
)
をもよくした。
065
日出雄
(
ひでを
)
は
此
(
この
)
白凌閣
(
パイリンク
)
や
村人
(
むらびと
)
と
十日間
(
とをかかん
)
程
(
ほど
)
遊
(
あそ
)
んで
居
(
ゐ
)
る
間
(
あひだ
)
に
蒙古語
(
もうこご
)
を
大略
(
だいりやく
)
覚
(
おぼ
)
え、
066
蒙古人
(
もうこじん
)
と
談話
(
だんわ
)
を
交換
(
かうくわん
)
するには
余
(
あま
)
り
差支
(
さしつか
)
へない
程度
(
ていど
)
に
迄
(
まで
)
進
(
すす
)
んだのである。
067
日出雄
(
ひでを
)
が
公爺府
(
コンエフ
)
に
着
(
つ
)
いた
二三
(
にさん
)
日目
(
にちめ
)
の
正午
(
しやうご
)
頃
(
ごろ
)
、
068
協理
(
けふり
)
老
(
らう
)
印君
(
いんくん
)
の
館
(
やかた
)
に
遊
(
あそ
)
んで
居
(
ゐ
)
ると、
069
王
(
わう
)
様
(
さま
)
が
管内
(
くわんない
)
の
巡視
(
じゆんし
)
を
終
(
を
)
へて
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
兵士
(
へいし
)
と
共
(
とも
)
にラツパを
吹
(
ふ
)
かせて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
070
さうして
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
方
(
はう
)
から
老
(
らう
)
印君
(
いんくん
)
の
宅
(
たく
)
へ
出張
(
しゆつちやう
)
し、
071
日出雄
(
ひでを
)
に
面会
(
めんくわい
)
し、
072
通訳
(
つうやく
)
を
介
(
かい
)
し
種々
(
しゆじゆ
)
と
挨拶
(
あいさつ
)
をした。
073
此
(
この
)
王
(
わう
)
は
宝算
(
はうさん
)
正
(
まさ
)
に
二十三
(
にじふさん
)
歳
(
さい
)
、
074
さうして
位
(
くらゐ
)
は
鎮国公
(
ちんこくこう
)
で、
075
巴彦那木爾
(
パエンナムル
)
と
云
(
い
)
ふ
人
(
ひと
)
である。
076
色
(
いろ
)
の
白
(
しろ
)
い
凛々
(
りり
)
しい
好男子
(
かうだんし
)
であつた。
077
日出雄
(
ひでを
)
は
王
(
わう
)
様
(
さま
)
に
土産
(
みやげ
)
として
懐中
(
くわいちゆう
)
電燈
(
でんとう
)
一個
(
いつこ
)
を
贈
(
おく
)
つた。
078
王
(
わう
)
は
珍
(
めづ
)
らしがつて
幾度
(
いくど
)
も
押戴
(
おしいただ
)
き
嘻々
(
きき
)
として
受
(
う
)
け
取
(
と
)
つた。
079
此
(
こ
)
の
王
(
わう
)
様
(
さま
)
は
未
(
いま
)
だ
独身
(
どくしん
)
で
奥
(
おく
)
さまが
定
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
ない。
080
先年
(
せんねん
)
巴布札布
(
パプチヤフ
)
の
挙兵
(
きよへい
)
の
時
(
とき
)
に
其
(
その
)
居城
(
きよじやう
)
を
支那兵
(
しなへい
)
に
荒
(
あら
)
され、
081
且
(
か
)
つ
財産
(
ざいさん
)
を
奪
(
うば
)
はれ、
082
今
(
いま
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
財政
(
ざいせい
)
困難
(
こんなん
)
に
陥
(
おちい
)
つて
居
(
ゐ
)
るので、
083
それ
故
(
ゆゑ
)
妻君
(
さいくん
)
を
娶
(
めと
)
るとなれば、
084
王
(
わう
)
として
非常
(
ひじやう
)
な
費用
(
ひよう
)
が
要
(
い
)
るので
見合
(
みあは
)
せて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
である。
085
それに
此
(
こ
)
の
若
(
わか
)
い
王
(
わう
)
様
(
さま
)
は
北京
(
ペキン
)
へ
参勤
(
さんきん
)
した
際
(
さい
)
、
086
支那
(
しな
)
芸者
(
げいしや
)
から
梅毒
(
ばいどく
)
をうつされ、
087
大変
(
たいへん
)
困
(
こま
)
つて
居
(
ゐ
)
るとか
云
(
い
)
ふ
話
(
はなし
)
であつた。
088
それから
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
たつと
公爺廟
(
コンエメウ
)
の
活仏
(
くわつぶつ
)
が
巡錫
(
じゆんしやく
)
して
来
(
き
)
て
日出雄
(
ひでを
)
に
面会
(
めんくわい
)
したいと
云
(
い
)
ふので、
089
日出雄
(
ひでを
)
は
老
(
らう
)
印君
(
いんくん
)
の
宅
(
たく
)
で
会見
(
くわいけん
)
した。
090
此
(
こ
)
の
活仏
(
くわつぶつ
)
は
三十
(
さんじふ
)
前後
(
ぜんご
)
の
男
(
をとこ
)
で、
091
公爺府
(
コンエフ
)
の
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
姉
(
あね
)
や
妹
(
いもうと
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
迄
(
まで
)
妙
(
みやう
)
な
関係
(
くわんけい
)
をつけて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふ
生臭
(
なまぐさ
)
坊主
(
ばうず
)
である。
092
此
(
この
)
活仏
(
くわつぶつ
)
は
日出雄
(
ひでを
)
が
蒙古
(
もうこ
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
として
現
(
あら
)
はれたと
云
(
い
)
ふので
敬意
(
けいい
)
を
表
(
へう
)
しに
来
(
き
)
たのである。
093
四五
(
しご
)
日
(
にち
)
すると
蒙古
(
もうこ
)
の
各地
(
かくち
)
から、
094
救世主
(
きうせいしゆ
)
来
(
きた
)
れりと
云
(
い
)
ふ
噂
(
うはさ
)
を
聞
(
き
)
いて
095
遠
(
とほ
)
きは
二百
(
にひやく
)
支里
(
しり
)
位
(
ぐらゐ
)
の
所
(
ところ
)
から、
096
大車
(
だいしや
)
や
轎車
(
けうしや
)
に
乗
(
の
)
つて
老若
(
らうじやく
)
男女
(
だんぢよ
)
が
救
(
すく
)
ひを
求
(
もと
)
めに
来
(
く
)
る。
097
余
(
あま
)
り
忙
(
いそが
)
しいので
守高
(
もりたか
)
が
俄
(
にわか
)
喇嘛
(
ラマ
)
になり、
098
澄
(
す
)
ました
顔
(
かほ
)
で
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
に
鎮魂
(
ちんこん
)
の
手伝
(
てつだ
)
ひをして
居
(
ゐ
)
た。
099
○
100
蒙古
(
もうこ
)
の
此
(
この
)
地方
(
ちはう
)
の
家屋
(
かをく
)
は
総
(
すべ
)
て
矮小
(
わいせう
)
で
不潔
(
ふけつ
)
である。
101
さうして
男
(
をとこ
)
も
女
(
をんな
)
も
若布
(
わかめ
)
の
行列
(
ぎやうれつ
)
か
襁褓
(
しめし
)
の
親分
(
おやぶん
)
か、
102
雑巾屋
(
ざふきんや
)
の
看板尻
(
かんばんしり
)
でも
喰
(
くら
)
へと
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
なボロを
身
(
み
)
に
纏
(
まと
)
ひ、
103
平気
(
へいき
)
の
平左
(
へいざ
)
でやつて
来
(
く
)
る。
104
又
(
また
)
女
(
をんな
)
は
前頭部
(
ぜんとうぶ
)
にいろいろの
宝石
(
ほうせき
)
を
飾
(
かざ
)
り、
105
耳
(
みみ
)
には
宝石
(
ほうせき
)
の
環
(
わ
)
をぶら
下
(
さ
)
げて
居
(
ゐ
)
る。
106
さうして
家柄
(
いへがら
)
の
良
(
よ
)
い
所
(
ところ
)
の
女
(
をんな
)
は
環
(
わ
)
を
三条
(
みすぢ
)
下
(
さ
)
げ、
107
中流
(
ちうりう
)
は
二条
(
ふたすぢ
)
、
108
下流
(
かりう
)
は
一条
(
ひとすぢ
)
の
環
(
わ
)
をブラ
下
(
さ
)
げて
居
(
ゐ
)
る。
109
娘
(
むすめ
)
は
皆
(
みな
)
下
(
さ
)
げ
髪
(
がみ
)
であるが、
110
結婚
(
けつこん
)
すると
同時
(
どうじ
)
に
髪
(
かみ
)
を
巻
(
ま
)
いて
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
にクルクルと
束
(
たば
)
ねて
居
(
ゐ
)
る。
111
さうして
下女
(
げぢよ
)
には
耳
(
みみ
)
に
環
(
わ
)
が
無
(
な
)
いので、
112
一見
(
いつけん
)
して
其
(
その
)
婢
(
はしため
)
たる
事
(
こと
)
が
判
(
わか
)
る。
113
蒙古人
(
もうこじん
)
は
家
(
いへ
)
の
中
(
なか
)
であらうが
門口
(
かどぐち
)
であらうが、
114
痰唾
(
たんつば
)
を
吐
(
は
)
き、
115
手涕
(
てばな
)
をかみ、
116
手
(
て
)
についた
涕
(
はな
)
を
自分
(
じぶん
)
の
着衣
(
ちやくい
)
に
無造作
(
むざうさ
)
にこすりつけて
居
(
ゐ
)
る。
117
何
(
いづ
)
れの
家
(
いへ
)
にも
牛馬
(
ぎうば
)
、
118
羊豚
(
やうとん
)
、
119
鶏
(
とり
)
などが
沢山
(
たくさん
)
に
飼
(
か
)
うてあり、
120
朝
(
あさ
)
になると
家
(
いへ
)
の
周囲
(
まはり
)
に
寝
(
ね
)
て
居
(
ゐ
)
る
牛馬
(
ぎうば
)
などは、
121
蒙古犬
(
もうこいぬ
)
に
導
(
みちび
)
かれて
遠
(
とほ
)
い
遠
(
とほ
)
い
山野
(
さんや
)
に
草
(
くさ
)
を
食
(
く
)
ひに
行
(
ゆ
)
き、
122
日没前
(
にちぼつまへ
)
になると
又
(
また
)
犬
(
いぬ
)
に
守
(
まも
)
られてノソリノソリと
家
(
いへ
)
の
周囲
(
まはり
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
て
寝
(
ね
)
て
了
(
しま
)
ふ。
123
沢山
(
たくさん
)
の
牛馬
(
ぎうば
)
が
処
(
ところ
)
構
(
かま
)
はず
糞
(
くそ
)
をひるので、
124
蒙古人
(
もうこじん
)
は
牛馬
(
ぎうば
)
の
糞
(
くそ
)
をかき
集
(
あつ
)
めて
大
(
おほ
)
きな
山
(
やま
)
を
作
(
つく
)
るのが
何
(
なに
)
よりの
仕事
(
しごと
)
である。
125
そして
家
(
いへ
)
の
壁
(
かべ
)
や
垣
(
かき
)
などに
牛糞
(
ぎうふん
)
をベタリと
塗
(
ぬ
)
り、
126
又
(
また
)
高粱
(
かうりやう
)
や
炒米
(
チヨウミイ
)
の
容器
(
ようき
)
は
楊
(
やなぎ
)
の
枝
(
えだ
)
を
編
(
あ
)
んで
籠
(
かご
)
を
作
(
つく
)
り、
127
牛糞
(
ぎうふん
)
で
目
(
め
)
をつめて、
128
食糧品
(
しよくりやうひん
)
の
容器
(
ようき
)
として
居
(
ゐ
)
る。
129
温突
(
をんどる
)
を
焚
(
た
)
くのも
茶
(
ちや
)
を
沸
(
わ
)
かすのも、
130
高粱
(
かうりやう
)
の
粥
(
かゆ
)
を
煮
(
に
)
るのも、
131
皆
(
みな
)
牛糞
(
ぎうふん
)
である。
132
これだけ
牧畜
(
ぼくちく
)
の
盛
(
さか
)
んな
蒙古
(
もうこ
)
に
於
(
おい
)
て、
133
牛糞
(
ぎうふん
)
を
焚
(
た
)
かなかつたら、
134
蒙古
(
もうこ
)
の
民家
(
みんか
)
は
牛糞
(
ぎうふん
)
で
埋
(
うづ
)
まるであらう。
135
牛糞
(
ぎうふん
)
の
山
(
やま
)
は
到
(
いた
)
る
所
(
ところ
)
に
築
(
きづ
)
かれてある。
136
さうして
内地
(
ないち
)
の
牛糞
(
ぎうふん
)
のやうに
妙
(
めう
)
な
臭気
(
しうき
)
は
無
(
な
)
い。
137
羊肉
(
やうにく
)
をあぶつて
食
(
く
)
らふのも
鶏肉
(
とりにく
)
をあぶつて
食
(
く
)
らふのも、
138
皆
(
みな
)
牛糞
(
ぎうふん
)
の
火
(
ひ
)
を
用
(
もち
)
ひるのである。
139
潔癖
(
けつぺき
)
な
日本人
(
につぽんじん
)
は
土地
(
とち
)
に
慣
(
な
)
れる
迄
(
まで
)
は、
140
何
(
いづ
)
れも
顔
(
かほ
)
をしかめ
鼻
(
はな
)
をつまんで
困
(
こま
)
つて
居
(
ゐ
)
る
有様
(
ありさま
)
だ。
141
蒙古人
(
もうこじん
)
は
日本
(
につぽん
)
の
古代人
(
こだいじん
)
のやうな
魂
(
たましひ
)
が
残
(
のこ
)
つてゐて、
142
嘘
(
うそ
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
決
(
けつ
)
して
知
(
し
)
らない。
143
それ
故
(
ゆゑ
)
に
嘘
(
うそ
)
と
云
(
い
)
ふ
言葉
(
ことば
)
もなければ、
144
違
(
ちが
)
やしないかと
云
(
い
)
ふ
疑問詞
(
ぎもんし
)
もない。
145
此
(
この
)
点
(
てん
)
に
於
(
おい
)
ては
実
(
じつ
)
に
気持
(
きもち
)
の
好
(
よ
)
い
国人
(
くにびと
)
である。
146
だから
蒙古人
(
もうこじん
)
は
一度
(
いちど
)
此
(
この
)
人
(
ひと
)
と
信
(
しん
)
じたならば、
147
其
(
その
)
人
(
ひと
)
が
如何
(
いか
)
なる
悪人
(
あくにん
)
であらうとも、
148
そんな
事
(
こと
)
には
頓着
(
とんちやく
)
なく
因縁
(
いんねん
)
だとあきらめて
149
終身
(
しうしん
)
其
(
その
)
人
(
ひと
)
の
為
(
ため
)
に
生命
(
せいめい
)
までも
擲出
(
なげだ
)
すと
云
(
い
)
ふ
健気
(
けなげ
)
な
人種
(
じんしゆ
)
である。
150
之
(
これ
)
に
反
(
はん
)
して
最初
(
さいしよ
)
に
此
(
この
)
人
(
ひと
)
はいけないと
思
(
おも
)
つたならば、
151
其
(
その
)
人
(
ひと
)
が
後
(
のち
)
に
如何
(
いか
)
程
(
ほど
)
改心
(
かいしん
)
して
善人
(
ぜんにん
)
となつても
信用
(
しんよう
)
しない。
152
日出雄
(
ひでを
)
は
彼所
(
あちら
)
此所
(
こちら
)
から
招
(
まね
)
かれて
公爺府
(
コンエフ
)
の
民家
(
みんか
)
を
一戸
(
いつこ
)
も
残
(
のこ
)
らず
訪問
(
はうもん
)
し、
153
種々
(
しゆじゆ
)
の
款待
(
くわんたい
)
を
受
(
う
)
けて、
154
面従
(
めんじう
)
腹背
(
ふくはい
)
、
155
阿諛
(
あゆ
)
諂侫
(
てんねい
)
の
内地人
(
ないちじん
)
に
日夜
(
にちや
)
接近
(
せつきん
)
し、
156
不快
(
ふくわい
)
でたまらなかつた
日出雄
(
ひでを
)
は、
157
此
(
この
)
蒙古人
(
もうこじん
)
の
潔白
(
けつぱく
)
な
精神
(
せいしん
)
に
非常
(
ひじやう
)
な
満足
(
まんぞく
)
を
覚
(
おぼ
)
えた。
158
蒙古人
(
もうこじん
)
に
小
(
ちひ
)
さい
飴
(
あめ
)
一個
(
いつこ
)
を
与
(
あた
)
ふれば
大
(
おほ
)
きな
男
(
をとこ
)
が
喜
(
よろこ
)
んで
頂
(
いただ
)
き、
159
嬉
(
うれ
)
しさうに
舌鼓
(
したつづみ
)
を
打
(
う
)
つて
幾度
(
いくど
)
も
感謝
(
かんしや
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
し、
160
まるで
内地
(
ないち
)
の
三
(
み
)
つ
子
(
ご
)
のやうである。
161
さうして
空気
(
くうき
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
乾燥
(
かんさう
)
し、
162
寒国
(
かんごく
)
にも
似
(
に
)
ず
雪
(
ゆき
)
は
余
(
あま
)
り
沢山
(
たくさん
)
降
(
ふ
)
らない、
163
何程
(
なにほど
)
深雪
(
ふかゆき
)
だといつても
高
(
たか
)
が
一寸
(
いつすん
)
位
(
ぐらゐ
)
積
(
つも
)
るのが
通例
(
つうれい
)
である。
164
さうして
風
(
かぜ
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
寒
(
さむ
)
いが
其
(
その
)
割
(
わり
)
には
身体
(
からだ
)
を
害
(
がい
)
せない、
165
又
(
また
)
呼吸器
(
こきふき
)
を
傷
(
きず
)
つけない
妙
(
めう
)
である。
166
蒙古
(
もうこ
)
の
喇嘛
(
ラマ
)
や
貴人
(
きじん
)
はハムロタマガと
云
(
い
)
ふ
宝石製
(
はうせきせい
)
の
径
(
けい
)
一寸
(
いつすん
)
位
(
ぐらゐ
)
な
香器
(
かうき
)
を
携帯
(
けいたい
)
し、
167
初
(
はじ
)
めての
人
(
ひと
)
に
接
(
せつ
)
する
時
(
とき
)
には、
168
其
(
その
)
器
(
うつは
)
の
中
(
なか
)
から
非常
(
ひじやう
)
に
香
(
かほり
)
の
好
(
よ
)
い
粉末
(
ふんまつ
)
を
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
して
客
(
きやく
)
に
嗅
(
か
)
がすのを
非常
(
ひじやう
)
の
待遇
(
たいぐう
)
として
居
(
ゐ
)
る。
169
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
風
(
かぜ
)
は
激
(
はげ
)
しく、
170
黄塵
(
くわうぢん
)
の
立
(
た
)
ち
上
(
のぼ
)
る
蒙古
(
もうこ
)
では
第一
(
だいいち
)
鼻
(
はな
)
がつまつて
困
(
こま
)
る。
171
然
(
しか
)
るにこのハムロタマガの
香粉
(
かうふん
)
を
鼻
(
はな
)
に
塗
(
ぬ
)
りつけると、
172
不思議
(
ふしぎ
)
にも
鼻
(
はな
)
が
透
(
す
)
き
通
(
とほ
)
り
気分
(
きぶん
)
がよくなる。
173
蒙古人
(
もうこじん
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
柄
(
え
)
の
長
(
なが
)
い
太
(
ふと
)
い
煙管
(
きせる
)
を
携帯
(
けいたい
)
し、
174
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
迄
(
まで
)
茶
(
ちや
)
を
飲
(
の
)
んだ
あいま
には
煙草
(
たばこ
)
をくすべて
居
(
ゐ
)
る。
175
小
(
ちひ
)
さい
盃
(
さかづき
)
の
様
(
やう
)
な
雁首
(
がんくび
)
の
皿
(
さら
)
で、
176
銀製
(
ぎんせい
)
、
177
真鍮製
(
しんちうせい
)
のものが
多
(
おほ
)
い。
178
さうして
吸口
(
すひくち
)
の
方
(
はう
)
は
硨磲
(
しやこ
)
、
179
瑪瑙
(
めなう
)
、
180
翡翠
(
ひすゐ
)
などの
宝石
(
ほうせき
)
をもつて
作
(
つく
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
181
蒙古人
(
もうこじん
)
は
此
(
こ
)
の
煙管
(
きせる
)
に
最
(
もつと
)
も
金
(
かね
)
を
費
(
つひや
)
すと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
である。
182
蒙古人
(
もうこじん
)
は
一夫
(
いつぷ
)
多妻
(
たさい
)
主義
(
しゆぎ
)
である。
183
長男
(
ちやうなん
)
を
太子
(
たいし
)
と
云
(
い
)
ふ、
184
太子
(
たいし
)
のみが
妻帯
(
さいたい
)
して
家
(
いへ
)
を
継
(
つ
)
ぎ、
185
次子
(
じし
)
以下
(
いか
)
は
残
(
のこ
)
らず
喇嘛
(
ラマ
)
になつて
了
(
しま
)
ふ、
186
これは
仏教
(
ぶつけう
)
の
信仰
(
しんかう
)
からだと
云
(
い
)
ふ。
187
それ
故
(
ゆゑ
)
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
一夫
(
いつぷ
)
多妻
(
たさい
)
となり、
188
老
(
らう
)
印君
(
いんくん
)
の
如
(
ごと
)
き
六十
(
ろくじふ
)
七八
(
しちはつ
)
歳
(
さい
)
にもなつて
七
(
しち
)
人
(
にん
)
の
妻君
(
さいくん
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
189
さうして
妻君
(
さいくん
)
を
貰
(
もら
)
ふのには
牛
(
うし
)
を
五頭
(
ごとう
)
或
(
あるひ
)
は
六頭
(
ろくとう
)
、
190
極上等
(
ごくじやうとう
)
の
美人
(
びじん
)
になると
十頭
(
じつとう
)
と
交換
(
かうくわん
)
する
風習
(
ふうしふ
)
である。
191
白凌閣
(
パイリンク
)
の
妻君
(
さいくん
)
は
牛
(
ぎう
)
五頭
(
ごとう
)
と
交換
(
かうくわん
)
されたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
であつた。
192
男子
(
だんし
)
は
十八
(
じふはち
)
歳
(
さい
)
でなければ
蒙古
(
もうこ
)
の
人数
(
にんずう
)
に
入
(
い
)
れない。
193
さうして
女
(
をんな
)
は
残
(
のこ
)
らず
人口
(
じんこう
)
から
除外
(
じよぐわい
)
されてゐる、
194
夫
(
それ
)
故
(
ゆゑ
)
蒙古
(
もうこ
)
の
人口
(
じんこう
)
は
完全
(
くわんぜん
)
に
調査
(
てうさ
)
する
事
(
こと
)
は
六ケ敷
(
むつかし
)
い。
195
葬式
(
さうしき
)
など
至
(
いた
)
つて
簡単
(
かんたん
)
で、
196
親
(
おや
)
や
兄弟
(
きやうだい
)
を
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
して
死
(
し
)
んだものは
不孝者
(
ふかうもの
)
だと
云
(
い
)
うて
山
(
やま
)
の
谷
(
たに
)
に
棄
(
す
)
てに
行
(
ゆ
)
き、
197
沢山
(
たくさん
)
の
喇嘛
(
ラマ
)
がゴロついて
居
(
ゐ
)
ても
御
(
お
)
経
(
きやう
)
一
(
ひと
)
つ
上
(
あ
)
げてやらない
風習
(
ふうしふ
)
である。
198
蒙古人
(
もうこじん
)
の
容貌
(
ようばう
)
は
男女
(
だんぢよ
)
共
(
とも
)
日本人
(
につぽんじん
)
に
酷似
(
こくじ
)
し、
199
些
(
すこ
)
しも
支那人
(
しなじん
)
に
似
(
に
)
てゐないのは
不思議
(
ふしぎ
)
である。
200
支那人
(
しなじん
)
は
妻
(
つま
)
が
男客
(
だんきやく
)
の
傍
(
かたはら
)
へ
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
を
非常
(
ひじやう
)
に
嫌
(
きら
)
ふが、
201
蒙古
(
もうこ
)
の
男子
(
だんし
)
は
一切
(
いつさい
)
無頓着
(
むとんちやく
)
である。
202
それ
故
(
ゆゑ
)
自分
(
じぶん
)
の
家内
(
かない
)
や
娘
(
むすめ
)
を
安心
(
あんしん
)
して
外来
(
ぐわいらい
)
の
客
(
きやく
)
の
世話
(
せわ
)
をさせる。
203
その
代
(
かは
)
り
蒙古
(
もうこ
)
の
婦人
(
ふじん
)
は
極
(
きは
)
めて
朴直
(
ぼくちよく
)
で
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
つた
以上
(
いじやう
)
は
決
(
けつ
)
してその
他
(
ほか
)
の
男
(
をとこ
)
に
関係
(
くわんけい
)
しない。
204
それ
故
(
ゆゑ
)
いつも
蒙古
(
もうこ
)
の
婦人
(
ふじん
)
が
交
(
かは
)
る
代
(
がは
)
る
日出雄
(
ひでを
)
の
無聊
(
ぶれう
)
を
慰
(
なぐさ
)
めむと
毎日
(
まいにち
)
胡琴
(
フウチン
)
を
弾
(
だん
)
じ、
205
美声
(
びせい
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて
面白
(
おもしろ
)
き
歌
(
うた
)
を
謡
(
うた
)
ひ、
206
日出雄
(
ひでを
)
の
身辺
(
しんぺん
)
には
何時
(
いつ
)
も
春陽
(
しゆんやう
)
の
気
(
き
)
が
漂
(
ただよ
)
うて
居
(
ゐ
)
た。
207
又
(
また
)
日出雄
(
ひでを
)
の
書生
(
しよせい
)
白凌閣
(
パイリンク
)
や
蒙古兵
(
もうこへい
)
等
(
とう
)
も
日々
(
ひび
)
胡琴
(
フウチン
)
を
弾
(
だん
)
じ、
208
歌
(
うた
)
を
謡
(
うた
)
ひ
軍旅
(
ぐんりよ
)
にある
日出雄
(
ひでを
)
を
慰
(
なぐさ
)
むる
事
(
こと
)
に
勉
(
つと
)
めたのである。
209
(
大正一四、八
、筆録)
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