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第二二章 木局収(ムチズ)(はら)

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 特別篇 山河草木 入蒙記 篇:第4篇 神軍躍動 よみ(新仮名遣い):しんぐんやくどう
章:第22章 木局収ケ原 よみ(新仮名遣い):むちずがはら 通し章番号:
口述日:1925(大正14)年08月 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年2月14日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
日出雄は軍の編成が終わった後、野山に兎狩りを催し、野生のにらやにんにくを採集しなど、愉快に索倫の日を送っていた。
すべての制度がせせこましかった国から、十六倍の面積を有するという蒙古へ来て、たくさんの兵士や畜類を相手に自由自在に勝手なことをして飛び回るのは、生まれて五十四年来なかった愉快さ、のんきさだった。
五月一日、盧占魁がやってきて、大庫倫に進むには、興安嶺付近に駐屯する赤軍と一戦交えなければならず、熱、察、綏三区域にある吾が参加軍が到達するには、遠すぎる。そこで、本年はこの区域で冬ごもりをし、完全な兵備を整えてから、来週を待って大庫倫入りをなすようにする考えである、と諮ってきた。
また、張作霖からは、兵備が整わないうちは軍資金、武器を送ることができないので、我慢してくれ、という意味の伝言が来た。
この地はいく抱えもあるような楊、柳、楡の大木が山野に繁茂し、トール河の清流はソーダを含んでゆるやかに流れ、天然の恩恵は無限に遺棄されている宝庫である。
盧占魁によれば、ジンギスカンが蒙古の原野に兵を上げてから六百六十六年となり、頭字の三つそろったのを見れば、いよいよ本年は三六の年だと言って、勇んでいた。
一日、野にて萩原や坂本が原野に放った火が、大風に吹かれてあっという間に身辺に広がってきた。日出雄は日本武尊が焼津で、神剣で草を払って賊軍の火計を追い返したという故事を思い出し、身辺の草を薙ぐと向かい火をつけて、天の数歌を奏上した。不思議にもにわかに風向きが変わり、危うく難を逃れたのである。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考:2024/1/21出口王仁三郎全集第6巻を底本として校正。 タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-01-21 07:43:36 OBC :rmnm22
愛善世界社版:201頁 八幡書店版:第14輯 621頁 修補版: 校定版:203頁 普及版: 初版: ページ備考:
001王仁(おに)日出雄(ひでを))、002松村(まつむら)真澄別(ますみわけ))、003矢野(やの)唐国別(からくにわけ))、004植芝(うゑしば)守高(もりたか))、005名田(なだ)音吉(おときち)名田彦(なだひこ))、006佐々木(ささき)(さかき))、007大石(おほいし)大倉(おほくら)
 
008 日出雄(ひでを)(ぐん)編成後(へんせいご)009護衛長(ごえいちやう)(へう)巨臣(きよしん)以下(いか)十数(じふすう)(めい)兵卒(へいそつ)(ともな)ひ、010北方(ほくほう)野山(のやま)兎狩(うさぎがり)(もよほ)し、011(ある)(とき)野生(やせい)(にら)(にんにく)採集(さいしふ)し、012枯草(かれくさ)芒々(ばうばう)たる原野(げんや)(むか)つてテンムリチエブナをなし、013愉快(ゆくわい)索倫(ソーロン)()(おく)つて()た。014岡崎(をかざき)鉄首(てつしゆ)015萩原(はぎはら)敏明(としあき)016猪野(ゐの)敏夫(としを)(さん)(めい)017数十(すうじふ)(にん)兵士(へいし)(おく)られ(うま)(またが)りて018途中(とちう)馬賊(ばぞく)官兵(くわんぺい)(かこみ)()いて無事(ぶじ)日出雄(ひでを)(もと)()いた。019名田彦(なだひこ)日出雄(ひでを)(および)()(めい)()つて020数名(すうめい)衛兵(ゑいへい)(したが)軍使(ぐんし)として奉天(ほうてん)水也(みづや)商会(しやうくわい)()(かへ)した。
021 蒙古(もうこ)家屋(かをく)前述(ぜんじゆつ)(とほ)(きは)めて不潔(ふけつ)で、022南京虫(なんきんむし)横行(わうかう)(はなは)だしく、023加之(おまけ)幾十(いくじふ)(にち)()使(つか)はない()めに衣服(いふく)には(しらみ)発生(はつせい)し、024一行(いつかう)日々(ひび)南京虫(なんきんむし)(しらみ)退治(たいぢ)()(つひや)し、025南京虫(なんきんむし)予防(よばう)()めにとて、026いやな(にほひ)のする(にんにく)(かほ)をしかめて食事(しよくじ)(ごと)()つて()た。027日出雄(ひでを)(にんにく)()()れて(つひ)には、028(ねぎ)野菜(やさい)(なま)平気(へいき)嗜食(ししよく)するやうになつた。029(をん)長興(ちやうこう)日出雄(ひでを)一行(いつかう)炊事長(すゐじちやう)となり、030(わう)瓚璋(さんしやう)馬夫長(ばふちやう)となり、031(わう)盛明(せいめい)随従長(ずいじうちやう)032守高(もりたか)近侍長(きんじちやう)033名田彦(なだひこ)近侍(きんじ)となつて日出雄(ひでを)身辺(しんぺん)(すべ)ての用務(ようむ)(つか)へ、034真澄別(ますみわけ)一切(いつさい)代理権(だいりけん)行使(かうし)する(こと)となつた。035(また)萩原(はぎはら)敏明(としあき)写真(しやしん)(がかり)036坂本(さかもと)広一(くわういち)近侍(きんじ)037(ほか)()連長(れんちやう)以下(いか)二十(にじふ)(めい)兵士(へいし)直接(ちよくせつ)保護(ほご)(にん)(あた)つて()た。038(すべ)ての制度(せいど)がせせこましかつた(くに)から十六(じふろく)(ばい)面積(めんせき)(いう)すると()蒙古(もうこ)()()て、039沢山(たくさん)兵士(へいし)畜類(ちくるゐ)相手(あひて)自由(じいう)自在(じざい)勝手(かつて)(こと)をして()(まは)るのは、040(うま)れて以来(いらい)五十四(ごじふよ)年間(ねんかん)(いま)(かつ)経験(けいけん)した(こと)のない愉快(ゆくわい)呑気(のんき)さだ。041大丈夫(だいぢやうぶ)たるもの現世(げんせ)(うま)れて(せま)(くに)(つよ)圧迫(あつぱく)()けて()るよりも、042勝手(かつて)気儘(きまま)()らぬ外国(ぐわいこく)(そら)で、043外国人(ぐわいこくじん)面白(おもしろ)(あそ)ぶのは(じつ)壮快(さうくわい)だと日出雄(ひでを)(よろこ)んでゐた。
044 索倫山(ソーロンざん)本営(ほんえい)には馬隊(ばたい)頭目(とうもく)日々(ひび)二百(にひやく)(にん)三百(さんびやく)(にん)部下(ぶか)(ひき)ゐて、045喇叭(ラツパ)(こゑ)(いさ)ましく参加(さんか)軍気(ぐんき)(おほ)いに(ふる)つた。046()総司令(そうしれい)()(ぐわつ)一日(ついたち)日出雄(ひでを)(やかた)()(きた)り、
047盧占魁大庫倫(だいクーロン)進出(しんしゆつ)せむとすれば、048此処(ここ)より二百(にひやく)支里(しり)(へだ)てたる興安嶺(こうあんれい)(ある)地点(ちてん)赤軍(せきぐん)七千(しちせん)(にん)駐屯(ちうとん)し、049警戒(けいかい)なかなか厳重(げんぢう)なる(こと)斥候(せきこう)()つて判明(はんめい)(いた)しました。050それ(ゆゑ)051貴下(きか)(めい)(したが)つて、052(この)(まま)大庫倫(だいクーロン)直進(ちよくしん)するは、053(へい)(そん)弾薬(だんやく)消費(せうひ)するばかりで、054()(ねつ)055(さつ)056(すゐ)(さん)区域(くいき)()数万(すうまん)参加軍(さんかぐん)到達(たうたつ)するは、057(みち)(とほ)くして容易(ようい)でない。058それ(ゆゑ)059貴下(きか)()(そむ)くかは()りませぬが、060軍事(ぐんじ)経験(けいけん)(じやう)061(ねつ)062(さつ)063(すゐ)特別(とくべつ)区域(くいき)進出(しんしゆつ)し、064本年(ほんねん)(この)区域(くいき)(おい)冬籠(ふゆごも)りをなし、065完全(くわんぜん)兵備(へいび)(ととの)諸王(しよわう)招撫(せうぶ)し、066来春(らいしゆん)()つて大庫倫(だいクーロン)(すす)赤軍(せきぐん)交渉(かうせふ)開始(かいし)し、067()和議(わぎ)()らざれば()むを()開戦(かいせん)(きよ)()づるを()とすべく、068大庫倫(だいクーロン)には(やく)一万(いちまん)赤兵(せきへい)駐屯(ちうとん)し、069戒厳令(かいげんれい)()()れば、070小数(せうすう)軍隊(ぐんたい)にては容易(ようい)目的(もくてき)(たつ)すべからず、071来春(らいしゆん)にならば(すく)なくとも十万(じふまん)(へい)麾下(きか)(あつ)まるは(たしか)なる事実(じじつ)でありますから、072(その)(うへ)にて(だい)庫倫(クーロン)(いり)()し、073(ここ)根拠(こんきよ)(さだ)め、074(いきほひ)(じやう)じて新彊(しんきやう)(あは)せ、075西比利亜(シベリア)赤軍(せきぐん)帰順(きじゆん)させ、076飽迄(あくまで)人類愛(じんるゐあい)()め、077貴下(きか)()め、078一身(いつしん)(ささ)げ、079(この)(うへ)如何(いか)になり()くとも(かみ)思召(おぼしめし)(しん)蒙古(もうこ)男子(だんし)初志(しよし)貫徹(くわんてつ)さす(かんが)へです。080(この)目的(もくてき)(たつ)した(あかつき)支那(しな)四百(よんひやく)()(しう)()ふに(およ)ばず、081東三省(とうさんしやう)(かなら)貴下(きか)(めい)(ふく)するでせう』
082誠意(せいい)(おもて)(あら)はして(ぐん)行動(かうどう)につき命令(めいれい)()うた。
083 日出雄(ひでを)(とほ)故国(ここく)()つて不知(ふち)案内(あんない)奥蒙(おくもう)()084しかも言語(げんご)不通(ふつう)支蒙人(しもうじん)相手(あひて)開闢(かいびやく)以来(いらい)大神業(だいしんげふ)従事(じうじ)する──(かれ)得意(とくい)(はた)して如何(いかが)であつただらう。085各地(かくち)(わう)馬隊(ばたい)頭目(とうもく)086活仏(くわつぶつ)などよりは見舞(みまひ)として、087(ぶた)野羊(やぎ)088炒米(チヨウミイ)などを日出雄(ひでを)(およ)()総司令(そうしれい)(おく)つて()る。089日出雄(ひでを)()(とも)日々(ひび)感謝(かんしや)生活(せいくわつ)(おく)つて()た。090万有(ばんいう)愛護(あいご)(をしへ)()てて()日出雄(ひでを)も、091かかる(くに)()ては(いや)でも(おう)でも(ぶた)(ひつじ)092鶏肉(けいにく)などを()はねばならなかつた。093真澄別(ますみわけ)はヌール、094チヤカンナ、095マチナ(顔面(がんめん)吹腫物(ふきでもの))に(くるし)み、096守高(もりたか)出国(しゆつこく)以来(いらい)風邪(かぜ)(いま)()えず、097坂本(さかもと)(また)風邪(かぜ)気味(きみ)にて全身(ぜんしん)(いた)み、098日出雄(ひでを)南京虫(なんきんむし)()められて()た。099(いち)(にち)100(もう)秘書長(ひしよちやう)(きた)り、101支那語(しなご)(もつ)()(ごと)(だん)じた。
102蒙秘書長『昨天到来、103二百槍馬完全今日送給肥猪両口肥羊二隻、104不出五日又来隊伍六百槍馬完全的。105司令近非常歓喜所愁的款項無有的又苦於告貸将来隊伍均到来的無款的怎麼必実在投法子。
106閣下不愁不遇現状況難一点的事作到張作霖必能付給款項俟将隊伍招斉款就不困難了』
107 (えう)するにその主旨(しゆし)108兵備(へいび)(ととの)つた(うへ)(ちやう)作霖(さくりん)より相当(さうたう)軍資金(ぐんしきん)(およ)武器(ぶき)(おく)つて()るが、109それ(まで)仕方(しかた)()い、110(しばら)辛抱(しんばう)してくれと()意味(いみ)である。111さうして今日(こんにち)武器(ぶき)携帯(けいたい)して参加兵(さんかへい)二百(にひやく)(めい)(ぶた)(ひつじ)(おく)つて()た。112(また)五日(いつか)(のち)には六百(ろくぴやく)馬隊(ばたい)此処(ここ)到着(たうちやく)するとも()うた。
113 広大(くわうだい)無辺(むへん)()えた原野(げんや)雑草(ざつさう)()ふるに(まか)(なが)ら、114(しか)他国人(たこくじん)()(きた)るを(きら)ひ、115(おそ)れて外国人(ぐわいこくじん)()れば(ただち)(じゆう)(もつ)()(ころ)すと()ふ、116蒙古人(もうこじん)ともつかず支那人(しなじん)ともつかぬ(また)露西亜(ろしあ)(じん)でも()いチヨロマン人種(じんしゆ)が、117(じふ)(ねん)以前(いぜん)(まで)(この)()割拠(かつきよ)して()たが、118(いま)数百(すうひやく)支里(しり)北方(ほくほう)森林(しんりん)退却(たいきやく)して()る。119(うさぎ)(きじ)などは(この)方面(はうめん)(とく)(おほ)く、120幾抱(いくかか)えもあるやうな(やう)121(りう)122(にれ)大木(たいぼく)山野(さんや)繁茂(はんも)し、123洮児(トール)(がは)曹達(そうだ)(ふく)んだ清流(せいりう)はゆるやかに(なが)れ、124天然(てんねん)恩恵(おんけい)無限(むげん)遺棄(ゐき)されて()稀有(けう)宝庫(はうこ)である。125日出雄(ひでを)日本(につぽん)当局(たうきよく)政治家(せいぢか)が、126何故(なにゆゑ)(この)()()をつけないのであらうかと(あや)しんだ。127オンクス、128アルテチ、129ウンヌルテー(放屁臭(へくさい))など()つて130蒙古人(もうこじん)相手(あひて)日出雄(ひでを)(たはむ)れて()ると、131()占魁(せんくわい)()機嫌(きげん)(うかが)ひだと()つて、132洮南(たうなん)から(おく)つて()(めづ)らしい菓子(くわし)果物(くだもの)などを()つて()た。133さうして()(はなし)()れば、134成吉思汗(ジンギスカン)蒙古(もうこ)原野(げんや)(へい)()げてから六百(ろくぴやく)六十六(ろくじふろく)(ねん)となり、135頭字(かしらじ)(みつ)(そろ)うたのを()れば、136愈々(いよいよ)本年(ほんねん)三六(みろく)(とし)だと()つて(いさ)んで()た。
 
137 (はる)()にコルギーホアラ(野生(やせい)福寿草(ふくじゆさう))あちこちとボルンガチチク(紫色(むらさきいろ)(はな)()()でにけり
 
138 ()(ぐわつ)上旬(じやうじゆん)でありながら、139蒙古(もうこ)奥地(おくち)では野生(やせい)福寿草(ふくじゆさう)(しろ)(むらさき)()(ほこ)つて、140(ほと)んど花莚(はなむしろ)()()めた(ごと)(うつく)しい。141日出雄(ひでを)(この)花莚(はなむしろ)(なか)(うま)縦横(じうわう)無尽(むじん)(むちう)ちながら、142数多(あまた)支蒙兵(しもうへい)指揮(しき)して野遊(のあそび)(こころ)みた。143ケンケンと雉子(きじ)(こゑ)彼方(かなた)此方(こなた)枯草(かれくさ)(なか)から(きこ)えて()る、144其所(そこ)三匹(さんびき)山兎(やまうさぎ)()()した。145蒙古兵(もうこへい)(ただ)ちにモーゼル(じゆう)()し、146ポンポンポンと三発(さんぱつ)(つづ)()ちに三匹(さんびき)(うさぎ)(あたま)(ばか)()つて捕獲(ほくわく)した。147(すべ)蒙古人(もうこじん)(やう)(えだ)(ゆみ)(こしら)へ、148(ほそ)いので()(つく)り、149()(さき)(いし)(しばり)()けて(あら)(あさ)(なは)(つる)となし、150空立(そらた)(とり)()つに滅多(めつた)(はづ)れた(こと)がない。151支那(しな)露西亜(ロシア)廃物(はいぶつ)になつたやうな銃器(じゆうき)でも、152蒙古人(もうこじん)使(つか)ふと一々(いちいち)命中(めいちう)するのは(じつ)不思議(ふしぎ)(ほど)である。153(ほと)んど(かみ)(さま)ではないかと(おも)(ほど)154天性(てんせい)(てき)射術(しやじゆつ)技能(ぎのう)(そな)はつてゐる。155(いち)(にち)156日出雄(ひでを)喇嘛服(ラマふく)()けた(まま)司令部(しれいぶ)(はる)前方(ぜんぱう)で、157パサパーナ(吐糞(とふん))をやつて()ると158シーゴーと()蒙古(もうこ)名物(めいぶつ)猛犬(まうけん)がパサを()はむとして七八(しちはつ)(とう)(あつま)つて()た。159このシーゴーは蒙古犬(もうこいぬ)(おほかみ)との混血児(こんけつじ)で、160非常(ひじやう)(つよ)如何(いか)なる猛獣(まうじう)(いへど)()(ころ)すと()牧畜国(ぼくちくこく)蒙古(もうこ)にあつては天与(てんよ)貴獣(きじう)である。161日出雄(ひでを)がポホラを(まく)つてウンウンと気張(きば)つてゐると、162シーゴーがやつて()た。163草原(くさはら)(あな)(なか)()んでゐた大眼子(ターエンズ)(チヨロマ)がパサの(にほひ)()いで(あな)から(くび)をつき()した(ところ)164嗅覚(しうかく)(するど)いシーゴーが直様(すぐさま)四方(しはう)八方(はつぱう)から(その)(あな)前足(まへあし)()り、165()()るチヨロマを捕獲(ほくわく)して(しま)つた。166()敏捷(すばし)こい(こと)(じつ)驚歎(きやうたん)(あたひ)する。
167 スルト折柄(をりから)蒙古(もうこ)名物(めいぶつ)大風(おほかぜ)()いて()た。168萩原(はぎはら)坂本(さかもと)(うま)遠乗(とほのり)して原野(げんや)()(はな)つたので、169()(かぜ)(あふ)られ一瀉(いつしや)千里(せんり)(いきほひ)黒煙(こくえん)濛々(もうもう)日出雄(ひでを)身辺(しんぺん)(まで)(せま)つて()た。170茫々(ばうばう)たる枯草(かれくさ)(なか)到底(たうてい)(のが)れる(こと)出来(でき)ぬ。171シーゴーは(さか)んに()()てる。172日出雄(ひでを)(むかし)日本(やまと)(たけるの)(みこと)東夷(とうい)征伐(せいばつ)(とき)駿河(するが)焼津(やいづ)賊軍(ぞくぐん)計略(けいりやく)にかかり()(つつ)まれ、173(ひうち)()()して(むか)()をつけ、174(かつ)叢雲(むらくも)神剣(つるぎ)にて(くさ)()(はら)大勝利(だいしようり)()られた故事(こじ)(おも)()し、175(ただち)佩刀(はいとう)()(はな)身辺(しんぺん)(くさ)()176懐中(くわいちう)よりマツチを取出(とりだ)して(むか)()をつけ、177さうして(あま)数歌(かずうた)奏上(さうじやう)した。178不思議(ふしぎ)にも(かぜ)(には)かに南方(なんぱう)(へん)じ、179日出雄(ひでを)兵士(へいし)焼死(しやうし)(なん)(まぬ)かれた。180蒙古(もうこ)()()(はな)つて(あそ)ぶのは(じつ)剣呑(けんのん)である。
181大正一四、八、筆録)
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