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第66巻(巳の巻)
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第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
第79巻(午の巻)
第80巻(未の巻)
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第6巻(巳の巻)
序歌
松葉の塵
総説
第1篇 山陰の雪
01 宇宙太元
〔251〕
02 瀑布の涙
〔252〕
03 頓智奇珍
〔253〕
04 立春到達
〔254〕
05 抔盤狼藉
〔255〕
06 暗雲消散
〔256〕
07 旭光照波
〔257〕
第2篇 常世の波
08 春の海面
〔258〕
09 埠頭の名残
〔259〕
10 四鳥の別れ
〔260〕
11 山中の邂逅
〔261〕
12 起死回生
〔262〕
13 谷間の囁
〔263〕
14 黒竜赤竜
〔264〕
第3篇 大峠
15 大洪水(一)
〔265〕
16 大洪水(二)
〔266〕
17 極仁極徳
〔267〕
18 天の瓊矛
〔268〕
第4篇 立花の小戸
19 祓戸四柱
〔269〕
20 善悪不測
〔270〕
21 真木柱
〔271〕
22 神業無辺
〔272〕
23 諸教同根
〔273〕
24 富士鳴戸
〔274〕
第5篇 一霊四魂
25 金勝要大神
〔275〕
26 体五霊五
〔276〕
27 神生み
〔277〕
28 身変定
〔278〕
29 泣沢女
〔279〕
30 罔象神
〔280〕
第6篇 百舌鳥の囁
31 襤褸の錦
〔281〕
32 瓔珞の河越
〔282〕
33 五大教
〔283〕
34 三大教
〔284〕
35 北光開眼
〔285〕
36 三五教
〔286〕
第7篇 黄金の玉
37 雲掴み
〔287〕
38 黄金の宮
〔288〕
39 石仏の入水
〔289〕
40 琴平橋
〔290〕
41 桶伏山
〔291〕
第8篇 五伴緒神
42 途上の邂逅
〔292〕
43 猫の手
〔293〕
44 俄百姓
〔294〕
45 大歳神
〔295〕
46 若年神
〔296〕
47 二王と観音
〔297〕
48 鈿女命
〔298〕
49 膝栗毛
〔299〕
50 大戸惑
〔300〕
余白歌
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第四三章
猫
(
ねこ
)
の
手
(
て
)
〔二九三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第6巻 霊主体従 巳の巻
篇:
第8篇 五伴緒神
よみ(新仮名遣い):
いつとものおのかみ
章:
第43章 猫の手
よみ(新仮名遣い):
ねこのて
通し章番号:
293
口述日:
1922(大正11)年01月24日(旧12月27日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年5月10日
概要:
舞台:
御年村
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
二柱の宣伝使はローマを目指して進んできた。おりしも、郊外の村(御年村)では農民たちが田植えの真っ最中であった。
農民たちは忙しく働きながら、強者に搾取される自分たちの境遇を嘆き、また最近現れた三五教の教理について、話し合っていた。三五教は皇祖教である、というのである。
そこへ『神が表に現れて 善と悪とを立て別ける』と大声に呼ばわりながら、二人の宣伝使がやってきた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-05-01 12:25:05
OBC :
rm0643
愛善世界社版:
258頁
八幡書店版:
第1輯 718頁
修補版:
校定版:
260頁
普及版:
107頁
初版:
ページ備考:
001
遠音
(
とほね
)
に
響
(
ひび
)
く
暮
(
くれ
)
の
鐘
(
かね
)
002
五月
(
さつき
)
の
空
(
そら
)
の
木下闇
(
こしたやみ
)
003
空
(
そら
)
に
一声
(
ひとこゑ
)
時鳥
(
ほととぎす
)
004
黒白
(
あやめ
)
も
分
(
わか
)
ぬ
夜
(
よる
)
の
旅
(
たび
)
005
ローマに
通
(
かよ
)
ふ
広道別
(
ひろみちわけ
)
の
006
貴
(
うづ
)
の
命
(
みこと
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
007
心
(
こころ
)
にかかる
故郷
(
ふるさと
)
の
008
空
(
そら
)
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り
降
(
ふ
)
る
雨
(
あめ
)
の
009
雲路
(
くもぢ
)
を
別
(
わけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
010
東
(
ひがし
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
011
血
(
ち
)
を
吐
(
は
)
く
思
(
おも
)
ひの
杜鵑
(
ほととぎす
)
012
闇
(
やみ
)
で
暗
(
くら
)
せよ
暫
(
しばら
)
くは
013
やがて
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
の
顔
(
かほ
)
014
元照別
(
もとてるわけ
)
の
司
(
かみ
)
の
在
(
ま
)
す
015
ローマの
都
(
みやこ
)
も
近付
(
ちかづ
)
きて
016
東
(
あづま
)
の
空
(
そら
)
に
茜
(
あかね
)
さし
017
変
(
かは
)
る
変
(
かは
)
ると
啼
(
な
)
き
渡
(
わた
)
る
018
明
(
あ
)
けの
烏
(
からす
)
の
右左
(
みぎひだり
)
019
頭上
(
づじやう
)
に
高
(
たか
)
く
飛
(
と
)
び
交
(
か
)
ひて
020
旅
(
たび
)
の
疲
(
つかれ
)
を
労
(
いたは
)
るか
021
その
啼声
(
なきごゑ
)
も
五月雨
(
さみだれ
)
に
022
湿
(
しめ
)
り
勝
(
がち
)
なる
明
(
あけ
)
の
空
(
そら
)
023
かあい
かあいと
鳴
(
な
)
き
渡
(
わた
)
る
024
今日
(
けふ
)
は
珍
(
めづら
)
し
雨雲
(
あまぐも
)
の
025
帳
(
とばり
)
を
開
(
あ
)
けて
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
の
026
長閑
(
のどか
)
な
影
(
かげ
)
を
地
(
ち
)
に
投
(
な
)
げて
027
前途
(
ぜんと
)
を
照
(
てら
)
す
如
(
ごと
)
くなり
028
前途
(
ゆくて
)
を
照
(
て
)
らす
日
(
ひ
)
の
神
(
かみ
)
の
029
恵
(
めぐ
)
みの
露
(
つゆ
)
に
村肝
(
むらきも
)
の
030
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
も
晴
(
は
)
れ
渡
(
わた
)
る
031
渡
(
わた
)
る
浮世
(
うきよ
)
に
鬼
(
おに
)
は
無
(
な
)
し
032
鬼
(
おに
)
や
大蛇
(
をろち
)
や
狼
(
おほかみ
)
の
033
勢
(
いきほひ
)
猛
(
たけ
)
く
荒
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
ふ
034
ローマの
空
(
そら
)
も
久方
(
ひさかた
)
の
035
天津
(
あまつ
)
御神
(
みかみ
)
や
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
036
撞
(
つき
)
の
御柱
(
みはしら
)
大御神
(
おほみかみ
)
037
神
(
かみ
)
の
御
(
み
)
かげ
を
頼
(
たよ
)
りとし
038
寄
(
よ
)
せくる
曲
(
まが
)
を
言向
(
ことむ
)
けて
039
美
(
うま
)
し
神世
(
かみよ
)
を
経緯
(
たてよこ
)
の
040
綾
(
あや
)
と
錦
(
にしき
)
の
機
(
はた
)
を
織
(
お
)
る
041
唐紅
(
からくれなゐ
)
の
紅葉
(
もみぢば
)
の
042
朝日
(
あさひ
)
夕日
(
ゆふひ
)
に
照
(
て
)
り
栄
(
は
)
ゆる
043
色
(
いろ
)
にも
擬
(
まが
)
ふ
埴安
(
はにやす
)
の
044
彦
(
ひこ
)
の
命
(
みこと
)
や
埴安
(
はにやす
)
の
045
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
の
織
(
お
)
りませる
046
百機
(
ももはた
)
千機
(
ちはた
)
の
御教
(
みをしへ
)
は
047
天
(
あま
)
の
河原
(
かはら
)
を
中
(
なか
)
にして
048
栲機姫
(
たくはたひめ
)
や
千々姫
(
ちぢひめ
)
の
049
心
(
こころ
)
も
清
(
きよ
)
き
稚桜姫
(
わかざくらひめ
)
の
050
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
御心
(
みこころ
)
ぞ
051
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
052
残
(
のこ
)
る
隈
(
くま
)
なく
天
(
あめ
)
が
下
(
した
)
053
四方
(
よも
)
の
国々
(
くにぐに
)
布
(
し
)
いて
行
(
ゆ
)
く
054
心
(
こころ
)
の
色
(
いろ
)
ぞ
美
(
うるは
)
しき
055
心
(
こころ
)
の
花
(
はな
)
ぞ
馨
(
かんば
)
しき。
056
降
(
ふ
)
りみ
降
(
ふ
)
ら
ずみ
雲
(
くも
)
に
包
(
つつ
)
まれたる
五月雨
(
さみだれ
)
の
空
(
そら
)
も、
057
今日
(
けふ
)
は
珍
(
めづら
)
しくも
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
の
神
(
かみ
)
は、
058
東天
(
とうてん
)
に
円
(
まる
)
き
温顔
(
をんがん
)
を
現
(
あら
)
はし、
059
下界
(
げかい
)
に
焦熱
(
いりあつ
)
き
光輝
(
くわうき
)
を
投
(
な
)
げ
給
(
たま
)
ひける。
060
二
(
に
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は、
061
ホツと
息吐
(
いきつ
)
きながら
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひつつ、
062
ローマを
指
(
さ
)
して
膝栗毛
(
ひざくりげ
)
に
鞭
(
むち
)
うち
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
063
ここはローマの
町外
(
まちはづ
)
れの
二三十
(
にさんじつ
)
軒
(
けん
)
ばかり
小
(
ちひ
)
さき
家
(
いへ
)
の
立
(
た
)
ち
列
(
なら
)
ぶ
御年村
(
みとせむら
)
といふ
小村
(
こむら
)
なりける。
064
村
(
むら
)
の
若者
(
わかもの
)
五六
(
ごろく
)
人
(
にん
)
、
065
路傍
(
ろばう
)
に
蓑
(
みの
)
を
敷
(
し
)
き
腰
(
こし
)
うち
掛
(
か
)
けながら、
066
雑談
(
ざつだん
)
に
耽
(
ふけ
)
り
居
(
を
)
る。
067
田植時
(
たうゑどき
)
の
最中
(
さいちう
)
と
見
(
み
)
えて、
068
町外
(
まちはづ
)
れの
田舎
(
いなか
)
の
田園
(
でんえん
)
には、
069
蓑笠
(
みのかさ
)
の
甲冑
(
かつちう
)
を
取
(
と
)
り
よろひ
、
070
手覆
(
ておひ
)
、
071
脚絆
(
きやはん
)
の
小手脛
(
こてすね
)
当
(
あて
)
、
072
三々
(
さんさん
)
五々
(
ごご
)
隊伍
(
たいご
)
を
整
(
ととの
)
へ、
073
節
(
ふし
)
面白
(
おもしろ
)
く
田歌
(
たうた
)
を
唄
(
うた
)
ひながら、
074
田植
(
たうゑ
)
に
余念
(
よねん
)
なき
有様
(
ありさま
)
なり。
075
見渡
(
みわた
)
す
限
(
かぎ
)
り、
076
牛
(
うし
)
や
馬
(
うま
)
の
田
(
た
)
を
鋤
(
す
)
く
影
(
かげ
)
、
077
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
の
右往
(
うわう
)
左往
(
さわう
)
に
活動
(
くわつどう
)
する
有様
(
ありさま
)
は、
078
実
(
じつ
)
に
猫
(
ねこ
)
の
手
(
て
)
も
人
(
ひと
)
の
手
(
て
)
といふ
農家
(
のうか
)
の
激戦
(
げきせん
)
場裡
(
ぢやうり
)
ともいふべき
光景
(
くわうけい
)
なりける。
079
甲
(
かふ
)
『アヽ
斯
(
か
)
うして
夜
(
よる
)
も
昼
(
ひる
)
も
碌
(
ろく
)
に
眠
(
ねむ
)
ることもできず、
080
汗水
(
あせみづ
)
垂
(
た
)
らして
働
(
はたら
)
いて
田
(
た
)
は
植
(
う
)
ゑて
居
(
を
)
るものの、
081
また
去年
(
きよねん
)
のやうに
大水
(
おほみづ
)
が
出
(
で
)
て
流
(
なが
)
されて
了
(
しま
)
ふのぢやなからうかな。
082
二
(
に
)
年
(
ねん
)
も
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
もあんなことが
続
(
つづ
)
いては、
083
百姓
(
ひやくしやう
)
もたまつたものぢやない。
084
俺
(
おれ
)
はそんなこと
思
(
おも
)
ふと
腕
(
うで
)
が
倦
(
だる
)
うなつて、
085
手
(
て
)
に
持
(
も
)
つ
鍬
(
くは
)
も、
086
ほろ
が
泣
(
な
)
いて
落
(
お
)
ちさうだ。
087
百姓
(
ひやくしやう
)
は
実業
(
じつげふ
)
だなんていふ
者
(
もの
)
があるけれど、
088
百姓
(
ひやくしやう
)
ぐらゐ
当
(
あて
)
にならぬものは
無
(
な
)
いぢやないか。
089
せつかく
暑
(
あつ
)
いのに
草
(
くさ
)
を
除
(
と
)
り
肥料
(
こやし
)
を
施
(
や
)
り、
090
立派
(
りつぱ
)
な
稲
(
いね
)
ができたと
思
(
おも
)
へば、
091
浮塵子
(
うんか
)
がわく。
092
肝腎
(
かんじん
)
の
収穫時
(
しうくわくどき
)
になると、
093
目的物
(
もくてきぶつ
)
の
米
(
こめ
)
は
穫
(
と
)
れず
藁
(
わら
)
ばつかりだ。
094
本当
(
ほんたう
)
に
草喜
(
くさよろこ
)
びとは
此
(
こ
)
のことぢやないか。
095
それも
自分
(
じぶん
)
の
田地
(
でんち
)
なら
未
(
ま
)
だしもだが、
096
穫
(
と
)
つた
米
(
こめ
)
はみな
野槌
(
のづち
)
の
神
(
かみ
)
さまの
所
(
ところ
)
へ
納
(
をさ
)
めねばならず、
097
納
(
をさ
)
めた
後
(
のち
)
は、
098
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
るものは
藁
(
わら
)
と
籾
(
もみ
)
の
滓
(
かす
)
ばつかりだ。
099
アーア
火
(
ひ
)
を
引
(
ひ
)
いて
灰
(
はひ
)
残
(
のこ
)
る。
100
灰
(
はひ
)
引
(
ひ
)
いて
火
(
ひ
)
残
(
のこ
)
る。
101
さつぱり
勘定
(
かんぢやう
)
が
合
(
あ
)
はぬ。
102
蚯蚓
(
みみず
)
切
(
き
)
りの
蛙
(
かへる
)
飛
(
と
)
ばしも
厭
(
いや
)
になつちまつた、
103
割
(
わり
)
切
(
き
)
れたものぢやない。
104
四捨
(
ししや
)
五入
(
ごにふ
)
も
六七
(
ろくしち
)
面倒
(
めんだう
)
くさい
約
(
つま
)
らぬものだ。
105
ローマの
都
(
みやこ
)
の
奴
(
やつ
)
は、
106
暑
(
あつ
)
いの
涼
(
すず
)
しいのと
云
(
い
)
ひよつて
左団扇
(
ひだりうちは
)
を
使
(
つか
)
つて、
107
「
呑
(
の
)
めよ
騒
(
さわ
)
げよ
一寸先
(
いつすんさき
)
は
暗
(
やみ
)
よ」なんて
気楽
(
きらく
)
さうに
田
(
た
)
の
中
(
なか
)
の
蛙
(
かはづ
)
のやうに、
108
ガヤガヤ
吐
(
ぬ
)
かして
一汗
(
ひとあせ
)
も
絞
(
しぼ
)
らずに、
109
俺
(
おい
)
らの
作
(
つく
)
つた
米
(
こめ
)
を
喰
(
くら
)
ひよつて、
110
米
(
こめ
)
が
美味
(
うま
)
いの
味
(
あぢ
)
無
(
な
)
いの、
111
あら
が
高
(
たか
)
いの
低
(
ひく
)
いのと、
112
小言
(
こごと
)
八百
(
はつぴやく
)
垂
(
た
)
れよつてな。
113
おまけに
垂
(
た
)
れた
糞
(
くそ
)
まで
俺
(
おい
)
らに
掃除
(
さうぢ
)
をさせよつて、
114
土百姓
(
どんびやくしやう
)
、
115
土百姓
(
どんびやくしやう
)
と
口汚
(
くちぎたな
)
く、
116
口
(
くち
)
から
ごふたく
を
垂
(
た
)
れるのだ。
117
誰
(
たれ
)
だつてこんなこと
思
(
おも
)
ふと、
118
本当
(
ほんたう
)
に
ごふ
が
湧
(
わ
)
かア。
119
これが
何
(
なん
)
ともないやうな
奴
(
やつ
)
は、
120
洟
(
はな
)
たれの
屁古
(
へこ
)
たれの、
121
弱
(
よわ
)
たれの
馬鹿
(
ばか
)
たれの、
122
ばば
たれの……』
123
乙
(
おつ
)
『オイ、
124
貴様
(
きさま
)
もよく
垂
(
た
)
れる
奴
(
やつ
)
ぢやね。
125
さう
小言
(
こごと
)
を
垂
(
た
)
れるものぢやない。
126
誰
(
たれ
)
もみな
因縁
(
いんねん
)
ぢやと
諦
(
あきら
)
めて
辛抱
(
しんばう
)
しとるのぢや。
127
土百姓
(
どびやくしやう
)
が
都会
(
とくわい
)
の
人間
(
にんげん
)
になつて、
128
じつとして、
129
うまい
商売
(
しやうばい
)
をして
都会
(
とくわい
)
の
人
(
ひと
)
の
真似
(
まね
)
をしようたつて、
130
智慧
(
ちゑ
)
がないから
駄目
(
だめ
)
だ。
131
お
玉杓子
(
たまじやくし
)
は、
132
小
(
ちひ
)
さいときは
鯰
(
なまづ
)
に
似
(
に
)
て
居
(
ゐ
)
るが、
133
チーイと
日
(
ひ
)
が
経
(
た
)
つて
大
(
おほ
)
きくなりよると、
134
手
(
て
)
が
生
(
は
)
え
足
(
あし
)
が
生
(
は
)
えて
蛙
(
かへる
)
になつて
了
(
しま
)
ふ。
135
どうしても
蛙
(
かへる
)
の
子
(
こ
)
は
蛙
(
かへる
)
だ。
136
そんな
下
(
くだ
)
らぬ
馬鹿
(
ばか
)
を
垂
(
た
)
れるより
精
(
せい
)
出
(
だ
)
して、
137
糞
(
くそ
)
でも
垂
(
た
)
れたが
利益
(
りえき
)
だよ。
138
肥料
(
こえ
)
になとなるからな。
139
どうせ
貴様
(
きさま
)
たちは
米
(
こめ
)
を
糞
(
くそ
)
にする
製糞器
(
せいふんき
)
だ。
140
人間
(
にんげん
)
は
米
(
こめ
)
を
食
(
く
)
つては
糞
(
くそ
)
にし、
141
糞
(
くそ
)
を
稲
(
いね
)
にやつては
米
(
こめ
)
を
作
(
つく
)
り、
142
その
米
(
こめ
)
をまた
食
(
く
)
つては
糞
(
くそ
)
にし、
143
糞
(
くそ
)
が
米
(
こめ
)
になつたり、
144
米
(
こめ
)
が
糞
(
くそ
)
になつたり、
145
互
(
たがひ
)
に
因果
(
いんぐわ
)
の
廻
(
めぐ
)
り
合
(
あ
)
ひの
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
146
これでも
一遍
(
いつぺん
)
芝
(
しば
)
を
被
(
かぶ
)
つて
出直
(
でなほ
)
してくると、
147
都会
(
とくわい
)
の
奴
(
やつ
)
のやうな
結構
(
けつこう
)
な
生活
(
くらし
)
をするやうになるのだ』
148
丙
(
へい
)
『さうか、
149
そりや
面白
(
おもしろ
)
い。
150
よい
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かして
呉
(
く
)
れた』
151
と
言
(
い
)
ひながら、
152
大鍬
(
おほくは
)
を
握
(
と
)
るより
早
(
はや
)
く
路傍
(
みちばた
)
の
芝草
(
しばくさ
)
を
起
(
おこ
)
して
頭
(
あたま
)
に
被
(
かぶ
)
つて、
153
丙
(
へい
)
『オイ、
154
芝
(
しば
)
を
被
(
かぶ
)
つて
出直
(
でなほ
)
してきた。
155
その
後
(
あと
)
はどうしたら
都会
(
とくわい
)
の
人
(
ひと
)
のやうになるのだ。
156
教
(
をし
)
へてくれぬか』
157
乙
(
おつ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
、
158
芝
(
しば
)
を
被
(
かぶ
)
るといふ
事
(
こと
)
は
死
(
し
)
ぬといふ
事
(
こと
)
だ』
159
丙
(
へい
)
『
死
(
し
)
ぬのが
芝
(
しば
)
を
被
(
かぶ
)
るつて
合点
(
がつてん
)
が
往
(
ゆ
)
かぬぢやないか』
160
乙
(
おつ
)
『マアー、
161
そんな
事
(
こと
)
はどうでもよい。
162
この
百姓
(
ひやくしやう
)
の
忙
(
いそが
)
しい、
163
猫
(
ねこ
)
の
手
(
て
)
も
人
(
ひと
)
の
手
(
て
)
といふ
時
(
とき
)
に
雑談
(
ざつだん
)
どころじやない。
164
先
(
さき
)
のことは
心配
(
しんぱい
)
するない。
165
人間
(
にんげん
)
は
今日
(
けふ
)
の
務
(
つと
)
めを
今日
(
けふ
)
すればよい。
166
明日
(
あす
)
の
天気
(
てんき
)
を
雨
(
あめ
)
にしようたつて、
167
日和
(
ひより
)
にしようたつて
人間
(
にんげん
)
様
(
さま
)
の
自由
(
じいう
)
になるものぢやない。
168
みんな
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
為
(
な
)
さるままだ。
169
この
間
(
あひだ
)
も
三五教
(
あななひけう
)
とかの
宣伝使
(
せんでんし
)
とやらが
出
(
で
)
てきてな、
170
百姓
(
ひやくしやう
)
を
集
(
あつ
)
めて
六ケ敷
(
むつかし
)
い
説教
(
せつけう
)
をしてゐたよ。
171
その
中
(
なか
)
に
たつた
一言
(
ひとこと
)
感心
(
かんしん
)
したことがある。
172
吾々
(
われわれ
)
土百姓
(
どんびやくしやう
)
はその
心
(
こころ
)
で
無
(
な
)
ければ、
173
今日
(
けふ
)
の
日
(
ひ
)
が
務
(
つと
)
まらぬ。
174
流石
(
さすが
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
だ、
175
偉
(
えら
)
いことを
言
(
い
)
ふよ』
176
甲
(
かふ
)
『どんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つたい』
177
乙
(
おつ
)
『
天機
(
てんき
)
洩
(
も
)
らす
可
(
べか
)
らず。
178
また
雨
(
あめ
)
が
降
(
ふ
)
ると
困
(
こま
)
るからな。
179
早苗饗
(
さなぶり
)
休
(
やす
)
みに、
180
ゆつくり
と
聞
(
き
)
かしてやらう』
181
甲
(
かふ
)
『
一口
(
ひとくち
)
ぐらゐ
今
(
いま
)
言
(
い
)
つたつて
仕事
(
しごと
)
の
邪魔
(
じやま
)
にもならないぢやないか。
182
一寸先
(
いつすんさき
)
の
知
(
し
)
れぬ
弱
(
よわ
)
い
人間
(
にんげん
)
の
ざま
で、
183
早苗饗
(
さなぶり
)
の
休
(
やす
)
みもあつたものかい。
184
物
(
もの
)
いふ
間
(
あひだ
)
も
無常
(
むじやう
)
の
風
(
かぜ
)
とやらが
俺
(
おい
)
らの
身辺
(
しんぺん
)
をつけ
狙
(
ねら
)
うとるのぢや。
185
その
風
(
かぜ
)
が
何処
(
どこ
)
からともなしに、
186
スツと
吹
(
ふ
)
いたが
最後
(
さいご
)
、
187
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
頓生
(
とんしよう
)
菩提
(
ぼだい
)
だ。
188
いちやつかさず
に
言
(
い
)
つてくれ。
189
後生
(
ごしやう
)
のためだ』
190
乙
(
おつ
)
『ほんなら
言
(
い
)
うたらう。
191
俺
(
おれ
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
だぞ』
192
甲
(
かふ
)
『にはか
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
193
蚯蚓
(
みみず
)
飛
(
と
)
ばしの
蛙
(
かへる
)
切
(
き
)
り、
194
糞
(
くそ
)
垂
(
た
)
れの
はな
垂
(
た
)
れ、
195
頤
(
あご
)
ばつかり
達者
(
たつしや
)
で
百姓
(
ひやくしやう
)
を
嫌
(
きら
)
うて
一寸
(
ちよつと
)
も
宣伝使
(
せんでんし
)
だ……』
196
乙
(
おつ
)
『
要
(
い
)
らぬことを
垂
(
た
)
れない、
197
はな
垂
(
た
)
れ
奴
(
め
)
。
198
抑
(
そもそ
)
も
三五教
(
あななひけう
)
の
教理
(
けうり
)
は
皇祖教
(
くわうそけう
)
だ』
199
甲
(
かふ
)
『
皇祖教
(
くわうそけう
)
つて
何
(
なん
)
だい、
200
そんな
事
(
こと
)
を
吐
(
ぬ
)
かすと、
201
それそれ
警察
(
けいさつ
)
から
不礼罪
(
ぶれいざい
)
として
訴
(
うつた
)
へられるぞ』
202
乙
(
おつ
)
『マア
先
(
さき
)
まで
聞
(
き
)
けい。
203
この
餓鬼
(
がき
)
は
蚯蚓
(
みみず
)
か
あんこ
か
虱
(
しらみ
)
か
蚤
(
のみ
)
か
今日
(
けふ
)
も
明日
(
あす
)
もと
糞
(
くそ
)
垂
(
た
)
れるなり』
204
甲
(
かふ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
、
205
何
(
なに
)
吐
(
ぬ
)
かすのだい。
206
貴様
(
きさま
)
聞
(
き
)
き
損
(
そこ
)
ねよつて、
207
矢張
(
やつぱ
)
り
蛙切
(
かへるき
)
りの
伜
(
せがれ
)
は
蛙切
(
かへるき
)
りだ。
208
困
(
こま
)
つたものだね。
209
俺
(
おれ
)
が
云
(
い
)
ふてやらう。
210
ヱヘン。
211
この
秋
(
あき
)
は
水
(
みづ
)
か
嵐
(
あらし
)
か
知
(
し
)
らねども
今日
(
けふ
)
のつとめに
田草
(
たぐさ
)
とるなり
212
明日
(
あす
)
の
事
(
こと
)
はどうでもよい。
213
今日
(
けふ
)
の
事
(
こと
)
は
今日
(
けふ
)
せいと
宣伝使
(
せんでんし
)
が
吐
(
ぬ
)
かすのだ。
214
頼
(
たよ
)
りない
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
215
俺
(
おれ
)
はもう
厭
(
いや
)
になつてしまつた。
216
アーア、
217
また
一汗
(
ひとあせ
)
絞
(
しぼ
)
らうかい』
218
と
甲
(
かふ
)
は
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
つた。
219
つづいて
四五
(
しご
)
の
若者
(
わかもの
)
も
蓑笠
(
みのかさ
)
を
身
(
み
)
に
纏
(
まと
)
ひ、
220
水田
(
みづだ
)
の
中
(
なか
)
へバサバサと
這入
(
はい
)
つて
了
(
しま
)
つた。
221
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立
(
た
)
てわける』
222
と
大声
(
おほごゑ
)
に
呼
(
よ
)
ばはりながら、
223
二人
(
ふたり
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
ひ
進
(
すす
)
みくる。
224
(
大正一一・一・二四
旧大正一〇・一二・二七
外山豊二
録)
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