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慧春尼(ゑしゆんに)

インフォメーション

鏡：月鏡題名：慧春尼よみ：著者：出口王仁三郎

神の国掲載号：1929（昭和4）年05月号八幡書店版：368頁愛善世界社版：著作集：第五版：72頁第三版：72頁全集：498頁初版：52頁

概要：備考：タグ：データ凡例：データ最終更新日： OBC ：kg293

001　足利(あしかが)時代(じだい)に於(お)ける、002禅林(ぜんりん)の傑物(けつぶつ)と称(とな)へられた慧春尼(ゑしゆんに)は尼僧(にそう)として数(かぞ)ふるに足(た)るべき貞操(ていさう)の固(かた)い尼僧(にそう)であつた。003慧春尼(ゑしゆんに)は、004意志(いし)の弱(よわ)いものと侮蔑(ぶべつ)された当時(たうじ)の女(をんな)のために、005気(き)を吐(は)いた訳(わけ)である。006彼(かれ)能(よ)く得度(とくど)し得(え)たるは、007花顔月眉(くわがんげつぴ)、008丈(たけ)なす黒髪(くろかみ)を吝気(をしげ)もなく切(き)り捨(す)てた所(ところ)にある。009彼(かれ)は性欲(せいよく)なんか問題(もんだい)にしてゐなかつた。010それでも相応(さうおう)に恋(こひ)の迫害(はくがい)を受(う)けた。011彼(かれ)は赤裸々(せきらら)となつて陰部(いんぶ)を開放(かいはう)するだけの勇気(ゆうき)があつた。012彼(かれ)が禅林(ぜんりん)に修(しう)する時(とき)、013某(ぼう)男僧(だんそう)から情交(じやうかう)を要求(えうきう)されて、014絶対(ぜつたい)に辞言(じげん)に窮(きう)したる場合(ばあひ)に、015一策(いつさく)を案出(あんしゆつ)して曰(いは)く「妾(わたし)の為(な)すことは如何(いか)なる事(こと)にても為(な)し玉(たま)ふか、016それを能(よ)く為(な)し、017妾(わたし)が言(い)ふが儘(まま)になると云(い)ふ御約束(おやくそく)なれば、018妾(わたし)の身体(からだ)は貴僧(きそう)が意(い)に従(したが)ふべし」といふ問題(もんだい)を提出(ていしゆつ)した。019茲(ここ)に熱烈(ねつれつ)なる恋(こひ)に燃(も)え切(き)つた男僧(だんそう)は、020即座(そくざ)に之(これ)を諒(りやう)とし、021如何(いか)なる場合(ばあひ)に、022如何(いか)なる事(こと)にても、023是(これ)に応(おう)ずべきを諾(だく)し、024寸刻(すんこく)も彼(かれ)尼僧(にそう)が提出(ていしゆつ)条件(でうけん)の速(すみやか)ならん事(こと)を希(こひねが)ひ、025恋(こひ)の成就(じやうじゆ)と性欲(せいよく)の満足(まんぞく)を期(き)せんものと、026満身(まんしん)ただそれより外(ほか)に念(ねん)とすべきものは無(な)かつた。

027　扨(さ)て、028男僧(だんそう)が熱烈(ねつれつ)なる生命(いのち)がけの恋(こひ)の成就(じやうじゆ)の期(き)は到来(たうらい)した。029慧春尼(ゑしゆんに)は、030如何(いか)なる問題(もんだい)を男僧(だんそう)の前(まへ)に提出(ていしゆつ)したかと云(い)へば、031実(じつ)に思(おも)ひ切(き)り徹底(てつてい)した問題(もんだい)であつた。032慧春尼(ゑしゆんに)は或日(あるひ)大法会(だいほふゑ)にて幾百(いくひやく)の僧侶(そうりよ)が、033大本堂(だいほんだう)に集会(しうくわい)した、034尼(に)は斯(こ)の時(とき)こそはと、035赤裸体(まつぱだか)にて万衆(ばんしう)の中(なか)に出(い)で、036陰部(いんぶ)を開放(かいはう)して曰(いはく)「某(ぼう)男僧(だんそう)よ、037願(ねが)はくは此(こ)の衆僧(しうそう)の眼前(がんぜん)にて、038只今(ただいま)妾(わらは)が身体(からだ)を貴僧(きそう)に任(まか)せん、039積日(せきじつ)の欲望(よくばう)を達(たつ)せられよ、040自由(じいう)に情欲(じやうよく)を充(み)たされよ」と恥(は)づるの色(いろ)なく平然(へいぜん)として出(い)でた。041時(とき)に某(ぼう)男僧(だんそう)は顔(かほ)より火(ひ)を発(はつ)して、042何処(どこ)ともなく逃(に)げさりたりとの逸話(いつわ)がある。043是(これ)を見(み)るも如何(いか)に彼(かれ)が俗(ぞく)を脱(だつ)して居(ゐ)たかと云(い)ふ消息(せうそく)が解(わか)る。044そして女人(によにん)の慧春(ゑしゆん)は能(よ)く男(をとこ)と成(な)り得(え)たのである。

045　茲(ここ)に、046現代(げんだい)の新(あたら)しい女(をんな)と一時(いちじ)名(な)を天下(てんか)になした平塚(ひらつか)雷鳥(らいてう)［※「平塚雷鳥」（1886～1971）婦人運動家。］が、047禅味(ぜんみ)を気取(きど)つて、048前(まへ)を捲(まく)つて示(しめ)す可(べ)からざるを示(しめ)し、049南天棒(なんてんぼう)［※「中原南天棒」（1839～1925）臨済宗僧侶。］に抱(だき)ついて接吻(せつぷん)したなどは大(おほい)に見(み)るべきものがあるとしてあつたに拘(かかは)らず、050若(わか)い燕(つばめ)と、051水(みづ)も入(い)らない生活(せいくわつ)を送(おく)る人(ひと)となつた。052そして今(いま)では児(こ)まで生(う)んで俗化(ぞくくわ)し最早(もはや)処女(しよぢよ)では無(な)くなつた。053処女(しよぢよ)の美(び)を捨(す)てた彼(かれ)は矢張(やは)り女(をんな)であつた。054現代(げんだい)の尼僧(にそう)が尼僧(にそう)たるに到(いた)つた経路(けいろ)は、055千態万様(せんたいばんやう)到底(たうてい)純真(じゆんしん)なものは尠(すくな)い。056世(よ)を捨鉢(すてばち)の者(もの)もあるだらうし、057悔恨(くわいこん)の情(じやう)禁(きん)ずる能(あた)はずして遂(つい)に剃髪(ていはつ)した者(もの)もあるだらう。058煩悶(はんもん)悲痛(ひつう)人事(じんじ)の盡(つ)きざるを感奮(かんぷん)して、059此(こ)の境(きやう)に入(はい)つたものもあらう。060然(しか)し彼等(かれら)が一生(いつしやう)を通(つう)じて、061初心(しよしん)を貫(つらぬ)く事(こと)が出来(でき)るかが、062頗(すこぶ)る疑問(ぎもん)である。063彼等(かれら)が山門(さんもん)に於(おい)て、064稚気満幅変(ちきまんぷくへん)な匂(にほ)ひが鼻孔(びこう)を穿(うが)つを聞(き)くは、065猶(なほ)女(をんな)を脱(だつ)する事(こと)の出来(でき)ない證拠(しようこ)である。066彼等(かれら)が激(はげ)しく変(かは)つた感情(かんじやう)に支配(しはい)されて尼僧(にそう)となつて幾日(いくにち)ならず、067能(よ)く禅味(ぜんみ)を味(あぢ)はふ事(こと)が出来(でき)ず、068馬鹿(ばか)馬鹿(ばか)しいと云(い)つて、069俗(ぞく)に還(かへ)るものが往々(わうわう)あるを観(み)ては、070彼等(かれら)が心事(しんじ)を察(さつ)するに余(あま)りありである。071彼等(かれら)は頭髪(とうはつ)を切捨(きりすて)たりと雖(いへど)も猶(なほ)、072臀肉(でんにく)を有(いう)す、073彼等(かれら)が得度(とくど)の域(ゐき)に達(たつ)せんと欲(ほつ)するならば、074猶(なほ)臀肉(でんにく)をも削(けづ)らねばならぬ。075到底(たうてい)臀肉(でんにく)を有(いう)する間(あいだ)は性欲(せいよく)を捨(す)つる事(こと)、076決(けつ)して不可能事(ふかのうじ)に属(ぞく)するものである。

077　天地(あめつち)の神(かみ)の恵(めぐ)みを打忘(うちわす)れ

078　　仏(ほとけ)に仕(つか)ふる不徹底(ふてつてい)の尼(あま)

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