霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 (ことば)(きず)〔六七九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第1篇 千辛万苦 よみ:せんしんばんく
章:第5章 第21巻 よみ:ことばのきず 通し章番号:679
口述日:1922(大正11)年05月17日(旧04月21日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
玉治別の言葉によって六人の小盗人らは三五教に帰順し、宣伝使の供をすることとなった。
夜の山道にさしかかると、一行は狼の大群がやってくるのに出くわした。皆森林の中に逃げ込むが、玉治別だけは法螺を吹いて、狼たちの行く手に立ちはだかった。すると狼たちはその勢いに辟易したのか、向きを変えて行ってしまった。
玉治別は一人、山の上に登って行き、赤児岩と呼ばれる岩に腰を掛けていた。するとアルプス教の者と思しき二人がやってきて、玉治別を仲間と勘違いし、三五教の宣伝使をやっつける手はずの作戦書を渡して去って行った。
玉治別は書類を持ちながら歩いて行くと、谷底に人家の灯が見える。行くと、一軒の小さな木挽小屋があった。戸を叩くと杢助という男が出てきて、女房の通夜をしているという。
杢助は玉治別が宣伝使と見て取ると、通夜の番を頼んで用事を済ませに出て行ってしまった。玉治別は仕方なく死人の番をする。すると死人の蒲団から手を伸ばして、お供え物の握り飯を食べる者がある。
そこへ、竜国別と国依別ら一行がやってきて、玉治別と合流した。元盗人たちによると、木挽の杢助夫婦は腕力が強く、泥棒仲間も何度もひどい目に会わされて近づかないほどの剛の者だという。遠州ら元盗人たちは、恐れて小屋に入ろうとしない。
三人が話をしていると杢助が帰ってきた。すると死人の蒲団の中から、杢助の娘が出てきた。三人は杢助に頼まれて、死人にお経を上げる。
三人が帰ろうとすると、玉治別がアルプス教の者から受け取った包みに杢助が気づいた。中から、杢助の家の金子が出てきたことから、玉治別は泥棒の一味と間違えられてしまう。
杢助は鉞を振るって三人に襲い掛かるが、玉治別は天の数歌を唱えると、杢助は霊縛されてしまった。その間に玉治別は一部始終を物語り、誤解が解けた。
杢助の家から盗み出された金子はすべて杢助に返し、宣伝使たちはアルプス教の秘密書類だけを携えて、津田の湖に向かって進んで行った。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm2105
愛善世界社版:94頁 八幡書店版:第4輯 299頁 修補版: 校定版:98頁 普及版:42頁 初版: ページ備考:
001 玉治別(たまはるわけ)早速(さつそく)頓智(とんち)に、002六人(ろくにん)小盗人(こぬすと)(はじ)めて(その)()(さと)り、003(よろこ)んで(かみ)(みち)帰順(きじゆん)し、004宣伝使(せんでんし)(したが)つて高春山(たかはるやま)(むか)(こと)となつた。005()(やうや)()れかかり、006月背(つきしろ)()えて(やま)(やま)とに(かこ)まれし谷道(たにみち)も、007どことなく(あか)るくなつて()た。008されど東西(とうざい)高山(かうざん)()ひたる谷路(たにみち)には、009皎々(かうかう)たる(つき)(かげ)()えなかつた。010(しばら)くすると(あや)しき(うな)(ごゑ)前方(ぜんぱう)(きこ)え、011()いで幾百人(いくひやくにん)とも()れぬ(ひと)足音(あしおと)らしきもの、012刻々(こくこく)(きこ)えて()た。
013玉治別(たまはるわけ)『ヨー(あや)しき物音(ものおと)(きこ)えて()たぞ。014コレヤ大方(おほかた)山賊(さんぞく)大集団(だいしふだん)御通過(ごつうくわ)()える。015我々(われわれ)此処(ここ)待受(まちうけ)して、016(かた)(ぱし)から言向和(ことむけやは)し、017天晴(あつぱれ)大親分(おほおやぶん)となつてやらう。018アヽ面白(おもしろ)面白(おもしろ)い。019(てん)時節(じせつ)到来(たうらい)したか。020サア(たつ)021(くに)022遠州(ゑんしう)023(その)()乾児(こぶん)(ども)024抜目(ぬけめ)なく準備(じゆんび)(いた)すのだよ』
025国依別(くによりわけ)『ハハア、026(また)商売替(しやうばいがへ)ですかな』
027玉治別(たまはるわけ)()(のぞ)(へん)(おう)ずるは英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)本能(ほんのう)だよ』
028遠州(ゑんしう)『モシモシあの足音(あしおと)人間(にんげん)ぢやありませぬ。029あれは千匹狼(せんびきおほかみ)()つて、030時々(ときどき)(この)(みち)通過(つうくわ)する猛獣(まうじう)です。031何程(なにほど)英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)でも、032千匹狼(せんびきおほかみ)にかかつては(かな)ひませぬ。033サアサア(みな)さま、034()()りバラバラになつて、035山林(さんりん)姿(すがた)(かく)して(くだ)さい。036(あま)密集(みつしふ)して()ると(おほかみ)()()いたら大変(たいへん)です』
037玉治別(たまはるわけ)『ナアニ、038善言美詞(ぜんげんびし)言霊(ことたま)(もつ)て、039(おほかみ)(やつ)(のこ)らず言向(ことむ)(やは)すのだ』
040竜国別(たつくにわけ)『そんな馬鹿(ばか)()つてる(どころ)か、041サア(はや)く、042各自(めいめい)覚悟(かくご)をせよ。043畜生(ちくしやう)相手(あひて)になつて(たま)るものかい。044怪我(けが)でもしたら、045それこそ(いぬ)()まれた(やう)なものだ……(いや)(おほかみ)()まれては損害賠償(そんがいばいしやう)(うつた)へる(わけ)にも()かず、046治療代(ちれうだい)もどつからも()やせぬぞ。047オイ国依別(くによりわけ)048遠州(ゑんしう)049駿州(すんしう)050一同(いちどう)051玉公(たまこう)()(こと)()くに(およ)ばぬ。052今日(けふ)(おれ)臨時(りんじ)大将(たいしやう)だ。053サア(はや)(はや)く』
054(かたはら)樹木(じゆもく)密生(みつせい)せる森林(しんりん)(なか)駆込(かけこ)む。055国依別(くによりわけ)(ほか)六人(ろくにん)竜国別(たつくにわけ)行動(かうどう)(とも)にした。056玉治別(たまはるわけ)依然(いぜん)として路上(ろじやう)()ち、
057玉治別(たまはるわけ)『アハヽヽヽ、058何奴(どいつ)此奴(こいつ)(よわ)(やつ)だなア。059多寡(たくわ)()れた()(あし)千匹(せんびき)万匹(まんびき)(なに)(こは)いのだ。060オイ(おほかみ)(やつ)061(いく)らでも()()い』
062呶鳴(どな)つて()る。063(おほかみ)五六間(ごろくけん)(まへ)まで(れつ)()んでやつて()たが、064(みち)()(なか)()ちはだかり、065捻鉢巻(ねぢはちまき)をしながら(はし)やいで()玉治別(たまはるわけ)(いきほひ)辟易(へきえき)したか、066(みち)(てん)じて(たに)向側(むかふがは)(やま)()がけ、067ガサガサと(おと)させ(なが)ら、068(かぜ)(ごと)くに()()つて(しま)つた。069玉治別(たまはるわけ)は、
070『アハヽヽヽ、071(よわ)(やつ)だな。072そんな(こと)高春山(たかはるやま)猛悪(まうあく)鬼婆(おにばば)が、073どうして退治(たいぢ)出来(でき)るかい。074エーいい足手纏(あしてまと)ひだ、075単騎(たんき)進軍(しんぐん)()かけよう』
076四辺(あたり)(きこ)ゆる(やう)にワザと大声(おほごゑ)(わめ)(なが)(たうげ)(のぼ)()く。077竜国別(たつくにわけ)(ほか)七人(しちにん)(はや)くも(やま)一生懸命(いつしやうけんめい)(かけ)あがり、078向側(むかふがは)姿(すがた)(かく)して()た。079(ため)玉治別(たまはるわけ)(こゑ)(きこ)えなかつた。080玉治別(たまはるわけ)鼻唄(はなうた)(うた)(なが)ら、081(たうげ)頂上(ちやうじやう)(たつ)赤児岩(あかごいは)()赤子(あかご)足型(あしがた)一面(いちめん)出来(でき)た、082カナリ(おほ)きな岩石(がんせき)()()()るのを見付(みつ)け、
083『アヽ結構(けつこう)天然椅子(てんねんいす)人待顔(ひとまちがほ)にチヨコナンとやつて()るワイ。084オイ岩椅子(いはいす)先生(せんせい)085貴様(きさま)余程(よほど)幸福(かうふく)(やつ)だ。086三五教(あななひけう)大宣伝使(だいせんでんし)(けん)山賊(さんぞく)大親分(おほおやぶん)たる玉治別命(たまはるわけのみこと)(また)御名(みな)田吾作大明神(たごさくだいみやうじん)が、087少時(しばらく)(しり)をおろして休息(きうそく)してやらう。088(この)光栄(くわうえい)堅磐常磐(かきはときは)に、089(この)(いは)粉微塵(こなみじん)になる千万劫(せんまんがふ)(のち)(まで)(わす)れてはならぬぞよ。090(つま)づく(いし)(えん)(はし)091腰掛(こしか)(いは)椅子(いす)もヤツパリ(えん)(はし)だ。092……ヤア(はじ)めてお月様(つきさま)のお(かほ)(をが)んだ。093(ほん)立派(りつぱ)(うつく)しい御姿(おすがた)だなア』
094(ひとり)ごちつつ(すこ)しく眠気(ねむけ)(もよほ)し、095フラフラと(からだ)(ゆす)つて()る。096其処(そこ)へスタスタと(あが)つて()二人(ふたり)荒男(あらをとこ)
097(かふ)『ヤア()()()()る』
098(おつ)居眠(ゐねむ)つて()るぢやないか。099大分(だいぶん)草臥(くたび)れよつたと()えるワイ。100オイ源州(げんしう)101貴様(きさま)はこれを()つて、102テーリスタンに(わた)すのだ。103(おれ)(いま)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)沢山(たくさん)乾児(こぶん)()れて、104高春山(たかはるやま)へやつて()よるから、105(その)準備(じゆんび)(ため)()くのだから、106貴様(きさま)此処(ここ)(かね)もあれば、107一切(いつさい)作戦(さくせん)計画(けいくわく)(しる)した人名簿(じんめいぼ)もある…しつかりと(わた)して()れよ』
108 玉治別(たまはるわけ)はワザとに(こゑ)をも()さず、109(くび)二三度(にさんど)上下(じやうげ)()つて(つつ)みを受取(うけと)つた。110二人(ふたり)荒男(あらをとこ)追手(おつて)にでも()ひかけられたやうな調子(てうし)で、111(たうげ)(みなみ)地響(ぢひび)きさせ(なが)ら、112巨岩(きよがん)山上(さんじやう)から落下(らくか)する(やう)(いきほひ)駆下(かけくだ)()く。
113玉治別(たまはるわけ)彼奴(あいつ)はアルプス(けう)の……部下(ぶか)(もの)()えるな。114(おれ)味方(みかた)見違(みちが)へて、115大切(たいせつ)(もの)(あづ)けて()きよつた。116ヤツパリ、117アルプス(けう)(やつ)巡礼姿(じゆんれいすがた)になつて()るのがあると()えるワイ。118(しか)(なが)此処(ここ)()つては、119(また)やつて()よつて発覚(はつかく)されては面白(おもしろ)くない。120なんとか位置(ゐち)(てん)じて、121ユツクリと(なか)書類(しよるゐ)調(しら)べて()ようかな』
122小声(こごゑ)()(なが)ら、123二三十間(にさんじつけん)(ばか)(やま)()()んで、124(つき)(ひかり)()めつつ(あゆ)()した。125谷底(たにそこ)(あた)つて(かす)かな()が、126()()(またた)いて()る。127これを(なが)めた玉治別(たまはるわけ)は、
128『アヽ(この)山奥(やまおく)()(とも)して()るのは、129此奴(こいつ)不思議(ふしぎ)だ。130ヒヨツとしたら山賊(さんぞく)棲家(すみか)か、131(ただし)樵夫(きこり)か。132(なに)()もあれ、133あの火光(くわくわう)目当(めあて)近寄(ちかよ)つて、134様子(やうす)(うかが)うて()よう。135(たび)()ふものは随分(ずゐぶん)面白(おもしろ)いものだなア』
136一点(いつてん)()目標(めあて)に、137樹木(じゆもく)(しげ)れる(けは)しき(やま)を、138谷底(たにそこ)目蒐(めが)けて(くだ)りついた。139()れば(ささ)()(かは)をもつて屋根(やね)(おほ)ひたる、140(ちひ)さき木挽小屋(こびきごや)である。141(なか)には(をとこ)のしはぶきが(きこ)えて()る。
142玉治別(たまはるわけ)『モシモシ、143(わたくし)巡礼(じゆんれい)御座(ござ)いますが、144(みち)()みまよひ、145行手(ゆくて)(わか)らず、146(かす)かな()()あてに此処(ここ)まで(まゐ)りました。147どうぞ、148(あや)しい(もの)ではありませぬから、149一晩(ひとばん)()めて(くだ)さいな』
150 (なか)より(をとこ)(こゑ)
151『ハイハイ、152此処(ここ)御存(ごぞん)じの(とほ)り、153穢苦(むさくる)しい木挽小屋(こびきごや)御座(ござ)いますが、154巡礼様(じゆんれいさま)なれば大変(たいへん)結構(けつこう)御座(ござ)います。155どうぞ御這入(おはい)(くだ)さいませ』
156(こころよ)(あら)くたい()を、157(なか)からガタつかせ(なが)(やうや)(ひら)いて、158(おく)案内(あんない)する。159玉治別(たまはるわけ)案内(あんない)()れて、160一寸(ちよつと)した山中(さんちう)似合(にあ)はぬ(うつく)しい座敷(ざしき)(とほ)つた。
161(この)深山(しんざん)にお(まへ)さま、162たつた一人(ひとり)(くら)して()るのかい。163(かど)にて()けば(をとこ)()(ごゑ)がして()つたやうだが、164アレヤ一体(いつたい)165(たれ)()いてゐたのですか』
166(をとこ)(わたくし)木挽(こびき)杢助(もくすけ)御座(ござ)いますが、167家内(かない)のお(すぎ)二時(ふたとき)(ばか)(まへ)国替(くにがへ)(いた)しまして、168それが(ため)死人(しにん)枕許(まくらもと)で、169(この)()名残(なごり)女房(にようばう)(むか)つて()いてやりました。170(しか)(なが)(にはか)やもをでどうする(こと)出来(でき)ず、171霊前(れいぜん)(そな)へる(もの)もないので、172握飯(にぎりめし)(こしら)へて霊前(れいぜん)(そな)へ、173戒名(かいみやう)(かは)りに板切(いたぎ)れを(けづ)つて、174()うして(まつ)つて()きましたが、175あなたは巡礼様(じゆんれいさま)ぢやと()きましたが、176どうぞ(わたくし)がお(そな)(もの)準備(じゆんび)や、177(その)(ほか)親友(しんいう)(てら)(ばう)さまに()らして()(あひだ)178此処(ここ)留守(るす)して()(くだ)さいますまいか。179一寸(ちよつと)()つて(まゐ)りますから……』
180玉治別(たまはるわけ)『ヘエそれは(まこと)にお()(どく)(こと)ですな。181(わたし)(いそ)(たび)ではあるが、182これを()ては、183見棄(みす)てておく(わけ)にも()かぬ。184死人(しにん)夜伽(よとぎ)をして()るから、185サアサア(はや)()()なさい』
186杢助(もくすけ)()れで安心(あんしん)(いた)しました。187どうぞ(よろ)しうお(ねがひ)(いた)します』
188とイソイソ戸外(こぐわい)駆出(かけだ)して(しま)つた。189玉治別(たまはるわけ)は、
190『エー仕方(しかた)がない。191(たまたま)(いへ)があると(おも)へば死人(しにん)夜伽(よとぎ)(めい)ぜられ、192あんまり気分(きぶん)()いものぢやないワ。193それよりも千匹狼(せんびきおほかみ)戦争(せんそう)する(はう)が、194なんぼ()(いさ)んで、195心持(こころもち)()いか()れない。196(しか)しこれも(とき)(まは)(あは)せだ。197泥棒(どろばう)から(かね)(もら)ひ、198秘密(ひみつ)書類(しよるゐ)(うま)()()れたと(おも)へば、199一時(ひととき)()つか()たぬ()に、200(たちま)坊主(ばうず)(かは)りだ。201()()ふのに蚊帳(かや)()らずに、202こんな(ところ)にシヨビンと(のこ)されて、203()施行(せぎやう)今晩(こんばん)はやらねばならぬか。204どこぞ此処(ここ)らに()でも()いては()りませぬかな』
205其処辺中(そこらぢう)(さが)して()ると、206(くち)()けた土瓶(どびん)(ひと)()(さは)つた。
207『ヨー、208(みづ)大分(だいぶん)()んであるワイ。209一層(いつそ)のこと、210土瓶(どびん)()でも()かして()んでやらうかな』
211()破片屑(はつりくづ)(ひろ)うて(かまど)土瓶(どびん)()け、212コトコトと()()した。213(またた)(うち)()沸騰(たぎ)つた。
214『サアこれでも()んで、215(ひと)()()かさうかな』
216 フト女房(にようばう)死骸(しがい)(はう)()()けると、217(あたま)(さき)無字(むじ)位牌(ゐはい)()ゑ、218線香(せんかう)()て、219(その)(まへ)(にぎ)(めし)(そな)へてある。220蒲団(ふとん)(なか)から(ほそ)()()して(にぎ)(めし)をグツと(つか)んでは()り、221(また)(つか)んでは()るものがある。
222玉治別(たまはるわけ)『エー幽霊(いうれい)(やつ)223(そな)へてある(にぎ)(めし)(くら)つて()やがる。224此奴(こいつ)ア、225胃病(ゐびやう)かなんぞで()んだ(やつ)だらう。226喰物(くひもん)執着心(しふちやくしん)(ふか)亡者(まうじや)だなア。227(なん)だか(くび)(あた)りがゾクゾクと(さむ)うなつて来居(きを)つた。228エー(かま)はぬ、229(あつ)()でも()んで元気(げんき)でも()さうかい』
230(くち)()ける(やう)()を、231()けた茶碗(ちやわん)()いで、232フウフウと()きもつて()(はじ)め、
233『ヤア(なん)だ。234ここの(みづ)炭酸(たんさん)でも(ふく)んで()るのか、235怪体(けつたい)臭気(にほひ)がするぞ。236大方(おほかた)女房(にようばう)薬入(くすりい)れか、237炭酸曹達(たんさんそうだ)でも()れて()つた土瓶(どびん)かも()れないぞ。238あんまり(あわ)てて(なか)調査(しらべ)るのを(わす)れて()つた。239ヤア(なん)だか(ねば)つくぞ。240大変(たいへん)粘着性(ねんちやくせい)のある(みづ)だなア』
241(あか)りに()かして()ると、242(くすぶ)つた(なか)からホンノリと文字(もじ)()いて()る。243よくよく()れば「お(すぎ)痰壺(たんつぼ)代用(だいよう)」としてある。
244『エー()(たい)(わる)い、245此奴(こいつ)失策(しくじ)つた。246幽霊(いうれい)(ほそ)()()して(にぎ)(めし)()ふ、247此方(こちら)(たん)()まされる、248()(たい)なこともあればあるものだ。249……コレヤ最前(さいぜん)(をとこ)(おれ)()れた(この)(つつ)みもヒヨツトしたら蜈蚣(むかで)(なに)かが()()るのぢやあるまいかな。250一度(いちど)ある(こと)三度(さんど)あると()ふから、251ウツカリ此奴(こいつ)()()けられぬぞ。252()けたが最後(さいご)253爆裂弾(ばくれつだん)でも這入(はい)つて()つたら大変(たいへん)だ。254ヤア(いや)らしい、255(また)(ほそ)()(にぎ)(めし)(つか)んで()やがる。256大方(おほかた)()うて(しま)ひよつた。257此奴(こいつ)ア、258中有(ちうう)なしに(すぐ)餓鬼道(がきだう)()ちた精霊(せいれい)()えるワイ。259こんな(とこ)(いや)らしうて()れるものぢやない。260(しか)一旦(いつたん)(をとこ)留守(るす)してやらうと請合(うけあ)つた以上(いじやう)は、261卑怯(ひけふ)にも()()(わけ)にも()くまい。262やがて(かへ)つて()るだらう。263それまで其処辺(そこら)(はやし)をぶらついて、264月様(つきさま)のお(かほ)でも(をが)んで()よう。265()うなると、266我々(われわれ)同情(どうじやう)(へう)して()れるのはお月様(つきさま)(だけ)ぢや。267竜国別(たつくにわけ)268国依別(くによりわけ)(その)()腰抜(こしぬけ)は、269どつかへ滅尽(めつじん)して(しま)ひ、270(さび)しい(こと)になつて()たワイ』
271門口(かどぐち)(また)げ、272何時(いつ)とはなしに二三丁(にさんちやう)(あゆ)()し、273谷水(たにみづ)(なが)れに(みづ)(すく)ひ、274(くち)(ふく)んで(さかん)に、275家鶏(にはとり)(みづ)()(やう)に、276一口(ひとくち)()れては(くび)()げ、277ガラガラガラ ブーブーと()き、278(また)一口(ひとくち)()んでは仰向(あふむ)き、279ガラガラガラガラ、280ブーブーブーと、281幾度(いくど)ともなく繰返(くりかへ)して()る。
282 火影(ほかげ)目標(めあて)(さぐ)つて()竜国別(たつくにわけ)283国依別(くによりわけ)284遠州(ゑんしう)285武州(ぶしう)(ほか)四人(よにん)は、286玉治別(たまはるわけ)姿(すがた)夜目(よめ)()て、287(あや)しき(もの)木蔭(こかげ)(たたず)み、288様子(やうす)(うかが)つて()る。
289遠州(ゑんしう)『モシ宣伝使(せんでんし)(さま)290ガラガラブーブーが(あら)はれました。291ここは(ひと)()木挽小屋(こびきごや)292(なに)()るやら()れませぬ。293アレヤきつと化州(ばけしう)でせう』
294国依別(くによりわけ)『ナニ幽霊(いうれい)(みづ)()んでゐるのだ。295つまり含嗽(うがひ)をしてるのだよ。296貴様(きさま)()つてしらべて()い』
297 玉治別(たまはるわけ)木蔭(こかげ)にヒソビソ(かた)人声(ひとごゑ)()きつけ、
298『オイ何処(どこ)何者(なにもの)()らぬが、299(おれ)()れがなくて、300(さび)しくつて(こま)つて()るのだ。301(おほかみ)でも泥棒(どろばう)でも(なん)でも(かま)はぬ。302遠慮(ゑんりよ)()らぬ。303這入(はい)つて、304マア()()かしてあるから、305ゆつくりと()んだがよからうよ』
306竜国別(たつくにわけ)『アヽあの(こゑ)玉治別(たまはるわけ)によく()()るぢやないか』
307国依別(くによりわけ)左様々々(さうさう)308大方(おほかた)玉公(たまこう)先生(せんせい)でせう……オイ(たま)ぢやないか』
309『その(こゑ)(くに)だなア。310()(とこ)()()れた。311マア面白(おもしろ)()(もの)()ようと(まま)だし、312()沢山(たくさん)()いてるから、313トツトと(おれ)()いて()い。314今日(けふ)山中(さんちう)(ひと)()臨時(りんじ)御主人公(ごしゆじんこう)だ。315サア此方(こちら)へ……』
316手招(てまね)きし(なが)ら、317月光(げつくわう)()るる谷路(たにみち)(かへ)つて()く。
318遠州(ゑんしう)『ヤア此家(ここ)杢助(もくすけ)()強力者(ちからづよ)()まつて()木挽小屋(こびきごや)です。319彼奴(あいつ)随分(ずゐぶん)320我々(われわれ)仲間(なかま)(えら)()()うたものです。321剣術(けんじゆつ)322柔術(じうじゆつ)達人(たつじん)で、323三十人(さんじふにん)五十人(ごじふにん)手毬(てまり)(やう)()()ける(やつ)ですよ。324さうして立派(りつぱ)(かか)アを()つて()るのです。325その(かか)アが(また)中々(なかなか)強者(しれもの)で、326杢助(もくすけ)相当(さうたう)した腕力(わんりよく)()つて()るのだから、327(たれ)此処(ここ)ばつかりは、328(こは)くてよう(うかが)はなかつた(ところ)です。329私等(わたくしら)(かほ)をこれまでに()られて()るから剣呑(けんのん)です。330貴方(あなた)がたどうぞお這入(はい)(くだ)さいませ。331暫時(しばらく)木蔭(こかげ)()つて()ますから』
332竜国別(たつくにわけ)(なに)333我々(われわれ)()いて()れば大丈夫(だいぢやうぶ)だ。334遠慮(ゑんりよ)()らぬ。335今日(けふ)玉公(たまこう)親分(おやぶん)家長権(かちやうけん)()つて()()だから、336トツトと這入(はい)つたがよからう』
337遠州(ゑんしう)『それでもあんまり(しきゐ)(たか)(またが)れませぬワ』
338竜国別(たつくにわけ)『ハハア、339ヤツパリお(まへ)にも羞悪(しうを)(こころ)がどつかに(のこ)つて()るな。340そんなら(しばら)泥棒組(どろばうぐみ)木蔭(こかげ)()つて()()れ』
341遠州(ゑんしう)泥棒組(どろばうぐみ)とは(ひど)いぢやありませぬか。342最早(もはや)我々(われわれ)はピユリタン(ぐみ)とは(ちが)ひますかいな』
343竜国別(たつくにわけ)『ピユリタン(ぐみ)でも泥棒組(どろばうぐみ)でも()いワ。344(しばら)其処辺(そこら)へドロンと()えて、345()つてゐるのだよ』
346()()て、347(たつ)348(くに)両人(りやうにん)はヌツと家中(うち)這入(はい)り、
349『ヤア()りとは山中(さんちう)()ず、350小瀟洒(こざつぱり)とした(いへ)だなア』
351『エヽ(きま)つた(こと)だい。352(おれ)家長権(かちやうけん)(にぎ)つた大家庭(だいかてい)だから、353(すみ)から(すみ)まで()行届(ゆきとど)いて()らうがな。354(しか)(おれ)(かかあ)(にはか)罹病(わづらひ)死亡(しぼう)しよつたのだ。355(つい)ては(おれ)恋着心(れんちやくしん)(のこ)つたと()えて、356()んでからでも(ほそ)()()して、357(とを)(ばか)りの(にぎ)(めし)(すで)(やつ)(ばか)(たひ)らげて(しま)ひよつたのだ。358マア()でも()んでユツクリと(かか)アの夜伽(よとぎ)をしてやつて()れ』
359国依別(くによりわけ)(また)しても、360しようもない。361本当(ほんたう)当家(たうけ)死人(しにん)があつたのか。362貴様(きさま)泥棒(どろばう)臨時(りんじ)親方(おやかた)になつたと(おも)うて、363強盗(がうたう)をやつて此家(ここ)大切(たいせつ)(かか)アを(ころ)したのぢやないか』
364玉治別(たまはるわけ)(わか)(とき)から、365女殺(をんなごろ)しの後家倒(ごけだふ)し、366姫殺(ひめごろ)しと綽名(あだな)()つた玉治別(たまはるわけ)ぢや。367(くち)でも(ころ)せば、368()でも(ころ)すと()業平朝臣(なりひらあそん)だから、369(をんな)一人(ひとり)(くらゐ)370強盗(がうたう)になつて(ころ)すのは当然(あたりまへ)だよ』
371竜国別(たつくにわけ)『マサカ(ひと)女房(にようばう)(ころ)(やう)な、372貴様(きさま)悪人(あくにん)ではなかつたが、373三国ケ嶽(みくにがだけ)鬼婆(おにばば)(れい)でも()きよつたのかなア。374エライ(こと)をして()れたものだワイ』
375『マアどうでも()い。376()()いて()るから一杯(いつぱい)()んだらどうだ。377これも玉治公(たまはるこう)がお()づからお()(あそ)ばした結構(けつこう)なお()だ。378チヨツと毒試(どくみ)をして()たが、379随分(ずゐぶん)セキタン(くさ)(みづ)だ。380(しか)胃病(ゐびやう)(くすり)には()いかも()れないわ』
381国依別(くによりわけ)一寸(ちよつと)(その)土瓶(どびん)(おれ)()して()れ。382調査(しらべ)必要(ひつえう)があるから。383ウツカリ()らぬ(うち)()て、384()でも()まうものなら、385どんな毒薬(どくやく)仕込(しこ)んであるか(わか)つたものぢやないわ』
386『ナアニ、387抜目(ぬけめ)のない玉治公(たまはるこう)がチヤンと(しら)べてある。388(けつ)して(どく)ぢやない。389これは宝丹(はうたん)()(もの)だ。390それで宝丹(はうたん)(にほ)ひが(すこ)しはして()る』
391とニヤリと(わら)ふ。392国依別(くによりわけ)は、
393『ナニ放痰(はうたん)394いやマスマス(あや)しいぞ』
395無理(むり)()()げ、396()にすかして()て、
397『ヤア(なん)だか(しるし)()いて()る……お(すぎ)痰壺(たんつぼ)代用(だいよう)……エイ(むね)(わる)い』
398()ひなり、399不潔(きたな)さうに土瓶(どびん)(にぎ)つた()(はな)した。400土瓶(どびん)(には)にバタリと()ちて滅茶(めつちや)々々(めつちや)()れ、401煮湯(にえゆ)はパツと四方(しはう)()()り、402三人(さんにん)(かほ)(あつ)(くさ)(やつ)が、403(いや)()(ほど)御見舞(おみまひ)(まを)した。
404竜国別(たつくにわけ)『サツパリ(をとこ)(かほ)(すみ)ではなうて、405(たん)()りやがつたな。406ヤアヤア死人(しにん)がムクムクと(うご)()したぢやないか。407永久(えいきう)死人(しにん)ぢやあるまい。408夜分(やぶん)になつたら臨時死(りんじし)ぬると()睡眠(すゐみん)状態(じやうたい)だらう』
409玉治別(たまはるわけ)『そんな死方(しにかた)なら、410(たれ)でも毎晩(まいばん)やつて()るぢやないか。411前達(まへたち)(やう)怠惰者(なまくらもの)()(なが)いとか()つて、412()(かげ)一時(ひととき)二時(ふたとき)も、413チヨコチヨコ()ぬぢやないか。414そんな()にやうとはチツト(ちが)ふのだい。415徹底的(てつていてき)(なが)(ねむり)()いて十万億土(じふまんおくど)精霊(せいれい)旅立(たびだち)最中(さいちう)だ』
416竜国別(たつくにわけ)『それにしては、417(ほそ)()()して(めし)(つか)んで()つたり、418ムクムク(うご)いて()るぢやないか』
419玉治別(たまはるわけ)『オイ国依別(くによりわけ)420(まへ)宗彦(むねひこ)()つて、421随分(ずゐぶん)(かか)アを沢山(たくさん)()かしたり、422(ころ)したと()(こと)だが、423大方(おほかた)(その)亡念(まうねん)此家(ここ)死人(しにん)()いて()るのかも()れないぞ』
424国依別(くによりわけ)(なん)にしても気分(きぶん)(わる)(うち)だ。425さうして此家(ここ)主人(しゆじん)何処(どこ)()つたのだい』
426玉治別(たまはるわけ)一寸(ちよつと)買物(かひもの)()つて()るから、427(かへ)るまで留守(るす)(たの)むと()つて()たなり、428まだ(かへ)つて()ないのだ。429随分(ずゐぶん)(ひま)()(こと)だなア』
430 死人(しにん)()かした夜具(やぐ)は、431ムクムクと(うご)()した。432(いつ)(むつ)つの(をんな)()がムクツと()きあがり……
433子供(こども)『お(とう)さん お(とう)さん お(とう)さん』
434四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)して()る。435三人(さんにん)はヤツと(むね)()でおろし、
436三人(さんにん)『ヤアこれで(ほそ)()も、437(にぎ)(めし)(つか)みも解決(かいけつ)がついた』
438 ()かる(ところ)へスタスタと(かへ)つて()たのは主人(しゆじん)杢助(もくすけ)
439杢助(もくすけ)巡礼(じゆんれい)さま、440エライ御厄介(ごやくかい)になりました。441何分(なにぶん)(いそ)いで()つたのですけれど、442夜分(やぶん)(こと)とて(さき)容易(ようい)()きてくれませぬので、443つい手間取(てまど)りまして、444エライ御迷惑(ごめいわく)()けました』
445玉治別(たまはるわけ)『エー滅相(めつさう)な、446どう(いた)しまして……ここに二人(ふたり)()りますのは、447我々(われわれ)兄弟分(きやうだいぶん)御座(ござ)います。448どうぞお見知(みし)()かれますやうに』
449 子供(こども)は、
450『お(とう)さん』
451(はし)つて()きつく。
452杢助(もくすけ)『アーお(まへ)(かしこ)()だ。453よう留守(るす)をして()つた。454あんな()んだお()アの(はた)(だま)つて()()るとは、455(きも)(ふと)(やつ)だ。456()(なか)には(おほ)きな(をとこ)が、457宣伝(せんでん)をしに(ある)いて()つても、458死人(しにん)(そば)には(こは)がつて、459三人(さんにん)五人(ごにん)()らねば、460夜伽(よとぎ)をようせぬものだが、461子供(こども)はヤツパリ(つみ)()いワイ』
462 玉治別(たまはるわけ)(あたま)()き、
463『ヤア(おそ)()りました。464(わたくし)もチツとも(こわ)くはありませぬ』
465女房(にようばう)霊前(れいぜん)にお(きやう)(とな)へて(くだ)さいましたか』
466『ハイ、467茶湯(ちやたう)()げませうと(おも)つて、468つい(かんが)へて()りました。469(しか)遠距離(ゑんきより)読経(どきやう)をやつて()きました。470それも無形無声(むけいむせい)の、471暗祈黙祷(あんきもくたう)472(いよいよ)これから(はじ)める(ところ)御座(ござ)います』
473(なに)(なに)やら間誤(まご)ついて、474支離(しり)滅裂(めつれつ)挨拶(あいさつ)をやつて()る。475ここに三人(さんにん)霊前(れいぜん)(むか)ひ、476神言(かみごと)奏上(そうじやう)し、477(すぎ)冥福(めいふく)(いの)り、478遠州(ゑんしう)(ほか)五人(ごにん)手伝(てつだひ)(もと)に、479野辺(のべ)(おく)りを無事(ぶじ)()ました。
480玉治別(たまはるわけ)『ヤアこれで無事(ぶじ)終了(しうれう)481()()づお芽出(めで)……たくもありませぬ。482惟神(かむながら)(たま)()はへ()惟神(かむながら)(たま)()はへ()惟神(かむながら)(たま)()はへ()せ』
483杢助(もくすけ)有難(ありがた)御座(ござ)いました』
484 一同(いちどう)は、
485左様(さやう)ならば……随分(ずゐぶん)御壮健(ごさうけん)でお(くら)しなさいませ』
486()つて()かむとする。487杢助(もくすけ)は、
488杢助(もくすけ)『モシモシ、489此処(ここ)にこんな風呂敷包(ふろしきづつみ)(のこ)つて()ます。490コレはお(まへ)さまのぢやあるまいかな』
491玉治別(たまはるわけ)『ヤア到頭(たうとう)(わす)れて()た。492これは(わたくし)ので御座(ござ)います』
493杢助(もくすけ)『お(まへ)さまのに間違(まちが)ひはないか』
494玉治別(たまはるわけ)(じつ)(ところ)(たうげ)(いは)休息(きうそく)して()つた(とき)に、495乾児(こぶん)がやつて()て、496頭様(かしらさま)(この)(とほ)りと()つて(わた)して()きやがつたのだ。497(かね)随分(ずゐぶん)沢山(たくさん)あるだらう』
498杢助(もくすけ)(その)(はう)巡礼(じゆんれい)()せかけ、499大泥棒(おほどろばう)(はたら)(やつ)だ。500コレヤ()風呂敷(ふろしき)現在(げんざい)杢助(もくすけ)所持品(しよぢひん)だ。501これを()よ。502(もく)(しるし)()いて()る。503此間(こなひだ)(ばん)に、504五六人(ごろくにん)抜刀(ぬきみ)(をど)()んで、505(おれ)留守(るす)(さいはひ)に、506(つつ)みを()つて(かへ)つた小盗人(こぬすと)がある。507女房(にようばう)何時(いつ)もならば木端盗人(こつぱぬすと)三十(さんじふ)五十(ごじふ)508(たば)になつて()(ところ)感応(こた)へぬのだが、509何分(なにぶん)労咳(らうがい)(ほね)(かは)とになつて()(ところ)だから、510ミスミス()られて(しま)つたのだ。511さうすると貴様(きさま)はヤツパリ泥棒(どろばう)親分(おやぶん)だな。512サア()(あら)はれし(うへ)百年目(ひやくねんめ)513(この)杢助(もくすけ)(かた)(ぱし)から素首(そつくび)引抜(ひきぬ)いてやらう。514……(いづ)れも(みな)覚悟(かくご)せい』
515(まさかり)(ふる)つて(いきほひ)(するど)(すす)んで()る。
516玉治別(たまはるわけ)()つた()つた。517(うそ)(うそ)だ。518夜前(やぜん)泥棒(どろばう)(おれ)(わた)したのだよ。519(おれ)(けつ)して泥棒(どろばう)でも(なん)でもない。520マア()()て……』
521杢助(もくすけ)泥棒(どろばう)泥棒(どろばう)でない(もの)(かね)(わた)すと()(こと)があるかい。522貴様(きさま)もヤツパリ泥棒(どろばう)張本人(ちやうほんにん)だ。523サア量見(りやうけん)(いた)さぬ』
524(いま)頭上(づじやう)より玉治別(たまはるわけ)梨割(なしわり)にせむとする(この)刹那(せつな)(ひと)(ふた)()()……』の(あま)数歌(かずうた)一生懸命(いつしやうけんめい)(とな)(はじ)めた。525玉治別(たまはるわけ)()()んだ食指(ひとさしゆび)尖端(せんたん)より五色(ごしき)霊光(れいくわう)放射(はうしや)し、526杢助(もくすけ)身体(しんたい)強直(きやうちよく)して(その)()(たちま)銅像(どうざう)(やう)になつて(しま)つた。
527玉治別(たまはるわけ)『ハヽヽヽヽ』
528竜国別(たつくにわけ)『オイ玉公(たまこう)529我々(われわれ)(はな)れて何処(どこ)()つたかと(おも)へば、530泥棒(どろばう)をやつて()たのだな。531モウ今日(けふ)(かぎ)貴様(きさま)(えん)()るから、532さう(おも)へ』
533国依別(くによりわけ)『オイお(まへ)(なん)とした(さも)しい根性(こんじやう)になつたのだ。534(おれ)はモウ()はす(かほ)()いワイ』
535涙声(なみだごゑ)になる。536玉治別(たまはるわけ)一伍一什(いちぶしじふ)詳細(しやうさい)物語(ものがた)り、537(やうや)二人(ふたり)(うたが)ひは氷解(ひようかい)した。538杢助(もくすけ)(かた)まつた(まま)539(この)実地(じつち)目撃(もくげき)して、540玉治別(たまはるわけ)無実(むじつ)(さと)つた。541玉治別(たまはるわけ)は「ウン」と一声(いつせい)指頭(しとう)(もつ)霊縛(れいばく)()いた。542杢助(もくすけ)(もと)身体(からだ)(ふく)し、
543杢助(もくすけ)『お(きやく)さま、544失礼(しつれい)(こと)申上(まをしあ)げました。545どうぞ御勘弁(ごかんべん)(くだ)さいませ』
546玉治別(たまはるわけ)(わか)つたらそれで結構(けつこう)です……(なに)()(こと)はありませぬ。547(しか)(この)(つつ)みはあなた調(しら)べて(くだ)さい』
548杢助(もくすけ)『そんなら皆様(みなさま)(まへ)(しら)べて()ませう』
549とガンヂガラミに(くく)つた風呂敷包(ふろしきづつみ)()(ひら)いて()れば、550金色燦然(きんしよくさんぜん)たる金銀(きんぎん)小玉(こだま)ザラザラと(あら)はれて()た。551さうして一冊(いつさつ)手帳(てちやう)()()た。552(ひら)いて()れば、553アルプス(けう)秘密(ひみつ)書類(しよるゐ)である。554三人(さんにん)はこれ(さいは)ひと懐中(くわいちゆう)(をさ)め、555(あと)杢助(もくすけ)(かへ)し、556九人連(くにんづ)(この)()()つて津田(つだ)湖辺(こへん)(むか)つて宣伝歌(せんでんか)(うた)(なが)(いきほひ)よく(すす)()く。
557大正一一・五・一七 旧四・二一 松村真澄録)