霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
目 次設 定
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
フォント

ルビの表示



アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注 [?][※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]


文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色 [?]底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。[×閉じる]
外字1の色 [?]この設定は現在使われておりません。[×閉じる]
外字2の色 [?]文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。[×閉じる]

  

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。


マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。

【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034  アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。

          

第四章 珍客(ちんきやく)〔一〇八八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻 篇:第1篇 恋雲魔風 よみ:れんうんまふう
章:第4章 第40巻 よみ:ちんきゃく 通し章番号:1088
口述日:1922(大正11)年11月01日(旧09月13日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
午前の五つ時、鬼熊別の館の前に石生能姫が現れて門番に門を開けるよう急き立てた。門番の注進によりやってきた熊彦は、一目見てそれが石生能姫であることを認めた。そして慌てて鬼熊別の奥殿に通した。
鬼熊別は、熊彦に伴われて石生能姫がやってきたことに驚きを隠せなかった。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm4004
愛善世界社版:44頁 八幡書店版:第7輯 434頁 修補版: 校定版:45頁 普及版:21頁 初版: ページ備考:
001 鬼熊別(おにくまわけ)(やかた)午前(ごぜん)(いつ)(どき)002妙齢(めうれい)美人(びじん)深編笠(ふかあみがさ)(かぶ)り、003(おもて)(つつ)門前(もんぜん)(あら)はれた。004これは読者(どくしや)(みみ)には(あら)たなる石生能姫(いそのひめ)たることは間違(まちが)ひのない事実(じじつ)である。005石生能姫(いそのひめ)(すず)しき(ほそ)(ごゑ)にて、
006『もしもし門番(もんばん)さま、007一寸(ちよつと)(この)(もん)をあけて(くだ)さい。008(はや)(はや)く』
009とせき()てる。010門番(もんばん)朝寝坊(あさねばう)(やうや)()(あが)り、011まだ手水(てうづ)もつかはず、012()ぶた()(こす)つてゐた(ところ)であつた。
013『エー(なん)だ。014やもめ御主人(ごしゆじん)(いへ)へ、015なまめかしい(をんな)(こゑ)で「もしもし門番(もんばん)さま、016(この)(もん)をあけて(くだ)さい。017(はや)(はや)く」なんて馬鹿(ばか)にしてけつからア』
018()ひながら(もん)節孔(ふしあな)から一寸(ちよつと)(そと)(のぞ)き、
019『やあ(なん)だ。020深編笠(ふかあみがさ)(かぶ)つてゐるから、021どんな御面相(ごめんさう)拝見(はいけん)する(こと)出来(でき)ないが、022あの姿(すがた)のいい(こと)023花顔柳腰(くわがんりうえう)とは(この)(こと)024窈窕嬋娟(えうてうせんけん)たる美人(びじん)(もん)(たた)いて(こひ)しの(きみ)()ふ」と()(まく)だな。025(うち)主人(しゆじん)余程(よほど)堅造(かたざう)だと(おも)つたが、026こんな代物(しろもの)(たづ)ねて()るとは油断(ゆだん)のならぬものだ。027三五教(あななひけう)()(かは)るとか(なん)とか()つてるが、028本当(ほんたう)に、029こんな(こと)があると()(かは)るかも()れない。030どれどれ()けてやらうか』
031()(あが)らうとする。032一人(ひとり)門番(もんばん)()そばつたまま、
033『オイ捨公(すてこう)034無暗(むやみ)(この)(もん)をあけちやならないぞ。035夜前(やぜん)036(おそ)家老職(からうしよく)熊彦(くまひこ)(さま)(おれ)()んで、037(この)(もん)()ずに警戒(けいかい)して()れ。038まして(この)二三日(にさんにち)(とく)注意(ちうい)しろと()(わた)した。039トツクリ調(しら)べてからでないと無暗(むやみ)()けてはならないぞ。040捨公(すてこう)041すてておけ』
042捨公(すてこう)『それでも(ごん)さま、043あんな立派(りつぱ)なシヤンが(すず)(やう)(こゑ)(たの)んで()るのだもの、044これが()けずにをれようかい。045(をとこ)なら(また)剣呑(けんのん)()(あん)じも()るが、046あんな繊弱(かよわ)(をんな)一人(ひとり)(くらゐ)047(もん)(とほ)してやつた(ところ)剣呑(けんのん)(こと)があるものか。048あまり取越苦労(とりこしくらう)をせないでも(おれ)はもう(たま)らぬ(やう)になつた。049()けてやるわ』
050権公(ごんこう)()てと()つたら()たぬかい。051上官(じやうくわん)命令(めいれい)服従(ふくじゆう)せぬか』
052上燗(じやうかん)(めい)服従(ふくじゆう)して昨夜(ゆふべ)余程(よほど)酔払(よつぱら)つたぢやないか。053(まへ)は、054あれほどの上燗(じやうかん)を「こりや、055一寸(ちよつと)熱燗(あつかん)だ」なんて、056(ひと)(かん)させやがつて、057あつかましい叱言(こごと)ほざきやがつて、058二日酔(ふつかゑひ)肝腎(かんじん)使命(しめい)(わす)れやがつて(あたま)(あが)らぬ(くせ)に、059何俺(なにおれ)職権(しよくけん)干渉(かんせう)するのだ。060(おれ)(おれ)特権(とくけん)(もつ)開門(かいもん)するのだ』
061とふりきつて()かうとするのを、062権公(ごんこう)はグツと()(もど)し、
063()()て、064(おれ)(ひと)調(しら)べてやらう』
065『こりや着物(きもの)(やぶ)れるぢやないか。066前等(まへら)(やう)(あら)くれ(をとこ)(そで)()()られても、067()つから()つから勘定(かんぢやう)()ひませぬわい。068(おな)()かれるならあのシヤンに()()つて(やぶ)つて(もら)ふわい……ヘヽヽヽやア、069ぼろいぼろいぼろけつぢや。070これだから門番(もんばん)()められぬと()ふのだよ。071あのスタイルでは随分(ずゐぶん)美人(びじん)だらう。072あの風体(ふうてい)高尚(かうしやう)073言辞(げんじ)(つく)すべき(かぎ)りに(あら)ずと()代物(しろもの)だ。074エヘヽヽヽ』
075 権公(ごんこう)委細(ゐさい)(かま)はず門戸(もんこ)節孔(ふしあな)から(そと)(なが)め、
076『ヤア此奴(こいつ)大変(たいへん)だ。077ウツカリ()ける(こと)出来(でき)ない。078どうも合点(がつてん)()かぬ風体(ふうてい)だ。079そしてどこかに見覚(みおぼ)えのある風体(ふうてい)だ。080()(かく)081御家老(ごからう)(さま)(うかが)つて()(まで)此処(ここ)()つて()てくれ。082それまで(けつ)して何程(なにほど)(そと)から請求(せいきう)しても(ひら)けちやならないぞ』
083()ひすてて(おく)をさして権公(ごんこう)()()した。084(もん)(そと)より、
085『もしもし門番(もんばん)さまエ、086ジレツタイ、087(はや)()けて(くだ)さい。088鬼熊別(おにくまわけ)(さま)折入(をりい)つて(いそ)ぎの(よう)があるのだ。089サア(はや)(はや)う、090(ひと)()られちや大変(たいへん)だから』
091捨公(すてこう)(なに)092(ひと)()られちや大変(たいへん)だと、093(いよいよ)(もつ)(あや)しいわい。094(しか)無理(むり)はない。095(うち)御主人(ごしゆじん)奥様(おくさま)行衛(ゆくゑ)()れず、096たつた一人(ひとり)のお嬢様(ぢやうさま)(なが)らく何処(どこ)へお()(あそ)ばしたか行衛(ゆくゑ)()れず、097こんな立派(りつぱ)なお()(うへ)になつても(ただ)一人(ひとり)空閨(くうけい)(まも)つてゐらつしやるのだから、098感心(かんしん)なお(かた)だ……と(おも)うてゐたが、099矢張(やつぱり)何処(どこ)かへあんなものが(かこ)うてあつたものと()えるわい。100油断(ゆだん)のならぬ御主人(ごしゆじん)だ。101磁石(じしやく)(てつ)をひきつける(やう)(なん)()つても(をとこ)(をんな)とは(とほ)いやうで(ちか)いものだな。102エヘヽヽヽ、103もしお女中(ぢよちう)さま、104あなたの腕前(うでまへ)(たい)したものですな。105(わたし)木石漢(ぼくせきかん)ではありませぬよ。106チツとは(こひ)(かた)資格(しかく)のある(をとこ)107そんな(すゐ)()かぬ、108(わたし)ぢや(ござ)いませぬわい。109当家(たうけ)家老(からう)熊彦(くまひこ)といふ不粋(ぶすゐ)(をとこ)権助(ごんすけ)門番(もんばん)()無茶苦茶(むちやくちや)糊付物(のりつけもの)(やう)(かた)ばりやがつて「(この)(もん)(ゆる)しがなけりや勝手(かつて)にあけちやならないぞ」なんて(ぬか)しやがるのですよ。110御主人(ごしゆじん)だつてお(まへ)さまのやうなシヤントコセシヤンがおいでになつても、111(こころ)(うち)ではお(よろこ)びでも表向(おもてむき)故意(わざ)(しち)むつかしい(かほ)して「当家(たうけ)主人(しゆじん)一人暮(ひとりぐら)しだから(をんな)(よう)はない、112一時(いちじ)(はや)()(はら)へよ」なんて(くち)(こころ)正反対(せいはんたい)(こと)仰有(おつしや)(こと)はキマつた生粋(きつすゐ)だ。113そこを御主人様(ごしゆじんさま)とお(まへ)のために(すゐ)()かしてやるのが、114(いへ)(すみ)にも()てておけぬ(この)(すて)さまだ。115()てる(かみ)さまもあれば(ひろ)(かみ)もあると()()(なか)に、116(ひろ)ふばかりで一寸(ちよつと)()てぬと()(すて)さまだ。117すつて(こと)(この)(すて)さまが()らなかつたならば権公(ごんこう)(やつ)が、118ゴーンと肱鉄砲(ひぢでつぱう)をかまし、119(にべ)杓子(しやくし)もなく(えのき)(はな)(こす)つた(やう)(むご)挨拶(あいさつ)でおつ()()しでもされようものなら、120それこそステテコテンのテンツクテンだ。121さうなれば折角(せつかく)(まへ)さまも「山野(やまの)()えて遥々(はるばる)(たづ)ねて()()てられようとは()らなんだ。122エーもう捨鉢(すてばち)だ、123()てて甲斐(かひ)ある(わが)(いのち)だ」と自暴自棄(やけ)(おこ)し、124スツテに自害(じがい)()えけるが「アイヤ(しばら)()たれよ。125()一旦(いつたん)にして(やす)し、126()にたくば何時(いつ)でも()ねる、127()んで花実(はなみ)()くものか」と(はな)(した)(なが)(をとこ)()んで()(まく)だが、128(この)(すて)さまは捨身(しやしん)になつて、129(しよく)()してもお(まへ)さまを通過(つうくわ)さしてあげませう。130あまり()てた(をとこ)ではありませぬぞや』
131捨台詞(すてぜりふ)()りまきながらガラガラと(もん)(ひら)いた。132石生能姫(いそのひめ)会釈(ゑしやく)もせず、133ツツと(もん)(また)げるや(いな)や、134捨公(すてこう)小袖(こそで)をグツと引掴(ひつつか)み、
135『まゝゝゝ()つて(くだ)さい。136(まへ)さま、137何処(どこ)女郎衆(ぢよろしう)()らぬが、138門番(もんばん)にこれだけ厄介(やくかい)をかけて心配(しんぱい)をさせながら目礼(もくれい)もせず、139御苦労(ごくらう)だとも()はず這入(はい)らうとはあまり無躾(ぶしつけ)ぢや(ござ)いませぬか。140(いや)しい門番(もんばん)だと(おも)つて軽蔑(けいべつ)なさるのか()らぬが、141神様(かみさま)のお()から()れば人間(にんげん)として貴賤(きせん)(べつ)御座(ござ)りませぬぞや』
142『ヤアこれは門番(もんばん)さま、143()まなかつた。144まア(ゆる)して頂戴(ちやうだい)145さア(はや)鬼熊別(おにくまわけ)のお(そば)案内(あんない)しや』
146案内(あんない)申上(まをしあ)げたいは山々(やまやま)なれど、147(わたし)には(この)(もん)(まも)るだけの(やく)で、148大奥(おほおく)まで御案内(ごあんない)する権限(けんげん)(ござ)りませぬ』
149(なん)とまア、150人種(じんしゆ)平等(べうどう)(とな)へられる()(なか)頑迷(ぐわんめい)固陋(ころう)御家風(ごかふう)だこと……』
151『これこれ女中(ぢよちう)さま、152(なに)仰有(おつしや)います。153御無礼千万(ごぶれいせんばん)にも門口(もんぐち)這入(はい)るや(いな)御家風(ごかふう)までゴテゴテ()(こと)(ござ)いますか。154サア サア トツトと自由(じいう)(おく)()かつしやい。155熊彦(くまひこ)家老(からう)屹度(きつと)()りませうから、156それと交渉(かうせふ)をした(うへ)157御主人様(ごしゆじんさま)にトツクリと(つも)海山(うみやま)(はなし)(あそ)ばし、158(ひさ)()りに()満足(たんのう)をなさいませや』
159『これ門番(もんばん)(すて)とやら、160(まへ)(なん)()(いや)らしい(こと)をいふのだい。161チと心得(こころえ)なされや』
162『チヨツコと仰有(おつしや)いますわい。163ヘン』
164(はな)(さき)(わら)つてゐる。165そこへ羽織袴(はおりはかま)(いか)めしくバサバサと(はかま)(おと)をさせながら権助(ごんすけ)(ともな)ひやつて()たのは熊彦(くまひこ)であつた。166熊彦(くまひこ)一目(ひとめ)()るより(こし)をかがめ叮嚀(ていねい)会釈(ゑしやく)し、
167『あゝ貴女(あなた)はイ……』
168()ひかけて、
169何処(どこ)御女中(おぢよちう)()りませぬが、170何卒(どうぞ)(おく)御通(おとほ)(くだ)さいませ。171さア(わたし)御案内(ごあんない)(いた)しませう。172オイ権助(ごんすけ)173捨造(すてざう)174門番(もんばん)(しつ)かり(いた)せよ。175さア御案内(ごあんない)(いた)しませう。176失礼(しつれい)ながらお(さき)(まゐ)ります。177(わたし)(あと)について御出(おい)(くだ)さい。178主人(しゆじん)もさぞお(よろこ)びで(ござ)りませう』
179といそいそとして石生能姫(いそのひめ)(ともな)ひ、180(やかた)(おく)(ふか)姿(すがた)をかくした。
181捨公(すてこう)『オイ(ごん)182(ごん)さま、183一体(いつたい)ありや(なん)だい。184(うち)のレコぢやあるまいかな』
185親指(おやゆび)子指(こゆび)とを()して()せる。
186権公(ごんこう)『ウン』
187捨公(すてこう)『(熊彦(くまひこ)声色(こわいろ))これはこれはハイ、188貴女(あなた)はイ……いやお女中(ぢよちう)さま、189さぞさぞ御主人様(ごしゆじんさま)がお(よろこ)びで(ござ)りませう。190サア(わたし)御案内(ごあんない)(いた)しますから失礼(しつれい)ながらお(さき)へ……なんて(ぬか)しやがつて、191(かまど)不動(ふどう)焼木杭(やけぼくくひ)でたたかれた(やう)(かほ)をしてゐる熊彦(くまひこ)さまの(かほ)(ひも)がサツパリ(ほど)けて(しま)ひ、192(おく)這入(はい)りやがつた(とき)(ざま)()られたものぢやないな。193(をとこ)ばつかりの(この)(やかた)(たま)(をんな)()()ると(さわ)がしいものだ。194万緑叢中紅一点(ばんりよくそうちうこういつてん)だから、195(この)(やかた)もチツとは(はる)めき(わた)るだろう。196今迄(いままで)はあまり陰気(いんき)なものだから、197(この)屋敷(やしき)(うめ)まで(なん)となく陰気(いんき)()き、198(うぐひす)までがド拍子(びやうし)のぬけた()(ごゑ)をしやがると(おも)つてゐたが、199これからは天国(てんごく)浄土(じやうど)出現(しゆつげん)するだらうよ。200アーア(おれ)(にはか)女房(にようばう)()しくなつて()たわい』
201『ウフヽヽヽ馬鹿(ばか)だなア』
202馬鹿(ばか)貴様(きさま)(こと)だよ。203あんなナイスを()てニツコリともせぬ(やつ)何処(どこ)にあるかい。204無情(むじやう)無血漢(むけつかん)()205(こひ)(あぢ)()らぬ人情(にんじやう)(かい)せぬ(やつ)だ。206あゝ(こま)つた(やつ)(おな)門番(もんばん)をさせられたものだな。207(あさ)から(ばん)まで(さけ)ばつかり(くら)つて、208(まへ)(もん)(ひら)くことと(さけ)(くら)ふことより(げい)がないないア』
209とまだ昨夜(ゆふべ)(さけ)(のこ)りが(たた)つて無性(むしやう)矢鱈(やたら)(ほざ)いてゐる。210権助(ごんすけ)(もの)()はず拳骨(げんこつ)(かた)めて(すて)(あたま)()()つカツンカツンと(なぐ)りつけ、211悠々(いういう)として(もん)(かたへ)番所(ばんしよ)(かへ)()く。
212 (やかた)大奥(おほおく)には宣伝歌(せんでんか)(きこ)えて()た。
213『バラモン(けう)御教(みをしへ)
214(ひら)(たま)ひし常世国(とこよくに)
215大国別(おほくにわけ)神様(かみさま)
216(あまね)世人(よびと)(すく)はむと
217(こころ)(つく)()(つく)
218(とほ)海原(うなばら)()()えて
219筑紫(つくし)(しま)やイホの(くに)
220埃及都(エヂプトみやこ)()れまして
221(をしへ)(ひら)(たま)ひしが
222三五教(あななひけう)言霊(ことたま)
223()ちはじかれて顕恩(けんおん)
224(さと)数多(あまた)郎党(らうたう)
225(ひき)ゐて()をば(しの)びまし
226(をしへ)基礎(きそ)(ひら)(をり)
227フトした(こと)より幽界(かくりよ)
228(かみ)とはならせ(たま)ひけり
229教司(をしへつかさ)(はじ)めとし
230信徒(まめひと)(たち)(かな)しみて
231(うへ)(した)へと(さわ)ぎしが
232鬼雲彦(おにくもひこ)神司(かむづかさ)
233(やうや)(これ)(しづ)めまし
234(みづか)(かは)つて(あと)をつぎ
235大棟梁(だいとうりやう)自称(じしよう)して
236大国彦(おほくにひこ)神霊(しんれい)
237(つか)()たりし(をり)もあれ
238神素盞嗚大神(かむすさのをのおほかみ)
239()ませる八人乙女(やたりをとめ)(たち)
240太玉神(ふとだまがみ)(つかさ)()
241(また)もや(あら)はれ(きた)りまし
242生言霊(いくことたま)発射(はつしや)して
243きため(たま)へば大棟梁(だいとうりやう)
244鬼雲彦(おにくもひこ)(はじ)めとし
245一同(いちどう)此処(ここ)()(のが)
246天ケ下(あめがした)をば遠近(をちこち)
247彷徨(さまよ)(めぐ)りし(かな)しさよ
248鬼雲彦(おにくもひこ)吾々(われわれ)
249(こころ)(あは)(ちから)をば
250(ひと)つになしてバラモンの
251再起(さいき)(はか)りし甲斐(かひ)ありて
252(そら)()(わた)(つき)(くに)
253(はな)()くハルナの(みやこ)にて
254(ふたた)(ひら)くバラモン(けう)
255七千余国(しちせんよこく)大半(たいはん)
256(のこ)らず(をしへ)帰順(きじゆん)して
257(やや)安心(あんしん)(おも)(をり)
258油断(ゆだん)()すまし曲津神(まがつかみ)
259大黒主(おほくろぬし)(たい)()
260(かみ)(つかさ)にあるまじき
261悪逆無道(あくぎやくぶだう)振舞(ふるまひ)
262()()(すす)(たま)ひつつ
263(みち)(けが)すぞうたてけれ
264(そば)(つか)ふる悪神(わるがみ)
265(やから)(もの)(さへぎ)られ
266二人(ふたり)(なか)溝渠(こうきよ)をば
267穿(うが)たれたるぞ(うた)てけれ
268あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
269バラモン(けう)厳霊(いづみたま)
270(さち)はひまして逸早(いちはや)
271大黒主(おほくろぬし)身魂(みたま)をば
272(はら)(きよ)めて真心(まごころ)
273かへらせ(たま)惟神(かむながら)
274(かみ)御前(みまへ)()ぎまつる』
275一絃琴(いちげんきん)()きながら(こゑ)(しづ)かに(うた)ひゐるのは、276(この)()主人(しゆじん)鬼熊別(おにくまわけ)であつた。277かかる(ところ)熊彦(くまひこ)案内(あんない)につれて(はづ)かしげに静々(しづしづ)()(きた)(をんな)石生能姫(いそのひめ)である(こと)()ふまでもない。
278 熊彦(くまひこ)(ふすま)押開(おしあ)両手(りやうて)(つか)へ、
279旦那様(だんなさま)280遥々(はるばる)石生能姫(いそのひめ)(さま)(ただ)一人(ひとり)御訪問(ごはうもん)になりました。281何事(なにごと)(おこ)つたのでは御座(ござ)いますまいか。282何卒(なにとぞ)(くは)しくお(はなし)をお()(くだ)さいませ』
283()ひながら(わが)居間(ゐま)(さが)る。284鬼熊別(おにくまわけ)一目(ひとめ)()るより(おどろ)いて、
285『よう、286貴方(あなた)石生能姫(いそのひめ)(さま)287どうして(また)一人(ひとり)288拙宅(せつたく)をお(たづ)(くだ)さいましたか。289(なに)()もあれ、290そこは端近(はしぢか)291()()づこれへお(なほ)りを(ねが)ひます』
292『ハイ、293突然(とつぜん)邪魔(じやま)(いた)しまして申訳(まをしわけ)御座(ござ)りませぬ。294左様(さやう)なれば御免(ごめん)(かうむ)りまして(とほ)らして(いただ)きませう』
295大正一一・一一・一 旧九・一三 北村隆光録)