霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 強請(がうせい)〔一四四七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻 篇:第4篇 三五開道 よみ:あなないかいどう
章:第17章 強請 よみ:ごうせい 通し章番号:1447
口述日:1923(大正12)年03月17日(旧02月1日) 口述場所:竜宮館 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:243頁 八幡書店版:第10輯 236頁 修補版: 校定版:257頁 普及版:116頁 初版: ページ備考:
001 オールスチンの(やかた)には(せがれ)のワツクスとエキスとヘルマンの二人(ふたり)胡床(あぐら)をかいて密々話(ひそびそばなし)(ふけ)つて()る。
002ワツクス『お前達(まへたち)二人(ふたり)はさう何遍(なんべん)何遍(なんべん)無心(むしん)()()れては(こま)るぢやないか。003(おれ)もお(まへ)()つて()(とほ)部屋住(へやずみ)だから、004さう(かね)自由(じいう)になるものぢやない。005あの禿(はげ)チヤンがうまく()んで()れたら(この)()財産(ざいさん)(おれ)自由(じいう)だからどうでもしてやるが……さう()はずに(しばら)()つて()()れ、006さうすれば小国別(をくにわけ)夫婦(ふうふ)(たま)紛失(ふんしつ)(とが)()つて職務(しよくむ)()()げられ、007厳罰(げんばつ)(しよ)せられて(しま)ふ、008さうすりや(おれ)がこの(たま)発見(はつけん)したと()うて大黒主(おほくろぬし)(さま)(とど)けたならば、009屹度(きつと)小国別(をくにわけ)跡目相続(あとめさうぞく)をデビスにさすに(きま)つて()る。010さうすれば(おれ)(たま)発見(はつけん)した褒美(はうび)として婿(むこ)になるのだ。011モウそこ出世(しゆつせ)がぶらついて()るのだから、012さう八釜(やかま)しう()はずと(しばら)()つて()()れ、013その(かは)り、014(まへ)重役(ぢうやく)(まも)()て、015さうして幾何(いくら)でも(かね)(わた)してやるからなア。016親父(おやぢ)(さと)られやうものなら、017(いへ)放逐(おひだ)され、018(いち)()らず()()らずになつて仕舞(しま)ふ。019さうすればお前達(まへたち)(こま)るぢやないか』
020 エキス、021ヘルマンの両人(りやうにん)はワツクスの悪友(あくいう)(つね)()からぬ(こと)(ばか)(すす)めては親父(おやぢ)(かね)(ぬす)()させ()()ひに(つひや)してゐた。022ワツクスは元来(ぐわんらい)何処(どこ)かに()けた(ところ)のある馬鹿息子(ばかむすこ)である。023けれども家令(かれい)息子(むすこ)()(こと)非常(ひじやう)(わか)(もの)仲間(なかま)には()(はや)され、024調子(てうし)()つては親父(おやぢ)(かね)(ぬす)()し、025悪友(あくいう)(とも)飲食(いんしよく)(つか)つて()た。026(ちち)のオールスチンは女房(にようばう)には先立(さきだ)たれ、027(ただ)一人(ひとり)(せがれ)ワツクスを(ちから)とし、028()(なか)(はい)つても(いた)くない(ほど)(あい)して()た。029それ(ゆゑ)段々(だんだん)増長(ぞうちよう)して()にも(あし)にも()はなくなつて仕舞(しま)つた。030そしてワツクスは小国別(をくにわけ)(むすめ)デビス(ひめ)恋慕(れんぼ)し、031()けても()れてもデビス デビスと口癖(くちぐせ)のやうに()つて()た。032(しか)肝腎(かんじん)のデビス(ひめ)は、033馬鹿息子(ばかむすこ)のワツクスを蚰蜒(げじげじ)(ごと)(きら)ひ、034()(ほそ)くして()()(たび)に、035手厳(てきび)しく肱鉄(ひぢてつ)をかませ(はづ)かしめて()た。036(しか)(なが)らワツクスは益々(ますます)(こひ)(つの)つて(きら)へば(きら)(ほど)可愛(かはゆ)くなり、037(なん)とかして目的(もくてき)(たつ)せむものと、038エキス、039ヘルマンの二人(ふたり)相談(さうだん)をかけた。040狡猾(わるがしこ)いエキスは(いち)()もなく嘲笑(あざわら)つて()ふ。
041エキス『デビス(ひめ)(きみ)(つま)にせうと(おも)へば(なん)でもない(こと)だ。042如意宝珠(によいほつしゆ)をそつと(ぬす)()(かく)してやつたなら、043きつと監督不行届(かんとくふゆきとど)きの(かど)によつて小国別(をくにわけ)夫婦(ふうふ)(およ)家族一同(かぞくいちどう)免職(めんしよく)()ひ、044その(うへ)刑罰(けいばつ)(しよ)せらるるに(きま)つて()る。045まづ第一(だいいち)(その)(たま)(かく)心配(しんぱい)をさせてやると、046小国別(をくにわけ)夫婦(ふうふ)が、047(しまひ)(はて)には百計(ひやくけい)()きて、048「もしもあの紛失(ふんしつ)した如意宝珠(によいほつしゆ)(さが)して()(もの)があつたらデビス(ひめ)()らう」とか、049婿(むこ)にせう」とか()ふに(きま)つて()る。050()(その)(たま)(かく)すが一番(いちばん)である』
051とエキス、052ヘルマンが知恵(ちゑ)をつけた。053そこで薄野呂(うすのろ)のワツクスは(よる)(ひそか)奥殿(おくでん)(しの)()み、054エキス、055ヘルマンと共力(きようりよく)して(たま)(ぬす)()し、056床下(ゆかした)()つて人知(ひとし)れず(かく)して()いた。057そして当座(たうざ)鼻塞(はなふさ)ぎとして百両(ひやくりやう)(づつ)(わた)して()いたのである。058(しか)しエキス、059ヘルマンの二人(ふたり)は、060(たちま)酒食(しゆしよく)使用(つか)つて仕舞(しま)ひ、061幾度(いくど)幾度(いくど)弱身(よわみ)をつけ()んでワツクスの(ところ)無心(むしん)にやつて()る。062(その)(たび)(ごと)にワツクスもいろいろ工夫(くふう)して(わた)しておいた。063(しか)父親(ちちおや)(かね)も、064もう()(ところ)(まで)(ぬす)()して(わた)して()たのだから、065もう幾何(いくら)請求(せいきう)されても(わた)(かね)()いのである。066それ(ゆゑ)ワツクスは最早(もはや)一文(いちもん)()いから……(しばら)()つて()れ、067(いま)願望成就(ぐわんまうじやうじゆ)すれば、068幾何(いくら)でも(かね)をやるから……と(ことわ)つて()たのである、069されどエキスは……(この)家令(かれい)(いへ)には金銀(きんぎん)()()いてゐるに(ちが)ひない、070脅迫(けふはく)さへすれば、071この馬鹿息子(ばかむすこ)幾何(いくら)でも()して()るに(ちが)()い……と悪胴(わるどう)()(こゑ)(とが)らし、
072エキス『オイ、073ワツクス、074(あま)馬鹿(ばか)にして(もら)ふまいかい。075金剛不壊(こんがうふゑ)如意宝珠(によいほつしゆ)(いのち)がけで(ぬす)()し、076もし発覚(はつかく)したら俺達(おれたち)(いのち)がないのだ。077さうして(うま)(しる)()ふのはお(まへ)(ばか)りぢやないか。078天下一品(てんかいつぴん)のナイス、079デビス(ひめ)さまの婿(むこ)となり、080さうしてテルモン(ざん)神司(かむつかさ)となつて覇張(はばり)()らす身分(みぶん)になれるぢやないか。081俺達(おれたち)両人(りやうにん)何程(なにほど)(まへ)出世(しゆつせ)した(ところ)で、082デビスを女房(にようばう)にする(わけ)にも()かず、083神司(かむつかさ)にもなれないのだから()()はないのだ。084それだからお(まへ)から酒代(さかて)でも(もら)つて(さけ)でも()まねば不安(ふあん)(くる)しうて、085一日(いちにち)でも()うして()(こと)出来(でき)ない。086グヅグヅ()はずに百両(ひやくりやう)(ばか)()さつしやい。087(それ)でなければ自分(じぶん)(たち)(つみ)になるのを覚悟(かくご)して、088(おそ)(なが)ら」と罪状(ざいじやう)自白(じはく)する(つもり)だ、089それでもよいか』
090ワツクス『さう(おほ)きな(こゑ)()ふものぢやない、091近所(きんじよ)(きこ)えたらどうするのだ。092俺達(おれたち)迷惑(めいわく)のみではない親父(おやぢ)(まで)迷惑(めいわく)するではないか』
093エキス『迷惑(めいわく)したつて(なん)でい。094(おれ)アもう(やぶ)れかぶれだ。095のうヘルマン、096犬骨(いぬぼね)()つて(たか)()られるやうな荒仕事(あらしごと)をやらされて(たま)つたものぢやない。097此奴(こいつ)はきつと目的(もくてき)成就(じやうじゆ)したが最後(さいご)098自分(じぶん)権威(けんゐ)(かさ)()て、099俺達(おれたち)反対(はんたい)(つみ)(おと)すかも()れないぞ。100それより(いま)(うち)もぐる(だけ)もぐつ(うま)(しる)でも()ふて()かねば算盤(そろばん)()てないや。101オイ ワツクスの先生(せんせい)102(おれ)(いま)バラしたが最後(さいご)103(まへ)(かさ)(だい)()んで仕舞(しま)ふぞ。104百両(ひやくりやう)(いのち)安価(やすい)ものだ、105どうだ()()はないか』
106ワツクス『百両(ひやくりやう)安価(やすい)やうなものの、107さう何遍(なんべん)百両(ひやくりやう)々々(ひやくりやう)()ふて()られては(たま)らないぢやないか。108親父(おやぢ)臍繰金(へそくりがね)(まで)(みな)貴様(きさま)()してやつたし、109もう(さか)さに()つたつて()()ないのだ。110(ちつと)(おれ)(こころ)(さつ)して()れないか。111九分九厘(くぶくりん)()(ところ)になつて(ひつ)くり(かへ)つては(つま)らないぢやないか。112(おれ)目的(もくてき)さへ()てば、113(まへ)(おも)ふやうにしてやるのだから』
114エキス『ヘン(うま)(こと)()つて乞食(こじき)(しらみ)ぢやないが、115(くち)(ころ)さうと(おも)つても()()()るやうな哥兄(あにい)ぢやないぞ。116(すゑ)百両(ひやくりやう)より(いま)五十両(ごじふりやう)だ。117さつぱりと五十両(ごじふりやう)にまけて()く。118サアきつぱりと()したり()したり』
119ワツクス『何程(なにほど)()せと()ふても()(そで)()れんぢやないか。120そんな無茶(むちや)(こと)()はずに、121(いま)(しばら)くの(ところ)我慢(がまん)してくれ、122()(あは)して(たの)むから』
123エキス『ヘン、124貴様(きさま)()(あは)して(かね)一両(いちりやう)()つて()るのなら辛抱(しんばう)もしない(こと)はないが、125(をが)(たふ)さうと(おも)つても、126そんな(こと)()るやうな(おれ)ぢやないわい。127こんな(おほ)きな屋台骨(やたいぼね)をした(いへ)(せがれ)でありながら、128親父(おやぢ)(かね)()くなつたと()つたつて(たれ)本当(ほんたう)にするものか、129(ひと)馬鹿(ばか)にするない。130()さにや()さぬでよいわ。131これから(おれ)一伍一什(いちぶしじふ)をデビス(ひめ)(ところ)()らしに()き、132二人(ふたり)証人(しようにん)となつて報告(はうこく)するからさう(おも)へ。133オイ、134ヘルマン、135こんな(やつ)にかかつて()ても仕方(しかた)がないわ。136さア()かう』
137()(あが)らうとするをワツクスは(あわ)てて()(にぎ)り、138真青(まつさを)(かほ)をしてビリビリ(ふる)(なが)ら、
139ワツクス『オイ、140エキス、141さう短気(たんき)()すものぢやない。142暫時(しばらく)()つてくれと(たの)むのにお(まへ)()(わけ)のない(をとこ)だなア。143(まへ)(おれ)(こころ)()つとるだらう、144()(かね)(かく)して千騎一騎(せんきいつき)(この)場合(ばあひ)145(たれ)()いと()ふものか。146(ちつと)(かんが)へて()れ』
147エキス『千騎一騎(せんきいつき)場合(ばあひ)になつてゴテゴテ()(やつ)駄目(だめ)だ。148(かんが)へもヘチマ()つたものかい、149薬罐頭(やくわんあたま)(かへ)つて()ない(うち)(はや)()さないと陰謀(いんぼう)露見(ろけん)(おそ)れがあるぞ。150貴様(きさま)親父(おやぢ)(こは)いのか。151親父(おやぢ)(こは)いやうな(こと)では伊勢神楽(いせかぐら)()られないぞ……、
152(おや)財産(ざいさん)あてにすれや
153薬罐頭(やくわんあたま)邪魔(じやま)になる
154()ふのは俺達(おれたち)(おやぢ)(こと)だ。155貴様(きさま)らは(おや)一人(ひとり)()一人(ひとり)156羊羹(やうかん)よりも(あま)(やつ)だから、157貴様(きさま)何程(なにほど)(ぬす)()して(おれ)()れたとて、158(せがれ)(いのち)とつりがへだと()いたら、159滅多(めつた)(おこ)気遣(きづか)ひはない、160余程(よほど)貴様(きさま)はケチな(やつ)だなア』
161ワツクス『どうか(たの)みだから、162今日(けふ)(だけ)柔順(おとなし)(かへ)つて()れ、163(なん)とか(また)(かんが)へて()くからなア』
164エキス『(おれ)(をとこ)だ。165一旦(いつたん)(くち)()した以上(いじやう)滅多(めつた)(はぢ)()いて(かへ)るやうな哥兄(にいさん)ぢやないぞ。166サア、167グヅグヅ()はずに()しやがらないか、168グヅグヅ()ふと(この)鉄拳(てつけん)貴様(きさま)(あたま)にお見舞(みまひ)(まを)すぞ』
169()びつかうとする。170ヘルマンは(あわて)(うしろ)より抱留(だきと)め、
171ヘルマン『()つた()つた、172短気(たんき)損気(そんき)だ、173大事(だいじ)(まへ)小事(せうじ)だ、174(いま)短気(たんき)()しては俺達(おれたち)三人(さんにん)(くび)()くなるぢやないか。175(くび)()くなつては(さけ)()むと()つたつて()めないぢやないか。176今日(けふ)はまア此処(ここ)銀瓶(ぎんびん)でも()つて(かへ)らう、177ナア、178ワツクス、179(かね)(かは)りに銀瓶(ぎんびん)ならお(まへ)(なん)とも()ひはすまい』
180ワツクス『(それ)何卒(どうぞ)(こら)へて()れ、181(いま)親父(おやぢ)(かへ)つて()調(しら)べたら大変(たいへん)だからのう』
182エキス『そんなら(とこ)置物(おきもの)無垢(むく)らしいから、183彼品(あいつ)(さら)つて()かう、184これなら千両(せんりやう)二千両(にせんりやう)価値(ねうち)はあるだらうから』
185ワツクス『何卒(どうぞ)それだけは(こら)へて()れ、186親父(おやぢ)()つけられては(こま)るからなア』
187エキス『ヘン、188(ふた)()には親父々々(おやぢおやぢ)(ぬか)しやがつて、189親父(おやぢ)煮汁(だし)俺達(おれたち)要求(えうきう)拒絶(きよぜつ)する(かんが)へであらう、190(おな)(あな)(むじな)だ。191親父(おやぢ)だつて貴様(きさま)陰謀(いんぼう)をすつかり()つて()て、192素知(そし)らぬ(かほ)をしてけつかるのだ。193ええもう()うなつては(かま)ふものか、194悪胴(わるどう)()ゑて百両(ひやくりやう)(わた)すか、195この無垢(むく)置物(おきもの)(わた)すかする(まで)は、196十日(とをか)でも廿日(はつか)でも(すわ)()んで(うご)かない覚悟(かくご)()めやうかい』
197ヘルマン『ワツクスの()(とほ)り、198今日(けふ)柔順(おとなし)(かへ)つて()らうぢやないか、199俺達(おれたち)矢張(やはり)(きず)()(あし)だからなア』
200エキス『(おれ)一旦(いつたん)()()した(こと)(あと)へは退()かぬのだ。201馬鹿(ばか)らしい、202(をとこ)がこれ(だけ)金銀(きんぎん)()()いて()(いへ)()請求(せいきう)すべきものを請求(せいきう)せずして(かへ)(こと)出来(でき)るものか、203貴様(きさま)もよい腰抜(こしぬ)けだなア』
204 ヘルマンはムツと(はら)()て、205(かほ)()()にしながら、206腹立紛(はらたちまぎ)れに(なに)()(わす)れて仕舞(しま)ひ、
207ヘルマン『こりやエキス、208悪垂口(あくたれぐち)(たた)くにも(ほど)がある。209(おれ)腰抜(こしぬ)けなら貴様(きさま)魂抜(たまぬ)けだ。210(いま)()(もの)()せてやらう、211覚悟(かくご)せよ』
212()ふより(はや)(とこ)にあつた無垢(むく)置物(おきもの)をグツと頭上(づじやう)にさし()げ、213エキスを目蒐(めが)けて()げつけた。214エキスは()(そこな)うて向脛(むかうずね)にカンと()ちあてられ、
215『アイタタタ』
216()つたきり座敷(ざしき)中央(まんなか)(たふ)れて仕舞(しま)つた。217折柄(をりから)門口(かどぐち)(あわ)ただしく()()けて這入(はい)つて()たのは(この)()主人(しゆじん)オールスチンである。
218オールス『オイ、219ワツクス、220(わし)留守中(るすちう)(なに)喧嘩(けんくわ)して()るのだ。221(ちつと)(しづか)にせないか』
222ワツクス『ヘエ、223ほんの(さけ)(うへ)(わけ)もない喧嘩(けんくわ)をおつ(ぱじ)めまして(まこと)申訳(まをしわけ)(ござ)いませぬ』
224オールス『さうではあるまい。225最前(さいぜん)から門口(かどぐち)ですつかり立聞(たちぎき)をした。226貴様(きさま)三人(さんにん)如意宝珠(によいほつしゆ)(ぬす)んだ大罪人(だいざいにん)だ。227仮令(たとへ)(わが)()(いへど)(ゆる)(こと)出来(でき)ぬ。228サア三人(さんにん)とも()(うしろ)(まは)せ』
229ワツクス『お(とう)さま、230(まこと)()まぬ(こと)(いた)しました。231(しか)(なが)らもう今日(こんにち)(かぎ)(こころ)(あらた)めますから、232何卒(どうぞ)内証(ないしよう)にして(くだ)さい』
233オールス『馬鹿(ばか)()ふな、234(まこと)(みち)親疎(しんそ)区別(くべつ)はない。235オールスチンの(せがれ)貴様(きさま)のやうな大悪人(だいあくにん)出来(でき)たかと(おも)へば、236神様(かみさま)(たい)し、237先祖(せんぞ)(たい)し、238申訳(まをしわけ)がない、239どうして(おれ)(かほ)()つか。240グヅグヅ()はずに(つみ)(ふく)するが()い。241これやエキス、242ヘルマンの両人(りやうにん)243(もと)()へばお前達(まへたち)(せがれ)知恵(ちゑ)をかつたのだから、244前等(まへら)(つみ)(もつと)(おも)い、245(しか)(なが)(せがれ)(わる)いのだから(のが)れる(わけ)にはゆかぬ。246三人(さんにん)(とも)覚悟(かくご)してバラモンのお(きやう)でも(とな)へたがよからう』
247両眼(りやうがん)(なみだ)(たた)えて()る。248エキスは吃驚(びつくり)して、
249エキス『もしオールスチン(さま)250(まこと)()まぬ(こと)(ござ)いましたが、251(これ)には貴方(あなた)息子(むすこ)のワツクスも(はい)つて()るのですから、252何卒(どうぞ)大目(おほめ)()(くだ)さい。253何卒(どうぞ)(その)(すぢ)()()(こと)だけは(ゆる)して(くだ)さい。254その(かは)(たま)直様(すぐさま)(かへ)(まを)しますから』
255オールス『(たま)(かへ)(こと)勿論(もちろん)だ。256(しか)(なが)一旦(いつたん)()つた(つみ)はどうしても(ゆる)(こと)出来(でき)ぬ。257さてもさても(こま)つた(こと)をして()れたものだなア。258この(まま)にして()いたら御主人(ごしゆじん)(いへ)断絶(だんぜつ)259(したが)つて(この)家令(かれい)監督不行届(かんとくふゆきとどき)(つみ)によつて、260どんな厳罰(げんばつ)(しよ)せらるるかも()れない。261貴様等(きさまら)三人(さんにん)突出(つきだ)して主家(しゆけ)(わが)()(まも)らねばならぬ。262斯様(かやう)(とき)(せがれ)(あい)()かれて大事(だいじ)(あやま)るやうなオールスチンではないぞ』
263声高(こわだか)(しか)りつけて()る。264三人(さんにん)()蜘蛛(ぐも)のやうになつて(たたみ)(かしら)をにぢりつけ、265只々(ただただ)詫入(わびい)(ばか)りであつた。266オールスチンは(ただち)神前(しんぜん)(ぬか)づき『(わが)()(つみ)(ゆる)させたまへ』と一生懸命(いつしやうけんめい)(いの)つて()る。267されど一旦(いつたん)大罪(だいざい)(おか)した(この)三人(さんにん)はどうしても(たす)ける工夫(くふう)()い。268もしも自分(じぶん)()なるが(ゆゑ)をもつて(つみ)(ゆる)さば綱紀紊乱(かうきぶんらん)端緒(たんしよ)(はつ)し、269不公平(ふこうへい)(そしり)()け、270(まこと)(みち)(つぶ)して仕舞(しま)はねばならぬ、271ああ如何(いか)にせむと(たき)(ごと)くに落涙(らくるゐ)して()る。272二人(ふたり)()()見合(みあは)せ、273(うしろ)から細縄(ほそなは)(くび)()つかけ引倒(ひきたふ)折重(をりかさ)なつて()(ころ)さうとして()る。274オールスチンは(ちから)(かぎ)りに、275(ふせ)(たたか)ひ、276()(のが)れむとすれども(ちから)()らず、277彼等(かれら)がなす(まま)(まか)すより仕方(しかた)がなかつた。
278ワツクス『オイ、279エキス、280ヘルマン、281(おれ)親父(おやぢ)をさう(ひど)(こと)をして()れな、282()んで(しま)ふぢやないか。283打転(うちこか)(くらゐ)はよいけれど、284(いのち)(まで)()らうとするのか』
285エキス『(きま)つた(こと)だい。286此奴(こいつ)(いのち)()らねば俺達(おれたち)(いのち)()くなるのだ。287貴様(きさま)(いのち)もなくなるのだぞ。288(なに)(とぼ)けて()るのだ。289オイ、290ヘルマン(おれ)老耄(おいぼれ)をバラして(しま)うから、291貴様(きさま)はワツクスをやつつけて(しま)へ』
292ヘルマン『よし()た』
293とワツクスに(くら)ひつく。294(ここ)二組(ふたくみ)(ころ)()ひが(はじ)まり、295ジタン、296バタンと(あや)しき物音(ものおと)戸外(こぐわい)まで(きこ)えて()る。297(この)物音(ものおと)()きつけ(あわ)ただしく()()んで()たのは、298小国別(をくにわけ)(しもべ)エルであつた。299エキス、300ヘルマンはエルの(かほ)()るより一目散(いちもくさん)裏口(うらぐち)から(くも)(かすみ)山越(やまごし)()げて仕舞(しま)つた。301そしてエルは最前(さいぜん)からの喧嘩(けんくわ)顛末(てんまつ)由来(ゆらい)(のこ)らず()いて仕舞(しま)つた。302オールスチンは(やうや)くにして()(あが)首筋(くびすぢ)(いた)みを()でて()る。303ワツクスは、304(くら)(なか)()()み、305(なか)より(ぢやう)(おろ)して(ふる)つて()る。306エルは一目散(いちもくさん)にこの有様(ありさま)報告(はうこく)せむと、307(ちう)()つて(やかた)馳帰(はせかへ)()く。
308大正一二・三・一七 旧二・一 於竜宮館階上 加藤明子録)