言霊別命の弟に、元照彦という神があった。元照彦は、兄が神業にかまけて親兄弟をないがしろにしていると、日ごろから憤慨していた。
元照彦は狩猟が上手で、相棒の伊吹彦とともに山の獣を獲ることを楽しみとしていた。
あるとき、元照彦は大台ケ原山で狩猟をしていた。そこへ、伊吹山に立て籠もる邪神・八十熊たちも、狩猟にやってきた。しかし、元照彦の狩猟があまりに上手いので、邪神たちは一匹の鳥獣も得ることができなかった。
そこで邪神たちは元照彦の相棒・伊吹彦を見方に引き入れ、元照彦を殺そうとした。伊吹彦は元照彦を裏切り、元照彦は邪神に囲まれて矢を射掛けられ、その場に倒れてしまった。
弟の危急を知った言霊別命はただちに天の鳥船で大台ケ原山に駆けつけ、さまざまな霊威のある領巾を邪神軍に向かって打ち振ると、邪神たちは逃げていった。
元照彦は重傷を負い、危篤に陥った。母神は元照彦に、「放縦な心を立て替えて、兄とともに神業に参加するように」と諭した。
元照彦は敬神の念を起こし、数ケ月の間苦痛に耐えながら天地の大神を祈った結果、傷は癒えた。そして神業に参加し、言霊別命に従って神教を宣伝して偉功を表わすことになった。
元照彦を裏切った伊吹彦は、八十熊らとともに伊吹山に逃げた後、どこからともなく飛んできた矢に当たって山上から転落し、息絶えた。そして伊吹山の邪鬼となった。