第三一章 手痛き握手〔八一〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第2巻 霊主体従 丑の巻
篇:第5篇 神の慈愛
よみ(新仮名遣い):かみのじあい
章:第31章 手痛き握手
よみ(新仮名遣い):ていたきあくしゅ
通し章番号:81
口述日:1921(大正10)年11月03日(旧10月04日)
口述場所:
筆録者:桜井重雄
校正日:
校正場所:
初版発行日:1922(大正11)年1月27日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:神山彦は、言霊別命が第二の妃神を娶ったという噂について、詰問した。言霊別命は疑いを晴らそうと、照妙姫(=天使絹子姫)を呼んだが、すでに照妙姫は天上に帰ってしまい、姿を認めることができなかった。
神山彦らは嵩にかかって言霊別命に迫り、刀の柄に手をかけて詰め寄った。言霊別命は進退窮まり、母神・国世姫から授かった領巾を取り出して打ち振った。
するとたちまち絹子姫が現れた。また領巾を振ると、天女が多数現れ、神山彦らをその場に縛ってしまった。
神山彦らはようやく疑いを晴らし、言霊別命に陳謝した。しかし神山彦は、これからが肝心の談判の正念場である、と言って息巻いている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm0231
愛善世界社版:154頁
八幡書店版:第1輯 214頁
修補版:
校定版:157頁
普及版:73頁
初版:
ページ備考:
001 神山彦は決心の色をあらはし言霊別命にむかつて、
002『貴神は美しき天女のごとき妻ありと聞く、003冀はくは吾らに拝謁を許したまはずや』
004と出しぬけに申しこんだ。005言霊別命は案に相違し、
006『こは奇怪なることを承はるものかな、007わが妻は汝の知らるるごとく竜宮城にあり』
010『そは既に承知せり。011第二の妃神に面会したし。012秘くさせたまふとも、013秘くすよりあらはるるはなし。014すでに妃神のあることは竜宮城に雷のごとく響きわたれり。015命は吾らにむかつて詐言を用ゐたまふや』
016と詰問した。017命はおほいに困り、
018『吾は汝の言はるるごとく第二の妃神を持てる覚えなし。019吾高白山の戦ひに敗れ、020危機に迫れるとき、021天上より乙女の天使下りきたりて吾を救ひ、022かつ吾が身辺に侍してこれを保護せり。023常世姫はこれを伝へ聞きて、024第二の妃神と思ひ誤りしならむ。025疑はしくば今ここに天使を招き、026もつて汝の蒙を啓かむ』
027とたちまち立つて一室に入り、028『照妙姫殿、029照妙姫殿』と呼んだ。030何の返事もなく、031そこらには影だに見えぬ。032命は不思議にたへず今度は、033『乙女の天使絹子姫殿、034絹子姫殿』と名をかへて呼びかけた。035されども音沙汰も返辞もない。036命は荒熊彦に命じて乙女の行衛を厳探せしめたが、037いづこにも乙女の姿を認めることはできなかつた。
038 命は是非なく一間へ帰り、039神山彦らに向つて、
040『今まで吾が前にありし乙女はいかがなりけむ。041声のかぎり呼べど叫べど、042何の答へもなし。043城内くまなく探せどもその影さへも認めず』
044と答へた。045神山彦はニヤリと笑ひ、
046『天女のごとき妃神二柱までも、047左右に侍らせたまふ命の身の上こそ実に羨まし。048からかはずと早くわれらに会はせたまへ』
049としきりに嘲笑の色をうかべて促すのである。050命はおほいに当惑した。051ここに元照彦は戸を排して入りきたり、052密室を開きたてまつり、
053『吾は申しわけなき次第なれど、054大変事出来せり』
055と顔色をかへ進言するのであつた。056命は、
058と反問した。059元照彦は、
060『ただいま照妙姫命は白雲と化し、061月宮殿に帰りたまへり』
062といつた。063言霊別命はおほいに驚き、064思はずその場を立ち上がらむとした。065このとき神山彦は言霊別命の袂をひかへ、
066『暫く待たれよ、067その計略はもはや古し、068ふるし、069吾らはかかる奸策に誤らるる神司にあらず、070誠心誠意、071善心に立ちかへり、072もつて事実の真相を明白に述べられよ』
073と追窮ますます烈しくなつた。074真倉彦、075村雲彦、076武晴彦は一斉に立つて刀の柄に手をかけ、077満面憤怒の色をあらはし、
078『われを偽る悪神の張本、079目に物見せてくれむ』
080と三方より詰めよつた。081神山彦は声を荒らげ、
082『第二の妃神絹子姫をわが前に出せ。083第三の妃神照妙姫をこのところに現はせ。084汝は竜宮の使神を弁舌をもつて胡魔化さむとするか、085無礼者、086斬つて捨てむ』
087とこれまた刀の柄に手をかけ気色ばみて四方より迫つた。088命は進退谷まり、089いかにしてこの疑ひを晴らさむかと焦慮し、090かの国世姫より賜はりし種々物の領巾を懐中より取りいだし、091左右左に打ちふつた。092たちまち天に嚠喨たる音楽がきこえ、093乙女は閉したる戸のまま、094何の障もなく入りきたり、095言霊別命の前に平伏した。
096 ここに神山彦は、097したり顔に命にむかひ、
098『こは照妙姫にあらずや、099最早かくなる上は絹子姫も現はし、100吾らの疑ひを晴らされよ』
101と迫つた。102困りはてたる命は、103左右左に前の如くに領巾を振つた。104たちまち嚠喨たる音楽聞え、105あまたの天女その場に現はれきたつて、106四柱の手を把り踊り狂うた。107手をとられた四柱は身体たちまち強直してその場に仆れ、108ここに全く疑ひを晴らし、109重々の無礼を陳謝したのである。110真倉彦、111村雲彦は大いに弱り、
112『いかに美しき天女なりとて、113かかる強き手にて握られては、114実にたまつたものにあらず。115命はよくもかかる怪物を相手にしたまひしぞ』
116と目と目を見あはせ、117舌をまきうち驚く。118命は、
119『汝らの疑ひ全く晴れたるは相互の幸ひなり。120いざこれより遠来の労を犒はむため、121奥殿にて饗応せむ』
122と先に立つてゆかむとした。123そのとき神山彦は、
124『しばらく待たれよ。125申し上げたき仔細あり』
127『これから肝心要の正念場なり。128この返答承はりしのち饗応に預からむ』
129と四柱はともに声を揃へていきまきながらいつた。
130(大正一〇・一一・三 旧一〇・四 桜井重雄録)