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第61巻(子の巻)
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第65巻(辰の巻)
第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
第79巻(午の巻)
第80巻(未の巻)
第81巻(申の巻)
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第2巻(丑の巻)
序
凡例
総説
第1篇 神界の混乱
01 攻防両軍の配置
〔51〕
02 邪神の再来
〔52〕
03 美山彦命の出現
〔53〕
04 真澄の神鏡
〔54〕
05 黒死病の由来
〔55〕
06 モーゼとエリヤ
〔56〕
07 天地の合せ鏡
〔57〕
08 嫉視反目
〔58〕
第2篇 善悪正邪
09 タコマ山の祭典その一
〔59〕
10 タコマ山の祭典その二
〔60〕
11 狸の土舟
〔61〕
12 醜女の活躍
〔62〕
13 蜂の室屋
〔63〕
第3篇 神戦の経過
14 水星の精
〔64〕
15 山幸
〔65〕
16 梟の宵企み
〔66〕
17 佐賀姫の義死
〔67〕
18 反間苦肉の策
〔68〕
19 夢の跡
〔69〕
第4篇 常世の国
20 疑問の艶書
〔70〕
21 常世の国へ
〔71〕
22 言霊別命の奇策
〔72〕
23 竜世姫の奇智
〔73〕
24 藻脱けの殻
〔74〕
25 蒲団の隧道
〔75〕
26 信天翁
〔76〕
27 湖上の木乃伊
〔77〕
第5篇 神の慈愛
28 高白山の戦闘
〔78〕
29 乙女の天使
〔79〕
30 十曜の神旗
〔80〕
31 手痛き握手
〔81〕
32 言霊別命の帰城
〔82〕
33 焼野の雉子
〔83〕
34 義神の参加
〔84〕
35 南高山の神宝
〔85〕
36 高白山上の悲劇
〔86〕
37 長高山の悲劇
〔87〕
38 歓天喜地
〔88〕
第6篇 神霊の祭祀
39 太白星の玉
〔89〕
40 山上の神示
〔90〕
41 十六社の祭典
〔91〕
42 甲冑の起源
〔92〕
43 濡衣
〔93〕
44 魔風恋風
〔94〕
第7篇 天地の大道
45 天地の律法
〔95〕
46 天則違反
〔96〕
47 天使の降臨
〔97〕
48 律法の審議
〔98〕
49 猫の眼の玉
〔99〕
50 鋼鉄の鉾
〔100〕
附録 第一回高熊山参拝紀行歌
余白歌
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第三八章
歓天
(
くわんてん
)
喜地
(
きち
)
〔八八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第2巻 霊主体従 丑の巻
篇:
第5篇 神の慈愛
よみ(新仮名遣い):
かみのじあい
章:
第38章 歓天喜地
よみ(新仮名遣い):
かんてんきち
通し章番号:
88
口述日:
1921(大正10)年11月06日(旧10月07日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年1月27日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
清照彦は最愛の妻に死に別れ、両親を討滅することになった。荒熊彦夫妻はかろうじて逃れたが、清照彦は追撃せず、両親が無事に落ち延びて、どこかで隠棲することを願った。
しかし風の便りに、両親はローマで捉えられ、殺されたという噂を耳にした。清照彦は悲嘆のあまり自刃しようとしたが、天空から女神が現れて、しばらく隠忍するようにと諭し、必ず妻と両親に再会させよう、約束した。
清照彦は合点がいかなかったが、自分が死んでしまっては両親と妻の霊を慰める者がいなくなってしまうと、思いとどまった。
清照彦は悲哀のうちにも暮らしていたが、あるとき十曜の神旗が立った鳥船が数十も、高白山めがけて下り来た。鳥船からは言霊別命らが現れ、稚桜姫命の神使として清照彦の忠孝を賞するためにやってきたのだ、と来意を告げた。
清照彦が不審の念を抱きつつも来意を謝すると、鳥船から降ろした輿から現れたのは、父母の荒熊彦・荒熊姫、そして自害したはずの妻・末世姫であった。清照彦は思いもかけぬ親子夫婦の対面にうれし涙にくれた。
高白山は元のとおり荒熊彦夫妻が治めることになり、清照彦は長高山を治めるよう神命が下った。
末世姫は自害したと見えたが、その貞節に感じた天使によって身代わりに助けられ、ずっと言霊別命の側に仕えていたのであった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2019-11-13 16:55:12
OBC :
rm0238
愛善世界社版:
189頁
八幡書店版:
第1輯 226頁
修補版:
校定版:
193頁
普及版:
89頁
初版:
ページ備考:
001
清照彦
(
きよてるひこ
)
は
最愛
(
さいあい
)
の
妻
(
つま
)
に
死
(
し
)
に
別
(
わか
)
れ、
002
厚
(
あつ
)
くこれを
葬
(
はうむ
)
るのいとまもなく、
003
言霊別
(
ことたまわけの
)
命
(
みこと
)
の
進退
(
のつぴき
)
ならぬ
厳命
(
げんめい
)
に
接
(
せつ
)
し、
004
ただちに
高白山
(
かうはくざん
)
に
向
(
むか
)
ひ、
005
呑剣
(
どんけん
)
断腸
(
だんちやう
)
の
思
(
おも
)
ひをなして、
006
骨肉
(
こつにく
)
の
父母
(
ふぼ
)
両親
(
りやうしん
)
を
討滅
(
たうめつ
)
するのやむなき
窮境
(
きうきやう
)
にたちいたつた。
007
されど
神命
(
しんめい
)
辞
(
じ
)
するに
由
(
よし
)
なく、
008
大義
(
たいぎ
)
を
重
(
おも
)
んじ、
009
ここに
血
(
ち
)
をもつて
血
(
ち
)
を
洗
(
あら
)
ふ
悲惨
(
ひさん
)
なる
戦闘
(
せんとう
)
を
開始
(
かいし
)
した。
010
荒熊彦
(
あらくまひこ
)
、
011
荒熊姫
(
あらくまひめ
)
は
一方
(
いつぱう
)
血路
(
けつろ
)
を
開
(
ひら
)
き
辛
(
から
)
うじて
免
(
まぬが
)
るることを
得
(
え
)
た。
012
この
時
(
とき
)
清照彦
(
きよてるひこ
)
は、
013
ただちに
追撃
(
つゐげき
)
せばこれを
滅
(
ほろ
)
ぼすこと
実
(
じつ
)
に
容易
(
ようい
)
であつた。
014
されど
敵
(
てき
)
といひながら、
015
肉身
(
にくしん
)
の
情
(
じやう
)
にひかされ、
016
わざとこれを
見逃
(
みのが
)
し、
017
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
にその
影
(
かげ
)
を
拝
(
をが
)
みつつ、
018
父母
(
ふぼ
)
の
前途
(
ぜんと
)
を
気遣
(
きづか
)
ひ、
019
いづれへなりとも
両親
(
りやうしん
)
の
隠
(
かく
)
れて
安
(
やす
)
く
余生
(
よせい
)
を
送
(
おく
)
らむことを
祈願
(
きぐわん
)
した。
020
親子
(
おやこ
)
の
情
(
じやう
)
としてはさもあるべきことである。
021
荒熊彦
(
あらくまひこ
)
は、
022
散軍
(
さんぐん
)
を
集
(
あつ
)
めて
尚
(
なほ
)
も
懲
(
こ
)
りずまに
羅馬城
(
ローマじやう
)
に
進
(
すす
)
み、
023
決死
(
けつし
)
の
覚悟
(
かくご
)
をもつて
戦
(
たたか
)
ふた。
024
されど
天運
(
てんうん
)
つたなき
荒熊彦
(
あらくまひこ
)
は
力
(
ちから
)
尽
(
つ
)
き、
025
つひに
大島彦
(
おほしまひこ
)
のために
捕虜
(
ほりよ
)
となり、
026
夫婦
(
ふうふ
)
ともに
密
(
ひそか
)
に
幽閉
(
いうへい
)
され、
027
面白
(
おもしろ
)
からぬ
幾
(
いく
)
ばくかの
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
つた。
028
清照彦
(
きよてるひこ
)
は、
029
風
(
かぜ
)
の
共響
(
むたひび
)
きに
両親
(
りやうしん
)
の
羅馬
(
ローマ
)
に
敗
(
やぶ
)
れ、
030
幽閉
(
いうへい
)
され、
031
苦
(
くる
)
しみつつあることを
伝
(
つた
)
へ
聞
(
き
)
きて、
032
心
(
こころ
)
も
心
(
こころ
)
ならず、
033
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
しつつ
面白
(
おもしろ
)
からぬ
月日
(
つきひ
)
を
淋
(
さび
)
しく
送
(
おく
)
つてゐた。
034
清照彦
(
きよてるひこ
)
は
忠義
(
ちうぎ
)
に
篤
(
あつ
)
く、
035
孝道
(
かうどう
)
深
(
ふか
)
き
神司
(
かみ
)
なれば、
036
その
心中
(
しんちゆう
)
の
煩悶
(
はんもん
)
は
一入
(
ひとしほ
)
察
(
さつ
)
するに
余
(
あま
)
りありといふべし。
037
清照彦
(
きよてるひこ
)
は
雨
(
あめ
)
の
朝
(
あした
)
風
(
かぜ
)
の
夕
(
ゆうべ
)
に
空
(
そら
)
を
仰
(
あふ
)
いで
吐息
(
といき
)
を
漏
(
も
)
らし、
038
われ
両親
(
りやうしん
)
の
憂目
(
うきめ
)
を
見
(
み
)
ながら
坐視
(
ざし
)
するに
忍
(
しの
)
びず、
039
これを
救
(
すく
)
はむとすれば
主命
(
しゆめい
)
に
背
(
そむ
)
き、
040
大逆
(
たいぎやく
)
の
罪
(
つみ
)
を
重
(
かさ
)
ぬるにいたるべし。
041
あゝ
両親
(
りやうしん
)
といひ
妻
(
つま
)
といひ、
042
今
(
いま
)
は
或
(
ある
)
ひは
幽界
(
いうかい
)
に、
043
あるひは
敵城
(
てきじやう
)
に
囚
(
とら
)
はれ、
044
子
(
こ
)
たるもの
如何
(
いか
)
に
心
(
こころ
)
を
鬼畜
(
きちく
)
に
持
(
ぢ
)
すとも
忍
(
しの
)
び
難
(
がた
)
し、
045
いつそ
自刃
(
じじん
)
を
遂
(
と
)
げ、
046
もつて
忠孝
(
ちうかう
)
の
大義
(
たいぎ
)
を
全
(
まつた
)
うせむ、
047
と
決心
(
けつしん
)
せる
折
(
をり
)
しも、
048
また
飛報
(
ひはう
)
あり、
049
『
荒熊彦
(
あらくまひこ
)
夫妻
(
ふさい
)
は、
050
羅馬
(
ローマ
)
において
大島彦
(
おほしまひこ
)
のために
殺
(
ころ
)
されたり』
051
と。
052
これを
聞
(
き
)
きたる
清照彦
(
きよてるひこ
)
は
矢
(
や
)
も
楯
(
たて
)
もたまらず、
053
吾
(
われ
)
は
山海
(
さんかい
)
の
洪恩
(
こうおん
)
ある
恋
(
こひ
)
しき
両親
(
りやうしん
)
に
別
(
わか
)
れ
妻
(
つま
)
に
別
(
わか
)
れ、
054
生
(
い
)
きて
何
(
なん
)
の
楽
(
たの
)
しみもなし、
055
自刃
(
じじん
)
するはこの
時
(
とき
)
なりと、
056
天
(
てん
)
に
向
(
むか
)
つて
吾身
(
わがみ
)
の
不遇
(
ふぐう
)
を
歎
(
なげ
)
き
号泣
(
がうきふ
)
し、
057
短刀
(
たんたう
)
を
逆手
(
さかて
)
に
持
(
も
)
ち
双肌
(
もろはだ
)
脱
(
ぬ
)
いで
覚悟
(
かくご
)
をきはむるをりしも、
058
天空
(
てんくう
)
より
光
(
ひかり
)
強
(
つよ
)
き
宝玉
(
ほうぎよく
)
眼前
(
がんぜん
)
に
落下
(
らくか
)
するよと
見
(
み
)
えしが、
059
たちまちその
光玉
(
くわうぎよく
)
破裂
(
はれつ
)
して、
060
中
(
なか
)
より
麗
(
うるは
)
しく
優
(
やさ
)
しき
女神
(
めがみ
)
現
(
あら
)
はれたまひ、
061
『
吾
(
われ
)
は
天極
(
てんきよく
)
紫微宮
(
しびきう
)
より
来
(
きた
)
れる
天使
(
てんし
)
なり。
062
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
は
汝
(
なんぢ
)
が
忠孝
(
ちうかう
)
両全
(
りやうぜん
)
の
至誠
(
しせい
)
を
憐
(
あはれ
)
みたまひ、
063
ここに
汝
(
なんぢ
)
を
救
(
すく
)
ふべく
吾
(
われ
)
を
降
(
くだ
)
したまへり。
064
汝
(
なんぢ
)
しばらく
隠忍
(
いんにん
)
して
時
(
とき
)
を
待
(
ま
)
て、
065
汝
(
なんぢ
)
がもつとも
敬愛
(
けいあい
)
する
両親
(
りやうしん
)
および
妻
(
つま
)
に
再会
(
さいくわい
)
せしめむ。
066
夢
(
ゆめ
)
疑
(
うたが
)
ふなかれ』
067
との
言葉
(
ことば
)
を
残
(
のこ
)
して、
068
再
(
ふたた
)
び
鮮光
(
せんくわう
)
まばゆき
玉
(
たま
)
と
化
(
な
)
り
天上
(
てんじやう
)
にその
影
(
かげ
)
を
隠
(
かく
)
した。
069
後
(
あと
)
に
清照彦
(
きよてるひこ
)
は
夢
(
ゆめ
)
に
夢見
(
ゆめみ
)
る
心地
(
ここち
)
して、
070
合点
(
がつてん
)
のゆかぬ
今
(
いま
)
の
天女
(
てんによ
)
の
言葉
(
ことば
)
、
071
われは
憂苦
(
いうく
)
のあまり
遂
(
つひ
)
に
狂
(
きやう
)
せるには
非
(
あら
)
ざるか。
072
あるひは
父母
(
ふぼ
)
、
073
妻
(
つま
)
を
思
(
おも
)
ふのあまり、
074
一念
(
いちねん
)
凝
(
こ
)
つて
幻影
(
げんえい
)
を
認
(
みと
)
めしに
非
(
あら
)
ずやと、
075
みづから
疑
(
うたが
)
ふのであつた。
076
されどどこやら
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
に、
077
一道
(
いちだう
)
の
光明
(
くわうみやう
)
が
輝
(
かがや
)
くのを
認
(
みと
)
めた。
078
何
(
なに
)
はともあれ、
079
吾
(
われ
)
ここに
自刃
(
じじん
)
せば、
080
たれか
両親
(
りやうしん
)
および
妻
(
つま
)
の
霊
(
れい
)
を
慰
(
なぐさ
)
むるものあらむ、
081
と
心
(
こころ
)
を
取
(
と
)
り
直
(
なほ
)
し、
082
時節
(
じせつ
)
を
覚束
(
おぼつか
)
なくも
待
(
ま
)
つことに
決心
(
けつしん
)
した。
083
待
(
ま
)
つこと
幾星霜
(
いくせいさう
)
、
084
山
(
やま
)
は
緑
(
みどり
)
に
包
(
つつ
)
まれ、
085
諸々
(
もろもろ
)
の
鳥
(
とり
)
は
春
(
はる
)
を
謳
(
うた
)
ひ、
086
麗
(
うるは
)
しき
花
(
はな
)
は
芳香
(
はうかう
)
を
放
(
はな
)
ち、
087
所狭
(
ところせま
)
きまで
咲
(
さ
)
き
満
(
み
)
ち、
088
神司
(
かみがみ
)
はその
光景
(
くわうけい
)
を
見
(
み
)
て
喜
(
よろこ
)
び
勇
(
いさ
)
み、
089
あたかも
天国
(
てんごく
)
の
春
(
はる
)
に
遇
(
あ
)
へるがごとく
舞
(
ま
)
ひ
狂
(
くる
)
うてゐた。
090
されど
清照彦
(
きよてるひこ
)
の
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
はますます
曇
(
くも
)
り、
091
花
(
はな
)
は
咲
(
さ
)
けども、
092
鳥
(
とり
)
は
歌
(
うた
)
へども、
093
諸神司
(
しよしん
)
は
勇
(
いさ
)
み
遊
(
あそ
)
べども、
094
自分
(
じぶん
)
に
取
(
と
)
つては
見
(
み
)
るもの
聞
(
き
)
くもの、
095
すべてが
吾
(
われ
)
を
呪
(
のろ
)
ふもののごとく、
096
悲哀
(
ひあい
)
の
涙
(
なみだ
)
はかはく
術
(
すべ
)
なく、
097
日
(
ひ
)
に
夜
(
よ
)
に
憂愁
(
いうしう
)
の
念
(
ねん
)
は
増
(
ま
)
すばかりであつた。
098
清照彦
(
きよてるひこ
)
は
天
(
てん
)
の
一方
(
いつぱう
)
を
眺
(
なが
)
め、
099
長大
(
ちやうだい
)
歎息
(
たんそく
)
を
漏
(
も
)
らす
折
(
をり
)
しも、
100
天空
(
てんくう
)
高
(
たか
)
く
数十
(
すうじふ
)
の
鳥船
(
とりふね
)
は
翼
(
つばさ
)
を
連
(
つら
)
ね
高白山
(
かうはくざん
)
めがけて
降
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
るあり、
101
いづれの
鳥船
(
とりふね
)
にもみな
十曜
(
とえう
)
の
神旗
(
しんき
)
が
立
(
た
)
てられてあつた。
102
清照彦
(
きよてるひこ
)
は、
103
かかる
歎
(
なげ
)
きの
際
(
さい
)
、
104
又
(
また
)
もや
竜宮城
(
りゆうぐうじやう
)
よりいかなる
厳命
(
げんめい
)
の
下
(
くだ
)
りしならむかと、
105
心
(
こころ
)
を
千々
(
ちぢ
)
に
砕
(
くだ
)
きつつ
重
(
おも
)
き
頭
(
かしら
)
を
痛
(
いた
)
めた。
106
鳥船
(
とりふね
)
はたちまち
清照彦
(
きよてるひこ
)
の
面前
(
めんぜん
)
近
(
ちか
)
く
下
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
りて、
107
内
(
うち
)
より
言霊別
(
ことたまわけの
)
命
(
みこと
)
、
108
元照彦
(
もとてるひこ
)
、
109
梅若彦
(
うめわかひこ
)
は
英気
(
えいき
)
に
満
(
み
)
ちたる
顔色
(
がんしよく
)
にて
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
110
言霊別
(
ことたまわけの
)
命
(
みこと
)
は
第一
(
だいいち
)
に
進
(
すす
)
んで
清照彦
(
きよてるひこ
)
にむかひ
慇懃
(
いんぎん
)
に
礼
(
れい
)
を
述
(
の
)
べ、
111
かつ
容
(
かたち
)
を
改
(
あらた
)
め
正座
(
しやうざ
)
に
直
(
なほ
)
り、
112
『われ
今
(
いま
)
、
113
稚桜姫
(
わかざくらひめの
)
命
(
みこと
)
の
神使
(
しんし
)
として、
114
当城
(
たうじやう
)
に
来
(
きた
)
りし
理由
(
りいう
)
は、
115
汝
(
なんぢ
)
に
賞賜
(
しやうし
)
のためなり』
116
と
云
(
い
)
ひをはつて、
117
数多
(
あまた
)
の
従臣
(
じゆうしん
)
に
命
(
めい
)
じ
善美
(
ぜんび
)
を
尽
(
つく
)
した
御輿
(
みこし
)
を
鳥船
(
とりふね
)
よりかつぎおろさしめ、
118
清照彦
(
きよてるひこ
)
の
前
(
まへ
)
に
据
(
す
)
ゑ、
119
『
汝
(
なんぢ
)
は
忠孝
(
ちうかう
)
を
全
(
まつた
)
うし、
120
かつ
至誠
(
しせい
)
をよく
天地
(
てんち
)
に
貫徹
(
くわんてつ
)
したり。
121
国治立
(
くにはるたち
)
の
大神
(
おほかみ
)
は
深
(
ふか
)
くこれを
嘉
(
よみ
)
して
汝
(
なんぢ
)
に
珍宝
(
ちんぽう
)
を
授与
(
じゆよ
)
し
賜
(
たま
)
ひたり。
122
謹
(
つつし
)
んで
拝受
(
はいじゆ
)
されよ』
123
と
莞爾
(
くわんじ
)
として
控
(
ひか
)
へてをられた。
124
清照彦
(
きよてるひこ
)
は
不審
(
ふしん
)
の
念
(
ねん
)
ますます
晴
(
は
)
れず、
125
とも
角
(
かく
)
もその
厚意
(
こうい
)
を
感謝
(
かんしや
)
した。
126
前方
(
ぜんぱう
)
の
輿
(
こし
)
よりは
顔色
(
がんしよく
)
美
(
うるは
)
しく
勇気
(
ゆうき
)
凛々
(
りんりん
)
たる
男神
(
をとこがみ
)
が
現
(
あら
)
はれた。
127
つらつら
見
(
み
)
れば
思
(
おも
)
ひがけなきわが
父
(
ちち
)
荒熊彦
(
あらくまひこ
)
であつた。
128
第二
(
だいに
)
の
輿
(
こし
)
を
開
(
ひら
)
いて
母
(
はは
)
の
荒熊姫
(
あらくまひめ
)
が
現
(
あら
)
はれた。
129
第三
(
だいさん
)
の
輿
(
こし
)
よりは
自殺
(
じさつ
)
せしと
思
(
おも
)
ひし
最愛
(
さいあい
)
の
妻
(
つま
)
末世姫
(
すゑよひめ
)
が
現
(
あら
)
はれ、
130
ただちに
清照彦
(
きよてるひこ
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つてうれし
泣
(
な
)
きに
泣
(
な
)
く。
131
清照彦
(
きよてるひこ
)
は
夢
(
ゆめ
)
に
夢見
(
ゆめみ
)
る
心地
(
ここち
)
して
何
(
なん
)
と
言葉
(
ことば
)
も
泣
(
な
)
くばかり、
132
ここに
四
(
よ
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に
声
(
こゑ
)
を
放
(
はな
)
つて
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
に
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
した。
133
親子
(
おやこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
目出
(
めで
)
たき
対面
(
たいめん
)
に、
134
高白山
(
かうはくざん
)
の
木
(
き
)
も
草
(
くさ
)
も
空
(
そら
)
の
景色
(
けしき
)
も、
135
一入
(
ひとしほ
)
光
(
ひかり
)
を
添
(
そ
)
へるやうであつた。
136
ここに
言霊別
(
ことたまわけの
)
命
(
みこと
)
は
懐中
(
くわいちゆう
)
より
一書
(
いつしよ
)
を
取出
(
とりだ
)
し、
137
声
(
こゑ
)
も
涼
(
すず
)
しく
神文
(
しんもん
)
を
読
(
よ
)
み
聞
(
き
)
かした。
138
その
意味
(
いみ
)
は、
139
『
長高山
(
ちやうかうざん
)
は
汝
(
なんぢ
)
荒熊彦
(
あらくまひこ
)
、
140
荒熊姫
(
あらくまひめ
)
これを
主宰
(
しゆさい
)
せよ。
141
また
高白山
(
かうはくざん
)
は
清照彦
(
きよてるひこ
)
永遠
(
ゑいゑん
)
にこれを
主宰
(
しゆさい
)
せよ』
142
との
神勅
(
しんちよく
)
である。
143
附記
144
末世姫
(
すゑよひめ
)
は
長高山
(
ちやうかうざん
)
の
城中
(
じやうちう
)
において
自刃
(
じじん
)
せむとしたるとき、
145
たちまちその
貞節
(
ていせつ
)
に
感
(
かん
)
じ、
146
天使
(
てんし
)
来
(
きた
)
りて
身代
(
みがは
)
りとなり、
147
末世姫
(
すゑよひめ
)
は
無事
(
ぶじ
)
に
言霊別
(
ことたまわけの
)
命
(
みこと
)
の
傍
(
そば
)
近
(
ちか
)
く
仕
(
つか
)
へてゐた。
148
(
大正一〇・一一・六
旧一〇・七
加藤明子
録)
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