第三七章 長高山の悲劇〔八七〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第2巻 霊主体従 丑の巻
篇:第5篇 神の慈愛
よみ(新仮名遣い):かみのじあい
章:第37章 長高山の悲劇
よみ(新仮名遣い):ちょうこうざんのひげき
通し章番号:87
口述日:1921(大正10)年11月04日(旧10月05日)
口述場所:
筆録者:谷口正治
校正日:
校正場所:
初版発行日:1922(大正11)年1月27日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:長高山の清照彦は帰還した使者から、常世姫の圧迫のため、荒熊彦夫妻は竜宮城への敵対を決めた、と聞いて落胆した。しかし決心を固めると翻然として神軍を召集し、高白山出陣の命を下した。
清照彦は一室で、父母を討たねばならない不孝を嘆いていたが、妻の末世姫がやってきて、ここは中立を守って忠と孝の両方を全うするように、と諭した。しかし清照彦は、いったん決めたことを翻すわけにはいかないとして、末世姫の忠告を聞かなかった。
末世姫は一室に入ると自害して果てた。これを見た清照彦は自らも自害しようとしたが、元照彦にとどめられて戒められた。
ときしも、竜宮城からの使いがあり、荒熊彦夫妻討伐の命が下った。言霊別命の真意は、清照彦をして荒熊彦夫妻を改心せしめようとのことであったが、清照彦は大義名分を重んじて、父母と一戦交えることになってしまった。
高白山では、常世姫軍の高虎彦の部下に大虎別という忠勇の神があり、荒熊彦夫妻の悪事を諌めて降伏を勧めたが、荒熊彦は聞かなかった。大虎別は自害して果てた。
やがて清照彦率いる長高山の神軍が高白山に押し寄せ、戦闘の末常世姫軍は敗退し、荒熊彦夫妻はローマ方面に遁走した。清照彦は高白山に入城し、アラスカ全土を安堵した。
後に清照彦は言霊別命の命によりこの地をよく守り、シオン山の戦闘にも加わらず、アラスカは平和に治まった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm0237
愛善世界社版:183頁
八幡書店版:第1輯 224頁
修補版:
校定版:187頁
普及版:87頁
初版:
ページ備考:
001 長高山の城塞には清照彦、002末世姫、003元照彦とともに、004高白山に遣はしたる使者の帰還を待つてゐた。005そこへ第一、006第二の使者は天空をかすめて一度に帰つてきた。
007 様子いかにと待ちかまへたる清照彦は、008ただちに使者を居間に通した。009使者は荒熊彦夫妻の反逆心ますます強く、010かつ常世姫の圧迫はげしく、011駒山彦は容易に従はず、012やむを得ず、013言霊別命に反抗を継続するの決心確なりと報告した。
014 清照彦はしばし黙然として頭を垂れ、015吐息をつき思案にくれた態であつた。016末世姫の顔には憂ひの雲が漂うた。
017 やがて清照彦は翻然としてたち上り、018部下の部将を集めて、
019『吾らの強敵は高白山にあり。020早く出陣の用意に取りかかれ』
021と命令を発した。022数多の部将は時を移さず群臣を集め、023部署を定め、024命令一下せばたちまち出発せむと、025数万の鳥船を用意した。026清照彦は一室に入つて独語した。
027『あゝ天なる哉。028吾父母を救ひたる恩神にたいし、029背かばこれ天の道に非ず。030さりとて又、031山海の鴻恩ある父母を討たむか、032これまた天の理に反くものなり。033されど大義は炳然として日月の如し。034あゝ、035鴻恩ある父よ、036母よ、037吾不孝の罪を赦したまへ』
038かく言ひて涙に暮るるをりしも、039最前より様子を窺ひゐたる末世姫は、040あわただしく入り来つて、041清照彦の袖をひかへ、
042『夫神、043かくまで決心したまひし以上は、044妾はいかにとどめ奉らむとするも、045とどまりたまはざるべし。046されど、047父の恩は山より高く、048母の恩は海より深しと聞く。049いかに大義を重んずればとて、050現在骨肉の父母を殺したまふは、051いかに時世時節とは申しながら悲惨のきはみなり。052希はくはわが夫よ、053今日の場合は厳正なる中立を守り、054もつて忠孝両全の策を建てさせ給へ』
055かく言つて末世姫は掻き口説くのである。056このとき清照彦、057慨然として立ち上り、
058『一旦、059男子の身として決心の臍を固めたる以上は、060善悪正邪は兎も角、061初志を貫徹せざれば止まず。062女子の喧しく邪魔ひろぐな』
063と云ひも終らず、064袖ふり払ひ、065今や出陣の用意にかからむとした。066末世姫はただちに一室に入り、067懐剣を逆手にもち、068咽喉を掻き切つてその場にうち倒れた。069清照彦は怪しき物音にうち驚き、070一室に走り入り見れば、071こはそも如何に、072末世姫は朱に染り、073悶え苦しみつつあつた。
074 清照彦はこの有様を見て何思ひけむ、075たちまち大刀を抜き放ち、076双肌を脱ぎ、077しばらくこれを打ち眺めてありしが、078たちまち決心の色をあらはすとともに、079刀を逆手に持ち、080左腹部よりこれを突き切らむとする一刹那、081元照彦は差し足抜き足しのび寄り、082その大刀をもぎとり声をはげまして、083その不覚を戒しめた。
084 時しも天空とどろきわたり、085天の磐船に乗りて降りきたる神司があつた。086これは竜宮城より派遣されたる梅若彦である。087ただちに案内もなくツカツカと奥殿に入りきたり、088清照彦に大神の命を伝へむとした。
089 清照彦は使者の来臨に驚き、090ただちに容をあらため、091襟を正し、092梅若彦を正座に直し、093自らは遠く引下つてその旨を承はらむことを申し上げた。
094 梅若彦は懐中より恭しく一書を取出し、095これを頭上に捧げ披いてその文面を読み伝へた。096その文意は、
097『荒熊彦、098荒熊姫、099駒山彦ら、100常世姫に内通し、101高白山を根拠とし、102つひに竜宮城を占領せむとす。103汝は元照彦に長高山を守らしめ、104みづから神軍を率ゐて高白山を攻め、105彼ら魔軍を剿滅せよ』
106との厳命である。107しかし言霊別命は大慈大仁の神なれば、108決して内心清照彦をして父母の両親を討たしめむの心なし、109ただ清照彦をして父母両親を悔い改めしめ、110最愛の児の手より救はしめむとの神慮であつた。111清照彦は深き神慮を知らず大義名分を重んじ、112つひに父母両神を涙を振つて攻撃した。113すなはち清照彦の心中は熱鉄をのむよりも苦しかつた。114されど大命は黙しがたく謹んで拝命の旨を答へた。
115 梅若彦は吾が使命の遂げられたるを喜び、
116『時あつて親子兄弟となり主従となり、117互ひに相争ふも天の命ならむ。118御心中察し入る』
119と温かき一言を残して再び磐船に乗り、120蒼空高く竜宮城さして帰還した。
121 ここに、122高白山の城塞には、123高虎彦の部下に大虎別といふ忠勇にして誠実なる神があつた。124この神は常に荒熊彦の悪事を嘆き、125いかにもして悔改めしめむと、126陰に陽に全力をつくして注意したのである。127今しも荒熊彦夫妻のあくまで神軍に対抗せむとする状を聞き、128その場にあらはれ種々の道理を説き、129涙を流して諫言した。130されど、131荒熊彦は容易に肯かむとする気色がなかつた。
133『吾かくの如く主の耳に逆らひ奉るは、134主および天下の大事を思へばなり。135かくなる上は到底吾が力の及ぶべくもあらず。136さらば』
137といふより早く懐剣をとり出し、138手早く双肌を脱ぎ、139腹を掻ききり、140咽喉を突刺し、141その場に繹切れた。
142 荒熊彦は冷笑の眼をもつてこれを眺めてゐた。143たちまち西北の天より数万の神軍天の鳥船にうち乗り、144高白山の上空高く押寄せきたり、145空中より火弾を投下した。146ために駒山彦は戦死し、147荒熊彦夫妻は天の磐船に乗り、148ローマを指して一目散に遁走した。149この神軍はいふまでもなく清照彦の率ゐるものであつた。
150 陥落したる高白山は清照彦代つてこれを守り、151アラスカ全土はきはめて平和に治まつた。152さうして長高山は元照彦これを守り、153その地方一帯はこれまた平安によく治まつてゐた。154後に清照彦はシオン山の戦闘に加はらず、155ここに割拠し、156言霊別命の了解をえて堅く守つた。
157(大正一〇・一一・四 旧一〇・五 谷口正治録)