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第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第78巻(巳の巻)
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第7巻(午の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 大台ケ原
01 日出山上
〔301〕
02 三神司邂逅
〔302〕
03 白竜
〔303〕
04 石土毘古
〔304〕
05 日出ケ嶽
〔305〕
06 空威張
〔306〕
07 山火事
〔307〕
第2篇 白雪郷
08 羽衣の松
〔308〕
09 弱腰男
〔309〕
10 附合信神
〔310〕
11 助け船
〔311〕
12 熟々尽
〔312〕
第3篇 太平洋
13 美代の浜
〔313〕
14 怒濤澎湃
〔314〕
15 船幽霊
〔315〕
16 釣魚の悲
〔316〕
17 亀の背
〔317〕
第4篇 鬼門より竜宮へ
18 海原の宮
〔318〕
19 無心の船
〔319〕
20 副守飛出
〔320〕
21 飲めぬ酒
〔321〕
22 竜宮の宝
〔322〕
23 色良い男
〔323〕
第5篇 亜弗利加
24 筑紫上陸
〔324〕
25 建日別
〔325〕
26 アオウエイ
〔326〕
27 蓄音器
〔327〕
28 不思議の窟
〔328〕
第6篇 肥の国へ
29 山上の眺
〔329〕
30 天狗の親玉
〔330〕
31 虎転別
〔331〕
32 水晶玉
〔332〕
第7篇 日出神
33 回顧
〔333〕
34 時の氏神
〔334〕
35 木像に説教
〔335〕
36 豊日別
〔336〕
37 老利留油
〔337〕
38 雲天焼
〔338〕
39 駱駝隊
〔339〕
第8篇 一身四面
40 三人奇遇
〔340〕
41 枯木の花
〔341〕
42 分水嶺
〔342〕
43 神の国
〔343〕
44 福辺面
〔344〕
45 酒魂
〔345〕
46 白日別
〔346〕
47 鯉の一跳
〔347〕
第9篇 小波丸
48 悲喜交々
〔348〕
49 乗り直せ
〔349〕
50 三五〇
〔350〕
附録 第三回高熊山参拝紀行歌
余白歌
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第七章
山火事
(
やまくわじ
)
〔三〇七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
篇:
第1篇 大台ケ原
よみ(新仮名遣い):
おおだいがはら
章:
第7章 山火事
よみ(新仮名遣い):
やまかじ
通し章番号:
307
口述日:
1922(大正11)年01月30日(旧01月03日)
口述場所:
筆録者:
高木鉄男
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年5月31日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
日の出神ら三神は、腰を抜かして泣き叫ぶ豆寅を置いて、宣伝歌を歌いながらどんどんと先へ進んでいってしまった。
闇の中で、豆寅をからかう歌声が聞こえ始めた。豆寅は聞き覚えのある声に呼ばわった。田依彦は火打ちを取り出して枯れ枝に火をつけると、ようやく一同の顔が現れた。
しかし折からの烈風に火は燃え広がり、全山を焼き尽くすほどに勢いになってしまった。日の出神一行はこの山火事に驚いて引き返してきた。
このとき、山上を登ってきたのは、黄金山の三五教の宣伝使・国彦の三男・梅ケ香彦であった。梅ケ香彦は、満身の力を込めて伊吹戸主神に祈願をこらし、燃え広がる火に向かって息を吹きかけた。風はたちまち方向を転じて、ぴったりと消えうせた。
夜が明けると、山の八合目以下は全部灰の山になってしまっていることがわかった。焼き出された山麓の住人たちは田依彦たちを見つけて取り囲み、犯人を火あぶりの刑に処すると宣言した。
豆寅や田依彦たちが住人たちに責められているところへ、日の出神一行が戻ってきた。日の出神は、豆寅たちを山麓の酋長に預けて、焼けうせた人々の家を再建させた。豆寅は久々能智と名を与えられた。
そして、梅ケ香彦の功労を賞して、風木津別之忍男と名を与えた。日の出神、大戸日別、天吹男、風木津別之忍男の四柱は山を下り海を渡り、そこで別れて東西南北にいずこともなく宣伝使として進んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-05-01 16:23:05
OBC :
rm0707
愛善世界社版:
39頁
八幡書店版:
第2輯 50頁
修補版:
校定版:
42頁
普及版:
17頁
初版:
ページ備考:
001
このとき
暗中
(
あんちう
)
に
声
(
こゑ
)
あり、
002
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
003
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわけ
)
る
004
身魂
(
みたま
)
を
磨
(
みが
)
けよ
立替
(
たてか
)
へよ
005
身
(
み
)
の
行状
(
をこなひ
)
を
立直
(
たてなほ
)
せ
006
この
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
007
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
008
ただ
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
009
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
せ
聞直
(
ききなほ
)
せ
010
身
(
み
)
の
過
(
あやまち
)
は
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ』
011
と
歌
(
うた
)
ひながら
豆寅
(
まめとら
)
に
構
(
かま
)
はず、
012
ドシドシ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
013
豆寅
(
まめとら
)
は、
014
『モシモシ
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
、
015
大戸日別
(
おほとびわけ
)
様
(
さま
)
、
016
天吹男
(
あまのふきを
)
様
(
さま
)
、
017
しばらく
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さいナ。
018
腰
(
こし
)
が
抜
(
ぬ
)
けました、
019
頭
(
あたま
)
を
割
(
わ
)
られました。
020
助
(
たす
)
けて
助
(
たす
)
けて』
021
と
呶鳴
(
どな
)
りゐる。
022
宣伝使
(
せんでんし
)
の
声
(
こゑ
)
はだんだん
遠
(
とほ
)
くなり
行
(
ゆ
)
くのみなりき。
023
『
豆寅
(
まめとら
)
奴
(
やつこ
)
が
家
(
うち
)
を
出
(
で
)
て
024
草香
(
くさか
)
の
姫
(
ひめ
)
は
喜
(
よろこ
)
ンで
025
嬶
(
かか
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
026
御
(
お
)
膳
(
ぜん
)
を
据
(
す
)
ゑて
玉彦
(
たまひこ
)
に
027
目玉
(
めだま
)
を
剥
(
む
)
いて
立替
(
たてか
)
へよ
028
身
(
み
)
の
行
(
おこな
)
ひはさつぱりと
029
善
(
ぜん
)
から
悪
(
あく
)
に
立替
(
たてか
)
へた
030
この
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
つた
肝心
(
かんじん
)
の
031
目玉
(
めだま
)
も
光
(
ひか
)
る
鬼神
(
おにがみ
)
は
032
夜
(
よる
)
でも
光
(
ひか
)
る
豆寅
(
まめとら
)
の
033
頭
(
あたま
)
を
ぴつしやり
と
打叩
(
うちたた
)
き
034
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
さつ
さつと
035
跡白浪
(
あとしらなみ
)
と
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く
036
なにほど
頭
(
あたま
)
は
光
(
ひか
)
つても
037
心
(
こころ
)
は
暗
(
やみ
)
の
豆狸
(
まめだぬき
)
038
狐狸
(
きつねたぬき
)
に
魅
(
つま
)
まれて
039
巌窟
(
いはや
)
の
内
(
うち
)
へと
引込
(
ひきこ
)
まれ
040
目
(
め
)
から
火
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が
出
(
で
)
て
041
暗
(
やみ
)
に
倒
(
たふ
)
れた
腰抜
(
こしぬ
)
けよ』
042
と
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
したる
者
(
もの
)
あり。
043
豆寅
(
まめとら
)
はその
声
(
こゑ
)
に
何処
(
どこ
)
ともなく
聞
(
き
)
き
覚
(
おぼ
)
えがあるので、
044
『やい、
045
暗
(
くら
)
がりに
俺
(
おれ
)
の
頭
(
あたま
)
を
しばき
よつて、
046
目
(
め
)
から
火
(
ひ
)
を
出
(
だ
)
させよつて、
047
びつくりさして
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かさした
奴
(
やつ
)
は
誰
(
たれ
)
だい』
048
と
呼
(
よ
)
べば、
049
暗
(
くらがり
)
から、
050
『
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かしたのは、
051
豆寅
(
まめとら
)
ぢやないか』
052
と
叫
(
さけ
)
ぶ
者
(
もの
)
あり。
053
豆寅
(
まめとら
)
は
大地
(
だいち
)
に
へたばり
ながら、
054
『
何
(
なん
)
だか
聞
(
き
)
き
覚
(
おぼ
)
えのある
声
(
こゑ
)
の
様
(
やう
)
だが、
055
俺
(
おれ
)
の
嬶
(
かかあ
)
が、
056
玉彦
(
たまひこ
)
の
奴
(
やつ
)
に
御
(
お
)
膳
(
ぜん
)
を
据
(
す
)
ゑたとか
云
(
い
)
うたなあ』
057
『
善
(
ぜん
)
は
急
(
いそ
)
げぢや、
058
善因
(
ぜんいん
)
善果
(
ぜんぐわ
)
、
059
悪
(
あく
)
が
変
(
へん
)
じて
善
(
ぜん
)
となり
善
(
ぜん
)
が
変
(
へん
)
じて
悪
(
あく
)
となる。
060
どちらも
玉
(
たま
)
の
磨
(
みが
)
き
合
(
あ
)
ひの
玉彦
(
たまひこ
)
さまだぞ』
061
時彦
(
ときひこ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
ツ』
062
玉彦
(
たまひこ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
つて
何
(
な
)
ンだ。
063
玉奪
(
たまと
)
られ
奴
(
め
)
が』
064
時彦
(
ときひこ
)
『
玉取
(
たまと
)
られとは
貴様
(
きさま
)
のことぢや、
065
嬶取
(
かかあと
)
り
奴
(
め
)
が。
066
貴様
(
きさま
)
の
嬶
(
かかあ
)
に
密告
(
みつこく
)
しようか』
067
玉彦
(
たまひこ
)
『まあ
待
(
ま
)
て、
068
同
(
おな
)
じ
穴
(
あな
)
の
狐
(
きつね
)
、
069
貴様
(
きさま
)
も
密告
(
みつこく
)
するぞ』
070
田依彦
(
たよりひこ
)
は
火打袋
(
ひうちぶくろ
)
より
火打石
(
ひうちいし
)
火口
(
ほくち
)
を
取出
(
とりだ
)
し、
071
かちかち
と
打
(
うち
)
はじめ
傍
(
かたはら
)
の
木
(
き
)
の
葉
(
は
)
枯枝
(
かれえだ
)
を
暗
(
くら
)
がりに
掻
(
か
)
き
集
(
あつ
)
めながら
火
(
ひ
)
を
点
(
つ
)
けたれば、
072
火
(
ひ
)
は
炎々
(
えんえん
)
として
燃
(
も
)
え
上
(
あが
)
り
一同
(
いちどう
)
の
顔
(
かほ
)
は
始
(
はじ
)
めて
明
(
あか
)
るくなりし。
073
折
(
をり
)
からの
烈風
(
れつぷう
)
に
煽
(
あふ
)
られて、
074
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
火
(
ひ
)
は
四方
(
しはう
)
に
燃
(
も
)
えひろがり、
075
轟々
(
ぐわうぐわう
)
と
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
てて
忽
(
たちま
)
ち
四辺
(
あたり
)
は
昼
(
ひる
)
のごとく
明
(
あか
)
くなりぬ。
076
火
(
ひ
)
は
次第
(
しだい
)
に
燃
(
も
)
え
拡
(
ひろ
)
がり、
077
全山
(
ぜんざん
)
を
殆
(
ほとん
)
ど
焼
(
や
)
き
尽
(
つく
)
さむ
勢
(
いきほひ
)
となり
来
(
き
)
たりたれば、
078
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
一行
(
いつかう
)
はにはかに
四辺
(
あたり
)
の
明
(
あか
)
くなりしに
驚
(
おどろ
)
き、
079
後
(
あと
)
振返
(
ふりかへ
)
り
見
(
み
)
れば、
080
全山
(
ぜんざん
)
ほとんど
火
(
ひ
)
の
山
(
やま
)
と
化
(
くわ
)
しゐる。
081
三柱
(
みはしら
)
は
石土
(
いはつち
)
毘古
(
びこ
)
、
082
石巣
(
いはす
)
比売
(
ひめ
)
の
消息
(
せうそく
)
を
気遣
(
きづか
)
ひ、
083
一目散
(
いちもくさん
)
に
後
(
あと
)
に
引返
(
ひきかへ
)
し、
084
急
(
いそ
)
いで
山
(
やま
)
を
登
(
のぼ
)
り
来
(
き
)
たりぬ。
085
このとき
山上
(
さんじやう
)
目
(
め
)
がけて
登
(
のぼ
)
りくる
宣伝使
(
せんでんし
)
ありき。
086
此
(
こ
)
は
黄金山
(
わうごんざん
)
の
三五教
(
あななひけう
)
を
天下
(
てんか
)
に
宣伝
(
せんでん
)
する、
087
国彦
(
くにひこ
)
の
三男
(
さんなん
)
梅ケ香彦
(
うめがかひこ
)
なりき。
088
全山
(
ぜんざん
)
ほとんど
焼
(
や
)
きつくして
已
(
すで
)
に
立岩
(
たちいは
)
の
麓
(
ふもと
)
に
燃
(
も
)
え
移
(
うつ
)
らむとする
時
(
とき
)
しも、
089
梅ケ香彦
(
うめがかひこ
)
は
満身
(
まんしん
)
の
力
(
ちから
)
を
籠
(
こ
)
め、
090
伊吹戸主
(
いぶきどぬしの
)
神
(
かみ
)
に
祈願
(
きぐわん
)
を
凝
(
こ
)
らし、
091
燃
(
も
)
え
拡
(
ひろ
)
がる
焔
(
ほのほ
)
に
向
(
むか
)
つて
息吹
(
いきふき
)
かけたるに、
092
風
(
かぜ
)
はたちまち
方向
(
はうかう
)
を
変
(
へん
)
じ、
093
山上
(
さんじやう
)
より
暴風
(
ばうふう
)
吹
(
ふ
)
き
来
(
きた
)
りて、
094
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
にぴつたりと
消
(
き
)
えうせにけり。
095
時
(
とき
)
しも
夜
(
よ
)
は
漸
(
やうや
)
く
明
(
あ
)
け
放
(
はな
)
れ、
096
山
(
やま
)
の
八合目
(
はちがふめ
)
以下
(
いか
)
は
全部
(
ぜんぶ
)
灰
(
はひ
)
の
山
(
やま
)
と
変
(
かは
)
りぬ。
097
山麓
(
さんろく
)
にある
神人
(
しんじん
)
の
住家
(
すみか
)
は
全部
(
ぜんぶ
)
焼
(
や
)
け
落
(
お
)
ちければ、
098
山麓
(
さんろく
)
の
住民
(
ぢうみん
)
は
何人
(
なにびと
)
の
所為
(
しよゐ
)
ぞと
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
に
手配
(
てくば
)
りをなし、
099
山
(
やま
)
の
谷々
(
たにだに
)
を
隈
(
くま
)
なく
尋
(
たづ
)
ね
廻
(
まは
)
りゐたりける。
100
豆寅
(
まめとら
)
、
101
田依彦
(
たよりひこ
)
、
102
時彦
(
ときひこ
)
、
103
芳彦
(
よしひこ
)
、
104
玉彦
(
たまひこ
)
は
余
(
あま
)
りの
大火
(
たいくわ
)
に
胆
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かし、
105
一
(
ひ
)
と
所
(
ところ
)
に
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
めて
慄
(
ふる
)
ひ
戦
(
おのの
)
きゐたり。
106
住家
(
すみか
)
を
失
(
うしな
)
ひし
数多
(
あまた
)
の
人々
(
ひとびと
)
はこの
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
107
口々
(
くちぐち
)
に、
108
『この
山
(
やま
)
を
焼
(
や
)
きよつたのは
大方
(
おほかた
)
貴様
(
きさま
)
らならむ。
109
元
(
もと
)
の
通
(
とほ
)
りに
建
(
た
)
てて
返
(
かへ
)
さばよし、
110
さなくば
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
を
縛
(
しば
)
つて
帰
(
かへ
)
り、
111
酋長
(
しうちやう
)
の
前
(
まへ
)
にて
火炙
(
ひあぶ
)
りの
刑
(
けい
)
に
処
(
しよ
)
せむ』
112
と
怒
(
いか
)
りの
顔色
(
がんしよく
)
物凄
(
ものすご
)
く
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てたるに、
113
豆寅
(
まめとら
)
は
周章
(
あわ
)
てて、
114
『わゝゝゝ、
115
わしは、
116
ちゝゝゝとゝゝゝしゝゝゝ』
117
大勢
(
おほぜい
)
の
中
(
なか
)
よりは、
118
『この
瓢箪
(
へうたん
)
』
119
と
云
(
い
)
ひながら
携
(
たづさ
)
へ
持
(
も
)
てる
棒千切
(
ぼうちぎれ
)
をもつてポンと
叩
(
たた
)
けば、
120
豆寅
(
まめとら
)
は
声
(
こゑ
)
を
揚
(
あ
)
げて
泣
(
な
)
き
出
(
だ
)
し、
121
右手
(
みぎて
)
の
二
(
に
)
の
腕
(
うで
)
にて
両眼
(
りやうがん
)
を
擦
(
す
)
り
乍
(
なが
)
ら、
122
『
今日
(
けふ
)
は
如何
(
いか
)
なる
悪日
(
あくにち
)
ぞ、
123
折角
(
せつかく
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
に
助
(
たす
)
けられ、
124
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つて
恋
(
こひ
)
しき
妻
(
つま
)
の
草香姫
(
くさかひめ
)
に
取付
(
とりつ
)
き、
125
互
(
たがひ
)
に
抱
(
いだ
)
いて
泣
(
な
)
かむものと
思
(
おも
)
ふ
間
(
ま
)
もなく、
126
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
で
泣
(
な
)
いて
死
(
し
)
ぬとは
情
(
なさけ
)
ない。
127
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
に
助
(
たす
)
けられ、
128
今度
(
こんど
)
は
火
(
ひ
)
の
出
(
で
)
に
殺
(
ころ
)
されるか。
129
草香姫
(
くさかひめ
)
いまは
の
際
(
きは
)
に
唯
(
ただ
)
一目
(
ひとめ
)
、
130
やさしい
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
せて
呉
(
く
)
れ。
131
死
(
し
)
ぬるこの
身
(
み
)
は
厭
(
いと
)
はぬが、
132
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
りし
草香姫
(
くさかひめ
)
、
133
これを
聞
(
き
)
いたら
泣
(
な
)
くであらう。
134
思
(
おも
)
へば
悲
(
かな
)
しい
憐
(
いぢ
)
らしい』
135
群衆
(
ぐんしう
)
の
中
(
なか
)
より、
136
『エイ、
137
めそめそ
と
吼面
(
ほえづら
)
かわき
よつて、
138
そンな
事
(
こと
)
は
聞
(
き
)
き
度
(
たく
)
は
無
(
な
)
い。
139
誰
(
たれ
)
が
火
(
ひ
)
を
出
(
だ
)
したのか、
140
確
(
しつ
)
かり
返答
(
へんたふ
)
せ』
141
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
黙然
(
もくねん
)
として
俯向
(
うつむ
)
き
居
(
を
)
るのみ。
142
豆寅
(
まめとら
)
は、
143
『たゝゝゝ
確
(
たし
)
かに
田依彦
(
たよりひこ
)
が
致
(
いた
)
しました』
144
と
云
(
い
)
はむとするや、
145
田依彦
(
たよりひこ
)
は、
146
『こら
馬鹿
(
ばか
)
ツ』
147
と
云
(
い
)
ひながら、
148
またもや
豆寅
(
まめとら
)
の
頭
(
あたま
)
を
棒千切
(
ぼうちぎれ
)
を
以
(
もつ
)
て
がん
と
叩
(
たた
)
く。
149
このとき
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
山上
(
さんじやう
)
より
降
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
りこの
態
(
てい
)
を
見
(
み
)
て、
150
『やあ
豆寅
(
まめとら
)
か、
151
頭
(
あたま
)
は
如何
(
どう
)
した。
152
何
(
なに
)
を
泣
(
な
)
いて
居
(
を
)
る』
153
豆寅
(
まめとら
)
は
地獄
(
ぢごく
)
で
仏
(
ほとけ
)
に
逢
(
あ
)
うたる
心地
(
ここち
)
して、
154
『まあまあ、
155
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました』
156
と
立上
(
たちあが
)
り、
157
『やいこら
田依彦
(
たよりひこ
)
、
158
時彦
(
ときひこ
)
、
159
芳彦
(
よしひこ
)
、
160
玉彦
(
たまひこ
)
、
161
その
外
(
ほか
)
みなの
奴
(
やつ
)
らよつく
聞
(
き
)
け。
162
この
方
(
はう
)
は
勿体
(
もつたい
)
なくも
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
一
(
いち
)
の
御
(
ご
)
家来
(
けらい
)
、
163
そのまた
家来
(
けらい
)
のその
家来
(
けらい
)
、
164
もうちつと
下
(
した
)
のその
家来
(
けらい
)
、
165
豆寅彦
(
まめとらひこ
)
さまだぞ、
166
無礼
(
ぶれい
)
を
ひろい
だその
罪
(
つみ
)
容赦
(
ようしや
)
はならぬ』
167
と
章魚
(
たこ
)
の
跳
(
はね
)
る
様
(
やう
)
な
姿
(
すがた
)
になつて
肩肱
(
かたひぢ
)
怒
(
いか
)
らしにはかに
元気
(
げんき
)
づく。
168
衆人
(
しうじん
)
はこの
見幕
(
けんまく
)
に
或
(
あるひ
)
は
恐
(
おそ
)
れ
或
(
あるひ
)
は
噴
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
し、
169
無言
(
むごん
)
のまま
言
(
い
)
ひ
合
(
あは
)
した
様
(
やう
)
に
大地
(
だいち
)
に
平伏
(
ひれふ
)
したり。
170
これは
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
をはじめ
梅ケ香彦
(
うめがかひこ
)
、
171
大戸日別
(
おほとびわけ
)
、
172
天吹男
(
あまのふきを
)
の
威厳
(
ゐげん
)
に
何
(
な
)
ンとなく
打
(
う
)
たれたる
故
(
ゆゑ
)
なりき。
173
豆寅
(
まめとら
)
は
自分
(
じぶん
)
に
降伏
(
かうふく
)
したものと
思
(
おも
)
ひ、
174
ますます
鼻息
(
はないき
)
荒
(
あら
)
く、
175
『やい
田依彦
(
たよりひこ
)
、
176
貴様
(
きさま
)
は
最前
(
さいぜん
)
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
うた。
177
玉彦
(
たまひこ
)
が
俺
(
おれ
)
の
留守中
(
るすちう
)
に、
178
俺
(
おれ
)
の
嬶
(
かかあ
)
をちよろまかしたと
吐
(
ぬ
)
かしただらう、
179
本当
(
ほんたう
)
か
白状
(
はくじやう
)
いたせ。
180
貴様
(
きさま
)
は
嬶
(
かかあ
)
の
兄弟
(
きやうだい
)
ぢやと
思
(
おも
)
うて、
181
許
(
ゆる
)
してやりたいは
山々
(
やまやま
)
なれど、
182
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
には
親子
(
おやこ
)
兄弟
(
きやうだい
)
他人
(
たにん
)
の
区別
(
くべつ
)
はない。
183
やい
玉彦
(
たまひこ
)
返答
(
へんたふ
)
はどうだ』
184
と
威張
(
ゐば
)
りだす。
185
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
又
(
また
)
もや
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひながらこの
場
(
ば
)
を
見捨
(
みす
)
てて
行
(
ゆ
)
かむとす。
186
豆寅
(
まめとら
)
は、
187
『もしもし
家来
(
けらい
)
を
捨
(
す
)
てて
何処
(
どこ
)
に
御
(
お
)
越
(
こ
)
し
遊
(
あそ
)
ばす。
188
夫
(
そ
)
れはあんまり
胴欲
(
どうよく
)
ぢや』
189
と
袖
(
そで
)
に
縋
(
すが
)
つて
泣
(
な
)
き
付
(
つ
)
く。
190
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
梅ケ香彦
(
うめがかひこ
)
に、
191
風木津別
(
かぜけつわけ
)
之
(
の
)
忍男
(
おしを
)
と
名
(
な
)
を
与
(
あた
)
へてその
功労
(
こうらう
)
を
賞
(
しやう
)
し、
192
豆寅
(
まめとら
)
以下
(
いか
)
の
四
(
よ
)
人
(
にん
)
を
山麓
(
さんろく
)
の
酋長
(
しうちやう
)
なる
大屋
(
おほや
)
毘古
(
びこ
)
の
身許
(
みもと
)
に
預
(
あづ
)
けて、
193
焼
(
や
)
け
失
(
う
)
せたる
人々
(
ひとびと
)
の
住家
(
すみか
)
を
新
(
あらた
)
に
造
(
つく
)
らしめたり。
194
豆寅
(
まめとら
)
はここに
久々能智
(
くくのち
)
といふ
名
(
な
)
を
与
(
あた
)
へられける。
195
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
山
(
やま
)
を
下
(
くだ
)
り
海
(
うみ
)
を
渡
(
わた
)
り
四柱
(
よはしら
)
ここに
袖
(
そで
)
を
分
(
わか
)
ちて、
196
東西
(
とうざい
)
南北
(
なんぼく
)
に
何処
(
どこ
)
ともなく、
197
宣伝使
(
せんでんし
)
として
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
きける。
198
(
大正一一・一・三〇
旧一・三
高木鉄男
録)
199
(序~第七章 昭和一〇・二・二一 於島根県地恩郷 王仁校正)
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