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特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第7巻(午の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 大台ケ原
01 日出山上
〔301〕
02 三神司邂逅
〔302〕
03 白竜
〔303〕
04 石土毘古
〔304〕
05 日出ケ嶽
〔305〕
06 空威張
〔306〕
07 山火事
〔307〕
第2篇 白雪郷
08 羽衣の松
〔308〕
09 弱腰男
〔309〕
10 附合信神
〔310〕
11 助け船
〔311〕
12 熟々尽
〔312〕
第3篇 太平洋
13 美代の浜
〔313〕
14 怒濤澎湃
〔314〕
15 船幽霊
〔315〕
16 釣魚の悲
〔316〕
17 亀の背
〔317〕
第4篇 鬼門より竜宮へ
18 海原の宮
〔318〕
19 無心の船
〔319〕
20 副守飛出
〔320〕
21 飲めぬ酒
〔321〕
22 竜宮の宝
〔322〕
23 色良い男
〔323〕
第5篇 亜弗利加
24 筑紫上陸
〔324〕
25 建日別
〔325〕
26 アオウエイ
〔326〕
27 蓄音器
〔327〕
28 不思議の窟
〔328〕
第6篇 肥の国へ
29 山上の眺
〔329〕
30 天狗の親玉
〔330〕
31 虎転別
〔331〕
32 水晶玉
〔332〕
第7篇 日出神
33 回顧
〔333〕
34 時の氏神
〔334〕
35 木像に説教
〔335〕
36 豊日別
〔336〕
37 老利留油
〔337〕
38 雲天焼
〔338〕
39 駱駝隊
〔339〕
第8篇 一身四面
40 三人奇遇
〔340〕
41 枯木の花
〔341〕
42 分水嶺
〔342〕
43 神の国
〔343〕
44 福辺面
〔344〕
45 酒魂
〔345〕
46 白日別
〔346〕
47 鯉の一跳
〔347〕
第9篇 小波丸
48 悲喜交々
〔348〕
49 乗り直せ
〔349〕
50 三五〇
〔350〕
附録 第三回高熊山参拝紀行歌
余白歌
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第四五章
酒魂
(
くしみたま
)
〔三四五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
篇:
第8篇 一身四面
よみ(新仮名遣い):
いっしんしめん
章:
第45章 酒魂
よみ(新仮名遣い):
くしみたま
通し章番号:
345
口述日:
1922(大正11)年02月02日(旧01月06日)
口述場所:
筆録者:
井上留五郎
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年5月31日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
日の出神は蚊取別に語りかけた。蚊取別は三五教の宣伝使と聞いて、逃げ出そうとする。
日の出神は蚊取別を引き止めて、実は三五教は民には飲むな、といっておいて自分が飲む教えなのだ、と説示する。蚊取別は、それは本当にようわかった神様ですな、と感心している。
日の出神の共の三宣伝使は、日の出神の言いように合点がゆかず、怪訝な顔をしている。
丑三つ時になると、日の出神は何事か祈願を始めた。すると、あたりを照らす鏡のような火の玉が降り、光の甕となって芳しき酒を湛えた。
日の出神は酒を飲もうとする蚊取別の体を霊縛したため、蚊取別は飲もうとしても飲めない状態になった。そのうちに蚊取別の口から焼け石が三個飛び出して甕の中に落ちた。とたんに甕は消えうせた。
これ以降蚊取別は酒がすっかり嫌いになってしまい、三五教を信じることとなった。蚊取別は後に面那芸司の供となって諸方を遍歴し、生き神になることになる。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-05-24 15:49:06
OBC :
rm0745
愛善世界社版:
273頁
八幡書店版:
第2輯 132頁
修補版:
校定版:
283頁
普及版:
116頁
初版:
ページ備考:
001
一
(
いつ
)
たん
蹲踞
(
しやが
)
みたる
蚊取別
(
かとりわけ
)
は
群衆
(
ぐんしう
)
の
散
(
ち
)
り
失
(
う
)
せたるに、
002
ほつと
一息
(
ひといき
)
し、
003
お
山
(
やま
)
の
大将
(
たいしやう
)
俺
(
おれ
)
一人
(
ひとり
)
と
云
(
い
)
はぬばかりに、
004
薬鑵頭
(
やかんあたま
)
を
振立
(
ふりた
)
てて、
005
篝火
(
かがりび
)
の
前
(
まへ
)
に
臂
(
ひぢ
)
を
張
(
は
)
り
威張
(
ゐば
)
りゐたり。
006
そこへ
悠然
(
いうぜん
)
として
現
(
あら
)
はれたる
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
一人
(
ひとり
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は、
007
蚊取別
(
かとりわけ
)
の
肩
(
かた
)
をソツと
敲
(
たた
)
きながら、
008
日の出神
『もしもし
蚊取別
(
かとりわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
009
思
(
おも
)
はぬ
所
(
ところ
)
でお
目
(
め
)
にかかりました。
010
今
(
いま
)
木蔭
(
こかげ
)
より
承
(
うけたま
)
はればウラル
彦
(
ひこ
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
つて
歩
(
ある
)
かれるさうですな。
011
それは
誠
(
まこと
)
に
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
なことです。
012
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
の
会議
(
くわいぎ
)
でお
目
(
め
)
にかかりました
私
(
わたくし
)
は
大道別
(
おほみちわけ
)
ですよ、
013
否
(
い
)
や
偽
(
にせ
)
の
常世彦
(
とこよひこの
)
命
(
みこと
)
ですよ』
014
聞
(
き
)
くより
蚊取別
(
かとりわけ
)
は
後
(
あと
)
ふり
向
(
む
)
いて、
015
ギロリと
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
顔
(
かほ
)
を
見詰
(
みつ
)
め、
016
尻
(
しり
)
を
後
(
あと
)
へ
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
し、
017
早
(
はや
)
くも
逃腰
(
にげごし
)
になりゐる。
018
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
『あなた
沢山
(
たくさん
)
な
瓢箪
(
ふくべ
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
ますね』
019
高照彦
(
たかてるひこ
)
『
瓢箪
(
ふくべ
)
だと
思
(
おも
)
つたら、
020
何
(
な
)
ンだ、
021
光
(
ひか
)
つた
顔
(
かほ
)
だな。
022
瓢箪
(
ふくべ
)
によう
似
(
に
)
た
宣伝使
(
せんでんし
)
だ』
023
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
『
又
(
また
)
貴方
(
あなた
)
は
他人
(
ひと
)
の
事
(
こと
)
をおつしやる。
024
人
(
ひと
)
の
顔
(
かほ
)
の
批評
(
ひへう
)
は
止
(
や
)
めて
下
(
くだ
)
さい』
025
高照彦
(
たかてるひこ
)
『ハハハイ』
026
蚊取別
(
かとりわけ
)
『ハア、
027
私
(
わたくし
)
はあれから
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
を
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
され、
028
流
(
なが
)
れ
流
(
なが
)
れてナイヤガラの
滝
(
たき
)
の
水上
(
みなかみ
)
の
鬼城山
(
きじやうざん
)
に、
029
永
(
なが
)
の
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
りましたが、
030
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しまして、
031
たうとう
鬼城山
(
きじやうざん
)
も
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
され、
032
それからウラル
彦
(
ひこ
)
さまの
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
聞
(
き
)
いて、
033
飛
(
と
)
び
立
(
た
)
つ
許
(
ばか
)
り
勇
(
いさ
)
み
立
(
た
)
ち、
034
今
(
いま
)
はこの
通
(
とほ
)
り
瓢箪
(
ふくべ
)
を
提
(
さ
)
げて
世界
(
せかい
)
に
宣伝
(
せんでん
)
をやつて
居
(
を
)
ります。
035
貴方
(
あなた
)
は
矢張
(
やつぱ
)
りウラル
彦
(
ひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
ですか』
036
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
『
吾々
(
われわれ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
だ』
037
蚊取別
(
かとりわけ
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
と
聞
(
き
)
いて、
038
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
さうとする。
039
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
『ままお
待
(
ま
)
ちなさい。
040
私
(
わたくし
)
も
斯
(
か
)
うやつて
歩
(
ある
)
いて
居
(
ゐ
)
るものの、
041
表面
(
へうめん
)
は
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
むな
飲
(
の
)
むなと
教
(
をし
)
へてゐるが、
042
その
実
(
じつ
)
世界
(
せかい
)
の
奴
(
やつ
)
が
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
むと、
043
吾々
(
われわれ
)
の
飲
(
の
)
む
酒
(
さけ
)
が
無
(
な
)
くなつて
困
(
こま
)
るので、
044
世界
(
せかい
)
の
奴
(
やつ
)
は「
飲
(
の
)
むな、
045
飲
(
の
)
ンだら
悪
(
わる
)
いぞ」と
云
(
い
)
つて
止
(
と
)
めて
廻
(
まは
)
つて、
046
自分
(
じぶん
)
一人
(
ひとり
)
こつそり
と
飲
(
の
)
ンでゐるのだ。
047
好
(
す
)
きな
酒
(
さけ
)
を
止
(
や
)
めと
云
(
い
)
つたつて、
048
どうしても
止
(
や
)
むものでない。
049
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
はな、
050
かならず
裏
(
うら
)
と
表
(
おもて
)
とがあるものだ。
051
お
前
(
まへ
)
さまも
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
め
飲
(
の
)
めと
云
(
い
)
うて
歩
(
ある
)
くのは
結構
(
けつこう
)
だが、
052
余
(
あま
)
り
世界
(
せかい
)
の
者
(
もの
)
に
酒
(
さけ
)
ばかり
飲
(
の
)
ますと、
053
お
前
(
まへ
)
さまの
飲
(
の
)
む
酒
(
さけ
)
が
無
(
な
)
くなつて
了
(
しま
)
うぢやないか。
054
ウラル
彦
(
ひこ
)
さまは
本当
(
ほんたう
)
に
博愛
(
はくあい
)
だな。
055
お
前
(
まへ
)
さまもその
博愛
(
はくあい
)
に
感心
(
かんしん
)
して
宣伝
(
せんでん
)
して
居
(
ゐ
)
るのだらう。
056
さうして
彼方
(
あちら
)
や
此方
(
こちら
)
で
頭
(
あたま
)
を
敲
(
たた
)
かれたり、
057
瓢箪
(
ふくべ
)
を
破
(
やぶ
)
られたり、
058
天下
(
てんか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
も
並大抵
(
なみたいてい
)
の
事
(
こと
)
ぢやありますまい、
059
御
(
お
)
察
(
さつ
)
し
申
(
まを
)
す。
060
貴方
(
あなた
)
もここは
一
(
ひと
)
つ
考
(
かんが
)
へ
直
(
なほ
)
して、
061
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
になつて、
062
自分
(
じぶん
)
独
(
ひと
)
り
美味
(
うま
)
い
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
む
気
(
き
)
はないか。
063
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
何事
(
なにごと
)
も
表
(
おもて
)
があれば
裏
(
うら
)
がある。
064
昼
(
ひる
)
があれば
夜
(
よる
)
があるものだ。
065
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
の
紙
(
かみ
)
にも
裏表
(
うらおもて
)
がある。
066
なンぼウラル
彦
(
ひこ
)
さまだとて、
067
裏
(
うら
)
ばかりでは
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
ふまい。
068
これからはウラル
教
(
けう
)
を
表
(
おもて
)
にして、
069
三五教
(
あななひけう
)
を
裏
(
うら
)
にして、
070
表裏
(
へうり
)
揃
(
そろ
)
うて
吾々
(
われわれ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
宣伝
(
せんでん
)
に
出
(
で
)
て
来
(
き
)
ませぬか』
071
蚊取別
(
かとりわけ
)
『あー
貴方
(
あなた
)
はよく
判
(
わか
)
つてゐる。
072
これまで
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
沢山
(
たくさん
)
逢
(
あ
)
うたが、
073
それはそれは
堅
(
かた
)
い
堅
(
かた
)
い、
074
石部
(
いしべ
)
金吉
(
きんきち
)
鉄兜
(
かねかぶと
)
、
075
飲
(
の
)
みたい
酒
(
さけ
)
も、
076
神
(
かみ
)
が
怒
(
おこ
)
るの
何
(
ど
)
うのと
云
(
い
)
つて
辛抱
(
しんばう
)
して、
077
グウグウいふ
喉
(
のど
)
を
抑
(
おさ
)
へて、
078
唾
(
つばき
)
を
呑
(
の
)
ンで、
079
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いて
気張
(
きば
)
つてゐる
苦
(
くる
)
しさ。
080
こンな
事
(
こと
)
なら
死
(
し
)
んだが
まし
だ、
081
酒
(
さけ
)
無
(
な
)
くて
何
(
なん
)
の
己
(
おのれ
)
が
桜
(
さくら
)
かなだ。
082
貴方
(
あなた
)
のやうな
教
(
をしへ
)
なら、
083
ただ
今
(
いま
)
より
喜
(
よろこ
)
びて
御
(
お
)
伴
(
とも
)
をいたしませう。
084
実
(
じつ
)
のところ
私
(
わたくし
)
もさうしたいのだけれど、
085
何分
(
なにぶん
)
に
智慧
(
ちゑ
)
が
廻
(
まは
)
らぬものだから、
086
真正直
(
まつしやうぢき
)
にやつて
来
(
き
)
ました。
087
本当
(
ほんたう
)
によう
判
(
わか
)
つた
神
(
かみ
)
さまですな。
088
さうでなくては、
089
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
渡
(
わた
)
れませぬ
哩
(
わい
)
』
090
と
顔色
(
かほいろ
)
を
変
(
か
)
へ、
091
肩
(
かた
)
をゆすつて
歓
(
よろこ
)
ぶ。
092
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
合点
(
がつてん
)
ゆかず、
093
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
蓑
(
みの
)
を
引張
(
ひつぱ
)
り、
094
三人
『もしもし
貴方
(
あなた
)
のおつしやることは、
095
ちつと
違
(
ちが
)
ひはしませぬか』
096
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
『
違
(
ちが
)
ひはしませぬよ。
097
細工
(
さいく
)
は
粒々
(
りうりう
)
仕上
(
しあげ
)
を
見
(
み
)
て
下
(
くだ
)
さい』
098
一同
(
いちどう
)
は
怪訝
(
けげん
)
な
顔
(
かほ
)
つき。
099
夜
(
よ
)
は
深々
(
しんしん
)
と
更
(
ふ
)
けわたる、
100
水
(
みづ
)
も
眠
(
ねむ
)
れる
丑満
(
うしみつ
)
の
頃
(
ころ
)
となり、
101
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
何事
(
なにごと
)
か
祈願
(
きぐわん
)
を
籠
(
こ
)
めた。
102
たちまちその
場
(
ば
)
に
何処
(
いづこ
)
ともなく、
103
四辺
(
あたり
)
を
照
(
てら
)
す
鏡
(
かがみ
)
の
如
(
ごと
)
き
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
は
降
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
りぬ。
104
一同
(
いちどう
)
は
驚
(
おどろ
)
きその
火
(
ひ
)
の
玉
(
たま
)
を
凝視
(
みつ
)
めゐたり。
105
これぞ
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
奇魂
(
くしみたま
)
が、
106
今
(
いま
)
天
(
てん
)
より
降
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
れるなりき。
107
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
大
(
だい
)
なる
光
(
ひか
)
りの
甕
(
かめ
)
となりぬ。
108
なんとも
言
(
い
)
へぬ
芳
(
かん
)
ばしき
酒
(
さけ
)
は、
109
溢
(
あふ
)
るる
許
(
ばか
)
り
盛
(
も
)
られゐたり。
110
蚊取別
(
かとりわけ
)
は
鼻
(
はな
)
を
ぴこつかせ
、
111
蚊取別
(
かとりわけ
)
『やあ、
112
是
(
これ
)
は
是
(
これ
)
は
結構
(
けつこう
)
な
御
(
お
)
神酒
(
みき
)
、
113
頂
(
いただ
)
きませうか』
114
と
早
(
はや
)
くも
甕
(
かめ
)
に
向
(
むか
)
つて
飛
(
と
)
び
付
(
つ
)
かうとする。
115
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
『マア、
116
お
待
(
ま
)
ちなさい。
117
この
酒
(
さけ
)
は
手
(
て
)
をつけたり、
118
杓
(
しやく
)
で
汲
(
く
)
んでは
神罰
(
しんばつ
)
が
当
(
あた
)
ります。
119
天
(
てん
)
から
与
(
あた
)
へて
下
(
くだ
)
さつた、
120
結構
(
けつこう
)
な
御
(
お
)
神酒
(
みき
)
、
121
静
(
しづ
)
かに
口
(
くち
)
をつけて
飲
(
の
)
まなくては
味
(
あぢ
)
がありませぬ』
122
蚊取別
(
かとりわけ
)
『こンな
大
(
おほ
)
きな
甕
(
かめ
)
に
手
(
て
)
も
触
(
ふ
)
れず、
123
杓
(
しやく
)
もつけずに、
124
どうして
飲
(
の
)
めますか』
125
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
『
私
(
わし
)
が
今
(
いま
)
飲
(
の
)
ましてあげやう』
126
蚊取別
(
かとりわけ
)
『
有難
(
ありがた
)
う、
127
どうぞ
早
(
はや
)
く
飲
(
の
)
まして
下
(
くだ
)
さい』
128
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
は
又
(
また
)
もや
甕
(
かめ
)
に
向
(
むか
)
つて、
129
何事
(
なにごと
)
か
神文
(
しんもん
)
を
唱
(
とな
)
へける。
130
忽
(
たちま
)
ち
甕
(
かめ
)
は
横
(
よこ
)
に
平
(
ひら
)
たくなり、
131
その
代
(
かは
)
りに
丈
(
たけ
)
は
低
(
ひく
)
くなりぬ。
132
口
(
くち
)
をつけるには
丁度
(
ちやうど
)
よき
加減
(
かげん
)
となりけり。
133
蚊取別
(
かとりわけ
)
『あゝ
見
(
み
)
とる
間
(
ま
)
に、
134
甕
(
かめ
)
が
地
(
つち
)
の
中
(
なか
)
へ
這入
(
はい
)
りよつたな。
135
ちやうど
私
(
わたし
)
の
体
(
からだ
)
の
丈
(
たけ
)
に
比
(
くら
)
べて、
136
よい
加減
(
かげん
)
の
所
(
ところ
)
へ
来
(
き
)
たワ』
137
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
『さあ
飲
(
の
)
ましてあげませう』
138
と
云
(
い
)
ひながら、
139
蚊取別
(
かとりわけ
)
の
身体
(
からだ
)
に
霊縛
(
れいばく
)
を
施
(
ほどこ
)
した。
140
蚊取別
(
かとりわけ
)
は
首
(
くび
)
から
下
(
した
)
は、
141
材木
(
ざいもく
)
のやうに
堅
(
かた
)
くなりぬ。
142
蚊取別
(
かとりわけ
)
は
酒
(
さけ
)
に
心
(
こころ
)
を
奪
(
と
)
られて、
143
身体
(
からだ
)
の
強直
(
きやうちよく
)
した
事
(
こと
)
も
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
かず、
144
首
(
くび
)
ばかり
振
(
ふ
)
り
居
(
ゐ
)
たる。
145
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
蚊取別
(
かとりわけ
)
の
二本
(
にほん
)
の
脚
(
あし
)
をグツと
掴
(
つか
)
みて、
146
甕
(
かめ
)
の
上
(
うへ
)
に
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
したるに、
147
蚊取別
(
かとりわけ
)
は
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
して、
148
蚊取別
(
かとりわけ
)
『もしもし、
149
も
少
(
すこ
)
し
一寸
(
いつすん
)
許
(
ばか
)
り
下
(
さ
)
げて
下
(
くだ
)
さい、
150
届
(
とど
)
きませぬ』
151
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
『よしよし』
152
と
云
(
い
)
つて
七八分
(
しちはちぶ
)
下
(
さ
)
げた。
153
蚊取別
(
かとりわけ
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
し、
154
蚊取別
(
かとりわけ
)
『もう
一分
(
いちぶ
)
下
(
さ
)
げて
下
(
くだ
)
さらぬか、
155
届
(
とど
)
きませぬ』
156
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
『よしよし』
157
蚊取別
(
かとりわけ
)
『そら
反対
(
はんたい
)
です、
158
高
(
たか
)
うなりました。
159
もちつと
下
(
した
)
まで』
160
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
蚊取別
(
かとりわけ
)
を
上
(
あ
)
げたり、
161
下
(
おろ
)
したり、
162
どうしても
酒
(
さけ
)
の
処
(
ところ
)
へまで
届
(
とど
)
かざりけり。
163
蚊取別
(
かとりわけ
)
は
声
(
こゑ
)
を
搾
(
しぼ
)
り
出
(
だ
)
して、
164
蚊取別
『あゝ
鈍
(
どん
)
なお
方
(
かた
)
だな、
165
もちつと
下
(
さ
)
げて
下
(
くだ
)
さいな』
166
斯
(
か
)
くして
半時
(
はんとき
)
ばかりも
時間
(
じかん
)
を
経
(
へ
)
にける。
167
蚊取別
(
かとりわけ
)
は、
168
蚊取別
『かゝゝ』
169
と
咳払
(
せきばら
)
ひをすると
共
(
とも
)
に、
170
焼石
(
やけいし
)
が
三箇
(
さんこ
)
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
し、
171
ジユンジユンと
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
てて
甕
(
かめ
)
の
中
(
なか
)
に
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
みし
途端
(
とたん
)
に、
172
甕
(
かめ
)
は
煙
(
けぶり
)
のごとく
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せにけり。
173
そこら
一面
(
いちめん
)
もとの
暗夜
(
やみよ
)
となり、
174
空
(
そら
)
には
閃
(
ひらめ
)
く
星
(
ほし
)
の
影
(
かげ
)
、
175
地
(
ち
)
には
暗
(
やみ
)
を
透
(
すか
)
して
蚊取別
(
かとりわけ
)
の
頭
(
あたま
)
薄
(
うす
)
く
光
(
ひか
)
りゐるのみなりける。
176
これより
蚊取別
(
かとりわけ
)
は、
177
すつかり
酒
(
さけ
)
が
嫌
(
きら
)
ひになつて
了
(
しま
)
ひ、
178
しかして
三五教
(
あななひけう
)
を
信
(
しん
)
ずる
事
(
こと
)
となり、
179
面那芸
(
つらなぎの
)
司
(
かみ
)
の
供
(
とも
)
となりて
諸方
(
しよはう
)
を
遍歴
(
へんれき
)
し、
180
知
(
し
)
らぬまに
生神
(
いきがみ
)
となりにける。
181
(
大正一一・二・二
旧一・六
井上留五郎
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