夜明けになって、日の出神一向は、筑紫の司・白日別の館の門を叩いた。一行には、ウラル教の酒のひょうたんを下げた、おかしな格好の蚊取別が従っている。
しかし呼べども白日別の館からは何の返事もない。日の出神は、蚊取別に、塀を飛び越して門を開けよ、と命じた。
不審がる蚊取別に対して、日の出神は蚊取別が下げているひょうたんから酒をすべて抜いてしまい、息を吹き込んだ。するとひょうたんは風船のように浮き上がり、蚊取別の体も宙に浮くほどになった。
蚊取別は邸内に入るとひょうたんを一度に破いたものだから、屋敷の中にドスンと落ちて、腰を抜かしてしまった。面那芸司は仕方なく、ひらりと塀を乗り越えて門を開けた。
一行は開いた門から奥へと進んで行く。腰を抜かした蚊取別は宣伝使たちに助けを呼んでいる。
祝姫が憐れをもよおして蚊取別を抱き起こそうとすると、蚊取別は祝姫を口説き始めた。祝姫はあきれて蚊取別のはげ頭をぴしゃりと叩いて先へ駆けて行く。
邸内はよく整えられていたが、人っ子ひとりなかった。奥殿には筑紫の国魂である純世姫の御魂が鎮祭されている。日の出神は書置きを見つけた。
その書置きによると、筑紫の大酋長・白日別は霊夢に国治立命の御子と神伊弉諾命の御子が降ることを知り、一族を引き連れて高砂島に渡ったという。そして高照彦に筑紫の守護職を譲る旨がしたためられていた。
日の出神はこの書置きに従い、高照彦を白日別と改め、筑紫の守護職に任じた。日の出神は常世の国へ、面那芸司は天教山へ、祝姫は黄金山に向かうこととし、三柱はここに袂を分かった。