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第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第7巻(午の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 大台ケ原
01 日出山上
〔301〕
02 三神司邂逅
〔302〕
03 白竜
〔303〕
04 石土毘古
〔304〕
05 日出ケ嶽
〔305〕
06 空威張
〔306〕
07 山火事
〔307〕
第2篇 白雪郷
08 羽衣の松
〔308〕
09 弱腰男
〔309〕
10 附合信神
〔310〕
11 助け船
〔311〕
12 熟々尽
〔312〕
第3篇 太平洋
13 美代の浜
〔313〕
14 怒濤澎湃
〔314〕
15 船幽霊
〔315〕
16 釣魚の悲
〔316〕
17 亀の背
〔317〕
第4篇 鬼門より竜宮へ
18 海原の宮
〔318〕
19 無心の船
〔319〕
20 副守飛出
〔320〕
21 飲めぬ酒
〔321〕
22 竜宮の宝
〔322〕
23 色良い男
〔323〕
第5篇 亜弗利加
24 筑紫上陸
〔324〕
25 建日別
〔325〕
26 アオウエイ
〔326〕
27 蓄音器
〔327〕
28 不思議の窟
〔328〕
第6篇 肥の国へ
29 山上の眺
〔329〕
30 天狗の親玉
〔330〕
31 虎転別
〔331〕
32 水晶玉
〔332〕
第7篇 日出神
33 回顧
〔333〕
34 時の氏神
〔334〕
35 木像に説教
〔335〕
36 豊日別
〔336〕
37 老利留油
〔337〕
38 雲天焼
〔338〕
39 駱駝隊
〔339〕
第8篇 一身四面
40 三人奇遇
〔340〕
41 枯木の花
〔341〕
42 分水嶺
〔342〕
43 神の国
〔343〕
44 福辺面
〔344〕
45 酒魂
〔345〕
46 白日別
〔346〕
47 鯉の一跳
〔347〕
第9篇 小波丸
48 悲喜交々
〔348〕
49 乗り直せ
〔349〕
50 三五〇
〔350〕
附録 第三回高熊山参拝紀行歌
余白歌
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第一八章
海原
(
うなばら
)
の
宮
(
みや
)
〔三一八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
篇:
第4篇 鬼門より竜宮へ
よみ(新仮名遣い):
きもんよりりゅうぐうへ
章:
第18章 海原の宮
よみ(新仮名遣い):
うなばらのみや
通し章番号:
318
口述日:
1922(大正11)年01月31日(旧01月04日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年5月31日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ニュージーランドの沓嶋は、人の上陸を禁じた島である。ただ、飲料水を取るために船が寄港したのであった。
日の出神は、二柱の宣伝使を従えて上陸し、海原彦神の鎮まる宮に詣で、海上の無事を祈願した。
船中で酒を飲みながら四方山話にふけっていたのは、大台ケ原で山を焼いた、田依彦、時彦、芳彦であった。時彦を芳彦は酔って喧嘩を始めた。そこへ日の出神が戻ってきた。
田依彦は、大台ケ原で豆寅の奴扱いにされてつらくて堪らないので、日の出神を追ってやって来たことを告げ、立派な名を頂戴したい、と申し出た。三人のおかしなやり取りに、日の出神も苦笑している。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
ニユージランド(ニュージーランド)
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-05-10 01:07:55
OBC :
rm0718
愛善世界社版:
109頁
八幡書店版:
第2輯 74頁
修補版:
校定版:
115頁
普及版:
47頁
初版:
ページ備考:
001
船
(
ふね
)
は
漸
(
やうや
)
くニユージランドの
沓島
(
くつじま
)
の
港
(
みなと
)
に
着
(
つ
)
きぬ。
002
この
島
(
しま
)
は
人々
(
ひとびと
)
の
上陸
(
じやうりく
)
することを
禁
(
きん
)
じられありき。
003
唯
(
ただ
)
この
島
(
しま
)
より
湧
(
わ
)
き
出
(
い
)
づる
飲料水
(
いんれうすゐ
)
を
船
(
ふね
)
に
貯
(
たくは
)
ふる
為
(
ため
)
に
寄港
(
きかう
)
したるなり。
004
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は、
005
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
006
且
(
か
)
つ
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひながら、
007
二人
(
ふたり
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
伴
(
ともな
)
ひ
上陸
(
じやうりく
)
し、
008
海原彦
(
うなばらひこの
)
神
(
かみ
)
の
鎮
(
しづ
)
まります
宮
(
みや
)
に
詣
(
まう
)
で、
009
海上
(
かいじやう
)
の
無事
(
ぶじ
)
を
祈願
(
きぐわん
)
し、
010
風波
(
ふうは
)
の
都合
(
つがふ
)
にてこの
島
(
しま
)
に
一月
(
ひとつき
)
許
(
ばか
)
り
避難
(
ひなん
)
する
事
(
こと
)
となりにける。
011
船中
(
せんちう
)
の
人々
(
ひとびと
)
は
無聊
(
むれう
)
に
苦
(
くる
)
しみ、
012
又
(
また
)
もや
珍
(
めづ
)
らしき
話
(
はなし
)
を
互
(
たがひ
)
に
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
し、
013
国々
(
くにぐに
)
の
自慢
(
じまん
)
をなしゐたり。
014
中
(
なか
)
に
二三
(
にさん
)
の
色黒
(
いろくろ
)
き
大男
(
おほをとこ
)
と、
015
顔
(
かほ
)
の
細長
(
ほそなが
)
く
脊
(
せ
)
の
高
(
たか
)
き
大
(
だい
)
の
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
ける
男
(
をとこ
)
と、
016
少
(
すこ
)
しく
脊
(
せ
)
の
低
(
ひく
)
き
痩顔
(
やせがほ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
が、
017
チビリチビリと
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
みながら
話
(
はなし
)
に
耽
(
ふけ
)
り
居
(
ゐ
)
る。
018
芳彦
『おい、
019
時彦
(
ときひこ
)
、
020
あんまり
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
うと
大台
(
おほだい
)
ケ
原
(
はら
)
に
出会
(
でくわ
)
した
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が
乗
(
の
)
つとるぢやないか、
021
見付
(
みつ
)
けられたら
大変
(
たいへん
)
だぞ』
022
時彦
『
芳彦
(
よしひこ
)
、
023
構
(
かま
)
ふない。
024
今
(
いま
)
、
025
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
山
(
やま
)
へ
上
(
あが
)
つて
行
(
い
)
つたぢやないか。
026
その
間
(
あひだ
)
に
精
(
せい
)
出
(
だ
)
して
貴様
(
きさま
)
も
呑
(
の
)
め、
027
俺
(
おれ
)
も
呑
(
の
)
むのだ。
028
おい、
029
田依彦
(
たよりひこ
)
。
030
そンな
大
(
おほ
)
きな
目
(
め
)
ばつかりギロつかさずに
呑
(
の
)
め
呑
(
の
)
め』
031
田依彦
『
貴様
(
きさま
)
規則
(
きそく
)
を
破
(
やぶ
)
ると、
032
俺
(
おれ
)
が
承知
(
しようち
)
せぬぞ。
033
俺
(
おれ
)
は
酒
(
さけ
)
は
香
(
にほ
)
ひを
嗅
(
か
)
ぐのも
嫌
(
きら
)
ひだのに、
034
両方
(
りやうはう
)
から
俺
(
おれ
)
を
困
(
こま
)
らせようと
思
(
おも
)
ひよつて、
035
また
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
ふのか。
036
今度
(
こんど
)
こそは
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまに
言
(
い
)
うて
こます
。
037
この
長
(
なが
)
い
海
(
うみ
)
の
上
(
うへ
)
をアタ
世間
(
せけん
)
の
狭
(
せま
)
い、
038
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
ひたいものだから、
039
名乗
(
なのり
)
も
上
(
あ
)
げずに、
040
何時
(
いつ
)
も
俯向
(
うつむ
)
いて
顔
(
かほ
)
を
隠
(
かく
)
して
貴様
(
きさま
)
だけなら
好
(
よ
)
いが、
041
俺
(
おれ
)
まで
俯向
(
うつむ
)
かせられて
堪
(
たま
)
つたものかい』
042
時彦
(
ときひこ
)
『
業
(
ごふ
)
が
湧
(
わ
)
くぢやないかい。
043
若
(
わか
)
い
男
(
をとこ
)
と
女
(
をんな
)
奴
(
め
)
が
海
(
うみ
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
みたり、
044
上
(
あが
)
つたりしよつてな、
045
終
(
しまひ
)
には
気
(
き
)
の
良
(
よ
)
い
宣伝使
(
せんでんし
)
を、
046
ちよろまか
して
夫婦
(
ふうふ
)
になるなンて、
047
馬鹿
(
ばか
)
にしとるじやないか。
048
俺
(
おい
)
らは
遥々
(
はるばる
)
とこの
波
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
を、
049
常世
(
とこよ
)
へ
行
(
ゆ
)
くのも、
050
ウラル
彦
(
ひこ
)
さまの
乾児
(
こぶん
)
となつて、
051
甘
(
うま
)
い
酒
(
さけ
)
を
鱈腹
(
たらふく
)
呑
(
の
)
まして
貰
(
もら
)
うためだ。
052
国
(
くに
)
の
御柱
(
みはしら
)
の
神
(
かみ
)
さまが
根
(
ね
)
の
国
(
くに
)
とかへ
遁
(
に
)
げて
行
(
い
)
つたと
云
(
い
)
つて、
053
宣伝使
(
せんでんし
)
とやらが
騒
(
さわ
)
いでゐるが、
054
根
(
ね
)
の
国
(
くに
)
とか、
055
夜見
(
よみ
)
の
国
(
くに
)
とか
云
(
い
)
ふのは、
056
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
のことだい。
057
きつと
酒
(
さけ
)
に
浸
(
つか
)
つて
酒池
(
しゆち
)
肉林
(
にくりん
)
といふ、
058
贅沢
(
ぜいたく
)
三昧
(
さんまい
)
を
遊
(
あそ
)
ばして
御座
(
ござ
)
るのよ。
059
俺
(
おい
)
らもその
酒池
(
しゆち
)
肉林
(
にくりん
)
に
逢
(
あ
)
ひたさに、
060
可愛
(
かあい
)
い
女房
(
にようばう
)
を
捨
(
す
)
てて
行
(
ゆ
)
くのぢやないかエーン』
061
田依彦
(
たよりひこ
)
は
丸
(
まる
)
い
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
き
出
(
だ
)
し、
062
口
(
くち
)
を
尖
(
とが
)
らせ、
063
田依彦
『
貴様
(
きさま
)
はいよいよ
怪
(
け
)
しからぬ
奴
(
やつ
)
だ。
064
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
に
稚桜姫
(
わかざくらひめの
)
命
(
みこと
)
が
現
(
あら
)
はれ
遊
(
あそ
)
ばして、
065
神政
(
しんせい
)
を
再
(
ふたた
)
び
御
(
お
)
開
(
ひら
)
き
遊
(
あそ
)
ばす。
066
夫
(
そ
)
れに
就
(
つい
)
て
昔
(
むかし
)
の
竜宮
(
りうぐう
)
の
家来
(
けらい
)
は、
067
元
(
もと
)
のごとくに
使
(
つか
)
うてやらうとおつしやるのだから、
068
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
う
行
(
ゆ
)
かうじやないかと、
069
俺
(
おれ
)
を
此処
(
ここ
)
まで
誘
(
さそ
)
ひ
出
(
だ
)
しよつたのは
嘘
(
うそ
)
だつたな』
070
時彦
(
ときひこ
)
『
今頃
(
いまごろ
)
に
貴様
(
きさま
)
嘘
(
うそ
)
に
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
いたのかい。
071
田依
(
たより
)
ない
奴
(
やつ
)
ぢや。
072
夫
(
そ
)
れで
頼
(
たよ
)
り
無
(
な
)
い
彦
(
ひこ
)
と
皆
(
みな
)
が
云
(
い
)
ふのだよ。
073
頼
(
たよ
)
りに
思
(
おも
)
ふ
女房
(
にようばう
)
を
玉
(
たま
)
を
奪
(
と
)
られた
玉彦
(
たまひこ
)
に
玉
(
たま
)
なしにされて
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
玉
(
たま
)
を
奪
(
と
)
られたこの
時彦
(
ときひこ
)
に、
074
魂
(
たま
)
を
奪
(
と
)
られて
何
(
なん
)
の
態
(
ざま
)
。
075
貴様
(
きさま
)
の
性念玉
(
しやうねんだま
)
は
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ながら
腐
(
くさ
)
つて
居
(
を
)
るよ。
076
併
(
しか
)
しなンぼ
腐
(
くさ
)
つて
居
(
ゐ
)
ても
仕様
(
しやう
)
が
無
(
な
)
い。
077
貴様
(
きさま
)
と
一緒
(
いつしよ
)
にかうして
暮
(
くら
)
さにやならぬ
腐
(
くさ
)
れ
縁
(
えん
)
だもの』
078
田依彦
(
たよりひこ
)
は、
079
田依彦
『
何
(
なに
)
、
080
馬鹿
(
ばか
)
吐
(
ぬ
)
かす』
081
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
鉄拳
(
てつけん
)
を
固
(
かた
)
めて、
082
時彦
(
ときひこ
)
の
横面
(
よこづら
)
をポカンとやる。
083
時彦
(
ときひこ
)
は
酒
(
さけ
)
が
廻
(
まは
)
り、
084
舌
(
した
)
は
縺
(
もつ
)
れ、
085
足
(
あし
)
はひよろひよろなりき。
086
口
(
くち
)
ばかり
達者
(
たつしや
)
なるが、
087
身体
(
からだ
)
の
自由
(
じいう
)
は
一寸
(
ちよつと
)
も
利
(
き
)
かぬ。
088
船
(
ふね
)
の
人々
(
ひとびと
)
は、
089
人々
『
喧嘩
(
けんくわ
)
だ
喧嘩
(
けんくわ
)
だ』
090
と
総立
(
そうだち
)
になつて
眺
(
なが
)
めてゐる。
091
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひながら、
092
海原
(
うなばら
)
の
神
(
かみ
)
の
宮
(
みや
)
を
後
(
あと
)
にして、
093
この
船
(
ふね
)
に
向
(
むか
)
つて
帰
(
かへ
)
りきたる。
094
時彦
(
ときひこ
)
、
095
芳彦
(
よしひこ
)
は
蝸々虫
(
でんでんむし
)
のやうに
縮
(
ちぢ
)
まつて、
096
船
(
ふね
)
の
底
(
そこ
)
に
平太
(
へた
)
ばりぬ。
097
田依彦
(
たよりひこ
)
は、
098
むつくと
立上
(
たちあが
)
り、
099
田依彦
『もしもし
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
、
100
私
(
わたくし
)
は
田依彦
(
たよりひこ
)
であります。
101
大台
(
おほだい
)
ケ
原
(
はら
)
で
御
(
お
)
別
(
わか
)
れ
致
(
いた
)
し
申
(
まを
)
しましてから、
102
豆寅
(
まめとら
)
は
久々能智
(
くくのち
)
と
云
(
い
)
ふ
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
おん
)
名
(
な
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
して、
103
大屋
(
おほや
)
毘古
(
びこ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
家
(
いへ
)
造
(
つく
)
りをやつて
居
(
を
)
ります。
104
それはそれは
偉
(
えら
)
い
鼻息
(
はないき
)
で、
105
私
(
わたくし
)
らは
奴扱
(
やつこあつか
)
ひにされて
堪
(
たま
)
りませぬので、
106
たうとう
貴下
(
あなた
)
の
後
(
あと
)
を
慕
(
した
)
つて
参
(
まゐ
)
りました。
107
何卒
(
なにとぞ
)
私
(
わたくし
)
にも
結構
(
けつこう
)
な
名
(
な
)
を
命
(
つ
)
けて
下
(
くだ
)
さい。
108
何時
(
いつ
)
までも
田依彦
(
たよりひこ
)
でも
頼
(
たよ
)
るところがなければ
仕方
(
しかた
)
がありませぬ』
109
と、
110
目
(
め
)
をギヨロギヨロさせながら
頼
(
たの
)
み
入
(
い
)
る。
111
日の出神
『あゝさうか。
112
夫
(
そ
)
れに
相違
(
さうゐ
)
なければ
感心
(
かんしん
)
な
男
(
をとこ
)
だ。
113
しかし
其処
(
そこ
)
に
平太
(
へた
)
ばつて
居
(
を
)
る
二人
(
ふたり
)
は、
114
時彦
(
ときひこ
)
と
芳彦
(
よしひこ
)
では
無
(
な
)
いか。
115
頻
(
しき
)
りに、
116
酒
(
さけ
)
の
香
(
にほ
)
ひがするなア。
117
その
徳利
(
とくり
)
は
誰
(
たれ
)
のだ』
118
田依彦
『ハイ、
119
これはトヽヽヽヽトヽヽヽヽトントもう
解
(
わか
)
りませぬ。
120
トキドキこンな
事
(
こと
)
があります』
121
日の出神
『それは
芳彦
(
よしひこ
)
のじやないか』
122
田依彦
『ハイハイ、
123
田依彦
(
たよりひこ
)
はヨヽヽヽヽヨヽヽヽヽヨソの
人
(
ひと
)
かと
思
(
おも
)
ひます。
124
ヨヽヽヽヽ
酔
(
よ
)
うて
居
(
を
)
ります』
125
日の出神
『なンだ
貴様
(
きさま
)
は、
126
俄
(
にはか
)
に
吃
(
どもり
)
になつたのか』
127
田依彦
『ハイ、
128
ドヽヽヽヽドヽヽヽヽドウもなりませぬ。
129
時
(
とき
)
や、
130
芳
(
よし
)
が
私
(
わたくし
)
の
云
(
い
)
ふことを
聞
(
き
)
かぬものだから、
131
私
(
わたくし
)
も
共々
(
ともども
)
にイヤもう
何
(
ど
)
うもかうも
申上
(
まをしあ
)
げやうはありませぬ。
132
何卒
(
なにとぞ
)
神直日
(
かむなほひ
)
に
見
(
み
)
のがし
、
133
聞
(
きき
)
のがし
て
下
(
くだ
)
さいませ。
134
併
(
しか
)
し、
135
此奴
(
こいつ
)
は
燗直日
(
かんなほひ
)
で
無
(
の
)
うて、
136
冷酒
(
ひや
)
で
呑
(
の
)
ンでゐます。
137
私
(
わたくし
)
も
側
(
そば
)
に
居
(
を
)
つて、
138
貴下
(
あなた
)
に
見
(
み
)
つかりやせぬかと
思
(
おも
)
ひまして、
139
ヒヤヒヤアブアブしとりました。
140
私
(
わたくし
)
は
性来
(
しやうらい
)
の
酒
(
さけ
)
嫌
(
ぎら
)
ひですから、
141
一
(
ひと
)
つも
呑
(
の
)
みませぬ。
142
時彦
(
ときひこ
)
や、
143
芳彦
(
よしひこ
)
は、
144
たとひ
何
(
ど
)
うならうとも
私
(
わたくし
)
だけは
赦
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さい。
145
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さま』
146
日の出神
『
馬鹿
(
ばか
)
言
(
い
)
ふな、
147
貴様
(
きさま
)
だけが
助
(
たす
)
かつたら
好
(
よ
)
いのか』
148
田依彦
『イーエ、
149
成
(
な
)
る
可
(
べ
)
くは
貴様
(
きさま
)
も、
150
時
(
とき
)
も、
151
芳
(
よし
)
も
救
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
ひたいものです。
152
おい
時
(
とき
)
、
153
芳
(
よし
)
、
154
面
(
つら
)
を
上
(
あ
)
げい。
155
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまだぞ。
156
目
(
め
)
から
火
(
ひ
)
の
出
(
で
)
るやうな
目
(
め
)
に
一遍
(
いつぺん
)
逢
(
あ
)
はされて
見
(
み
)
い、
157
酒
(
さけ
)
も
酔
(
ゐい
)
も
醒
(
さ
)
めるだらう。
158
今
(
いま
)
なんと
吐
(
ぬ
)
かした。
159
国
(
くに
)
の
御柱
(
みはしら
)
の
神
(
かみ
)
さまは、
160
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
へ
酒
(
さけ
)
呑
(
の
)
みに
行
(
い
)
かつしやつたなンて
云
(
い
)
うただらう』
161
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
微笑
(
びせう
)
しながら、
162
日の出神
『
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
にせよ。
163
今
(
いま
)
船
(
ふね
)
が
出
(
で
)
る。
164
船
(
ふね
)
の
中
(
なか
)
で
悠久
(
ゆつくり
)
と
油
(
あぶら
)
を
搾
(
しぼ
)
つてやらうかい』
165
船
(
ふね
)
は
又
(
また
)
もや
錨
(
いかり
)
を
捲
(
ま
)
き
揚
(
あ
)
げ、
166
順風
(
じゆんぷう
)
に
帆
(
ほ
)
を
上
(
あ
)
げて
竜宮島
(
りうぐうじま
)
さして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
167
(
大正一一・一・三一
旧一・四
外山豊二
録)
168
(第一三章~第一八章 昭和一〇・二・二三 於徳山 王仁校正)
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