霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 ()らぬが(ほとけ)〔七一九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻 篇:第2篇 恩愛の涙 よみ:おんあいのなみだ
章:第7章 第23巻 よみ:しらぬがほとけ 通し章番号:719
口述日:1922(大正11)年06月11日(旧05月16日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
駒彦と秋彦の二人は、常楠夫婦を連れて、栗栖川のほとりの栗栖の森に着いた。老人の常楠は疲れを覚えて、にわかに胸腹部の激痛を感じて発熱してしまった。一行は栗栖の宮に立ち寄って、介抱に尽くすことになった。
二人の宣伝使は栗栖川の上流に良薬があると聞いて、薬草を求めて山深く入って行った。お久は一人宮に残って、常楠の看病をしている。
すると夜更けに宮の縁側に覆面をした男が二人現れ、ひそびそ話を始めた。それは数日前に常楠のところに押し入ったバラモン教の虻公と蜂公だった。
お久はてっきり、駒彦と秋彦が戻ったのかと思って二人を中へ入れようとしたが、虻公と蜂公の顔を見て悟り、懐剣を抜くと逆手に構え、娘の敵を討つと凄んだ。
しかし長刀を抜き放った二人に詰め寄られてしまう。そこへ駒彦と秋彦が戻って来て、虻公と蜂公に霊縛をかけた。二人が持ち帰った薬草で、常楠はみるみるうちに恢復した。
常楠は霊縛された二人を見て、娘の敵とは言いながら憐れを催し、改心を促した。駒彦と秋彦も改心を促して、霊縛を説いた。虻公と蜂公は床に頭をつけてすすり泣いて懺悔をなす。
常楠は、自分が娘の敵といって二人を成敗したら、二人の両親が嘆くだろうと言って、親に免じて改心をするようにと諭した。そして、二人の生まれ育ちを聞きただす。
虻公は印南の里の森に捨てられていて、情け深い里人に拾われて育てられたが、大恩ある育ての親も六歳の頃に病気で亡くなってしまい、それからは放浪して悪事に染まってしまったと身の上を明かした。
虻公は捨てられていた自分に添えられていた守り刀に、常という字が印してあったのが唯一の手がかりだ、と明かした。
常楠はその守り刀を見せてもらうと、紛れも無く自分の家紋が記してあった。常楠は、若い頃に下女に産ませた子を、守り刀と共に捨てたことを懺悔した。虻公は、駒彦の母違いの兄弟であることが明らかになった。
常楠はお久に詫びをするが、お久も懺悔して、嫁ぐ前に親の許さぬ仲の男との間に子をもうけ、熊野の森へ捨て子したことを明かした。
それを聞いた蜂公は、自分は熊野の森に捨て子されていたのを、山賊の親分に拾われて育ち、今に至るのだと身の上を語った。そして、今は取り落としてしまったが捨て子の自分と一緒に添えられていた守り刀に、蜂という印があり、それで蜂公と呼ばれるようになったのだ、と明かした。
お久はそれを聞いて、蜂公が自分が捨てた子であるとわかった。一同は秋彦の導師で感謝祈願を奏上した。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm2307
愛善世界社版:113頁 八幡書店版:第4輯 535頁 修補版: 校定版:116頁 普及版:52頁 初版: ページ備考:
001 秋彦(あきひこ)002駒彦(こまひこ)宣伝使(せんでんし)は、003常楠(つねくす)004(ひさ)老夫婦(らうふうふ)(とも)に、005木山(きやま)(さと)立出(たちい)(やうや)栗栖川(くりすがは)(ほとり)006栗栖(くりす)(もり)()いた。007老人(らうじん)(こと)とて疲労(ひらう)(かん)じ、008此処(ここ)駒彦(こまひこ)(ちち)常楠(つねくす)は、009(にはか)胸腹部(きようふくぶ)激痛(げきつう)(かん)じ、010発熱(はつねつ)(はなはだ)しく、011身動(みうご)きもならぬやうになつて(しま)つた。012(ひさ)(はじ)秋彦(あきひこ)013駒彦(こまひこ)両人(りやうにん)は、014如何(いか)にもして常楠(つねくす)病気(びやうき)恢復(くわいふく)せしめむと、015栗栖(くりす)(みや)(なかば)(やぶ)れたる社務所(ながとこ)立寄(たちよ)り、016いろいろと介抱(かいほう)()(つく)したが、017(やまひ)追々(おひおひ)(おも)るばかりで、018(めい)旦夕(たんせき)(せま)つて()た。
019 二人(ふたり)宣伝使(せんでんし)栗栖川(くりすがは)上流(じやうりう)妙薬(めうやく)ありと()き、020手配(てわけ)して(やま)(ふか)薬草(やくさう)(もと)むべく(すす)()つた。021(あと)にお(ひさ)(をつと)看病(かんびやう)余念(よねん)なく、022心力(しんりよく)(つく)して(おい)()労苦(らうく)打忘(うちわす)れ、023看護(かんご)(つと)めた。024人里(ひとざと)(はな)れし(さび)しき(この)栗栖(くりす)(みや)(もり)人声(ひとごゑ)もなく、025時々(ときどき)(からす)(こゑ)026百舌鳥(もず)(ささや)きが(きこ)ゆるばかり、027(こがらし)(とき)仕切(しき)つて()いて()る。028さすが暖国(だんこく)(ふゆ)も、029今日(けふ)(かぎ)つて殊更(ことさら)厳寒(げんかん)(かん)じ、030()寒疣(さむいぼ)(あら)はすばかりであつた。
031 ()深々(しんしん)()(わた)り、032(つき)皓々(かうかう)中天(ちうてん)(かがや)き、033(あは)れな老夫婦(らうふうふ)境遇(きやうぐう)(あは)()見下(みお)ろし(たま)ひつつあるものの(ごと)く、034時々(ときどき)(つき)(おも)(かす)めて(あは)(くも)来往(らいわう)してゐる。035(その)(たび)(ごと)にパツと(あか)くなつたり、036(また)パツと薄暗(うすぐら)くなり、037(そら)には薄茶色(うすちやいろ)(くも)038白雲(しらくも)(まじ)つて脚速(あしばや)右往左往(うわうさわう)彷徨(はうくわう)して()る。
039 (この)(とき)覆面(ふくめん)した二人(ふたり)大男(おほをとこ)040何事(なにごと)かヒソビソと(ささや)(なが)ら、041(この)(もり)(むか)つて(すす)(きた)り、042社務所(ながとこ)(なか)老夫婦(らうふうふ)のあるをも()らず、043縁側(えんがは)(こし)(うち)かけ、044ヒソビソ(ばなし)(ふけ)つて()たが、045(つひ)には(きよう)()つて声高(こわだか)(さへづ)(はじ)めた。
046(かふ)『オイ虻公(あぶこう)047(この)(ごろ)泥棒(どろばう)商売(しやうばい)薩張(さつぱ)冬枯(ふゆが)れで、048(ふところ)(さむ)いことだないか。049なんぞ()(とり)がやつて()さうなものだな。050木山(きやま)(さと)(ぢぢ)(ばば)アの(うち)(とま)()み、051()つて()金子(かね)大方(おほかた)使(つか)(はた)し、052最早(もはや)二進(につち)三進(さつち)()かなくなつて(しま)つたぢやないか。053此処(ここ)(ひと)(おほ)きな仕事(しごと)をせぬことには、054()ちもせぬ乾児(こぶん)(やしな)ふことも出来(でき)ず、055乾児(こぶん)(かかあ)子供(こども)までが薩張(さつぱり)乾上(ひあが)つて(しま)ふ。056(なん)とか()思案(しあん)()ないだらうかなア』
057虻公(あぶこう)『オイ蜂公(はちこう)058貴様(きさま)金子(かね)()()ママると、059大風(おほかぜ)(はひ)()くやうに、060(すぐ)にバラバラと()()らしやがるものだから(こま)つて(しま)ふワ。061貴様(きさま)乾児(こぶん)(すくな)し、062一人生活(ひとりぐらし)ぢやないか。063(おれ)のやうに()りもせぬ乾児(こぶん)十人(じふにん)()ち、064近所(きんじよ)杢平(もくべい)七八人(しちはちにん)家族(かぞく)(かか)へてゐては到底(たうてい)(ちひ)さい(はたら)きではやりきれない。065木山(きやま)(さと)()つた金子(かね)百両(ひやくりやう)ばかりあつたが、066貴様(きさま)山分(やまわ)けにして五十両(ごじふりやう)()つて(かへ)つたのだから、067余程(よほど)使(つか)ひでがなければならぬ。068俺達(おれたち)とは責任(せきにん)大変(たいへん)(ちが)ふのだから……』
069蜂公(はちこう)(なん)()つても五十両(ごじふりやう)五十両(ごじふりやう)だ。070家内(かない)(すくな)いと()つて五十両(ごじふりやう)百両(ひやくりやう)使(つか)へる道理(だうり)()し、071(また)家内(かない)乾児(こぶん)(おほ)いと()つても、072五十両(ごじふりやう)依然(やつぱり)五十両(ごじふりやう)だ。073滅多(めつた)二十両(にじふりやう)になる気遣(きづか)ひは()い。074そんな(けち)なことを()ふない』
075虻公(あぶこう)(その)(くせ)貴様(きさま)可愛相(かあいさう)()(むすめ)を○○して、076両親(りやうしん)(まへ)ばらしたぢやないか。077ヨウま()んな(おに)のやうな(こと)出来(でき)たものだ』
078蜂公(はちこう)『ヘン(おれ)(おに)なら貴様(きさま)(おに)だ』
079虻公(あぶこう)(おに)にも善悪(ぜんあく)があつて、080貴様(きさま)のは特別製(とくべつせい)(つのおに)だ、081所謂(いはゆる)(をす)だ。082(おれ)のは(めす)だから(つの)()(おに)だからなア』
083蜂公(はちこう)(きま)つたことだ。084(おに)なら(おに)で、085何処迄(どこまで)徹底的(てつていてき)(おに)たるの本分(ほんぶん)(つく)さねばなるまい、086貴様(きさま)のやうに(すこ)金子(かね)出来(でき)ると、087(ほとけ)(みち)とか、088(かね)(みち)とかに逆転(ぎやくてん)しやうとする(やう)なことで、089()うして(おほ)きな仕事(しごと)出来(でき)るものか』
090(はな)してゐる。091社務所(ながとこ)(なか)より苦悶(くもん)(こゑ)092両人(りやうにん)(みみ)()した。
093虻公(あぶこう)『ヤア(なん)だか(めう)(こゑ)がするぢやないか』
094蜂公(はちこう)『ほんに怪体(けつたい)(こゑ)(きこ)えて()た。095(まる)(おほかみ)(うな)(ごゑ)のやうだ。096一体(いつたい)何物(なにもの)だらう。097(ひと)調(しら)べて()たら()うだ』
098虻公(あぶこう)『おけおけ、099君子(くんし)(あやふ)きに近付(ちかづ)かずだ。100幽霊(いうれい)かも()れないぞ』
101蜂公(はちこう)君子(くんし)()いて(あき)れるワ。102貴様(きさま)のやうな悪党(あくたう)が、103何処(どこ)(めくら)()たつて君子(くんし)(おも)(やつ)があるか。104(かる)幽霊(いうれい)貴様(きさま)(たち)此処(ここ)()ると(おも)つて、105()つてゐやがるのかも()れぬぞ。106(なん)だか(おれ)首筋元(くびすぢもと)がゾクゾクして()た。107(そと)(さむ)(かぜ)()くなり、108(なか)には(いや)らし(こゑ)(きこ)えるなり、109()()れなくなつたぢやないか』
110虻公(あぶこう)『そんなチヨロ(くさ)いことを()つて()ると、111貴様(きさま)(おれ)()ぢやないが虻蜂取(あぶはちと)らずになつて(しま)ふぞ。112ひよつとしたら旅人(たびびと)沢山(どつさり)金子(かね)()つて()てゐやがるかも()れぬぞ、113山吹色(やまぶきいろ)(やつ)がウンウンと(うな)つてゐるのだらう。114(ひと)勇気(ゆうき)()して()()み、115ウンの正体(しやうたい)見届(みとど)けやうぢやないか。116ひよつとしたら吾々(われわれ)(うん)(ひら)(ぐち)かも()れぬぞ』
117蜂公(はちこう)『うつかり()(そこな)ふとウンが(さが)つて(しり)から()るウンにならぬやうにせよ。118貴様(きさま)何時(いつ)狼狽者(あわてもの)だから(しり)(つぼね)はついた(こと)はない。119(ねん)年中(ねんぢう)()()しては糞垂(ばばた)れる(やつ)ぢやから、120アハヽヽヽ』
121(わら)ふ。122(ひさ)(この)(わら)(ごゑ)()いて、123()ちに()つたる二人(ふたり)宣伝使(せんでんし)(かへ)つたのだと早合点(はやがつてん)し、124(なか)より()(ひら)いて、
125(ひさ)『アヽ()()ねました、126二人(ふたり)(かた)127(はや)這入(はい)つて(くだ)さい。128(さぞ)(さむ)かつたでせう』
129 二人(ふたり)一度(いちど)に、
130『ヤア(たれ)かと(おも)へば貴方(あなた)此家(ここ)御主人(ごしゆじん)か。131()(かく)それでは一服(いつぷく)さして(もら)ひませう』
132(うち)()る。133(かすか)(あか)りに(うつ)つた(あぶ)134(はち)二人(ふたり)(かほ)135(ひさ)(これ)(なが)めて、
136(ひさ)『アツ、137前等(まへら)(この)(あひだ)()()(とま)()み、138(むすめ)生命(いのち)()り、139有金(ありがね)すつかり(さら)へて()()つた泥棒(どろばう)ぢやないか。140サア、141()うなる以上(いじやう)()()仇敵(かたき)142モウ承知(しようち)(いた)さぬ。143覚悟(かくご)せい』
144懐剣(くわいけん)逆手(さかて)()つて形相(ぎやうさう)(すさま)じく、145上段(じやうだん)(かま)へこんだ。146(あぶ)147(はち)二人(ふたり)大口(おほぐち)()けて、148『アハヽヽヽ』と高笑(たかわら)ひする。
149(ひさ)盗人(ぬすびと)猛々(たけだけ)しいとは(その)(はう)のこと。150()(ばば)死物狂(しにものぐる)ひの(はたら)き、151覚悟(かくご)(いた)せ、152最早(もはや)()んでも()しうない年寄(としより)生命(いのち)だ』
153()つてかかる。154二人(ふたり)長刀(どす)をスラリと引抜(ひきぬ)き、
155『サア、156()い』
157(こし)()ゑ、158()らば()らむと(ひか)へて()る。159(ひさ)二人(ふたり)荒武者(あらむしや)身構(みがま)へにつけ()(すき)もなく、160(またた)きもせず(すき)あらば()りかからんと(ねら)つて()る。161二人(ふたり)はジリジリと抜刀(ぬきみ)両手(りやうて)に、162(はら)(あた)りに(つか)(にぎ)(なが)()()つて()る。
163 常楠(つねくす)発熱(はつねつ)(はなはだ)しく夢中(むちう)になつて『ウンウン』と(うな)つて()る。164()かる(ところ)秋彦(あきひこ)165駒彦(こまひこ)両人(りやうにん)は、166(あし)(はや)めて(かへ)(きた)り、167駒彦(こまひこ)()(なか)這入(はい)つて()れば()状態(ありさま)
168駒彦(こまひこ)『ヤア(それがし)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)駒彦(こまひこ)(まを)すものだ。169(きさま)泥棒(どろばう)見受(みうけ)るが、170老人(としより)ばかりの(とこ)にやつて()て、171(なに)()らうと()つたつて()るものは()るまい。172()らざることを(いた)すより、173(はや)(この)()立去(たちさ)つたがよからうぞ。174グヅグヅ(いた)して()ると、175(きさま)利益(ため)にならぬぞ』
176 お(ひさ)(はじ)めて(この)(こゑ)()がつき、177短刀(たんたう)(ふり)かざし(なが)ら、
178(ひさ)(せがれ)駒彦(こまひこ)か、179ようマア(あぶ)ない(ところ)(かへ)つて(くだ)さつた。180……秋彦(あきひこ)さま、181()うぞ加勢(かせい)して(くだ)さい。182此奴(こいつ)(わし)(むすめ)(ころ)し、183金子(かね)()つて()げた悪人(あくにん)御座(ござ)いますよ』
184()いて二人(ふたり)(たちま)両手(りやうて)()み、185満身(まんしん)霊力(れいりよく)()めてウンと一声(いつせい)186霊縛(れいばく)をかけた。187二人(ふたり)身構(みがま)へした(まま)188身体強直(しんたいきやうちよく)木像(もくざう)(ごと)くになつて(しま)ひ、189()ばかりギヨロつかせて()る。
190駒彦(こまひこ)『アハヽヽヽ、191マア一寸(ちよつと)()うして()いて、192(ゆつ)くりお(とう)さまに(くすり)()御恢復(ごくわいふく)(うへ)193()面白(おもしろ)木像(もくざう)(なぐさ)みに御目(おめ)にかけることにせう。194秋彦(あきひこ)さま、195霊縛(れいばく)(ゆる)まないやうに()をつけて(くだ)さい。196(わたし)はこれより(ちち)看護(かんご)(いた)しますから。197………お(かあ)さま、198危険(あぶな)いところで御座(ござ)いましたな』
199 お(ひさ)(やや)安堵(あんど)して短刀(たんたう)(さや)(をさ)め、200ドツカと()し、
201(ひさ)『アーお(まへ)(かへ)るのがモウ一息(ひといき)(おそ)かつたら、202(ぢぢ)(ばば)(また)もや此奴(こいつ)のために生命(いのち)()らるるところだつた』
203(うれ)しさ(あま)つて(こゑ)さへ(くも)つてゐる。204起死回生(きしくわいせい)妙薬(めうやく)(たちま)効験(かうけん)(あら)はれ、205常楠(つねくす)(にはか)元気(げんき)恢復(くわいふく)し、206()(あが)つて二人(ふたり)泥棒(どろばう)姿(すがた)()
207常楠(つねくす)『アヽ()かげで病気(びやうき)余程(よつぽど)よくなつたと(おも)へば、208(また)しても(この)(あひだ)()()大悪党(だいあくたう)()209(かたな)()いて執念深(しふねんぶか)くも吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)()(ねら)うて()るのか。210(さて)(さて)()(がた)代物(しろもの)だ。211こんな(やつ)必定(きつと)()(くに)212(そこ)(くに)成敗(せいばい)()けねばならぬ(やつ)だ。213(おも)へば(おも)へば可愛相(かあいさう)になつて()た、214(むすめ)(かたき)とは()(なが)()うしたものか、215此奴(こいつ)精神(せいしん)()(どく)になつて、216日頃(ひごろ)(うら)みも、217腹立(はらだ)ちも何処(どこ)かへ()つて(しま)つた。218オイ泥棒(どろばう)219(まへ)()加減(かげん)改心(かいしん)をしたら()うだ。220未来(みらい)ほど(おそ)ろしいぞよ』
221 泥棒(どろばう)()をキヨロキヨロ回転(くわいてん)させるばかり、222(くちびる)(かすか)(うご)かしたきり一言(いちごん)(はつ)()ず、223(かた)まつた(まま)苦悶(くもん)して()る。
224駒彦(こまひこ)『お(とう)さま、225是等(これら)両人(りやうにん)(いもうと)(ころ)した(やつ)御座(ござ)いますか。226本当(ほんたう)仕方(しかた)のない悪人(あくにん)ですな。227(しか)(なが)吾々(われわれ)宣伝使(せんでんし)神力(しんりき)(もつ)てしては、228(この)(やう)なものの五人(ごにん)十人(じふにん)は、229小指(こゆび)(さき)にも(あた)りませぬが、230貴方(あなた)(あふ)せの(とほ)(つみ)(にく)んで(ひと)(にく)まず、231(まこと)(みち)帰順(きじゆん)すれば(たす)けてやりませうかなア…オイ泥棒(どろばう)232貴様等(きさまら)はまだ(この)(うへ)悪事(あくじ)をやる(かんが)へか、233(ただし)今日(けふ)(かぎ)薩張(さつぱり)改心(かいしん)(いた)すか()うだ。234(くち)()(だけ)霊縛(れいばく)()いてやるから、235(ただち)返答(へんたふ)(いた)せ』
236 虻公(あぶこう)(やうや)(おも)たさうに(くち)(ひら)いて、
237『ハイ、238カ…イ…シ…ン…イ…タ…シ…マ…ス』
239千切(ちぎ)千切(ちぎ)れに機械的(きかいてき)にヤツと(こた)へた。
240駒彦(こまひこ)『ウン、241よし、242それに間違(まちが)ひはないなア。243モウ一人(ひとり)(やつ)()うだ。244貴様(きさま)改心(かいしん)するか』
245 蜂公(はちこう)機械(きかい)のやうに幾度(いくたび)となく、246(かしら)(たて)曲線的(きよくせんてき)()つてゐる。
247駒彦(こまひこ)『ウン、248よし、249改心(かいしん)するに(ちが)ひはないな。250そんなら秋彦(あきひこ)さま、251霊縛(れいばく)()いてやつて(くだ)さい、252万一(まんいち)(あば)()したら(その)(とき)(また)霊縛(れいばく)をかけるまでの(こと)だから……』
253秋彦(あきひこ)承知(しようち)しました』
254秋彦(あきひこ)両手(りやうて)組合(くみあは)せ、255(あま)数歌(かずうた)一回(いつくわい)(とな)へ、256(ゆる)す』と一言(いちごん)257言霊(ことたま)発射(はつしや)するや両人(りやうにん)身体(からだ)自由自在(じいうじざい)(もと)(ふく)した。258二人(ふたり)夕立(ゆふだち)(ごと)(なみだ)をボロボロと(おと)しながら、259両手(りやうて)(あは)(ゆか)(かしら)(すり)つけ、260懺悔(ざんげ)(ねん)()へざるものの(ごと)(すす)()きさへして()る。
261 常楠(つねくす)両人(りやうにん)姿(すがた)をツクヅクと(なが)め、
262常楠(つねくす)『コレ二人(ふたり)泥棒(どろばう)263(まへ)(うま)()いてからの悪人(あくにん)ではあるまい。264人間(にんげん)()ふものは(そだ)ちが大切(たいせつ)だ。265大抵(たいてい)泥棒(どろばう)になつたりする(やつ)は、266(わか)(とき)(おや)(はな)れるか、267(あるひ)継母(ままはは)(そだ)ちか、268継父(ままてて)家庭(かてい)(そだ)つたものが(おほ)(やう)だが、269(まへ)(おや)()うなつたのだ。270()可愛(かあい)くない(おや)世界(せかい)にない(はず)だが、271()うぞして(うち)(せがれ)一人前(いちにんまへ)(そだ)()げ、272世間(せけん)から(えら)(やつ)だと()めて(もら)ひたいのは親心(おやごころ)273(いま)両親(りやうしん)(いき)(ござ)るならば、274御心配(ごしんぱい)をして(ござ)るであらう。275(いま)より綺麗(きれい)薩張(さつぱり)(こころ)()()(ぜん)(みち)立帰(たちかへ)りなされや。276(わし)もお(まへ)さん()大事(だいじ)(むすめ)(ころ)されたが、277(まへ)にも両親(りやうしん)があるだらう。278(むすめ)(かたき)だと()つて、279(かたき)()てば(わし)気分(きぶん)がサラリとしやうが、280(まへ)両親(りやうしん)()いたら(さぞ)(なげ)かつしやることだらう。281(これ)(おも)へばお(まへ)さまに(むすめ)(かたき)として、282一太刀(ひとたち)(むく)いることも出来(でき)ぬやうになつて()た。283何卒(どうぞ)今日(けふ)(かぎ)生命(いのち)()くなつたと(おも)つて(まこと)(こころ)になつて(くだ)され。284これが老先(おいさき)(みじか)年寄(としより)(たの)みだ。285(まへ)(おや)(かは)りに意見(いけん)をするのだから、286何卒(どうぞ)(わす)れぬやうにしてお()れ』
287虻公(あぶこう)『ハイ有難(ありがた)御座(ござ)います。288翻然(ほんぜん)として今迄(いままで)(ゆめ)()めました。289(わたくし)には(おや)があつたさうで御座(ござ)いますが、290(いま)だに(わか)りませぬ。291印南(いなみ)(さと)(もり)(こも)(つつ)まれ、292(うま)れた()()()てられて()つたのを、293(なさけ)(ぶか)村人(むらびと)(すく)()げて、294()()いのを(さいは)ひに(わたくし)()として(そだ)てて(くだ)さつたのですが、295(わたくし)六才(ろくさい)(とき)大恩(たいおん)ある(そだ)ての両親(りやうしん)は、296(にはか)(やまひ)国替(くにがへ)をなされまして、297それから(わたくし)()りつく(しま)もなく、298乞食(こじき)(むれ)()(やうや)成人(せいじん)して女房(にようばう)()ちましたが、299子供(こども)(とき)より(わる)(こと)をやつて()(くせ)(いま)(なほ)らず、300()(こと)(ひと)つも(いた)したことはありませぬ。301貴方(あなた)只今(ただいま)御教訓(ごけうくん)()みの(おや)慈悲(じひ)御言葉(おことば)のやうに(かん)じまして、302(こころ)(そこ)より有難涙(ありがたなみだ)(あふ)れます。303モウ今日(けふ)(かぎ)(わる)いことは(いた)しませぬ』
304常楠(つねくす)『アヽさうかさうか、305よう()うて(くだ)さつた。306それで(わし)安心(あんしん)した。307さうしてお(まへ)捨児(すてご)されたと()はつしやつたが、308(なに)(その)(とき)(しるし)()かつたか』
309虻公(あぶこう)『ハイ(わたくし)虻公(あぶこう)(まを)して()りますが、310(わたくし)(はだ)()へてあつた(まも)(がたな)に、311(つね)」と()()()いてあつたさうで御座(ござ)います。312(いま)()れて()()えなくなりましたが、313(これ)証拠(しようこ)()みの(おや)(たづ)ねんと、314()んな悪人(あくにん)似合(にあ)はず、315始終(しじう)肌身(はだみ)(はな)さず()つて()ります。316()うぞして一度(いちど)(この)()でお(とう)さまやお(かあ)さまに()ひたいもので御座(ござ)います。317(なに)しろ(うま)()ちると捨児(すてご)になるやうな不運(ふうん)なもので御座(ござ)いますから、318到底(たうてい)(この)()では()ふことは出来(でき)ますまい』
319()果敢(はか)なさを(おも)()かべて、320泥棒(どろばう)似合(にあ)はずワツと(ばか)(その)()()(たふ)れた。
321 常楠(つねくす)(くび)(かたむ)けて吐息(といき)()らして()る。322(しば)らくあつて、
323常楠(つねくす)()(まも)(がたな)一寸(ちよつと)()せて(くだ)さらぬか』
324虻公(あぶこう)『サア、325()うぞ御覧(ごらん)(くだ)さいませ』
326(ふところ)より取出(とりいだ)押戴(おしいただ)いて手渡(てわた)しする。327常楠(つねくす)()取上(とりあ)げ、328ためつ、329すかめ(さや)(はら)つてツクヅク(なが)め、
330常楠(つねくす)(まが)(かた)なき(わが)()紋所(もんどころ)331(まる)(じふ)(しる)してある。332(この)(かたな)(わし)大切(たいせつ)な、333(わか)(とき)からの守刀(まもりがたな)であつた。334()うなれば女房(にようばう)(まへ)白状(はくじやう)するが、335(じつ)(ところ)女房(にようばう)()(しの)び、336下女(げぢよ)のお(たつ)()妊娠(はらま)せ、337()むを()自分(じぶん)()(あひ)にお(たつ)(あづか)つて(もら)ひ、338()(おと)したのが(をとこ)()339女房(にようばう)悋気(りんき)(おそ)れて()()()(かへ)(わけ)にも()かず、340何処(どこ)誰人(たれ)かの(なさけ)(そだ)つであらうと、341(のち)(しるし)()(まも)(がたな)()け、342(つね)」と()(しるし)をして()きました。343アヽそれならお(まへ)(わし)()であつたか。344(わる)いことは出来(でき)ぬものだ。345(まへ)(この)(やう)悪人(あくにん)になつたのも、346みんな(わし)天則(てんそく)(そむ)いたからだ。347コレ(せがれ)348(ゆる)して()れ。349何事(なにごと)もみんな(わし)(わる)いのだから……』
350 (この)物語(ものがたり)一同(いちどう)ハツと(あき)れて、351常楠(つねくす)虻公(あぶこう)(かほ)見較(みくら)べるのみであつた。352虻公(あぶこう)常楠(つねくす)(すが)りつき、
353虻公(あぶこう)『アヽ貴方(あなた)父上(ちちうへ)(さま)御座(ござ)いましたか。354(ぞん)ぜぬこととて御無礼(ごぶれい)(いた)し、355可愛(かあい)(いもうと)まで()んな()()はして、356(まこと)申訳(まをしわけ)御座(ござ)いませぬ。357()うぞ重々(ぢうぢう)(つみ)御赦(おゆる)(くだ)さいませ』
358駒彦(こまひこ)『そんなら(わし)兄弟(きやうだい)であつたか。359これと()ふのも(まつた)神様(かみさま)御引合(おひきあは)せだ。360()(がた)し、361(かたじけ)なし』
362両手(りやうて)(あは)せ、363感謝(かんしや)(なみだ)(しづ)む。
364 お(ひさ)(また)もや(うで)()思案(しあん)()れてゐる。365(この)(てい)()常楠(つねくす)は、
366常楠(つねくす)『コレ女房(にようばう)367(こら)へて()れ。368(まへ)(いま)(はなし)()いて大変(たいへん)気嫌(きげん)(わる)うしたやうだが、369これも(わし)(つみ)だ。370あつて()ぎたことは(なん)()つても仕方(しかた)()い。371これ(この)(とほ)りだ、372(ゆる)してお()れ』
373両手(りやうて)(あは)せ、374(ひさ)(まへ)(あたま)()(あやま)らんとするを、375(ひさ)押止(おしとど)め、
376(ひさ)『コレコレ親父(おやぢ)さま、377勿体(もつたい)ない、378(なに)()はつしやるのだ。379(わたし)こそ貴方(あなた)にお(わび)をせねばならぬことが御座(ござ)います。380(わたし)白状(はくじやう)すれば(さぞ)貴方(あなた)愛想(あいさう)御尽(おつ)かしなさるでせうが、381(わたし)罪亡(つみほろ)ぼしに此処(ここ)懺悔(ざんげ)(いた)します。382(ひと)さまの(まへ)(また)(をつと)()()(まへ)で、383(とし)()つて(むかし)(はぢ)()ひたくはなけれど、384天道(てんだう)正直(しやうぢき)385何時(いつ)まで(かく)して()つても(つみ)(ほろ)びませぬから、386一応(いちおう)()いて(くだ)さい』
387(なみだ)ぐみつつ(をつと)(かほ)打看守(うちみまも)る。
388常楠(つねくす)『なアに夫婦(ふうふ)(なか)遠慮(ゑんりよ)()るものか。389(なん)でも(かま)はぬ、390(みな)()つて()れ。391(その)(はう)(たがひ)(こころ)()()つて、392何程(なにほど)愉快(ゆくわい)だか(わか)つたものぢやない』
393(ひさ)(わたし)今迄(いままで)(かく)して()りましたが、394貴方(あなた)(うち)(とつ)(まへ)若気(わかげ)いたづらから、395(おや)(ゆる)さぬ(をとこ)()一人(ひとり)()()(おと)し、396(ぢい)さまのやうに熊野(くまの)(もり)捨児(すてご)(いた)しました。397それもクリクリとした立派(りつぱ)可愛(かあい)(をとこ)()であつた。398(ぢい)さまの捨児(すてご)()はれたのを()るにつけ、399(わたし)()てた()()如何(どう)なつたであらうと(おも)へば、400()つても()ても()られなくなりました。401……アヽ()てた()よ、402無残(むざん)(はは)(うら)めて(くだ)さるな。403事情(じじやう)があつてお(まへ)()てたのだから……』
404(また)もや()(たふ)れる。405蜂公(はちこう)怪訝(けげん)(かほ)をして、
406蜂公(はちこう)『ヤア(いま)(うけたま)はれば、407()アさまは熊野(くまの)(もり)捨児(すてご)をなさつたと()ふことだ。408それは何年前(なんねんまへ)御座(ござ)いますか』
409 (ばば)(なみだ)(ぬぐ)(なが)ら、
410(ひさ)『ハイもう彼是(かれこれ)四十年(しじふねん)にもなるだらう。411(いま)()れば恰度(ちやうど)(まへ)さま(ぐらゐ)立派(りつぱ)(をとこ)になつて()(はず)ぢや。412アヽ(わし)(その)()(この)()()きて()るのなら、413(この)()名残(なご)りに一度(いちど)()()にたいものだ。414そればかりが冥途(よみぢ)(まよ)ひだ。415(わか)(とき)()(つよ)くて(なん)とも(おも)はなかつたが、416(とし)()ると捨児(すてご)(こと)(こころ)(おも)はぬ()はありませぬ。417さうしてお(まへ)さま、418()捨児(すてご)(こと)(つい)御聞(おき)(およ)びの(こと)はありませぬか』
419蜂公(はちこう)『ハイ(べつ)(なん)とも()いては()りませぬが、420(わたくし)熊野(くまの)(もり)()てられて()つたのを、421(ある)山賊(さんぞく)親分(おやぶん)()つけて、422(わたくし)大台ケ原(おほだいがはら)山砦(さんさい)()(かへ)り、423立派(りつぱ)成人(せいじん)させて()れました。424(わたくし)十八才(じふはつさい)になつた(とき)425三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)がやつて()て、426岩窟(いはや)退治(たいぢ)(いた)した(とき)生命(いのち)からがら其処(そこ)()()し、427それから諸方(しよはう)彷徨(さまよ)ひ、428女房(にようばう)()相変(あひかは)らず泥棒(どろばう)をやつて()りました。429最前(さいぜん)から貴方(あなた)御話(おはなし)()くにつけ、430(なん)だか貴方(あなた)母上(ははうへ)のやうに(おも)はれてなりませぬ』
431 お(ひさ)は、
432(ひさ)(その)(とき)(なに)(しるし)()かつたかな』
433蜂公(はちこう)『ハイ、434(わたくし)水児(みづご)(とき)()てられたので(なに)(ぞん)じませぬが、435(ひと)(はなし)()けば(まも)(がたな)()いて()つたさうです。436(しか)(その)(まも)(がたな)大台ケ原(おほだいがはら)岩窟(がんくつ)騒動(さうだう)(とき)()(おと)しました。437それには(はち)(しるし)(はい)つて()つたさうで、438(わたくし)蜂々(はちはち)()ぶやうになつたと()いて()ります』
439 お(ひさ)()びつく(ばか)りに(おどろ)いて、
440(ひさ)『アヽそれ()けばてつきり()()間違(まちが)ひありませぬ。441(なん)とした(うれ)しい(こと)一度(いちど)()()たものだらう。442コレコレ親父(おやぢ)どの、443(この)()貴方(あなた)(とつ)(まで)()でありますから、444()うぞ(ゆる)して(くだ)さい。445今迄(いままで)(つつ)んで()つた(つみ)()うぞ今日(けふ)(かぎ)(ゆる)すと仰有(おつしや)つて(くだ)さい。446御願(おねが)ひで御座(ござ)ります』
447(をつと)(むか)つて()(あは)(たの)()る。
448常楠(つねくす)『そんなことは相身互(あひみたがひ)だ。449罪人(つみびと)同志(どうし)寄合(よりあ)ひだから、450モウこれ(かぎ)今迄(いままで)(こと)(かは)(なが)し、451(あらた)めて二人(ふたり)()(わか)つた(よろこ)びの御礼(おれい)此処(ここ)神様(かみさま)奏上(そうじやう)し、452明日(あす)(はや)此処(ここ)立去(たちさ)つて熊野(くまの)御礼(おれい)(まゐ)りませう』
453 一同(いちどう)(なみだ)(まじ)りに秋彦(あきひこ)導師(だうし)(もと)に、454感謝(かんしや)祈願(きぐわん)覚束(おぼつか)()げに奏上(そうじやう)(をは)つた。455(ひがし)(そら)(あかね)さし、456金色(こんじき)燦然(さんぜん)たる太陽(たいやう)は、457晃々(くわうくわう)(うみ)彼方(あなた)より(のぼ)らせ(たま)ふ。
458大正一一・六・一一 旧五・一六 外山豊二録)