霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 空中滑走(くうちうくわつそう)〔五五九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻 篇:第2篇 幽山霊水 よみ:ゆうざんれいすい
章:第9章 第14巻 よみ:くうちゅうかっそう 通し章番号:559
口述日:1922(大正11)年03月24日(旧02月26日) 口述場所: 筆録者:藤津久子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年11月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
与太彦、六は昼なお暗い鬱蒼とした谷間に着いて、突風に飛ばされた弥次彦と勝公を探している。
与太彦と六は、二人が死んでしまったことを心配しつつ、悲しみを抑えて捜索している。谷川を渡って一町ばかり行ったところで、六は二人が大木の上にひっかかっているのを見つけた。
弥次彦と勝彦は、二人が捜索に来たことに気がついたが、弥次彦は幽霊の真似をしてからかってやろう、と言う。勝彦がたしなめるが、弥次彦は勝彦に、芝居口上を上げるように乗せる。
勝彦は乗せられて、ここが三途の川を渡った幽界であるかのような芝居口上を述べ立てた。弥次彦はふざけているうちに踏み外して、木の下に墜落して痛がっている。勝彦は芝居の口真似をしながら、竹に飛び移って降りてきた。
一同は万歳を唱える。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm1409
愛善世界社版:148頁 八幡書店版:第3輯 212頁 修補版: 校定版:154頁 普及版:70頁 初版: ページ備考:
001さしも(はげ)しき山颪(やまおろし)
002(あらし)(あと)(しづ)けさと
003天地(てんち)(ここ)(をさ)まれど
004まだ(をさ)まらぬ(むね)(うち)
005与太彦(よたひこ)六公(ろくこう)両人(りやうにん)
006小鹿峠(こしかたうげ)谷々(たにだに)
007()()()けて(さが)せども
008(こづゑ)(くら)下柴(したしば)
009(しげ)(しげ)りて(みち)もなく
010(つひ)にその()()れにけり
011(とき)しもあれや東天(とうてん)
012(くも)()()けて(のぼ)()
013(つき)(ひかり)()らされて
014四辺(あたり)(あか)るくなりければ
015 二人(ふたり)(こゑ)(かぎ)りに
016『オーイ、017オーイ、018弥次公(やじこう)ヤーイ、019勝公(かつこう)ヤーイ』
020(さけ)(こゑ)(つひ)()()てて、021(いま)(こころ)(しわ)がれの、022(こゑ)()ければ(おと)もなき、
023二人(ふたり)(とも)消息(せうそく)
024右往左往(うわうさわう)()(まよ)
025(たづ)()くこそ(あは)れなれ。
026 与太公(よたこう)027六公(ろくこう)二人(ふたり)老樹(らうじゆ)鬱蒼(うつさう)として(ひる)なほ(くら)谷間(たにま)辿(たど)()いた。
028()『オイ六公(ろくこう)029(これ)()(たづ)ねても見当(みあた)らないのだから、030もう断念(だんねん)するより仕方(しかた)があるまいなア』
031(ろく)(これ)ほど(ひろ)(やま)(なか)を、032人間(にんげん)一人(ひとり)二人(ふたり)一日(いちにち)二日(ふつか)(さが)して()(ところ)駄目(だめ)だなア。033(しか)(なが)らみすみす(とも)災難(さいなん)見捨(みす)てて(かへ)(わけ)にも()かず、034吾々(われわれ)(いき)(つづ)(かぎ)り、035所在(ありか)をつき()めて、036せめては死骸(しがい)なりと(あつ)(ほうむ)つてやり()いものだ』
037()『これ()(たづ)ねて、038()きて()つて()れれば結構(けつこう)だが、039不幸(ふかう)にして、040弥次(やじ)041(かつ)両人(りやうにん)042(あへ)なき最後(さいご)(まく)(おろ)し、043死骸(しがい)となつて(よこた)はつて()るとすれば、044本当(ほんたう)にそれこそ世話(せわ)しがひ()いワ』
045(ろく)与太(よた)サン、046ソンナ与太(よた)()つてる(どころ)か、047本真剣(ほんしんけん)になつて(くだ)さいな』
048()真剣(しんけん)とも真剣(しんけん)とも本真剣(ほんしんけん)だが、049(あま)(つか)れたので(あし)がヨタヨタ、050与太(よた)サンだよ』
051(ろく)『あれ()()んでも、052ウンともスンとも(こたへ)()いのだから(こま)つたものだ。053(あま)(えら)(かぜ)()()けられて、054弥次(やじ)055(かつ)両人(りやうにん)は、056鼓膜(こまく)(やぶ)られて、057吾々(われわれ)のこの友情(いうじやう)(こも)つた悲哀的(ひあいてき)声調(せいてう)(みみ)(てつ)しないのだらうか』
058()(なに)059あれ(くらゐ)(かぜ)に、060(みみ)鼓膜(こまく)(やぶ)れるものか、061(こと)(いと)()れたのだよ。062(こと)()れたに間違(まちが)ひない、063(こま)つた(こと)だワイ。064こと草深(くさぶか)山中(さんちう)(こと)といひ、065捜索(そうさく)するのも、066(こと)(ほか)067(ほね)()れる(こと)だ。068(これ)ほど()んでも(さけ)んでも、069コトツとも()はぬのは、070どうしたものだイ。071この(たに)のあらむ(かぎ)(ことごと)く、072(こと)(たま)発射(はつしや)をやつて()やうと(おも)へど、073どうした(こと)か、074(こゑ)()れ、075貴重(きちよう)(こと)(たま)(たちま)停電(ていでん)()たものだから、076仕様(しやう)(こと)はない、077道中(だうちう)二人(ふたり)友達(ともだち)紛失(ふんしつ)(いた)しましたと()つて、078()出別(でわけ)神様(かみさま)にどう(こと)りが()つものか。079アヽ(こま)つた(こと)だ、080コンナ(こと)()つたなら()いて()るのぢや()かつたにと()つて、081慰藉(ゐしや)()らし愚痴(ぐち)(くり)(ごと)()(かへ)し、082()べど(さけ)べど()んだ(ひと)は、083開闢(かいびやく)以来(いらい)(かへ)つたと()(こと)はまだ一度(いちど)()いた(こと)がないワイ』
084(ろく)与太公(よたこう)085アヽお(まへ)はようことことと()(をとこ)だナア、086生死(せいし)不明(ふめい)両人(りやうにん)(つかま)へて、087(まへ)最早(もはや)()んだ(もの)覚悟(かくご)()めて()るのか』
088()(みみ)(きこ)えず、089(もの)()へない(やつ)()んだ(もの)だ。090アヽ六日(むゆか)菖蒲(あやめ)091十日(とをか)(きく)だ、092(くや)んで(かへ)らぬ(こと)(なが)ら、093(こひ)しい弥次(やじ)サン(かつ)サンは、094何処(どこ)にどうして御座(ござ)るやら、095(まへ)(つれ)ない(なさけ)ない、096都合(つがふ)四人(よにん)道連(みちづ)れが、097半死半生(はんしはんしやう)()()ふて、098どうして(これ)()かずに()られうか。099アヽ(わたし)一所(いつしよ)(ころ)して(くだ)さんせ、100()()いわいなと(ばか)りにて、101(いのち)(をし)まぬ武家(ぶけ)(そだ)ち、102シヤンシヤンシヤンか』
103(ろく)『エヽ与太公(よたこう)104ヨタを()ふにも(ほど)がある(わい)105もつと真面目(まじめ)にならないか』
106()真面目(まじめ)になつても、107ならいでも(おな)(こと)だよ、108()んだ(もの)は、109どうしたつて(かへ)つて()(ためし)()い、110(おれ)(あんま)(こころ)(さび)しく(かな)しくなつて()たので、111()まぐれに、112莫迦口(ばかぐち)(たた)いて()るのだ。113何処(どこ)友達(ともだち)災難(さいなん)()(よろこ)(もの)があらうかい。114三五教(あななひけう)(をしへ)には、115取越(とりこし)苦労(ぐらう)過越(すぎこし)苦労(ぐらう)はいたすなよ、116(いさ)んで(くら)せ、117刹那心(せつなしん)大切(たいせつ)だ、118刹那(せつな)のその刹那(せつな)こそ吾々(われわれ)意志(いし)のまま、119自由(じいう)行動(かうどう)勢力(せいりよく)範囲(はんゐ)だ。120一分間(いつぷんかん)(まへ)最早(もはや)過去(くわこ)(ゆめ)となつて、121どうしても逆転(ぎやくてん)させる(わけ)には()かず、122一分間(いつぷんかん)(あと)(こと)人間(にんげん)自由(じいう)になるものではない、123何事(なにごと)神様(かみさま)自由(じいう)意志(いし)(まま)だ。124()()つて()()も、125無情(むじやう)(かぜ)とやらの悪魔(あくま)吾々(われわれ)身辺(しんぺん)()えず()(ねら)ふて()るのだ。126弥次(やじ)127(かつ)二人(ふたり)友達(ともだち)(じつ)無情(むじやう)至極(しごく)烈風(れつぷう)(さそ)はれて(これ)生死(せいし)(ほど)(あきら)かならず、128吾々(われわれ)はこうして両人(りやうにん)(めぐ)()ひ、129ヤア()つたか()つたか、130結構(けつこう)々々(けつこう)131(まめ)御無事(ごぶじ)でお達者(たつしや)で、132(うる)はしき御尊顔(ごそんがん)(はい)吾々(われわれ)()()つて、133恐悦(きようえつ)至極(しごく)(ぞん)(たてまつ)ります。134やア(これ)(これ)与太公(よたこう)六公(ろくこう)か、135()所在(ありか)(たづ)ね、136よくも難路(なんろ)()()え、137(さが)しに()()れた、138大儀(たいぎ)々々(たいぎ)139()満足(まんぞく)(おも)ふぞよ。140褒美(ほうび)には、141これを(つか)はすと()つて、142鼻糞(はなくそ)万金丹(まんきんたん)でも、143ヱンリンのアンカン(たん)でも御下賜(ごかし)あるに(きま)つて()ると予算(よさん)()てて()つて()(ところ)が、144算用(さんよう)()ふて(ぜに)()らず、145予算外(よさんぐわい)支出(ししゆつ)超過(てうくわ)で、146さつぱり二人(ふたり)友達(ともだち)破産(はさん)申請(しんせい)147身代(しんだい)(かぎ)りの処分(しよぶん)()けて、148可愛(かあい)妻子(つまこ)をふり()て、149十万億土(じふまんおくど)冥途(めいど)とやらいふ(くに)移住(いぢう)でもして()つたら、150その(とき)こそ、151折角(せつかく)()()めし(こころ)(つな)も、152(たの)みの(いと)()()てて、153()いても(くや)んでも(かへ)らぬ悲惨(ひさん)(まく)打付(ぶつつ)かるかも()れやしない。154その(とき)なにほど失望(しつばう)落胆(らくたん)したつて駄目(だめ)だよ。155アヽコンナことを(おも)ふよりも、156日頃(ひごろ)信仰(しんかう)(ちから)によつて強圧的(きやうあつてき)刹那心(せつなしん)発揮(はつき)し、157われと吾心(わがこころ)(こま)慰藉(ゐしや)(あた)へて()るのだよ。158陽気(やうき)浮気(うはき)無駄口(むだぐち)()へるかい。159()(せみ)よりも()かぬ(ほたる)()(こが)す。160嗚呼(ああ)それにしても、161あの元気(げんき)弥次彦(やじひこ)(かほ)がもう一度(いちど)(をが)みたい。162勝公(かつこう)勝公(かつこう)ぢや、163折角(せつかく)164(いはや)(なか)から(たす)けられ、165(わづ)半日(はんにち)(たた)(うち)に、166無情(むじやう)(かぜ)(さそ)はれて、167()()(ごと)()()らされ、168(けむり)となつて()ゆるとは、169(なん)たる因果(いんぐわ)(うま)(つき)だらう。170(おも)へば(おも)へば矢張(やつぱり)(かな)しいワイ。171刹那心(せつなしん)(やつ)172どうやら屁古垂(へこた)れさうになつて()たワイ。173アーンアーンアーンアーンアーン、174ウーンウンウンウン』
175(ろく)日天様(につてんさま)はニコニコと御機嫌(ごきげん)()く、176(やま)()をお(のぼ)りなさつて吾々(われわれ)(かしら)()らして(くだ)さるが、177(こころ)(うち)(くも)(つつ)まれ、178(なみだ)(あめ)夕立(ゆふだち)()りしきり、179何共(なんとも)()へぬ(さび)しい(こと)だ。180人間(にんげん)といふ(もの)は、181あかぬものだな。182昨日(きのふ)まで、183(おに)でも(ひし)(やう)元気(げんき)で、184機嫌(きげん)()はしやい()つた二人(ふたり)友達(ともだち)は、185(いま)生死(せいし)(わか)らず九分九厘(くぶくりん)までは()()()つたものと(あきら)めねばならぬ破目(はめ)になつて()た、186(わし)昨日(きのふ)まで、187ウラル(けう)宣伝使(せんでんし)であつたが、188(やうや)三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)したと(おも)へば、189弥次彦(やじひこ)190勝公(かつこう)(わか)れて(しま)ふし、191(なん)だか()らぬが昨日(きのふ)から交際(つきあ)ふた(ひと)とは()うしても(おも)はれない、192十年(じふねん)二十年(にじふねん)(むかし)から交際(つきあ)ふた(やう)()がする。193()()ひになつてから、194三日(みつか)()たぬ(おれ)でさへも之丈(これだ)(かな)しいのだもの、195与太公(よたこう)は、196(なが)(あひだ)馴染(なじみ)197(まへ)(こころ)(さつ)するよ』
198()『アヽ仕方(しかた)がない。199此処(ここ)屁古垂(へこた)れずに、200もう一遍(いつぺん)201大捜索(だいさうさく)をやつて()やうか、202因縁(いんねん)があれば、203神様(かみさま)両人(りやうにん)()はして(くだ)さるだらう、204たとへ死骸(しがい)なり(とも)205もう一目(ひとめ)()ふて、206二人(ふたり)先途(せんど)見届(みとど)けて()かねばならない。207エヽ怪体(けたい)(わる)(からす)()(ごゑ)だ、208益々(ますます)()(かか)るワイ』
209(ろく)『オーほんにほんに(むか)ふの谷間(たにま)大木(たいぼく)(えだ)沢山(たくさん)(からす)()まつて()いてゐるなア。210ハテ、211こいつは(あや)しいぞ、212(なん)だか人間(にんげん)着物(きもの)らしい(もの)が、213(こづゑ)()えるぢやないか、214()てみよ』
215 与太公(よたこう)両手(りやうて)親指(おやゆび)人差指(ひとさしゆび)にて()(こしら)(なが)眼鏡(めがね)(ごと)くに、216左右(さいう)()にピタリと(あて)がひ、217(からす)(むら)がり()樹木(じゆもく)(えだ)()(そそ)いだ。
218()『ヤアあれは的切(てつきり)219弥次公(やじこう)220勝公(かつこう)着物(きもの)だぞ。221天狗(てんぐ)(やつ)222(また)から引裂(ひきさ)きよつて、223着物(きもの)()()けて()きよつたな、224エヽ忌々(いまいま)しい、225しかしながら着物(きもの)でも(かま)はぬ、226友達(ともだち)形見(かたみ)だと(おも)へば()い、227(ひと)()()根元(ねもと)()つて調(しら)べて()やう、228あの(した)(あた)りに、229死骸(しがい)となつて(よこた)はつて()まいものでもないワ、230()れが第一(だいいち)231()きて()るのだつたら、232(からす)(こゑ)(きこ)えるだらうから、233俺達(おれたち)言霊(ことたま)(きこ)える道理(だうり)だ。234(ひと)(ちから)(かぎ)(さけ)んで()やうか』
235(ろく)(さけ)ばうと()つたつて(こゑ)原料(げんれう)根絶(こんぜつ)したのだから仕方(しかた)がない。236(むか)ふが(からす)よりもこちらが(こゑ)からすだ、237二人(ふたり)此様(こん)(ところ)で、238とり()めもない、239とりどりの(うはさ)をして()るよりも、240とり(あへ)ず、241手取早(てつとりばや)く、242()()(もと)とり()いて調(しら)べて()やうかい。243万一(まんいち)あの()(もと)に、244死骸(しがい)一人(ひとり)でも二人(ふたり)でもあつたならば、245(おれ)()女房(にようばう)(かは)役者(やくしや)となつて、246これこれ弥次(やじ)サン(かつ)サンヘ、247()ひたかつた、248()たかつた、249(かほ)手足(てあし)取付(とりつ)いて、250前後(ぜんご)不覚(ふかく)(なげ)きつつ、251取乱(とりみだ)したるその(あは)れさ、252ヂヤンヂヤンヂヤンヂヤン』
253()(おれ)真似(まね)(ばか)りするない。254ソンナ(どころ)かい、255さア駆足(かけあし)だ』
256 樹木(じゆもく)(しげ)れる(なか)を、257(いばら)引掛(ひつかか)り、258蜘蛛(くも)()にまとはれ(なが)ら、259(やうや)くにして谷川(たにがは)(ふち)()いた。
260()『ヤア、261折悪(をりあ)しく、262(かは)(むか)ふの(まつ)大木(たいぼく)だ、263この急潭(きふたん)をどうして(わた)らうかな、264アヽ昨日(きのふ)今日(けふ)飛鳥川(あすかがは)265(かは)浮世(うきよ)といひ(なが)ら、266有為転変(うゐてんぺん)も、267ここまで()つたら、268徹底(てつてい)して()(わい)269この(かは)淵瀬(ふちせ)がどうして(わた)られやうぞ。270オイ六公(ろくこう)271(なん)とか()(かんが)へは()ないかいのう』
272(ろく)(おれ)(かんが)へは(ただ)刹那心(せつなしん)あるのみだ。273この谷川(たにがは)()()んで、274土左衛門(どざゑもん)になつたら、275その(とき)はもう仕方(しかた)()い。276弥次公(やじこう)277勝公(かつこう)(あと)()ふて一所(いつしよ)仲宜(なかよ)く、278死出(しで)三途(さんづ)同行(どうぎやう)四人(しにん)だ』
279()ふより(はや)く、280六公(ろくこう)着物(きもの)()(まま)281ザンブと(ばか)谷川(たにがは)()()んだ。
282()『アツ六公(ろくこう)め、283()(はや)(やつ)だ、284エヽ(おれ)(やぶ)れかぶれだ』
285(また)もや、286ザンブと()(をど)らして、287青淵(あをふち)目蒐(めが)けて()()んだ。288(をり)よく(なが)(わた)りに向岸(むかふがは)無事(ぶじ)()(あが)(こと)()た。
289(ろく)『アヽお(かげ)(かは)(わた)りは成功(せいこう)した。290与太公(よたこう)もやつたのか、291(えら)いなア』
292()(えら)いの(えら)くないのつて、293(はな)から(くち)から、294(みづ)充満(いつぱい)()んだものだから、295(いき)()まりさうにあつたよ、296(しかし)ながら、297()うぬれねずみでは、298着物(きもの)(あし)(まく)()いて(ある)(こと)出来(でき)はしない、299(ひと)大圧搾(だいあつさく)をやつて、300荒水(あらみづ)()つて着替(きか)へて()かうか。301ヤア六公(ろくこう)(やつ)302(はや)何処(どこ)かへ()きよつたナ』
303 六公(ろくこう)一丁(いつちやう)(ばか)(むか)ふの()(しげ)みから、
304(ろく)『オーイ、305与太公(よたこう)306此処(ここ)此処(ここ)だ、307オーイ、308弥次公(やじこう)309勝公(かつこう)310(おれ)此処(ここ)だヨウ』
311()(なん)幽霊(いうれい)()まで()んでゐよる。312冥土(めいど)()つた弥次(やじ)313(かつ)()ぜて(おれ)()()ばれて(たま)るものかい。314顕幽(けんいう)混交(こんかう)だ、315縁起(えんぎ)(わる)い。316(しか)しながら、317(おれ)三途(せうづ)(かは)()()んで、318最早(もはや)娑婆(しやば)(ひと)ではないのかな。319(なに)()もあれ、320六公(ろくこう)(しき)りに()()るから、321ともかく()つて()やう』
322(ひと)()ちつつ(こゑ)目当(めあ)てに(のぼ)つて()る。
323()『ヤア六公(ろくこう)324どうだ、325目的(もくてき)(ぬし)御健全(ごけんぜん)かな』
326(ろく)『どうやら、327姿(すがた)だけは(のこ)つてゐるらしいぞ。328(なん)()んでも、329返事(へんじ)はせないから、330生死(せいし)(ほど)(たし)かにそれとは(はか)()ねる。331(あが)つて()やうと(おも)つた(ところ)で、332コンナ大木(たいぼく)で、333どうする(こと)も、334()うする(こと)出来(でき)やしない、335末期(まつご)(みづ)もよう()んで(もら)はずに()んだかと(おも)へば今更(いまさら)(やう)(おも)はれて、336(おれ)はもう(かな)しいわいやい、337アーンアーンアーンアーン』
338()(なに)メソメソ吠面(ほえづら)かわくのだい、339末期(まつご)(みづ)はなく(とも)340松ケ枝(まつがえ)()んだのだもの(まつ)(つゆ)(くらゐ)()んで()んだらう、341()んで(しま)つてから(なに)()つたつて仕方(しかた)がない。342これからは、343二人(ふたり)弥次(やじ)344(かつ)(とむら)合戦(がつせん)をやるのだ、345二人(ふたり)()つて四人前(よにんまへ)(はたら)きをすれば、346二人(ふたり)亡者(まうじや)も、347(めい)するであらう。348もう()うなれば、349追善(つゐぜん)()めに、350各自(めいめい)二人前(ににんまへ)(はたら)きをするより、351二人(ふたり)(れい)(なぐさ)めてやる方法(はうはふ)()いワ』
352 (まつ)(うへ)より(かす)かな(こゑ)で、
353()『オーイ与太公(よたこう)か、354六公(ろくこう)か、355与太六(よたろく)
356()『ヤア、357(まへ)弥次彦(やじひこ)か、358勝公(かつこう)か、359()んだらもう仕方(しかた)がない、360(あと)(おれ)引受(ひきう)けて女房(にようばう)までも都合(つがふ)()世話(せわ)してやるワ。361(まよ)ふな(まよ)ふな。362娑婆(しやば)執着心(しふちやくしん)をサラリと()つて極楽(ごくらく)(まゐ)りをしてくれ』
363()『(小声(こごゑ)で)オイ勝公(かつこう)364(かげ)でこの(まつ)大木(たいぼく)(たす)けられて()()いたと(おも)へば、365与太(よた)366(ろく)(やつ)367(おれ)たちを亡者(まうじや)間違(まちが)へよつて、368アンナ(こと)()つて()よる。369(ひと)此処(ここ)まで、370軽業(かるわざ)芸当(げいたう)をやつたのだから、371このまま()りるのも(なん)だか、372変哲(へんてつ)がない、373(ひと)亡者(まうじや)真似(まね)でもして、374一芝居(ひとしばい)やつて()やうかな』
375(かつ)『お(まへ)376よつぽど(はら)(わる)(やつ)だナ、377可愛想(かあいさう)二人(ふたり)友達(ともだち)が、378泣声(なきごゑ)()して(さが)しに()()るのに(つみ)(こと)をするものちやないワ』
379()『それでも勝公(かつこう)380(すんで)(すんで)に、381(おれ)たちを亡者(まうじや)(あつか)ひにして()るのだもの、382このまま(すま)しちや、383折角(せつかく)芝居(しばゐ)のハネ(ぐち)(わる)いぢやないか。384ハネ太鼓(だいこ)()るまで一寸(ちよつと)演劇(えんげき)気分(きぶん)になつたらどうだ、385オイ勝公(かつこう)386(まへ)芝居(しばゐ)下手(へた)なら口上(こうじやう)()ひにならぬか、387拍子木(へうしぎ)(かは)りに、388両手(りやうて)(たた)いて、389客様(きやくさま)口上(こうじやう)申上(まをしあ)げるのだ』
390(かつ)『さうだ、391一寸(ちよつと)口上(こうじやう)()つて見様(みやう)かな。392東西々々(とうざいとうざい)393今晩(こんばん)御覧(ごらん)()れまする狂言(きやうげん)芸題(げいだい)()は、394小鹿峠(こしかたうげ)大風(おほかぜ)(だん)より三途(せうづ)(かは)395死出(しで)(やま)396脱衣婆(だついばば)弥次彦(やじひこ)談判(だんぱん)(こころ)みる一条(いちでう)より(あと)(のこ)つた、397与太(よた)398(ろく)といふ二人(ふたり)腰抜(こしぬ)野郎(やらう)が、399泣面(なきづら)かはいてその(あと)(たづ)ね、400三途(せうづ)(かは)向岸(むかう)(まつ)大木(たいぼく)根元(ねもと)において(なげ)(くる)愁歎場(しうたんば)を、401大切(おほぎり)(いた)しまして御高覧(ごかうらん)(きよう)しまする。402何分(なにぶん)(にはか)芝居(しばゐ)(こと)にございますれば、403神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)見直(みなほ)()(なほ)し、404あれは()(くらゐ)(もの)405(これ)()(くらゐ)(もの)とお(ゆる)(くだ)さいまして、406(ぢい)サンもお(ばあ)サンもお子供(こども)(しう)も、407近所(きんじよ)(となり)(さそ)(あは)賑々(にぎにぎ)しく、408御来場(ごらいぢやう)御観覧(ごくわんらん)(くだ)さらむ(こと)を、409(ひとへ)(こひねが)()(たてまつ)ります、410チヤンチヤン』
411()『オイ六公(ろくこう)412()(なか)(かは)れば(かは)るものだな、413芝居(しばゐ)といふものは娑婆(しやば)()けのことかと(おも)へば、414幽界(いうかい)()ても、415やつぱり芝居(しばゐ)があると()える(わい)416なにほど幽界(いうかい)(さび)しいと()つても、417芝居(しばゐ)さへ()せて()れれば、418ちつとは気保養(きほやう)出来(でき)るといふものだ、419変性男子(へんじやうなんし)閻魔(えんま)サンが御代(おかは)りになつてからと()ふものは、420地獄(ぢごく)(なか)も、421余程(よつぽど)寛大(くわんだい)になつたといふ(こと)を、422神憑(かむがかり)(くち)(つう)じて()いて()たが、423如何(いか)にも(かは)つたものだ、424民権(みんけん)発達(はつたつ)といふものは、425地獄(ぢごく)(そこ)まで影響(えいきやう)(およ)ぼし、426今度(こんど)閻魔(えんま)サンは、427民主(みんしゆ)主義(しゆぎ)になられたと()えるな』
428(ろく)与太公(よたこう)429(なに)()ふてゐるのだい、430ここは三途(せうづ)(かは)じやないぞ、431小鹿峠(こしかたうげ)谷間(たにあひ)ぢやないかい、432(かつ)(やつ)433()()になつて、434アンナ亡者(まうじや)芝居(しばゐ)真似(まね)をさらしよるのだよ。435莫迦(ばか)莫迦(ばか)しい(わい)
436()否々(いやいや)そう早合点(はやがつてん)をするものぢやない、437(おれ)一旦(いつたん)438谷底(たにそこ)()()んだ(とき)沢山(たくさん)(みづ)()んで、439()(とほ)くなり、440(おほ)きな(かは)(およ)いだ(やう)()がする、441(ばば)姿(すがた)()えなかつたが(なん)でも(ふか)(おほ)きな(かは)だつたよ』
442(ろく)(とぼ)けない、443(いま)この(かは)(わた)つたとこぢやないか、444(おれ)(けつ)して亡者(まうじや)ではないぞ。445貴様(きさま)(おれ)一所(いつしよ)(わた)つたのだから、446矢張(やつぱ)娑婆(しやば)人間(にんげん)だ。447オイ、448松葉(まつば)天狗(てんぐ)弥次公(やじこう)449勝公(かつこう)450(はや)()りて()ないかい、451ソンナ(とこ)()()き、452(はな)()き、453芝居(しばゐ)をやつて()ると、454真逆様(まつさかさま)顛倒(てんたふ)して、455それこそ今度(こんど)は、456真正(ほんとう)亡者(まうじや)にならねばならぬぞ。457()加減(かげん)()りて()ないかい。458貴様(きさま)仕様(しやう)もない(こと)(ぬか)すものだから、459与太公(よたこう)(やつ)460亡者(まうじや)気分(きぶん)になりよつて(こま)つて(しま)ふワ』
461()『((つく)(ごゑ)して)ウラメシヤー、462無情(むじやう)(かぜ)(さそ)はれて、463小鹿峠(こしかたうげ)十八坂(じふはちさか)(うへ)まで()(ところ)が、464無惨(むざん)やナー、465(はな)半開(はんかい)にして()り、466(つき)半円(はんゑん)にして(くも)(つつ)まる、467有為転変(うゐてんぺん)()(なか)とは()(なが)ら、468(おも)ひもよらぬ冥土(めいど)(たび)469一度(いちど)女房(にようばう)(かほ)()たい(わい)のー。470それに()いても(うら)めしいのは、471なぜ与太公(よたこう)六公(ろくこう)冥土(めいど)(たび)()れて()なかつただらう。472三途川(せうづがは)鬼婆(おにばば)()(ぬか)(こと)には、473貴様(きさま)友達(ともだち)甲斐(がひ)のない(やつ)ぢや、474なぜ与太公(よたこう)475六公(ろくこう)見捨(みす)てて()たか、476水臭(みづくさ)(やつ)ぢや、477一度(いちど)(かへ)つて(さそ)ふて()いと(ぬか)しよつた。478アヽ仕方(しかた)がない………(あと)(のこ)つた与太公(よたこう)六公(ろくこう)(やつ)479弥次彦(やじひこ)勝彦(かつひこ)(つれ)ない(やつ)ぢや、480何故(なぜ)俺達(おれたち)(のこ)して冥途(めいど)(たび)をしたのかー、481この(うら)みは()んでも(わす)れは(いた)さぬと、482小鹿山(こしかやま)森林(しんりん)娑婆(しやば)亡者(まうじや)となつて(まよ)ふてゐるぞよ。483(はや)貴様(きさま)娑婆(しやば)入口(いりぐち)まで引返(ひきかへ)し、484(まつ)()(えだ)から、485(まね)いて()いと()()つた。486アンナ頑固(ぐわんこ)腰抜(こしぬ)野郎(やらう)と、487冥土(めいど)(たび)をしたなれば、488(さぞ)(さぞ)厄介(やくかい)のかかる(こと)であらう(ほど)に、489エヽ三途(せうづ)(かは)鬼婆(おにばば)(きこ)えぬわいのー、490ホーイ ホーイ』
491(ろく)『コラ弥次公(やじこう)492(なに)誣戯(ふざ)けた真似(まね)をしよるのだい、493()(ぞこな)()が、494(はや)()りぬかい』
495()『オーイ弥次公(やじこう)496三途(せうづ)(かは)(ばば)(なん)()ふたのか()らないけれど、497与太公(よたこう)娑婆(しやば)大病(たいびやう)(かか)つて(あし)()たぬから(しば)らく猶予(いうよ)をしてやつて(くだ)さいと(たの)んで()れえやい。498(おれ)はその(かは)りに、499貴様(きさま)冥福(めいふく)(いの)つて、500朝晩(あさばん)鄭重(ていちよう)(とむら)ひをしてやる(ほど)に、501何卒(どうぞ)()アサンにその(ところ)(よろ)しう取做(とりな)しを(ねが)ふぞやー、502ホーイ ホイホイ』
503(ろく)『ヤア此奴(こいつ)また(あや)しうなつて()たぞ、504与太公(よたこう)(まる)六道(ろくだう)(つじ)()(やう)なものだ、505エヽ(くそ)ツ、506面白(おもしろ)くもない、507娑婆(しやば)幽霊(いうれい)(やつ)が。508オイ弥次公(やじこう)509勝公(かつこう)よい加減(かげん)()りぬかい』
510(かつ)『ポンポン、511東西々々(とうざいとうざい)ただ(いま)御高覧(ごかうらん)()れましたる一条(いちでう)は、512冥土(めいど)より娑婆(しやば)亡者(まうじや)(むか)への(だん)513首尾(しゆび)よくお()()まりますれば、514(つぎ)なる一幕(ひとまく)御覧(ごらん)()(たてまつ)りまーす』
515(ろく)『エヽ、516陰気(いんき)(くさ)い。517()りな()りいで()いワ、518此処(ここ)都合(つがふ)()竹竿(たけざを)がある、519(これ)貴様(きさま)(しり)をグサと(いも)ざしに()してやるから左様(さう)(おも)へ。520オイ与太公(よたこう)521貴様(きさま)手伝(てつだ)はぬかい、522たとへ亡者(まうじや)にした(ところ)(あま)りな(こと)(ぬか)(やつ)だ、523()いてやるのだ、524恰度(ちやうど)竿(さを)二本(にほん)ある、525(あつら)(むき)二本(にほん)()いてあるワ、526オイあの(けつ)目蒐(めが)けてグサツと()くのだぞ』
527()アナオソロシヤナー、528アナオカシヤナー、529()かれたらアナ(いた)やナー、530あな(かしこ)あなかしこ。531ヒユードロドロドロドロドロ』
532 ()(こし)(あた)りにブラリと()げ、533調子(てうし)()つて(まつ)小枝(こえだ)をスルスルと(ある)いた途端(とたん)()(はづ)してズル ズル ズル ズル ズル ドターン。
534()『イヽヽイツターイ』
535(ろく)流石(さすが)弥次彦(やじひこ)だ、536空中滑走(くうちうくわつそう)をやつて、537御無事(ごぶじ)御着陸(ごちやくりく)538今度(こんど)はお(つぎ)(ばん)だよ。539勝公(かつこう)滑走(くわつそう)滑走(くわつそう)だ』
540(かつ)東西々々(とうざいとうざい)541只今(ただいま)弥次彦(やじひこ)幽霊(いうれい)となつて中空(ちうくう)浮遊(ふいう)(まつ)根元(ねもと)着陸(ちやくりく)いたしました。542滑走(くわつそう)芸当(げいたう)543()()まりましたなれば、544(みな)サンお()()つて御喝采(ごかつさい)(ねが)ひまーす』
545(ろく)『コラ勝公(かつこう)546弥次彦(やじひこ)(こし)()いて冥土(めいど)旅行(りよかう)をしかけて()るのに(なに)をグズグズやつて()るのだ。547()加減(かげん)()りて()ぬかい』
548(かつ)東西々々(とうざいとうざい)549これから第三段目(だいさんだんめ)御覧(ごらん)()れまーす。550飛行機(ひかうき)()つて勝彦(かつひこ)無事(ぶじ)着陸(ちやくりく)551()()まりますれば今晩(こんばん)()れにて、552千秋楽(せんしうらく)(いた)しまする』
553()ふより(はや)く、554コンモリとした(まつ)小枝(こえだ)より(かたはら)(たけ)(しん)目蒐(めが)けて()()いた。555(たけ)満月(まんげつ)(ごと)(ゆみ)となつてフウワリと大地(だいち)勝公(かつこう)()ろした。
556(かつ)『お(かげ)(いのち)だけは、557どうやら、558此方(こつち)(もの)になつたらしいと(おも)ひます。559藪竹(やぶたけ)サン、560左様(さやう)なら』
561(つか)んだ(たけ)(はな)せば、562(たけ)(うな)りを()てて()(なほ)る。
563()『オイ与太公(よたこう)564貴様(きさま)こそ本真物(ほんまもの)か』
565()(なん)だか生死(せいし)不明(ふめい)境涯(きやうがい)だ』
566(ろく)『エヽ(こま)つた(やつ)道連(みちづ)れをしたものだワイ』
567()『アヽどうやら(こし)()けたのでは()かつたさうだ、568アハヽヽヽヽヽ』
569(かつ)吾々(われわれ)不都合(ふつがふ)芸当(げいたう)御覧(ごらん)()れましたにも(かか)はらず、570神妙(しんめう)御覧(ごらん)(くだ)さいまして、571勧進元(くわんじんもと)(まを)すに(およ)ばず役者(やくしや)一同(いちどう)有難(ありがた)御礼(おんれい)申上(まをしあ)げます、572また御暇(おひま)がございましたら、573来年(らいねん)(はる)574また一座(いちざ)()きつれて(みな)サンにお()(かか)らうやも()れませぬから、575永当々々(えいたうえいたう)576倍旧(ばいきう)御贔屓(ごひいき)(ひとへ)二重(ふたへ)七重(ななへ)(ひざ)八重(やへ)()り、577かしこみかしこみ(ねが)()(たてまつ)ると(まを)す、578惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
579一同(いちどう)『アハヽヽヽヽ、580目出度(めでた)いお目出度(めでた)い、581(よみがへ)つた(よみがへ)つた、582千秋(せんしう)万歳(ばんざい) 万々歳(ばんばんざい)
583大正一一・三・二四 旧二・二六 藤津久子録)