霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 山上(さんじやう)幽斎(いうさい)〔五六三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻 篇:第3篇 高加索詣 よみ:こーかすまいり
章:第13章 山上幽斎 よみ:さんじょうゆうさい 通し章番号:563
口述日:1922(大正11)年03月25日(旧02月27日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年11月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
一行はコーカス山に向かって、小鹿峠の二十三坂の上にやってきた。ここは広い高原になっている。清浄な場所のように思え、一同は気分よく休息している。与太彦は勝彦に、このような清い場所で、鎮魂帰神の法を授けてくれ、と頼み込む。
勝彦は、ここでは水がなくて禊ぎを行えないから、と言って難色を示す。弥次彦、与太彦はしきりに勝彦を説得する。ついに勝彦は承諾して、幽斎を行うことになった。
弥次彦はたちまち神懸りになって、空中に浮遊すると、空高く浮いてしまった。勝彦は指から霊光を発射して、弥次彦の体を制している。
与太彦と六公はそれをみてすっかり感心してしまう。勝彦も自分の神力にやや慢心の態を見せている。勝彦は、今のは木常姫の悪霊が弥次彦にかかったのを、最終的に追い出したのだ、と解説する。
しかし与太彦と六公は、悪神でも何でもよいから、自分たちも空中滑走をやってみたい、と言い出す。勝彦は、人間は大地に足をしっかりつけて活動しなければならない、と諭すが、三人は聞かず、三人とも邪神に憑かれて発動してしまう。
発動した三人は、勝彦の周りを飛びながら迫ってくる。勝彦は言霊や霊光を発射して抵抗するが、効かずに苦しめられる。すると、中空から馬に乗って、日の出神ら宣伝使一行が現れた。
日の出神らは金幣を打ち振って邪神を追い払うと、三人はたちまち正気に返った。勝彦は懺悔の言葉を述べて過ちを悔いると、日の出神は一言も発せずにうなずき、また天に姿を隠した。
一同は二十三坂上での幽斎を反省し、進んでようやく二十五番坂上に着いた。すると、またもや暴風が吹き荒れて四人の体は舞い上がり、谷底に吹き落とされた、と思うと、瑞月は目を覚ました。見れば、藪医者が自分を診断している。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:203頁 八幡書店版:第3輯 233頁 修補版: 校定版:210頁 普及版:96頁 初版: ページ備考:
001 (しこ)魔風(まかぜ)様々(さまざま)の、002()誘惑(いうわく)勝彦(かつひこ)の、003(かみ)使(つかひ)宣伝使(せんでんし)は、004弥次彦(やじひこ)005与太彦(よたひこ)006六公(ろくこう)三人(さんにん)(とも)なひ、007小山(こやま)(さと)打過(うちす)ぎて、008二十(はたち)(さか)()()えし、009(たうげ)(いただ)きに(やうや)(のぼ)()いた。
010 この(たうげ)(いただ)きは今迄(いままで)過来(すぎき)各峠(かくたうげ)頂上(ちやうじやう)引換(ひきか)へて大変(たいへん)(ひろ)高原(かうげん)になつて()る。011小鹿川(こしかがは)(なが)れは眼下(がんか)山麓(さんろく)を、012白布(しろぬの)(さら)した(ごと)く、013(いは)(いは)とにせかれて飛沫(ひまつ)()ばして()る。014山腹(さんぷく)(ほと)んど(いは)(もつ)(おほ)はれ、015灌木(くわんぼく)其処彼処(そこかしこ)青々(あをあを)として、016(いは)(いは)配合(はいがふ)を、017優美(いうび)高尚(かうしやう)色彩(いろど)つて()る。
018()小鹿峠(こしかたうげ)(やうや)二十三坂(にじふさんさか)跋渉(ばつせふ)したが、019この頂上(ちやうじやう)くらゐ(ひろ)(ところ)()かつた。020東西南北(とうざいなんぽく)遠近(ゑんきん)(やま)021茫漠(ばうばく)たる原野(げんや)一望(いちばう)(もと)(よこ)たはり、022(かぜ)(きよ)く、023(なん)となく(はる)気分(きぶん)(ただよ)ふて()た。024此処(ここ)吾々(われわれ)はゆつくりと休養(きうやう)して(まゐ)(こと)(いた)しませうか』
025(かつ)『アヽそれは()からう、026この頂上(ちやうじやう)より四方(よも)(なが)めた(とき)気分(きぶん)は、027(じつ)雄渾(ゆうこん)快濶(くわいくわつ)にして、028宇宙(うちう)我手(わがて)(にぎ)つたやうな按配式(あんばいしき)だ。029ゆるゆると神界(しんかい)(はなし)でもさして(いただ)かうか、030()()(きよ)(ところ)では、031何程(なにほど)神界(しんかい)秘密(ひみつ)(はな)した(ところ)で、032滅多(めつた)曲津神(まがつかみ)襲来(しふらい)する(おそれ)もなからう』
033()(なが)ら、034青芝(あをしば)(うへ)(こし)(おろ)した。035三人(さんにん)(おな)じく、036芝生(しばふ)(うへ)(よこ)たはつた。
037()『アヽ()気分(きぶん)だ。038何時(いつ)()ても、039頂上(ちやうじやう)(きは)めた(とき)心持(こころもち)はまた格別(かくべつ)だが、040今日(けふ)殊更(ことさら)気分(きぶん)()い。041()()(とき)(ひと)幽斎(いうさい)修業(しうげふ)(はじ)めたら、042キツト()神様(かみさま)感合(かんがふ)して(くだ)さるでせう、043………もし宣伝使(せんでんし)(さま)044一同(いちどう)此処(ここ)三五教(あななひけう)鎮魂(ちんこん)帰神(きしん)神法(しんぱふ)(ほどこ)して(くだ)さいませぬか』
045(かつ)『それは結構(けつこう)だが、046生憎(あひにく)高地(かうち)(こと)とて、047(みづ)()し、048()(あら)(くち)をすすぎ、049(みづ)(かぶ)ると()(こと)出来(でき)ないから……第一(だいいち)()れには閉口(へいこう)だ』
050()神様(かみさま)(をしへ)にも、051()(あか)風呂(ふろ)湯槽(ゆぶね)(あら)(ども)052(あら)()れぬは(たま)(あか)なり」と(しめ)されてある、053たとへ(みづ)()くとも、054神様(かみさま)(ひと)御免(ごめん)(かうむ)つて、055身魂(みたま)洗濯(せんたく)をして(もら)(わけ)にはゆきますまいか。056(みづ)肉体(にくたい)(あか)(あら)(おと)(だけ)のもの、057鎮魂(ちんこん)精神(せいしん)(あか)(おと)すものですから、058今日(けふ)肉体(にくたい)(やむ)()ずとして、059(みたま)(だけ)洗濯(せんたく)をして(もら)ひませうか……ナア与太彦(よたひこ)060六公(ろくこう)
061()『それも(ひと)つの真理(しんり)だ……もしもし勝彦(かつひこ)宣伝使(せんでんし)062あなたは古参者(こさんしや)だ、063吾々(われわれ)新参者(しんざんもの)064どうぞ(ひと)鎮魂(ちんこん)(ねが)つて(くだ)さいな』
065(かつ)霊肉一致(れいにくいつち)066現幽一本(げんいういつぽん)だから、067理屈(りくつ)()へば、068(べつ)水行(すゐぎやう)をせなくつても、069(れい)さへ(あら)へば()いと()(やう)なものだが、070矢張(やつぱり)(きたな)肉体(にくたい)には(うつく)しい(みたま)(かみ)(うつ)(こと)は、071到底(たうてい)不可能(ふかのう)だらう。072コンナ(ところ)漫然(うつかり)幽斎(いうさい)でもやらうものなら、073ウラル(けう)守護(しゆご)(いた)して()悪神(あくがみ)が、074何時(なんどき)憑依(ひようい)するかも()れたものでない。075(この)(ごろ)霊界(れいかい)(おい)て、076往昔(むかし)国治立(くにはるたち)大神(おほかみ)077その()神々(かみがみ)(たい)し、078極力(きよくりよく)反抗(はんかう)(こころ)み、079(つひ)には大神(おほかみ)をして退隠(たいいん)()むなきに(いた)らしめたと()大逆(だいぎやく)無道(ぶだう)常世姫(とこよひめ)木常姫(こつねひめ)080口子姫(くちこひめ)081八十枉彦(やそまがひこ)邪霊(じやれい)連中(れんちう)が、082(すこ)しでも名望(めいばう)のある肉体(にくたい)憑依(ひようい)し、083(ふたた)神界(しんかい)混乱(こんらん)陰謀(いんぼう)(くわだ)てて()るのだから、084愚図々々(ぐづぐづ)して()ると、085何時(いつ)憑依(ひようい)されるか(わか)つたものでない。086宇宙(うちう)一切(いつさい)大国治立尊(おほくにはるたちのみこと)御支配(ごしはい)だから、087(いた)(ところ)として(ただ)しき(かみ)神霊(しんれい)は、088充満(じゆうまん)(たま)ふとは()ふものの、089また盤古(ばんこ)系統(けいとう)090自在天(じざいてん)系統(けいとう)邪神(じやしん)天地(てんち)充満(じゆうまん)して()るから、091此方(こちら)(れい)をよほど清浄(せいじやう)潔白(けつぱく)にして(かか)らねば、092神聖(しんせい)(かみ)降臨(かうりん)()けるといふ(こと)は、093到底(たうてい)不可能(ふかのう)なが原則(げんそく)だ。094(みづ)一滴(いつてき)もないのだから、095肉体(にくたい)(きよ)める(わけ)にも()かないから、096また滝壷(たきつぼ)()(ところ)か、097(きよ)(なが)れの(みづ)(みそぎ)をするとかして、098その(うへ)幽斎(いうさい)修業(しうげふ)にかかつたが(よろ)しからう』
099()『アヽ融通(ゆうづう)()かぬものだな、100全智(ぜんち)全能(ぜんのう)根本(こんぽん)神様(かみさま)でも、101ソンナ窮屈(きうくつ)意見(いけん)(もつ)()られるのだらうか。102善悪(ぜんあく)(あひ)(こん)じ、103美醜(びしう)(たがひ)(まじ)はつて、104天地(てんち)一切(いつさい)万物(ばんぶつ)は、105(ここ)(はじ)めて(ちから)(しやう)じ、106各自(かくじ)活動(くわつどう)開始(かいし)するのでは()りませぬか。107()(なか)には絶対(ぜつたい)(ぜん)もなければ、108また絶対(ぜつたい)(あく)もない。109如何(いか)水晶(すゐしやう)身魂(みたま)だと()つても、110大半(たいはん)腐敗(ふはい)せる臭気(しうき)(つつ)まれた人間(にんげん)(からだ)宿(やど)らねばならぬのだから、111何程(なにほど)表面(うはべ)(みづ)(くらゐ)(あら)つた(ところ)で、112五臓六腑(ござうろつぷ)まで洗濯(せんたく)しきれるものでない、113(もの)(ふか)(かんが)へれば、114()(あし)()せなくなつて(しま)ふ。115何事(なにごと)神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)詔直(のりなほ)して、116ここで(ひと)神聖(しんせい)なる幽斎(いうさい)修業(しうげふ)を、117是非々々(ぜひぜひ)開始(かいし)して(くだ)さい。118ナンダカ神経(しんけい)興奮(こうふん)して、119神懸(かむがかり)修業(しうげふ)がしたくつて、120仕方(しかた)がなくなつて()た』
121(かつ)幽斎(いうさい)修業(しうげふ)心身(しんしん)清浄(せいじやう)にする(ため)122第一(だいいち)要件(えうけん)として、123清潔(せいけつ)なる衣服(いふく)(まと)ひ、124身体(しんたい)湯水(ゆみづ)(きよ)めて(かか)らねばならぬのだが、125さう()へば仕方(しかた)がない、126神様(かみさま)御免(ごめん)(かうむ)つて幽斎(いうさい)修業(しうげふ)をさして(いただ)(こと)にしやうかなア』
127()『イヤー有難(ありがた)いありがたい……ナア与太彦(よたひこ)128六公(ろくこう)129貴様(きさま)今迄(いままで)まだ神懸(かむがかり)経験(けいけん)がないのだから、130この弥次彦(やじひこ)サンの神懸(かむがかり)を、131()つく(をが)め、132(こころ)(きよ)め、133(きも)()れ、134……サア勝彦(かつひこ)宣伝使(せんでんし)(さま)135(はや)審神(さには)をして(くだ)さい。136ナンダカ()がイソイソとして()まらなくなつて()ました、137……ウンウンウンウン、138ウーウー』
139(たちま)惟神的(かむながらてき)両手(りやうて)()まれ、140身体(しんたい)(たちま)前後(ぜんご)左右(さいう)動揺(どうえう)(はじ)めた。
141()『ヨー弥次彦(やじひこ)(やつ)142(ひと)芝居(しばゐ)(はじ)()したナ、143ナンダ、144(めう)恰好(かつかう)だな、145()(ふさ)ぎよつて両手(りやうて)()み、146(すわ)つたなりに飛上(とびあ)がり、147(ちう)にまいまいの芸当(げいたう)(はじ)()した。148大方(おほかた)(まつ)大木(たいぼく)から滑走(くわつそう)しよつた(とき)亡霊(ばうれい)が、149まだ(からだ)のどつかに残留(ざんりう)して()つたと()える……オイ六公(ろくこう)150面白(おもしろ)いぢやないか、151……コレコレ勝彦(かつひこ)サン、152今日(けふ)はモウ口上(こうじやう)(だけ)はやめて(くだ)さい、153(たの)みますぜ』
154(かつ)『アハヽヽヽ』
155 弥次彦(やじひこ)夢中(むちう)になつて、156(あせ)をブルブル()らし(なが)ら、157(ぶと)空中(くうちう)餅搗(もちつき)した(やう)に、158地上(ちじやう)一尺(いつしやく)以上(いじやう)(はな)れ、159五六尺(ごろくしやく)(あひだ)昇降(しやうかう)運動(うんどう)開始(かいし)して()る。160神懸(かむがかり)(くわん)しては素人(しろうと)与太彦(よたひこ)161六公(ろくこう)二人(ふたり)は、162(くち)アングリとして大地(だいち)(たふ)れた(まま)
163()164(ろく)『アーアー、165ヤルヤル、166(めう)(めう)だ、167オイ弥次彦(やじひこ)168貴様(きさま)はそれ(だけ)(かく)(げい)()つて()つたのか、169重宝(ちようほう)(やつ)だ、170宙吊(ちうづ)りの芸当(げいたう)(めづ)らしい。171ワハヽヽヽ、172モシモシ宣伝使(せんでんし)さま、173どうとかして、174御神力(ごしんりき)弥次彦(やじひこ)(からだ)を、175猿廻(さるまは)しの(やう)使(つか)つて()せて(くだ)さいな』
176 勝彦(かつひこ)両手(りやうて)()み、177天津祝詞(あまつのりと)(こゑ)(ゆる)やかに奏上(そうじやう)(をは)り、178(ひと)(ふた)()()(いつ)(むゆ)(なな)()(ここの)(たり)(もも)()(よろづ)と、179(あま)数歌(かずうた)(うた)(をは)り、180(みぎ)食指(ひとさしゆび)指頭(しとう)より五色(ごしき)霊光(れいくわう)発射(はつしや)し、181弥次彦(やじひこ)身体(からだ)(むか)つて、182空中(くうちう)(ゑん)(ゑが)いた。183弥次彦(やじひこ)身体(からだ)勝彦(かつひこ)(ゆび)廻転(くわいてん)()れて、184空中(くうちう)(ゑん)(ゑが)き、185(ゆび)(むか)方向(はうかう)に、186(かれ)身体(からだ)回転(くわいてん)する。187勝彦(かつひこ)は、188今度(こんど)(おも)()つて(うで)()べ、189中天(ちうてん)(むか)つてブンマワシ(ごと)くに(ゑん)(ゑが)き、190弥次彦(やじひこ)(からだ)勝彦(かつひこ)(ゆび)さす中空(ちうくう)(むか)つて舞上(まひあが)()(くだ)り、191また()(あが)舞下(まひくだ)り、192空中(くうちう)遊行(いうかう)大活劇(だいくわつげき)(えん)ずる面白(おもしろ)さ。
193()『オイ六公(ろくこう)194あれを()い、195弥次彦(やじひこ)(やつ)196漸々(だんだん)熱練(じゆくれん)しよつて、197(からだ)(ちい)さくなつて、198()えぬやうな(たか)(とこ)まで、199空中(くうちう)滑走(くわつそう)し、200(あが)つたり()りたり、201(うへ)になつたり(した)になつたり、202大変(たいへん)大技能(だいぎのう)発揮(はつき)しよるぢやないか、203……モシモシ宣伝使(せんでんし)さま、204あなたの(ゆび)(うご)(とほ)りに、205弥次彦(やじひこ)(やつ)206(うご)きますなア。207あれなら軽業師(かるわざし)になつても大丈夫(だいぢやうぶ)()へますナ』
208(かつ)『アハヽヽヽ、209あれは霊線(れいせん)(ちから)(あやつ)られて、210(からだ)自由(じいう)使(つか)はれて()るのだ。211(わし)(ゆび)(とほ)りになるであらうがな』
212()『ハハア、213さうすると弥次彦(やじひこ)(えら)いのじやなくて、214あなたの(ゆび)(えら)神力(しんりき)具備(ぐび)して()るのだなア……あなたはヤツパリ魔法使(まはふつかひ)だ、215(おそ)ろしい油断(ゆだん)のならぬ宣伝使(せんでんし)ぢや、216(わたくし)(だけ)はアンナ曲芸(きよくげい)は、217どうぞ()らさぬ(やう)(ねが)ひますで、218(のう)六公(ろくこう)219アンナ(こと)をやられたら、220(いき)(なに)()れて(しま)うワ』
221(ろく)『アヽ(おそ)ろしい(こと)だのう』
222 ()()(うち)223弥次彦(やじひこ)()はスーと空気(くうき)()ける(おと)(とも)に、224三人(さんにん)(まへ)(くだ)つて()た。225勝彦(かつひこ)(また)もや両手(りやうて)()んで、226(ゆる)す』と一声(いつせい)227弥次彦(やじひこ)常態(じやうたい)(ふく)し、228()をギロつかせ(なが)ら、
229()『アヽやつぱり二十三峠(にじふさんたうげ)頂上(ちやうじやう)だつた、230ヤア(こわ)(ゆめ)()たよ、231(てん)()がるかと(おも)へば()(くだ)つて、232()(くだ)つたと(おも)へば(また)(てん)引上(ひきあ)げられる、233()はまわる、234(なん)ともかとも()れぬほど(くる)しかつた、235アヽやつぱり(ゆめ)(ゆめ)だ』
236()237(ろく)『エ、238なアに、239(ゆめ)(どころ)実地(じつち)(まこと)正味(しやうみ)正真(しやうまつ)だ。240(げん)俺達(おれたち)(いま)ここで貴様(きさま)大発明(だいはつめい)軽業(かるわざ)を、241無料(むれう)観覧(くわんらん)した(ところ)だ。242貴様(きさま)もよつぽど(めう)病気(びやうき)があると()える、243(おや)のある(うち)治療(ちれう)をして()かないと、244(おや)()くなつたら、245到底(たうてい)一生(いつしやう)(やまひ)だ。246不治(ふぢ)難症(なんしやう)(たけのこ)医者(いしや)宣告(せんこく)されるが最後(さいご)247(しば)(かぶ)つて()ない(かぎ)り、248(とて)(この)()では駄目(だめ)だぞ、249……モシモシ勝彦(かつひこ)さま、250コラ一体(いつたい)(なん)(わざ)ですか』
251(かつ)弥次彦(やじひこ)には、252悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)木常姫(こつねひめ)()(やつ)が、253タツタ(いま)油断(ゆだん)()すまして、254くつつきよつたのだ。255そこで(わし)鎮魂(ちんこん)(ちから)(もつ)木常姫(こつねひめ)悪霊(あくれい)(しば)つたのだ。256悪霊(あくれい)(わし)(ゆび)指揮(しき)(したが)つて、257あの(とほ)容器(いれもの)一所(いつしよ)に、258(ちう)()(くる)うたのだよ、259モウ(いま)(ところ)では、260木常姫(こつねひめ)邪霊(じやれい)往生(わうじやう)(いた)して()げよつたから、261弥次彦(やじひこ)(もと)(とほ)り、262常態(じやうたい)になつたのだ、263ウツカリして()ると、264貴様等(きさまら)(また)何時(なんどき)邪霊(じやれい)一派(いつぱ)(おそ)はれるか()れやしないぞ。265()れだから、266至貴(しき)至重(しちよう)至厳(しげん)なる幽斎(いうさい)修業(しうげふ)は、267肉体(にくたい)(きよ)めもせず、268(あせ)だらけの、269(あか)()いた衣服(いふく)(まと)ふて奉仕(ほうし)する(こと)出来(でき)ないと、270(わし)説諭(せつゆ)したのだ。271それにも(かか)はらず、272(わし)言葉(ことば)()にして()かないものだから、273修業(しうげふ)(はじ)めない(うち)から、274邪霊(じやれい)誑惑(けうわく)され、275(たちま)木常姫(こつねひめ)容器(いれもの)となりよつたのだ、276……オイ弥次彦(やじひこ)277しつかりせないと、278(また)もや邪神(じやしん)襲来(しふらい)するぞ』
279()智覚(ちかく)精神(せいしん)(ほと)んど忘却(ばうきやく)して()ましたから、280(なに)(なん)だか(わたし)としては、281明瞭(めいれう)()きますが、282仮令(たとへ)邪神(じやしん)にもせよ、283(ちう)()けるナンテ、284(えら)(ちから)のあるものですなア』
285(かつ)馬鹿(ばか)()ふな、286胴体(どうたい)なしの(いかのぼり)といふ(こと)がある。287悪魔(あくま)()(もの)は、288大体(だいたい)表面(うはべ)ばかりで、289実地(じつち)()がないから、290恰度(ちやうど)291()へば(かぜ)(やう)なものだ。292その邪霊(じやれい)人間(にんげん)肉体(にくたい)這入(はい)つたが最後(さいご)293人間(にんげん)(からだ)風船玉(ふうせんだま)人間(にんげん)(ちう)にひつぱり()げる(やう)具合(ぐあひ)になつて、294(からだ)()()がるのだ。295人間(にんげん)大地(だいち)(あゆ)(もの)296(とり)かなんぞの(やう)に、297(ちう)()(やつ)は、298最早(もはや)人間(にんげん)としての資格(しかく)はゼロだ、299貴様(きさま)たちも中空(ちうくう)(かけ)つて()たいのか』
300()301(ろく)『ヘイヘイ邪神(じやしん)だらうが、302(なん)だらうが、303人間(にんげん)として天空(てんくう)(かけ)ると()(やう)(こと)出来(でき)るのなら、304(わたくし)一寸(ちよつと)一遍(いつぺん)305ソンナ()()ふて()たいですな。306世界(せかい)人間(にんげん)(おどろ)いて……「ヤア与太彦(よたひこ)307六公(ろくこう)(やつ)308(えら)神力(しんりき)(もら)ひよつた、309生神(いきがみ)さまになりよつた」と()つて、310尊敬(そんけい)して()れるでせう。311そうなると、312「ヤア彼奴(あいつ)三五教(あななひけう)信者(しんじや)だ、313三五教(あななひけう)神力(しんりき)(つよ)(かみ)だ、314(おれ)三五教(あななひけう)帰依(きえ)する」と()ふて、315世界中(せかいぢう)人間(にんげん)一遍(いつぺん)改心(かいしん)するのは請合(うけあひ)です。316神様(かみさま)吾々(われわれ)にアンナ神力(しんりき)(あた)へて、317世界(せかい)(やつ)をアツと()はして(くだ)さつたら一遍(いつぺん)にお(みち)(ひら)けて、318世界(せかい)有象無象(うざうむざう)改心(かいしん)するのだけれどなア』
319(かつ)正法(しやうはふ)不思議(ふしぎ)なし、320奇蹟(きせき)(もつ)(ひと)(みちび)かむとする(もの)は、321いはゆる悪魔(あくま)(この)んで()(ところ)手段(しゆだん)だ。322吾々(われわれ)神様(かみさま)貴重(きちよう)生宮(いきみや)だ、323充分(じゆうぶん)自重(じちよう)して、324(にく)(みや)(おも)みを()け、325少々(せうせう)(かぜ)にまで(とび)あがり、326(ちう)をかける(やう)(こと)になつては、327最早(もはや)天地(てんち)経綸(けいりん)司宰者(しさいしや)たる資格(しかく)はゼロになつたのだ。328何処(どこ)までも吾々(われわれ)はお(つち)(うへ)(あし)をピツタリと()()るのが法則(はふそく)だ』
329()『それでも、330鷹彦(たかひこ)宣伝使(せんでんし)(ちう)()つぢやありませぬか』
331(かつ)鷹彦(たかひこ)半鳥半人(はんてうはんじん)境遇(きやうぐう)()るエンゼルだ。332(かれ)(とき)あつて空中(くうちう)飛行(ひかう)し、333神業(しんげふ)参加(さんか)すべき使命(しめい)()つて()るのだから、334羽翼(うよく)(あた)へられてあるのだよ。335羽翼(うよく)空中(くうちう)飛翔(ひしよう)するための道具(だうぐ)だ。336(はね)もない人間(にんげん)が、337(いま)弥次彦(やじひこ)(やう)(こと)()るのは変則(へんそく)だ、338悪魔(あくま)翫弄物(おもちや)にせられて()るのだよ』
339(ろく)『さうすると、340悪魔(あくま)(はう)がよつぽど(えら)(やう)ですな。341(まこと)神様(かみさま)(つち)(した)しみ、342悪魔(あくま)天空(てんくう)(かけ)るとは、343(じつ)天地(てんち)転倒(てんたう)()(なか)とは()(なが)ら、344コラ(また)あまり矛盾(むじゆん)ぢやありませぬか。345仮令(たとへ)邪神(じやしん)でも(なん)でも(かま)はぬ、346一遍(いつぺん)アンナ(はな)(わざ)(えん)じて()たいワ』
347(かつ)『コラコラ六公(ろくこう)348言霊(ことたま)(さち)はふ(くに)だ、349ソンナ(こと)()ふと、350貴様(きさま)には、351竜宮城(りうぐうじやう)から鬼城山(きじやうざん)使(つか)ひした、352一旦(いつたん)大神(おほかみ)(そむ)いた口子姫(くちこひめ)(れい)が、353貴様(きさま)身辺(しんぺん)(ねら)つて()るぞ、354シツカリ(いた)せ』
355(ろく)『ヤアそいつは一寸(ちよつと)(おつ)でげすな、356何時(いつ)(うつ)(どほ)しにされては(こま)るが、357一遍(いつぺん)(くらゐ)(うつ)つて()れても御愛嬌(ごあいけう)だ、358……ヤイ口子姫(くちこひめ)とやら、359(おれ)肉体(にくたい)()して()るから、360一遍(いつぺん)アツサリと(うつ)つて()れぬかい』
361 弥次彦(やじひこ)(くち)をきつて
362『クヽヽヽチヽヽヽコヽヽヽヒヽヽヽメヽヽヽ口子(くちこ)口子(くちこ)…ヒヒメメメメ口子姫命(くちこひめのみこと)只今(ただいま)より六公(ろくこう)肉体(にくたい)守護(しゆご)(いた)すぞよ』
363(ろく)有難(ありがた)御座(ござ)います』
364()ふや(いな)や、365身体(からだ)上下(じやうげ)左右(さいう)動揺(どうえう)(はじ)めた。366地上(ちじやう)より四五尺(しごしやく)(ばか)りの(ところ)を、367(のぼ)りつ(くだ)りつ、368石搗(いしつき)曲芸(きよくげい)(えん)(はじ)めた。369(つひ)には(あし)地上(ちじやう)(はな)れ、370最低(さいてい)地上(ちじやう)()ること一尺(いつしやく)()371最高(さいかう)二三丈(にさんぢやう)空中(くうちう)上下(じやうげ)し、372廻転(くわいてん)(はじ)めた。
373()『ヤア六公(ろくこう)(やつ)374(えら)神力(しんりき)(もら)ひよつたぞ、375(けな)りい(こと)だ、376(おれ)一遍(いつぺん)アンナ(こと)()つて()たい。377(おれ)にアヽ()実地(じつち)(あら)はれたら、378それこそ(いち)()もなく(かみ)存在(そんざい)を、379心底(しんてい)から承認(しようにん)するのだが、380どうしても(おれ)には、381(れい)(くも)つて()ると()えて、382(かみ)(うつ)つて()れぬワイ』
383()『オイ弥次公(やじこう)384貴様(きさま)ア、385アンナ(こと)(どころ)かい、386(ほとん)日天様(につてんさま)(ところ)()きよつたかと(おも)ふほど(たか)う、387空中(くうちう)をクルクルクルと廻転(くわいてん)しよつて、388まるで(とり)(くらゐ)(ちい)さく()える(とこ)まで……貴様(きさま)(げん)大曲芸(だいきよくげい)(えん)じよつたのだよ、389それを貴様(きさま)記憶(きおく)して()らぬか』
390()『アヽさうか、391ナンダかソンナ(ゆめ)()たやうな記憶(きおく)(おぼろ)げに(のこ)つて()(やう)だ。392ヤアヤア六公(ろくこう)(やつ)393追々(おひおひ)熟練(じゆくれん)しよつて、394ハア(あが)るワ(あが)るワ……(ほとん)(からだ)(ちい)さく()える(ところ)まで(あが)りよつたナ、395……モシモシ勝彦(かつひこ)さま、396アラ一体(いつたい)全体(ぜんたい)どうなるのですか』
397(かつ)『あまり慢心(まんしん)をすると、398(からだ)重量(おもみ)がスツカリ()くなつて、399邪神(じやしん)容器(ようき)となり、400風船玉(ふうせんだま)のやうに()()らされるのだ、401(さいはひ)(いま)無風(むふう)だから()いが、402一昨日(おととひ)(やう)(かぜ)でも()いた(くらゐ)なら、403()れこそ、404どこへ()つて仕舞(しま)ふか(わか)りやしないぞ。405それだから(おれ)此処(ここ)では幽斎(いうさい)修業(しうげふ)()られぬと()ふたのだ、406……(あゝ)407(こま)つた病人(びやうにん)二人(ふたり)出来(でき)よつた、408愚図々々(ぐづぐづ)して()ると、409与太公(よたこう)410貴様(きさま)にも伝染(でんせん)兆候(てうこう)()えて()る、411病菌(びやうきん)潜伏期(せんぷくき)だ。412(なん)とかして、413免疫法(めんえきはふ)(かう)じたいものだが、414(この)附近(ふきん)には避病院(ひびやういん)もなし、415消毒薬(せうどくやく)()し、416(こま)つた(こと)だワイ』
417()消毒薬(せうどくやく)とは(なん)ですか』
418(かつ)生粋(きつすゐ)清浄(せいじやう)なお(みづ)だ、419(みづ)(からだ)(きよ)めて、420神様(かみさま)霊光(れいくわう)()で、421黴菌(ばいきん)()(ほろ)ぼすのだ。422(あゝ)423(こま)つた(こと)だ、424……オイ与太公(よたこう)425しつかりせぬか、426貴様(きさま)には八十枉彦(やそまがひこ)()(ねら)ふて()るぞ、427……(なん)(その)態度(たいど)は……またガタガタと(ふる)()したぢやないか』
428()強度(きやうど)帰神(きしん)状態(じやうたい)で、429……イヤもう神人(しんじん)感合(かんがふ)妙境(めうきやう)(たつ)するのも、430(あま)(とほ)くはありますまい、431……南無(なむ)八十枉彦(やそまがひこ)大明神(だいみやうじん)432何卒々々(なにとぞなにとぞ)この与太彦(よたひこ)肉体(にくたい)にどこどこまでもお見捨(みす)てなく、433神懸(かむがか)(くだ)さいませ、434惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
435(かつ)『また伝染(でんせん)しよつた、436病毒(びやうどく)伝播(でんぱ)()ふものは、437(じつ)迅速(じんそく)なものだ、438アヽ仕方(しかた)がない、439此奴等(こいつら)(みな)奇蹟(きせき)(この)んで(かみ)(みと)めやうとする偽信者(にせしんじや)だから、440谷底(たにそこ)()ちて()()ますまで打遣(うつちや)つて()かうかなア。441大火事(おほくわじ)(なか)へ、442一本(いつぽん)二本(にほん)のポンプを()けた(ところ)仕方(しかた)がないワ。443エ、444ままよ、445これ(だけ)(あつ)くなつて()(きた)つた火柱(ひばしら)(やう)な、446周章魂(うろたへだましひ)は、447最早(もはや)(すく)ふの余地(よち)はない、448……(あゝ)449国治立(くにはるたち)大神(おほかみ)(さま)450木花姫(このはなひめ)(かみ)(さま)451()出神(でのかみ)(さま)452モウ(この)(うへ)貴神(あなた)御心(みこころ)(まま)になさつて(くだ)さいませ、453惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)454惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
455 勝彦(かつひこ)(いの)(をは)るや、456六公(ろくこう)上下動(じやうげどう)休止(きうし)し、457芝生(しばふ)(うへ)にキチンと双手(もろて)()んだ(まま)端坐(たんざ)し、458真赤(まつか)(かほ)をし(なが)ら、459(あせ)をタラタラと()らして()る。460与太公(よたこう)(また)もや(うな)()した。461(はふ)(はづ)れの大声(おほごゑ)で、
462『ヤヤヤヤヤア、463ヤソ、464ヤソ ヤソ ヤソ、465ママママ、466ガヽヽヽ、467マガ マガ マガ、468ヒヒ、469ココ、470ヒコ ヒコ、471八十枉彦(やそまがひこ)だア……(くさ)()つたる(たましひ)で、472三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)とは()くも()ふたり、473勝彦(かつひこ)(やつ)474……(おれ)審神(さには)出来(でき)るなら、475サア、476サア サア サア、477美事(みごと)()つて()よ……』
478(かつ)『ナニツ、479(この)()(みだ)悪神(あくがみ)480退却(たいきやく)(いた)せ』
481双手(もろて)()んで霊線(れいせん)発射(はつしや)した。
482()『アハヽヽヽヽ、483ワツハヽヽヽヽ、484可笑(をか)しいワイ、485イヤ面白(おもしろ)いワイ、486小鹿峠(こしかたうげ)二十三坂(にじふさんさか)(うへ)(おい)て、487審神者(さには)(づら)(いた)した(その)(むく)い、488数多(あまた)魔神(まがみ)()きつれて、489貴様(きさま)肉体(にくたい)八裂(やつざき)(いた)してやらう、490覚悟(かくご)(いた)せ、491……ヤツ…ヤツ…』
492矢声(やごゑ)()(なが)ら、493勝彦(かつひこ)端坐(たんざ)せる頭上(づじやう)を、494前後(ぜんご)左右(さいう)()びまわり()した。495勝彦(かつひこ)全身(ぜんしん)(ちから)(れい)()めて、496(みぎ)食指(ひとさしゆび)より霊光(れいくわう)を、497八十枉彦(やそまがひこ)(かか)れる与太彦(よたひこ)前額部(ぜんがくぶ)目掛(めが)けて発射(はつしや)した。
498()『ワツハヽヽヽ、499オツホヽヽヽ、500猪口才(ちよこざい)腰抜(こしぬけ)審神者(さには)501吾々(われわれ)審判(さには)するとは片腹(かたはら)(いた)い。502サアこれよりは(その)(はう)()(くび)()()いてやらう、503覚悟(かくご)(いた)せ』
504猿臂(えんぴ)()ばして(つか)みかかる。505勝彦(かつひこ)は『ウン』と一声(いつせい)言霊(ことたま)発射(はつしや)に、506与太彦(よたひこ)身体(からだ)翻筋斗(もんどり)うつてクルクルと七八(しちはち)廻転(くわいてん)(なが)ら、507(かたはら)()(しげ)みに(ころ)()んだ。508(また)もや弥次彦(やじひこ)容色(ようしよく)(へん)じ、509()(いか)らせ、510()をキリキリと(きし)(おと)511……(しばら)くあつて大口(おほぐち)(ひら)き、
512『コヽヽヽツヽヽヽネヽヽヽヒヽヽヽヒメ、513コツコツコツ、514ネヽヽヽヒヒヒ、515メメメメ、516コツコツ、517コツネヒメのミコト、518……(その)(はう)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)(まを)し、519変性男子(へんじやうなんし)埴安彦(はにやすひこ)(かみ)520変性女子(へんじやうによし)埴安姫(はにやすひめ)(かみ)神政(しんせい)(たて)()り、521吾々(われわれ)天下(てんか)(さわ)がす腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)522この二十三峠(にじふさんたうげ)は、523吾々(われわれ)屈強(くつきやう)関所(せきしよ)だ。524二十三坂(にじふさんさか)525二十四坂(にじふしさか)(あひだ)は、526ウラル(ひこ)(かみ)守護(しゆご)いたす、527八岐(やまた)大蛇(おろち)や、528金狐(きんこ)529悪鬼(あくき)縄張(なはばり)地点(ちてん)530此処(ここ)()たは(なんぢ)(うん)()き、531これから(その)(はう)霊肉(れいにく)(とも)木葉微塵(こつぱみぢん)にうち(ほろ)ぼし()れむ、532カカ覚悟(かくご)をせよ』
533弥次彦(やじひこ)肉体(にくたい)は、534拳骨(げんこつ)(かた)めて、535勝彦(かつひこ)()がけて(せま)つて()る。536勝彦(かつひこ)(また)もや『ウン』と一声(ひとこゑ)言霊(ことたま)水火(いき)発射(はつしや)した。537弥次彦(やじひこ)肉体(にくたい)二三間(にさんげん)(うしろ)()()がり、538大口(おほぐち)()けて、
539『オホヽヽヽヽ、540(なんぢ)(めくら)宣伝使(せんでんし)分際(ぶんざい)(いた)して、541この木常姫(こつねひめ)言向和(ことむけやは)さむとは片腹(かたはら)(いた)し、542(おも)()れよ。543(なんぢ)身魂(みたま)生命(いのち)は、544最早(もはや)風前(ふうぜん)灯火(ともしび)だ。545この谷底(たにそこ)()(おと)し、546絶命(ぜつめい)させてやらうか、547ホヽヽホウ、548愉快(ゆくわい)千万(せんばん)(こと)出来(でき)たワイ。549貴様(きさま)首途(かどで)血祭(ちまつ)りに、550(まつ)りあげ、551()れよりは(なほ)(すす)んでコーカス(ざん)蹂躙(じうりん)し、552ウラルの(かみ)刄向(はむか)変性女子(へんじやうによし)身魂(みたま)(かた)(ぱし)から()(ころ)し、553(たひら)()れむは(またた)(うち)554オツホヽヽホウ、555(うれ)(うれ)(よろこ)ばし、556大願(たいぐわん)成就(じやうじゆ)時節(じせつ)到来(たうらい)だ、557………ヤアヤア部下(ぶか)者共(ものども)558一時(いちじ)(はや)勝彦(かつひこ)身辺(しんぺん)(むら)がり(きた)つて、559(いき)()()めよ、560ホーイ ホーイ ホーイ』
561()ふかと()れば、562ゾツと()()(あや)しの(かぜ)563縦横無尽(じうわうむじん)()(きた)り、564四辺陰鬱(しへんいんうつ)()(とざ)され、565数十万(すうじふまん)(いや)らしき()(ごゑ)566(わら)(ごゑ)567(さけ)(ごゑ)568()()はれぬ惨澹(さんたん)たる光景(くわうけい)となつて()た。569勝彦(かつひこ)最早(もはや)これ(まで)と、570一生懸命(いつしやうけんめい)571両眼(りやうがん)()ぢ、572天津祝詞(あまつのりと)奏上(そうじやう)し、573(あま)数歌(かずうた)(うた)(はじ)めた。574与太彦(よたひこ)身体(からだ)前後(ぜんご)左右(さいう)脱兎(だつと)(ごと)く、575()(めぐ)(はじ)めた。576(つづ)いて弥次彦(やじひこ)身体(からだ)()(ばひ)となつて猛虎(まうこ)()(くる)ふが(ごと)く、577(くち)より猛火(まうくわ)()きつつ、578勝彦(かつひこ)居所(ゐどころ)中心(ちうしん)(たけ)(くる)飛廻(とびまは)る。579六公(ろくこう)(たちま)頭上(づじやう)中空(ちうくう)跳上(はねあ)がり、580勝彦(かつひこ)頭上(づじやう)前後(ぜんご)左右(さいう)()けめぐり、581(なん)とも(たとへ)(がた)悪臭(あくしう)(はな)(はじ)めた。582四辺(あたり)刻々(こくこく)暗黒(あんこく)()()した。583最早(もはや)勝彦(かつひこ)身辺(しんぺん)烏羽玉(うばたま)(やみ)(つつ)まれて(しま)つた。
584八十枉彦(やそまがひこ)585木常姫(こつねひめ)586口子姫(くちこひめ)(かみ)神力(しんりき)には(おそ)()つたか、587イヤ(おそ)()らずに()られうまい、588ワツハヽヽヽ、589オツホヽヽヽ、590ホツホヽヽヽ』
591(くら)がりより、592怪体(けたい)(こゑ)(しき)りに(ひび)(わた)る。593(とら)(うそぶ)くか、594獅子(しし)()ゆるか、595(りう)(ぎん)ずるか、596(ただ)しは暴風(ばうふう)怒濤(どたう)(こゑ)か、597(ひびき)か、598四辺暗澹(しへんあんたん)599荒涼(くわうりやう)600魔神(まがみ)諸声(もろこゑ)五月蝿(さばへ)(ごと)(ひび)(わた)る。601(くわい)また(くわい)(つつ)まれたる勝彦(かつひこ)は、602一生懸命(いつしやうけんめい)603(たき)(ごと)(あせ)(しぼ)(なが)ら、604神言(かみごと)生命(いのち)(つな)に、605(こゑ)(つづ)(かぎ)奏上(そうじやう)しかけた。606この(とき)(やみ)(てら)して、607中空(ちうくう)より、608(うま)(またが)(くだ)(きた)四五(しご)生神(いきがみ)があつた。609()()(この)()(あら)はれ、610金幣(きんぺい)打振(うちふ)打振(うちふ)り、611前後(ぜんご)左右(さいう)(うま)(をど)らせ、612()(めぐ)れば、613流石(さすが)邪神(じやしん)()(うしな)ひ、614(さき)(あらそ)ふて二十四坂(にじふしさか)方面(はうめん)()して、615ドツと(ばか)動揺(どよ)めき(わた)り、616(あや)しき(こゑ)(とも)(けぶり)(ごと)()()つた。617与太彦(よたひこ)618弥次彦(やじひこ)619六公(ろくこう)(たちま)(もと)覚醒(かくせい)状態(じやうたい)復帰(ふくき)した。
620(かつ)『アヽ有難(ありがた)有難(ありがた)し、621悪魔(あくま)襲来(しふらい)(はら)(きよ)(たま)ひし、622大神(おほかみ)御神徳(ごしんとく)有難(ありがた)感謝(かんしや)(つかまつ)ります』
623大地(だいち)(かしら)をすりつけて、624(うれ)(なみだ)(むせ)ぶ。625弥次彦(やじひこ)626与太彦(よたひこ)627六公(ろくこう)三人(さんにん)も、628(おな)じく芝生(しばふ)(あたま)()け、629(なん)となく驚異(きやうい)(ねん)()られ、630一生懸命(いつしやうけんめい)神言(かみごと)奏上(そうじやう)して()る。631四人(よにん)身体(からだ)(にじ)(ごと)鮮麗(せんれい)なる霊衣(れいい)(つつ)まれた。632芳香馥郁(はうかうふくいく)として四辺(しへん)(かほ)り、633嚠喨(りうりやう)たる音楽(おんがく)(ひびき)は、634四人(よにん)身魂(みたま)()()むが(ごと)(きこ)ゆるのであつた。635四人(よにん)(やうや)(かうべ)()げて(なが)むれば、636こはそも如何(いか)に、637()出別(でわけ)宣伝使(せんでんし)は、638鷹彦(たかひこ)639岩彦(いはひこ)640梅彦(うめひこ)641亀彦(かめひこ)642駒彦(こまひこ)643音彦(おとひこ)(とも)に、644馬上(ばじやう)(ゆたか)(この)()()つて()る。
645(かつ)『ヤア()れは()れは()出別(でわけ)神様(かみさま)646()くも御加勢(おかせい)(くだ)さいました。647(おも)はぬ不調法(ぶてうはふ)(いた)しまして、648重々(ぢうぢう)(つみ)御宥(おゆる)(くだ)さいませ。649(この)(うへ)(けつ)して(けつ)して、650()かる不規律(ふきりつ)なる幽斎(いうさい)修業(しうげふ)(だん)じて(おこな)ひませぬ。651何事(なにごと)も、652我々(われわれ)不覚(ふかく)無智(むち)(いた)(ところ)653()らず()らずに慢心(まんしん)(つかまつ)り、654(わび)申様(まをしやう)御座(ござ)いませぬ』
655 ()出別(でわけ)(かみ)一言(いちごん)(はつ)せず、656(くび)二三回(にさんくわい)(うなづ)かせ(なが)ら、657一行(いつかう)宣伝使(せんでんし)引連(ひきつ)れ、658(ふたた)天馬(てんば)(くう)(かけ)つて、659雲上(うんじやう)(たか)姿(すがた)(かく)した。660無数(むすう)光輝(くわうき)()えたる霊線(れいせん)は、661(にじ)(ごと)彗星(すゐせい)(ごと)く、662一行(いつかう)(あと)(やや)(しばら)姿(すがた)(そん)しける。
663 (みね)()()()(わた)春風(はるかぜ)(こゑ)は、664(しと)やかに(きこ)えて()た。665百鳥(ひやくてう)(はる)(うた)(こゑ)長閑(のどか)四人(よにん)(みみ)音楽(おんがく)(ごと)(きこ)(はじ)めた。
666()『モシ勝彦(かつひこ)宣伝使(せんでんし)さま、667大変(たいへん)大騒動(だいさうどう)がおつぱじまつて、668(あま)岩戸(いはと)(がく)れの(まく)()りましたな、669あの(とき)(わたし)(くる)しさと()つたら、670沢山(たくさん)青面(あをづら)671赤面(あかづら)672黒面(くろづら)(うさぎ)や、673(とら)や、674(おほかみ)675大蛇(だいじや)一時(いちじ)()つて()て、676(あし)にかぶり()く、677(かみ)()()つぱる、678(みみ)()く、679(かいな)をひく、680(なぐ)る、681それはそれは随分(ずゐぶん)(くる)しい()()はされました。682イヤもう神懸(かむがかり)()()りでした。683咫尺暗澹(しせきあんたん)として昼夜(ちうや)(べん)ぜず、684(くる)しいと()つても譬様(たとへやう)のない、685えぐい、686(いた)い、687(つら)い、688(くさ)いイヤもう惨々(さんざん)きつい()()ひました。689その(とき)に…アヽ宣伝使(せんでんし)(さま)がウンと(ひと)()つて(くだ)さると()いのだけれど、690あなたは霊眼(れいがん)(うと)いと()えて、691(てき)()ない(はう)ばつかり、692一生懸命(いつしやうけんめい)鎮魂(ちんこん)をやるものだから、693鼻糞(はなくそ)(まと)()つた(ほど)効能(かうのう)()く、694(つんぼ)ほども言霊(ことたま)神力(しんりき)()かず、695イヤモウ迷惑(めいわく)千万(せんばん)(こと)でしたよ』
696(かつ)『アヽさうだつたか、697そらさうだらう、698何分(なにぶん)(くも)()つた肉体(にくたい)で、699(にはか)審神者(さには)()ひられて無理(むり)()つたものだから、700審神者(さには)肉体(にくたい)神様(かみさま)完全(くわんぜん)宿(やど)つて(くだ)さらぬものだから失敗(しつぱい)をやつたのだ。701(しか)しチツトは鎮魂(ちんこん)効能(かうのう)(あら)はれただらう』
702()千遍(せんべん)一度(いちど)(くらゐ)まぐれ(あた)りに、703(わたくし)()めて()悪霊(あくれい)(はう)霊光(れいくわう)発射(はつしや)したのは(たし)かです。704イヤモウ脱線(だつせん)だらけで、705必要(ひつえう)(ところ)へはチツトも(れい)光線(くわうせん)発射(はつしや)せないものだから、706悪魔(あくま)(やつ)益々(ますます)()()んで、707武者振(むしやぶ)りつき、708えらい(くるし)みをしました。709アーア()うなると立派(りつぱ)大将(たいしやう)()しくなつて()たワイ』
710(かつ)惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
711()(わたし)もえらい()()はされた、712(ひと)(くび)真黒(まつくろ)けの(なは)で、713悪魔(あくま)(やつ)714幾筋(いくすぢ)ともなく(しば)りよつて、715古池(ふるいけ)(みづ)両方(りやうはう)から、716釣瓶(つるべ)(つな)をつけて替揚(かへあ)げる(やう)に、717空中(くうちう)自由自在(じいうじざい)()(まは)しよつた(とき)(くるし)さと()つたら、718何遍(なんべん)(いき)()えたと(おも)つたか(わか)りませぬ、719アヽコンナ(くるし)責苦(せめく)()ふのなら、720一層(いつそう)(こと)721一思(ひとおも)ひに(ころ)して()しいと(おも)ひましたよ。722(あつ)いと(おも)へば(また)(つめ)たい谷底(たにそこ)(からだ)()()ろされ、723今度(こんど)(また)(こげ)つく(やう)(あつ)(ところ)()()げられ、724(なつ)(ふゆ)とが瞬間(しゆんかん)交代(かうたい)をするのだから、725(からだ)健康(けんかう)(だい)なしになるなり、726手足(てあし)()()りバラバラになつて(しま)つた(やう)(くるし)みを(かん)じた。727その(とき)審神者(さには)勝彦(かつひこ)サンは、728どうして御座(ござ)るか、729ここらでこそ(たす)けて()れさうなものだと(おも)つて、730あなたの(はう)(なが)めて()れば、731あなたの背後(うしろ)には、732常世姫(とこよひめ)悪霊(あくれい)が、733貧乏(びんばふ)団扇(うちは)をふつて、734悪霊(あくれい)指揮(しき)命令(めいれい)をやつて()る、735(まへ)さまは、736その常世姫(とこよひめ)()(うご)(とほ)りに、737(あやつ)人形(にんぎやう)(やう)活動(くわつどう)し………(いな)蠢動(しゆんどう)して()るものだから、738(かへつ)てそれが此方(こちら)(たす)(どころ)か、739邪魔(じやま)になつて、740益々(ますます)(くる)しさを(くは)へ、741イヤモウ言語(げんご)(ぜつ)する煩悶(はんもん)苦悩(くなう)742()(たま)一丁(いつちやう)ほど(さき)飛出(とびだ)すやうな悲惨(ひさん)()()はされました』
743(かつ)『それだから、744コンナ(ところ)幽斎(いうさい)修業(しうげふ)()せと()ふのに、745貴様(きさま)勝手(かつて)悪魔(あくま)(はう)()きよつたのだ。746仮令(たとへ)邪神(じやしん)でも、747あの弥次彦(やじひこ)(やう)に、748空中滑走(くうちうくわつそう)がしたいの曲芸(きよくげい)(えん)じたいのと、749熱望的(ねつばうてき)気焔(きえん)()くものだから、750魔神(まがみ)(やつ)()たり(かしこ)し、751御註文(ごちゆうもん)(とほ)(なん)でも御用(ごよう)(うけたま)はります、752(わたし)好物(かうぶつ)753手具脛(てぐすね)()いて()つて()ました、754(なん)のこれしきの芸当(げいたう)手間(てま)もへツチヤクレも()るものか、755遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)にや(およ)ばぬ、756悪神(あくがみ)容器(いれもの)には()つて()いして()いぢや、757ヤツトコドツコイして()いナ、758権兵衛(ごんべゑ)(きた)れ、759太郎兵衝(たらうべゑ)(きた)れ、760(くろ)()い、761(あか)()い、762大蛇(だいじや)()い、763(ついで)(きつね)も、764(たぬき)も、765野天狗(のてんぐ)も、766幽霊(いうれい)も、767あらゆる()(あし)(みたま)もやつて()いと、768八十枉彦(やそまがひこ)号令(がうれい)(もと)(あつ)まり(きた)つた数万(すうまん)魔軍(まぐん)769千変万化(せんぺんばんくわ)魔術(まじゆつ)(つく)して()()仰々(ぎやうぎやう)しさ、770()ざましかりける次第(しだい)なりけりだ。771アツハヽヽヽ』
772()『モシモシ勝彦(かつひこ)宣伝使(せんでんし)さま、773あまり法螺(ほら)()いて(もら)ひますまいか、774………イヤ法螺(ほら)ぢやない業託(ごうたく)(なら)べて嘲弄(てうろう)して(もら)ひますまいかい。775この天地(てんち)言霊(ことたま)(さち)はふ(くに)ぢやありませぬか、776ソンナ(こと)()つて()ると、777(また)もや(わたくし)(やう)に、778軽業(かるわざ)標本(へうほん)に、779魔神(まがみ)(やつ)から使役(しえき)されますぜ。780労銀(らうぎん)値上(ねあげ)八釜(やかま)しい(いま)()(なか)に、781破天荒(はてんくわう)の………(いな)廻転(くわいてん)動天(どうてん)軽業(かるわざ)生命(いのち)からがら、782無報酬(むはうしう)強制(きやうせい)され、783(あせ)(あぶら)(しぼ)られて、784墓原(はかはら)骨左衛門(ほねざゑもん)骨皮(ほねかは)痩右衝門(やせうゑもん)(やう)な、785我利々々(がりがり)亡者(まうじや)痩餓鬼(やせがき)にならねばなりますまい、786チツト改心(かいしん)なされ』
787(かつ)惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ) 惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
788(ろく)『コレコレ立派(りつぱ)審神者(さには)勝彦(かつひこ)さま、789あなたの御神力(ごしんりき)には往生(わうじやう)(いた)しましたよ、790イヒヽヽヽ』
791(かつ)『みなが()つて、792さう(おれ)包囲(はうゐ)攻撃(こうげき)しても(こま)るぢやないか。793(おれ)だつて誠心誠意(せいしんせいい)794()らむ(かぎ)りのベストを(つく)したのだ。795これ以上(いじやう)吾々(われわれ)(のぞ)むのは、796予算(よさん)超過(てうくわ)()ふものだ。797国庫(こくこ)支弁(しべん)方法(はうはふ)差支(さしつか)へて(しま)ふ。798又復(またまた)増税(ぞうぜい)なんて、799(ひと)(いや)がる(こと)()はねばならぬ。800前等(まへら)はさう()つて、801吾々(われわれ)当局(たうきよく)審神者(さには)攻撃(こうげき)するが、802当局者(たうきよくしや)()にもチツトはなりて()るが()い。803国家(こくか)多事多難(たじたなん)のこの(さい)ぢや、804(かね)()るのは(そこ)()れず、805増税(ぞうぜい)806徴募(ちようぼ)あらゆる手段(しゆだん)(つく)して膏血(かうけつ)(しぼ)り、807()らむ(かぎ)りの智慧(ちゑ)味噌(みそ)臨時(りんじ)支出(ししゆつ)までして、808ヤツトこの()切抜(きりぬ)けたのだ。809さう八釜(やかま)しく()(たて)ると、810勝彦(かつひこ)内閣(ないかく)瓦解(がかい)()むを()ざる悲運(ひうん)立到(たちいた)らねばならなくなる。811さうなれば、812貴様等(きさまら)一蓮托生(いちれんたくしやう)813連袂(れんぺい)辞職(じしよく)()かけねばなるまい。814今度(こんど)責任(せきにん)(おれ)一人(ひとり)負担(ふたん)させやうと()ふのは、815あまり(むし)好過(よす)ぎるワイ。816共通的(きようつうてき)責任(せきにん)()つのが、817いはゆる一蓮托生(いちれんたくしやう)主義(しゆぎ)だよ、818アハヽヽヽ』
819()『イヤ(おつしや)(とほ)りだ、820御尤(ごもつと)もだ、821モチだ。822スツテの(こと)勝彦(かつひこ)内閣(ないかく)崩解(ほうかい)するとこだつた。823(しか)(なが)ら、824人間(にんげん)老少不定(らうせうふぢやう)825何時(なんどき)冥土(めいど)(おに)(むか)へられて、826欠員(けつゐん)出来(でき)るか()れたものぢやない、827その(とき)には、828弥次彦(やじひこ)後釜(あとがま)(すわ)つて、829この弥次喜多(やじきた)内閣(ないかく)でも組織(そしき)し、830(まへ)サンの政綱(せいかう)維持(ゐぢ)して()く、831つまり連鎖(れんさ)内閣(ないかく)でも成立(せいりつ)させて、832()すわる(つも)りだから、833(あと)(こころ)(のこ)さず、834白紙(はくし)三角帽(さんかくぼう)(あたま)(いただ)いて、835未練(みれん)(のこ)さず旅立(たびだち)なされ。836(いづ)新顔(しんがほ)一人(ひとり)二人(ふたり)()れても(かま)はぬ、837居坐(ゐすわ)内閣(ないかく)をやつて()(はう)が、838党勢(たうせい)維持上(ゐぢじやう)都合(つがふ)()いから、839アハヽヽヽ。840(しか)しコンナ(ところ)長居(ながゐ)(おそ)れだ、841グズグズしとると、842冥土(めいど)から(つの)()えた鬼族院(きぞくゐん)がやつて()られちや、843一寸(ちよつと)閉口(へいこう)だ。844これや(ひと)つ、845研究会(けんきうくわい)でも(ひら)いて、846熟議(じゆくぎ)をこらすが(みち)だけれど、847(あま)(おな)(ところ)にくつついて()るのも()()かない。848二十四番峠(にじふしばんたうげ)踏破(たふは)し、849二十五番(にじふごばん)(たうげ)(うへ)で、850善後策(ぜんごさく)をゆつくり講究(かうきう)(いた)しませうか、851アハヽヽヽ』
852一同(いちどう)『ワハヽヽヽ』
853(かつ)『まだ(わら)(ところ)へは()かないぞ、854何時(いつ)瓦解(がかい)(おそれ)があるかも()れやしない。855常世姫命(とこよひめのみこと)が、856(とほ)(うみ)彼方(あなた)()()つて、857(さかん)空中(くうちう)無線(むせん)電信(でんしん)合図(あひづ)をして()るから、858一寸(いつすん)(すき)()つたものぢやない、859()()けツ、860(すす)めツおいち()(さん)()ツ』
861(みち)なき(みち)をアルコールに()ふた猩々(しやうじやう)(ごと)く、862無闇矢鱈(むやみやたら)二十五番峠(にじふごばんたうげ)(うへ)まで、863(やうや)辿(たど)()いた。
864(かつ)『アーア、865ヤレヤレ(あぶ)ない(こと)だつた、866中空(ちうくう)(たか)一本(いつぽん)丸木橋(まるきばし)(わた)つて()るやうな心持(こころもち)だつた』
867()地獄(ぢごく)(かま)一足飛(いつそくとび)といふ曲芸(きよくげい)も、868首尾(しゆび)()成功(せいこう)(いた)しました。869皆様(みなさま)870()()りましたら、871一同(いちどう)(そろ)ふて拍手(はくしゆ)喝采(かつさい)希望(きばう)いたします』
872(かつ)『ヤア賛成者(さんせいしや)(すくな)いなア、873……、874ヤア(ひと)つも拍手(はくしゆ)する(やつ)がない、875全然(ぜんぜん)反対(はんたい)だと()えるワイ』
876()『それでも勝彦(かつひこ)さま、877あなたの()(うち)簇生(ぞくせい)して()寄生虫(きせいちう)は、878ソツと拍手(はくしゆ)して()ましたよ。879その(こゑ)が……ブン……と()つて、880裏門(うらもん)から放出(はうしゆつ)しました。881イヤもう鼻持(はなもち)のならぬ(くさ)(こと)だつた、882ワハヽヽヽ』
883 この(とき)忽然(こつぜん)として、884東北(とうほく)(てん)より黒雲(こくうん)(おこ)り、885暴風(ばうふう)(たちま)()(きた)つて、886(たうげ)(うへ)()てる四人(よにん)(からだ)中空(ちうくう)()(あが)り、887(そこ)ひも()れぬ谷間(たにま)()がけて天上(てんじやう)より、888(いは)をぶつつけた(ごと)く、889一瀉千里(いつしやせんり)(いきほひ)(もつ)て、890(あを)()つたる(ふち)(むか)つて、891真逆様(まつさかさま)にザンブと落込(おちこ)んだ。
892 その途端(とたん)(ゆめ)(やぶ)られ附近(あたり)()れば瑞月(ずゐげつ)近隣(きんりん)三四人(さんよにん)(をとこ)893藪医者(やぶいしや)(まね)いて(みやく)()らせて()る。
894 藪医者(やぶいしや)は、895一寸(ちよつと)(くび)(ひね)つて、
896『アー此奴(こいつ)ア、897強度(きやうど)催眠(さいみん)状態(じやうたい)(おちい)つて()る、898自然(しぜん)覚醒(かくせい)状態(じやうたい)になるまで、899放任(はうにん)して()くより(みち)はなからう……非常(ひじやう)麻痺(まひ)だ、900痙攣(けいれん)だ……』
901宣告(せんこく)(くだ)()たりける。
902大正一一・三・二五 旧二・二七 松村真澄録)