霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 山出女(やまだしをんな)〔一七二七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻 篇:第1篇 名花移植 よみ:めいかいしょく
章:第3章 第68巻 よみ:やまだしおんな 通し章番号:1727
口述日:1925(大正14)年01月28日(旧01月5日) 口述場所:月光閣 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年9月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
馬鹿論:普通一般の定規で律することの出来ない馬鹿者にこそ、無限の妙味がある。小利口な人間の方が、日々目先の利を争い、自らの身を削り、かえって苦しんでいる。大才大智の者ほど、普段はその才を出さず「馬鹿者」と思われていても、いざというときに本能をあらわし、世間を驚かすものである。
さて、ハンナとタンヤはアリナが追跡していることも知らず、シャカンナの隠れ家にやってきた。シャカンナはすぐにハンナとタンヤの意図を見抜いて啖呵を切るが、多勢に無勢、タンヤとハンナに気絶させられてしまう。スバール姫も抵抗するが、ねじ伏せられてしまう。
後からやってきたアリナはスバールの悲鳴を聞いて走り来、二人の山賊を川へ放り投げてしまう。
アリナは、二人に都へ出ることを申し出る。シャカンナは辞退し、しばらく山にとどまることになるが、スバール姫はアリナに伴われて都へ上っていく。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm6803
愛善世界社版: 八幡書店版:第12輯 166頁 修補版: 校定版:44頁 普及版:69頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]出口王仁三郎著作集 > 第二巻「変革と平和」 > 第三部 『霊界物語』の思想 > 衡平運動
001 世人(せじん)相棒(あひぼう)にも使(つか)はれず、002何事(なにごと)にも茫然(ばうぜん)として無関心(むくわんしん)馬鹿者(ばかもの)(ぐらゐ)003()(なか)幸福(かうふく)にして(かつ)(つよ)いものはない。004そこに馬鹿者(ばかもの)無限(むげん)妙味(めうみ)存在(そんざい)するのである。005馬鹿(ばか)(ほとん)人間(にんげん)不可抗力(ふかかうりよく)(そな)へた(もの)称号(しようがう)である。006(もと)よりせせこましい、007齷齪(あくそく)たる普通(ふつう)一般(いつぱん)規矩(きく)定木(ぢやうぎ)(もつ)(りつ)することの出来(でき)ない(こま)(もの)である。008古往今来(こわうこんらい)(やう)東西(とうざい)()はず、009如何(いか)なる医学博士(いがくはかせ)耆婆扁鵲(きばへんじやく)も、010サツパリ(さぢ)()げて、011……アーア馬鹿(ばか)につける(くすり)がない……と歎息(たんそく)し、012豊臣太閤(とよとみたいかふ)も、013馬鹿(ばか)(やみ)()(ほど)(おそ)ろしいものはないと()つて、014恐怖心(きようふしん)(おそ)はれ、015(なに)(ほど)厳格(げんかく)なる規則(きそく)(もと)におかれるも、016彼奴(あいつ)馬鹿(ばか)だから」との一言(いちごん)無限(むげん)責任(せきにん)免除(めんぢよ)され、017いよいよ(ねん)のいつた阿呆(あはう)になると、018白痴瘋癲(はくちふうてん)称号(しやうがう)(いただ)いて、019犯罪(はんざい)法律(はふりつ)制裁(せいさい)(くは)へられず、020(さら)馬鹿(ばか)(かさ)なつて、021馬鹿々々(ばかばか)しい(やつ)」と(わら)はれた(とき)022人間(にんげん)万事(ばんじ)一切(いつさい)欠点(けつてん)公々然(こうこうぜん)(ゆる)され、023(かへつ)愛嬌者(あいけうもの)()(はや)される。024(また)馬鹿(ばか)金看板(きんかんばん)(かか)げて、025浮世(うきよ)(なか)をヤミクモに(おし)(わた)(とき)は、026(むか)(ところ)(ほと)んど敵影(てきえい)なく、027毫末(がうまつ)心配(しんぱい)もいらぬ。028()(なか)人間(にんげん)から小才子(こざいし)()ばれ、029小悧巧(こりかう)(とな)へられてゐる奴等(やつら)は、030(いづ)れも平常(へいぜい)031()(やう)な、032突張(つつぱ)(どころ)のない、033毀誉褒貶(きよほうへん)(ちまた)(とび)まはり、034餓鬼(がき)(しよく)(あらそ)(ごと)き、035ホンの()(まへ)成敗(せいばい)や、036利害(りがい)(つか)()ひ、037昼夜(ちうや)煩悶苦悩(はんもんくなう)(つづ)けて一生(いつしやう)(をは)(もの)(おほ)い。038(しか)るに悠々閑々(いういうかんかん)として、039(この)面白(おもしろ)人間(にんげん)(かく)場所(ばしよ)は、040馬鹿者(ばかもの)名称(めいしよう)たる(こと)()らず、041ワザとに(あせ)()らして(わが)一身(いつしん)小刀細工(こがたなざいく)(けづ)()り、042あゝ(いた)(くるし)いと日夜(にちや)悲鳴(ひめい)をあげて(もだ)えてゐる(あは)れな()(なか)だ。043(すべ)人間(にんげん)平常(ふだん)から智慧(ちゑ)()めておいて、044一朝(いつてう)(こと)ある場合(ばあひ)()()はさむと、045大才大智(だいさいだいち)(もの)は、046平常(へいぜい)(みだ)りに小智小才(せうちせうさい)月賦的(げつぷてき)小出(こだ)しをせず、047(よう)のない(とき)(みな)馬鹿(ばか)二字(にじ)にかくれて、048のんのこ、049シヤあつくシヤあと、050馬耳水蛙(ばじすいあ)晏如(あんじよ)としてをさまつてゐるものだ。051「あゝ此奴(こいつ)(おどろ)いた。052彼奴(あいつ)(あんま)馬鹿(ばか)出来(でき)ないぞ」と、053俗物(ぞくぶつ)(ども)一語(いちご)()はせるのは、054()(まつた)馬鹿(ばか)()(もと)(ひさ)しく本能(ほんのう)(かく)してゐた(やつ)(あら)はれる(とき)だ。055馬鹿(ばか)(つよ)(やつ)056本当(ほんたう)馬鹿(ばか)(えら)(やつ)057(この)(ごろ)馬鹿(ばか)にやり()した。058馬鹿(ばか)威勢(ゐせい)()いぢやないか。059馬鹿(ばか)落着(おちつ)いてゐやがる。060馬鹿(ばか)によく()れる。061馬鹿(ばか)美味(おい)しい。062馬鹿(ばか)奇麗(きれい)だ。063馬鹿(ばか)にならない」などいふ言葉(ことば)(いづ)れも平常(ふだん)小悧巧(こりかう)(やつ)大才子(だいさいし)(ため)鼻毛(はなげ)をぬかれた(とき)驚歎(きやうたん)言葉(ことば)である。064(あんま)馬鹿気(ばかげ)彼奴(あいつ)にや相手(あひて)になれない」などいふ言葉(ことば)は、065大智者(だいちしや)(もつと)(ふか)馬鹿(ばか)(おく)潜伏(せんぷく)してゐる(とき)だ。
066 ハンナ、067タンヤの両人(りやうにん)(また)馬鹿者(ばかもの)(せん)()れない代物(しろもの)であつた。068(しか)(なが)(この)二人(ふたり)(くち)には哲学(てつがく)(さへづ)り、069恋愛論(れんあいろん)をまくし()て、070たまには政治論(せいぢろん)喋々(てふてふ)するが、071(いづ)れも天性(てんせい)智慧(ちゑ)から()たのではなく、072縁日(えんにち)夜立店(よだちみせ)(ほこり)まびれになつて、0721(さら)されてゐる古本(ふるほん)073二銭(にせん)三銭(さんせん)値切(ねぎ)(たふ)して()つて()()みあさつた()知恵(ぢゑ)なのだから、074(しん)徹底(てつてい)した馬鹿者(ばかもの)である。075馬鹿(ばか)()(かく)れて、076(うま)()(わた)ることは()らず、077自分(じぶん)馬鹿(ばか)から、078自分(じぶん)(ほど)智者(ちしや)はない、079学者(がくしや)はない、080現代(げんだい)新人物(しんじんぶつ)(おれ)だ、081泥坊(どろばう)の、082仮令(たとへ)仲間(なかま)(いへど)も、083(けつ)して自分(じぶん)(こころ)(まが)つてはゐない。084そして(たれ)にも(ぬす)まれてはゐない。085(うま)れつき、086自分(じぶん)才子(さいし)だ、087智者(ちしや)だ。088仮令(たとへ)如何(いか)なる人物(じんぶつ)(いへど)も、089自分(じぶん)智嚢(ちのう)(しぼ)()して、090千変万化(せんぺんばんくわ)手術(しゆじゆつ)(つく)立向(たちむか)つたならば、091一切万事(いつさいばんじ)易々(いい)として成就(じやうじゆ)するものだ」と自惚(うぬぼ)れてゐる。092時々(ときどき)(つよ)くなつてみたり、093(よわ)くなつてみたり、094進退(しんたい)動作(どうさ)(つね)ならざるを()て、095自分(じぶん)処世上(しよせいじやう)兵法(へいはふ)をよく心得(こころえ)策士(さくし)だ。096軍師(ぐんし)だ」と自惚(うぬぼ)れ、097失敗(しつぱい)をしても「()れは(なに)かの都合(つがふ)だ。098惟神的(かむながらてき)(かみ)()うさせたのだ。099キツと(わる)(あと)()い。100()(あと)(わる)いものだ。101失敗(しつぱい)成功(せいこう)(はは)だ。102賢人(けんじん)智者(ちしや)凡人(ぼんじん)(した)ばたらきをなし、103愚者(ぐしや)天下(てんか)をとる(もの)だ。104さうだから自分(じぶん)仮令(たとへ)賢者(けんじや)でも愚者(ぐしや)(よそほ)つてをらねばならぬのだ。105どんな愚者々々(ぐしやぐしや)した(こと)でも、106馬鹿(ばか)()(もと)には、107(なが)(がは)(けつ)(あら)つた(ごと)解決(かいけつ)がつくものだ……」などと自分(じぶん)馬鹿(ばか)(たな)()げ、108(みづか)馬鹿(ばか)(よそほ)うて()(うま)(わた)つてゐるやうな心持(こころもち)でゐる(やつ)だからたまらない。109此奴(こいつ)こそ本当(ほんたう)(はし)にも(ぼう)にもかからない、110捨場所(すてばしよ)のない真馬鹿者(ほんばかもの)である。
111 ハンナ、112タンヤの二人(ふたり)は、113左守(さもり)(せがれ)アリナが追跡(つゐせき)してゐる(こと)(ゆめ)にも()らず、114()れた足許(あしもと)にて坂路(さかみち)をトントンと(とり)()(ごと)(のぼ)りつめ、115(やうや)くにして谷川(たにがは)(づた)ひに浅倉谷(あさくらだに)のシャカンナが隠家(かくれが)()いた、116シャカンナはスバール(ひめ)(とも)(すこ)(おそ)(なが)らも朝飯(あさめし)()つてゐた。
117ハンナ『ヘー、118親方(おやかた)119御免(ごめん)なさいませ。120(ひさ)しうお()にかかりませぬ。121(じつ)(ところ)玄真坊(げんしんばう)女房(にようばう)ダリヤ(ひめ)()(まぎ)れて遁走(とんそう)(せつ)122吾々(われわれ)(ども)御命令(ごめいれい)()り、123(その)所在(ありか)(たづ)ねて山野(さんや)()けめぐりましたが、124たうとう(いち)()らず()()らず、125やむを()ずして、126タニグク(やま)岩窟(がんくつ)(かへ)つて()れば、127こはそもいかに、128豈計(あにはか)らむや、129(おとうと)(はか)らむや、130建物(たてもの)焼払(やきはら)はれ、131親分様(おやぶんさま)(はじ)(ひめ)(さま)のお姿(すがた)()えず、132もし(にはか)火事(くわじ)焼死(やけじに)でも(あそ)ばしたのではなからうか、133もしそんな(こと)であつたら、134(ほね)でも(ひろ)つて、135鄭重(ていちよう)()(とむら)ひをしてあげねばなりますまいと、136一生懸命(いつしやうけんめい)(はひ)()きをやつて()ましたが、137(ほね)らしいものは(なに)(ござ)いませぬ。138(ただ)(しし)(たぬき)(ほね)(のこ)つてゐる(ばか)り。139あゝ(これ)親分様(おやぶんさま)火事(くわじ)(おどろ)(あそ)ばしてどつかへ一時(いちじ)()をお(のが)(あそ)ばした(こと)だと(おも)ひ、140十日(とをか)(ばか)りも()まず()はずで、141チコナンと()つて()りました(ところ)142(かぜ)便(たよ)りさへ(なし)(つぶて)音沙汰(おとさた)なく、143()むを()ず、144吾々(われわれ)解散(かいさん)()かけました。145(しか)(なが)肝腎(かんじん)(とき)になつて、146親分様(おやぶんさま)(この)山奥(やまおく)()て、147()()るといふ(こと)は、148いかにも乾児(こぶん)吾々(われわれ)として、149(じやう)(おい)(しの)びないと、150タンヤと二人(ふたり)(たがひ)(いだ)()つて()きました。151本当(ほんたう)親分(おやぶん)乾児(こぶん)情合(じやうあひ)といふものは(また)格別(かくべつ)のもので(ござ)います、152アンアンアン』
153シャ『ワツハヽヽヽ、154汝等(きさまら)小難(こむつか)しい厄介(やつかい)(おやぢ)がをらなくなつて、155さぞ睾丸(きんたま)皺伸(しわの)ばしをやつただらう。156(おれ)厄介者(やくかいもの)取払(とりはら)はれ、157身軽(みがる)になつて、158百日(ひやくにち)百夜(ひやくや)(うづ)(とほ)した腫物(はれもの)(にはか)跡形(あとかた)もなく()つたやうな気分(きぶん)になつたのだ。159モウ(おれ)(この)(とほ)世捨人(よすてびと)となつた以上(いじやう)は、160(ふたた)泥坊稼(どろばうかせぎ)はやりたくない。161(きさま)()加減(かげん)に、162(あし)(あら)つて正業(せいげふ)()いたが()からう』
163 ハンナは(あたま)をかき(なが)ら、
164ハ『エー、165親分(おやぶん)とも(おぼ)えぬお言葉(ことば)166それ(ほど)(わたし)信用(しんよう)(ござ)いませぬかな。167(わたし)真心(まごころ)より親方(おやかた)(あい)して()ります。168のうタンヤ、169(まへ)いつも(おれ)言葉(ことば)()いてゐるだらう。170()何十回(なんじつぺん)となく、171親方(おやかた)()()ばなかつた(こと)はなからう』
172タ『ウン、173そらさうだ、174(まへ)のいふ(とほ)り、175(おれ)()(とほ)りだ。176(なん)()つても(こころ)正直(しやうぢき)なものだから、177メツタに親分(おやぶん)(まへ)で、178(うそ)()はうとも(おも)はず、179()はれもせぬワ。180なア親方(おやかた)181どうぞハンナや(わたし)(こころ)(しん)じて(くだ)さい』
182シャ『ウン、183(まへ)(こころ)(そこ)(まで)(きよ)()か、184(ぜん)(あく)かよく(しん)じてゐる。185(まへ)(おれ)には(よう)がない(はず)だ。186スバール(ひめ)(よう)があるのだらうがな。187それについては(この)シャカンナは大変(たいへん)邪魔者(じやまもの)だらう。188御迷惑(ごめいわく)(さつ)()るよ、189アツハヽヽヽ』
190ハ『そら親方(おやかた)191御無理(ごむり)ぢや(ござ)いませぬか。192(ひめ)(さま)はまだ少女(せうぢよ)御身(おんみ)(うへ)193(こひ)でもなければ色情(いろ)でもない。194(また)(ひめ)(さま)吾々(われわれ)がお(ちひ)さい(とき)からお(そだ)(まを)したもの、195イヤお世話(せわ)をさして(いただ)いたお(かた)ですから、196(べつ)(ふか)御恩(ごおん)(ござ)いませぬが、197親分(おやぶん)さまには(なが)らく御世話(おせわ)になつて()ますから、198親分(おやぶん)御恩(ごおん)(けつ)して(わす)れませぬ。199嬢様(ぢやうさま)(なん)御恩(ごおん)もありませぬ。200(いは)んや恋愛(れんあい)などの(こころ)毛頭(まうとう)()つて()りませぬから、201どうぞ御安心(ごあんしん)(くだ)さいませ』
202シャ『親分(おやぶん)には御世話(おせわ)になつたと(くち)には()つてるが、203(こころ)(なか)では、204(なが)らく親分(おやぶん)世話(せわ)をしてやつた。205親分(おやぶん)(ほか)へも()ず、206乾児(こぶん)(ばつか)(はたら)かして、207乾児(こぶん)(あぶら)(ねぶ)つて、208親分(おやぶん)()つてたのだ。209つまり「自分(じぶん)親分(おやぶん)(すく)(ぬし)だ。210保護者(ほごしや)だ。211親分(おやぶん)(れい)()はすのが当然(あたりまへ)だ」(ぐらゐ)(こころ)()てるだらうがな』
212ハ『成程(なるほど)流石(さすが)親方(おやかた)だ。213よく吾々(われわれ)(こころ)(そこ)(まで)透見(とうけん)して(くだ)さいました。214天下(てんか)一人(いちにん)知己(ちき)()たりといふべしだ。215のうタンヤ、216(この)親分(おやぶん)にして(この)乾児(こぶん)ありだ。217(なん)(おそ)ろしい()()親分(おやぶん)ぢやないか』
218タ『そらさうだ(とも)219(なん)()つても二百人(にひやくにん)泥坊(どろばう)(あご)使(つか)ひ、220そして自分(じぶん)()んだひんだ(かす)221沢山(たくさん)乾児(こぶん)嬢様(ぢやうさま)々々(ぢやうさま)()はして威張(ゐば)らして(ござ)つたのだもの、222随分(ずいぶん)(すご)(うで)だよ。223なア親分(おやぶん)224(わたし)観察(くわんさつ)(ちが)ひますまい』
225シャ『タンヤの観察(くわんさつ)もハンナの評察(ひやうさつ)も、226(おれ)推察(すゐさつ)もピツタリ()つてゐるやうだ。227(しか)(なが)(おれ)(むすめ)汝達(きさまたち)(うば)つて(かへ)相談(さうだん)をやつて()たのだらう。228(とし)()いたりと(いへど)229(おれ)(うで)にも(ほね)もあれば(ちから)もある。230汝等(きさまら)のやうな、231青二才(あをにさい)(てこ)にはチツと()ひかねるぞ。232(ひめ)()しければ、233(うで)づくで()つて(かへ)つたが()からう』
234ハ『ヤア、235此奴(こいつ)面白(おもしろ)い。236(なに)(ほど)(つよ)いと()つても、237タカが老耄(おいぼれ)一人(ひとり)238(この)邪魔者(じやまもの)さへ(はら)へば、239あとは此方(こつち)(もの)だ。240(いま)(まで)大親分(おほおやぶん)()()(おそ)れて、241(なん)だか敵対心(てきたいしん)臆病風(おくびやうかぜ)()かしよつたが、242もう()うなれば五文(ごもん)五文(ごもん)だ。243こちらは二人(ふたり)一銭(いつせん)だ。244オイ一銭(いつせん)五厘(ごりん)との(ちから)(くら)べだ。245勝敗(しようはい)(すう)(すで)()まつてゐる。246(ただ)一銭(いつせん)打亡(うちほろ)ぼされるよりも五厘五常(ごりんごじやう)(みち)(わきま)へて、247スツパリと(むすめ)此方(こつち)(わた)せ。248拙劣(へた)にバタつくと(おやぢ)(ため)にならないぞ』
249 スバールは食事(しよくじ)()()め、250二人(ふたり)(かほ)微笑(びせう)(うか)(なが)(うち)(なが)め、251大胆不敵(だいたんふてき)態度(たいど)でおさまり(かへ)つてゐる。
252シャ『()はしておけば、253旧主人(きうしゆじん)(むか)つて雑言無礼(ざふごんぶれい)254容赦(ようしや)(いた)さぬ、255(この)鉄拳(てつけん)(くら)へ』
256(くび)()べよと(ばか)り、257ハンナの横面(よこづら)をなぐりつけむとする一刹那(いつせつな)258ハンナは()をすくめてシャカンナの(あし)(すく)つた。259シャカンナは(せま)(には)にドツと(たふ)れ、260(には)(いし)後頭部(こうとうぶ)(ぶつ)つけ()(とほ)くなつて(しま)つた。261二人(ふたり)手早(てばや)くシャカンナを荒縄(あらなは)(もつ)手足(てあし)(しば)り、262谷川(たにがは)(もち)(はこ)んで水葬(すいさう)せむとする。263(これ)()るよりスバール(ひめ)(ちち)大事(だいじ)と、264死物狂(しにものぐるひ)になり、265(まさかり)(もつ)二人(ふたり)背後(うしろ)よりウンと(ばか)(なぐ)りつけた。266二人(ふたり)目早(めばや)(たい)をかはし、267(をど)りかかつて、268(まさかり)(うば)ひとり、269スバール(ひめ)大地(だいち)にグツと(ねぢ)()せ、270手足(てあし)(くく)つて(うご)かせず。271スバール(ひめ)悲鳴(ひめい)()げて、272(こゑ)(かぎ)りに()(さけ)ぶ。273(この)(とき)一町(いつちやう)(ばか)手前(てまへ)(まで)274(はやし)(くぐ)つて(すす)んで()たアリナは、275(むすめ)悲鳴(ひめい)()き、276(わが)()(わす)れて、277(はし)(きた)()れば(この)(てい)である。278……ヤア此奴(こいつ)今朝(けさ)()曲者(くせもの)279()らしめくれむ……と、280(もの)をもいはず、281襟髪(えりがみ)(つか)んで浅倉山(あさくらやま)溪流(けいりう)へ、282二人(ふたり)(とも)ザンブと(ばか)()()んで(しま)ひ、283両人(りやうにん)縄目(なはめ)()いた。284スバール(ひめ)紅葉(もみぢ)のやうな(やさ)しき()()はして、285救命(きうめい)大恩(だいおん)感謝(かんしや)した。286(ちち)のシャカンナは精神(せいしん)朦朧(もうろう)として(ほとん)人事不省(じんじふせい)(てい)である。287アリナとスバール(ひめ)一生懸命(いつしやうけんめい)(かみ)祈願(きぐわん)(たてまつ)り、288(みづ)面部(めんぶ)()きかけなどして、289(やうや)くの(こと)で、290シャカンナの精神(せいしん)状態(じやうたい)明瞭(めいれう)になつて()た。
291シャ『あゝ(むすめ)292其方(そなた)無事(ぶじ)であつたか。293まあ結構(けつこう)々々(けつこう)294(これ)(まつた)(てん)のお(たす)けだ』
295ス『お父様(とうさま)296(わたし)(しば)られてゐましたの。297(あやふ)(ところ)へ、298あとの月太子様(つきたいしさま)のお(とも)をしてお(いで)になつたアリナ(さま)(あら)はれて、299(わたし)貴方(あなた)(たす)けて(くだ)さつたのですよ。300サアお(れい)(まを)して(くだ)さい』
301 シャカンナはスバール(ひめ)(こゑ)()をさまして、302よくよく()れば、303アリナは(うやうや)しげに大地(だいち)にしやがむでゐる。
304シャ『あゝ其方(そなた)はアリナさま、305よくマア(たす)けて(くだ)さいました。306貴方(あなた)吾々(われわれ)父娘(おやこ)再生(さいせい)恩人(おんじん)です。307サア、308どうぞうちへお這入(はい)(くだ)さいませ』
309ア『(あやふ)(ところ)(ござ)いましたが、310()づお()がついて(なに)より頂上(ちようじやう)(ござ)います。311左様(さやう)なれば312(やす)まして(いただ)きませう』
313とシャカンナを(たす)(おこ)し、314スバール(ひめ)(とも)老人(らうじん)()()いて屋内(をくない)(すす)()つた。
315シャ『アリナさま、316どうも有難(ありがた)(ござ)います。317そして太子様(たいしさま)はお(かは)りは(ござ)いませぬか』
318ア『ハイ、319有難(ありがた)(ござ)います。320()()御壮健(ごさうけん)(はう)(ござ)います。321()いては太子様(たいしさま)のお使(つかひ)(まゐ)つた(もの)(ござ)いますから、322どうぞ使(つかひ)(おもむき)を、323()(やす)まりましたらゆつくりと()いて(くだ)さいませ』
324シャ『イヤもう気分(きぶん)()くなりました。325太子様(たいしさま)のお使(つかひ)とあらば半時(はんとき)猶予(いうよ)もなりますまい、326どうか(その)(むね)(つた)へて(くだ)さい。327()(かな)(こと)なら、328吾々(われわれ)父娘(おやこ)(ちから)のあらむ(かぎ)御奉公(ごほうこう)(いた)しますから』
329ア『ヤ、330早速(さつそく)御承引(ごしよういん)有難(ありがた)(ござ)います。331かいつまんで(まを)しますれば、332太子様(たいしさま)(はじ)めて貴方(あなた)父娘(おやこ)にお()(あそ)ばし、333(とし)()いたりと(いへど)気骨(きこつ)稜々(りやうりやう)たるシャカンナ(さま)御心(おこころ)ゆき、334()いでは()(まれ)なる美貌(びばう)のスバール(さま)335王妃(わうひ)としてお召抱(めしかか)えになつても(はづ)かしからぬ(もの)思召(おぼしめ)し、336今日(こんにち)(ところ)(すこ)時機(じき)(はや)(やう)(ござ)いますが、337それだと()つて、338太子様(たいしさま)には非常(ひじやう)御恋慕(ごれんぼ)339()(たて)もたまらぬ(いきほひ)340一時(いちじ)(はや)くスバール(さま)のお(かほ)()たいとの御思召(おおぼしめし)341侍臣(じしん)吾々(われわれ)(その)御苦衷(ごくちう)(さつ)(たてまつ)り、342ジツと()てゐられぬ(やう)になり、343人目(ひとめ)(しの)んで(この)(やかた)をお(たづ)(まを)したので(ござ)います』
344シャ『何事(なにごと)(おほせ)かと(おも)へば、345スバール(ひめ)御所望(ごしよまう)との御事(おんこと)346(むすめ)異存(いぞん)さへなくば御命令(ごめいれい)(したが)ひませう。347(しか)(なが)(いま)(わたくし)(みやこ)()時機(じき)では(ござ)いませぬ。348(なん)()つても時勢(じせい)(おく)れの(ふる)ぼけた(あたま)349政治(せいぢ)(しよう)(あた)るのは(かへつ)太子様(たいしさま)御心配(ごしんぱい)をかける(やう)なもので(ござ)いますから、350(その)()(ばか)りは御断(おことわ)(まを)()(ござ)います。351(さいは)(この)山奥(やまおく)(ひそ)んで不幸(ふかう)(かさ)(なが)ら、352(やま)()(えだ)(くび)()らず、353(かは)(そこ)()()げず、354鉄砲腹(てつぱうばら)(いた)さず、355()(かく)無事(ぶじ)息災(そくさい)今日(こんにち)(まで)()(なが)らへて()ました経験(けいけん)(ござ)いますれば、356どうか(わたくし)(こと)はお(こころ)にかけさせられない(やう)(ねが)(いた)します。357(やく)()たない(わたくし)のやうな(もの)(みやこ)(のぼ)つた(ところ)で、358太子様(たいしさま)御厄介(ごやくかい)359人間(にんげん)一疋(いつぴき)(はな)()ひの飼殺(かひごろ)しも同然(どうぜん)360今日(こんにち)社会(しやくわい)接触(せつしよく)のうすい吾々(われわれ)が、361繁雑(はんざつ)()(なか)に、362どうして()つて政治(せいぢ)出来(でき)ませう。363(かたち)ばかりの茅屋(あばらや)(ふる)く、364(せま)く、365(むさくる)しう(ござ)いまするが、366(むすめ)()した(あと)独身者(どくしんもの)自炊(じすゐ)には(あま)(せま)さを(かん)じませぬ。367どうぞ(この)()(ばか)りは(ひら)御断(おことわ)りを(まをし)ます』
368ア『あゝ(じつ)(ところ)は、369まだ父王様(ちちわうさま)のお(ゆる)しもなく、370太子様(たいしさま)御一人(おひとり)御考(おかんが)へで(ござ)いますから、371(おな)(こと)なら、372モウ一二年(いちにねん)貴方(あなた)此処(ここ)()つて、373時節(じせつ)()つて(いただ)(はう)が、374双方(さうはう)都合(つがふ)()いでせう。375そして嬢様(ぢやうさま)(わたし)がソツとお(とも)(いた)し、376(ちや)宗匠(そうしやう)タルチンの(やかた)にお(かくま)(まを)し、377御身(おんみ)御安泰(ごあんたい)保護(ほご)(いた)しますれば、378どうか御心配(ごしんぱい)なく、379嬢様(ぢやうさま)(わたくし)にお(あづ)(くだ)さいませぬか』
380シャ『オイ、381スバール、382(まへ)最前(さいぜん)からのお(はなし)()いたであらう。383アリナさまに(ともな)はれて(みやこ)(のぼ)()はないか』
384ス『ハイ、385(とう)さまを(この)山奥(やまおく)(ただ)一人(ひとり)(のこ)して(わたし)(まゐ)(わけ)には()きますまい。386なる(こと)なら、387(とう)さまと御一緒(ごいつしよ)にお(とも)(ねが)ひたいもので(ござ)います』
388シャ『ハヽヽヽ、389(ちち)(たい)する孝養(かうやう)と、390(をつと)(たい)する恋愛(れんあい)とは別問題(べつもんだい)だとお(まへ)()つたでないか。391恋愛神聖論(れんあいしんせいろん)御本尊(ごほんぞん)たるスバール(ぢやう)さま、392(けつ)して、393(ちち)遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)はいらぬ。394一時(いちじ)(はや)(あい)(たてまつ)太子様(たいしさま)御前(ごぜん)()るが()からう。395(しか)(かなら)太子様(たいしさま)にお()にかかつても気儘(きまま)()しては()けませぬぞ』
396ス『ハイお(とう)さま、397有難(ありがた)(ござ)います。398左様(さやう)なれば(みやこ)(のぼ)ります。399どうか御気嫌(ごきげん)()うお(くら)(くだ)さいませ。400そして一時(いちじ)(はや)くお(とう)さまをお(むか)へに(まゐ)ります。401そしてお(とう)さまのお(かほ)(はや)()るのを(たのし)みに(わたし)(くら)して()りますよ』
402(うれ)しくもあり(かな)しくもあり、403(おや)()んだ()新婿(にひむこ)(もら)うた(やう)(こころ)()たされてゐた。404(この)翌日(よくじつ)からは浅倉谷(あさくらだに)名花(めいくわ)たるスバールの姿(すがた)()えなくなりぬ。
405大正一四・一・五 新一・二八 於月光閣 松村真澄録)