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第66巻(巳の巻)
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第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第78巻(巳の巻)
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第5巻(辰の巻)
序文
凡例
総説嵐の跡
第1篇 動天驚地
01 栄華の夢
〔201〕
02 松竹梅
〔202〕
03 臭黄の鼻
〔203〕
04 奇縁万状
〔204〕
05 盲亀の浮木
〔205〕
06 南天王
〔206〕
07 三拍子
〔207〕
08 顕恩郷
〔208〕
09 鶴の温泉
〔209〕
第2篇 中軸移動
10 奇々怪々
〔210〕
11 蜃気楼
〔211〕
12 不食不飲
〔212〕
13 神憑の段
〔213〕
14 審神者
〔214〕
15 石搗歌
〔215〕
16 霊夢
〔216〕
第3篇 予言と警告
17 勢力二分
〔217〕
18 宣伝使
〔218〕
19 旭日出暗
〔219〕
20 猿蟹合戦
〔220〕
21 小天国
〔221〕
22 神示の方舟
〔222〕
第4篇 救世の神示
23 神の御綱
〔223〕
24 天の浮橋
〔224〕
25 姫神の宣示
〔225〕
26 艮坤の二霊
〔226〕
27 唖の対面
〔227〕
28 地教山の垂示
〔228〕
第5篇 宇宙精神
29 神慮洪遠
〔229〕
30 真帆片帆
〔230〕
31 万波洋々
〔231〕
32 波瀾重畳
〔232〕
33 暗夜の光明
〔233〕
34 水魚の情交
〔234〕
第6篇 聖地の憧憬
35 波上の宣伝
〔235〕
36 言霊の響
〔236〕
37 片輪車
〔237〕
38 回春の歓
〔238〕
39 海辺の雑話
〔239〕
40 紅葉山
〔240〕
41 道神不二
〔241〕
42 神玉両純
〔242〕
第7篇 宣伝又宣伝
43 長恨歌
〔243〕
44 夜光の頭
〔244〕
45 魂脱問答
〔245〕
46 油断大敵
〔246〕
47 改言改過
〔247〕
48 弥勒塔
〔248〕
49 水魚の煩悶
〔249〕
50 磐樟船
〔250〕
余白歌
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第三〇章
真帆
(
まほ
)
片帆
(
かたほ
)
〔二三〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第5巻 霊主体従 辰の巻
篇:
第5篇 宇宙精神
よみ(新仮名遣い):
うちゅうせいしん
章:
第30章 真帆片帆
よみ(新仮名遣い):
まほかたほ
通し章番号:
230
口述日:
1922(大正11)年01月11日(旧12月14日)
口述場所:
筆録者:
井上留五郎
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年4月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
暗澹とした天地の光景は一変し、穏やかな日となった。地中海の渡船場にひとりの異様な旅姿の宣伝使があらわれ、乗船を迫った。
船戸神は宣伝使を差し招き、一点の雲もない空の下、穏やかな海面を船は出港した。風のない海面で船は遅々として進まずに漂っていた。神人らは四方山話にふけって時を費やしていた。
連日の無聊に退屈した神人らは、ウラル教の宣伝歌を歌って騒ぎ始めた。これを聞いていた宣伝使は身を起こし、涼しい声を張り上げて天教山の宣伝歌を歌い、手をうち足を踏みとどろかして舞い狂った。
神人らはこの歌声につり出されてともに興に乗って踊り始めた。
この光景に苦々しい面構えをした巨大な神人が立ち上がった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm0530
愛善世界社版:
177頁
八幡書店版:
第1輯 580頁
修補版:
校定版:
179頁
普及版:
77頁
初版:
ページ備考:
001
さしも
暗澹
(
あんたん
)
たりし
天地
(
てんち
)
の
光景
(
くわうけい
)
はここに
一変
(
いつぺん
)
して、
002
空
(
そら
)
には
燦然
(
さんぜん
)
たる
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
の
影
(
かげ
)
うららかに
下界
(
げかい
)
を
照
(
てら
)
し、
003
地
(
ち
)
は
東風
(
とうふう
)
おもむろに
吹
(
ふ
)
いて
紺碧
(
こんぺき
)
の
海面
(
かいめん
)
に
漣
(
さざなみ
)
を
立
(
た
)
て、
004
これに
日光
(
につくわう
)
映射
(
えいしや
)
して
波
(
なみ
)
のきらめく
有様
(
ありさま
)
は、
005
あたかも
鯛魚
(
たいぎよ
)
の
鱗
(
うろこ
)
を
敷
(
し
)
き
詰
(
つ
)
めたるがごとき
地中海
(
ちちうかい
)
の
渡船場
(
とせんば
)
に、
006
息
(
いき
)
急
(
せ
)
き
切
(
き
)
つて
現
(
あら
)
はれた
宣伝使
(
せんでんし
)
があつた。
007
今
(
いま
)
や
船
(
ふね
)
は
静
(
しづ
)
かな
風
(
かぜ
)
に
真帆
(
まほ
)
を
打揚
(
うちあ
)
げ、
008
西南
(
せいなん
)
に
向
(
むか
)
つて
出帆
(
しゆつぱん
)
せむとする
時
(
とき
)
である。
009
ここに
現
(
あら
)
はれた
宣伝使
(
せんでんし
)
は、
010
太
(
ふと
)
き
竹
(
たけ
)
に
教示
(
けうじ
)
を
記
(
しる
)
したるを
甲斐
(
かひ
)
々々
(
がひ
)
しく
左肩
(
さけん
)
より
右
(
みぎ
)
の
腋下
(
わきした
)
に
斜交
(
はすかひ
)
に
背負
(
せお
)
ひながら、
011
紫
(
むらさき
)
の
紐
(
ひも
)
もて
乳房
(
ちぶさ
)
のあたりに
確
(
しか
)
と
結
(
むす
)
び、
012
片手
(
かたて
)
に
杖
(
つゑ
)
をつきながら、
013
紫
(
むらさき
)
の
被面布
(
ひめんぷ
)
を
被
(
かぶ
)
り、
014
ときどき
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
をもつてこの
被面布
(
ひめんぷ
)
を
額
(
ひたひ
)
のあたりまでめくり
上
(
あ
)
げ、
015
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
にて
鼻柱
(
はなばしら
)
をこぢあげ、
016
そのまま
右
(
みぎ
)
の
眼瞼
(
まぶた
)
より
左
(
ひだり
)
の
目尻
(
めじり
)
にかけてつるりと
撫
(
な
)
で、
017
再
(
ふたた
)
び
鼻
(
はな
)
の
下
(
した
)
を
手
(
て
)
の
甲
(
かふ
)
にて
擦
(
こす
)
り、
018
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
にて
再
(
ふたた
)
び
被面布
(
ひめんぷ
)
を
顔
(
かほ
)
に
覆
(
おほ
)
ひながら
乗船
(
じやうせん
)
を
迫
(
せま
)
つた。
019
あまたの
船客
(
せんきやく
)
は、
020
この
異様
(
いやう
)
の
扮装
(
いでたち
)
に
怪訝
(
けげん
)
の
眼
(
め
)
を
見張
(
みは
)
つた。
021
船戸
(
ふなどの
)
神
(
かみ
)
は
快
(
こころよ
)
く
右手
(
めて
)
を
揚
(
あ
)
げてさしまねき、
022
早
(
はや
)
く
乗
(
の
)
れよとの
暗示
(
あんじ
)
を
与
(
あた
)
へた。
023
宣伝使
(
せんでんし
)
はつかつかと
乗場
(
のりば
)
に
近
(
ちか
)
づき、
024
船
(
ふね
)
を
目
(
め
)
がけて
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ。
025
その
響
(
ひびき
)
に
船
(
ふね
)
は
激動
(
げきどう
)
して、
026
畳
(
たたみ
)
のごとき
海面
(
かいめん
)
に
時
(
とき
)
ならぬ
波
(
なみ
)
の
皺
(
しわ
)
を
描
(
ゑが
)
いた。
027
海辺
(
かいへん
)
の
長
(
なが
)
き
太
(
ふと
)
き
樹
(
き
)
は
海底
(
かいてい
)
に
向
(
むか
)
つて
倒
(
さかし
)
まにその
影
(
かげ
)
を
沈
(
しづ
)
め、
028
波
(
なみ
)
につれて
竜
(
りう
)
の
天
(
てん
)
に
昇
(
のぼ
)
るがごとく、
029
樹木
(
じゆもく
)
の
幹
(
みき
)
は
左右
(
さいう
)
に
蜿蜒
(
えんえん
)
として、
030
地上
(
ちじやう
)
目
(
め
)
がけて
上
(
のぼ
)
り
来
(
く
)
るのであつた。
031
空
(
そら
)
には
一点
(
いつてん
)
の
雲
(
くも
)
なくまた
風
(
かぜ
)
もなき
海面
(
かいめん
)
は、
032
あたかも
玻璃鏡
(
はりきやう
)
を
渡
(
わた
)
るがごとく、
033
帆
(
ほ
)
は
痩
(
や
)
せ
萎
(
しを
)
れ、
034
船脚
(
ふなあし
)
遅々
(
ちち
)
として
進
(
すす
)
まず、
035
この
海上
(
かいじやう
)
に
漂
(
ただよ
)
ふこと
数日
(
すうじつ
)
に
及
(
およ
)
んだのである。
036
神人
(
かみがみ
)
らは
四方山
(
よもやま
)
の
無駄話
(
むだばなし
)
に
時
(
とき
)
を
費
(
つひや
)
し、
037
無聊
(
むれう
)
を
慰
(
なぐさ
)
めつつあつた。
038
日
(
ひ
)
は
西山
(
せいざん
)
に
没
(
ぼつ
)
し、
039
海上
(
かいじやう
)
を
飛
(
と
)
び
交
(
か
)
ふ
諸鳥
(
もろどり
)
は
塒
(
ねぐら
)
を
求
(
もと
)
めておのおの
巣
(
す
)
に
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
040
半弦
(
はんげん
)
の
月
(
つき
)
は
西天
(
せいてん
)
に
懸
(
かか
)
り、
041
利鎌
(
とがま
)
のごとき
光
(
ひかり
)
を
海上
(
かいじやう
)
に
投
(
な
)
げた。
042
空
(
そら
)
は
一面
(
いちめん
)
に
天書
(
てんしよ
)
の
光
(
ひかり
)
梨地色
(
なしぢいろ
)
に
輝
(
かがや
)
き、
043
月
(
つき
)
は
天
(
あま
)
の
河
(
かは
)
を
流
(
なが
)
れて
海
(
うみ
)
の
涯
(
はて
)
に
沈
(
しづ
)
むの
感
(
かん
)
があつた。
044
海
(
うみ
)
の
底
(
そこ
)
には
一面
(
いちめん
)
の
星光
(
せいくわう
)
輝
(
かがや
)
き、
045
天
(
てん
)
にも
銀河
(
ぎんが
)
横
(
よこ
)
たはり、
046
海底
(
かいてい
)
にもまた
燦爛
(
さんらん
)
たる
銀河
(
ぎんが
)
流
(
なが
)
れ、
047
河
(
かは
)
二
(
ふた
)
つ
月
(
つき
)
二
(
ふた
)
つ、
048
実
(
じつ
)
に
蓮華
(
れんげ
)
の
台
(
うてな
)
に
身
(
み
)
を
托
(
たく
)
したる
如
(
ごと
)
き
爽快
(
さうくわい
)
の
念
(
ねん
)
に
打
(
う
)
たれつつ、
049
静
(
しづ
)
かに
船
(
ふね
)
は
西南
(
せいなん
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
んでゐる。
050
船
(
ふね
)
は
渡
(
わた
)
る
海底
(
かいてい
)
の
空
(
そら
)
を、
051
棹
(
さを
)
は
穿
(
うが
)
つ
海底
(
かいてい
)
の
星
(
ほし
)
を、
052
海月
(
くらげ
)
の
幾十百
(
いくじふひやく
)
ともなく
波
(
なみ
)
に
漂
(
ただよ
)
ふ
有様
(
ありさま
)
は、
053
俄
(
にはか
)
に
天上
(
てんじやう
)
の
月
(
つき
)
幾十
(
いくじふ
)
ともなく
降
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
りて、
054
船
(
ふね
)
を
支
(
ささ
)
へまもるの
感
(
かん
)
じがしたのである。
055
昨日
(
きのふ
)
の
惨澹
(
さんたん
)
たる
天地
(
てんち
)
の
光景
(
くわうけい
)
に
引換
(
ひきか
)
へ、
056
今日
(
けふ
)
のこの
静
(
しづ
)
けさは、
057
夕立
(
ゆふだち
)
の
後
(
あと
)
の
快晴
(
くわいせい
)
か、
058
嵐
(
あらし
)
の
後
(
あと
)
の
静
(
しづ
)
けさか、
059
天地
(
てんち
)
寂
(
せき
)
として
声
(
こゑ
)
なく、
060
蚯蚓
(
みみず
)
のささやく
声
(
こゑ
)
さへ
耳
(
みみ
)
に
通
(
かよ
)
ふやうであつた。
061
連日
(
れんじつ
)
の
航海
(
かうかい
)
に
船中
(
せんちう
)
の
神人
(
かみがみ
)
は
何
(
いづ
)
れも
無聊
(
むれう
)
に
苦
(
くる
)
しみ、
062
船
(
ふね
)
の
四隅
(
よすみ
)
には、
063
『アーアー』
064
と
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
あ
)
けて
欠伸
(
あくび
)
をする
神人
(
かみ
)
が
現
(
あら
)
はれた。
065
何
(
いづ
)
れもこの
欠伸
(
あくび
)
に
感染
(
かんせん
)
して、
066
一斉
(
いつせい
)
に
両手
(
りやうて
)
の
拳
(
こぶし
)
を
握
(
にぎ
)
り
頭上
(
づじやう
)
高
(
たか
)
く
延長
(
えんちやう
)
しながら、
067
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
あ
)
けて、
068
『アーアー』
069
と
云
(
い
)
ひながら、
070
欠伸
(
あくび
)
を
吾
(
われ
)
劣
(
おと
)
らずと
始
(
はじ
)
めかけた。
071
一時
(
いつとき
)
ばかりはあたかも
欠伸
(
あくび
)
の
競争場
(
きやうそうば
)
のごとき
感
(
かん
)
があつた。
072
最早
(
もはや
)
欠伸
(
あくび
)
の
種
(
たね
)
も
尽
(
つ
)
き、
073
船
(
ふね
)
の
一隅
(
いちぐう
)
には
辺
(
あた
)
りをはばかりてか、
074
小声
(
こごゑ
)
に
鼻唄
(
はなうた
)
さへ
謡
(
うた
)
ふ
神人
(
かみ
)
が
現
(
あら
)
はれた。
075
これに
感染
(
かんせん
)
されてか、
076
またもや
小声
(
こごゑ
)
に
何事
(
なにごと
)
をか
小唄
(
こうた
)
を
謡
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
077
遂
(
つひ
)
には
狎
(
な
)
れて
大声
(
おほごゑ
)
をあげ、
078
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなく
船中
(
せんちう
)
に
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
079
両手
(
りやうて
)
を
頬
(
ほほ
)
に
当
(
あ
)
てながら、
080
『
飲
(
の
)
めよ
騒
(
さわ
)
げーよ
一寸先
(
いつすんさき
)
あー
闇
(
やみ
)
ーよー
081
闇
(
やみ
)
のーあとーにはー
月
(
つき
)
がーでるー
082
船
(
ふね
)
がー
浮
(
う
)
くならー
心
(
こころ
)
もー
浮
(
う
)
かせー
083
心
(
こころ
)
沈
(
しづ
)
めばー
船
(
ふね
)
沈
(
しづ
)
むー
084
さあさ
浮
(
う
)
いたり
浮
(
う
)
いたり
浮
(
う
)
いたりなー
085
浮
(
う
)
いたー
浮世
(
うきよ
)
はどうなろとままよー
086
儘
(
まま
)
にならぬが
浮世
(
うきよ
)
と
云
(
い
)
へどー
087
わしはー
時節
(
じせつ
)
で
浮
(
う
)
いてーゐる
088
時鳥
(
ほととぎす
)
声
(
こゑ
)
は
聞
(
き
)
けどもー
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
せぬ
089
見
(
み
)
せぬ
姿
(
すがた
)
は
魔
(
ま
)
か
鬼
(
おに
)
か
090
若
(
もし
)
も
鬼
(
おに
)
奴
(
め
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たら
091
手足
(
てあし
)
を
縛
(
しば
)
りー
角
(
つの
)
を
折
(
を
)
り
092
叩
(
たた
)
いて
炙
(
あぶ
)
つて
食
(
く
)
てしまへ
093
たとへ
牛
(
うし
)
虎
(
とら
)
狼
(
おおかみ
)
獅子
(
しし
)
も
094
力
(
ちから
)
のーよわき
山羊
(
やまひつじ
)
095
猿
(
さる
)
の
千疋
(
せんびき
)
ー
万疋
(
まんびき
)
もー
096
掻
(
か
)
いて
集
(
あつ
)
めて
引
(
ひ
)
き
縛
(
しば
)
り
097
西
(
にし
)
の
海
(
うみ
)
へとさらりとほかせ
098
さらりとーほかせー
099
よいよいーよいとさのーよいとさつさ』
100
神人
(
かみがみ
)
らは
異口
(
いく
)
同音
(
どうおん
)
に
声
(
こゑ
)
を
合
(
あは
)
して、
101
節
(
ふし
)
面白
(
おもしろ
)
く
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて
謡
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
102
宣伝使
(
せんでんし
)
は
黙然
(
もくねん
)
としてこの
騒
(
さわ
)
ぎを
心
(
こころ
)
なげに、
103
見
(
み
)
るともなしに
眺
(
なが
)
めてゐた。
104
暫
(
しばら
)
くあつて
神人
(
かみがみ
)
らは
疲労
(
ひらう
)
を
感
(
かん
)
じたと
見
(
み
)
え、
105
さしも
騒
(
さわ
)
がしかりし
波
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
も、
106
水
(
みづ
)
を
打
(
う
)
つたる
如
(
ごと
)
くたちまち
静粛
(
せいしゆく
)
に
帰
(
き
)
し、
107
風
(
かぜ
)
の
音
(
おと
)
さへも
聞
(
きこ
)
えぬ
閑寂
(
かんじやく
)
の
気
(
き
)
に
打
(
う
)
たるるばかりになつた。
108
宣伝使
(
せんでんし
)
はやをら
身
(
み
)
を
起
(
おこ
)
し、
109
船中
(
せんちう
)
の
小高
(
こだか
)
き
所
(
ところ
)
に
立
(
た
)
ち
現
(
あら
)
はれ、
110
涼
(
すず
)
しき
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
りあげて、
111
『
高
(
たか
)
い
山
(
やま
)
からー
谷底
(
たにそこ
)
見
(
み
)
れば
112
憂
(
う
)
しや
奈落
(
ならく
)
の
泥
(
どろ
)
の
海
(
うみ
)
113
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
一度
(
いちど
)
に
開
(
ひら
)
く
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
114
開
(
ひら
)
いて
散
(
ち
)
りて
実
(
み
)
を
結
(
むす
)
ぶ
115
月日
(
つきひ
)
と
土
(
つち
)
の
恩
(
おん
)
を
知
(
し
)
れ
116
この
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ
生神
(
いきがみ
)
は
117
天教山
(
てんけうざん
)
に
現
(
あら
)
はれる
118
この
世
(
よ
)
を
教
(
をし
)
ふる
生神
(
いきがみ
)
は
119
地教
(
ちけう
)
の
山
(
やま
)
にあらはれた
120
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
121
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
122
たとへ
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
123
誠
(
まこと
)
の
力
(
ちから
)
は
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ
124
誠
(
まこと
)
の
力
(
ちから
)
は
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ』
125
と
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
ち
足踏
(
あしふ
)
み
轟
(
とどろ
)
かし
舞
(
ま
)
ひ
狂
(
くる
)
ふ。
126
神人
(
かみがみ
)
らはこの
声
(
こゑ
)
に
釣
(
つ
)
り
出
(
だ
)
さるる
心地
(
ここち
)
して、
127
一斉
(
いつせい
)
に
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
128
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
ち
足踏
(
あしふ
)
み
轟
(
とどろ
)
かし、
129
一心
(
いつしん
)
不乱
(
ふらん
)
に
興
(
きよう
)
に
乗
(
の
)
りて
踊
(
をど
)
り
狂
(
くる
)
ふ。
130
このとき
船中
(
せんちう
)
の
一隅
(
いちぐう
)
より、
131
苦々
(
にがにが
)
しき
面構
(
つらがまへ
)
の
巨大
(
きよだい
)
なる
神人
(
しんじん
)
は、
132
すつくと
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
133
宣伝使
(
せんでんし
)
をはつたと
睨
(
ね
)
めつけた。
134
その
光景
(
くわうけい
)
は、
135
あたかも
閻羅王
(
えんらわう
)
の
怒髪
(
どはつ
)
天
(
てん
)
を
衝
(
つ
)
いて
立
(
た
)
ち
現
(
あら
)
はれたごとくであつた。
136
あゝこの
神人
(
かみ
)
は
何物
(
なにもの
)
ならむか。
137
(
大正一一・一・一一
旧大正一〇・一二・一四
井上留五郎
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
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