第三二章 波瀾重畳〔二三二〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第5巻 霊主体従 辰の巻
篇:第5篇 宇宙精神
よみ(新仮名遣い):うちゅうせいしん
章:第32章 波瀾重畳
よみ(新仮名遣い):はらんちょうじょう
通し章番号:232
口述日:1922(大正11)年01月11日(旧12月14日)
口述場所:
筆録者:加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1922(大正11)年4月15日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:へべれけになった神人らには、祝部神の歌う「三千世界云々」の歌に苦痛を覚えた。やがて夜もふけて静かな丑三つ時ごろ、酒に酔いつぶれて寝ている神々らを嵐が襲った。
神人らはいっぺんに酔いもさめて激しく波風に揺られ翻弄される船の中にただ震えていた。祝部神はここぞとばかり声を張り上げて、悔改めの宣伝歌を歌い始めた。
やがて船は一つの島に打ち上げられた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm0532
愛善世界社版:190頁
八幡書店版:第1輯 584頁
修補版:
校定版:191頁
普及版:82頁
初版:
ページ備考:
001 神人らは強き酒にへべれけに酔ひつぶれ、002ほとんど船中の客たる事を忘るる位であつた。003このとき祝部神の「三千世界云々」の歌に神人らは何ゆゑか、004頭を鉄槌にて打ち砕かれ、005胸は引き裂かるるがごとき苦痛に襲はれた。
006 夜は深々と更け渡り、007万物寂として声なき丑満頃となつた。008聞ゆるものはただ神人らの酒に酔ひ潰れて呻く苦悶の声のみである。009折しも東北の空に当つて一団の黒雲が現はるるよと見る間に、010前後左右に電光石火の速力をもつて押し拡がり、011満天墨を流したるがごとく、012海上また咫尺を弁ぜざるに至つた。013忽ち颶風吹き起り、014さしも平和の海面は、015ここに虎嘯き竜躍り、016海馬は白き浪の鬣を振うて船体に噛みつき始めた。017船は木葉のごとく中天に捲き上げらるるやと見る間に、018又もや浪と浪との千仭の谷間に突き落され、019檣折れ、020舵はむしられ、021艫は中心より折れて進退の自由を失ひ、022ただ風と浪との翻弄するに任すより外は無かつた。
023 神人らは一度に酔も醒め、024顔は真青となつて、025地獄より火を貰ひに来た餓鬼の相好の其侭となつて仕舞つた。026鼻つままれても分らぬ真暗な海上に潮を浴び、027全身濡れ鼠となつて震ひ戦くその光景は、028死線を越えて処の騒ぎでは無かつた。
029 忽ち前方に当つて一道の光明が赫灼と放射するのを見た。030これは高杉別の従者杉高の瑠璃光の玉の光であつた。031船戸神は船体をその光の方に向けむとしたが、032舵は千切られ、033艫は折れ、034檣は挫け、035帆はむしられて如何ともするよしなく、036ただ天を仰ぎ救助を乞ふのみであつた。037酒のために空元気を装うてゐた数多の神人らは、038恐怖心にかられ、039青菜に塩か、040蛭に塩、041しほしほとして辛い目に遇ふ事よと溜息を吐き、042中には卑怯にも泣声をしぼる者さへ現はれた。043祝部神は此処ぞと言はぬばかり暗中声を励まし、044荒れ狂ふ怒濤の浪音を圧するばかりの大音声で、
045『三千世界一度に開く梅の花 046朝日は照るとも曇るとも
048牛雲別は浪に浚はれ死ぬるとも
049酒を喰らうた神々は
051何と鳴戸や瀬戸の海 052命の瀬戸のいまはの際に
053神の恵も白波の
055命惜しくば天地に詫びよ 056詫が叶へば許してやるぞ
057一二三四五六七八九十百千万 058万の罪咎さらりと海に
061心の垢も身の罪も 062流して泣かせて腹の中
063泣かぬ日はなき時鳥 064八千八声の血を吐いて
069暗に鉄砲数打ちやあたる 070何でも構はぬ神様祈れ
072生きるか死ぬかの瀬戸際ぞ
073一つの命を瀬戸の海 074一つの島なる一つ松
075一つの玉の御光に 076心を照して改めよ
077荒浪如何に高くとも 078荒風如何に強くとも
079現はれ出でたる神島の 080神の光に村肝の
082浪路も凪ぎて珍の島
084宵から喰うた酒の酔
085一度に醒ませよ心の迷ひ 086迷ひの果ては悟りの船よ
087覚りは救ひの船と知れ』
088と止め度もなく、089口から出まかせに歌つた。090祝部神の容貌は暗夜のため確と見ることは出来なかつた。091されどその謡ひ振りによつて、092その相貌や手足の振り方など、093歴然白昼を見るが如き感がした。094忽ち船底がガラガラと音がした。095見れば一つの島にうち上げられてゐた。096あゝ惟神霊幸倍坐世。
097(大正一一・一・一一 旧大正一〇・一二・一四 加藤明子録)