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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
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特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第5巻(辰の巻)
序文
凡例
総説嵐の跡
第1篇 動天驚地
01 栄華の夢
〔201〕
02 松竹梅
〔202〕
03 臭黄の鼻
〔203〕
04 奇縁万状
〔204〕
05 盲亀の浮木
〔205〕
06 南天王
〔206〕
07 三拍子
〔207〕
08 顕恩郷
〔208〕
09 鶴の温泉
〔209〕
第2篇 中軸移動
10 奇々怪々
〔210〕
11 蜃気楼
〔211〕
12 不食不飲
〔212〕
13 神憑の段
〔213〕
14 審神者
〔214〕
15 石搗歌
〔215〕
16 霊夢
〔216〕
第3篇 予言と警告
17 勢力二分
〔217〕
18 宣伝使
〔218〕
19 旭日出暗
〔219〕
20 猿蟹合戦
〔220〕
21 小天国
〔221〕
22 神示の方舟
〔222〕
第4篇 救世の神示
23 神の御綱
〔223〕
24 天の浮橋
〔224〕
25 姫神の宣示
〔225〕
26 艮坤の二霊
〔226〕
27 唖の対面
〔227〕
28 地教山の垂示
〔228〕
第5篇 宇宙精神
29 神慮洪遠
〔229〕
30 真帆片帆
〔230〕
31 万波洋々
〔231〕
32 波瀾重畳
〔232〕
33 暗夜の光明
〔233〕
34 水魚の情交
〔234〕
第6篇 聖地の憧憬
35 波上の宣伝
〔235〕
36 言霊の響
〔236〕
37 片輪車
〔237〕
38 回春の歓
〔238〕
39 海辺の雑話
〔239〕
40 紅葉山
〔240〕
41 道神不二
〔241〕
42 神玉両純
〔242〕
第7篇 宣伝又宣伝
43 長恨歌
〔243〕
44 夜光の頭
〔244〕
45 魂脱問答
〔245〕
46 油断大敵
〔246〕
47 改言改過
〔247〕
48 弥勒塔
〔248〕
49 水魚の煩悶
〔249〕
50 磐樟船
〔250〕
余白歌
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第五〇章
磐樟船
(
いはくすぶね
)
〔二五〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第5巻 霊主体従 辰の巻
篇:
第7篇 宣伝又宣伝
よみ(新仮名遣い):
せんでんまたせんでん
章:
第50章 磐樟船
よみ(新仮名遣い):
いわくすぶね
通し章番号:
250
口述日:
1922(大正11)年01月14日(旧12月17日)
口述場所:
筆録者:
井上留五郎
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年4月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
大足彦はいまや足真彦と名前を変えて、宣伝の旅に諸方を巡っていた。常世の国の紅の郷にやってきた。この地は蓑彦という正しい神人が治めていた。
足真彦は、数十人の神人らが山林の楠の木をしきりに伐採しているのを見た。彼らの話によると、これは蓑彦が来るべき大洪水に備えて方舟を作っているとのことであった。
蓑彦は足真彦の後を追って来て、丁重に館に迎え入れた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
この第5巻第50章に「蓑彦」が8回出るが、他の章(第2巻第22章、同第27章、第29巻第4章)ではすべて「美濃彦」になっている。
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-10-07 23:27:48
OBC :
rm0550
愛善世界社版:
295頁
八幡書店版:
第1輯 621頁
修補版:
校定版:
300頁
普及版:
125頁
初版:
ページ備考:
001
生者
(
しやうじや
)
必滅
(
ひつめつ
)
、
002
会者
(
ゑしや
)
定離
(
ぢやうり
)
、
003
栄古
(
えいこ
)
盛衰
(
せいすゐ
)
は
世
(
よ
)
の
習
(
なら
)
ひとは
云
(
い
)
ひながら、
004
一
(
いち
)
時
(
じ
)
は
聖地
(
せいち
)
ヱルサレムの
神都
(
しんと
)
において、
005
大八洲彦
(
おほやしまひこの
)
命
(
みこと
)
と
共
(
とも
)
に
天使
(
てんし
)
の
職
(
しよく
)
の
就
(
つ
)
きたりし
機略
(
きりやく
)
縦横
(
じうわう
)
の
神人
(
しんじん
)
も、
006
今
(
いま
)
は
配所
(
はいしよ
)
の
月
(
つき
)
を
見
(
み
)
る、
007
苦
(
くる
)
しき
憂
(
う
)
きに
大足彦
(
おほだるひこ
)
の、
008
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
成
(
な
)
れの
果
(
はて
)
、
009
この
世
(
よ
)
を
忍
(
しの
)
ぶ
足真彦
(
だるまひこ
)
、
010
神
(
かみ
)
と
現
(
あら
)
はれ
荒
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
ふ、
011
魔神
(
まがみ
)
の
荒
(
すさ
)
びを
鎮
(
しづ
)
めむと、
012
神国
(
みくに
)
を
思
(
おも
)
ふ
真心
(
まごころ
)
の、
013
心
(
こころ
)
の
駒
(
こま
)
に
鞭打
(
むちう
)
ちて、
014
山野
(
さんや
)
河海
(
かかい
)
を
駆
(
か
)
け
廻
(
めぐ
)
り、
015
天教山
(
てんけうざん
)
の
神示
(
しんじ
)
をば、
016
四方
(
よも
)
に
伝
(
つた
)
ふる
常磐木
(
ときはぎ
)
の、
017
松
(
まつ
)
の
心
(
こころ
)
ぞ
勇
(
いさ
)
ましき。
018
足真彦
(
だるまひこ
)
は、
019
『
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
一度
(
いちど
)
に
開
(
ひら
)
く
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
、
020
開
(
ひら
)
いて
散
(
ち
)
りて
実
(
み
)
を
結
(
むす
)
ぶ。
021
時鳥
(
ほととぎす
)
声
(
こゑ
)
は
聞
(
き
)
けども
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
えぬ』
022
と
世
(
よ
)
を
忍
(
しの
)
ぶ
幽
(
かす
)
かな
声
(
こゑ
)
に
四方
(
しはう
)
を
逍遙
(
さまよ
)
ひながら、
023
漸
(
やうや
)
うここに
歩
(
あゆ
)
みくる。
024
淵瀬
(
ふちせ
)
と
変
(
かは
)
る
仮
(
かり
)
の
世
(
よ
)
の、
025
昨日
(
きのふ
)
や
今日
(
けふ
)
の
飛鳥川
(
あすかがは
)
、
026
彼岸
(
ひがん
)
に
渡
(
わた
)
す
弥勒
(
みろく
)
の
世
(
よ
)
、
027
弥勒
(
みろく
)
神政
(
しんせい
)
の
成就
(
じやうじゆ
)
を、
028
深
(
ふか
)
く
心
(
こころ
)
に
掛巻
(
かけま
)
くも、
029
畏
(
かしこ
)
き
神
(
かみ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
。
030
ここは
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
の
紅
(
くれなゐ
)
の
郷
(
さと
)
である。
031
紅
(
くれなゐ
)
の
館
(
やかた
)
には
蓑彦
(
みのひこ
)
[
※
この第5巻第50章に「蓑彦」が8回出るが、他の章(第2巻第22章、同第27章、第29巻第4章)ではすべて「美濃彦」になっている。
]
といふこの
地方
(
ちはう
)
を
治
(
をさ
)
むる
正
(
ただ
)
しき
神人
(
かみ
)
があつた。
032
足真彦
(
だるまひこ
)
は
門前
(
もんぜん
)
に
立
(
た
)
ち
現
(
あら
)
はれ、
033
この
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
小声
(
こごゑ
)
に
謡
(
うた
)
ひつつ、
034
淋
(
さび
)
しげに
通
(
とほ
)
り
過
(
す
)
ぎた。
035
少
(
すこ
)
し
前方
(
ぜんぱう
)
に
当
(
あた
)
つて、
036
頻
(
しきり
)
に
木
(
き
)
を
伐
(
き
)
る
音
(
おと
)
が
聞
(
きこ
)
えた。
037
足真彦
(
だるまひこ
)
は
不知
(
しらず
)
不識
(
しらず
)
その
音
(
おと
)
のする
方
(
はう
)
に
歩
(
あゆ
)
みを
運
(
はこ
)
びつつあつた。
038
数十
(
すうじふ
)
柱
(
はしら
)
の
神々
(
かみがみ
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
汗
(
あせ
)
みどろ
になつて、
039
この
山林
(
さんりん
)
の
樟
(
くす
)
の
樹
(
き
)
の
伐採
(
ばつさい
)
に
余念
(
よねん
)
がなかつた。
040
棟梁神
(
とうりやうしん
)
と
覚
(
おぼ
)
しき
図体
(
づうたい
)
の
長大
(
ちやうだい
)
なる
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
き
神
(
かみ
)
は、
041
神々
(
かみがみ
)
に
向
(
むか
)
つて、
042
『オーイ
皆
(
みな
)
の
神
(
かみ
)
たち、
043
モウ
休息
(
きうそく
)
してもよいぢやないか』
044
と
呶鳴
(
どな
)
る。
045
数多
(
あまた
)
の
神々
(
かみがみ
)
は
鶴
(
つる
)
の
一声
(
ひとこゑ
)
に、
046
得物
(
えもの
)
をその
場
(
ば
)
に
捨
(
す
)
て、
047
一所
(
いつしよ
)
に
集
(
あつ
)
まり、
048
倒
(
たふ
)
した
木
(
き
)
に
腰
(
こし
)
を
掛
(
か
)
けながら、
049
四方山
(
よもやま
)
の
話
(
はなし
)
に
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
いた。
050
甲
(
かふ
)
『オイ
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
、
051
昔
(
むかし
)
から
紅
(
くれなゐ
)
の
郷
(
さと
)
の
名物
(
めいぶつ
)
といはれたこの
樟樹山
(
くすのきやま
)
を、
052
毎日
(
まいにち
)
々々
(
まいにち
)
伐採
(
ばつさい
)
するなんて、
053
一体
(
いつたい
)
、
054
こりや
何
(
なん
)
のためだらうな。
055
蓑彦
(
みのひこの
)
神
(
かみ
)
さまも、
056
ちつとこの
頃
(
ごろ
)
はどうかして
居
(
を
)
りはせぬかな』
057
と
辺
(
あた
)
りを
憚
(
はばか
)
る
様
(
やう
)
な
手付
(
てつ
)
きをして、
058
そこらを
きよろきよろ
見廻
(
みまは
)
しながら
口
(
くち
)
を
切
(
き
)
つた。
059
乙
(
おつ
)
『ナンダとー。
060
くすくす
云
(
い
)
ふに
及
(
およ
)
ばぬ、
061
凡夫
(
ぼんぶ
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として、
062
蓑彦
(
みのひこ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
精神
(
せいしん
)
が
判
(
わか
)
つてたまるかい。
063
只
(
ただ
)
お
前
(
まへ
)
たちや
黙
(
だま
)
つて
仰
(
あほせ
)
の
まにまに
俯向
(
うつむ
)
いて
働
(
はたら
)
いて
居
(
を
)
りやよいのだ。
064
大神
(
おほかみ
)
さまの
為
(
な
)
さることを
くすくす
批評
(
ひひやう
)
するのは、
065
みの
彦
(
ひこ
)
、
066
おつと、
067
どつこい、
068
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
知
(
し
)
らずといふのだよ』
069
丙
(
へい
)
は
澄
(
す
)
ました
顔
(
かほ
)
をしながら
起
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
070
『そもそもこの
山
(
やま
)
は
遠
(
とほ
)
き
神代
(
かみよ
)
の
昔
(
むかし
)
より』
071
丁
(
てい
)
『おいおいそらなに
吐
(
ぬか
)
すのだい、
072
遠
(
とほ
)
きも
糞
(
くそ
)
もあつたかい。
073
とぼけ
人足
(
にんそく
)
に
昔
(
むかし
)
からの
事
(
こと
)
が
判
(
わか
)
つてたまるかい。
074
俺
(
おれ
)
が
真正
(
ほんと
)
の
事
(
こと
)
あ
知
(
し
)
つてらー。
075
この
頃
(
ごろ
)
それ、
076
蟻
(
あり
)
が
行列
(
ぎやうれつ
)
する
様
(
やう
)
にドンドンと
海
(
うみ
)
を
越
(
こ
)
えて
東
(
ひがし
)
の
国
(
くに
)
へ
渡
(
わた
)
る
奴
(
やつ
)
があるだろう。
077
彼奴
(
あいつ
)
はな、
078
宣伝使
(
せんでんし
)
とやらの
言
(
い
)
つたことに
胆
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
しやがつて、
079
蟻
(
あり
)
のやうな
小
(
ちひ
)
さい
神
(
かみ
)
どもが、
080
ユルサレル
とか、
081
ユルサレム
とか、
082
何
(
なん
)
だか
妙
(
めう
)
な
名
(
な
)
の
付
(
つ
)
いた
都
(
みやこ
)
へ
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
ひに
行
(
ゆ
)
きよるのだと
云
(
い
)
う
事
(
こと
)
だよ。
083
蟻
(
あり
)
の
行列
(
ぎやうれつ
)
の
様
(
やう
)
に
沢山
(
たくさん
)
に
並
(
なら
)
んで、
084
有難
(
ありがた
)
いも
糞
(
くそ
)
もあつたものぢやない。
085
それよりも
船
(
ふね
)
を
沢山
(
たくさん
)
に
持
(
も
)
つてをる
神人
(
かみがみ
)
こそ、
086
沢山
(
たくさん
)
な
船賃
(
ふなちん
)
を
取
(
と
)
りよつて、
087
それをホントに
有難
(
ありがた
)
がつてをるから、
088
蓑彦
(
みのひこ
)
さまも
酢
(
す
)
でも、
089
蒟蒻
(
こんにやく
)
でも、
090
おつとどつこい
誠
(
まこと
)
に
立派
(
りつぱ
)
な、
091
お
賢
(
かしこ
)
い、
092
知慧
(
ちゑ
)
の
深
(
ふか
)
い、
093
利益
(
りえき
)
に
敏
(
さと
)
い、
094
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた、
095
賢明
(
けんめい
)
な、
096
敏捷
(
びんせう
)
な……』
097
甲
(
かふ
)
『そりや
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬ
)
かすのだい。
098
同
(
おんな
)
じことばかり
並
(
なら
)
べよつて、
099
早
(
はや
)
く
次
(
つ
)
ぎへ
切
(
き
)
り
上
(
あ
)
げて
先
(
さ
)
きを
言
(
い
)
はぬかい』
100
丁
(
てい
)
『
切
(
き
)
り
上
(
あ
)
げて
言
(
い
)
へつたつて、
101
コンナ
大樹
(
たいじゆ
)
がさう
早速
(
さつそく
)
に
伐
(
き
)
り
上
(
あ
)
げられるかい』
102
甲
(
かふ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
、
103
その
次
(
つ
)
ぎを
早
(
はや
)
く
申
(
まを
)
せと
言
(
い
)
ふのだ』
104
丁
(
てい
)
『その
次
(
つ
)
ぎはその
次
(
つ
)
ぎかい。
105
それでな、
106
蓑彦
(
みのひこ
)
さまは
身
(
み
)
の
得
(
とく
)
を
考
(
かんが
)
へて、
107
沢山
(
たくさん
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
船
(
ふね
)
を
造
(
つく
)
つて、
108
蟻
(
あり
)
のやうな
凡夫
(
ぼんぶ
)
を
沢山
(
たくさん
)
に
乗
(
の
)
せて
駄賃
(
だちん
)
を
吸
(
す
)
ひあげる
積
(
つも
)
りだよ。
109
吾々
(
われわれ
)
は
汗水
(
あせみづ
)
垂
(
た
)
らして
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
木
(
き
)
を
伐
(
き
)
らされて、
110
ホント
に
気
(
き
)
が
利
(
き
)
かないよ』
111
戊
(
ぼう
)
『
馬鹿
(
ばか
)
いへ、
112
蓑彦
(
みのひこ
)
はソンナ
欲
(
よく
)
な
神
(
かみ
)
さまぢやない。
113
よくも
無
(
な
)
い
神人
(
かみ
)
さまだよ』
114
丁
(
てい
)
『
欲
(
よく
)
ないから
悪
(
わる
)
いのだ。
115
ソンナこと
言
(
い
)
つてゐると、
116
今
(
いま
)
にそれ
勝彦
(
かつひこ
)
のやうに、
117
また
どえらい
目玉
(
めだま
)
を
剥
(
む
)
かれて、
118
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
つて
吠面
(
ほえづら
)
かわいて
謝
(
あや
)
まらねばならぬ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
てくるワ』
119
乙
(
おつ
)
『
真正
(
ほんと
)
の
事
(
こと
)
は、
120
お
前
(
まへ
)
たちも
確乎
(
しつかり
)
せぬと
大洪水
(
だいこうずゐ
)
が
出
(
で
)
るのだよ。
121
蓑彦
(
みのひこ
)
さまは
吾々
(
われわれ
)
を
助
(
たす
)
けるために、
122
昔
(
むかし
)
から
秘蔵
(
ひざう
)
のこの
山
(
やま
)
を
伐
(
き
)
つて、
123
立派
(
りつぱ
)
に
樟
(
くす
)
の
船
(
ふね
)
を
造
(
つく
)
つて、
124
サア
世界
(
せかい
)
の
大洪水
(
だいこうずゐ
)
といふ
時
(
とき
)
に、
125
お
前
(
まへ
)
たちも
助
(
たす
)
けてやらうといふ
御
(
ご
)
精神
(
せいしん
)
ぢや。
126
そりやもう、
127
ちつとも
間違
(
まちが
)
ひはないよ。
128
吾々
(
われわれ
)
は
堅
(
かた
)
くかたく
信
(
しん
)
じてゐるのだ。
129
堅
(
かた
)
いといつたら
石
(
いし
)
に
証文
(
しようもん
)
、
130
岩
(
いは
)
に
判
(
はん
)
を
押
(
お
)
したやうなものだよ』
131
丁
(
てい
)
『ソンナ
大洪水
(
だいこうずゐ
)
が
実際
(
じつさい
)
あるものだらうかな。
132
俺
(
おれ
)
もこの
間
(
あひだ
)
から、
133
何
(
なん
)
だか
気
(
き
)
に
掛
(
かか
)
るのだ。
134
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
、
135
今日
(
けふ
)
で
四五十
(
しごじふ
)
日
(
にち
)
も
雨
(
あめ
)
は
ざあざあ
と
降
(
ふ
)
りつづくなり、
136
大河
(
おほかは
)
小川
(
をがは
)
の
堤
(
どて
)
が
切
(
き
)
れるなり、
137
低
(
ひく
)
いとこの
家
(
いへ
)
はみな
流
(
なが
)
されて
了
(
しま
)
ふなり、
138
この
調子
(
てうし
)
で
二
(
に
)
年
(
ねん
)
も
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
も
降
(
ふ
)
り
続
(
つづ
)
くものなら、
139
それこそ
事
(
こと
)
だ。
140
きつと
山
(
やま
)
も
何
(
なん
)
にも
沈
(
しづ
)
んでしまふに
違
(
ちが
)
ひない。
141
マア、
142
マア、
143
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
蓑彦
(
みのひこ
)
さまの
仰
(
あふ
)
せに
従
(
したが
)
つて
働
(
はたら
)
かうかい』
144
一同
(
いちどう
)
『それが
宜
(
よ
)
からう、
145
それが
宜
(
よ
)
からう』
146
といつてまた
起
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
147
樟
(
くす
)
の
伐採
(
ばつさい
)
に
着手
(
ちやくしゆ
)
せむとする
時
(
とき
)
、
148
低
(
ひく
)
い
声
(
こゑ
)
にて
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謡
(
うた
)
ひながら
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
神人
(
かみ
)
があつた。
149
『
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
150
常世
(
とこよ
)
の
暗
(
やみ
)
は
晴
(
は
)
れぬとも
151
大地
(
だいち
)
は
泥
(
どろ
)
に
浸
(
ひた
)
るとも
152
誠
(
まこと
)
の
力
(
ちから
)
は
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ』
153
と
謡
(
うた
)
ひつつ
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る。
154
神人
(
かみがみ
)
らはこの
宣伝使
(
せんでんし
)
の
歌
(
うた
)
に
耳
(
みみ
)
を
傾
(
かたむ
)
けた。
155
後
(
あと
)
より
又
(
また
)
もや、
156
『おーい、
157
おーい』
158
と
呼
(
よ
)
ばはりながら、
159
宣伝使
(
せんでんし
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
つかけて
来
(
く
)
る
威厳
(
ゐげん
)
ある
男
(
をとこ
)
ありき。
160
即
(
すなは
)
ちこれは
蓑彦
(
みのひこ
)
なりける。
161
一同
(
いちどう
)
は
大地
(
だいち
)
に
拝跪
(
はいき
)
した。
162
蓑彦
(
みのひこ
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
にたいし、
163
鄭重
(
ていちよう
)
に
挨拶
(
あいさつ
)
をなし、
164
かつ
地上
(
ちじやう
)
神人
(
しんじん
)
の
為
(
ため
)
に
千辛
(
せんしん
)
万苦
(
ばんく
)
を
排
(
はい
)
し、
165
世界
(
せかい
)
を
遍歴
(
へんれき
)
し
警告
(
けいこく
)
を
与
(
あた
)
へ
給
(
たま
)
ふその
至誠
(
しせい
)
を
感謝
(
かんしや
)
しつつ、
166
紅
(
くれなゐ
)
の
館
(
やかた
)
に
伴
(
ともな
)
ひ
帰
(
かへ
)
つた。
167
足真彦
(
だるまひこ
)
は
蓑彦
(
みのひこ
)
に
導
(
みちび
)
かれ、
168
館
(
やかた
)
に
立
(
た
)
ち
入
(
い
)
り、
169
奥殿
(
おくでん
)
深
(
ふか
)
く
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
りぬ。
170
そこには
幾丈
(
いくぢやう
)
とも
知
(
し
)
れぬ
大岩石
(
だいがんせき
)
があつて、
171
数多
(
あまた
)
の
神人
(
かみがみ
)
の
姿
(
すがた
)
が
天然
(
てんねん
)
に
現
(
あら
)
はれて
居
(
ゐ
)
た。
172
よくよく
見
(
み
)
れば
王仁
(
おに
)
の
身
(
み
)
は、
173
高熊山
(
たかくまやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
の
前
(
まへ
)
に、
174
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
霊
(
れい
)
より
覚
(
さ
)
めて、
175
両眼
(
りやうがん
)
を
ぱつちり
開
(
ひら
)
いてその
岩窟
(
がんくつ
)
を
眺
(
なが
)
めいたりけり。
176
(
大正一一・一・一四
旧大正一〇・一二・一七
井上留五郎
録)
177
(昭和一〇・三・二〇 於瀬戸内海航海中 王仁校正)
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