第三章 渓間の悲劇〔一〇三〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第3巻 霊主体従 寅の巻
篇:第2篇 新高山
よみ(新仮名遣い):にいたかやま
章:第3章 渓間の悲劇
よみ(新仮名遣い):けいかんのひげき
通し章番号:103
口述日:1921(大正10)年11月13日(旧10月14日)
口述場所:
筆録者:加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1922(大正11)年3月3日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:新高山は八王神・花森彦統裁のもとに、八頭神である高国別・高国姫が高砂島一帯を治めていた。
あるとき高国姫は谷間から誤って転落し、人事不省となった。激流に飲まれようとする高国姫を救ったのは、従神の玉手姫であった。玉手姫は救い上げた高国姫を手厚く看護したが、高国姫は病に伏して身体は次第に衰えていくばかりであった。
そんな折、花森彦は高国別を招き、玉手姫を追放するようにと厳命した。高国別、高国姫は献身的な玉手姫を追放せよ、との花森彦の真意が理解できずに憤慨した。また、花森彦の命令に対する怒りから、高国姫は病が悪化して昇天してしまった。
高国別と玉手姫は花森彦を恨み、天使長・大八洲彦命に事の次第を進言しようとした。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:2019-12-16 17:44:58
OBC :rm0303
愛善世界社版:17頁
八幡書店版:第1輯 266頁
修補版:
校定版:19頁
普及版:7頁
初版:
ページ備考:
001 新高山は花森彦統裁のもとに、002高国別、003高国姫が天地の律法を厳守し、004高砂島一帯の諸神を至治太平に治めゐたりしが、005たまたま高国姫は谷間に下りて清泉を汲まむとし、006断崕より過つて足を踏み外し、007谷間に転落し、008神事不省に陥りければ、009侍者らは大いに驚きて、010これを救ひあげむと百方手をつくしたれども断崕高く、011渓流はげしく、012いかんとも救助の道なく、013侍者は驚きあはてこれの顛末を詳細に高国別に報告せしより、014急報を聞きし夫は、015たちまち顔色蒼白となり、016とるものも取りあへず、017職服のまま現場にかけつけたりける。
018 高国姫は渓間の激流におちいり、019激浪につつまれて、020浮きつ沈みつ悶え苦しみ救ひを呼びゐたり。021その声は次第に細りゆきて、022つひには虫の音のごとく衰へきたりぬ。023いかに救はむとするも断巌絶壁に隔てられ救助の道なく、024ただ手をつかねて神司らは、025あれよあれよと絶叫するばかり、026傍観するより外に方法とてはあらざりにける。
027 ここに高国姫の侍者に玉手姫といふ容色優れたる女性ありしが、028玉手姫は、
029『主神の一大事、030吾は生命に替へて救ひまつらむ』
031といふより早く着衣を脱ぎすて、032数百丈の谷間を目がけ、033急転直下、034高国姫の溺れ苦しむ前に飛下り、035高国姫を小脇にかかへ、036辛うじて渓流はるかの下流に泳ぎつきこれを救ひあげたり。037高国別夫妻の喜悦と感謝はたとふるに物もなく、038玉手姫は高国姫の生命の親として優遇され、039つひに玉手姫は二神司の寵愛ふかき神司となりぬ。
040 高国別、041高国姫二神は、042玉手姫の奇智と才略と忠勇心に深く信頼し、043城中のこと一切は、044玉手姫のほとんど指揮を待たざれば何事も決定せざるまでに、045漸次権勢を張るにいたりける。
046 ここに新高山を中心とする高砂島は、047玉手姫の水ももらさぬ経綸によつて大いに治まり、048よく天地の律法を厳守し、049上下一致して神政の模範となり、050国の誉も高砂の、051千歳の松の永久に、052治まる御代と思ひきや、053高国姫は渓流に落ちたるとき、054身体の一部に障害をきたし、055それが原因となりて大病を発し、056病床に呻吟し、057身体は日に衰へゆくばかりなりける。
058 ここに高国別は、059高国姫の寵愛ふかき玉手姫をして、060昼夜看護に尽力せしめたるに、061玉手姫の周到なる看護も何の効なく、062病は日々重りゆくのみなりける。063ここに花森彦は高国別を近く招き、064玉手姫を一時も早く追放すべく厳命せられたるにぞ、065高国別は天使の命をいぶかり、066腑におちぬていにて言葉静に、
067『かれ玉手姫は忠勇無比にして真心より懇切なる神司なり。068高国姫の危急を救ひたるもまた玉手姫なり。069多くの侍者ありといへども、070玉手姫のごとき忠実なる者は外に一柱もなし。071しかるに天使は何をもつて玉手姫を追ひだせと命じたまふか』
072と反問したりけれど、073花森彦は、
074『今は何事も語るべき時期にあらず、075ただ吾命を遵奉せば足れり』
076と、077鶴の一声を残して殿内ふかく足早に進みいりぬ。078しかして高国別は妻および玉手姫にむかつて、079花森彦の厳命の次第を物語れば、080高国姫は重き病の頭をもたげながら、081驚きの眼を見はり、
082『わが生命は玉手姫のために救はれ、083今また懇切なる看護を受く、084妾にとつて命の親なり。085たとへ天使の厳命なりといへども、086かかる没義道なる命には従ひがたし』
087と非常に天使を恨み興奮の結果つひに上天したりける。088高国別は妻の憤死を見て大いに悲しみ、089かつ花森彦を深く恨むにいたれり。
090 ここに玉手姫は高国別の心中を察し、091熱涙をうかべ、092花森彦の無情冷酷を怒り、093高国別をして信書を認め天使に捧呈せしめける。094その文意は、
095『高国姫は天使の冷酷なる命令を恨み憤死いたしたり。096また玉手姫は誠意を疑はれ、097かつ放逐の命をうけたるを大いに憤慨せり。098我はいかに天使の命なりとて盲従するに忍びず、099実に貴神を恨みまつる』
100と云ふの意味なりし。101花森彦はこれを披見してただちに高国別にたいし、102天則違反の由を懇諭し、103かつ、
105と厳命したりける。106高国別は天使の神通力を知らず、107ただ単に無情冷酷の処置とのみ思惟し、108自暴自棄となりて、109花森彦の無道を天使長大八洲彦命に進言せむとしたりける。
110(大正一〇・一一・一三 旧一〇・一四 加藤明子録)