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第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第3巻(寅の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 国魂の配置
01 神々の任命
〔101〕
02 八王神の守護
〔102〕
第2篇 新高山
03 渓間の悲劇
〔103〕
04 鶴の首
〔104〕
第3篇 ロツキー山
05 不審の使神
〔105〕
06 籠の鳥
〔106〕
07 諷詩の徳
〔107〕
08 従神司の殊勲
〔108〕
第4篇 鬼城山
09 弁者と弁者
〔109〕
10 無分別
〔110〕
11 裸体の道中
〔111〕
12 信仰の力
〔112〕
13 嫉妬の報
〔113〕
14 霊系の抜擢
〔114〕
第5篇 万寿山
15 神世の移写
〔115〕
16 玉ノ井の宮
〔116〕
17 岩窟の修業
〔117〕
18 神霊の遷座
〔118〕
第6篇 青雲山
19 楠の根元
〔119〕
20 晴天白日
〔120〕
21 狐の尻尾
〔121〕
22 神前の審判
〔122〕
第7篇 崑崙山
23 鶴の一声
〔123〕
24 蛸間山の黒雲
〔124〕
25 邪神の滅亡
〔125〕
26 大蛇の長橋
〔126〕
第8篇 神界の変動
27 不意の昇天
〔127〕
28 苦心惨憺
〔128〕
29 男波女波
〔129〕
30 抱擁帰一
〔130〕
31 竜神の瀑布
〔131〕
32 破軍の剣
〔132〕
第9篇 隠神の活動
33 巴形の斑紋
〔133〕
34 旭日昇天
〔134〕
35 宝の埋換
〔135〕
36 唖者の叫び
〔136〕
37 天女の舞曲
〔137〕
38 四十八滝
〔138〕
39 乗合舟
〔139〕
第10篇 神政の破壊
40 国の広宮
〔140〕
41 二神の帰城
〔141〕
42 常世会議
〔142〕
43 配所の月
〔143〕
第11篇 新規蒔直し
44 可賀天下
〔144〕
45 猿猴と渋柿
〔145〕
46 探湯の神事
〔146〕
47 夫婦の大道
〔147〕
48 常夜の闇
〔148〕
49 袖手傍観
〔149〕
第12篇 霊力体
50 安息日
〔150〕
岩井温泉紀行歌
余白歌
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第三六章
唖者
(
おし
)
の
叫
(
さけ
)
び〔一三六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第3巻 霊主体従 寅の巻
篇:
第9篇 隠神の活動
よみ(新仮名遣い):
いんしんのかつどう
章:
第36章 唖者の叫び
よみ(新仮名遣い):
おしのさけび
通し章番号:
136
口述日:
1921(大正10)年12月06日(旧11月08日)
口述場所:
筆録者:
桜井重雄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年3月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm0336
愛善世界社版:
212頁
八幡書店版:
第1輯 335頁
修補版:
校定版:
216頁
普及版:
95頁
初版:
ページ備考:
001
道彦
(
みちひこ
)
は
南高山
(
なんかうざん
)
の
城塞
(
じやうさい
)
を
脱出
(
だつしゆつ
)
し、
002
白狐
(
びやくこ
)
の
高倉
(
たかくら
)
に
守
(
まも
)
られて
何処
(
どこ
)
ともなく、
003
足
(
あし
)
にまかして
漂泊
(
さすらひ
)
の
旅
(
たび
)
をつづけたりしが、
004
高倉
(
たかくら
)
は
道彦
(
みちひこ
)
の
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ちて
導
(
みちび
)
きゆきぬ。
005
八島姫
(
やしまひめ
)
は
道彦
(
みちひこ
)
の
後
(
あと
)
を
慕
(
した
)
ひて、
006
見
(
み
)
えつ
隠
(
かく
)
れつ
従
(
したが
)
ひゆく。
007
されど
道彦
(
みちひこ
)
は
八島姫
(
やしまひめ
)
の
後
(
あと
)
より
呼
(
よ
)
びとどめる
声
(
こゑ
)
を、
008
聾者
(
つんぼ
)
の
真似
(
まね
)
をなして
少
(
すこ
)
しも
聞
(
きこ
)
えぬふりを
装
(
よそほ
)
ひ、
009
ドンドンと
進
(
すす
)
みて
行
(
ゆ
)
く。
010
無論
(
むろん
)
偽唖者
(
にせおし
)
となりし
身
(
み
)
は
一言
(
いちごん
)
も
発
(
はつ
)
せざりける。
011
八島姫
(
やしまひめ
)
はかよわき
足
(
あし
)
にて、
012
けはしき
山坂
(
やまさか
)
を
幾
(
いく
)
つともなく、
013
昼夜
(
ちうや
)
を
分
(
わか
)
たず
跋渉
(
ばつせふ
)
せし
疲労
(
ひらう
)
によりて、
014
ほとんど
息
(
いき
)
も
絶
(
た
)
えだえに
苦
(
くる
)
しみけるが、
015
やうやくにして
長高山
(
ちやうかうざん
)
の
麓
(
ふもと
)
を
流
(
なが
)
るる
深
(
ふか
)
き
谷川
(
たにがは
)
のほとりに
着
(
つ
)
きぬ。
016
道彦
(
みちひこ
)
は
白狐
(
びやくこ
)
の
跡
(
あと
)
を
渡
(
わた
)
り、
017
浅瀬
(
あさせ
)
を
選
(
えら
)
びて
向
(
むか
)
ふ
岸
(
きし
)
にやつと
到着
(
たうちやく
)
し、
018
後
(
あと
)
を
振
(
ふ
)
りかへり
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
めゐたりける。
019
このとき、
020
八島姫
(
やしまひめ
)
は
命
(
いのち
)
からがら
対岸
(
たいがん
)
まで
追
(
お
)
ひかけきたり、
021
この
谷川
(
たにがは
)
の
絶壁
(
ぜつぺき
)
に
立
(
た
)
ち、
022
いかにして
渡
(
わた
)
らむやと
途方
(
とはう
)
にくれながら、
023
声
(
こゑ
)
をかぎりに
道彦
(
みちひこ
)
を
呼
(
よ
)
びとめたり。
024
道彦
(
みちひこ
)
は
表面
(
へうめん
)
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
はなしゐるものの、
025
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
には
八島姫
(
やしまひめ
)
の
心情
(
しんじやう
)
を
察知
(
さつち
)
し、
026
万斛
(
ばんこく
)
の
涙
(
なみだ
)
にむせびゐたるなりき。
027
されど
神命
(
しんめい
)
もだしがたく、
028
聾唖
(
ろうあ
)
を
装
(
よそほ
)
ひし
身
(
み
)
は
一言
(
ひとこと
)
の
慰安
(
ゐあん
)
も
与
(
あた
)
ふるの
自由
(
じいう
)
を
有
(
いう
)
せざりき。
029
対岸
(
たいがん
)
の
八島姫
(
やしまひめ
)
は、
030
天
(
てん
)
を
拝
(
はい
)
し
地
(
ち
)
に
伏
(
ふ
)
し、
031
慟哭
(
どうこく
)
やや
久
(
ひさ
)
しうし、
032
ここに
決心
(
けつしん
)
の
色
(
いろ
)
を
浮
(
うか
)
べてたちまち
懐中
(
くわいちゆう
)
より
短刀
(
たんたう
)
を
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
し、
033
天
(
てん
)
にむかつて
合掌
(
がつしやう
)
し、
034
吾
(
われ
)
と
吾
(
わ
)
が
咽喉
(
のど
)
を
突
(
つ
)
かむとする
一刹那
(
いちせつな
)
、
035
道彦
(
みちひこ
)
は
思
(
おも
)
はず、
036
『しばらく
待
(
ま
)
たれよ』
037
と
呼
(
よ
)
ばはりぬ。
038
姫
(
ひめ
)
は
声
(
こゑ
)
をしぼつて、
039
『
妾
(
わらは
)
が
一旦
(
いつたん
)
夫
(
をつと
)
と
定
(
さだ
)
めたるは、
040
天地
(
てんち
)
の
間
(
あひだ
)
に
貴下
(
きか
)
を
措
(
お
)
きて
他
(
ほか
)
になし。
041
生
(
い
)
きて
恋路
(
こひぢ
)
の
闇
(
やみ
)
に
苦
(
くる
)
しみ
迷
(
まよ
)
はむよりは、
042
いつそ
貴下
(
きか
)
の
御
(
おん
)
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
にて
自殺
(
じさつ
)
を
遂
(
と
)
ぐるは、
043
せめてもの
心
(
こころ
)
の
慰
(
なぐさ
)
めなり。
044
かならず
止
(
とど
)
めたまふな』
045
とまたも
咽喉
(
のど
)
を
突
(
つ
)
かむとする
時
(
とき
)
、
046
白狐
(
びやくこ
)
はたちまち
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はし、
047
八島姫
(
やしまひめ
)
の
持
(
も
)
てる
短刀
(
たんたう
)
を
力
(
ちから
)
かぎりに
打
(
う
)
ち
落
(
おと
)
したりしが、
048
姫
(
ひめ
)
はその
場
(
ば
)
にドツと
倒
(
たふ
)
れて
失心
(
しつしん
)
の
態
(
てい
)
なり。
049
道彦
(
みちひこ
)
はこの
惨状
(
さんじやう
)
を
見
(
み
)
るに
忍
(
しの
)
びず、
050
ふたたび
谷川
(
たにがは
)
を
渡
(
わた
)
りきたりて、
051
谷水
(
たにみづ
)
を
口
(
くち
)
にふくませ
種々
(
しゆじゆ
)
介抱
(
かいはう
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
052
姫
(
ひめ
)
はやうやく
蘇生
(
そせい
)
するにいたりける。
053
姫
(
ひめ
)
はやうやう
顔
(
かほ
)
をあげ、
054
涙
(
なみだ
)
をぬぐひながら
道彦
(
みちひこ
)
の
手
(
て
)
をかたく
握
(
にぎ
)
りしめ、
055
顔
(
かほ
)
を
赤
(
あか
)
らめ
胸肩
(
むねかた
)
ともに
波
(
なみ
)
をうたせ、
056
たださめざめと
泣
(
な
)
くばかりなり。
057
道彦
(
みちひこ
)
は
親切
(
しんせつ
)
にこれをいたはり、
058
かつ
我
(
わ
)
が
身
(
み
)
の
大神
(
おほかみ
)
より
一大
(
いちだい
)
使命
(
しめい
)
を
拝
(
はい
)
し、
059
偽
(
いつは
)
つて
聾唖
(
ろうあ
)
となり
痴呆
(
ちはう
)
となり、
060
発狂者
(
はつきやうしや
)
を
装
(
よそほ
)
ひゐるその
苦痛
(
くつう
)
を
逐一
(
ちくいち
)
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
てたるに、
061
八島姫
(
やしまひめ
)
ははじめて
悟
(
さと
)
り、
062
吾
(
わ
)
が
身
(
み
)
の
不覚
(
ふかく
)
と
無智
(
むち
)
を
悔
(
く
)
い、
063
今
(
いま
)
までの
怪
(
あや
)
しき
心
(
こころ
)
をあらため、
064
何
(
なに
)
とぞ
今後
(
こんご
)
ともに
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
せしめよと、
065
赤誠
(
せきせい
)
をこめて
嘆願
(
たんぐわん
)
したりける。
066
道彦
(
みちひこ
)
はただちに
天
(
てん
)
にむかつて
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
しけるに、
067
たちまち
天上
(
てんじやう
)
より
二柱
(
ふたはしら
)
の
天使
(
てんし
)
降
(
くだ
)
りきたり、
068
一柱
(
ひとはしら
)
は
道彦
(
みちひこ
)
にむかひ、
069
一柱
(
ひとはしら
)
は
八島姫
(
やしまひめ
)
にむかひ、
070
各自
(
かくじ
)
に
特種
(
とくしゆ
)
の
使命
(
しめい
)
を
伝
(
つた
)
へ、
071
固
(
かた
)
く
口外
(
こうぐわい
)
することを
禁
(
きん
)
じたまひぬ。
072
この
天使
(
てんし
)
は
天
(
あま
)
の
高砂
(
たかさご
)
の
宮
(
みや
)
にます
国直姫
(
くになほひめの
)
命
(
みこと
)
の
使神
(
ししん
)
なりき。
073
ゆゑに
道彦
(
みちひこ
)
は
八島姫
(
やしまひめ
)
の
使命
(
しめい
)
を
知
(
し
)
らず、
074
八島姫
(
やしまひめ
)
はまた
道彦
(
みちひこ
)
の
使命
(
しめい
)
のいかなるかを
知
(
し
)
らざりける。
075
しかし
道彦
(
みちひこ
)
には
白狐
(
びやくこ
)
高倉
(
たかくら
)
をしてこれを
守護
(
しゆご
)
せしめ、
076
八島姫
(
やしまひめ
)
には
白狐
(
びやくこ
)
旭
(
あさひ
)
をしてこれを
守護
(
しゆご
)
せしめられたりける。
077
それより
八島姫
(
やしまひめ
)
は、
078
自己
(
じこ
)
の
美貌
(
びばう
)
を
楯
(
たて
)
に
悪魔
(
あくま
)
の
巣窟
(
さうくつ
)
に
入
(
い
)
りてすべての
計略
(
けいりやく
)
を
探知
(
たんち
)
し、
079
道彦
(
みちひこ
)
は
力強
(
ちからづよ
)
の
馬鹿
(
ばか
)
となりすまして、
080
悪神
(
あくがみ
)
らの
巣窟
(
さうくつ
)
を
探
(
さぐ
)
り、
081
種々
(
しゆじゆ
)
の
陰謀
(
いんぼう
)
を
覚知
(
かくち
)
して、
082
これを
国直姫
(
くになほひめの
)
命
(
みこと
)
に
詳細
(
しやうさい
)
奏上
(
そうじやう
)
することに
努
(
つと
)
めたり。
083
道彦
(
みちひこ
)
、
084
八島姫
(
やしまひめ
)
は、
085
個々
(
ここ
)
別々
(
べつべつ
)
に
身
(
み
)
を
窶
(
やつ
)
して
長高山
(
ちやうかうざん
)
の
城下
(
じやうか
)
に
進
(
すす
)
みいりぬ。
086
長高山
(
ちやうかうざん
)
は
忠孝
(
ちうかう
)
両全
(
りやうぜん
)
の
誉
(
ほまれ
)
高
(
たか
)
かりし
清照彦
(
きよてるひこ
)
、
087
末世姫
(
すゑよひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
が
主将
(
しゆしやう
)
として
守
(
まも
)
りゐたりけり。
088
しかるに、
089
美
(
うつく
)
しき
花
(
はな
)
は
風
(
かぜ
)
に
散
(
ち
)
りやすく、
090
良果
(
りやうくわ
)
は
虫
(
むし
)
に
侵
(
をか
)
されやすきがごとく、
091
長高山
(
ちやうかうざん
)
は
一
(
いち
)
時
(
じ
)
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
の
現出
(
げんしゆつ
)
せしごとく
天下
(
てんか
)
泰平
(
たいへい
)
に
治
(
をさ
)
まり、
092
風雨
(
ふうう
)
和順
(
わじゆん
)
して
神人
(
しんじん
)
鼓腹
(
こふく
)
の
楽
(
たの
)
しみに
馴
(
な
)
れ、
093
あまたの
神人
(
かみがみ
)
は
少
(
すこ
)
しも
治世
(
ちせい
)
の
苦
(
くる
)
しみを
知
(
し
)
らざりける。
094
常世姫
(
とこよひめ
)
の
間者
(
かんじや
)
土熊別
(
つちくまわけ
)
、
095
鬼丸
(
おにまる
)
は
善
(
ぜん
)
の
仮面
(
かめん
)
をかぶり
長高山
(
ちやうかうざん
)
に
現
(
あら
)
はれ、
096
城内
(
じやうない
)
の
神人
(
かみがみ
)
らを
絲竹
(
しちく
)
管絃
(
くわんげん
)
の
楽
(
たのし
)
みをもつて
籠絡
(
ろうらく
)
し、
097
日夜
(
にちや
)
茗醼
(
めいえん
)
にふけらしめたれば、
098
長高山
(
ちやうかうざん
)
は
天下
(
てんか
)
泰平
(
たいへい
)
の
波
(
なみ
)
にただよひ、
099
神人
(
しんじん
)
は
下
(
しも
)
の
苦
(
くる
)
しみを
知
(
し
)
らず、
100
たがひに
自己
(
じこ
)
の
逸楽
(
いつらく
)
栄達
(
えいたつ
)
のみにふけり、
101
難
(
なん
)
を
避
(
さ
)
け
安
(
やす
)
きにつき、
102
天職
(
てんしよく
)
責任
(
せきにん
)
を
解
(
かい
)
せず、
103
頤
(
あご
)
をもつて
下民人
(
しもたみびと
)
を
使役
(
しえき
)
し、
104
日
(
ひ
)
をおふて
驕慢心
(
けうまんしん
)
を
増長
(
ぞうちよう
)
せしめけり。
105
上
(
かみ
)
は
日夜
(
にちや
)
絲竹
(
しちく
)
管絃
(
くわんげん
)
のひびきに
心魂
(
しんこん
)
をとろかし、
106
酒池
(
しゆち
)
肉林
(
にくりん
)
の
驕奢
(
けうしや
)
に
魂
(
たましひ
)
を
腐
(
くさ
)
らし、
107
宝
(
たから
)
を
湯水
(
ゆみづ
)
のごとく
濫費
(
らんぴ
)
し、
108
下級
(
かきふ
)
民人
(
たみびと
)
の
惨苦
(
さんく
)
を
少
(
すこ
)
しも
思
(
おも
)
はざるにいたれり。
109
これぞ
常世姫
(
とこよひめ
)
の
間者
(
かんじや
)
土熊別
(
つちくまわけ
)
、
110
鬼丸
(
おにまる
)
らの
術中
(
じゆつちう
)
に
陥
(
おちい
)
らしめ、
111
長高山
(
ちやうかうざん
)
を
内部
(
ないぶ
)
より
崩潰
(
ほうくわい
)
せしめむとの
奸策
(
かんさく
)
なりける。
112
神人
(
しんじん
)
はつねに
美女
(
びぢよ
)
を
座
(
ざ
)
に
侍
(
はべ
)
らせ、
113
長夜
(
ちやうや
)
の
遊楽
(
いうらく
)
に
耽
(
ふけ
)
りゐたりけるが、
114
あるとき
土熊別
(
つちくまわけ
)
は
酒
(
さけ
)
の
酔
(
ゑひ
)
をさますべく、
115
城外
(
じやうぐわい
)
にいでて
散歩
(
さんぽ
)
せるに、
116
たちまち
前方
(
ぜんぱう
)
に
容色
(
ようしよく
)
ならぶものなき
美人
(
びじん
)
が
現
(
あら
)
はれける。
117
この
美人
(
びじん
)
は
前述
(
ぜんじゆつ
)
の
八島姫
(
やしまひめ
)
なりける。
118
八島姫
(
やしまひめ
)
は、
119
酔眼
(
すいがん
)
朦朧
(
もうろう
)
として
唄
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ひつつ
進
(
すす
)
みくる
土熊別
(
つちくまわけ
)
の
前
(
まへ
)
にいたり、
120
にはかに
地上
(
ちじやう
)
に
俯伏
(
ひれふ
)
して
泣
(
な
)
き
苦
(
くる
)
しみはじめたり。
121
土熊別
(
つちくまわけ
)
はこれを
見
(
み
)
てただちに
抱
(
だ
)
きおこし、
122
『
貴女
(
あなた
)
はいづれの
女性
(
ぢよせい
)
にましますや。
123
また
何用
(
なによう
)
ありてこの
城下
(
じやうか
)
へ
来
(
き
)
たられしや』
124
と
舌
(
した
)
もまはらぬ
言霊
(
ことたま
)
にて
問
(
と
)
ひかくれば、
125
姫
(
ひめ
)
はただうつむきて
泣
(
な
)
くばかりなり。
126
土熊別
(
つちくまわけ
)
はもどかしがり、
127
しきりに
名
(
な
)
を
尋
(
たづ
)
ねけるを、
128
姫
(
ひめ
)
はただちに
顔
(
かほ
)
をあげ、
129
涙
(
なみだ
)
をぬぐひながら、
130
『
妾
(
わらは
)
は
天
(
てん
)
より
降
(
くだ
)
りたる
旭姫
(
あさひひめ
)
といふ
者
(
もの
)
なり。
131
長高山
(
ちやうかうざん
)
には
常
(
つね
)
に
絲竹
(
しちく
)
管絃
(
くわんげん
)
の
音
(
おと
)
絶
(
た
)
えず、
132
日夜
(
にちや
)
面白
(
おもしろ
)
き
舞曲
(
ぶきよく
)
を
演
(
えん
)
ぜらるると
聞
(
き
)
き、
133
雲路
(
くもぢ
)
を
分
(
わ
)
けてひそかにその
舞曲
(
ぶきよく
)
を
見
(
み
)
むと
降
(
くだ
)
りきたる
折
(
をり
)
しも、
134
烈風
(
れつぷう
)
のために
羽衣
(
はごろも
)
を
破
(
やぶ
)
られて
飛行
(
ひかう
)
自由
(
じいう
)
ならず、
135
突然
(
とつぜん
)
地上
(
ちじやう
)
に
墜落
(
つゐらく
)
して
大腿骨
(
だいたいこつ
)
を
打
(
う
)
ち、
136
痛苦
(
つうく
)
に
堪
(
た
)
へず
苦
(
くる
)
しみをれるなり』
137
と
真
(
まこと
)
しやかに
物語
(
ものがた
)
りければ、
138
土熊別
(
つちくまわけ
)
はやや
右
(
みぎ
)
の
肩
(
かた
)
をそばだて、
139
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
傾
(
かたむ
)
けながら、
140
旭姫
(
あさひひめ
)
の
顔
(
かほ
)
を
熟視
(
じゆくし
)
ししばらくは
無言
(
むごん
)
のまま
突
(
つ
)
つ
立
(
た
)
ちゐたり。
141
このとき、
142
旭姫
(
あさひひめ
)
はニタニタと
笑
(
わら
)
ひはじめたり。
143
しかして
姫
(
ひめ
)
は、
144
『あゝありがたし、
145
妾
(
わらは
)
の
苦痛
(
くつう
)
は
全
(
まつた
)
く
癒
(
い
)
えたり』
146
と
言
(
い
)
ひながらすつくと
立
(
たち
)
あがり
数十歩
(
すうじつぽ
)
円
(
ゑん
)
をゑがいて
軽々
(
かるがる
)
しく
歩行
(
ほかう
)
して
見
(
み
)
せたるに、
147
土熊別
(
つちくまわけ
)
は
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
ちて
喜
(
よろこ
)
び、
148
ただちに
姫
(
ひめ
)
の
手
(
て
)
をたづさへ
城内
(
じやうない
)
の
酒宴
(
しゆえん
)
の
場
(
ば
)
に
導
(
みちび
)
きける。
149
あまたの
美人
(
びじん
)
は
宴席
(
えんせき
)
にあれども、
150
旭姫
(
あさひひめ
)
の
容色
(
ようしよく
)
端麗
(
たんれい
)
にしてその
風采
(
ふうさい
)
の
優雅
(
いうが
)
なるにおよぶ
者
(
もの
)
なかりける。
151
ほとンど
姫
(
ひめ
)
は
万緑
(
ばんりよく
)
叢中
(
そうちう
)
紅一点
(
こういつてん
)
の
観
(
くわん
)
あるにぞ、
152
神人
(
かみがみ
)
らは
手
(
て
)
を
拍
(
う
)
つて
喜
(
よろこ
)
びあいにける。
153
ここに
旭姫
(
あさひひめ
)
は
神司
(
かみがみ
)
らの
請
(
こ
)
ひをいれ、
154
天女
(
てんによ
)
の
舞
(
ま
)
ひを
演
(
えん
)
ずることとなりぬ。
155
拍手
(
はくしゆ
)
喝采
(
かつさい
)
の
声
(
こゑ
)
は
城
(
しろ
)
の
内外
(
ないぐわい
)
に
轟
(
とどろ
)
きわたりける。
156
(
大正一〇・一二・六
旧一一・八
桜井重雄
録)
157
(第三六章 昭和一〇・一・一八 於延岡市 王仁校正)
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