第三〇章 抱擁帰一〔一三〇〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第3巻 霊主体従 寅の巻
篇:第8篇 神界の変動
よみ(新仮名遣い):しんかいのへんどう
章:第30章 抱擁帰一
よみ(新仮名遣い):ほうようきいつ
通し章番号:130
口述日:1921(大正10)年11月29日(旧11月01日)
口述場所:
筆録者:桜井重雄
校正日:
校正場所:
初版発行日:1922(大正11)年3月3日
概要:
舞台:
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備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm0330
愛善世界社版:175頁
八幡書店版:第1輯 323頁
修補版:
校定版:179頁
普及版:79頁
初版:
ページ備考:
001 春日姫と竹倉別は琴瑟相和し、002春の日の洋々たるごとく楽き日を送りゐたり。003道貫姫も子の可愛さにひかれて、004これを黙許せり。005若彦は鷹住別にしたがひ烏羽玉の宮にふたたび参拝したりしが、006春日姫は春姫をしたがへて参拝ををはり、007階段を下りきたりけるが、008若彦と春姫との視線は稲妻のごとく互ひに閃きぬ。009春日姫は目ざとくこれを見てやや嫉妬の念起り来りしが、010若彦は春姫の自分に対する心情を察知し、011ただちに春姫にたいして異様の視線を発射せり。012春姫は黙然として若彦の面を恥かし気に打ち見守りける。013この様子を目前に立ちてながめゐたりし春日姫は、014ますます嫉妬の焔を燃やさざるを得ざりける。
015 神品骨柄において、016竹倉別に倍せる鷹住別は、017正装のまま笑顔をつくりて春日姫の前に大手を拡げて立ちふさがりければ、018春日姫は前後の分別もなく鷹住別に涼しき眼をむけたりける。019二人はこれより相信じ相和し、020水も洩らさぬ親密なる交際をはじめたりける。
021 それ以後、022春日姫の竹倉別にたいする態度はうつて変り冷淡となりぬ。023竹倉別は鷹住別、024春日姫のきはめて親密なる関係を探知し、025おほいに憤り、026あまたの従者を引きつれ、027夜陰に乗じて鷹住別の住居を襲ひ仇を報いむとしたりければ、028鷹住別は不意の襲撃に驚き、029大道別に急使を馳せ救援を請ひにける。
030 ここに大道別は仲裁の労をとらむとただ一人、031館を立ちいで鷹住別の住居にいたり、032邸外を包囲せる竹倉別に向つてすみやかに退散すべく厳命したりける。033このとき、034鷹住別、035若彦は竹倉別の部下の者どもに身辺を取りかこまれ、036いかんともする道なかりける。037竹倉別は大道別の厳命に少しく躊躇逡巡の体なりき。038されど、039逸り切りたる部下の者共は水の出ばなの勢とどめがたく、040鬨をあげて……鷹住別、041若彦を滅ぼせ……と叫び続けてやまざりにけり。
042 大道別は天にむかつて、043天津祝詞を言霊すずしく奏上したるに、044たちまち破軍星の精霊なる武満彦命天上より降りきたり、045竹倉別の頭上へ猛烈なる霊剣を雨のごとく投下したまひければ、046竹倉別はたちまち色蒼ざめ、047合掌して武満彦命にわが行動の不穏なる罪を陳謝しけり。048武満彦命はただちに紫雲に乗じ天に帰らせたまひたり。
049 ここに大道別は両者和睦の宴を開かむとし、050大蛇の長橋のほとりに建てる広殿に招待し、051かつ相たがひに春日姫との手を断然きることを堅く約し、052歓をつくして宴席を各自思ひおもひに退場したりけり。
053 大道別は鷹住別、054若彦とともに紅葉山の麓まで帰るをりしも、055鬱蒼たる森林の中より何者とも知れず数十の黒影あらはれきたり、056大道別をはじめ鷹住別、057若彦の手をとり足をしばり、058太き綱をこれに結びて大道を引ずりゆくものあり。059これぞ竹倉別以下の従者どもの不逞の所為なりける。
060 このとき、061紅葉山上より数限りなき岩石、062竹倉別の群に向つて落下し、063数名の従者を傷つけたりしが、064これはローマにありし若彦の兄勝彦が、065弟の危急を救はむとして、066竹倉別の謀計を前知し、067この山上に待ち構へゐたりしなりける。068竹倉別は勝彦の勇気に辟易し、069部下を捨てて八王大神の下に走り、070ついにその部将となりぬ。071それより鷹住別、072春日姫の得意時代とはなりける。073若彦はつひに春姫の夫となり烏羽玉の宮に忠実に奉仕したりける。
074 春日姫と鷹住別のあひだは蜜のごとき関係の結ばれたるが、075春姫は即興歌を作りてこれを祝しける。076その歌、
077『春の弥生の暁か 078四方の山辺は陽炎の
081梢に来鳴く鶯の 082谷の戸明けてホーホケキヨー
084坊主の愛する今日(経)の春
086四方の山々春姫の
089風も長閑な君が春 090春日の森の常磐木は
091千年の色を染めなして 092桜は笑ひ紅葉は
094差招くなり君が代の
095春の陽気の春日姫 096松に千歳の鷹住別や
097神の許せし妹と背の 098中を隔つる竹倉別も
099今は別れて常世往く 100世は烏羽玉の暗くとも
106君には神風福の神
107八千代の椿優曇華の 108花咲く春や春日姫
110登りて見晴らす天の原
112峰より昇る望の夜の
113清き月影欠くるなく 114円き涼しき家庭内
119一時千金花の春 120老いず死らず幾千代も
122千代の緑の蒼々と
125世は烏羽玉の暗くとも
127赤きえにしを結び昆布 128胸の奥山鹿ぞなき
129木々の木の葉を木枯に 130吹き散る淋しき世ありとも
133四方の山々紅葉して 134佐保姫錦織るとても
136紅葉山下に安々と
137楽き御世を送らるる
139陽気目出度き春姫の
144 かくのごとく春姫の祝ひし歌も春の夜の短き夢と消え失せて、145春日姫はつひに破鏡の悲しみを味はふこととなり、146発狂して暴狂ひ自暴自棄に陥りにける。
147 この春日姫ははたして何ものぞ。
148(大正一〇・一一・二九 旧一一・一 桜井重雄録)