第一一章 裸体の道中〔一一一〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第3巻 霊主体従 寅の巻
篇:第4篇 鬼城山
よみ(新仮名遣い):きじょうざん
章:第11章 裸体の道中
よみ(新仮名遣い):らたいのどうちゅう
通し章番号:111
口述日:1921(大正10)年11月15日(旧10月16日)
口述場所:
筆録者:栗原七蔵
校正日:
校正場所:
初版発行日:1922(大正11)年3月3日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:口子姫、須賀彦ともに復命しなかった竜宮城側では、ついに天使・言霊別命を鬼城山に使いに出すことになった。
美山彦側は、何度ともなくこれまでの戦闘で打ち負かされてきた敵将・言霊別命が使いにやってくると聞いて、これを害しようと、口子姫に命じて毒酒を用意させた。
口子姫は毒酒の甕を取り替えたため、言霊別命は危難を脱した。また美山彦は言霊別命に風呂を進めて、そこで命を害しようとしたが、口子姫は言霊別命の身代わりとなり、国照姫の槍に突かれて絶命した。
美山彦は城内くまなく言霊別命を探させた。言霊別命は口子姫の衣装で変装して城を脱出しようとした。清熊はこの変装を怪しんで、衣を掴んで引き止めたが、言霊別命は衣を捨てて裸体のまま城の堀に飛び込み、逃げおおせた。
北へ逃げた言霊別命は、老人夫婦の小屋に逃げ込み、老夫婦の厚意によって衣を得た。そして部下の村幸彦を鬼城山に偵察に向かわせ、自分はさらに北へと向かった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm0311
愛善世界社版:68頁
八幡書店版:第1輯 284頁
修補版:
校定版:70頁
普及版:30頁
初版:
ページ備考:
001 ここに国直姫命、002大八洲彦命は、003国治立命の命を奉じ、004口子姫を使者として、005鬼城山に遣はしたまへども、006口子姫は国照姫に言向和合され、007三年になるも復命せず、008よつてさらに須賀彦をつかはし、009神命を伝へしめたまへども、010これまた、011小桜姫の容色に迷ひて命に背き、012美山彦の養子となりてこれ又三年にいたるも復命せず、013何れの神を遣はして、014これを言向和合さむやと、015国直姫命は、016諸神を集めて言問はせたまひける。
017 ここに諸神司協議の結果は、018天使言霊別命を使神として派遣することに決定したれば、019命は、020ただちに命を奉じ、021村幸彦をしたがへ鬼城山にいたり、022美山彦に、023大神の大命を、024いと厳かに申し渡されたり。
025 美山彦、026国照姫は、027数度の戦闘にうち破られ、028千載の怨恨をいだける敵将、029言霊別命の直使と聞き、030おほいに怒り、031平素の鬱憤を晴らすは、032今この時なりと、033さあらぬ体に装ひ、034懐中に兇器をのみ、035わざと恭しく他意なきふうを装ひ、036命に海山河野の珍物をもつてつくりたる食膳を奉り、037甘き酒をすすめむと言ひながら、038国照姫はひそかに口子姫をわが居間に招き、039毒酒をすすめることを小声に命令したり。040口子姫は、041今は鬼城山の使臣として重く用ひられつつあれども、042なんとして天使言霊別命に毒酒をすすめ奉るに忍びむやと、043心は矢竹に焦燥てども、044傍に国照姫の目を瞠り、045眼をすゑて、046その動静を窺ひつつあれば、047いかんともなすに由なく、048やむを得ず、049酒に毒を混入したりける。
050 この時同じ形したる二個の甕に酒を盛り、051一個は毒の入らざる清酒を盛り、052国照姫は、053頭髪一筋を抜きて酒甕を縛り、054毒酒の印とせり。055二本の酒甕は命の前に据ゑられたり。056ここに言霊別命、057美山彦は晩餐をともにすることとなりぬ。058口子姫は、059件の頭髪をとり外し、060清酒の甕に括りつけ、061素知らぬ体を装ひゐたりける。
062 晩餐には国照姫、063口子姫あらはれて、064酌婦の用をつとめたるが、065国照姫は、066頭髪を括りたる甕をとり、067これを言霊別命に勧めたり。068また口子姫は印なき甕をとりて、069美山彦にすすめ、070つぎに国照姫にもこれを勧めける。071あまたの侍女は酒杯のあひだを往来し、072歌舞音曲を奏でてこの宴を賑しぬ。073酒はおひおひと進むにしたがつて酔がまはりぬ。074このとき美山彦は、075にはかに胸苦しとて席をはづし、076言霊別命に無礼を陳謝しつつ、077酔歩蹣跚として寝所に入り、078まもなく頭痛をおこし、079腹を痛め、080咽喉よりは盛ンに黒血を吐き、081七顛八倒苦しみける。082侍臣は驚き、083水よ薬よと周章狼狽、084上を下への大騒ぎとなりける。085時しも国照姫はまたもや頭痛を発し、086腹を痛め、087これまた七顛八倒苦しみて黒血を吐きその場に打ち倒れたり。088言霊別命はこれを見て大いに驚き、089国照姫の介抱に余念なかりける。
090 口子姫は、091言霊別命にむかひ目くばせしながら、092美山彦の寝所にかけつけ、093介抱に従事したりしが、094幸にも、095毒酒の量は少なかりしためか、096数日の後夫婦は恢復を見るにいたりける。097言霊別命は、098吾身を毒害せむとし過つて夫婦が、099毒酒を飲みたるその顛末を毫も知らず、100また口子姫の反り忠義の所為なることをも知らずにゐたりしなり。
101 美山彦は、102ここに新しき湯槽を造り、103なみなみと溢るるばかり湯を沸し、104まづ言霊別命を賓客として、105第一着に入浴を勧めけるが、106口子姫は、107言霊別命に何ごとか私語つつ一間に入りて衣服を脱ぎ、108これを言霊別命に着せしめ、109みづから言霊別命の衣裳を身に着し、110悠々として湯殿に入りぬ。
111 この時、112国照姫は男神の浴殿に入りしことをたしかめ、113ただちに美山彦に急告したれば、114美山彦は時をはからひ、115大身の鎗を提げ浴殿に入るや、116たちまち魂消る女の叫び声。117よくよく見れば思ひきや、118わが寵臣の口子姫ならむとは、119驚きあわてこれを援けむと駈けより見れば、120湯槽の湯は、121赤色に変じ、122口子姫の身体は強直したるまま朱に染りて絶命しゐたりける。
123 ここに美山彦は、124……言霊別命をとり逃せしか残念至極なり、125たとへ鬼神の勇ありて天を翔り、126地を潜るとも、127要害きびしきこの城内を遁るべき手段なし、128あくまで探し索めて、129多年の怨みを晴らさむ……と、130あまたの従臣に命を下し、131血眼となりて城内くまなく捜索しける。132このとき城門を走り出むとする女性あり。133清熊は怪しみてあとより追ひすがり、134背後より襟筋目がけて無手とつかめば、135女神に変装せる言霊別命は手早く衣を脱ぎ捨てて裸体となり、136城の堀にザンブとばかり飛び込みたまひ、137清熊の手には、138口子姫の着衣が残れるのみ。139言霊別命は、140水底を潜り、141向ふ岸につき、142辛うじて命を拾ひたまひぬ。143命はそれより裸体のまま、144鬼城山の城塞を後にして、145韋駄天走りに、146北へ北へと落ち延びたまひぬ。
147 寒気はますます烈しく歯の根も合はぬ苦しさをこらへて、148とある荒廃家に逃げこみ、149老人夫婦の厚意により、150垢つき破れたる衣を与へられ、151ホツと一息つきながら、152なほも一目散に北方さして逃げ出したまへば、153はるか後方より、154声を限りに呼ぶものあり。155ふりかへり見れば、156まがふ方なき従臣村幸彦なり。157命は彼に神策を授け、158ふたたびこの場を引返して、159鬼城山の偵察に向はしめたまひける。160村幸彦は今後はたして、161いかなる活動をなすならむか。
162(大正一〇・一一・一五 旧一〇・一六 栗原七蔵録)
163(第三章~第一一章 昭和一〇・一・一五 於今治市吉忠旅館 王仁校正)