霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 手料理(てれうり)〔一〇一八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻 篇:第1篇 安閑喜楽 よみ:あんかんきらく
章:第6章 第37巻 よみ:てりょうり 通し章番号:1018
口述日:1922(大正11)年10月08日(旧08月18日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年3月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
喜楽の姿が消えたことで、最初は母や兄弟も、女のところへ憂さ晴らしにいったのだろうと思って気にも留めていなかった。しかし二日経っても三日たっても帰ってこないで、そろそろ近所の大騒ぎになってきた。
皆それぞれ、占い師や祈祷師のところに行って、喜楽の行方を探索しようとしていた。七日目の十五日正午前に、喜楽は帰ってきた。
家族は喜び、近所の人々は詰めかけて、喜楽を問い詰めた。自分は神様に連れられて修行に行ってきたのだ、とだけ答えたが、神勅を重んじて後は無言で聞いているのみであった。
飯を食って一日寝たり、父親の墓に参ったりしていたが、十七日の朝から自分の身体はますます変になってきて、四肢は強直し口も舌も動かなくなり、身動きがまったくできないようになってしまった。
家族は医者を呼んだり祈祷師を呼んだり手を尽くしていた。自分は耳だけ鋭敏になり、周りのことはすべて聞こえていた。しかし医者も祈祷師もさっぱり効験がなかった。
次郎松は、狸が憑いているに違いないと言って、青松葉に唐辛子や山椒を混ぜいぶし出そうと準備を始めた。自分はこれでは殺されてしまうと思い、全身の力をこめて起き上がろうとしたが、びくともしない。
次郎松が火鉢に火をおこして唐辛子と青松葉の煙を団扇であおぎこもうとしている刹那、母がそれを止めて嘆願し、母の目から落ちた涙が自分の顔をうるおした。
そのとき上の方から一筋の金色の綱が下がってきた。それを手早く握りしめたと思ったとたん、不思議にも自分の身体は自由自在に活動することができるようになった。一同は歓喜の涙に打たれ、自分も復活したような喜びに満たされた。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:72頁 八幡書店版:第7輯 56頁 修補版: 校定版:75頁 普及版:34頁 初版: ページ備考:
001 喜楽(きらく)姿(すがた)が、002(ごう)神社(じんじや)(まへ)喜楽亭(きらくてい)から二月(にぐわつ)九日(ここのか)(よる)より()えなくなつたので、003(はは)兄弟(きやうだい)は……大方(おほかた)(をんな)(ところ)へでも()()らしに(あそ)びに()つたのか、004(ただし)亀岡(かめをか)あたりへ散財(さんざい)()つたのだらう……(くらゐ)(おも)つて()にも()めなかつた。005二日(ふつか)()つても三日(みつか)()つても(かへ)つて()ないので、006ソロソロ(れい)次郎松(じろまつ)007(その)西隣(にしどなり)のお(まさ)後家(ごけ)(はじ)め、008株内(かぶうち)近所(きんじよ)大騒(おほさわ)ぎとなつて()た。
009 長吉(ちやうきち)()(をとこ)が、010亀岡(かめをか)五軒町(ごけんまち)神籬教院(ひもろぎけうゐん)中井(なかゐ)伝教(でんけう)といふ稲荷下(いなりさげ)(ところ)参拝(さんぱい)して、011稲荷(いなり)大明神(だいみやうじん)託宣(たくせん)()ふと、012伝教(でんけう)先生(せんせい)白衣(びやくい)白袴(しろばかま)烏帽子(ゑぼし)(ちやく)し、013(うやうや)しく天津祝詞(あまつのりと)六根清浄(ろくこんしやうじやう)(はらひ)014心経(しんきやう)などを神仏(しんぶつ)混交的(こんかうてき)(とな)()げ、015少時(しばらく)すると(たちま)神霊(しんれい)降臨(かうりん)あり、
016水辺(すゐへん)()をつけよ、017(はや)(さが)さないと生命(いのち)(あやふ)い、018(この)(をとこ)発狂(はつきやう)気味(きみ)があるぞよ』
019との御託宣(ごたくせん)()て、020あわてて(かへ)(きた)り、021(いけ)井戸(ゐど)(かは)などを(さが)(まは)れども、022(すこ)しの手係(てがか)りもなかつた。
023 お(まさ)後家(ごけ)サンが株内(かぶうち)のこととて()()み、024宮前村(みやざきむら)宮川妙霊教会所(みやかはめうれいけうくわいしよ)(まゐ)つて神宣(しんせん)()うた(ところ)025西田(にしだ)清記(せいき)といふ教導職(けうだうしよく)神宣(しんせん)()れば、
026()()はした婦人(ふじん)(ひがし)(はう)()けて(とほ)駆落(かけおち)してる。027(しか)一週間(いつしうかん)(うち)には葉書(はがき)()()るから安心(あんしん)せよ』
028との滑稽(こつけい)神宣(しんせん)もあつたさうだ。029(まさ)後家(ごけ)サンは、030(また)もや篠村新田(しのむらしんでん)弘法大師(こうぱうだいし)(まつ)つて()立江(たつえ)のお地蔵(ぢざう)さまと(しよう)する()アさまに(うらな)つて(もら)うた(ところ)
031(この)(をとこ)(かみ)かくしに()うたのだ。032(わる)天狗(てんぐ)(つま)まれたのだから、033生命(いのち)別状(べつじやう)はないが、034法外(はふはづ)れの大馬鹿者(おほばかもの)か、035気違(きちがひ)になつて、036キツと一週間(いつしうかん)(のち)には(かへ)つて()るから安心(あんしん)せよ』
037との託宣(たくせん)であつたと()ふことだ。
038 次郎松(じろまつ)サンは亀岡(かめをか)易者(えきしや)(ところ)()つて、039判断(はんだん)をして(もら)つた(ところ)
040牧畜場(ぼくちくぢやう)売上金(うりあげきん)一百円(いつぴやくゑん)(ばか)()つて()()るが、041此奴(こいつ)外国(ぐわいこく)()(つも)りだ。042(おも)はぬ野心(やしん)()こして、043朝鮮(てうせん)から満洲(まんしう)(わた)り、044馬賊(ばぞく)(むれ)(くは)はる(つも)りだから、045一時(いちじ)(はや)保護願(ほごねがひ)をして、046外国(ぐわいこく)(わた)らないやうにせよ』
047との途方(とはう)もない判断(はんだん)であつたと()ふことだ。
048 人々(ひとびと)(うはさ)は……節季前(せつきまへ)だから、049支払(しはらひ)(こま)つて()ぬけをしたのだろ。050(あま)金使(かねづか)ひが荒過(あらす)ぎたから……などと()つて()(もの)もあり……○○の(をんな)駆落(かけおち)をしたのだ。051イヤ天狗(てんぐ)につままれたのだ、052発狂(はつきやう)したのだ、053狐狸(こり)にだまされて山奥(やまおく)へつれて()かれたのだ。054河内屋(かはちや)勘吉(かんきち)若錦(わかにしき)がこわさに(おや)振捨(ふりす)てて、055どつかへ()げたのだ、056余程(よつぽど)不孝(ふかう)(やつ)だ、057大馬鹿者(おほばかもの)だ、058(わか)らぬ(やつ)だ、059腰抜(こしぬけ)だ……とまちまちに評議(へうぎ)(はな)()いてゐたといふ(こと)だ。
060 喜楽(きらく)(つくゑ)(うへ)(のこ)してあつた一通(いつつう)巻紙(まきがみ)には、061()(ごと)(うた)(しる)されてあつた。
062(われ)(そら)()(とり)なれや
063  (われ)(そら)()(とり)なれや
064 (はるか)(たか)(くも)()
065  下界(げかい)(ひと)種々(くさぐさ)
066 喜怒哀楽(きどあいらく)(とら)はれて
067  身振(みぶり)(あし)ぶりするさまを
068 われを(わす)れて(なが)むなり
069  げに面白(おもしろ)(ひと)()
070 されども(あま)(きよう)()
071  地上(ちじやう)()つることもがな
072 御神(みかみ)()れと(とも)にあれ』
073毛筆(まうひつ)(したた)めてある。074(なん)意味(いみ)だか(たれ)()(もの)はなかつた。
075 七日目(なぬかめ)如月(きさらぎ)十五日(じふごにち)正午前(しやうごまへ)076宮垣内(みやがいち)伏屋(ふせや)問題(もんだい)(をとこ)喜楽(きらく)(かへ)つて()た。077家族(かぞく)歓喜(くわんき)()ふも(さら)なり、078株内(かぶうち)近所(きんじよ)人々(ひとびと)が、079(かへ)つたと()いて追々(おひおひ)つめかけて()る。080()んだ(もの)冥途(めいど)から(かへ)つて()(やう)(めづら)しがつて、
081『コレ喜楽(きらく)サン、082(まへ)はどこへ()つて()たのだ、083どこで(なに)をして()つたのだ、084(まへ)不在中(ふざいちゆう)心配(しんぱい)大抵(たいてい)のことでなかつた』
085とウルさい(ほど)質問(しつもん)()(はな)つて()る。086一々(いちいち)応答(おうたふ)してる()には際限(さいげん)がない。087自分(じぶん)(なん)だか(はづ)かしくなつて()たので、
088(かみ)さまにつれられて、089一寸(ちよつと)修業(しうげふ)()つて()ました。090(なん)でも神界(しんかい)大望(たいまう)があるさうなので……』
091()つたきり、092あとは無言(むごん)でゐると、093(れい)次郎松(じろまつ)サンは(くち)をとがらして揚面(あげつら)をしながら、
094『ヘン、095(ひと)馬鹿(ばか)にするない。096(みな)サン、097眉毛(まゆげ)(つば)でもつけて()らぬと、098堺峠(さかひたうげ)のお紋狐(もんぎつね)につままれますぞ。099田芋(たいも)(やま)(いも)か、100蒟蒻(こんにやく)瓢箪(へうたん)()らぬが、101余程(よつぽど)安閑坊(あんかんばう)……ぢやない安本丹(あんぽんたん)だ。102そんなこと()つてゴマかさうと(おも)うても、103(この)(まつ)サンの(くろ)()一目(ひとめ)(にら)んだら、104イツカナ イツカナ(はづ)れはせぬぞ、105アハヽヽヽ、106なまけ息子(むすこ)俄狂言(にはかきやうげん)もモウ駄目(だめ)だぞよ。107こんな(やつ)相手(あひて)になつて()るとしまひのはてにや(しり)()までぬかれて(しま)ふ。108険呑(けんのん)険呑(けんのん)だ、109(みな)サン()()けなさい』
110(つら)(ふく)らし、111(なかば)(やぶ)れた(たたみ)()つて(あし)をひつかけ(なが)ら、112スタスタと(かへ)つて()く。
113 それから(かは)(がは)四五人(しごにん)親切屋(しんせつや)が、114(なん)とかカンとか()つて忠告(ちうこく)意見(いけん)をしてくれる。115自分(じぶん)神勅(しんちよく)(おも)んじ、116無言(むごん)()いてゐる(ばか)りであつた。117(また)何程(なにほど)弁解(べんかい)してみた(ところ)で、118(かみ)さまの御用(ごよう)()つたなどと()いても駄目(だめ)だからである。119(にはか)(はら)(むし)空虚(くうきよ)(うつた)へる。120(みづか)(ぜん)取出(とりだ)し、121(つめた)麦飯(むぎめし)二杯(にはい)(ばか)矢庭(やには)にかき()んでみた。122(じつ)山海(さんかい)珍味(ちんみ)にまさる心持(こころもち)がした。
123 堤防(ていばう)決潰(けつくわい)したが(ごと)(いきほひ)睡気(ねむけ)(おそ)うて()た……ねむたい(とき)には(うま)五十駄(ごじふだ)(かね)もいや……といふ俗謡(ぞくえう)文句(もんく)(とほ)り、124一切万事(いつさいばんじ)執着(しふちやく)にはなれ、125(その)まま(くら)部屋(へや)破畳(やぶれだたみ)真中(まんなか)にゴロリと(よこ)たはつた(まま)126(あと)(しばら)白河夜舟(しらかはよふね)(ふたた)天国(てんごく)をさまようてゐた。127(その)(あひだ)(たの)しさは、128(あと)にも(さき)にもなき有様(ありさま)であつた。
129 十六日(じふろくにち)午後(ごご)二時(にじ)(ごろ)になつて、130(やうや)()がさめて()た。131枕許(まくらもと)には依然(いぜん)として四五人(しごにん)男女(だんぢよ)見舞(みまひ)()て、132いろいろの(うはさ)をし(なが)ら、133介抱(かいほう)してゐた。134()がさめて()ると随分(ずゐぶん)きまりが(わる)い。135(たちま)産土(うぶすな)小幡(をばた)神社(じんじや)無我夢中(むがむちう)になつて参詣(さんけい)し、136(その)(あし)山伝(やまづた)ひに、137(ちち)墳墓(ふんぼ)小松(こまつ)根曳(ねび)きして(そな)へに()つた。
138 (あと)から()えがくれについて()たのは、139南隣(みなみとなり)八田(はちた)繁吉(しげきち)といふ三十男(さんじふをとこ)であつた。140()のズツポリ西山(せいざん)(しづ)んだ(ころ)141(おも)(あし)(ひき)ずつて不安(ふあん)顔色(かほいろ)をし(なが)伏家(ふせや)(かへ)つて()た。142次郎松(じろまつ)サンやお(まさ)後家(ごけ)がウルさい(ほど)つめかけて、143いろいろと聞糺(ききただ)さうとする、144自分(じぶん)(くび)左右(さいう)にふつて、145(なん)にも(こた)へなかつた。
146 (よく)十七日(じふしちにち)早朝(さうてう)から、147自分(じぶん)(からだ)益々(ますます)(へん)になつて()た。148催眠術(さいみんじゆつ)でもかけられた(やう)に、149四肢(しこ)より強直(きやうちよく)(はじ)め、150()いで(くち)(した)もコワばつて(うご)かなくなつた。151最早(もはや)一言(ひとこと)(くち)()くことも、152一寸(ちよつと)身動(みうご)きをすることも出来(でき)ぬ、153()きた死骸(しがい)(やう)になつて(しま)つた。154(しか)(なが)(みみ)(だけ)人々(ひとびと)話声(はなしごゑ)がよく(きこ)えて()る。155懐中時計(くわいちうどけい)(はり)(おと)までが(きこ)える(くらゐ)156(みみ)(だけ)鋭敏(えいびん)になつて()た。157家族(かぞく)株内(かぶうち)(もの)がよつてたかつて、158いろいろと()でたりさすつたり、159やいと()えたりしてゐる。
160今日(けふ)三日(みつか)ぶり、161(ふか)(やう)によう()(もの)だ、162よほどくたぶれたと()える。163自然(しぜん)()のさめる(まで)()さしておくがよからう……』
164一座(いちざ)相談(さうだん)がまとまつたのが自分(じぶん)(みみ)にはハツキリと(わか)つてゐた。165四日(よつか)たつてもビクとも(からだ)(うご)かぬ、166(ねむり)からさめぬ。167家族(かぞく)株内(かぶうち)人々(ひとびと)は、168(たちま)不審(ふしん)(くも)(つつ)まれて、169(にはか)慌出(あわてだ)した。170……『モウ駄目(だめ)だ、171(まゐ)りだ、172用意(ようい)せなくてはならぬ……』
173(まつ)サンの()つた(ことば)(またた)()(ひろ)がつて、174見舞客(みまひきやく)(やま)(きづ)いた。175(たれ)(たの)んで()(もの)か、176医者(いしや)さまの(こゑ)(きこ)えて()た。177自分(じぶん)医者(いしや)()よつたなと(おも)うてゐると、178柿花(かきはな)名医(めいい)吉岡(よしをか)(ぼう)といふ先生(せんせい)179叮嚀(ていねい)(みやく)をとる、180(ねつ)(はか)る、181打診(だしん)182聴診(ちやうしん)183望診(ばうしん)184問診(もんしん)185触診(しよくしん)と、186非常(ひじやう)丹精(たんせい)をこらし、
187(じつ)大変(たいへん)痙攣(けいれん)です。188(この)強直(きやうちよく)状態(じやうたい)(この)(まま)今晩(こんばん)十二時(じふにじ)(ごろ)まで持続(ぢぞく)すれば、189最早(もはや)駄目(だめ)です。190体温(たいおん)(ぞん)して()りますから()んだのではない、191つまり仮死(かし)状態(じやうたい)とでも()ふのでせう。192()(かく)不思議(ふしぎ)病気(びやうき)です』
193(しき)りに(くび)(ふつ)てゐる様子(やうす)であつた。194自分(じぶん)病気(びやうき)でも(なん)でもありません、195神界(しんかい)修業(しうげふ)ですと()つて、196ガワとはね()き、197(みな)(わか)らずやを(おどろ)かしてやらうと(おも)うて、198全身(ぜんしん)根力(こんりき)をこめてきばつて()たが、199ヤツパリ(からだ)はビクとも(うご)かない、200(くち)もきくことが出来(でき)なかつた。201医者(いしや)さんの(くつ)足音(あしおと)次第々々(しだいしだい)自分(じぶん)(みみ)(とほ)(ひび)いて()た。202これで医者(いしや)(かへ)つたのだと(かん)じられた。
203 転輪王明誠教会所(てんりんわうみやうせいけうくわいしよ)斎藤(さいとう)といふ先生(せんせい)が、204二人(ふたり)弟子(でし)(とも)に、205(たれ)(たの)んだ(もの)祈祷(きたう)(ため)にやつて()た。206天津祝詞(あまつのりと)神言(かみごと)()げず、207(ただち)拍子木(へうしぎ)をカチカチと()ち、
208(あし)きを(はら)うて(たす)(たま)転輪王(てんりんわう)(みこと)209一列(いちれつ)すまして甘露台(かんろだい)210一寸(ちよいと)はなし、211(かみ)のいふこと()いてくれ、212(あし)きの(こと)()はぬでな、213(この)()()(てん)とを形取(かたど)りて夫婦(ふうふ)(こしら)(きた)るでな、214これが(この)()(はじ)めだし』
215(うた)(なが)ら、216(だい)(をとこ)三人(さんにん)217()(まる)(あふぎ)(ひら)いて拍子木(へうしぎ)をカチカチ(たた)(はや)()てる。218(いの)つてゐるのか、219(をど)つてゐるのか、220チツとも見当(けんたう)がつかない。221随分(ずゐぶん)(さわ)がしい宗教(しうけう)だなア……と(おも)つて()た。222斎藤(さいとう)先生(せんせい)諄々(じゆんじゆん)として、223十柱(とはしら)(かみ)さまの()(うち)(ばなし)()いた(すゑ)
224(この)病人(びやうにん)サンは(まつた)(てん)()()いたのだから、225一心(いつしん)(てん)十柱(とはしら)(かみ)さまを御願(おねが)ひなされ』
226親切(しんせつ)にくり(かへ)しくり(かへ)()きさとし(なが)ら、
227(また)明日(みやうにち)(うかが)ひます』
228言葉(ことば)(のこ)して(かへ)()く。229家内(かない)株内(かぶうち)(もの)感謝(かんしや)して()(こゑ)(きこ)えて()た。
230 法華経(ほつけきやう)信者(しんじや)のお(むつ)()アサンが親切(しんせつ)(たづ)ねに()た。231そして『お題目(だいもく)有難(ありがた)いから』と()つて(やかま)しう『南無妙法蓮華経(なむめうはふれんげきやう)』を幾十回(いくじつくわい)となく珠数(じゆず)(もみ)(なが)ら、232繰返(くりかへ)(とな)へてゐる。233そして(あたま)234(かほ)235手足(てあし)のきらひなく、236珠数(じゆず)()つ、237こする、238()でる、239しまひの(はて)には、240(むつ)()アサン、241(めう)なことを()()した。
242『コレ、243(きつね)さまか(くろ)さまか()らぬが、244(まへ)さま一体(いつたい)(なに)不足(ふそく)で、245ここの喜楽(きらく)()きなさつたのだえ。246不足(ふそく)があるならば遠慮(ゑんりよ)なしに、247トツトと仰有(おつしや)れ。248小豆飯(あづきめし)揚豆腐(あげとうふ)か、249(ねずみ)油揚(あぶらあげ)()しいのか、250()ンなつと注文(ちうもん)次第(しだい)(こしら)へて()げませうから、251それを()つて、252一時(いちじ)(はや)肉体(にくたい)(のこ)して(やま)(かへ)つて(くだ)さい。253(しぶ)とうなさると、254題目(だいもく)(せめ)ますぞや』
255()(なが)ら、256無茶苦茶(むちやくちや)珠数(じゆず)(わき)(した)肋骨(あばらぼね)をガリガリ()はせ(なが)ら、257コスリつけるのであつた。258自分(じぶん)(こころ)(なか)で……馬鹿者(ばかもの)()つてたかつて、259(ひと)馬鹿(ばか)にしやがる……と憤慨(ふんがい)してゐた。
260 二十三日(にじふさんにち)早朝(さうてう)261京都(きやうと)誓願寺(せいぐわんじ)祈願僧(きぐわんそう)(たづ)ねて()た。262(おぼ)るる(もの)はわらしべ一本(いつぽん)にもたよらうとする(ことわざ)(ごと)く、263(なん)でもかでも(たす)けてやらうと()(もの)さへあらば、264無暗(むやみ)矢鱈(やたら)引張(ひつぱり)()んで()る。265(この)祈祷僧(きたうそう)皺枯(しわが)れた(こゑ)で『南無妙法蓮華経(なむめうはふれんげきやう)』と幾回(いくくわい)もくり(かへ)(つぎ)心経(しんきやう)二三回(にさんくわい)(ばか)(とな)(なが)ら、266一人(ひとり)拍子木(へうしぎ)(たた)く、267太鼓(たいこ)をうつ、268まだ(その)(あひだ)(かね)(たた)く、269(あせ)みどろになつて勤行(ごんぎやう)する、270(その)熱心(ねつしん)(じつ)感謝(かんしや)(あたひ)すると(おも)うた。271(しか)自分(じぶん)(みみ)がつんぼになり(さう)であつた。272これ(ほど)(やかま)しう(さわ)がねば(きこ)えぬとは、273余程(よほど)(みみ)(とほ)(ほとけ)さまだなア……と(こころ)(なか)可笑(おか)しくて(たま)らなかつた。
274拍子木(へうしぎ)()太鼓(たいこ)(かね)(たた)(きやう)()
275法華坊主(ほつけばうず)(げい)(おほ)さよ
276 (この)(ばう)サン次第々々(しだいしだい)(こゑ)がかすれ()し、277御幣(ごへい)()()ち、278(また)もや「高天原(たかあまはら)」に「六根清浄(ろくこんしやうじやう)」の(はらひ)()げる。279(にはか)(かれ)身体(しんたい)はドスーンドスーンと上下(じやうか)震動(しんどう)し、280稲荷下(いなりさ)げのやうな(こと)(はじ)()した。281そして(せま)部屋中(へやぢう)をグルリグルリところげまはり『ウンウン』と()(なが)()(なほ)大声(おほごゑ)()()げて、
282『われこそは妙見山(めうけんやま)新滝(しんたき)守護(しゆご)いたす、283正一位(しやういちゐ)天狐(てんこ)恒富稲荷大明神(つねとみいなりだいみやうじん)なり、284(うかが)ひの(すぢ)あらば(ちか)うよつて(ねが)へツ』
285との御託宣(ごたくせん)であつた。286一座(いちざ)(もの)低頭平身(ていとうへいしん)287(いき)をこらして(かしこ)まつてゐる。288次郎松(じろまつ)サンは(かたち)(あらた)両手(りやうて)をついて、
289有難(ありがた)恒富大明神(つねとみだいみやうじん)さまに御伺(おうかが)(いた)しますが、290一体(いつたい)これは何者(なにもの)仕業(しわざ)御座(ござ)いますか、291どうぞ御知(おし)らせを(ねが)ひます』
292恒富(つねとみ)『これは(いま)より三十年前(さんじふねんぜん)293(この)()株内(かぶうち)与三郎(よさぶろう)といふ(をとこ)があつたであらう。294(その)(をとこ)(たぬき)()いた。295(この)()(もの)296(その)(ほか)近所(きんじよ)(もの)当家(たうけ)によつて()て、297(その)与三郎(よさぶろう)牡丹餅(ぼたもち)出来(でき)たから()てくれと()つて、298ここへ(ひき)よせた。299与三(よさ)牡丹餅(ぼたもち)をよんでやらうとは有難(ありがた)い……といひ(なが)()をニユツとつき()した。300近所(きんじよ)のお睦婆(むつば)アが、301与三(よさ)には古狸(ふるだぬき)がついて()るから、302此奴(こいつ)追出(おひだ)した(あと)でなくては牡丹餅(ぼたもち)はやらぬと、303与三(よさ)()せつけておき(なが)ら、304(たぬき)退治(たいぢ)だと()つて、305青松葉(あをまつば)唐芥子(たうがらし)をまぜて、306(はな)からくすべ、307与三(よさ)肉体(にくたい)まで()くして(しま)つた。308(その)(うらみ)をはらすが(ため)に、309与三(よさ)怨霊(をんりやう)が、310自分(じぶん)についてゐた(たぬき)をお(さき)使(つか)つて、311ここの息子(むすこ)をたぶらかし、312(はら)(なか)()をくんで(なや)めて()るのだ。313(しか)(なが)(この)恒富大明神(つねとみだいみやうじん)神力(しんりき)()つて、314怨敵(をんてき)(たちま)退散(たいさん)さす(ほど)有難(ありがた)(おも)つて信心(しんじん)(いた)せ。315一時(ひととき)(のち)には与三(よさ)死霊(しりやう)古狸(ふるだぬき)もサツパリ降服(かうふく)するぞよ。316ウンウン』
317()つて正気(しやうき)(かへ)つて(しま)つた様子(やうす)である。318これを()いて()つた自分(じぶん)可笑(おか)しさ。319一座(いちざ)(この)託宣(たくせん)(いのち)(つな)(しん)じ、320有難涙(ありがたなみだ)にかきくれて、321(はな)(すす)(こゑ)さへ(きこ)えて()る。322(しか)(なが)ら、323一時間(いちじかん)たつても、324半日(はんにち)()つても、325死霊(しりやう)退散(たいさん)せねば、326古狸(ふるだぬき)()なぬと()えて、327喜楽(きらく)(からだ)依然(いぜん)として強直(きやうちよく)状態(じやうたい)(つづ)けてゐる。328祈祷(きたう)坊主(ばうず)(しり)こそばゆくなつたと()え、329雪隠(せつちん)()くやうな(かほ)して、330何時(いつ)()にか、331礼物(れいもつ)(もら)つた(まま)姿(すがた)をかくしたやうな按配(あんばい)であつた。332黄昏時(たそがれどき)になつて、333(また)(れい)次郎松(じろまつ)がやつて()た。
334『あゝヤツパリあの糞坊主(くそばうず)も、335()のない(たぬき)だつた。336とうとう尻尾(しつぽ)をみられぬ(さき)()げよつたなア。337偉相(えらさう)(ぬか)して()つた坊主(ばうず)御祈祷(ごきたう)も、338恒富(つねとみ)稲荷(いなり)御託宣(ごたくせん)も、339(あて)にならぬ嘘八百(うそはつぴやく)をコキ(なら)べよつた。340それよりも手料理(てれうり)(かぎ)る。341第一(だいいち)此奴(こいつ)(はか)(まゐ)りよつたのがウサンぢや。342キツとドブ(だぬき)がついてゐるにきまつて()る、343(むかし)与三(よさ)()いて()つた(やつ)だろ。344青松葉(あをまつば)(くらゐ)でくすべた(ところ)で、345此奴(こいつ)余程(よほど)(がふ)()て、346()()(また)になつてる(やつ)ぢやから、347中々(なかなか)往生(わうじやう)(いた)すまい。348七味(しちみ)唐辛(たうがらし)山椒(さんせう)をまぜて、349青松葉(あをまつば)でくすべたら往生(わうじやう)するだろ。350本人(ほんにん)喜楽(きらく)二三日前(にさんにちまへ)()んで(しま)うてゐるのだ。351(ただ)(たぬき)(いき)(からだ)がぬくい(だけ)だ。352……オイコラ(たぬき)サン、353モウ駄目(だめ)だぞ、354覚悟(かくご)はよいか、355いいかげんに()にさらせ』
356といひ(なが)ら、357失敬(しつけい)千万(せんばん)(あし)をあげて、358自分(じぶん)(あたま)()つたり、359(はな)()ぢたりしてゐる。360青松葉(あをまつば)唐辛(たうがらし)用意(ようい)出来(でき)たと()え、361次郎松(じろまつ)得意(とくい)になつて、
362『オイたぬサン、363これから七味(しちみ)唐辛(たうがらし)山椒粒(さんせうつぶ)松葉(まつば)くすべの御馳走(ごちそう)だ。364サ、365ドツトと遠慮(ゑんりよ)なしに(あが)つてくれ』
366迷信家(めいしんか)()つて殺人(さつじん)準備(じゆんび)行為(かうゐ)をやつて()る。367(みみ)のよく(きこ)える自分(じぶん)は、368モウ()うなつては何所(なにどころ)でない、369全身(ぜんしん)(ちから)をこめて起上(おきあが)らうとしたが、370ビクともしない、371(くち)()かない。372次郎松(じろまつ)はふちの()けた火鉢(ひばち)()をおこし、373唐辛(たうがらし)青松葉(あをまつば)をくべて、374団扇(うちわ)(はな)(さき)(あを)ぎこまうとしてる一刹那(いちせつな)375(はは)が、
376(まつ)サン……一寸(ちよつと)
377(なに)(あたま)(さき)(なげ)いてゐられる。378そして(はは)()からおちた(なみだ)が、379自分(じぶん)(かほ)をうるほはした(その)一刹那(いちせつな)380どこともなく、381(うへ)(はう)から一筋(ひとすぢ)金色(こんじき)(つな)(さが)つて()た。382それを手早(てばや)(にぎ)りしめたと(おも)途端(とたん)に、383不思議(ふしぎ)にも自分(じぶん)(からだ)自由自在(じいうじざい)活動(くわつどう)することが出来(でき)るやうになつた。384一同(いちどう)歓喜(くわんき)(なみだ)にうたれてゐる。385自分(じぶん)復活(ふくくわつ)したやうな(よろこ)びに()たされて()た。
386大正一一・一〇・八 旧八・一八 松村真澄録)