霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一〇章 矢田(やだ)(たき)〔一〇二二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻 篇:第2篇 青垣山内 よみ:あおがきやまうち
章:第10章 矢田の滝 よみ:やだのたき 通し章番号:1022
口述日:1922(大正11)年10月09日(旧08月19日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年3月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
葦野山峠の西坂で牛糞をつかまされ、自暴自棄になって二三日は祝詞も修行も注視していた。三日目の晩にまたもや臍下丹田から霊が喉元に上がってきて叫び始めた。
大霜天狗と名乗る神霊は、葦野山峠の失敗を触れて回ってやろうか、とからかい始めた。喜楽は、神霊は大霜天狗ではなく、やっぱり松岡様ではないかと詰め寄ると、神霊は実は松岡だと明かして大笑いした。
喜楽の文句はまったく聞く耳をもたず、松岡神は喜楽の身体を使って夜十二時ごろに自宅を立ち出で、亀岡の産土・矢田神社の奥の滝に水行を命じた。そして一週間の滝行を行うことになった。
七日目ににわかに恐ろしい思いに捉われ、怪しいものを見たが、一声腹の中から『突進』という声を聴くと落ち着くことができた。滝への途上、稲利下げの婆に会った。
滝に来てみると、亀岡旅籠町の外志ハルという神下しの女が行を行っており、喜楽が審神を行った。外志ハルが正気に戻ると、お互いに神様の話をしながら旅籠町に回り、夫の筆吉にも面会して、道のために協力し合うことを約束して穴太に帰ってきた。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:124頁 八幡書店版:第7輯 77頁 修補版: 校定版:131頁 普及版:60頁 初版: ページ備考:
001 葦野山峠(あしのやまたうげ)西坂(にしざか)でマンマと牛糞(うしくそ)をつかまされ、002阿呆(あはう)らしくて(たま)らず、003(やや)自暴自棄的(じばうじきてき)になつて、004二三日(にさんにち)(あひだ)朝寝(あさね)をする、005宵寝(よひね)もする、006天津祝詞(あまつのりと)奏上(そうじやう)や、007鎮魂帰神(ちんこんきしん)修業(しうげふ)中止(ちうし)してゐた。008そうすると三日目(みつかめ)(ばん)009(また)もや臍下丹田(さいかたんでん)から(れい)のグルグルが喉元(のどもと)()(あが)り、
010『アーアーアー』
011(おほ)きな(こゑ)連発(れんぱつ)し、012(しばら)くすると、
013阿呆(あはう)阿呆(あはう)阿呆(あはう)!』
014呶鳴(どな)りつける。015喜楽(きらく)(おも)うた……本当(ほんたう)天狗(てんぐ)()(とほ)り、016阿呆(あはう)阿呆(あはう)017()なしの阿呆(あはう)だ。018(しか)(なが)(たれ)にも()はずに(いま)まで(かく)してゐるのだから、019大霜(おほしも)天狗(てんぐ)無頓着(むとんちやく)にあんな(こゑ)で、020葦野山峠(あしのやまたうげ)失敗(しつぱい)事件(じけん)(しやべ)りでもせうものなら、021それこそ(おや)兄弟(きやうだい)022近所(きんじよ)株内(かぶうち)(やつ)馬鹿(ばか)にしられ、023(かみ)さまの祭壇(さいだん)取除(とりのぞ)かれて(しま)うに(ちが)ひない、024どうぞ(おほ)きな(こゑ)()してくれねばよいがなア……と(こころ)(なか)(ねん)じてゐた。
025大霜(おほしも)『コレ肉体(にくたい)026スツパ()かうか、027チツと貴様(きさま)(こま)るだろ。028どうせうかな』
029とからかひ(はじ)める。
030喜楽(きらく)『どうなつと勝手(かつて)にしなさい。031(もと)土百姓(どびやくせう)牧畜(ぼくちく)業者(げふしや)になつて(しま)ひます。032(かへつ)素破(すつぱ)ぬいた(はう)(あきら)めがついて(よろ)しい』
033大霜(おほしも)『そう落胆(らくたん)するものぢやない。034まだお(まへ)十分(じふぶん)身魂(みたま)(みが)けて()ないから、035モウ一度(いちど)(かみ)()れて()くから、036水行(すいげう)をするのだ。037小幡川原(をばたがはら)(みづ)(からだ)にしみ()んで(あか)がとれぬから駄目(だめ)だ。038今度(こんど)(この)(はう)がよい(ところ)()れて()つてやるから、039(その)用意(ようい)をせい。040草鞋(わらぢ)脚絆(きやはん)をチヤンと(こしら)へて、041今晩(こんばん)十二時(じふにじ)此処(ここ)()(こと)にするのだ』
042喜楽(きらく)(また)ウソを()ふのぢやありませぬか?』
043大霜(おほしも)(うそ)(くそ)もあつたものかい。044モウ()うなつた以上(いじやう)何事(なにごと)があらうと(かみ)(まか)し、045糞度胸(くそどきよう)()ゑてかからねば何事(なにごと)成功(せいこう)しないぞ。046あの(くらゐ)(こと)でフン(がい)しとるやうな(こと)ぢや駄目(だめ)だ』
047喜楽(きらく)『モシモシ天狗(てんぐ)さま、048(まへ)さまは大霜(おほしも)だと()つて()られるが、049(ちが)ひませう。050どうも()ひぶりが松岡(まつをか)さまらしい』
051大霜(おほしも)松岡(まつをか)でも大霜(おほしも)でも(かま)はぬぢやないか、052(まへ)(たましひ)さへ(みが)けたらいいのぢや。053本当(ほんたう)守護神(しゆごじん)(わか)らぬやうなこつては神柱(かむばしら)駄目(だめ)だ。054本当(ほんたう)(おれ)(たれ)だと(おも)うてるか』
055喜楽(きらく)松岡(まつをか)さまにきまつてゐますワイ』
056松岡(まつをか)『よう()てた、057本当(ほんたう)松岡(まつをか)だ。058奥山(おくやま)金掘(かねほ)りにやつたのも、059(うし)(くそ)(つか)ましてやつたのも(みな)(この)松岡(まつをか)だよ、060アハヽヽヽ、061ウフヽヽヽ』
062喜楽(きらく)馬鹿(ばか)にしなさるな』
063松岡(まつをか)馬鹿(ばか)卒業生(そつげふせい)馬鹿(ばか)にせうと(おも)つても、064する余地(よち)がないぢやないか、065エヘヽヽヽ。066これからサア身魂(みたま)洗濯(せんたく)()れて()かう。067草鞋(わらぢ)脚絆(きやはん)がなければ下駄(げた)ばきでいいワ、068サア()かう』
069(はら)(なか)からどなると(とも)に、070喜楽(きらく)(からだ)器械的(きかいてき)立上(たちあ)がり、071(には)駒下駄(こまげた)をはいたまま、072(よる)十二時(じふにじ)(ごろ)自宅(じたく)立出(たちい)で、073小幡川(をばたがは)(わた)り、074スタスタと穴太(あなを)(ひがし)(はな)れ、075重利(しげとし)車清(くるませ)(そば)(はし)()え、076(やぶ)をぬけ、077一町(いつちやう)(ばか)(すす)むと、078自分(じぶん)(あし)土中(どちう)から()えた(やう)にピタリと()まつて(しま)つた。079そこには田園(でんえん)(ほどこ)肥料(ひれう)をたくはへる糞壺(くそつぼ)があつて、080異様(いやう)臭気(しうき)(はな)をついてゐる。081(はら)(なか)から(かたまり)がクルクルと(また)もや喉元(のどもと)へつきつけ、
082松岡(まつをか)『オイ肉体(にくたい)083真裸(まつぱだか)になつて(この)糞壺(くそつぼ)這入(はい)り、084身魂(みたま)洗濯(せんたく)(いた)せ!』
085呶鳴(どな)()した。086(からだ)自然(しぜん)糞壺(くそつぼ)(はう)(すす)んで()く。087(はな)(まが)るほど(くさ)うてたまらぬ。
088喜楽(きらく)『コレ松岡(まつをか)さま、089こんな(ところ)這入(はい)つたら(なほ)(けが)れるぢやありませぬか。090綺麗(きれい)(みづ)洗濯(せんたく)してやらうと()(なが)ら、091糞壺(くそつぼ)這入(はい)れとはチツと間違(まちが)ひぢや(ござ)いませぬか』
092松岡(まつをか)(さび)(かたな)()(とき)も、093生灰(きばい)をつけたり、094(どろ)をつけたりする(やう)に、095(まへ)のやうな製糞器(せいふんき)(くそ)(みが)いてやるのが一番(いちばん)だ。096(くそ)より(きたな)身魂(みたま)()つてゐ(なが)ら、097(くそ)(きたな)いとは(なに)(ぬか)すのだ』
098大声(おほごゑ)呶鳴(どな)()てた。099喜楽(きらく)はビツクリして、
100喜楽(きらく)『ハイ、101そんなら(はだか)になつて這入(はい)ります。102どうぞ(おほ)きな(こゑ)()さぬやうにして(くだ)さい』
103(おび)()かうとする。
104松岡(まつをか)『オイ()()て、105それさへ(わか)ればモウよい。106(まへ)(からだ)機関(きくわん)だ、107生宮(いきみや)だ。108そんな(ところ)這入(はい)つて(もら)ふと(おれ)一寸(ちよつと)(こま)るのだ、109アハヽヽヽ』
110喜楽(きらく)(わたし)(もと)からの()百姓(びやくせう)で、111(くそ)(くらゐ)(なん)とも(おも)つて()りませぬ。112(くそ)がなければ五穀(ごこく)野菜(やさい)(そだ)ちませぬから、113一遍(いつぺん)這入(はい)つて()ませうか』
114松岡(まつをか)這入(はい)るなら勝手(かつて)這入(はい)れ。115(その)(かは)(この)松岡(まつをか)只今(ただいま)(かぎ)守護(しゆご)(いた)さぬからそう(おも)へ。116あとはもぬけのから、117(たぬき)容物(いれもの)にでもなるがよからう』
118 ()()はれると(なん)となしに未練(みれん)()いて()る。119松岡神(まつをかしん)(ひと)(からだ)這入(はい)つて、120ウソ(ばか)()何遍(なんべん)失敗(しつぱい)をさせよる仕方(しかた)のない(やつ)121こんな邪神(じやしん)一時(いつとき)(はや)退散(たいさん)させたいと(おも)(こと)度々(たびたび)であつたが、122サテ()(かぎ)立退(たちの)くと()はれると、123(なん)だか(をし)(やう)()がして()るのが不思議(ふしぎ)である。
124喜楽(きらく)『そんなら、125あなたの(おほせ)(したが)ひます。126サア(これ)から(うつく)しい(みづ)(ところ)()れて()つて(くだ)さい』
127松岡(まつをか)『コレから一里(いちり)(ばか)(ひがし)()くと、128矢田(やだ)(たき)というて(ひがし)()きに()ちてゐる、129(かたち)(ばか)りの(たき)がある。130そこで水行(すゐぎやう)をするのだ、131サア()ケ!』
132号令(ごうれい)(なが)ら、133喜楽(きらく)肉体(にくたい)自由自在(じいうじざい)(あやつ)つて、134足早(あしばや)硫黄谷(いわうだに)()え、135大池(おほいけ)(ほとり)(つた)うて、136亀岡(かめをか)産土(うぶすな)矢田(やだ)神社(じんじや)(おく)(たに)(みちび)水行(すゐぎやう)(めい)じた。137そして一週間(いつしうかん)(あひだ)毎夜(まいよ)(この)(たき)(かよ)(こと)肉体(にくたい)厳命(げんめい)した。138喜楽(きらく)はそれより毎夜(まいよ)々々(まいよ)(さび)しい山道(やまみち)(いけ)(ほとり)墓場(はかば)()矢田(やだ)(たき)(かよ)(こと)となつた。
139 矢田(やだ)(たき)(かよ)(はじ)めてから七日目(なぬかめ)140今晩(こんばん)(ぎやう)(あが)りと()(とき)になつて、141なんとなく(こころ)(そこ)恐怖心(きようふしん)()いて()た。142(おく)()にかけてあつた大身鎗(おほみやり)をひつさげ、143十二時(じふにじ)(ごろ)自宅(じたく)()つて、144穴太(あなを)村外(むらはづ)れまで(すす)んで()ると、145自分(じぶん)()つて()(やり)(こころ)(せい)勝手(かつて)(うご)()し、146リンリンと(うな)(ごゑ)がして()る。147(やり)穂先(ほさき)(よる)でハツキリは()えぬが、148自然(しぜん)(まが)鎌首(かまくび)()ててゐる(やう)()がしてならぬ。149(くろ)(ふる)ぼけた(やり)(にぎ)つた(つも)りでゐたのがいつの()にか(ふと)(へび)(にぎ)つてる(やう)()がして()たので、150麦畑(むぎばたけ)(なか)矢庭(やには)(はう)()み、151車清(くるませ)(はう)(むか)つて(すす)みかけた。152(この)(やり)()ててから余程(よほど)恐怖心(きようふしん)(うす)らいで()た。
153 追々(おひおひ)(すす)んで硫黄谷(いわうだに)大池(おほいけ)(そば)()()ると、154周囲(まはり)一里(いちり)もあると()はれてゐる山間(さんかん)大池(おほいけ)(なか)二三丈(にさんぢやう)(ばか)りあらうと(おも)はる()(たか)い、155それに恰好(かつかう)した(ふと)さの、156(あか)丸顔(まるがほ)(をとこ)(ふか)池水(いけみづ)(こし)あたりまでつけて、157バサリバサリと自分(じぶん)(はう)()いて(あゆ)んで()(やう)()える。158(かみ)()(ちぢ)(あが)る、159(むね)動悸(どうき)(たか)くなる。160一心不乱(いつしんふらん)に『惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』を(とな)(なが)池端(いけばた)(ひがし)(ひがし)へと(はし)りゆく。161(この)怪物(くわいぶつ)はどうなつたか、162(あと)(わか)らなかつた。163前方(ぜんぱう)(あた)つて(あを)()が、164いつも(とも)つてゐない(ところ)()える。165(すす)みもならず退(しりぞ)きもならず(しばら)途中(とちう)()つて思案(しあん)をしてゐると(からだ)がオゾオゾと(ふる)()す、166益々(ますます)(こは)くなつて()る、167四方(しはう)八方(はつぱう)から(いや)らしい化物(ばけもの)襲撃(しふげき)されるやうな()がしてならない。168あゝこんな(とき)松岡(まつをか)さんが(うつ)つてくれるといいのにと(おも)ひ、
169松岡(まつをか)天狗(てんぐ)さま、170松岡(まつをか)さま』
171(おほ)きな(こゑ)(さけ)んでみた。172自分(じぶん)(なが)(こゑ)(おほ)きうても、173()(こゑ)(なみ)()ち、174ふるひが(こも)つてゐた。175かうなると自分(じぶん)(こゑ)まで(いや)らしくなつて()る。176(こは)いと(おも)ひかけたら、177如何(どう)にも()うにも仕方(しかた)のないものである。178……マア此処(ここ)(しばら)静坐(せいざ)して公平(こうへい)判断(はんだん)をつけねばなるまい……と(みち)(かたはら)芝生(しばふ)(うへ)(こし)(おろ)し、179姿勢(しせい)(ただ)しうして両手(りやうて)()んで()た。180されど自分(じぶん)(からだ)(こし)()(あし)も、181(ほね)なしの(たこ)のやうになつて、182グラグラして一寸(ちよつと)安定(あんてい)(たも)(こと)出来(でき)なかつた。183たつた一声(ひとこゑ)(はら)(なか)から、
184突進(とつしん)!』
185といふ(こゑ)(きこ)えて()た。186(その)(こゑ)()くと(とも)に、187(にはか)糞落着(くそおちつ)きに落着(おちつ)(こと)出来(でき)た。188そして(こころ)(なか)で……エー()れが霊学(れいがく)修業(しうげふ)だ、189(いづ)霊界(れいかい)(こと)研究(けんきう)するのだから、190現界(げんかい)(おな)じやうな(こと)では研究(けんきう)価値(かち)がない、191これが(かへつ)(かみ)さまの御守護(ごしゆご)かも()れぬ、192今日(けふ)一週間目(いつしうかんめ)修業(しうげふ)(あが)りだ、193高熊山(たかくまやま)修業中(しうげふちう)にいろいろと霊界(れいかい)(こと)()せて(もら)ひ、194(をし)へても(もら)うて()る。195随分(ずゐぶん)(その)(とき)(いや)らしい(こと)(おそ)ろしい(こと)があつた、196これ(くらゐ)(こと)霊界(れいかい)探険(たんけん)当時(たうじ)(こと)(おも)へば、197ホンの門口(かどぐち)だ……と直日(なほひ)(かへり)(やうや)(こし)()げて、198(あを)()(はう)(すす)んで()つた。199怖々(こはごは)()(そば)()つて()れば(あを)()つた硝子(がらす)行灯(あんどん)()(とも)してある。200(みち)のわきがすぐ(はか)になつてゐて今日(けふ)()けたばかりの新墓(しんばか)(しろ)墓標(ぼへう)()つてゐる。201()をおちつけて()れば、202亀岡(かめをか)稲荷下(いなりさ)げをして()つた(ばば)アで、203御嶽教(みたけけう)教導職(けうだうしよく)(つと)めて()六十婆(ろくじふばば)アが()んだので、204此処(ここ)(はうむ)つたのだと()(こと)(しろ)墓標(ぼへう)文字(もんじ)(あきら)かになつた。205ヤツと安心(あんしん)して(やうや)矢田(やだ)神社(じんじや)境内(けいだい)にさしかかり、206社前(しやぜん)(みづ)(からだ)(きよ)め、207御社(おやしろ)(まへ)天津祝詞(あまつのりと)奏上(そうじやう)し、208瞑目(めいもく)静坐(せいざ)などして()()けるのを()つてゐた。209最早(もはや)これから(おく)夜中(よなか)()(だけ)勇気(ゆうき)臆病風(おくびやうかぜ)(さそ)はれて()くなつてゐたからである。
210 ()はホノボノと()けて()た。211そこらの様子(やうす)(なん)となく(ひる)らしくなつたので(にはか)元気(げんき)()し、212細谷川(ほそたにがは)(つた)うて、213一週間(いつしうかん)(ある)()れた谷路(たにみち)(のぼ)つて()く。214(しか)実際(じつさい)()()けてゐるのではなかつたと()え、215(ふたた)びそこらが薄暗(うすぐら)くなつて()た。216(そら)(つつ)んでゐた(くも)がうすらぎ、217(ひがし)(そら)から(つき)(のぼ)つたのが薄雲(うすぐも)(とほ)して(ひか)つたからであつた。218二三町(にさんちやう)(ばか)()つた(ところ)に、219五十五六(ごじふごろく)(ほね)(かは)とになつた、220(やせ)()なり()(たか)(ばば)アが、221一方(いつぱう)()(まへ)()したり(うしろ)()いたり、222(しき)りに樵夫(きこり)前挽(まへびき)をひくやうな(こと)をやつてゐる。223……ハテ怪体(けたい)(やつ)()やがつた。224()()けたと(おも)へば(くら)くなつて()る。225そこへ(かは)(のぞ)んで(ばば)アが(めう)()つきをして(からだ)(ゆす)つて()る。226此奴(こいつ)ア、227ヒヨツとしたら稲荷山(いなりやま)(みね)つづきだから、228奴狐(どぎつね)がだましてゐるのかも()れぬ。229(こころ)よわくては駄目(だめ)だ……と(にはか)空元気(からげんき)()し、230(ばば)アの(ちか)くによつて、231一生懸命(いつしやうけんめい)(こゑ)で、
232『コラツ!』
233呶鳴(どな)つて()た。234(ばば)アは(この)(こゑ)(おどろ)いて、235折角(せつかく)発動(はつどう)してゐた()をピタリと()め、236(こし)(かが)めて、
237(ばば)『ハーイ、238どなたか()りませぬが、239(なに)御無礼(ごぶれい)(こと)(いた)しましたかな。240(わたし)樽幸(たるかう)稲荷(いなり)さまに信心(しんじん)して()りまして、241御台(おだい)さまから(かみ)うつりの伝授(でんじゆ)()け、242今日(けふ)三年(さんねん)(ばか)毎晩(まいばん)此処(ここ)修業(しうげふ)()()ります。243おかげで(みぎ)()(だけ)(この)(とほ)御手(おて)うつりが出来出(できだ)しました。244モウ三年(さんねん)すれば(また)(ひだり)()御手(おて)うつりがあり、245それから(どう)うつり、246(あたま)にうつり、247御口(おくち)()れるのが、248マアマアザツと(これ)から十年(じふねん)修業(しうげふ)御座(ござ)います。249(まへ)さまは(この)(ごろ)評判(ひやうばん)(たか)い、250穴太(あなを)天狗(てんぐ)さまぢや御座(ござ)いませぬか』
251喜楽(きらく)『お(ばば)サン、252そんな年寄(としよ)りがこれから十年(じふねん)修行(しうぎやう)して()つたら、253(くち)()れるのと()ぬのと一時(いつとき)になるぢやないか。254モツと(はや)(くち)()れるやうにして()げようか。255(わたし)修業(しうげふ)さしたら、256一週間(いつしうかん)にはキツと(くち)()つて()げる』
257(ばば)『ハヽヽヽヽさうかが(やす)神様(かみさま)(うつ)つたり、258(くち)()れるやうな(こと)なら、259(この)(ばば)もこんな(なが)修行(しうぎやう)(いた)しませぬワイナ。260(はや)(くち)()れるやうな(かみ)(ろく)なものぢやありませぬ。261どうで(きつね)(たぬき)でせう』
262自分(じぶん)豆狸(まめだぬき)にうつられて()(なが)ら、263狐狸(こり)をくさしてゐる(その)可笑(をか)しさ。264肥持(こえも)ちが(くそ)(にほひ)()らぬのと(おな)じやうなものだなアと(おも)(なが)ら、265(この)()立去(たちさ)らうとすると、266()アサンは(また)(みぎ)()樵夫(きこり)()をひくやうに(うご)かせ(なが)ら、267(こし)をキヨクン キヨクンと()(うご)かし、268(うご)かぬ(はう)()をニユツと(まへ)()し、
269(ばば)『コレもし、270穴太(あなを)天狗(てんぐ)さま、271どうで御世話(おせわ)になりますが、272一遍(いつぺん)樽幸(たるかう)稲荷(いなり)さまに(うかが)うた(うへ)(たの)みますワ。273(この)(あひだ)西町(にしまち)御台(おだい)さまが、274樽幸(たるかう)稲荷(いなり)さまの弟子(でし)()(なが)ら、275余部(あまるべ)稲荷(いなり)さまの(はう)肩替(かたがへ)しやはつたら、276(その)(ばち)()なはりました。277昨日(きのふ)葬式(さうしき)がありました。278(かみ)さまの御機嫌(ごきげん)(そん)ずると(おそ)ろしいから、279とつくり樽幸(たるかう)稲荷(いなり)さまに(うかが)うた(うへ)御世話(おせわ)になりますワ』
280喜楽(きらく)樽幸(たるかう)稲荷(いなり)さまはキツと反対(はんたい)するにきまつてゐる。281此方(こちら)天狗(てんぐ)さま、282そちらは(くろ)サンだからなア』
283(ばば)『コレコレ、284(なん)といふ勿体(もつたい)ない(こと)仰有(おつしや)る。285あの(かみ)さまは正一位(しやういちゐ)天狐(てんこ)御剣大明神(みつるぎだいみやうじん)さまだ。286(いち)(みね)御守護(ごしゆご)(あそ)ばすお(やま)(いち)御守護神(ごしゆごじん)さま。287勿体(もつたい)ない、288(くろ)サンぢやなどと、289(たぬき)にして(しま)うとは、290(ばち)(あた)りますぞえ。291そんな御方(おかた)御世話(おせわ)にならうものなら、292どんな(こと)(おこ)るか()れませぬ。293モウ(これ)ぎりお(まへ)さまも(わたし)(こと)(わす)れて(くだ)さい、294(わたし)(わす)れます。295(めう)因縁(いんねん)(つな)がからまると(たがひ)迷惑(めいわく)しますからなア。296六根清浄(ろくこんせいじやう)六根清浄(ろくこんせいじやう)南無妙法蓮華経(なむめうはふれんげきやう)……』
297一生懸命(いつしやうけんめい)(とな)(はじ)めた。298喜楽(きらく)はここを見捨(みす)てて二町(にちやう)(ばか)上手(かみて)東向(ひがしむ)きの(たき)()つて()ると、299いつも(あま)(ふと)くない(たき)一丈(いちぢやう)(ほど)()ちて()るのに、300今日(けふ)(また)如何(どう)したものか、301五六間(ごろくけん)こつちから(たき)()ると、302真白(まつしろ)けの(もの)()つてゐる。303朧月夜(おぼろづきよ)にすかし(なが)ら、304滝壺(たきつぼ)(まへ)まで(ちか)よつて()ると、305二十五六(にじふごろく)(をんな)白衣(びやくい)をつけて(かみ)をふり(みだ)し、306(たき)にかかつてゐる。307喜楽(きらく)神憑(かむがか)りと()()り、
308喜楽(きらく)何神(なにがみ)さまで御座(ござ)いますか、309()()かして(くだ)さい』
310とやつて()た。311(たき)にかかつた白衣(びやくい)(をんな)両手(りやうて)()んだまま、312頭上(づじやう)(たか)()()げ、313背伸(せの)びをし、314(すこ)しく()(かへ)つて、
315力松大明神(りきまつだいみやうじん)……』
316甲声(かんごゑ)呶鳴(どな)つた。
317喜楽(きらく)力松大明神(りきまつだいみやうじん)とは何処(どこ)守護神(しゆごじん)ですか?』
318(をんな)稲荷山(いなりやま)319奥村大明神(おくむらだいみやうじん)御眷族(ごけんぞく)320力松大明神(りきまつだいみやうじん)だ。321(この)(はう)信仰(しんかう)(いた)せば病気(びやうき)災難(さいなん)一切(いつさい)をのがらしてやるぞよ。322(その)(はう)穴太(あなを)天狗(てんぐ)であらう。323今日(けふ)一週間(いつしうかん)修行(しうぎやう)(あが)りと()いた(ゆゑ)324(この)肉体(にくたい)外志(げし)ハルを、325(この)(はう)(さそ)()し、326(その)(はう)面会(めんくわい)させる(ため)()つて()つたのだ。327随分(ずゐぶん)途中(とちう)(こは)かつただらうのう』
328喜楽(きらく)(わか)りました、329どうぞ御引取(おひきとり)(ねが)ひます』
330(をんな)引取(ひきと)れと(まを)さいでも、331(この)力松大明神(りきまつだいみやうじん)はそちの(こころ)をよく()つとるから引取(ひきと)るぞよ。332ウンウン……』
333()つたぎり、334亀岡(かめをか)旅籠町(はたごちやう)外志(げし)ハルと()神憑(かむがか)りは正気(しやうき)(かへ)つて(しま)うた。
335 さうかうする(あひだ)()はカラリと()(わた)つた。336二人(ふたり)はいろいろと神様(かみさま)(はなし)をし(なが)外志(げし)ハルの(たの)みに()つて、337旅籠町(はたごちやう)(まは)り、338(をつと)筆吉(ふできち)といふに面会(めんくわい)して、339(たがひ)(みち)(ため)(たす)()(こと)(やく)し、340穴太(あなを)(かへ)つて()た。
341大正一一・一〇・九 旧八・一九 松村真澄録)