霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二二章 大僧坊(だいそうばう)〔一〇三四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻 篇:第4篇 山青水清 よみ:やまあおくみずきよし
章:第22章 大僧坊 よみ:だいそうぼう 通し章番号:1034
口述日:1922(大正11)年10月12日(旧08月22日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年3月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
園部での布教時代にひとつの珍話がある。北桑田方面に布教を試みようと、五箇荘村の手前の村にさしかかったところ、たそがれ時になり、宿を探そうと思ったが、懐には二十銭しかない。
野宿を覚悟で足を引きずって行くと、二三人の村人と道連れになった。話は自然、病気や憑き物のことに移って行った。
村には小林貞三という親爺がいて、十五六年前から不思議な憑き物で困っているという。腹の中から大きな声が出て立派な神様だと自称し、それにしたがって相場を張って身上を大方なくしてしまい、今は駄菓子やボロ材木を商って暮らしているという。
喜楽はそこを今夜の宿と定めてその家の店先を訪れた。喜楽は駄菓子を買って親爺との話をつなぎ、憑き物の相談を受けることになった。その夜は鎮魂帰神を実施することになった。
夕飯後、喜楽が審神者となって法を施すと、親爺についていた霊は激しく発動し、青い鼻汁を盛んに出し始めた。喜楽が名を訪ねると、鞍馬山の大僧坊だと名乗ったが、問い詰めると親爺の身体を宙に浮かせて、審神者の頭の上をかけりだし、目玉を足蹴にしようと狙っている。
喜楽は組んだ手を解いて右の人差し指に霊をかけ、親爺の身体をクルクルと回して荒療治を行った。これに憑霊は観念して、正体を白状し始めた。
霊は、この親爺の叔父であったという。十四五年前に、この親爺が悪辣な手段で叔父の財産を横領したため、叔父は怒りのあまり精神に隙ができ、野天狗に憑かれて山奥で自殺してしまったのだという。
叔父の霊は悔しさのあまり、この親爺が酒に酔って道端に倒れていたところを野天狗と一緒に憑依し、憑神のふりをして相場に手を出させ、親爺を零落させてしまったのだという。
そして、最後に何とか命を取ることを狙っていたところ、審神者に看破されたのだと明かした。
親爺は叔父の霊を手厚く葬ることを約束したので、霊はいったんは退散した。しかし退散は表向きで、やはり親爺の身体に潜んで時々妙なことをやらかすのであった。
この小林という爺さんは明治四十五年ごろに大本に訪ねてきたことがある。今は家も何も売ってしまい、大阪方面に出稼ぎに行ったということである。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:
愛善世界社版:265頁 八幡書店版:第7輯 130頁 修補版: 校定版:276頁 普及版:132頁 初版: ページ備考:
001 喜楽(きらく)入綾(にふれう)先立(さきだ)(ここ)(ひと)つの珍話(ちんわ)がある。002明治(めいぢ)三十一年(さんじふいちねん)八月(はちぐわつ)003八木(やぎ)福島(ふくしま)()二三回(にさんくわい)(たの)まれて、004園部(そのべ)黒田(くろだ)会合所(くわいがふしよ)から、005はるばると山坂(やまさか)()え、006参綾(さんれう)して教祖(けうそ)面会(めんくわい)し、007四方(しかた)すみ()008黒田(くろだ)きよ()009四方(しかた)与平(よへい)()などの大賛成(だいさんせい)()010出口教祖(でぐちけうそ)(とも)に、011(うしとら)金神様(こんじんさま)のお(みち)(ひろ)めようとした(とき)012足立氏(あだちし)中村氏(なかむらし)猛烈(まうれつ)なる反対(はんたい)()ひ、013教祖(けうそ)より……時機(じき)(なほ)(はや)し、014(いづ)神様(かみさま)御仕組(おしぐみ)だから、015時節(じせつ)()つて御世話(おせわ)になりますから、016一先(ひとま)(かへ)つて(くだ)さい……と()はれて、017是非(ぜひ)なく園部(そのべ)黒田(くろだ)会合所(くわいがふしよ)(かへ)り、018それよりあちら此方(こちら)宣伝(せんでん)従事(じうじ)して()た。
019 黒田(くろだ)()つて北桑田(きたくはだ)方面(はうめん)布教(ふけう)(こころ)みようと(おも)ひ、020五箇庄村(ごかしやうむら)四谷(よつや)(すこ)手前(てまへ)の、021二十軒(にじつけん)ばかりの(むら)(さし)かかつた。022()もソロソロ黄昏時(たそがれどき)023どこかに適当(てきたう)宿(やど)(もと)めようかと懐中(くわいちゆう)(さぐ)つて()れば、024(ふところ)にはたつた二十銭(にじつせん)しかない。025……ママよ、026(こま)つたら野宿(のじゆく)をしてやらう……と(はら)をきめて(つか)れた(あし)(ひき)ずつて()くと、027(やま)から粗朶(そだ)をかついで(かへ)りて()二三人(にさんにん)村人(むらびと)途伴(みちづ)れになつた。028ゆくゆく(くだ)らぬ(はなし)をしてゐる(うち)にも、029(はなし)自然(しぜん)病人(びやうにん)のことや憑者(つきもの)のことに(うつ)つて()つた。030さうすると(その)(なか)一人(ひとり)が、
031『あなたは憑者(つきもの)をおとす御方(おかた)ですか、032随分(ずゐぶん)誓願寺(せいぐわんじ)祈祷(きたう)坊主(ばうず)稲荷下(いなりさ)げが()ますけれど、033中々(なかなか)おちぬものです。034(この)(むら)にも不思議(ふしぎ)憑者(つきもの)(こま)つて()(もの)があります』
035朴訥(ぼくとつ)村人(むらびと)は、036行手(ゆくて)()える(みち)左側(ひだりがは)可成(かな)(おほ)きな一棟(ひとむね)(いへ)()(なが)ら、
037『あすこの(おやぢ)小林(こばやし)貞蔵(ていざう)といひますが、038どういふ(わけ)か、039十五六年前(じふごろくねんぜん)から、040(はら)(なか)から(おほ)きな(こゑ)()病気(びやうき)で、041本人(ほんにん)()らぬことをズンズンと(しやべ)()てます。042貞蔵(ていざう)サンは(なん)とかして(こゑ)()ない(やう)にと(ほね)()るのだが、043()うしても(とま)らぬのが不思議(ふしぎ)ですよ。044最初(さいしよ)(あひだ)自分(じぶん)から大変(たいへん)警戒(けいかい)をしてゐましたが(はら)(なか)憑者(つきもの)は……おれは立派(りつぱ)(かみ)さまだ……と()のるのを、045いつのまにやら(しん)じて(しま)ひ、046(その)(こゑ)()()(どほ)りに相場(さうば)をしましたが失敗(しつぱい)(もと)で、047田舎(いなか)では()なりの財産(ざいさん)大方(おほかた)なくして(しま)ひました。048只今(ただいま)では駄菓子(だぐわし)小売(こうり)をしたり、049ボロ材木屋(ざいもくや)をして(くら)してゐますが、050(はら)(こゑ)はまだ()まず、051いろいろ雑多(ざつた)とつまらぬことを(しやべ)るので、052貞蔵(ていざう)サンもこれには()(あま)してゐます』
053何気(なにげ)なく(しやべ)()てる。054喜楽(きらく)(こころ)(うち)で、055……今夜(こんや)のおれの御宿坊(ごしゆくばう)はここだなア……と自分(じぶん)ぎめにきめて(しま)ひ、056(なに)()はぬ(かほ)して(その)(いへ)店先(みせさき)()つて()ると、057一文菓子(いちもんぐわし)(すこ)(ばか)(なら)べてあり、058店先(みせさき)には五十(ごじふ)(ばか)りの額口(ひたひぐち)のバカに(ひか)つた、059(はな)(たか)丸顔爺(まるがほおやぢ)が、060(いや)らしい(ゑみ)(たた)へてすわつてゐた。061喜楽(きらく)は、
062喜楽(きらく)一寸(ちよつと)(やす)ませて(くだ)さい』
063縁側(えんがは)(こし)(おろ)して、064ムシヤムシヤと駄菓子(だぐわし)をつまんで()()した。065五銭(ごせん)十銭(じつせん)十五銭(じふごせん)菓子(くわし)(たひら)げ、066貧弱(ひんじやく)菓子箱(くわしばこ)はモウそれでおしまひになつて(しま)つた。067(おやぢ)(あき)れて喜楽(きらく)(かほ)()つめて()た。068喜楽(きらく)は、
069喜楽(きらく)『お菓子(くわし)はこれで品切(しなぎ)れですか、070せめてモウ一円(いちゑん)(ばか)()ひたいものだ』
071といつた。072(おやぢ)はますます(あき)れ、073(まる)()()()し、
074(おやぢ)『お(まへ)サン、075(なん)とマアお菓子(くわし)()きな(かた)ですな。076()うしてそないに沢山(たくさん)あがられますか、077(なか)(わる)うなりますで……』
078注意顔(ちういがほ)()ふ。
079喜楽(きらく)『わしが()べるのぢやない、080わしは元来(ぐわんらい)菓子(くわし)(いや)だが、081(みな)(わたし)()いてゐる副守護神(ふくしゆごじん)()べるのぢや。082サアお(かね)()つて(くだ)さい!』
083後生(ごしやう)大事(だいじ)()つて()身上(しんじやう)ありぎりの二十銭(にじつせん)銀貨(ぎんくわ)をポンと()()した。
084『ヘー』
085(おやぢ)(ますま)目玉(めだま)をまん(まる)うして、
086(おやぢ)『あんたにもヤツパリ憑者(つきもの)がゐますか、087ふしぎな(こと)もあるものぢやなア。088(わたし)もドテライ憑者(つきもの)()つて、089(こま)りますのぢや』
090()(なが)ら、091自分(じぶん)()(うへ)(うち)あけて、092()ては、
093(おやぢ)『どうぞ(この)憑者(つきもの)退()かして(いただ)(わけ)には()きますまいか』
094憑霊(つきもの)退散(たいさん)相談(さうだん)()ちかけて()た。095喜楽(きらく)はヤツと安心(あんしん)して(ぢい)(すす)むる(まま)に、096(いへ)(あが)りこんで、097夕飯(ゆふはん)(いただ)き、098そしてソロソロ鎮魂帰神(ちんこんきしん)(はふ)実施(じつし)する段取(だんどり)となつた。
099 喜楽(きらく)審神者(さには)となり(おやぢ)神主(かむぬし)となり、100主客(しゆきやく)相対坐(あひたいざ)して奥座敷(おくざしき)にすわり、101(ふところ)から神笛(しんてき)()して、102ヒユーヒユーヒユーと()()て、103(あま)数歌(かずうた)二回(にくわい)(とな)()げ、104『ウン!』と(ちから)をこめるや(いな)や、105元来(ぐわんらい)ういてゐた(れい)(こと)だから、106ワケもなく大発動(だいはつどう)(はじ)めた。107(その)発動(はつどう)状態(じやうたい)(すこぶ)奇抜(きばつ)なもので、108(あを)鼻汁(はな)(さかん)()る。109ズルズルズル ポトポトと際限(さいげん)なく(ひざ)(うへ)()ちる。110(おぢい)サンはしきりにそれを()にして、111()んで()()(はな)して、112(ふところ)から(かみ)()して、113チヨイ チヨイと()きにかかる、114(また)()()む、115ズルズルと鼻汁(はなじる)()る、116(おぢい)()をはなして、
117(おやぢ)一寸(ちよつと)先生(せんせい)失礼(しつれい)
118といひ(なが)ら、119(ふところ)から(かみ)()してツンとかむ、120そして(また)()()む、121鼻汁(はな)がツルツルと()る、122(また)()(はな)し、123(ふところ)(かみ)()してハナを()く。124そして(おほ)きな(こゑ)で、
125『ヴエー』
126(うな)り、127うなつた拍子(へうし)に、128(くち)(ほそ)(なが)くへの()になる。129五六回(ごろくくわい)もこんな(こと)繰返(くりかへ)すのを、130(だま)つて()()たが、131霹靂一声(へきれきいつせい)
132『コラツ!』
133喜楽(きらく)大喝(たいかつ)してみた。134(おやぢ)(この)(こゑ)(おどろ)いて、135一尺(いつしやく)(ばか)()()んだ(まま)飛上(とびあが)つた。
136喜楽(きらく)『モウ鼻汁(はな)をふく(こと)(あひ)()らぬ。137何神(なにがみ)()名乗(なの)れ!』
138()()めた。139(ぢい)サンの鼻汁(はな)依然(いぜん)として、140遠慮会釈(ゑんりよゑしやく)もなくツルツルと(なが)れおつる。141()(こと)(きん)ぜられたので、142鼻汁(はな)連絡(れんらく)して(しま)ひ、143(はな)(あな)から(ひざ)まで、144つららのやうに()れさがる。145喜楽(きらく)委細(ゐさい)かまはず、146たたみかけて、
147喜楽(きらく)(はや)()()へ、148(はや)(はや)く』
149とせき()つれば、150(おやぢ)憑霊(ひようれい)(ひぢ)をはり、151(くち)をへの()(むす)び、152しかつめらしく、
153(おやぢ)『オーオ、154(おれ)は、155(おれ)は……のう』
156(はら)(そこ)から途方(とはう)途轍(とてつ)もない(たか)(こゑ)()いて()る。157そして(また)
158(おやぢ)『おれはおーれはのう、159おれはのう』
160連続的(れんぞくてき)に『(おれ)は』を(つづ)けてゐる。
161喜楽(きらく)『なんぢや辛気(しんき)くさい、162(その)(さき)()へ』
163(おやぢ)(おれ)はのう、164ウツフン、165アツハヽヽヽ』
166喜楽(きらく)(はや)名乗(なの)らぬか、167(おな)(こと)(ばか)り、168(なん)べんも(なん)べんも、169くり(かへ)しよつて、170辛気(しんき)くさいワイ』
171(おやぢ)『オヽヽ(おれ)はのう、172(おれ)はのう、173クヽヽヽ鞍馬山(くらまやま)のダヽヽヽヽヽ大僧坊(だいそうばう)だワイ』
174芝居(しばゐ)がかりの大音声(だいおんぜう)
175喜楽(きらく)『フヽン、176(なに)(ぬか)すのだ。177鞍馬山(くらまやま)には大僧正(だいそうじやう)なら()るが、178大僧坊(だいそうばう)などと()天狗(てんぐ)がゐるものか、179(あり)のままに白状(はくじやう)せい。180(はた)して鞍馬山(くらまやま)天狗(てんぐ)なれば、181鞍馬山(くらまやま)地理(ちり)(ぐらゐ)()つてゐるだろ。182鞍馬山(くらまやま)(なん)といふ(くに)(やま)だ』
183(おやぢ)『アツハヽヽヽア、184バカバカバカ、185馬鹿者(ばかもの)()! 鞍馬山(くらまやま)所在(ありか)()れぬ(やう)(こと)で、186審神者(さには)(いた)すなぞとは片腹痛(かたはらいた)いワイ。187()らな、188()つて()かさうか、189山城(やましろ)(くに)乙訓郡(おとくにぐん)であるぞよ』
190喜楽(きらく)鞍馬山(くらまやま)乙訓郡(おとくにぐん)ではないぞ。191自分(じぶん)()(ところ)さへ(わか)らぬ(やう)(もの)が、192鞍馬山(くらまやま)大僧坊(だいそうばう)とは駄法螺(だぼら)()くにも(ほど)がある。193(その)(はう)(まが)(かた)なき野天狗(のてんぐ)であらうがなア』
194(おやぢ)見破(みやぶ)られたか、195残念(ざんねん)やな、196クヽヽ口惜(くちをし)やなア』
197鼻汁(はな)天狗(てんぐ)()くまで芝居(しばゐ)気取(きど)りで、198()口上(こうじやう)呶鳴(どな)つてゐる。
199喜楽(きらく)(おそ)()つたか、200貴様(きさま)はヤツパリ野天狗(のてんぐ)であらうがなア』
201(おやぢ)『オヽオウ、202(おれ)(おれ)は、203ヤツパリ野天狗(のてんぐ)であつたワエ』
204 ()ひも(をは)らず、205(おやぢ)(からだ)(ちう)()かんで、206静坐(せいざ)せる審神者(さには)(あたま)(うへ)を、207前後左右(ぜんごさいう)縦横(じうわう)自在(じざい)にかけり()した。208そして(すき)をねらつて、209目玉(めだま)のあたりを(あし)げにせうとの魂胆(こんたん)210(じつ)険呑(けんのん)至極(しごく)であつた。211乍併(しかしながら)これしきの(こと)にビクツク(やう)では審神者(さには)(やく)はつとまらないと、212咄嗟(とつさ)()んだ()をといて(みぎ)人差指(ひとさしゆび)(れい)をかけ、213(おやぢ)(からだ)()けて、214喜楽(きらく)指先(ゆびさき)(みぎ)一回転(いつくわいてん)した。215それに(したが)つてクルリと(おやぢ)(からだ)(ちう)()かんだまま、216鼻汁(はな)(まで)(ゑん)(ゑが)いて、217(みぎ)一回転(いつくわいてん)する。218(つづ)いて(ゆび)(ひだり)にまはせば、219(おやぢ)(からだ)はそれにつれて(ひだり)一回転(いつくわいてん)する。220(ゆび)をクルクルクルと間断(かんだん)なくまはせば、221(おやぢ)(からだ)もクルクルクルとまるで風車(かざぐるま)(その)ままであつた。222(この)荒料理(あられうり)には流石(さすが)野天狗(のてんぐ)往生(わうじやう)したと()え、223全身(ぜんしん)綿(わた)(ごと)(つか)()つてヘトヘトになり、224とうとう(たたみ)平太(へた)ばつて(しま)つた。225そして(しき)りに(くび)をふり(なが)ら、226(かほ)(たたみ)にひつつけた(まま)
227(おやぢ)一切(いつさい)白状(はくじやう)(いた)します、228御免(ごめん)(くだ)さいませ。229モウ()うなれば(かく)しても駄目(だめ)だから……』
230以前(いぜん)権幕(けんまく)はどこへやら、231(ねこ)()はれた(ねずみ)のやうにちぢこまつた。232喜楽(きらく)質問(しつもん)につれ逐一(ちくいち)自白(じはく)したが、233それはザツと()(とほ)りであつた。
234(この)(おやぢ)叔父(をぢ)一人(ひとり)財産家(ざいさんか)があつた。235それを(この)(おやぢ)十四五年前(じふしごねんぜん)236悪辣(あくらつ)なる手段(しゆだん)でたらしこみ、237財産(ざいさん)全部(ぜんぶ)横領(わうりやう)して(しま)つた。238叔父(をぢ)憤怒(ふんど)煩悶(はんもん)(あま)り、239精神(せいしん)虚隙(すき)出来(でき)240(その)結果(けつくわ)野天狗(のてんぐ)につかれ、241とうとう山奥(やまおく)にいつて(くび)(くく)つて往生(わうじやう)して(しま)つた。242死骸(しがい)(なが)らく()つからず、243二三年(にさんねん)してから白骨(はくこつ)となつて、244(やま)(おく)にころがつてゐた。245(あま)りの(くや)しさ残念(ざんねん)さに、246叔父(をぢ)亡霊(ばうれい)(この)(おやぢ)(さけ)にくらひ()うて、247道傍(みちばた)(たふ)れてる(すき)(かんが)へ、248野天狗(のてんぐ)一所(いつしよ)憑依(ひようい)し、249そして鞍馬山(くらまやま)大僧坊(だいそうばう)(いつは)り、250(こめ)非常(ひじやう)()がるから(はや)相場(さうば)をして(うり)にかかれ、251大変(たいへん)(かね)(まう)けさしてやると()ふので、252売方(うりかた)になると(こめ)段々(だんだん)()がつて()る。253今度(こんど)(また)(こめ)があがるから買方(かひかた)になれと()ふので、254(その)(とほ)りやつて()ると、255大変(たいへん)大下(おほさ)がりを(くら)ひ、256何回(なんくわい)となくたばかられて、257大損害(だいそんがい)(かさ)ね、258折角(せつかく)叔父(をぢ)から()()れた山林(さんりん)田畠(でんばた)(のこ)らず()りとばして(しま)ひ、259駄菓子屋(だぐわしや)とヘボ材木屋(ざいもくや)とまで零落(れいらく)させて(しま)つたのである、260(なほ)最後(さいご)には(なん)とかして(いのち)まで()(つもり)()つた(ところ)261今日(けふ)(はか)らずも、262霊術(れいじゆつ)非凡(ひぼん)審神者(さには)看破(かんぱ)されたので(ござ)います』
263大体(だいたい)自白(じはく)をした。264そして鼻汁(はな)(さか)んに()るのはつまり(くび)をくくつた(とき)265鼻汁(はな)()れた(その)亡霊(ばうれい)所為(しよゐ)である。266白骨(はくこつ)(ぬし)()あつく(はうむ)(こと)(おやぢ)約束(やくそく)したので、267亡霊(ばうれい)はヤツとのことで、268(おやぢ)(からだ)から退散(たいさん)した。269乍併(しかしながら)退散(たいさん)したといふのは表向(おもてむき)で、270ヤツパリ(この)(おやぢ)(からだ)(ひそ)み、271時々(ときどき)(めう)(こと)をやらすのである。272(この)(おやぢ)さんは明治(めいぢ)四十五年(しじふごねん)(ごろ)大本(おほもと)(たづ)ねて()たことがある。273(いま)(いへ)(なに)もかも()つて(しま)ひ、274大阪(おほさか)方面(はうめん)出稼(でかせ)ぎに()つたといふことである。
275大正一一・一〇・一二 旧八・二二 松村真澄録)